説明

走査型プローブ顕微鏡

【課題】 新規なカンチレバー供給機構及びカンチレバー取り付け方法を得る。
【解決手段】 探針を有するカンチレバー1を保持する粘着性弾性材料20aを有するカンチレバー供給機構20を備える。粘着性弾性材料20aは、カンチレバー取り付け部2がカンチレバー1に対して物理的に接触する際の干渉を弾性変形として吸収し、両者を密着させる部材である。カンチレバー取り付け部2は、カンチレバー1を吸着固定させることで取り付ける部材であり、粘着性弾性材料20aに保持されたカンチレバー1と密着した後、カンチレバー1を吸着固定し、所定位置へ移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走査型プローブ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡(AFM、Atomic Force Microscope)はSTMの発明者であるG.Binnigらによって考案(非特許文献1を参照。)されて以来、新規な表面形状観察手段として期待され、研究が進められている。その原理は先端を充分に鋭くした検出チップと試料間に働く原子間力を、検出チップが取り付けられているカンチレバーの変位として測定し、カンチレバーの変位量を一定に保ちながら試料表面を走査し、カンチレバーの変位量を一定に保つための制御信号を形状情報として、試料表面の形状を測定するものである。近年では原子間力以外にも、磁気力、表面電位力などさまざまな物理量を測定する応用が広がり、走査型プローブ顕微鏡と総称されている。
【0003】
走査型プローブ顕微鏡におけるカンチレバーは半導体製造プロセスにより製造され、厚み0.3〜0.5mm、幅1.3〜1.6mm長さ3mm程度の寸法である。現在製品化されている走査型プローブ顕微鏡では、取り扱いの簡便化のために、レバーホルダー等と称する中間的部品を設け、カンチレバーをレバーホルダーに一旦取り付けた後、プローブ顕微鏡本体に搭載する構成の走査型プローブ顕微鏡が多い。しかしながらレバーホルダーという中間的部品の存在は自動化においては不利となるため、レバーホルダーを介さず、カンチレバーを微動機構先端のカンチレバー取り付け部に直接取り付ける方式もある。その場合カンチレバーの固定は小型化、自動化などの観点から真空吸着方式が適している。
【0004】
図4は従来のカンチレバー供給機構の側断面図、図5は従来のカンチレバー供給機構の上面図である。従来、カンチレバー取り付け部にカンチレバーを供給するカンチレバー供給機構は、カンチレバー取り付け部の傾斜角度と同じ角度を持ち、カンチレバーを複数個並べて搭載可能な金属製のブロックであった。個々のカンチレバー1は位置決めのための溝にピンセット等の工具により設置される。
【0005】
それぞれのカンチレバー1の位置座標はコントローラに登録されている。カンチレバー1を搭載する部分は傾斜しているが、滑り止めのためのストッパー部40によりカンチレバー1は脱落しない構造となっている。より確実にカンチレバー1を固定したい場合には、配管口41に真空吸着源を接続し、吸着固定すればよい。
【0006】
カンチレバー取り付けの手順は、まずXYステージを登録された座標まで動かして、カンチレバー取り付け部を交換するカンチレバーの真上まで移動する。次にZステージを動かし、カンチレバー取り付け部とカンチレバーを真空吸着可能な距離まで接近させる。試作した装置においては概略0.5mm以下であった。最後に真空吸着源を動作させてカンチレバーをカンチレバー取り付け部に吸着して、取り付け作業は完了する。
【非特許文献1】Physical Review Letters vol.56 p930 1986
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のカンチレバー供給機構によるカンチレバー取り付け方法では、下記の問題があった。
(1)カンチレバー取り付け部とカンチレバーが密着していない状態で真空吸着源を動作させるため、カンチレバーがカンチレバー取り付け部に吸着される際に、周囲に浮遊する埃も吸引され、カンチレバーとカンチレバー取り付け部の間に埃が挟まることで、動作が不安定になることがあった。
(2)カンチレバー取り付け部とカンチレバーが密着していない状態で真空吸着させるため、カンチレバーが吸引されカンチレバー取り付け部に飛び移る際に、水平方向に並進や回転の位置ずれをした状態で吸着されてしまい、カンチレバー取り付けの位置再現性に乏しかった。
【0008】
そこで、この発明の目的は、従来のこのような問題を解決する新規なカンチレバー供給機構及びカンチレバー取り付け方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、カンチレバーを真空吸着力によって光ヘッド部に固定する方式の走査型プローブ顕微鏡において、カンチレバー供給機構のカンチレバー保持部を、カンチレバー固定手段と弾性を有する材料とによって構成し、カンチレバーをカンチレバー取り付け部に取り付ける際に、カンチレバー取り付け部がカンチレバーに接触するまでZステージを動作させ、接触後更にZステージを所定量動作させることとした。
