説明

走行支援装置および走行支援方法

【課題】 交差点で自車両が他車両の進路に進入する際に他車両との動的な相互関係に照らして、自車両から他車両の進路への進入依頼の発信が許容される条件を一定のものに制限することにより、他車両の運転者が無用の混乱を招く虞を回避して、交差点での安全かつスムーズな進入を可能にする走行支援装置および走行支援方法を提供する。
【解決手段】 他車両(221〜225)が自車両210の挙動を感知する必要もない程交差地点Cから離隔した第1領域A1に位置せず、且つ、譲歩依頼メッセージを受けても応じられない程交差地点Cに接近した第2領域A2にも位置しないメッセージ発信許容領域に位置しているときに限って譲歩依頼メッセージの発信を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行支援装置、特に、交差点での安全かつスムーズな進入を可能にするための走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車輌の走行に影響を与えることが予想される他車輌を特定し、当該他車輌との間で運転者の意志情報を双方向で通信する車車間通信装置が従来より提案されている(例えば、特許文献1)。この提案では、交通状況を判断した運転者の発した音声に応答して車車間通信が起動し開設される。この車車間通信によって、自車両の走行に影響を及ぼすと思われる他車両の運転者と音声(認識)に基づく双方向通信を行い、該当する車両相互間での意思疎通を可能にし、円滑な交通を実現しようとするものであるとされている。
【特許文献1】特開2002−183889(段落0004〜段落0005、図2、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上掲の従来の技術によれば、交差点に臨んで、この車車間通信によって、自車両から他車両へ進入の依頼を発信するといった状況が発生する可能性が高い。一方、交通状況に関わらず、常時、自車両から他車両へ進入依頼(譲歩依頼)の発信が許容されるといった状況を想定してみると、自車両の進入が他車両との相対的な位置関係や走行状態などを勘案すれば譲歩することが困難な場合や、或いはまた、そのような譲歩依頼によって打診するまでもなく自然に進入できるような場合でも、進入依頼を発信してしまうといった可能性がある。このような状態にあるときに、進入依頼が受信されると、受信した他車両の運転者側ではかえって混乱を招いてしまうことが懸念される。しかしながら、特許文献1はそもそも上述したような意味での混乱が生じないようにすることを課題とするものではなく、従って、このような課題を前提としての、自車両から他車両への進入依頼の発信が許容される条件等については別段の提案がなされていない。
【0004】
本発明は上述のような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、交差点で自車両が他車両の進路に進入する際に他車両との動的な相互関係に照らして、自車両から他車両の進路への進入依頼の発信が許容される条件を一定のものに制限することにより、他車両の運転者が無用の混乱を招く虞を回避して、交差点での安全かつスムーズな進入を可能にするための走行支援装置および走行支援方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するべく、本願では次のような技術を提案する。
例えば、適宜のサンプリング周期の、毎回の現在時点等に該当する、異なる複数の時点で、それぞれ自車両および他車両の各位置を認識して該認識に係るデータを保持し、これらのデータに依拠する等して自車両および他車両の進路が交差する交差地点の位置を予測する。
【0006】
前記他車両が前記交差地点に到達する以前の走行領域であって前記他車両が自車両の挙動を感知する必要がない程度に前記交差地点から離隔している領域の前記交差地点寄りの第1地点から、前記交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両がその進路への自車両の進入に対して譲歩することが可能な領域の前記第1地点よりも交差地点寄りの第2地点に前記自車両が到達するまでの間に限り、前記譲歩依頼メッセージの発信を許容する、即ち、前記他車両が前記第1地点を通過した第1時点から前記第2地点を通過した第2時点までの時間外の区間では上述の譲歩依頼メッセージの発信について規制をかけるようにするというものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自車両と他車両との夫々の進路について予測される交差地点から前記他車両が十分遠方に位置していてそのような譲歩依頼メッセージによる打診を俟つまでもなく当然に進入が可能な程度に前記交差地点から離隔している領域の前記交差地点寄りの第1地点から、前記交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両がその進路への自車両の進入に対して譲歩することが可能な領域の前記第1地点よりも交差地点寄りの第2地点に到達するまでの間に限り、前記自車両から前記他車両の進路への進入の可否を確認するための譲歩依頼メッセージの発信を許容するようにしている。このため、敢えて前記譲歩依頼メッセージを発信して進路への進入の可否を打診することが却って不自然な程前記交差地点から離隔している領域に他車両が位置している場合や、或いは、当該他車両が接近していてそのような譲歩依頼メッセージを発信して打診すること自体が適当でないような場合には、当該譲歩依頼メッセージの発信は許容されず、従って、他車両の運転者が無用の混乱を招く虞が解消し、交差点での安全かつスムーズな進入が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。尚、以下に参照する図においては、便宜上、説明の主題となる要部は適宜誇張し、要部以外については適宜簡略化し乃至省略されている。
図1は、本発明の実施の形態としての走行支援装置の要部のブロック図である。この走行支援装置(その要部)100は、マイクロプロセッサを主体に構成され、車両の所定部位に適切な使用環境が維持され得る形態で装備される処理装置101には、この処理装置101と各種のデータおよび命令を授受し車両の状況や制御に係る各種のデータを読み出し可能に保持する記憶装置102が接続されている。
【0009】
また、処理装置101には、車車間通信装置103が接続されており、この車車間通信装置103によって他車両と車車間通信を通して各種の情報(データ)の授受を行い得る。
後述するように、この車車間通信装置103は、自車両から他車両に対してその進路への侵入の可否を確認(打診)するための譲歩依頼メッセージを発信する譲歩依頼メッセージ発信手段としても機能し、他車両からこのような打診のメッセージが発信されたときには通信可能領域にあるときに当該メッセージを受信してその打診に対する応答メッセージを発信するように機能し得る。
【0010】
更に、路側装置との通信を行う路車間通信装置104、アンチスキッド装置105(該装置で検知されるスキッド量、従って、路面状態に関するデータを出力するように設けられた当該データの出力端)、カーナビゲーション装置106(自車両の現在位置に相応するデータ、道路勾配のデータを含む電子地図データを保有しているもの)、カーナビゲーション装置104の表示部と車車間通信および路車間通信の通信内容等の表示部並びに自車両での監視対象各部位の状態に係る表示部等を兼ねインストルメントパネルの中央部位等の適所に設置された表示器107も、この処理装置101に接続されている。
【0011】
