説明

走査電子顕微鏡

【課題】
二次粒子を所望のエネルギー領域でバンドパス弁別し,なおかつ高収量で検出できる走査電子顕微鏡を提供することを課題とする。
【解決手段】
対物レンズ18より電子源側にレンズ23を設け,このレンズより電子銃側で一次電子線がいかなる光学系を形成していた場合でも,一次電子線を特定の位置である収束点24に収束させるように動作させる。一次電子線の収束点24には,試料2から発生する二次粒子の軌道に作用する場を供給する検出部用ExB16を設け,特定のエネルギー範囲の二次粒子のみを検出部13に導く。二次粒子の軌道に作用する場が供給される位置が一次電子線19の収束点であるため,一次電子線19の収差を拡大させずに所望のエネルギーの二次粒子のみを検出部に導くこと,更にはエネルギーのバンドパス弁別を効果的に行うことが可能になり,観察目的に応じた信号電子を弁別して検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,走査電子顕微鏡に係り,特に,電子線をプローブとし,試料より発生する二次粒子をエネルギーにおいて効果的にバンドパス弁別および放出コーンアングル弁別して検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
試料から発生する二次粒子の軌道を操作し,二次粒子をエネルギー,放出コーンアングル(一次電子線の光軸と放出される二次粒子の方向間の角度)などで弁別して検出する検出部方式が多く提示されている。
【0003】
例えば,特許文献1では,低エネルギーの二次電子と高エネルギーの反射電子を弁別し,さらに反射電子を放出コーンアングルによって弁別して検出することが可能な走査電子顕微鏡が開示されている。この走査電子顕微鏡は,対物レンズの電子銃側に,低エネルギーの電子を検出部方向へ偏向するExB(直交電磁界発生器、以下、同じ。)と,偏向された電子を検出する検出部その1を備えている。また,ExBより電子銃側には,ExBを通過した高エネルギーの二次粒子を検出する検出部その2を備えている。
【0004】
試料から放出された低エネルギーの二次電子は,ExBにより,検出部方向に偏向し,検出する。また,高エネルギーの反射電子のうち,放出時のコーンアングルが大きいものは,対物レンズとExBの間に配置された電極その1に衝突させて低エネルギーの信号電子に変換し,二次電子と同様に検出する。一方,高エネルギー反射電子のうち,放出時のコーンアングルが小さいものに関しては,ExBより電子銃側に配置された電極その2によって低エネルギーの信号電子に変換し,検出部その2で検出する。
【0005】
検出部その1では,低エネルギーの二次電子および,高エネルギーで大コーンアングルの反射電子の両者を検出するが,このとき,電極その1に電圧を印加し,その電圧の極性や強度を変化させることで,検出部その1で検出される二種類の電子の混合率を変化させることができる。例えば,二次電子のみを検出したい場合,正の電圧を印加する。これにより,信号電子の発生が抑制され,二次電子のみが検出される。一方,反射電子のみを検出したい場合,負の電圧を印加する。これにより,電位障壁が作られ,二次電子が試料方向に戻され,検出されなくなる。負の電圧の絶対値を適当に設定すれば,二次電子と反射電子を一定の混合率で混合して検出できる。
【0006】
また,特許文献2では,低エネルギーの二次電子と高エネルギーの反射電子を弁別し,高収量で検出できる走査電子顕微鏡が開示されている。この走査電子顕微鏡は,鏡体内に正の電位を印加した加速管を備えており,加速管の内部に二つの検出部を備えている。
【0007】
試料から発生する二次粒子は,加速管によって鏡体内に引き上げられ,電子銃方向へ向かうが,このとき,二次粒子のエネルギーによって軌道が異なり,エネルギーが低い二次粒子ほど,試料台に近い場所で焦点を結ぶ。
【0008】
エネルギーの弁別検出は次のように行われる。エネルギーが低い二次電子を検出する検出部その1は,二次電子が収束した後に十分発散する光軸上に配置され,二次電子を検出する。このとき,エネルギーの高い反射電子は,検出部その1の中心穴を通過するため,二次電子のみの検出が可能になる。
【0009】
エネルギーが高い反射電子を検出する検出部その2は,反射電子が収束した後に十分発散する光軸上に配置される。反射電子が焦点を結ぶ場所には絞りが配置され,二次電子検出部を通過してきた二次電子を遮蔽することも可能である。この絞りを光軸上で移動し,もしくは絞りの内径を変化させることで,適切に二次電子を遮蔽しながら反射電子の収量を最適化することも可能である。
【0010】
さらに,特許文献3では,低加速での高分解能観察を可能にするリターディング法を用いたSEMにおいて,二次電子の検出効率を高めるため,対物レンズより電子銃側に,二次電子を収束させるための補助レンズを用いる方法が開示されている。この方法では,リターディング電圧によって加速された二次電子のみを,補助レンズによって補助レンズより電子銃側で収束させ,収束の後の発散した領域に検出部を置いて二次電子のみを検出できるようにしている。補助レンズが一次電子線に与える影響を低減するためには,一次電子線が収束する位置に補助レンズを配置する。
【0011】
【特許文献1】特開2002-110079号公報
【特許文献2】特開2004-221089号公報
【特許文献3】特開平3−49142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した従来技術には,以下に示すように,それぞれ課題があった。
【0013】
特許文献1のExBは,エネルギーの低い二次電子のみが検出部その1方向に偏向されるように動作する。エネルギーの高い反射電子はExBを通過し,電子銃側に配置された検出部その2で検出される。このため,エネルギー弁別機構は,検出部その1に関してはハイパス弁別として働き,検出部その2に関しては,ローカット弁別として働く。即ち,この方法では,バンドパス検出は想定されていない。
【0014】
原理的には特定のエネルギーのみが検出部方向に偏向するようにExBを動作させることで,バンドパス弁別検出を行うことができるが,被検出対象の二次粒子のエネルギーが大きい場合,ExBの出力が大きくなり,一次電子線が大きな影響をうけ,収差が拡大してしまう。
【0015】
また,試料台にリターディング電圧を印加した場合,二次電子が大きなエネルギーをもつため,前述の理由により,二次電子をハイパス弁別して検出することができない。
【0016】
