説明

走査型レーザ顕微鏡

【課題】複雑な構造のフィルタを必要としない走査型レーザ顕微鏡を提供すること。
【解決手段】この走査型レーザ顕微鏡は、試料を照らすための照明用の放射線経路と、試料光を波長に応じて感知するための検出用の放射線経路とを備え、検出波長を選択するためのフィルタが設けられており、複数の部分放射線経路へと波長を選択するために、透過と反射との間の境界波長が場所によって変わる少なくとも1つのグラデーション・フィルタが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型レーザ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ走査システムでは、様々な出力レベルのレーザが使用される。さらにレーザ走査システムは、検出器としてまたは照明のために用いられる数多くの変更可能なモジュールを特徴としている。図1には、走査型レーザ顕微鏡(LSM)の放射線経路が概略的に示されている。
【0003】
基本的にLSMは、図1に示されたように、光源と、走査モジュールと、検出ユニットと、顕微鏡の4つのモジュールに分かれている。これらのモジュールを以下に詳細に説明する。これに加えて(特許文献1)を援用する。
【0004】
プレパラート中の様々な色素を特異的に励起させるために、LSMでは様々な波長のレーザが用いられる。励起波長の選択は、検査する色素の吸収特性に基づいて行われる。励起放射線は光源モジュールで発生させる。その際に様々なレーザ(アルゴン、アルゴン・クリプトン、TiSaレーザ)が用いられる。さらに光源モジュールでは、波長の選択および必要な励起波長の強度調整が、例えば音響光学結晶を用いて行われる。続いてレーザ光線は、ファイバまたは適切なミラー構成を介して走査モジュールに達する。
【0005】
光源で発生したレーザ光線は、回折を制限されて、スキャナ、走査光学系、および鏡筒レンズを経由し、対物レンズによってプレパラートに集束される。焦点は点状で、試料をx−y方向にラスタ走査する。試料を走査する際の1ピクセル滞在時間は、大抵の場合、1マイクロ秒未満から数百マイクロ秒までの範囲にある。
【0006】
蛍光の共焦点検出(デスキャン検出(descanned Detection))の場合、焦点面(試料(Specimen))から、ならびにその上および下にある平面から放出される光は、スキャナを経由して2色性ビーム・スプリッタ(MD)に達する。ビーム・スプリッタは、蛍光を励起光から分離する。続いて蛍光は、焦点面に対する共役面に正確に存在する絞り(共焦点絞り/ピンホール)上に集束される。これにより焦点の外にある蛍光が抑制される。
【0007】
絞りのサイズを変えることで、顕微鏡の光学解像度を調整することができる。絞りの後ろには、更なる2色性のブロック・フィルタ(EF)があり、このフィルタがもう一度、励起放射線を抑制する。ブロック・フィルタを通過した後に、蛍光は、点検出器(PMT)によって測定される。
【0008】
多光子吸収を用いる場合、色素の蛍光発光の励起は、励起強度が特に高い小さな体積で行われる。この領域は、共焦点構成を用いる場合に検出される領域よりほんの少しだけ大きい。したがって、共焦点絞りの使用を省略し、検出を対物レンズの直後に行ってもよい(非デスキャン検出)。
【0009】
多光子吸収によって励起された色素の蛍光を検出するための更なる構成では、さらにデスキャン検出が行われるが、但し今回は対物レンズの瞳が検出ユニットに結像される(非共焦点のデスキャン検出)。
【0010】
3次元で照明された画像から、対応する1光子吸収または多光子吸収と関連する両方の検出構成によって、対物レンズの焦点面にある平面(光切断面)のみが再現される。x−y面における試料の様々な深さzでの複数の光切断面を記憶することによって、続いて計算機を用いて試料の3次元画像を生じさせることができる。
【0011】
したがって、LSMは、肉厚のプレパラートの検査に適している。励起波長は、使用された色素の固有の吸収特性によって決まる。色素の放出特性に合わせられた2色性フィルタは、それぞれの色素から出た蛍光だけが点検出器によって測定されることを保証する。
【0012】
生物医学の応用分野では、現在、細胞の複数の異なる領域が、異なる色素によって同時に標識される(マルチ蛍光)。現況技術では、それぞれの色素は、異なる吸収特性、または異なる放出特性(スペクトル)に基づいて別々に検出できる。そのために、副ビーム・スプリッタ(DBS)を用いて複数の色素の蛍光を追加的に分離し、それぞれの色素放出を別々の点検出器(PMTx)で別々に検出する。カール ツァイス マイクロイメージング社(Carl Zeiss MicroImaging GmbH)のLSM LIVEは、毎秒約120の画像を生成する非常に速いライン・スキャナを実現している(非特許文献1参照)。
【0013】