また、車外の温度を検出する外気温検出器108(外気温によって路面が凍結していることを推定するためにも適用)の出力端、方向指示器の操作状態、ステアリングの舵角やアクセルペダルやブレーキペダルの操作ストローク等の運転操作量を感知する運転操作量感知装置109の出力端、自車両の車速および加減速度を認識するための車両状態認識装置110、ワイパーの作動状況を検出するワイパー作動検出器111の出力端も、この処理装置101に接続されている。
【0012】
尚、車車間通信における送信メッセージの候補を選択し決定するための操作、その他、外部との通信を行うための操作、或いは、自車両に装備された装置を用いるための操作等を行うべく車両の適所に配された操作器112も、この処理装置101に接続され、この操作器112から処理装置101を通して該当する各装置との所要のマンマシンインターフェースが計られる。
【0013】
上述の構成において、処理装置101に接続された各装置のうち、一の装置の機能は他の装置の機能と、別異の物象の状態の量に依拠しつつ類似の機能を果たし、或いはまた、相補的に作用するが、何れの場合も処理装置101によって系全体が統括的に制御されて調和的に作動し得る。例えば、自車両の位置情報、駐車場周りの運転操作に関する補助的情報、地図情報、有料道路に関する情報、給油所その他の施設や店舗に関する案内情報等々の車両の運行の便宜に係る種々の情報が、路車間通信装置103および/またはカーナビゲーションシ装置105を所要に応じて相補的に活用して、処理装置101で収集されるように構成されている。
【0014】
また、アンチスキッド装置105がその制御動作のために検出するタイヤと路面とのスキッド状態に関する情報に基づいて、処理装置101は路面が滑り易い状態にあるか否かを弁別するが、これと共に、外気温検出装置108によって検出されている外気温が氷点を下回っているような場合には、凍結に起因して路面が滑り易くなっている虞があるものと推定され、或いは、外気温は温暖な範囲にあるときにワイパー作動検出器110によって検出されるワイパーが高速モードで作動していることが検出されれば、雨滴による湿潤な路面であるために滑りやすい状態が起こっていると推定される。
【0015】
尚、図1の走行支援装置は、自車両に設けられ検出乃至認識を行う各装置によって各種のデータを収集する他に、別途、車車間通信装置103による車車間通信を通して、他車両から、例えば、その車両の位置情報、車両の速度および加減速度に関するデータ(自車両に装備されたものと同様に当該他車両に設けられた車両状態認識装置によって認識され、その車両の処理装置から車車間通信装置を通して送信されたデータ)の供給を受けられように構成されている。
【0016】
図2は、本発明の実施の形態における作用の概要を説明するための図である。図示の例は、自車両210が走行中の非優先道路230が信号のない交差点で優先道路260と交差し、この非優先道路230を他車両に該当する複数の車両221,222,223,224,225が走行している状況を想定したものである。ここで、自車両210は図1を参照してその要部を説明した走行支援装置100を搭載しているものとする。
【0017】
一方、各他車両221,222,223,224,225は図1のものと概略同様の走行支援装置(少なくとも、当該自車両と通信可能な車車間通信機能、路面環境を認識するための機能、自己の現在位置を認識するための機能、表示機能、自己の運動状況を認識するための機能を搭載したもの)を備えているものとする。自車両210はこのような走行支援装置を通して、後述する毎回のサンプリング時点たる各現在時点での自車両および他車両の位置を夫々認識することができる。
【0018】
また、図2において、各他車両221,222,223,224,225は非優先道路230と優先道路260との交差点における地点Cにおいて、当該他車両の予測される移動軌跡が自車両210の予定移動軌跡と交差する蓋然性が高い状況を想定している。尚、本明細書において、一方の移動軌跡が他方を横断する場合のみならず、一方の延長上に他方が合流するときの当初の重複位置も、この「交差」に該当するものとし、また、上述の地点Cを交差地点Cと称呼する。
【0019】
図示の範囲において、交差地点Cから最も離隔した位置(図示の如く当然に、この位置は当該他車両が交差地点Cに達する以前の走行領域に位置する)にある他車両221、および、これに次いで離隔した位置にある他車両222は、自車両210の挙動を感知する必要がない程度に交差地点Cから離隔した領域たる第1領域A1内に位置している。ここに「自車両の挙動を感知する必要がない程度に交差地点Cから離隔した」とは、後に図3および図4のフローチャートを伴って詳述するように、注目時点における当該他車両の走行状態(走行方向、車速等)から推定して交差地点Cに達するには未だ十分な時間があるために、その地点(従って、時点)では自車両に対して未だ特段の認識を持つまでもない程度に交差地点Cから離隔している意であり、後述する例では、十分な時間とは、例えば10秒である。
【0020】
この第1領域A1内の他車両222は自己の位置が地点P1を越えて交差地点Cに接近する方向に移動すると、地点P1を領域の始端とし地点P2を領域の終端とする領域たる後述するメッセージ発信許容領域Apに進入することになる。ここに、地点P1は、他車両が前記交差地点に到達する以前の走行領域であってこの他車両が自車両の挙動を感知する必要がない程度に前記交差地点Cから離隔している領域の(最も)交差地点寄りの第1地点であって、当該他車両がこの第1地点P1を通過した時点を第1時点とする。
【0021】
また、地点P2は当該他車両が交差地点Cに達する以前の走行領域であってこの他車両がその進路への自車両の進入に対して譲歩することが可能な領域の(最も)交差地点C寄りの第2地点であって、当該他車両がこの第2地点P2を通過した時点を第2時点とする。従って、上述のように定義した第1時点および第2時点という概念を用いてメッセージ発信許容領域Apを定義するなら、メッセージ発信許容領域Apは、当該他車両の、第1時点における位置(第1地点P1)から第2時点における位置(第2地点P2)に至るまでの間の領域である。
【0022】
更に、メッセージ発信許容領域Apは上述のように有限の距離であるとして定義され得ると共に、当該他車両の移動に係る第1時点から第2時点に至る時間区間として、時間の次元でも定義され得る。本発明の技術思想は、メッセージ発信許容領域Apを有限の距離であるとして定義するか、当該他車両の移動に係る時間区間として時間の次元で定義するかによらず、遍く、図2を参照して説明したメッセージ発信許容領域Apに当該他車両が位置する場合に限って、他車両の進路への前記自車両の進入の可否を確認するための譲歩依頼メッセージを前記自車両から他車両に対して発信することを許容するというものである。
【0023】
図示の時点では、このメッセージ発信許容領域Ap内には他車両223および他車両224が位置している。このメッセージ発信許容領域Ap内の他車両224は自己の位置が地点P2を越えて交差地点Cに接近する方向に移動すると、地点P2を領域の始端とし交差地点Cに相応する地点P0を領域の終端とする領域たる第2領域A2に進入することになる。
【0024】
地点P0は、優先道路260の車線方向で見たときの位置を交差地点Cと同じくする位置を代表的に表わしたものである。上述の地点P1およびP2についても、優先道路260の車線方向で見たときの位置を同じくする位置を代表的に表わしたものである。既述のように、第1領域A1内に位置している他車両は、何れも交差地点Cから相対的に十分に離隔しているため、自車両210の挙動が如何様にあろうとも、走行に影響することがなく、従って自車両210の挙動を感知する必要が本来的に皆無である。