特許文献2では,絞りの位置を光軸上で変化させることで所望のエネルギーの反射電子のバンドパス弁別検出が可能になると思われるが,加速管の内側に可動式の絞りを設けることは困難である。また,検出部の有感領域が有限であるため,検出部より遠いところで収束する比較的低エネルギーの二次粒子のバンドパス弁別検出を行おうとすると,被検出対象の二次粒子が,検出部位置で大きく発散するため,収量が低下してしまう。
【0017】
特許文献3は,リターディング法を用いた際の二次電子のハイパス弁別検出について記載されており,高いエネルギーの反射電子の弁別検出は想定されていない。
【0018】
本発明では,二次粒子を所望のエネルギー領域でバンドパス弁別し,なおかつ高収量で検出できる走査電子顕微鏡を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明においては、電子銃から放出された一次電子線を試料上で走査することにより、試料の走査像を得る走査電子顕微鏡において、一次電子線の光軸上に形成される複数の収束点の内、試料に一番近い収束点を特定位置に固定する収束点形成部を設け、一次電子線の照射により試料より発生する二次粒子を検出部で検出する構成とする。このとき、収束点が形成される特定位置に,この二次粒子を検出部に導く電界/磁界を形成する形成部を有する構成とする。
【0020】
また、本発明においては、電子銃から放出された一次電子線を試料上で走査することにより、前記試料の走査像を得る走査電子顕微鏡であって、一次電子線の照射により試料から発生する二次粒子を検出する検出部と、二次粒子をこの検出部に導く電界/磁界を形成する形成部と、この電界/磁界を形成する形成部の動作中心となる特定位置に、一次電子線の収束点を形成するための収束点形成部とを有する構成とする。
【0021】
言い換えるなら、本発明においては、対物レンズより電子源側に一次電子線の光軸上の特定の位置に一次電子線の収束点を形成する収束点形成部を設け,この収束点形成部より電子源側で一次電子線がいかなる光学系を形成していた場合でも,一次電子線を特定の位置に収束させるように動作させる。そして、一次電子線のこの収束点に,試料から発生する二次粒子の軌道に作用する場を供給する手段である場供給部を設け,特定のエネルギー範囲の二次粒子のみを検出部に導く。なお、本明細書において、二次粒子とは、一次電子線の照射により、試料から発生する二次電子、反射電子などの総称である。また、電界/磁界とは、電界または磁界単独、或いは電界と磁界の両方を意味する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば,二次粒子の軌道に作用する場が供給される位置が、一次電子線の収束点であるため,一次電子線の収差を拡大させずに所望のエネルギーの二次粒子のみを検出部に導くことが可能になる。これにより,場供給部の制御によって、エネルギーのバンドパス弁別を効果的に行うことが可能になり,観察目的に応じた信号電子を弁別して検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下,本発明の種々の実施の形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0024】
図1に第一の実施例における走査電子顕微鏡の全体構成図を示す。図1に示した走査電子顕微鏡は,大まかには,試料に対して電子線を照射するための機構を備えた電子光学鏡筒1と,被観察試料2を保持する試料台3を格納する試料室4,電子光学系鏡筒1や試料室4の各構成部品を制御するための各種電源101〜115,制御処理や各種画像処理,あるいはユーザインタフェースに関わる情報処理を行う情報処理部5,および画像表示端末6,画像メモリ7により構成される。
【0025】
電子光学鏡筒1は,電子銃8,第一コンデンサレンズ(C1レンズ)9,第二コンデンサレンズ(C2レンズ)10,第三コンデンサレンズ(C3レンズ)23,二段の走査偏向器11,検出部A12,検出部B13,検出部C14,検出部A用ExB15,検出部B用ExB16,検出部C用ExB17,対物レンズ18等により構成される。対物レンズ18は,レンズの下面より下に配置された試料2に意図的に出力磁場中を浸透させるセミインレンズ型の対物レンズであり,位置的には試料室4の内部に配置される場合もあるが,便宜上,電子光学系鏡筒1に属する構成要素であるとして説明する。
【0026】
電子銃用電源115によって制御される電子銃8から放出された一次電子線19は,C1レンズ用電源101によって制御されるC1レンズ9によって第一の収束点20に収束され,後に対物レンズ絞り21を通過する。このとき,一次電子線19の不要な領域が除去される。C1レンズ9を制御して一次電子線19の第一の収束点20の位置を制御する。
【0027】
対物レンズ絞り21を通過した一次電子線19は,C2レンズ用電源102によって制御されるC2レンズ10によって第二の収束点22に収束される。C2レンズ10を制御して一次電子線19の第二の収束点22の位置を制御する。第二の収束点22を通過した一次電子線19は,C3レンズ用電源103によって制御されるC3レンズ23によって第三の収束点24に収束される。C3レンズ23は,C1レンズ9,C2レンズ10によって作られる光学系がいかなる光学系であったとしても,電子光学系鏡筒1の特定の位置に第三の収束点24を形成するように動作する。言い換えるなら、本実施例においては、第三の収束点24は特定位置に形成された収束点ということができ、C3レンズは一次電子線19を光軸上の特定の位置に収束させる収束点形成部である。
【0028】
なお、本実施例では,この特定位置への収束形成部としてのC3レンズに磁界レンズを用いているが,必ずしも磁界レンズである必要はなく,同様の収束作用をするものであれば,静電レンズであっても,多段の多極子レンズであってもよい。例えば,磁界,電界重畳型の多段の多極子レンズを用いれば,収束作用以外に一次電子線の色収差,球面収差を補正する機能を追加できる。この場合の一例として,特開2006−179504号公報に記載されているような,電界,磁界重畳型の四段多極子レンズが挙げられる。
【0029】
本実施例にあっては、第三の収束点24近傍には,所望のエネルギー領域の二次粒子を検出部へ導くように動作する,検出部B用ExB16を配置する。検出部B用ExB16は,検出部B用ExB用電源107によって制御される。言い換えるなら、この検出部B用ExB16は試料から発生する二次粒子の軌道に作用する場を供給することによって、所望のエネルギー領域の二次粒子を検出部へ導くための場供給部、電界/磁界を形成する形成部として機能する。
【0030】