光源モジュールと走査モジュールの接続は、通常は光ファイバを介して行われる。
複数の独立したレーザの、走査ヘッドへの伝送のためのファイバへの結合は、例えば(非特許文献2)および(特許文献2)に記載されている。
【特許文献1】DE 19702753 A1
【特許文献2】DE 19633185 A1
【非特許文献1】http://www.zeiss.de/c12567be00459794/Contents−Frame/fd9fa0090eee01a641256a550036267b
【非特許文献2】ポウリー(Pawley):「Handbook of Confocal Microskopy」、Plenum Press、1994年、151ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
2つ以上の蛍光色素で標識された試料を走査型レーザ顕微鏡で測定する場合、通常は、試料から放出された光を、本来の検出の前にスペクトルに分ける。普通は、一方の部分放射線がλ<x nmの波長だけしか含まず、もう一方がλ>x nmの波長だけしか含まなくなるように分離する。これは普通、いわゆるカラー・スプリッタ(ロング・パス・フィルタまたはショート・パス・フィルタ、もしくは2色性ビーム・スプリッタ)によって達成される。xの有意(または最適)な値は、使用する色素によって変わるので、LSMでは複数のカラー・スプリッタを備えたフィルタ・ホイールが用いられる。これは、構造が複雑であり、最初から非常に多くの異なるカラー・スプリッタを備えなければならないか、または費用の割に限られた可変性しかない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、複雑な構造のフィルタを必要としない走査型レーザ顕微鏡を提供することにある。
本発明の一態様は、試料を照明するための照明用放射線経路と、試料光を波長に応じて検出するための検出用放射線経路とを備え、検出波長を選択するためのフィルタが設けられている走査型レーザ顕微鏡であって、複数の部分放射線経路へと波長を選択するために、透過と反射との間の境界波長が場所によって変化する少なくとも1つのグラデーション・フィルタが設けられていることを特徴とする走査型レーザ顕微鏡である。
【0016】
本発明の別の態様は、調整可能な分離のための、放射線経路において変位し得るグラデーション・フィルタから成る、波長に応じて透過部分と反射部分とに分離するための、走査型レーザ顕微鏡の検出用放射線経路で使用するためのビーム・スプリッタである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
フレキシブルな副カラー・スプリッタ(NFT)として、いわゆるグラデーション・フィルタ(例えばショート・パス)が用いられる。これは、透過の境界波長が、フィルタの位置によって変化するフィルタであり、そのためフィルタは、例えばある位置では境界波長が500nmのショート・パスのように働き、一方、別の位置では境界波長が600nmのショート・パスのように働く図2を参照のこと。図2は、反射挙動と透過挙動との間の境界波長が連続的に変化するグラデーション・フィルタを概略的に示している。
【0018】
図3は、グラデーション・フィルタを用いたフレキシブルなNFTの放射線経路の原理図を示している。
コリメートされた入力放射線は、グラデーション・フィルタVNFTで、2つの検出用放射線経路DE1およびDE2の方向に分割される。
【0019】
VNFTは、検出方向において主カラー・スプリッタ(図1のMDB)の後ろにあり、放射線経路中で副カラー・スプリッタの通常の位置にあるのが有利である。
グラデーション・フィルタVNFTは、入射する放射線の光軸に対して大抵は45度の角度で、検出用放射線経路中に配置されており、透過(DE1方向へ)と反射(DE2方向へ)との間の光学的に有効な境界波長を変化させるために、放射線経路において、フィルタの角度に沿って変位可能である。
【0020】
つまり、このようなフィルタがどの位置で照射されるかに応じて、フィルタの透過特性が変化する。つまりフレキシブルなNFTは、このようなグラデーション・フィルタを、その他の点では固定している放射線経路に、変位可能に配置することによって容易に実現することができる。対応する構造は図2に示されている。
【0021】
したがって、有利には、光は、個々の(空間的に別々に配置された)スペクトル部分を異なる方向に反射するように、空間的でなくスペクトルに分けられ、境界波長が固定した複数のフィルタの代わりに1つのグラデーション・フィルタが用いられる。
【0022】
その際、入力光線の断面積におけるフィルタの境界波長の変化は、所望のスペクトル分解より小さくあるべきである。
●本発明の以下の有利な変形形態は、本開示の対象である。
【0023】