【0025】
上述のような第1領域A1内を走行しているうちに、自己の現在位置よりも遥かに先の予定進路への進入を打診するメッセージ(譲歩依頼)が受信されるようなことがあると、該受信をした他車両の運転者は、自らの現在の運転視野からはその必要が予期すらされていないようなことに関する打診を早々と受けることになってしまい、却って当惑しまうことが懸念される。このような打診を敢えて行うことが却って不自然な程度に、他車両の予定進路への自車両の進入が、余裕をもって当然に行われ得る領域に自車両が位置している状況にあるからである。
【0026】
一方、第2領域A2に位置している他車両は、交差地点Cに相対的に一段と近付いて、他車両がその進路への自車両の進入に対して十分に譲歩することが困難な程度に交差地点Cに接近しているため、既にこのような第2領域A2内を走行しているときに、唐突に自己の進路への進入を打診する譲歩依頼メッセージが受信されるようなことがあると、該受信をした他車両の運転者は対応処置をとるに混乱を生じてしまうおそれがある。
他方、これら第1領域A1および第2領域A2に対し、メッセージ発信許容領域Apでは、他車両がその進路への進入を打診する譲歩依頼メッセージを受信したときには、当該他車両の運転者は既述のような当惑や混乱を生じるおそれがなく、そのときの状況や自己の都合に応じて適切な対応をとり得る。
【0027】
以上を踏まえ、この発明の要点の一つは、他車両が交差地点Cに達する以前の走行領域であって自車両の挙動を感知する必要がない程度に交差地点Cから離隔している第1領域A1に位置している状態に相応する第1の条件、および、交差地点Cに達する以前の走行領域であって他車両がその進路への自車両の進入に対して十分に譲歩することが困難な程度に交差地点Cに接近した第2領域A2に位置している状態に相応する第2の条件を各算定し、自車両210から他車両に対してその進路への侵入の可否を確認するための譲歩依頼メッセージの発信を、該当する他車両の位置が該算定された各条件に該当しない場合に限って許容するようにするという点にある。
【0028】
上記技術思想における第1の条件および第2の条件とは、夫々、他車両が上述の限りに定義された(即ち、図2を参照して種々の視点から論及され得る)第1領域A1および第2領域A2に位置している状態に相応するものであって、ここに第1領域A1および第2領域A2とは、既述の如くに、それらの始端および終端が、図2を参照して目視されるように当該他車両の車速を勘案して距離(長さ)の次元によっても表現されるが、注目すべき現象の理解の便宜上、適宜、時間の次元によって表わされ得る。
【0029】
図3は、図1中の処理装置における処理手順の一例を表すフローチャートである。処理装置101における各種データの読込みや演算処理等は、例えば6ミリ秒乃至10ミリ秒毎のタイマ割込み処理として実行される。タイマ割込み処理が開始されると、先ず、自車両210から車車間通信装置103を通しての車車間通信、および/または、路車間通信装置104を用いての路車間通信を試みて、当該通信の結果として、その時点で自車両側から所要の情報を取得可能な範囲に位置する車両としての他車両(複数であるを可とする)の存否に係る情報を得てこれを保持する(ステップS301)。このステップS301の処理で存在が認識された他車両については、それらを特定する情報をも併せ取得する。
【0030】
ステップS301で存在すると認識され、各特定された他車両について、次いで、それらの他車両のうちには自車両の走行に影響するものが存在するか否かを判定する(ステップS302)。この段階での判定は、上述のタイマ割込みの周期でサンプリングされる各特定された他車両毎の位置、走行方向、車速等々に相応する限定的なデータについて、先ず簡易的に、自車両の走行に関して何等か影響する蓋然性がある他車両は何れのものであるかといった判定を実行する処理である。
【0031】
ステップS302で自車両の走行に関して何等か影響する蓋然性があると判断される他車両については、各個の他車両毎に、その現在位置、進行方向、車速、運転操作量等のデータが車車間通信を通して読込まれる。より詳細には、他車両毎に装備された図1を参照して説明したものと同様の走行支援装置において各種のデータが収集されるため、自車両の走行支援装置の構成である図1を参照しつつ、その参照符号を援用しながら、次に、これらのデータ収集の様子を説明する。
【0032】
即ち、カーナビゲーションシ装置106によって(場合に応じては路車間通信装置からの情報をも補助的に用いて)現在位置および進行方向が検出され処理装置101にその検出値であるデータが読込まれる。また、車両運動状態認識装置110によって車速が検出され処理装置101にその検出値であるデータが読込まれる。更に、運転操作量感知装置109によってステアリングの舵角やアクセルペダルやブレーキペダルの操作ストローク等の運転操作量が検出され処理装置101にその検出値であるデータが読込まれる。
【0033】
一方、ステップS302で自車両の走行に関して何等か影響する蓋然性があると判断される他車両は存在しないと判定されたときには、ステップS301の処理に戻る。
このようにして処理装置101に一旦収集された各種のデータは、車車間通信装置103から車車間通信を通して自車両側の車車間通信装置103、従って、処理装置101に転送され、該装置101にて認識されるところとなる。即ち、既述の割込み処理の周期(サンプリング周期)毎に処理装置101が読込んだデータがそれの担う物象の状態量の種別に応じて分類された形で直ちに記憶装置102の所定領域(アドレス)に格納される。
【0034】
尚、後述するように、車車間通信によって授受されるのはこのような物理量の情報のみならず、自車両の運転者と他車両の運転者との間のコミュニケーションを担うメッセージコードも授受される。
ステップS303で各所要のデータを読込むと、次いで、自車両および他車両の毎回のサンプリングによる現在位置のデータや、進行方向、車速、運転操作量等のデータに基づいて自車両および他車両の所定期間(時間)に亘る近未来の移動軌跡を予測する(ステップS304)。
【0035】
次いで、このステップS304によって予測した自車両と他車両の移動軌跡が交差するものでるか否かが判定され(ステップS305)、交差すると判定されたときには次のステップS306に移行し、交差することがないと判定されたときにはステップS301の処理に戻る。ステップS306では、自車両と他車両の移動軌跡が交差する交差地点(図2のC地点)の位置を算出する。
【0036】
交差地点Cの位置の算出は、例えば、2つの移動軌跡たる直線の交点を求めるための次の式(1),(2)に各該当する車両の座標位置と進行方向とを当てはめて実行する。即ち:
X=(tanθ1・X1−tanθ2・X2+Y2−Y1)/(tanθ1−tanθ2)……(1)
Y=tanθ2(X−X2)+Y2……(2)
(但し、X:交差地点Cのx座標 Y:交差地点Cのy座標 X1:自車両のx座標
1:自車両のy座標 θ1:自車両の向き X2:該当する他車両のx座標 Y2:該当する他車両のy座標 θ2:該当する他車両の向き)
【0037】
次いで、ステップS307で、自車両の交差地点Cまでの距離D1、該当する他車両の交差地点Cまでの距離D2を算出する。距離D1、D2の算出は、例えば、次の式(3),(4)に交差地点Cの座標位置と各該当する車両の座標位置とを当てはめて実行する。即ち:
1={(X−X12+(Y−Y121/2……(3)
2={(X−X22+(Y−Y221/2……(4)
【0038】