第三の収束点24を通過した一次電子線19は,対物レンズ用電源104によって制御される対物レンズ18によって試料2上に収束される。C3レンズ23と対物レンズ18の間には,走査偏向器用電源105によって制御される二段の走査偏向器11が配置されており,一次電子線19の試料2上の収束点を所望の視野の範囲/倍率に応じて二次元的に走査する。走査偏向器11は,一次電子線19の光軸近傍に一次電子線を走査させるための振動場を供給するが,この振動場は,振動磁場であっても振動電場であっても構わない。なお,走査偏向器11の配置位置は,前記の位置に特定されるものではなく,例えば,C3レンズ23より電子銃側に配置してあってもかまわない。
【0031】
本実施例では,光軸上の特定の位置に形成される第三の収束点24は,図1に示したように,C3レンズ23と対物レンズ18の間に形成される。
【0032】
オペレータは,観察前に,画像表示端末6に表示されるインターフェース上で一次電子線19のエネルギーや,試料2上での一次電子線の強度や,入射角度/焦点深度や,視野/倍率等を選択し,情報処理部5は,その値に応じて,適切な光学系を生成するように,あらかじめその内部の記憶部などに保存してあるデータテーブルから,電子銃,C1,C2,C3レンズ,偏向器,対物レンズの各電源115、101、102、103、105、104の出力値を呼び出し,各電源を操作する。ただし,対物レンズ18に関しては,オペレータが画像を見ながら,焦点のあった画像が得られるように対物レンズ用電源104を操作してもよい。
【0033】
一次電子線19の照射によって,試料からは様々なエネルギーの二次粒子が発生する。これらのうち,ここでは,便宜上,試料が接地電位であった場合に,試料から放出された二次粒子のエネルギーが,約50eV以下の電子を二次電子25,試料に入射する直前の一次電子線のエネルギーとほぼ同じエネルギーの電子を高エネルギー反射電子26,二次電子と高エネルギー反射電子の中間のエネルギーの電子を中間エネルギー反射電子と呼ぶ。図10に,試料面からの二次粒子の放出強度のエネルギー依存性の一例を示した。同図において、横軸は二次粒子エネルギー(eV)であり、縦軸は放出強度を示す。
【0034】
以下では,本実施例の特徴である二次粒子のエネルギーバンドパス弁別機構について説明する。
【0035】
エネルギーバンドパス検出を行う際,まず,オペレータは,画像表示端末6に表示されるインターフェース上で,被検出対象の二次粒子27のエネルギーの代表値を選択する。この値に応じて,情報処理部5は,検出部B用ExB用電源107を操作して、特定位置に設置される場供給部である検出部B用ExB16を動作させる。検出部B用ExB16が供給する場は,互いに直交する電界と磁界からなっており,一次電子線19のウィーン条件を満たす。ウィーン条件下では,一次電子線19は偏向作用を受けずに通過し,エネルギーが一次電子線のエネルギー以下の二次粒子のみが偏向作用を受ける。
【0036】
場供給部である検出部B用ExB16によって,二次粒子が受ける偏向の度合いは,二次粒子のエネルギーに依存しており,エネルギーの低い二次粒子ほど大きく偏向される。被検出対象の二次粒子27が検出部B13の有感領域の中心に到達するように検出部B用ExB16を動作させたとき,検出される反射電子は,被検出対象のエネルギーの代表値の周りに有限のエネルギー幅を持つことになり,エネルギーバンドパス検出が可能になる。
【0037】
図11に,画像処理端末6のインターフェース上で行われるバンドパス検出時のエネルギー領域の選択画面の一例を示す。ユーザーが情報処理部5の図示されていないマウス操作もしくはキーボード操作により,所望の二次粒子のエネルギーを選択すると,情報処理部5は,例えばその記憶部に記憶しているパラメータマップから,必要な検出部B用ExB16の出力値を引き出し,また,その場合に検出できる二次粒子のエネルギー領域51を画像処理端末6のインターフェース上に表示する。
【0038】
検出部B13として,Everhart Thornley(ET)型の検出部を用いる。ET型の検出部は,表面に約10kVの高電圧が印加されたシンチレータと,シンチレータの発光を電気信号に変換するホトマルチプライヤから構成される。シンチレータに印加する電圧,ホトマルチプライヤに供給される電圧は,ホトマル電源B110により制御される。なお,検出部B13はET型検出部に限定せず,半導体検出部やマイクロチャンネルプレートであってもよい。
【0039】
検出部B13で得られた信号出力は,まず,画像演算器28に取り込まれる。画像演算器28では,アナログ信号のゲインを調整し,A/D変換器によってデジタル信号に変換する。その後に情報処理部5に信号を受け渡す。情報処理部5では,一次電子線19の走査に同期して得られた信号から二次元画像を生成し,画像メモリ7に取り込むと同時に画像表示端末6に試料像として表示する。これにより,中間エネルギー反射電子のエネルギーバンドパス弁別画像が得られる。
【0040】
本実施例によれば,中間エネルギー帯の任意のエネルギーでバンドパス弁別を行うことができ,また,被検出対象の二次粒子のエネルギーが高く,偏向作用に必要な電界,磁界の強度を大きくする必要がある場合でも,場供給部からの供給場所が一次電子線の光軸上の特定位置に形成される第三の収束点24近傍であるため,一次電子線19は大きな影響を受けない。
【0041】
この効果を効果的にするためには,収束点24を,常に,できるだけ厳密に検出部B用ExB16の動作中心に合わせておく必要がある。このため,本実施例の走査電子顕微鏡においては、情報処理部5などから構成される収束点24の位置合わせ(焦点合わせ)部を設けている。
【0042】
焦点合わせ作業は,装置の立ち上げ後や,一次電子線のエネルギー,バンドパス検出する二次粒子のエネルギーの代表値等などの変更時などの度に自動で行ってもよい。その場合,各タイミングで情報処理部5が焦点合わせ作業を自動で開始させる。もしくは,任意のタイミングで,オペレータが,画像処理端末6のインターフェース上などから起動する。
【0043】
焦点合わせ作業を自動で行う際のフローチャートを図12に示す。このフローチャートは、情報処理部5を構成するCPU(Central Processing Unit)で実行されるプログラムの処理フローである。
【0044】
まず,自動調整がスタートする(ステップ120)とステップ121で回数が1にセットされ、対物レンズ18により一次電子線19が試料2面上に焦点を結んでいる状態で試料上の構造物の画像1を取得する(ステップ122)。この後,検出部B用ExB用電源107の出力値を規定値変化させ(ステップ123),非軸対称な振動電場/振動磁場を印加して、画像2を取得する(ステップ124)。図1の情報処理部5では,二枚の画像を比較し,画像間の試料面上での位置ズレの係数および,焦点のズレの係数を算出する(ステップ125)。