【0010】
上記のように構成されたカンチレバー供給機構においては、カンチレバーを取り付ける際に、カンチレバー取り付け部がカンチレバーに接触するまでZステージを動作させ、接触後更にZステージを動作させることで、カンチレバー取り付け部をカンチレバーに完全に密着させることが可能である。接触後の動作においての物理的干渉は、弾性を有する材料の弾性変形により吸収される。完全に密着した状態でカンチレバーを真空吸着することで、埃を吸引してしまう問題や、吸着時のカンチレバーの位置ずれの問題は解決される。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、以上説明したように、カンチレバー供給機構のカンチレバー保持部を、カンチレバー固定手段と弾性を有する材料とで構成したことにより、カンチレバーを取り付ける際に、カンチレバー取り付け部をカンチレバーに完全に密着させることが可能となった。そのため従来のように真空吸着時に周囲に浮遊する埃を吸引してしまう現象を回避することが可能となった。
【0012】
またカンチレバー取り付け部とカンチレバーを完全に密着した状態でカンチレバーを真空吸着することにより、吸着時にカンチレバーが位置ずれしてしまうという問題は解決された。
更に感圧導電性エラストマーを組み込んだカンチレバー供給機構とすれば、感圧導電性エラストマーの電気抵抗値を監視することにより、ステージの誤動作や操作上の人為的な誤りによってカンチレバーや微動機構等を破損してしまう可能性を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明の走査型プローブ顕微鏡は、探針と試料間に働く力を、前記探針が取り付けられているカンチレバーの変位として測定し、微動機構により前記カンチレバーの変位量を一定に保ちながら試料表面を走査し、前記カンチレバーの変位量を一定に保つための制御信号を物性情報として、試料表面の物性を測定し、前記カンチレバーを試料に対して接近させるためのZステージと、前記カンチレバーを試料面内の任意の位置に位置決めするためのXYステージと、前記微動機構端部に取り付けられ、前記カンチレバーを真空吸着力により保持するカンチレバー取付部とを有する走査型プローブ顕微鏡において、前記カンチレバーと試料を観察するための光学顕微鏡と、複数のカンチレバーを保持し、前記XYステージによる位置決めと前記Zステージの接近動作とにより前記取り付け部にカンチレバーを供給するためのカンチレバー供給機構とを有し、前記カンチレバー供給機構のカンチレバー保持部において、前記カンチレバーは弾性部材を介して保持されている。
【0014】
更に一部詳細に述べれば、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、先端に探針を有し、該探針と試料表面に働く力により変位するカンチレバーと、半導体レーザー、レンズ、光検出素子より成り、この半導体レーザー光をカンチレバーに照射しその反射光の位置ずれをカンチレバーの変位として光検出素子にて検出する光テコ方式の変位検出手段と、真空吸着力によってカンチレバーを保持するカンチレバー取り付け部と、先端にカンチレバー取り付け部が取り付けられ、カンチレバーを試料に対して一定の距離に制御しつつ試料表面を走査するための微動機構と、カンチレバーを試料に対して接近させるためのZステージと、カンチレバーを試料面内の任意の位置に位置決めするためのXYステージと、カンチレバーと試料を観察するための光学顕微鏡と、装置全体を制御するコントローラと、複数のカンチレバーを保持し、前記XYステージにより位置決めされ、前記カンチレバー取り付け部にカンチレバーを供給するためのカンチレバー供給機構とからなる。
【0015】
前記カンチレバー供給機構のカンチレバー保持部は、カンチレバー固定手段と、弾性を有する材料により構成されている。
前記固定手段は粘着性を有する材料であってもいいし、真空吸着機構であってもいい。
前記弾性を有する材料としては、例えば、弾性を有する高分子材料または金属材料を用いる。この弾性を有する高分子材料として、感圧導電性エラストマーを用いればカンチレバー取付部にカンチレバー供給機構の保持部のカンチレバーを押しつけた時、その抵抗値により感圧導電性エラストマーの弾性変形量をチェックできる。これにより必要以上に押しつけることがない。
【0016】
前記カンチレバー供給機構のカンチレバー保持部は、粘着性を有する弾性材料により構成されていてもよい。この粘着性を有する弾性材料として、例えばシリコンゲルを用い、その粘着性と弾性を利用する。また、粘着性を有する弾性材料として、粘着性と感圧導電性を同時に有するエラストマーを用いても良い。