次いで、ステップS308で、ステップS307で算出した自車両の交差地点Cまでの距離D1が所定値よりも小さいか否かを判定する。この距離D1が所定値よりも小さいと判定されたときには、次のステップS309に移行する。他方、D1が所定値以上であると判定されたときには、ステップS301に戻る。ここに、ステップS308の判断における所定値とは、自車両が交差地点Cの手前の停止線付近に位置しているか否かを弁別するときの基準にする値であり、本実施の形態では、例えば5メートルとする。
【0039】
ステップS309では、上述の他車両が交差地点Cに到達するまでの所要時間TTC2を算出する。この所要時間TTC2の算出には、当該他車両の交差地点Cまでの距離D2、この他車両の車速V2、および、加減速度α2を用いる。加減速度α2の値は車速V2の微分値として算出する。
尚、図1のものと同様の他車両の走行支援装置における車両運動状態認識装置110によって車速が検出され処理装置101に読込まれたその検出値であるデータをこの処理装置101で微分演算して得た加減速度α2を車車間通信を通して自車両において受信するようにシステムを構成してもよい。
【0040】
次いで、ステップS309で算出した他車両が交差地点Cに到達するまでの所要時間TTC2が所定値よりも小さいか否かを判断する(ステップS210)。ステップS210におけるこの所定値とは、自車両が優先道路(図2の参照符号260)に余裕をもって進入することが可能な時間であり、この実施の形態では、例えば10秒とする。
ステップS210における判定は、自車両が優先道路に「余裕をもって」進入することが可能な時間(例えば10秒)に対し他車両が交差地点Cに到達するまでの所要時間TTC2がこのような余裕が生じる程には長くはないか否かの判定であり、この判定処理を処理実行時点での他車両の位置(距離の次元)に着目して換言すれば、当該時点で着目している他車両が未だ図2の第1領域A1内を走行している状態にあるか否かを判定していることに相応する。
【0041】
図2について既述のように、この第1領域A1内に在る他車両は未だ自車両210の挙動を感知する必要がない程度に交差地点Cから遠く離隔しており自車両は未だこの領域を走行している他車両の進路には何等別段の意向打診等を伴わずとも「余裕をもって」進入することが可能である。即ち、ステップS210の判定処理において所要時間TTC2が上述の所定値以上であると判定されたときには、自車両が優先道路(図2の参照符号260)に未だ余裕をもって進入することができる程に遠く離れたところを当該他車両が走行しているという場合に相応するものであり、この判定がなされたときには、自車両および他車両とも何等別段の処置乃至操作を俟つ必要はないためステップS301に戻る。
【0042】
ステップS210での判定の結果、他車両が交差地点Cに到達するまでの所要時間TTC2が上述の所定値(その一例は10秒)よりも小さいと判定されたときには、この判定結果を図2について既述のような処理実行時点での他車両の位置(距離の次元)に着目して換言すれば、当該時点で着目している他車両が上述の第1領域A1の終端地点P1を境界としてここから交差地点C(P0)側のメッセージ発信許容領域Ap内を含む領域の何れかの地点を走行している状態にあることを意味している。
【0043】
ステップS210でこの判定が出されたときには、次いで、ステップS311のサブルーチンに移行する。このサブルーチンS311では、当該他車両が実施すると想定される減速度の設定を行う。通常、想定減速度は、例えば0.2Gを基準値に設定する。これは、通常の運転者が赤信号で停止する際に発生する減速度である。しかしながら、この減速度は現実には種々の路面環境によって左右されるものであり、状況毎に適合する値を設定することが望ましい。このため本実施の形態では、想定減速度の設定には、図4のフローチャートを参照して後述するように路面環境に応じて或る程度適応的にこの想定減速度を設定している。
【0044】
ステップS311で想定減速度を設定すると、次いで、このように設定された想定減速度を適用して該当他車両の停止距離SD2を算出する(ステップS312)。この算出には該当他車両の車速のデータと上述のように設定した想定減速度のデータとを適用して演算を実行する。次いで、ステップS210で算出された該当他車両の停止距離SD2と交差地点Cまでの距離D2との比較判定処理を実行する(ステップS313)。
【0045】
ステップS313での比較判定処理の結果、該当他車両の停止距離SD2が交差地点Cまでの距離D2よりも短いと判定されたときには、次のステップS314に移行する。他方該当他車両の停止距離SD2が交差地点Cまでの距離D2以上であると判定された場合には、当該他車両は、そのときの減速度では交差地点Cに至る以前の地点で停止することが困難である。このような場合とは、即ち、図2を参照して説明したように、他車両がその進路への自車両の進入に対して十分に譲歩することが困難な程度まで交差地点Cに接近している第2領域A2内を走行している場合に相応するものであり、この場合にはステップS301に戻る。
【0046】
ステップS314では、自車両から当該他車両に対して、進路譲歩の依頼を行うためのメッセージ発信の許可を行う。この処理によって、自車両の運転者は、当該他車両の運転者に対して「入れてください」のように進路の譲歩を意味するメッセージコードを自己の意思によって選択し送信することができる。
ステップS311における想定減速度の設定処理では、該当する他車両が走行中の路面について、その勾配の如何、或いはまた、雨天で湿潤な状況、更には、積雪により大変滑りやすい状態にあるや否やといったその時点およびその地点毎の現実の路面環境に応じてそれによく適合した値を適応的に設定することが走行支援装置としての作動の的確さを向上させるに寄与することとなる。
【0047】
次に、図4のフローチャートを参照してステップS311の処理の内容について説明する。先ず、他車両が走行中の路面の勾配を表す勾配データを読込む(ステップS401)。この読込みは、該当する他車両のカーナビゲーションシ装置に内蔵された三次元の電子地図データから提供されるデータを自車両側の記憶装置102に格納しておき、該格納されたデータのうちから該当する最新のものを処理装置101側に取り込むといった方法により読込むことも可能である。
或いはまた、この読込みは、自車両側のカーナビゲーションシ装置106に備えられた三次元の電子地図データから他車両に該当する地点の道路勾配データを読み取って処理装置101で認識できる状態にするといった方法によることも可能である。
【0048】
次いで、ステップS401で読込まれた路面の勾配が下り勾配であるか否かが識別される。読込まれた路面の勾配が下り勾配であって考慮されるべき傾斜(この傾斜の値は、実験等によって適切に選択される)より緩いものであるか否かが判定される(ステップS402)。この判定の結果、路面が下り勾配であって考慮されるべき傾斜よりも緩いものであると判定されたときには、次のステップS403に移行する。しかし、路面が下り勾配であって考慮されるべき傾斜以上に相対的に急なものであると判定されたときには、想定減速度の値を既述の基準値である0.2Gよりも低い値である、例えば0.1Gに設定する(ステップS412)。
【0049】
ステップS403では路面状態に係るデータを読込む。次いで、読込んだデータに基づいて路面が乾燥状態にあるか否かを弁別する(ステップS404)。
このステップS403−ステップS404の処理は、具体的には例えば次のようなものである。即ち、図1を参照して既述のように、アンチスキッド装置105がその制御動作のために検出するタイヤと路面とのスキッド状態に関するデータに基づいて、処理装置101は路面が滑り易い状態にあるか否かを弁別するが、これと共に、外気温検出装置108によって検出されている外気温が氷点を下回っているような場合には、凍結や積雪に起因して路面が滑り易くなっているものと推定され、或いは、外気温は温暖な範囲にあるときにワイパー作動検出器110によって検出されるワイパーが高速モードで作動していることが検出されれば、雨滴による湿潤な路面であるために滑りやすい状態が起こっていると推定される。