【0045】
ここでいう位置ズレの係数とは,画像1と画像2で構造物の画像が画像面内でどれだけズレているかを表すパラメータであり,焦点ズレの係数とは,例えば画像上の構造物のエッジ部分のシャープさの差を表すパラメータである。両者のズレの係数は,C3レンズ23の励磁電流に依存している。一般には,ズレの係数を一元的に扱うため,両者のズレの情報を含む,一般的なズレの係数を算出する(この値を便宜上一般的なズレの係数1と呼ぶ。)。例えば,一般的なズレの係数には,両者の二乗和を用いる。次に,情報処理部5では,C3レンズの励磁電流を若干変化させ,回数を1加算し、同様に二枚の画像を取得し(ステップ126、128、121−125),一般的なズレの係数を算出する(この値を一般的なズレの係数2と呼ぶ。)。
【0046】
情報処理部5では,一般的なズレの係数1と2の差を求め,このズレ係数の差と判定パラメータの値とを比較し、同じかより大きい場合は,内装もしくは外装によって,一般的なズレの係数が最小になるようなC3レンズの励磁電流を計算し,C3レンズ用電源にこの励磁電流を出力させる(ステップ131)。さらに,同様に画像1,2を取得し,一般的なズレの係数(一般的なズレの係数3と呼ぶ)を計算し,一般的なズレの係数2と3の差を求める。同様の過程を,一般的なズレの係数の差が判定パラメータの値未満になるまで繰り返す(ステップ127)。判定パラメータの値未満になった場合、調整成功で自動調整終了となる(ステップ129)。この繰り返しの回数は限定されていてもよく,ズレ係数の差が判定パラメータ未満にならない状態で,繰り返しの回数が限定値以上になったか否かを判定し(ステップ130),限定値以上になっていない場合、ズレ係数の差が最小になるようC3レンズの制御を繰り返えす(ステップ131)。限定値以上になった場合情報処理部5は画像処理端末6にエラーメッセージを出力し,焦点合わせの自動化を終了する(ステップ132)。
【0047】
焦点合わせの自動化に失敗した場合,もしくは焦点合わせをユーザーが手動で行う場合,ユーザーは画像処理端末6のインターフェース上で情報処理部5に手動の焦点合わせ手順の開始を命令する。このとき,情報処理部5は,検出部B用ExB用電源107に振動電流もしくは振動電圧を印加することにより、軸非対称な振動電場/振動磁場を形成させる。ユーザーはC3レンズの励磁電流をインターフェース上もしくは,焦点合わせ用つまみ47によって制御し,画像処理端末6上の画像を見ながら画像の振動および周期的なボケが最小になるようにする。
【0048】
なお、本実施例においては、上に示したエネルギーバンドパス検出系B以外の検出部系を備えていてもよい。以下では,第一の実施例の走査電子顕微鏡が備える,高エネルギー反射電子検出系A,および低エネルギー二次電子検出系Cについて説明する。
【0049】
エネルギーバンドパス検出系では,高エネルギー反射電子26を検出することはできない。なぜなら高エネルギー反射電子26は,試料2表面から電子銃8に向けて一次電子線19と同様の軌道を描くため,一次電子線19と同様に特定位置である収束点24で収束し,検出部B用ExB16の偏向作用を受けないためである。
【0050】
高エネルギー反射電子検出系では,収束点24より電子銃側に軸対称な電極A29を備える。電極A29に高エネルギー反射電子26が衝突すると,低エネルギーの信号電子30が発生する。この信号電子30は,検出部A用ExB15によって,検出部A12方向に偏向される。検出部A用ExB15は,一次電子線のウィーン条件を満たすよう,一次電子線には偏向作用を与えずに信号電子30のみを検出部A12方向に偏向するような互いに直行した電界,磁界を生成するウイーンフィルタである。検出部A用ExB15は,検出部A用ExB用電源106によって制御される。
【0051】
検出部A12は,検出部B13と同様の,ET型の検出部であり,シンチレータに印加する電圧,ホトマルチプライヤに供給される電圧は,ホトマル電源A109により制御される。
【0052】
高エネルギー反射電子26の検出方法は,検出部A用ExB15を用いる方法に限定されるものではない。例えば,ExBを用いずに,信号電子を直接,ET型の検出部で検出してもよい。この際,ET型の検出部は光軸を囲むように複数用いてもよい。また,高エネルギー反射電子26の検出方法は,低エネルギー信号電子に変換して検出する方法に限るものではない。例えば,電極A29の位置に,半導体や,マイクロチャンネルプレートを用いて直接検出してもよい。この場合もExBは用いない。
【0053】
一方,試料2から放出されるエネルギーの低い二次電子25は,対物レンズ18の磁界によって電子銃8側に引き上げられる。
【0054】
二次電子検出系では,対物レンズ18の下面より電子銃側に配置した検出部C用ExB17により検出部C14側に偏向される。検出部C用ExB17は,一次電子線のウィーン条件を満たすよう,一次電子線には偏向作用を与えずに二次電子25のみを検出部C14方向に偏向するような互いに直行した電界,磁界を生成する。検出部C用ExB17は,検出部C用ExB用電源108によって制御される。
【0055】
検出部C14は,検出部A12,検出部B13と同様の,ET型の検出部であり,シンチレータに印加する電圧,ホトマルチプライヤに供給される電圧は,ホトマル電源C111により制御される。
【0056】
本実施例では,検出部A用ExB15,検出部B用ExB16,検出部C用ExB17の三つの偏向器を用いるが,そのうち,検出部A用ExB15,検出部C用ExB17は一次電子線19の収束点ではないところに電界,磁界を供給しているため,収差を生み出す。ただし,検出部A用ExB15で発生した色収差は,検出部C用ExB17の電界,磁界を適切に設定することで相殺できる。色収差の相殺の方法については,例えば、特開2001−256914号公報において説明されている方法と同様に行う。
【0057】
さて、本実施例では,前記のように三つの検出系を備えるが,得られた三系統の信号を互いに演算した画像を取得することも可能である。
【0058】
検出部A〜C12〜14の信号出力は,まず,画像演算器28に取り込まれる。画像演算器28では,三系統のアナログ信号のゲインを調整し,A/D変換器によってデジタル信号に変換する。その後にそれぞれの信号を演算し,もしくは演算処理を行わずに情報処理部5に三系統の信号を受け渡す。
【0059】