【0017】
以下に、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明にかかる走査型プローブ顕微鏡の第一の実施形態例である。
図1において、変位検出系とカンチレバー取り付け部2が一体となり、光ヘッド3を構成している。変位検出系は半導体レーザー4とレンズ5と光検出素子6より成る。カンチレバー取り付け部2は光ヘッド3の先端に配置されている。カンチレバー1はカンチレバー取り付け部2に真空吸着により取り付けられている。カンチレバー取り付け部の配管口2aにはチューブ(図示せず)が接続され、真空ポンプに連結される。半導体レーザー4から出射されたレーザー光はレンズ5によりカンチレバー1の先端に集光され、その反射光は光検出素子6に照射される。光ヘッド3は微動機構7の先端に取り付けられている。微動機構7によりカンチレバー1は試料8に対して、高さ方向の位置を制御されつつ試料面内方向に走査される。試料8の表面の状態や、カンチレバー1と試料8の位置合わせのために光学顕微鏡11が設けられている。微動機構7はZステージ9に取り付けられ、Zステージ9によりカンチレバー1は試料8に接触する位置まで送られる。試料8はXYステージ10上に搭載される。光学顕微鏡11によりカンチレバー1と試料8の位置関係を観察しながらXYステージ10を動作させ、試料8の任意の場所を測定することができる。
【0018】
カンチレバー供給機構20はXYステージ10の一隅に配置される。カンチレバー供給機構20上には粘着性を有する弾性材料20aと、感圧導電性を有するエラストマー層20bが形成され、カンチレバー保持部を構成している。カンチレバー1は粘着性弾性材料20aの上に粘着力により保持される。
図2にカンチレバー取り付け作業の流れを示す。一連の作業は光学顕微鏡による監視下で行われる。まず、XYステージによりカンチレバー供給機構20をカンチレバー取り付け部2の真下に移動し、Zステージによりカンチレバー取り付け部2をカンチレバー供給機構20のカンチレバー保持部近傍に近づける(図2a)。カンチレバー供給機構20のカンチレバー保持部はカンチレバー取り付け部2の傾斜角度と同じ角度に作られている。次にZステージを下げてカンチレバー取り付け部2をカンチレバー1に接触させる(図2b)。接触したかどうかの判定は光学顕微鏡による観察で判断できる。更にZステージを所定量下げて、カンチレバー取り付け部2とカンチレバー1を完全に密着させる(図2c)。接触後に押し込んだ変位量は、粘着性弾性材料20aと感圧導電性エラストマー20bの弾性変形として吸収される。カンチレバー取り付け部2とカンチレバー1が完全に接触後、真空吸着源を動作させ吸着固定する。最後にZステージを上昇させてカンチレバー取り付け作業は完了する。
【0019】
粘着性弾性材料20aは、粘着力がカンチレバー取り付け部2の真空吸着力よりも強い場合、上記手順にて最後にZステージを上昇させたとき、カンチレバー1がカンチレバー保持部に残存してしまう。カンチレバーの大きさにより真空吸着穴の大きさは制限され、従って吸着力も制限される。幅1.3mm、長さ3mmのカンチレバーの場合、吸着力の限界は10g程度であり、粘着性弾性材料20aの粘着力は10g以下でなければならない。試作した結果では、シリコンゲルが好適な粘着力を示した。また粘着性材料として、材質として粘着性を有する材料の替わりに、粘着剤を塗布した素材を使用しても本特許を逸脱するものではない。
【0020】
感圧導電性エラストマー20bには配線が施され、電気抵抗値がコントローラにより監視されている。弾性変形量の増加により所定の抵抗値よりも下がった時にはZステージを自動的に停止させることで、クラッシュ破壊に対する安全機構として動作する。
【0021】
図3は本特許の第二の実施例である。カンチレバー保持部は板バネ30と配管金具31で構成され、配管金具31にはチューブ32が配管されている。チューブ32はシリコン等の柔軟な素材のものを使用する。チューブ32の終端には真空ポンプ(図示せず)が連結され、カンチレバー1は真空吸着力により固定される。Zステージを所定量押し込んだ時に、板バネ30が変形することにより、弾性変形機能が実現される。板バネ30にストレインゲージ等のセンサーを貼り付けるか、光学式等の変位計で板バネ30のたわみを計測することにより、クラッシュ破壊に対する安全機構とすることもできる。板バネは金属、樹脂など、通常バネとして使用される材質でできている。またバネの形態は板状である必要は無く、コイルバネ等の形態でも容易に実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の走査型プローブ顕微鏡の構成図である。
【図2】本発明にかかるカンチレバー取り付け作業の手順を示す説明図である。
【図3】本発明のカンチレバー供給機構の、第二の実施例の構成図である。
【図4】従来のカンチレバー供給機構の側断面図である。
