説明

走査型探傷検査装置及び方法

【課題】 直径の異なる検査対象への適用が容易であり、探触子の取り外しも容易にできる走査型探傷検査装置を提供することである。
【解決手段】 配管の直径に合わせて配管の表面に当接する保持部を有するとともに配管の周囲を包囲し配管に固定される2分割形状の固定部を設け、配管の周方向に移動可能な回転部を固定部に搭載し、配管の軸方向に移動可能なスライド部を回転部に取り付ける。スライド部の先端部に探触子ホルダー取り付け、探触子ホルダーは探触子を着脱可能に保持するジンバル機構部及び配管の表面に探触子を密着させるバネ部を有する。また、探傷装置は探触子からの反射エコー信号及び探触子位置検出器からの探触子位置を入力し、探傷結果を記録し表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント構成機器を超音波試験により検査する際に用いられる走査型探傷検査装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントにおいては、プラント構成機器の健全性を評価するために超音波試験が実施されている。例えば、蒸気配管や給排水配管は、被検査体である配管の外面に探触子を配置し、探触子から被検査体内部に超音波を送信して、被検査体内部の欠陥部位からの反射波を受信し、被検査体内部の欠陥を検出するようにしている。
【0003】
一般に、超音波検査は、斜角探傷による直射法が行われるが、被検査体における肉厚方向の探傷範囲や被検査体の幾何的な形状の制約により、1回反射法が行われている。また、探傷治具としては自動計測用や手動計測用など幾つか提案されている。
【0004】
その一つとして、検査作業を容易にするとともに欠陥検出の信頼性及び検査作業の効率を向上させ、さらには、低コストで実用性に優れた手動走査型超音波探傷装置がある(例えば、特許文献1参照)。この手動走査型超音波探傷装置は、検査対象の鋼管の溶接箇所周辺にガイドレールを取り付け、ガイドレールに斜角探傷子を手動で周方向及び軸方向に走査するための走査治具を取り付ける。そして、走査治具には斜角探傷子の走査位置を検出する走査位置検出手段が設けられている。斜角探傷子にはポンプから水が供給され、接触空間を常に水で満たした状態で走査する。斜角探傷子からの欠陥エコー信号は走査位置検出信号とともにパソコンで分析され探傷結果の表示及び記録が行われるというものである。
【特許文献1】特開平9−257764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のものでは斜角探触子に磁石を設けて検査対象の表面への密着を行い、水を接触媒質として使用しているため、斜角探触子の構造が複雑となり特殊なものとなる。また、斜角探触子の取り外しが容易でなく、探触子の取り替えが不便である。例えば、1回目の測定は垂直探触子を用いて鋼管の肉厚を測定し、その後に斜角探触子に取り替えて1回反射法で探傷する場合には探触子の取り外しが容易でないので、検査作業に時間がかかる。さらに、直径の異なる鋼管に対応して複数個のガイドレールを用意しておく必要があり、直径の異なる種々の鋼管への適用が困難な面がある。
【0006】
本発明の目的は、直径の異なる検査対象への適用が容易であり、探触子の取り外しも容易にできる走査型探傷検査装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係わる走査型探傷検査装置は、配管の直径に合わせて配管の表面に当接する保持部を有するとともに前記配管の周囲を包囲し配管に固定される2分割形状の固定部と、前記固定部に搭載され前記配管の周方向に移動可能な回転部と、前記回転部に取り付けられ前記配管の軸方向に移動可能なスライド部と、前記スライド部の先端部に取り付けられ探触子を着脱可能に保持するジンバル機構部及び前記配管の表面に前記探触子を密着させるバネ部を有した探触子ホルダーと、前記探触子の位置を計測する探触子位置検出器と、前記探触子からの反射エコー信号及び前記探触子位置検出器からの探触子位置を入力し探傷結果を記録し表示する探傷装置とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明に係わる走査型探傷検査方法は、請求項1の走査型探傷検査装置の探触子ホルダーに垂直探触子を装着して前記配管の肉厚を測定し、前記探触子ホルダーに斜角探触子を装着して前記回転部を回転させ前記配管の1周分のBスコープ画像を取得し、前記Bスコープ画像の反射エコーが存在する部位に対して前記スライド部を軸方向に移動させ前記斜角探触子で精密探傷を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、直径の異なる各種の配管に対して容易に適用でき、また、欠陥位置を精度よく検出できるとともに探触子の取り外しが容易であるので、固定部を配管に取り付けた後であっても異なる探触子での測定が容易に行える。