画像演算を行う場合,オペレータは,画像表示端末6に表示されるインターフェース上で,まず何枚の画像を取得するかを選択する。その後に,それぞれの画像について,検出部A〜C12〜14の信号出力をどのように演算するかを選択する。一例を示すと,検出部A12の信号出力をα,検出部B13の信号出力をβ,検出部C14の信号出力をγと置くと,オペレータは三枚の画像を取得するように選択し,第一の画像ではα×1+β×0.5+γ×0.1の信号を,第二の画像では,α×0+β×1+γ×(-1),第三の画像では,α×0+β×0+γ×1の画像を取得するように選択する。情報処理部5では,前記の演算に応じて演算処理した三系統の信号を画像メモリ7に取り込み,画像表示端末6に表示する。
【0060】
演算処理を行わない場合,情報処理部5では,演算処理をしない三系統の信号を画像メモリ7に取り込み,それらのうち,オペレータが選択した信号に対応する単数もしくは複数の試料像を画像表示端末6に表示する。
【0061】
本実施例では,三つの検出系を備えるが,検出系は三系統に限定されるものではなく,必要に応じて検出系を任意の系統数だけ追加してもよい。また,その場合,前記の信号の演算処理の入力数と出力数は,検出系の系統数に応じて追加してもよい。
【0062】
また、本実施例において,試料上での一次電子線のエネルギーが低い条件での高分解能観察を行うため,試料に負の電圧(リターディング)電圧を印加しても良い。リターディング電圧を印加することで,対物レンズ18を通過する際の一次電子線19のエネルギーを高くすることができるため,色収差を低減できる。この場合,試料台3上の試料2に供給される電圧は,リターディング制御電源112により制御される。リターディング電圧を印加した場合でも,一次電子線19の試料面での収束は,対物レンズ18のレンズ強度を調整することで調整する。
【0063】
リターディング時の二次電子は,リターディング電圧に応じたエネルギーを持つため,二次電子検出系(検出部C14)で検出するよりも,エネルギーバンドパス検出系を用いて,検出部B13で検出した方が良い場合もある。例えば,リターディング電圧がXkVである場合,二次電子はリターディング電圧によって加速され,一次電子線19の第三の収束点24をXkeV程度のエネルギーで通過する。バンドパス検出系の被検出対象のエネルギーの代表値をXkeVに設定すれば,二次電子の検出が可能になる。
【実施例2】
【0064】
図2には本発明の別の実施形態である,第二の実施例の走査電子顕微鏡の構成の一部を示す。第二の実施例では,エネルギーバンドパス検出系以外は図1に示した第一の実施例と同様である。
【0065】
第二の実施例では,バンドパス検出のため,特定位置に形成された一次電子線19の第三の収束点24に,二次粒子に集束作用を与えるレンズ界を供給する軸対称の検出用レンズ31が配置される。ただし,この場供給部として機能するレンズは磁界レンズである必要はなく,同様の作用をするものであれば,静電レンズであっても,多段の多極子レンズであってもよい。
【0066】
エネルギーバンドパス検出を行う場合,第一の実施例と同様に,オペレータは,画像表示端末6に表示されるインターフェース上で,被検出対象の二次粒子27のエネルギーの代表値を選択する。情報処理部5は,検出用レンズ用電源116を操作して,被検出対象の二次粒子27が収束点24より電子銃側の収束点32で収束するように,検出用レンズ31を動作させる。インターフェース上での表示方法は,例えば第一の実施例の場合に倣う。
【0067】
収束点32を通過した被検出対象の二次粒子27は,発散し,収束点32より電子銃側に配置された軸対称の電極B33に衝突する。電極B33に二次粒子27が衝突すると,低エネルギーの信号電子30が発生する。この信号電子30は,検出部D用ExB34によって,検出部D35方向に偏向される。検出部D用ExB34は,一次電子線のウィーン条件を満たすよう,一次電子線には偏向作用を与えずに信号電子30のみを検出部D35方向に偏向するような互いに直行した電界,磁界を生成するウイーンフィルタを形成する。検出部D用ExB34は,検出部D用ExB用電源113によって制御される。
【0068】
検出部D35には,ET型の検出部を用いる。シンチレータに印加する電圧,ホトマルチプライヤに供給される電圧は,電源D114により制御される。
【0069】
検出部D35は,電極B33に衝突した二次粒子27起源の信号を検出するが,二次粒子27より低いエネルギーをもつ反射電子は収束点32より試料側で収束し,また,より高いエネルギーをもつ反射電子は収束点32より電子銃側で収束する。このため,検出部D35に検出される反射電子は,被検出対象のエネルギーの周りに有限のエネルギー幅を持つことになり,エネルギーバンドパス検出が可能になる。
【0070】
バンドパス検出を行うエネルギーの幅を制御するには,C3レンズ23と電極B33の間に絞り36を挿入する。これにより,被検出対象の二次粒子27の収束点32に絞りを配置することで,検出部方向に通過できる二次粒子のエネルギーに制限を加え,検出エネルギー幅をより狭くすることも可能である。絞り36は,収束点32に固定されていてもよく,また,必要なときに用いることができるよう,一次電子線19の軸外から挿入できるようになっていてもよい。絞りを挿入式にする場合,複数の内径の絞りを用意し,挿入距離を操作することで,絞りの内径を段階的に変化させられるようにしてもよい。さらに,挿入した絞りを光軸方向に上下に移動させられるようになっていてもよい。
【0071】
なお,二次粒子27の検出方法は,上で示した検出部D用ExB34を用いる方法に限るものではない。例えば,ExBを用いずに,直接,ET型の検出部で検出してもよい。この際,ET型の検出部は光軸を囲むように複数用いてもよい。
【0072】
また,二次粒子27の検出方法は,低エネルギー信号電子に変換して検出する方法に限るものではない。例えば,電極B33の位置に,半導体や,マイクロチャンネルプレートを用いて直接検出してもよい。この場合もExBは用いない。
【0073】
得られた信号から画像の取得,表示を行う方法は,第一の実施例の場合と同様である。
【0074】
第二の実施例によれば,第一の実施例と同様に,中間エネルギー帯の任意のエネルギーでバンドパス弁別を行うことができ,また,被検出対象の二次粒子のエネルギーが高く,収束作用のために検出用レンズ31が供給する場を大きくする必要がある場合でも,供給場所が一次電子線の第三の収束点24となるため,一次電子線19は大きな影響を受けない。
【0075】