【0050】
尚、ステップS403の処理として、場合によっては、路面の乾燥状態および湿潤乃至積雪状態の別を識別するための情報が路側装置(インフラストラクチャ)から路車間通信で提供され、このようにして提供される情報を路面状態データとして読込むようにシステムを構成してもよい。
ステップS404で路面が乾燥状態にないと判断された場合、例えば、路面が積雪により大変滑りやすい状態にある場合には、想定減速度の値を基準値(0.2G)の減速度で他車両が減速を実施することは考えにくい。
【0051】
そこで、特開2002−211377として本出願人が既に提案している「制駆動力制御装置」に示されるような方法によって、自車両のアンチスキッド制御手段(図1のアンチスキッド装置105)の路面摩擦係数検出手段がアンチスキッド制御中の車両状態により検出した路面摩擦係数(路面状態検出データ)からその他車両が走行する路面の状態を推定し、想定減速度の設定を実施する。
【0052】
路面状態の推定の結果、路面積雪により路面が滑りやすい場合には、想定する減速度を基準値よりも低い値に設定する。このように路面積雪の場合の想定減速度は、例えば基準値の0.2Gよりも低い0.08G程度とする(ステップS412)。
ステップS404で路面が乾燥状態であると判定されたときには、次いで、他車両の車両タイプを読込む(ステップS405)。ここに車両タイプとは、例えば、普通車と大型車との別のことである。各車両は自己の車両タイプを表すデータを保有しており、車車間通信を通して自己の車両タイプを表すデータが要求されるに応じて当該データの提供(自車両側でのそのデータの受信)が行われる。
【0053】
次いで、ステップS405で取得された他車両の車両タイプを表すデータに基づいて当該他車両が普通車以下のタイプのものであるか否かが識別される(ステップS406)。このステップS406での識別の結果、当該他車両が普通車を上回るタイプのもの(相対的に大きいタイプの車両)であると識別されたときには、相対的に想定減速度を低く(上述の基準値よりも小さな値に)設定する(ステップS412)。
【0054】
ステップS406で当該他車両が普通車以下のタイプのものであると識別されたときには、次のステップS407に移行する。このステップS407では、当該他車両の積載量のデータが読込まれる。各車両の積載量は夫々の車両が自己の載貨量を検出した値を表すデータを保有していて、車車間通信での要求に応じて要求先に当該データが提供されるようにシステムが構成されているため、この車車間通信を通して容易に取得可能である。
【0055】
次いで、ステップS407で取得され読込まれた積載量が所定値より軽い値であるか否かが識別される(ステップS408)。この積載量が所定値より軽い値であると識別されたときには、次のステップS409に移行する。一方、読込まれた積載量が所定値以上の相対的に重い値であると識別されたときには、相対的に想定減速度を低く(上述の基準値よりも小さな値に)設定する(ステップS412)。
【0056】
ステップS409では、他車両の運転者の運転特性および運転能力に係るデータを読込む。ここに運転者の運転特性および運転能力に係るデータとして、例えば、過去に当該車両が優先道路を走行中に非優先道路上の車両から譲歩依頼を受けた場合に当該車両のドライバが実施した減速行動に応じて想定される特性のデータ、或いはまた、ドライバの生涯運転距離の別によって表わした運転特性および運転能力のデータを適用することが考えられる。
【0057】
このようなデータは、例えば、夫々の車両がその運転者の運転特性に関するログデータを保有していて(営業車等におけるデータレコーダに準じた形態)、車車間通信でのデータ提供に係る要求に応答して提供可能なようにシステムを構築しておくことによって実現され、更にはまた、上述のようなログデータをもとにこれを分析、評価したデータを、所要に応じて車車間通信を通して授受可能なようにステムを構築しておくことによって実現され得る。
【0058】
次いで、ステップS409で読込まれたデータに基づいて、当該他車両の運転者の運転特性および運転能力が所定水準以上のものであるか否かが識別される(ステップS410)。
このステップS410で、当該他車両の運転者の運転特性および運転能力が所定水準以上のものであると識別されたときには、想定減速度の値を既述の基準値(0.2G)に設定して(ステップS411)、このサブルーチンの処理を終了する。
一方、ステップS410で、当該他車両の運転者の運転特性および運転能力が所定水準以上のものではないと識別されたときには、想定減速度を低く(上述の基準値よりも小さな値に)設定して(ステップS412)このサブルーチンの処理を終了する。
【0059】
以上のように、図3のステップS311の処理による路面環境に相応した他車両の想定減速度の設定値は、路面環境に応じて、例えば或る範囲の状況では基準値が選択され、他の状況では当該基準値よりも低い値が適応的に選択されるため、この想定減速度を適用して算定される当該他車両の停止距離SD2も或る範囲の状況では上述の基準値に対応した距離となり、他の状況では当該基準値よりも低い値に対応した相対的に長い距離として算定されることになる。
【0060】
換言すれば、本実施の形態は、図2を参照して説明した第2の条件に係る第2領域を、交差地点Cに達する以前の走行領域であって該当する他車両がその減速度から判断して所定の車速まで減速する(例えば交差地点Cでは車速零となる)ことが困難になり始める当初の位置をその領域の始端として算定するように構成し、ここでの第2領域の始端(P2)はその算定に適用する想定減速度に応じて、従って、路面環境に応じて、交差地点Cから上述の想定減速度の基準値に対応した距離だけ離隔した位置となり、或いはまた、当該基準値よりも低い値に対応した相対的に長い距離だけ離隔した位置となる。
従って、図2におけるメッセージ発信許容領域Ap(P1〜P2の領域)は、路面が下り傾斜であったり滑りやすい状態であったりしたときには、相対的に狭められることになる。
【0061】
次に、このメッセージを選択して発信するための構成例について図面を参照して説明する。図5は、車車間通信を通して送信するメッセージの選択と決定の操作を行うための機構部について説明するための図である。図5の機構部はカーナビゲーションシステムNVSの操作・表示部と兼用するようにして車両のインストルメントパネルに装備される。カーナビゲーションシステムNVSの操作スイッチボードSWBに配された適宜のモード選択スイッチの操作に応じて、表示画面MS上に送信の候補となる複数のメッセージがメッセージリストMLとして表示画面MSの中央部を避けた位置に共通の枠内に列記される如くして表示される。
【0062】
図示の例では、説明の便宜上、第1メッセージM1たる「ありがとう」、第2メッセージM2たる「入れてください」、第3メッセージM3たる「お先にどうぞ」の3種類のメッセージのみが表示されるように描かれているが、これより多くのメッセージを列記可能に構成してもよい。操作スイッチボードSWBの一隅にロータリ・プッシュ式のスイッチRPSが配され、このスイッチRPSの回転操作によって、メッセージリストML中の何れか一つのメッセージが選択的に枠線で特定されるように表示される。
【0063】