また、回転部及びスライド部で配管の周方向及び軸方向に探触子を移動できるので探傷検査作業の効率化が図れ、探傷装置により探傷結果を記録し表示できるので探傷結果の長期間に亘る傾向監視が可能となる。
【0010】
また、検査対象の肉厚を計測するのでビーム路程が正確に取得でき、配管の1周分のBスコープ画像を取得して粗探傷を行い、そのBスコープ画像の反射エコーが存在する部位に対して精密探傷を行うので、熟練者でなくても探傷検査が安定して行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の実施の形態に係わる走査型探傷検査装置の構成図である。検査対象である配管11には付着金物12がスミ肉溶接されており、図1では、そのスミ肉溶接部13の探傷検査をする場合を示している。
【0012】
走査型探傷検査装置は、配管に取り付けるための固定部14を有し、固定部14は円筒部材を2分割して形成されている。2分割された円筒部材は蝶番15で連結されており、配管11に取り付ける際には蝶番15を開き、配管11の周囲を挟むように包囲して取り付けられる。また、固定部14には保持部16が設けられており、この保持部16は配管11の直径に合わせて配管11の表面に当接し、固定部14を配管11に保持する。保持部16は、例えば保持部11を貫通するボルトで形成され、回転させることによって配管11に当接する位置を調節する。これにより、直径の異なる各種の配管11に固定部14を固定できるようにしている。
【0013】
固定部14には配管11の周方向に移動可能な回転部17が設けられており、その回転部17には配管の軸方向に移動可能なスライド部18が取り付けられている。そして、スライド部の先端部にはバネ部19を介して探触子20a、20bを装着した探触子ホルダー21が取り付けられている。これにより、探触子20a、20bは、回転部17の回転により配管11の周方向に移動し、また、スライド部18の配管11の軸方向の移動により配管11の軸方向に移動する。
【0014】
探触子ホルダー21は、探触子20a、20bを着脱可能に装着するジンバル機構部を有し、バネ部19により配管11の表面に探触子20a、20bを密着させるようになっている。バネ部19は探触子20a、20bを配管11の表面に密着させる方向にバネ力が加わるように形成されており、例えばねじりバネを用いる。
【0015】
ここで、探触子ホルダー21が2個の探触子20a、20bを装着できるようにしているのは、種類の異なる探触子を装着し同時に反射エコーを測定できるようにするためである。例えば、垂直探触子と斜角探触子とを装着し、垂直探触子で配管11の肉厚を測定し、斜角探触子のビーム路程を得るためである。斜角探触子のビーム路程を得るにあたっては配管11の正確な肉厚が必要であるので、垂直探触子で配管11の肉厚を測定することになる。なお、探触子ホルダー21としては、1個の探触子20のみを装着するように構成してもよい。この場合には、探触子ホルダー21に装着する探触子20を付け替えて反射エコーを測定することになる。
【0016】
また、探触子20の接触媒質としては、腐食の原因となる水は用いず、通常、直接探傷で用いられるグリセリンペーストを用いる。これにより、接触媒質である水を供給するための水供給装置が不要となる。
【0017】
次に、回転部17には探触子位置検出器としてのθ軸エンコーダ22aが設けられ、スライド部18にはX軸エンコーダ22bが設けられている。θ軸エンコーダ22aは探触子20a、20bの配管11の周方向の位置を検出するものであり、X軸エンコーダ22bは探触子20a、20bの配管11の軸方向の位置を検出するものである。
【0018】
図1では、X軸エンコーダ22bはスライド部18に搭載した場合を示しているが、配管11側に設置しても付着金物12側に設置してもよい。その設置場所を固定点とすることができる。特にスミ肉溶接線ルート部の超音波探傷を行う場合は、付着金物12側を固定点にすることで、スミ肉溶接線形状の影響をなくすことが可能である。