この効果を効果的にするためには,第一の実施例と同様に一次電子線19の収束点24を常にできるだけ厳密に検出用レンズ31の磁界の供給点に合わせておく機構が必要になる。そのため,本実施例でも,第一の実施例と同様、情報処理部などからなる収束点24の位置合わせ部を設ける。位置合わせは,第一の実施例と同様、図12にその一例が示された処理フローに基づいき,場供給部である検出部B用ExB16が行った役割を検出用レンズ31が行う。この場合、検出用レンズ31は軸対称の形状であるため、図12のステップ123などで、検出用レンズ31に印加する検出用レンズ用電源116の出力値を規定値変化させた場合、軸対称な振動電場/振動磁場が形成されることになる。
【0076】
なお,第二の実施例においても,試料上での一次電子線のエネルギーが低い場合に高分解能観察を行うため,試料にリターディング電圧を印加しても良い。この場合,試料に供給される電圧は,リターディング制御電源112により制御される。リターディング電圧を印加した場合でも,一次電子線19の試料面での収束は,対物レンズ18のレンズ強度を調整することで調整する。リターディング時の二次電子は,第一の実施例と同様に,エネルギーバンドパス検出系で検出してもよい。
【0077】
第二の実施例では,静磁レンズである対物レンズ18近傍に正の電圧(ブースティング電圧)を印加し,一次電子線19を加速する電極を設けてもよい。これにより,一次電子線19を,エネルギーが高い状態で対物レンズ18を通過させることができるため,色収差の低減が実現される。この場合の実施例を図3,図4に示す。
【実施例3】
【0078】
図3に示した実施例は,第二の実施例の対物レンズ18にアインツェルレンズを重畳させた第三の実施例である。
【0079】
対物レンズ18の下面より電子銃側に軸対称の加速電極37を設ける。加速電極37に印加されるブースティング電圧は,絶対値が1kVから10kVの高電圧であり,ブースティング用電源117によって供給される。一次電子線19を走査するため,振動磁場を供給するタイプの走査偏向器11が加速電極37の外側に配置される。振動磁場を遮蔽しないように,加速電極37は非磁性体で形成されている必要がある。加速電極37の上下には,軸対称で接地電位に保たれた接地電極38が配置される。ただし,加速電極37の試料側の接地電極には特別な電極を設けずに,接地電位である対物レンズ18の上磁路を流用してもよい。
【0080】
この構成により,入射時と出射時の一次電子線のエネルギーが変化しないアインツェルレンズが重畳される。なお,この実施例においても,リターディング電圧を印加できるようになっていてもよい。一次電子線19の試料面での収束の調整は,リターディング電圧の印加の有無にかかわらず,対物レンズ18のレンズ強度を調整することで調整する。
【0081】
試料から発生した二次粒子は,加速電極37に印加される電圧および,リターディング電圧によって加速され,電子銃方向に向かい,第二の実施例の場合と同様にバンドパス弁別されて検出部D35から検出される。この際,第二の実施例で,リターディング電圧を印加した場合と同様に,二次電子もバンドパス弁別検出によって検出される。
【実施例4】
【0082】
図4に示した実施例は,対物レンズ18の上磁路に正の電圧を印加する第四の実施例である。
【0083】
対物レンズ18の上磁路の一部は,絶縁碍子39によって絶縁された電圧印加磁路40となっている。電圧印加磁路40に印加する電圧は,絶対値が1kVから10kVの高電圧であり,ブースティング用電源117によって供給される。この電極と,試料台からなる構成により,試料が接地電位の場合は,アインツェルレンズが重畳され,リターディング電圧が印加された場合は,出射時のエネルギーが入射時のエネルギーより低くなる減速型の静電レンズが重畳される。一次電子線19の試料面での収束は,リターディング電圧の印加の有無にかかわらず,対物レンズ18のレンズ強度を調整することで調整する。
【0084】
試料から発生した二次粒子は,電圧印加磁路40に印加される電圧および,リターディング電圧によって加速され,電子銃方向に向かい,第二,三の実施例の場合と同様にバンドパス弁別されて検出部D35から検出される。この際,第三の実施例と同様に,二次電子もバンドパス弁別検出によって検出される。
【0085】
なお、以上の実施例では,一次電子線19を所望の光学系で試料室に導く光学系を形成するレンズがC1,C2,C3レンズおよびセミインレンズ型の対物レンズから構成されているが,第一の実施例や第二の実施例で示されたバンドパス検出系を備えれば,他の構成による走査電子顕微鏡であっても構わない。
【実施例5】
【0086】
図5に示した第五の実施例は,第一の実施例でC2レンズが無いタイプの走査電子顕微鏡である。このタイプでは,レンズが一つ無いため,鏡筒を短くでき,コスト的にも安価になる。
【0087】
また、走査電子顕微鏡の対物レンズは,第一から第五の実施例に示されるセミインレンズ型の磁界対物レンズに限定されるものではない。以下では,対物レンズのバリエーションの実施例について説明する。
【実施例6】
【0088】
図6に示した第六の実施例は,対物レンズの内部に試料を配置するタイプの対物レンズ(インレンズ型対物レンズ)45を備えた走査電子顕微鏡である。この方式によれば,第一から第五の実施例における対物レンズと比較して,試料2をさらに強度の磁場中に置くことができ,収差を効果的に低減できる。ただし,試料の大きさが限られる,磁性体試料の観察が困難であるなどのデメリットもある。二次粒子の検出は,第一の実施例の走査電子顕微鏡と同様に行う。
【実施例7】
【0089】
図7に示した第七の実施例は,対物レンズの磁場を試料2に浸透させないタイプの対物レンズ(アウトレンズ型対物レンズ)46を備えた走査電子顕微鏡である。このタイプでは,試料が磁性体などであった場合でも観察が可能である。二次粒子の検出は,第一の実施例の走査電子顕微鏡と同様に行うが,試料台にリターディング電圧を印加しない場合,試料が磁場中にないため,一般に二次電子は対物レンズを通過しない。二次電子を検出するためには,試料室内に検出部E42を設ける。検出部E42はET型の検出部であり,表面に印加された約10kVの正の電圧で二次電子25を引き込み,加速して検出する。
【0090】
また,対物レンズを通過しない大コーンアングル反射電子41の検出には,対物レンズ46の下面より試料側に配置された検出部F43で検出する。検出部F43には,半導体検出部やマイクロチャンネルプレートなどを用いる。なお、検出部F43と同様の検出部は,第一から第五の実施例に設けてもよい。
【実施例8】
【0091】