スイッチRPSの回転操作でメッセージの種別を選択し、次いで、スイッチRPSをその回転位置を固定させた状態で押し込むように決定操作すると、当該メッセージの選択が決定しそのメッセージに対応するメッセージコードが車車間通信を通して通信相手に発信される。受信側では、このようにして発信されたメッセージコードに対応するメッセージが認識されて、例えば、自車両における図5におけるものと同様の所定の表示画面に文字表示されることになる。
尚、上述の例では、メッセージの種別の選択と決定(発信)は回転およびプッシュ型のスイッチRPSによって行う構成であったが、これに替えて所謂ジョイスティック型のスイッチを適用可能なことは勿論である。
【0064】
図6は、本実施の形態の装置の表示画面におけるメッセージ発信時の表示の様子を表す図である。図6において、図2および図5との対応部については同一の参照符号を用いて示してある。尚、一つの図面で技術思想の要点を説明する便宜上、図における各表示対象の大きさや位置の相対関係は必ずしも現実におけるものとは一致していない。
【0065】
表示画面MSには、非優先道路210と優先道路260との交差点近傍の様子が示され、非優先道路210上に自車両210の位置が示され、優先道路260上に図2を参照して説明したメッセージ発信許容領域Apを走行中の他車両224の位置が示されている。尚、各車両を表すパターンの尖端側がそれらの車両の走行方向である。図5を参照して説明したところと同様に、メッセージリストMLには第1メッセージM1たる「ありがとう」、第2メッセージM2たる「入れてください」、第3メッセージM3たる「お先にどうぞ」の3種類のメッセージが表示されている。
【0066】
図6の状態において、図5中のロータリ・プッシュ式のスイッチRPSの回転位置を固定させた状態で押し込むように決定操作すると、第2メッセージM2たる「入れてください」の選択が決定し、そのメッセージに対応するメッセージコードが車車間通信を通して通信相手(該当する他車両)に発信される。
図7は、本実施の形態の装置の表示画面に当該他車両からの返答のメッセージが表示された様子を表す図である。図7において、図6との共通部には同一の参照符号を附して示し、それら各部自体の説明は省略するが、この図7では、車車間通信の相手方たる当該他車両からの返答のメッセージM2Rたる「>お先にどうぞ」という文字表示がなされている。
【0067】
図6および図7にその一例を示したように、図2等を参照して説明した非優先道路230上の自車両と、優先道路260上のメッセージ発信許容領域Apに位置しているものに限った他車両とが、カーナビゲーションシ装置の表示部を兼用した表示画面MS上で、文字等による表示を以って走行支援情報の授受を行うことができる。尚、カーナビゲーション装置に備えられた音声発音装置を利用する等して、音声によって擬似的な双方向の通話を行い得るようにシステムを構成してもよい。
【0068】
以上を総じて、上述の実施の形態では、図1の処理装置101、カーナビゲーション装置105、および、車車間通信装置103等によって現在時点での自車両および他車両の各位置を認識する現在位置認識手段が構成される。また、処理装置101によって所定時点で当該所定時点以降の前記自車両および他車両の各移動軌跡を予測する移動軌跡予測手段が構成される(図3のステップS304)。尚、上述のように定義したときの現在位置認識手段および移動軌跡予測手段から得たデータに基づいて予測を実行することをその予測演算の一方法として、各移動軌跡、即ち、自車両および他車両の進路が交差する交差地点(図2の交差地点C)の位置を予測する交差位置予測手段が、処理装置101によって構成されるものと観念することができる。
【0069】
更に、操作器112、処理装置101、および、車車間通信装置103の該当する機能部によって自車両から他車両に対して進路への侵入の可否を確認するための譲歩依頼メッセージを発信する譲歩依頼メッセージ発信手段が構成される。
現在位置認識手段および移動軌跡予測手段から得たデータに基づいて、当該予測による各移動軌跡の交差地点(図2の交差地点C)に達する以前の走行領域であって前記他車両が自車両の挙動を感知する必要がない程度に前記交差地点から離隔している第1領域(図2の第1領域A1)に位置している状態に相応する第1の条件(図3のステップS210)および当該予測による各移動軌跡の交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両がその進路への自車両の進入に対して十分に譲歩することが困難な程度に前記交差地点に接近した第2領域(図2の第2領域A2)に位置している状態に相応する第2の条件(図3のステップS313)を各算定し、譲歩依頼メッセージ発信手段からの情報依頼メッセージの発信を、他車両の位置が該算定された各条件に該当しない場合に限って許容する(図3のステップS314)譲歩依頼メッセージ発信規制手段も処理装置101を主体に構成されている。
【0070】
前記現在位置認識手段を、自車両に自己の現在時点での位置を検出するために装備された位置検出装置の出力データに基づいて前記自車両の位置を認識し、且つ、他車両に自己の現在時点での位置を検出するために装備された位置検出装置の出力を自車両および他車両間での車車間通信を通して取得したデータに基づいて他車両の位置を認識するように構成した例では、他車両側の位置認識機能を適切に活用して、自車両側の負担を軽くしつつ確度、精度、取得のタイミングの各面からみて的確なデータ取得が行われ得る。
【0071】
前記自車両の位置検出装置としてのカーナビゲーションシステムを利用して得たデータに基づいて自車両の位置を検出するように構成した例では、近年大多数の車両に搭載される趨勢にあるカーナビゲーションシステムの機能のうちの該当する一部分を利用(兼用)することができるため、譲歩依頼のメッセージの発信に規制をかけるための構成部分の大幅な簡素化を計ることができる。
【0072】
前記自車両の位置検出装置を、外部との通信としての車車間通信によって得たデータに基づいて自車両の位置を検出するように構成した例においても、他車両側の位置認識機能を適切に活用して、自車両側の負担を軽くしつつ確度、精度、取得のタイミングの各面からみて的確なデータ取得が行われ得る。
前記自車両の位置検出手段を、外部との通信としての路車間通信によって得たデータに基づいて自車両の位置を検出するように構成した例では、路側装置(インフラストラクチャ)に備えられた走行支援機能の一部を適切に活用して、自車両側の負担を軽くしつつ確度、精度、取得のタイミングの各面からみて的確なデータ取得が行われ得る。
【0073】
前記移動軌跡予測手段を、自車両に装備された位置検出装置から所定周期で毎回現在時点に対応して得られる自車両の位置を表す出力データに基づく演算によって自車両の移動軌跡を予測し、且つ、他車両に装備された位置検出装置から所定周期で毎回現在時点に対応して得られる他車両の位置を表す出力データを自車両および他車両間の車車間通信を通して取得したデータに基づく演算によって前記他車両の移動軌跡を予測するように構成した例でも、他車両側の位置認識機能を適切に活用して、自車両側の負担を軽くしつつ確度、精度、取得のタイミングの各面からみて的確なデータ取得が行われ得る。
【0074】
前記譲歩依頼メッセージ発信手段を、選択手段に対する当該操作者による候補選択操作に応じて複数の定型文によるメッセージのうちの一のメッセージを選択候補として切り換えて表示し、当該切り換えて表示されるメッセージのうちの一のメッセージを当該操作者による決定操作に応じて選択対象として決定するように構成した例では、一般的な操作者の直感に馴染み易い簡素な操作で所望のメッセージを選択可能である。この場合、候補選択操作および決定操作に各応動するスイッチ手段を備えた構成をとることは、種々の電子機器において一般的な形態であるため、使用の当初から操作者に違和感無く操作できる。