【0019】
θ軸エンコーダ22a及びX軸エンコーダ22bで検出された探触子位置は、探触子20a、20bで測定された反射エコーとともに探傷装置23に入力される。探傷装置23は、探触子20a、20bからの反射エコー信号及び探触子位置検出器(θ軸エンコーダ22a及びX軸エンコーダ22b)からの探触子位置を入力し、探傷結果を記録するとともに必要に応じて表示部に表示する。例えば、検査結果をAスコープ画像やBスコープ画像で記録し表示する。
【0020】
図2は図1のA−A線での断面図である。固定部14は2分割された円筒部材14a、14bを蝶番15で連結して形成され、蝶番15の反対側には留め具24が設けられている。配管11に固定部14を取り付ける際には蝶番15を開き、配管11の周囲を挟むように包囲して配置し、蝶番15の反対側を留め具24で留めて配管11に取り付ける。
【0021】
そして、保持部16を回転させ、保持部16の先端部が配管11の表面に当接するように位置を合わせる。これにより、固定部14を配管11に保持する。このように、保持部16の先端部が配管11の表面に当接するように位置を調整するので、直径の異なる各種の配管11に固定部14を固定できる。
【0022】
図3は本発明の実施の形態における探触子ホルダー21の平面図である。探触子ホルダー21は探触子20a、20bを着脱可能に保持するジンバル機構部を有している。ジンバル機構部は、外枠体25に内枠体26a、26bが軸材27a、27bで回動自在に取り付けられ、また、内枠体26a、26bに探触子装着部28a、28bが軸材29a、29bで回動自在に取り付けられ、探触子20a、20bが装着された探触子装着部28a、28bがX軸方向及びY軸方向の2方向に揺動できるように構成されている。
【0023】
これにより、探触子装着部28a、28bに装着された探触子20a、20bは検査対象である配管11の表面に適正に接触できるようになり、バネ部19により配管11の表面に探触子20a、20bを密着させる。探触子装着部28a、28bは探触子20a、20bを着脱可能に装着できるように構成されているので、前述したように1個の探触子20しか装着できない探触子ホルダー21であっても、容易に探触子20を付け替えることができる。例えば、垂直探触子を装着して配管11の肉厚を測定し、その後に斜角探触子に付け替えて1回反射法による反射エコーを測定する。
【0024】
次に、本発明の実施の形態に係わる走査型探傷検査装置を用いての反射エコーの測定方法について説明する。まず、固定部14を検査対象の配管11に取り付ける。そして、探触子ホルダー21が2個の探触子20を装着可能である場合には垂直探触子及び斜角探触子を装着する。垂直探触子で配管11の肉厚を測定する。この配管11の肉厚を測定するのは前述したように斜角探触子のビーム路程を正確に得るためである。
【0025】
探触子ホルダー21が1個の探触子20しか装着できない場合には、垂直探触子を取り付けて配管11の肉厚を測定し、その後に垂直探触子から斜角探触子に付け替える。なお、探触子ホルダー21が2個の探触子20を装着可能であっても配管の肉厚が薄い場合には、斜角探触子の1回反射法によるビーム路程が短いので並べて配置した垂直探触子が邪魔になって反射エコーが得られない場合があるので、その場合には、探触子ホルダー21が1個の探触子20しか装着できない場合と同様に、垂直探触子を取り付けて配管11の肉厚を測定し、その後に垂直探触子から斜角探触子に付け替える。
【0026】
次に、斜角探触子を用いて粗探傷として、回転部17を回転させ配管11の1周分のBスコープ画像を取得する。取得したBスコープ画像を探傷装置23に記録するとともに必要に応じて表示する。図4は配管11の1周分のBスコープ画像の一例の説明図である。縦軸は斜角探触子のビーム路程、横軸は回転体17の回転位置である。Bスコープ画像は0°〜360°の回転位置での3次元の反射エコーを平面上に表したものであり、反射エコーの強弱で色分け表示したものである。図4では反射エコーの強弱に応じて濃淡で表している。反射エコーが強い部分を濃く、弱い部分を淡く表現している。回転位置が45°、175°、315°の近傍で反射エコーが得られていることが分かる。反射エコーが存在する部分に欠陥がある可能性が高い。検査員は取得したBスコープ画像を見ながら検査結果の評価を行う。
【0027】