【図5】従来のカンチレバー供給機構の上面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 カンチレバー
2 カンチレバー取り付け部
2a 配管口
3 光ヘッド部
4 半導体レーザー
5 レンズ
6 光検出素子
7 微動機構
8 試料
9 Zステージ
10 XYステージ
11 光学顕微鏡
12 フレーム
20 カンチレバー供給機構
20a 粘着性弾性材料
20b 感圧導電性エラストマー
30 板バネ
31 配管金具
32 チューブ
40 ストッパー部
41 配管口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンチレバー取り付け部に探針付きのカンチレバーが取り付けられる走査型プローブ顕微鏡であって、
前記走査型プローブ顕微鏡は、さらに、カンチレバーを保持するカンチレバー保持部と弾性部材とを有するカンチレバー供給機構を備え、
前記弾性部材は、カンチレバー取り付け部がカンチレバーに対して物理的に接触する際の干渉を弾性変形として吸収し、両者を密着させる部材であり、
前記カンチレバー取り付け部は、カンチレバーを吸着固定させることで取り付ける部材であり、カンチレバー保持部に保持されたカンチレバーと密着した後、当該カンチレバーを吸着固定する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記カンチレバー取り付け部におけるカンチレバーを吸着固定する部分とカンチレバー保持部に保持されているカンチレバーにおける吸着固定される部分とは、両者が物理的に接触する際に略並行となるようにされた、請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記弾性部材はシリコンゲルを材料として構成された、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記弾性部材は、感圧導電性エラストマーで構成され、配線が施され、電気抵抗値が監視されており、
前記カンチレバー取り付け部は、前記電気抵抗値が所定値以下になった場合にカンチレバーとが密着したと判断する、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
前記弾性部材はバネで構成されており、
前記走査型プローブ顕微鏡は、さらに、前記バネの変形量を検出するセンサーが設けられ、
前記カンチレバー取り付け部は、前記センサーが検出した値からカンチレバーと密着したことを判断する、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
前記弾性部材はバネで構成されており、
前記走査型プローブ顕微鏡は、さらに、前記バネの変位量を計測するたわみ計測手段が設けられ、
前記カンチレバー取り付け部は、前記たわみ計測手段により計測された変位量からカンチレバーと密着したことを判断する、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
カンチレバー保持部によるカンチレバーの保持力は、カンチレバー取り付け部によるカンチレバーの吸着力よりも弱く設定されている、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
カンチレバー保持部は粘着力によりカンチレバーを保持する、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項9】
前記粘着力は、カンチレバー取り付け部によるカンチレバーの吸着力よりも弱く設定されている、請求項8に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項10】
前記カンチレバー保持部はカンチレバーを真空吸着により保持する、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項11】
前記カンチレバー保持部による真空吸着の保持力は、カンチレバー取り付け部によるカンチレバーの吸着力よりも弱く設定されている、請求項10に記載の走査型プローブ顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−292768(P2006−292768A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162342(P2006−162342)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【分割の表示】特願2000−51458(P2000−51458)の分割
【原出願日】平成12年2月28日(2000.2.28)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】