【0075】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段として、前記第2の条件に係る第2領域を、前記移動軌跡予測手段が予測した自車両および他車両の各移動軌跡の交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両がその減速度から判断して所定の車速まで減速することが困難になり始める当初の位置をその領域の始端として算定するように構成した例では、既にこのような第2領域A2内を走行しているときに、唐突に自己の進路への進入を打診する譲歩依頼メッセージが受信されて該受信をした他車両の運転者側で対応処置をとるに混乱を生じてしまうおそれが本質的に回避される。
【0076】
上述の場合において、前記他車両における当該減速度を所定の条件に応じて可変な値として前記第2領域の始端を算定するように構成したときには、種々の現実の状況によく適合した適切な値が算定され得る。上記における所定の条件として、路面の勾配や乾燥状態か湿潤乃至積雪状態か等の道路環境の別、大型車か普通車か或いはまた積載重量等の車両タイプの別、過去に当該車両が優先道路を走行中に非優先道路上の車両から譲歩依頼を受けた場合に当該車両のドライバが実施した減速行動に応じて想定される特性やドライバの生涯運転距離によって表わした運転特性および運転能力の別等に夫々応じて、前記算定の基礎とする当該他車両の減速度のデータを求めるように構成すれば、これら各別の状態量や運転技能水準等に一層良く適合した適切な値が算定され得る。
【0077】
以上においては、本発明を所謂物の発明としての視点から観念し、その発明に包摂される実施の形態の種々の構成とその作用効果について論及したが、他方、本出願においては、所謂方法の発明として、次の走行支援方法を提案している。
即ち、その発明方法のうちの一の方法は、自車両および他車両の進路が交差する交差地点の位置を所定の交差位置予測手段を用いて予測し、前記他車両の進路への前記自車両の進入の可否を確認するための譲歩依頼メッセージを所定の譲歩依頼メッセージ発信手段を用いて前記他車両に対して発信可能にしておき、所定の譲歩依頼メッセージ発信規制手段用いて、前記他車両が前記交差地点に到達する以前の走行領域であって前記他車両が自車両の挙動を感知する必要がない程度に前記交差地点から離隔している領域の前記交差地点寄りの第1地点から、前記交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両がその進路への自車両の進入に対して譲歩することが可能な領域の前記第1地点よりも交差地点寄りの第2地点に到達するまでの間に限り、前記譲歩依頼メッセージの発信を許容するように前記譲歩依頼メッセージの発信動作を規制することを特徴とする走行支援方法というものである。
【0078】
また、その発明方法のうちの他の方法は、異なる複数の時点での自車両および他車両の各位置を認識し、所定時点で当該所定時点以降の前記自車両および他車両の各移動軌跡を予測し、該予測した各移動軌跡の交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両が自車両の挙動を感知する必要がない程度に前記交差地点から離隔している第1領域に位置している状態に相応する第1の条件および当該予測による各移動軌跡の交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両がその進路への自車両の進入に対して十分に譲歩することが困難な程度に前記交差地点に接近した前記第1領域とは異なる第2領域に位置している状態に相応する第2の条件を各算定し、前記自車両から前記他車両に対して進路への侵入の可否を確認するための譲歩依頼メッセージの発信を前記他車両の位置が該算定された各条件に該当しない場合に限って許容することを特徴とする走行支援方法というものである。
上述の一の発明方法、および、他の発明方法は、その作用において、図面を参照して既述の実施の形態と軌を一にする。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施の形態としての走行支援装置の要部のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における作用の概要を説明するための図である。
【図3】図1中の処理装置における処理手順の一例を表すフローチャートである。
【図4】図3のフローチャートにおけるサブルーチンの処理内容を表すフローチャートである。
【図5】車車間通信を通して送信するメッセージの選択と決定の操作を行うための機構部について説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態の装置の表示画面におけるメッセージ発信時の表示の様子を表す図である。
【図7】本発明の実施の形態の装置の表示画面に当該他車両からの返答のメッセージが表示された様子を表す図である。
【符号の説明】
【0080】
100…走行支援装置(その要部) 101…処理装置 102…記憶装置 103…車車間通信装置 104…路車間通信装置 105…アンチスキッド装置 106…カーナビゲーション装置 107…表示器 108…外気温検出器 109…運転操作量感知装置 110…車両状態認識装置 111…ワイパー作動検出器 112…操作器 210…自車両 221,222,222224,225…他車両 230…非優先道路 260…優先道路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両および他車両の進路が交差する交差地点の位置を予測する交差位置予測手段と、前記他車両の進路への前記自車両の進入の可否を確認するための譲歩依頼メッセージを前記他車両に対して発信可能な譲歩依頼メッセージ発信手段と、この譲歩依頼メッセージ発信手段の動作を規制する譲歩依頼メッセージ発信規制手段と、を備え、
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記他車両が前記交差地点に到達する以前の走行領域であって前記他車両が自車両の挙動を感知する必要がない程度に前記交差地点から離隔している領域の前記交差地点寄りの第1地点から、前記交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両がその進路への自車両の進入に対して譲歩することが可能な領域の前記第1地点よりも交差地点寄りの第2地点に到達するまでの間に限り、前記譲歩依頼メッセージの発信を許容するようになっていることを特徴とする走行支援装置。
【請求項2】
現在時点での自車両および他車両の各位置を認識する現在位置認識手段と、所定時点で当該所定時点以降の前記自車両および他車両の各移動軌跡を予測する移動軌跡予測手段と、
前記自車両から前記他車両に対して進路への侵入の可否を確認するための譲歩依頼メッセージを発信する譲歩依頼メッセージ発信手段と、前記現在位置認識手段および移動軌跡予測手段から得たデータに基づいて、当該予測による各移動軌跡の交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両が自車両の挙動を感知する必要がない程度に前記交差地点から離隔している第1領域に位置している状態に相応する第1の条件および当該予測による各移動軌跡の交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両がその進路への自車両の進入に対して十分に譲歩することが困難な程度に前記交差地点に接近した前記第1領域とは異なる第2領域に位置している状態に相応する第2の条件を各算定し、前記譲歩依頼メッセージ発信手段からの情報依頼メッセージの発信を、前記他車両の位置が該算定された各条件に該当しない場合に限って許容する譲歩依頼メッセージ発信規制手段と、を備えたことを特徴とする走行支援装置。