図8に示した第八の実施例は,対物レンズに静電レンズ44を用いたタイプの走査電子顕微鏡である。二次粒子の検出方法は,第七の実施例と同様に行う。静電レンズ44は,接地電位に保たれた軸対称の電極に,電圧を印加する軸対称の電極が挟まれた形状をしたアインツェルレンズである。静電レンズ44は,静電レンズ制御電源118によって制御される。
【0092】
なお、第五から第八の実施例のバンドパス弁別検出系は,第一の実施例をベースにした構成で説明したが,第二の実施例のバンドパス弁別検出系を用いた構成であっても良いことは言うまでもない。
【実施例9】
【0093】
最後に、バンドパス検出に第二の実施例と同様に,検出用レンズを用い、且つ情報の異なる二次粒子を同時に弁別検出できる実施例を説明する。図9にその場合の代表的な実施例である第九の実施例の構成を示す。
【0094】
検出用レンズ31の励磁によって影響を受ける二次粒子の軌道は,エネルギーだけでなく,放出されるコーンアングル(一次電子線の光軸と放出される二次粒子の方向間の角度)にも依存している。これを利用し,複数の検出部を配置することで,情報の異なる複数の二次粒子を同時に弁別して検出できる。
【0095】
例えば,図9の構成では,第二の実施例で説明した電極33ExB34ET検出部35の組み合わせによるタイプの検出部を三組備えているが、検出用レンズ31の励磁条件をある値に設定した場合、図9に示すように、それぞれ、最も電子銃側の検出部52では、高エネルギー反射電子のうち,放出コーンアングルの小さい反射電子(高エネルギー小コーンアングル反射電子48),中間位置の検出部53では、中間エネルギーの検出対象エネルギーの電子49,最も試料側の検出部54では、高エネルギー反射電子のうち、放出コーンアングルの大きい反射電子(高エネルギー大コーンアングル反射電子50)をそれぞれ同時に弁別して検出できる。
【0096】
検出用レンズ31の励磁電流はユーザーが任意に設定できるが,その際にそれぞれの検出部5254で検出される二次粒子の情報をユーザーに提供するため,検出できる二次電子のエネルギーと放出コーンアングルの位相マップを画像表示端末6上のインターフェース上に表示してもよい。図13に検出できるエネルギー,放出コーンアングルの位相マップ例を示す。図13では、検出部5254のそれぞれで検出される二次粒子、即ち、高エネルギー小コーンアングル反射電子48、中間エネルギーの検出対象エネルギーの電子49、高エネルギー大コーンアングル反射電子50の位相領域をそれぞれ領域55,56、57で示す。
【0097】
なお、本実施例における検出部52、54は、実質的に第一、第二の実施例における検出系A、検出系Cが果たした役割を果たすことになるので、本実施例において検出系A、検出系Cを更に追加する必要はない。また、本実施例において、第一、第二の実施例における走査偏向器11に相当する走査偏向器の設置位置は、検出器54の電極と検出用レンズ31の間、もしくは、検出器52の電極とC3レンズ23の間など、試料とC3レンズ23の間のどこかであれば良い。更に、第二の実施例における絞り36に相当する絞りとして、各検出器53、54の電極の上流に、より上流の検出器に向かう二次粒子を制限するための絞りを設置しても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に基づく走査電子顕微鏡の第一の実施例を示す図。
【図2】本発明に基づく走査電子顕微鏡の第二の実施例を示す図。
【図3】本発明に基づく走査電子顕微鏡の第三の実施例を示す図。
【図4】本発明に基づく走査電子顕微鏡の第四の実施例を示す図。
【図5】本発明に基づく走査電子顕微鏡の第五の実施例を示す図。
【図6】本発明に基づく走査電子顕微鏡の第六の実施例を示す図。
【図7】本発明に基づく走査電子顕微鏡の第七の実施例を示す図。
【図8】本発明に基づく走査電子顕微鏡の第八の実施例を示す図。
【図9】本発明に基づく走査電子顕微鏡の第九の実施例を示す図。
【図10】試料面からの二次粒子の放出強度のエネルギー依存性を示す図。
【図11】インターフェース上で行われるバンドパス検出のエネルギー領域の選択画面を示す図。
【図12】焦点合わせ作業を自動で行う際のフローチャートを示した図。
【図13】インターフェース上に表示される、第九の実施例において検出できるエネルギー,放出コーンアングルの位相マップ例を示す図。
【符号の説明】
【0099】
1…電子光学系鏡筒,2…試料,3…試料台,4…試料室,5…情報処理部,6…画像表示端末,7…画像メモリ,8…電子銃,9…C1レンズ,10…C2レンズ,11… 走査偏向器,12…検出部A,13…検出部B,14…検出部C,15…検出部A用ExB,16…検出部B用ExB,17…検出部C用ExB,18…対物レンズ,19…一次電子線,20…第一の収束点,21…対物レンズ絞り,22…第二の収束点,23…C3レンズ,24…第三の収束点,25…二次電子,26…高エネルギー反射電子,27…被検出対象の二次粒子,28…画像演算器,29…電極A,30…信号電子,31…検出用レンズ,32…被検出対象の二次粒子の収束点,33…電極B,34…検出部D用ExB,35…検出部D,36…絞り,37…加速電極,38…接地電極,39…絶縁碍子,40…電圧印加磁路,41…大コーンアングル反射電子,42…検出部E,43…検出部F,44…静電レンズ,45…インレンズ型対物レンズ,46…アウトレンズ型対物レンズ,47… 焦点合わせ用つまみ,48… 高エネルギー小コーンアングル反射電子,49… 検出対象エネルギーの電子,50… 高エネルギー大コーンアングル反射電子,51… 検出できる二次粒子のエネルギー領域,52…第九の実施例で最も電子銃側の検出部,53… 第九の実施例で中間位置の検出部,54… 第九の実施例で最も試料側の検出部,55… 検出部52で検出される二次粒子の位相領域,56… 検出部53で検出される二次粒子の位相領域,57… 検出部54で検出される二次粒子の位相領域,101…C1レンズ用電源,102…C2レンズ用電源,103…C3レンズ用電源,104…対物レンズ用電源,105…走査偏向器用電源,106…検出部A用ExB用電源,107…検出部B用ExB用電源,108…検出部C用ExB用電源,109…ホトマル電源A,110…ホトマル電源B,111…ホトマル電源C,112…リターディング制御電源,113…検出部D用ExB用電源,114…ホトマル電源D,115…電子銃用電源,116…検出用レンズ用電源,117…加速電極用電源,118…静電レンズ制御電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃から放出された一次電子線を試料上で走査することにより、前記試料の走査像を得る走査電子顕微鏡であって、