ショート・パス・グラデーション・フィルタであっても、ロング・パス・グラデーション・フィルタであっても同じである。ある場合は短い方の波長が検出器1へ進み、長い方が検出器2へ進み、別の場合はそれが逆になる。
【0024】
●フィルタの一部は、全くフィルタ特性のないガラス板としても(光は妨げられず、どんな光の偏向もなく、NFTを通過して第2の分枝へ)、またはミラーとしても(光を第2の分枝へ完全に偏向)形成し得る。
【0025】
●フィルタは、直線的(変位可能)に、または例えばホイール(円盤、回転可能)として形成してよい。
●フィルタは、連続的にコーティングされる代わりに、幾つかの異なるフィルタで段階的にコーティングされていてもよく、あるいは、フィルタの一部が段階的だが他は連続的にコーティングされていてもよい。
【0026】
●ショート・パス特性またはロング・パス特性の代わりに、バンド・パスも考えられる。
●波長の変化は、所望のスペクトル分解に適合させることもでき、絶対に線形でなければならないわけではない。図4には、境界波長の不連続な飛躍が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】走査型レーザ顕微鏡の放射線経路を示す概略図。
【図2】反射挙動と透過挙動との間の境界波長が連続的に変化するグラデーション・フィルタを示す概略図。
【図3】グラデーション・フィルタを用いたフレキシブルなNFTの放射線経路の原理図。
【図4】グラデーション・フィルタの境界波長の様々な上昇の例。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を照明するための照明用放射線経路と、試料光を波長に応じて検出するための検出用放射線経路とを備え、検出波長を選択するためのフィルタが設けられている走査型レーザ顕微鏡であって、複数の部分放射線経路へと波長を選択するために、透過と反射との間の境界波長が場所によって変化する少なくとも1つのグラデーション・フィルタが設けられていることを特徴とする走査型レーザ顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の走査型レーザ顕微鏡において、前記グラデーション・フィルタが、光学的に有効な境界波長を変化させるために、前記検出用放射線経路において、変位可能に形成されている、走査型レーザ顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2に記載の走査型レーザ顕微鏡において、少なくとも1つの部分放射線経路に、更なるグラデーション・フィルタが配置されている、走査型レーザ顕微鏡。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の走査型レーザ顕微鏡において、前記グラデーション・フィルタの変位が、中央制御ユニットを介してモータによって行われる、走査型レーザ顕微鏡。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の走査型レーザ顕微鏡において、検出用ルートに波長をフレキシブルに割り当てるために、カスケーディングおよび共通制御が行われる、走査型レーザ顕微鏡。
【請求項6】
調整可能な分離のための、放射線経路において変位し得るグラデーション・フィルタから成る、
波長に応じて透過部分と反射部分とに分離するための、
走査型レーザ顕微鏡の検出用放射線経路で使用するためのビーム・スプリッタ。
【請求項7】
請求項6に記載のビーム・スプリッタにおいて、前記グラデーション・フィルタが、少なくとも部分的に、前記検出光の反射部分と透過部分との間の境界波長を、連続的に場所によって変化させる、ビーム・スプリッタ。
【請求項8】
請求項6または7に記載のビーム・スプリッタにおいて、前記グラデーション・フィルタが、少なくとも部分的に、前記検出光の反射部分と透過部分との間の境界波長を、段階的に場所によって変化させる、ビーム・スプリッタ。
【請求項9】
請求項6、7または8に記載のビーム・スプリッタにおいて、前記グラデーション・フィルタが、ショート・パス、ロング・パス、またはバンド・パスとして実施されている、ビーム・スプリッタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−33264(P2008−33264A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135646(P2007−135646)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(506151659)カール ツァイス マイクロイメージング ゲーエムベーハー (71)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss MicroImaging GmbH
【Fターム(参考)】