【請求項3】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記第2の条件に係る第2領域を、前記移動軌跡予測手段が予測した自車両および他車両の各移動軌跡の交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両がその減速度から判断して所定の車速まで減速することが困難になり始める当初の位置をその領域の始端として算定するように構成したものであることを特徴とする請求項2に記載の走行支援装置。
【請求項4】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記他車両における当該減速度を所定の条件に応じて可変な値として前記第2領域の始端を算定するように構成したものであることを特徴とする請求項3に記載の走行支援装置。
【請求項5】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記他車両における当該減速度を前記所定の条件としての道路環境に応じて可変な値として前記第2領域の始端を算定するように構成したものであることを特徴とする請求項4に記載の走行支援装置。
【請求項6】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記他車両における当該減速度を前記所定の条件としての車両タイプに応じて可変な値として前記第2領域の始端を算定するように構成したものであることを特徴とする請求項4に記載の走行支援装置。
【請求項7】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記他車両における当該減速度を前記所定の条件としてのドライバの運転特性および運転能力に応じて可変な値として前記第2領域の始端を算定するように構成したものであることを特徴とする請求項4に記載の走行支援装置。
【請求項8】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記他車両における当該減速度を可変な値とするに依拠する前記道路環境として、路面の乾燥状態および湿潤乃至積雪状態の別によって表わした道路環境を適用し、路面が乾燥状態にあるときには減速度を相対的に高く設定し、路面が湿潤乃至積雪状態にあるときには減速度を相対的に低く設定するように構成したものであることを特徴とする請求項5に記載の走行支援装置。
【請求項9】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記他車両における当該減速度を可変な値とするに依拠する前記道路環境として、路面の勾配の別によって表わした道路環境を適用し、路面が上り勾配であるときには減速度を相対的に高く設定し、路面が下り勾配であるときには減速度を相対的に低く設定するように構成したものであることを特徴とする請求項5に記載の走行支援装置。
【請求項10】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記他車両における当該減速度を可変な値とするに依拠する前記車両タイプとして、普通車と大型車の別によって表わした車両タイプを適用し、前記他車両が普通車である場合には減速度を相対的に高く設定し、前記他車両が大型車である場合には減速度を相対的に低く設定するように構成したものであることを特徴とする請求項6に記載の走行支援装置。
【請求項11】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記他車両における当該減速度を可変な値とするに依拠する前記車両タイプとして、積載重量の別によって表わした車両タイプを適用し、前記他車両の積載重量が相対的に軽い場合には減速度を相対的に高く設定し、前記他車両の積載重量が相対的に重い場合には減速度を相対的に低く設定するように構成したものであることを特徴とする請求項6に記載の走行支援装置。
【請求項12】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記他車両における当該減速度を可変な値とするに依拠するドライバの運転特性および運転能力として、過去に当該車両が優先道路を走行中に非優先道路上の車両から譲歩依頼を受けた場合に当該車両のドライバが実施した減速行動に応じて想定される特性を適用して該特性に応じて可変な値として前記第2領域の始端を算定するように構成したものであることを特徴とする請求項7に記載の走行支援装置。
【請求項13】
前記譲歩依頼メッセージ発信規制手段は、前記他車両における当該減速度を可変な値とするに依拠するドライバの運転特性および運転能力として、ドライバの生涯運転距離によって表わした運転特性および運転能力を適用し、生涯運転距離が所定の距離を越える場合には減速度を相対的に高く設定し生涯運転距離が所定の距離を下回る場合には減速度を相対的に低く設定するように構成したものであることを特徴とする請求項7に記載の走行支援装置。
【請求項14】
自車両および他車両の進路が交差する交差地点の位置を所定の交差位置予測手段を用いて予測し、前記他車両の進路への前記自車両の進入の可否を確認するための譲歩依頼メッセージを所定の譲歩依頼メッセージ発信手段を用いて前記他車両に対して発信可能にしておき、所定の譲歩依頼メッセージ発信規制手段用いて、前記他車両が前記交差地点に到達する以前の走行領域であって前記他車両が自車両の挙動を感知する必要がない程度に前記交差地点から離隔している領域の前記交差地点寄りの第1地点から、前記交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両がその進路への自車両の進入に対して譲歩することが可能な領域の前記第1地点よりも交差地点寄りの第2地点に到達するまでの間に限り、前記譲歩依頼メッセージの発信を許容するように前記譲歩依頼メッセージの発信動作を規制することを特徴とする走行支援方法。
【請求項15】
異なる複数の時点での自車両および他車両の各位置を認識し、所定時点で当該所定時点以降の前記自車両および他車両の各移動軌跡を予測し、該予測した各移動軌跡の交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両が自車両の挙動を感知する必要がない程度に前記交差地点から離隔している第1領域に位置している状態に相応する第1の条件および当該予測による各移動軌跡の交差地点に達する以前の走行領域であって前記他車両がその進路への自車両の進入に対して十分に譲歩することが困難な程度に前記交差地点に接近した前記第1領域とは異なる第2領域に位置している状態に相応する第2の条件を各算定し、前記自車両から前記他車両に対して進路への侵入の可否を確認するための譲歩依頼メッセージの発信を前記他車両の位置が該算定された各条件に該当しない場合に限って許容することを特徴とする走行支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−26017(P2007−26017A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206323(P2005−206323)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】