そして、Bスコープ画像の反射エコーが存在する部位に対してスライド部18を軸方向に移動させ斜角探触子で精密探傷を行う。精密探傷として、例えばAスコープ画像を取得する。図5は、Aスコープ画像の一例を示す説明図である。縦軸は反射エコーの波高値、横軸は斜角探触子からの距離である。図5では、配管11内部からの反射エコー分布Eとともに1回反射のビーム路程Wを示すエコーE11を重ねて表示した場合を示している。配管11内部の反射エコー分布Eの反射エコーE1は配管11の表面部分のエコーであり、反射エコーE2は配管11内部の欠陥部位で反射されて形成されたエコーである。これにより、配管11内部の欠陥部位を精度よく測定できる。この測定結果は探傷装置に記録され必要に応じて表示される。
【0028】
本発明の実施の形態によれば、検査対象である配管11の直径に応じて保持部16の長さを調節して固定部14を取り付けるので、直径の異なる配管11に対して容易に適用できる。また、探触子20はジンバル機構部を有した探触子ホルダー21に着脱可能に装着されるので、取り外しが容易であり配管11の表面への接触も容易である。また、バネ部19により探触子20を配管の表面に密着させるので、探触子20が配管11に適正に密着して検査を行うことができる。
【0029】
さらに、回転部17及びスライド部18で配管11の周方向及び軸方向に探触子20を移動できるので探傷検査作業の効率化が図れ、探傷装置23により探傷結果を記録し表示できるので探傷結果の長期間に亘る傾向監視が可能となる。
【0030】
また、1回反射位置で検査対象の配管11の肉厚を計測して正確なビーム路程を把握するとともに、探触子位置検出器(θ軸エンコーダ22a及びX軸エンコーダ22b)で探触子位置を計測するので、欠陥位置を正確に評価することが可能になる。さらに、配管11の1周分のBスコープ画像を取得して粗探傷を行い、そのBスコープ画像の反射エコーが存在する部位に対してAスコープ画像を取得し精密探傷を行うので、熟練者でなくても探傷検査が安定して行える。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に係わる走査型探傷検査装置の構成図。
【図2】図1のA−A線での断面図。
【図3】本発明の実施の形態における探触子ホルダーの平面図。
【図4】本発明の実施の形態に係わる走査型探傷検査装置で取得した配管の1周分のBスコープ画像の一例の説明図。
【図5】本発明の実施の形態に係わる走査型探傷検査装置で取得したAスコープ画像の一例を示す説明図。
【符号の説明】
【0032】
11…配管、12…付着金物、13…スミ肉溶接部、14…固定部、15…蝶番、16…保持部、17…回転部、18…スライド部、19…バネ部、20…探触子、21…探触子ホルダー、22a…θ軸エンコーダ、22b…X軸エンコーダ、23…探傷装置、24…留め具、25…外枠体、26…内枠体、27…軸材、28…探触子装着部、29…軸材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管の直径に合わせて配管の表面に当接する保持部を有するとともに前記配管の周囲を包囲し配管に固定される2分割形状の固定部と、
前記固定部に搭載され前記配管の周方向に移動可能な回転部と、
前記回転部に取り付けられ前記配管の軸方向に移動可能なスライド部と、
前記スライド部の先端部に取り付けられ探触子を着脱可能に保持するジンバル機構部及び前記配管の表面に前記探触子を密着させるバネ部を有した探触子ホルダーと、
前記探触子の位置を計測する探触子位置検出器と、
前記探触子からの反射エコー信号及び前記探触子位置検出器からの探触子位置を入力し探傷結果を記録し表示する探傷装置とを備えたことを特徴とする走査型探傷検査装置。
【請求項2】
請求項1の走査型探傷検査装置の探触子ホルダーに垂直探触子を装着して前記配管の肉厚を測定し、
前記探触子ホルダーに斜角探触子を装着して前記回転部を回転させ前記配管の1周分のBスコープ画像を取得し、
前記Bスコープ画像の反射エコーが存在する部位に対して前記スライド部を軸方向に移動させ前記斜角探触子で精密探傷を行うことを特徴とする走査型探傷検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−200906(P2006−200906A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9911(P2005−9911)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】