前記一次電子線の光軸上の複数の収束点の内、前記試料に一番近い前記収束点を特定位置に固定する収束点形成部と,
前記一次電子線の照射により前記試料より発生する二次粒子を検出する検出部と
を備えた走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1記載の走査電子顕微鏡であって、
前記特定位置に,前記試料から放出される前記二次粒子を前記検出部に導く電界/磁界を形成する形成部を配置した
走査電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1記載の走査電子顕微鏡であって、
前記収束点形成部が、前記特定位置より前記電子銃側に配置された軸対称の静電レンズ場と,磁界レンズ場の少なくともどちらか一方を含む
走査電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1記載の走査電子顕微鏡であって、
前記収束点形成部が,当該特定位置より前記電子銃側に配置された一段もしくは複数段の磁界,電界重畳型の多極子レンズを含む
走査電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項2記載の走査電子顕微鏡であって、
前記検出部は、前記一次電子線の光軸外に設置されており、
前記電界/磁界を形成する形成部は,前記二次粒子を,前記検出部の方向に偏向させるための電界/磁界を形成する
走査電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項5記載の走査電子顕微鏡であって、
前記電界/磁界を形成する形成部が,互いに直交する磁界と電界を生成する、少なくとも一組の電極対と少なくとも一組の磁極対からなるウイーンフィルタである
走査電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項2記載の走査電子顕微鏡であって、
前記電界/磁界を形成する形成部は,前記特定位置より前記電子銃側の所定の位置に,前記二次粒子を収束させる
走査電子顕微鏡。
【請求項8】
電子銃から放出された一次電子線を試料上で走査することにより、前記試料の走査像を得る走査電子顕微鏡であって、
前記一次電子線の照射により前記試料から発生する二次粒子を検出する検出部と、
前記二次粒子を前記検出部に導く電界/磁界を形成する形成部と、
前記電界/磁界を形成する形成部の動作中心である特定位置に、前記一次電子線の収束点を形成するための収束点形成部とを有する
走査電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項8記載の走査電子顕微鏡であって、
前記電界/磁界を形成する形成部は、前記二次粒子を前記収束点より前記電子銃側の位置に収束する場を供給する場供給部である
走査電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項9記載の走査電子顕微鏡であって、
前記検出部は、前記試料から放出される際のエネルギー,放出コーンアングルによって異なる軌道をたどる前記二次粒子を弁別して検出する、前記二次粒子の軌道上に配置した単数もしくは複数の検出器からなる
走査電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項8記載の走査電子顕微鏡であって、
前記電界/磁界を形成する形成部は、直交電磁界発生器からなる
走査電子顕微鏡。
【請求項12】
請求項8記載の走査電子顕微鏡であって、
前記収束点形成部が、前記特定位置より前記電子銃側に配置された静電レンズ場と,磁界レンズ場の少なくともどちらか一方からなる
走査電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項8記載の走査電子顕微鏡であって、
前記検出部は、前記特定位置と前記電子銃の間に配置された、前記二次粒子を極低エネルギーの信号電子に変換する変換部と、前記信号電子を検出する光軸外に配置された検出器と,前記信号電子を前記検出器に向けて偏向させるウイーンフィルタとからなる
走査電子顕微鏡。
【請求項14】
請求項8記載の走査電子顕微鏡であって、
前記特定位置と前記検出部との間に,所望のエネルギー幅の前記二次粒子のみを通過させるための絞りを備えた
走査電子顕微鏡。
【請求項15】
請求項14記載の前記絞りは,前記一次電子線方向の上下に移動でき,また,前記絞りの直径は,複数段階で可変である
走査電子顕微鏡。
【請求項16】
一次電子線を試料上で走査することにより、前記試料の走査像を得る走査電子顕微鏡であって、
前記一次電子線を発生する電子銃と、
前記一次電子線の光軸上の特定位置に、前記一次電子線の収束点を形成する収束点形成部と、
前記一次電子線を偏向走査する偏向走査部と、
前記試料を保持する試料台と、
前記試料に前記一次電子線を集束する対物レンズと、
前記一次電子線の照射により前記試料から発生する二次粒子の軌道に作用する場を前記特定位置に供給する場供給部と、
前記場供給部により供給された前記場により、所定の軌道に導かれた前記二次粒子を検出する検出部と
からなる走査電子顕微鏡。
【請求項17】
請求項16記載の走査電子顕微鏡において,
前記場供給部は、前記収束点より前記電子銃側の所定位置に、前記二次粒子を収束させるための磁界/電界を形成する磁界/電界形成部である
走査電子顕微鏡。
【請求項18】
請求項16記載の走査電子顕微鏡であって,
前記試料から放出される前記二次粒子のうち、前記検出部では検出されない前記二次粒子を,放出コーンアングル、エネルギーによって別々に検出する複数の検出器を更に備える
走査電子顕微鏡。
【請求項19】
請求項16記載の走査電子顕微鏡であって、
情報処理部を更に有し、
前記情報処理部は、前記検出部の出力信号に基づき、前記収束点が前記特定位置に形成されているか否かを確認する
走査電子顕微鏡。
【請求項20】
請求項19記載の走査電子顕微鏡であって、
前記情報処理部は、前記収束点が前記特定位置からずれていた場合に,前記一次電子線に関して軸対称もしくは,非軸対称な振動電場/振動磁場を前記特定位置に形成するよう、前記収束点形成部を制御する
走査電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−243485(P2008−243485A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80166(P2007−80166)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】