説明

走行装置、その制御方法及び制御プログラム

【課題】走行装置の安定性を向上させること。
【解決手段】走行装置は、車両の重心位置を検出する重心位置検出手段と、車両のホイールベースLを伸縮させる伸縮手段と、重心位置検出手段により検出された車両の重心位置に基づいて、伸縮手段によるホイールベースLの伸縮を制御する制御手段と、を備えている。制御手段は、伸縮手段を制御して、搭乗者の前後方向又は左右方向の姿勢を変化させずに、ホイールベースLを伸縮させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搭乗者を乗せて安定的に走行できる走行装置、その制御方法及び制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、高速走行時の安定性を目的として、車輪を前後に移動させたときのホイールベースの変化と車両用シートの傾斜との連動機構を備えた走行装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−231415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記走行装置においては、例えば、搭乗者が背凭れ部にもたれ掛かりその姿勢が大きく変化した場合や、大きな外力が作用した場合など、車両の重心位置が前後方向へ大きく変化した場合に、走行装置の安定性が大きく損なわれる虞がある。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、安定性を向上させた走行装置、その制御方法及び制御プログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、車両の重心位置を検出する重心位置検出手段と、前記車両のホイールベースを伸縮させる伸縮手段と、前記重心位置検出手段により検出された前記車両の重心位置に基づいて、前記伸縮手段による前記ホイールベースの伸縮を制御する制御手段と、を備える、ことを特徴とする走行装置である。これにより、走行装置の安定性を向上させることができる。
【0007】
この一態様において、前記制御手段は、前記伸縮手段を制御して、搭乗者の前後方向の姿勢を変化させずに、前記ホイールベースを伸縮させてもよい。これにより、搭乗者の前後方向の着座姿勢が安定するため、走行装置の安定性をより向上させることができる。
【0008】
この一態様において、前記制御手段は、前記伸縮手段を制御して、搭乗者の左右方向の姿勢を変化させずに、前記ホイールベースを伸縮させてもよい。これにより、搭乗者の左右方向の着座姿勢が安定するため、走行装置の安定性をより向上させることができる。
【0009】
この一態様において、前記伸縮手段は、車両本体にその一端が連結され、他端が前記車輪に連結され、略前後方向へ揺動かつ略上下方向へ伸縮可能な伸縮機構を有しており、前記制御手段は、前記伸縮機構の揺動及び伸縮を制御することで、前記車両本体に設けられ搭乗者が着座する着座部の前後方向の水平状態を維持して、前記車輪を前記車両本体に対して前方又は後方へ相対移動させてもよい。これにより、搭乗者の前後方向の着座姿勢を安定させつつ、ホイールベースの伸縮を制御することができる。
【0010】
この一態様において、車両本体に設けられ搭乗者が着座する着座部は、左右に分割された分割座部と、該分割された各分割座部を上下方向へ相対移動させる移動機構と、を有し、前記制御手段は、前記移動機構を制御して、前記各分割座部の左右方向の水平状態を維持するように、前記各分割座部の相対移動を制御してもよい。これにより、搭乗者の左右方向の着座姿勢を安定させつつ、ホイールベースの伸縮を制御することができる。
【0011】
この一態様において、車両本体に設けられ搭乗者が着座する着座部は、前後に分割された分割座部と、該分割された各分割座部を上下方向へ相対移動させる移動機構と、を有し、前記制御手段は、前記移動機構を制御して、前記各分割座部の前後方向の水平状態を維持するように、前記各分割座部の相対移動を制御してもよい。これにより、搭乗者の前後方向の着座姿勢を安定させつつ、ホイールベースの伸縮を制御することができる。
【0012】
この一態様において、車両本体に設けられ搭乗者が着座する着座部は、該着座部を左右方向又は前後方向へ傾斜させる傾斜機構を有し、前記制御手段は、前記傾斜機構を制御して、前記着座部の水平状態を維持するように、前記着座部の傾斜を制御してもよい。これにより、搭乗者の左右方向又は前後方向の着座姿勢を安定させつつ、ホイールベースの伸縮を制御することができる。
【0013】
この一態様において、車両本体に設けられ搭乗者の腕を乗せる一対のアームレスト部と、前記各アームレスト部を移動させる移動機構と、を更に備え、前記制御手段は、前記移動機構を制御して、前記各アームレスト部の前後方向又は左右方向の水平状態を維持するように、前記各アームレスト部の移動を制御してもよい。これにより、搭乗者の腕を安定的に支持できるため、搭乗者の着座姿勢をより安定させることができる。
【0014】
この一態様において、搭乗者の着座及び立上がり動作を検出する検出手段と、搭乗者が着座する着座部を上下方向へ移動させる移動機構と、を更に備え、前記制御手段は、前記検出手段により検出された前記搭乗者の着座及び立上がり動作に基づいて、前記移動機構を用いて、前記着座部を上下方向へ移動させてもよい。これにより、搭乗者は、着座及び立上がり動作を楽に行うことができる。
【0015】
この一態様において、前記制御手段は、前記重心位置検出手段により検出された前記車両の重心位置が前記ホイールベース内の所定範囲以内に入るように、前記ホイールベースの伸縮を制御してもよい。これにより、車両の重心位置がホイールベース内の安定する位置となるため、走行装置の安定性を向上させることができる。
【0016】
この一態様において、前記重心位置検出手段は、前記重心位置を前記車輪から該重心位置までの重心距離として算出し、前記制御手段は、前記重心位置検出手段により算出された前記重心距離が所定距離以下となったと判断したとき、前記重心距離が前記所定距離より大きくなるように、前記ホイールベースの伸縮を制御してもよい。これにより、重心位置が車輪に接近し、不安定となったときに、ホイールベースの伸縮を制御して走行装置を安定させることができる。
【0017】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、車両の重心位置を検出し、前記検出された前記車両の重心位置に基づいて、前記車両のホイールベースの伸縮を制御する、ことを特徴とする走行装置の制御方法であってもよい。
【0018】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、車両の重心位置を検出する処理と、前記検出された前記車両の重心位置に基づいて、前記車両のホイールベースの伸縮を制御する処理と、をコンピュータに実行させる、ことを特徴とする走行装置の制御プログラムであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、安定性を向上させた走行装置、その制御方法及び制御プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る走行装置の概略的な構成を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る走行装置の概略的なシステム構成を示すブロック図である。
【図3】車両の重心位置の算出方法を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る制御装置による制御処理フローの一例を示すフローチャートである。
【図5】(a)制御装置の重心位置検出部により算出された重心位置を示す模式図である。(b)制御装置の重心位置検出部により算出された重心位置を示す模式図である。(c)制御装置の重心位置検出部により算出された重心位置を示す模式図である。
【図6】制御装置の機構制御部による制御を示すブロック線図である。
【図7】(a)本発明の実施の形態2に係る走行装置を正面から見た概略的な正面図である。(b)図7(a)に示す走行装置を上方から見た概略的な上面図である。(c)図7(a)に示す走行装置を側方から見た概略的な側面図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る走行装置の概略的なシステム構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る走行装置の一変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る走行装置の概略的な構成を示す側面図である。図2は、本発明の実施の形態1に係る走行装置の概略的なシステム構成を示すブロック図である。本実施の形態1に係る走行装置10は、搭乗者が搭乗する車両本体1と、車両本体1の前方に回転可能に連結された左右一対の前輪2と、車両本体1の後方に回転可能に連結された左右一対の後輪3と、を備えている。
【0022】
車両本体1は、搭乗者が着座する着座部11と、着座部11の一端に立設され、搭乗者が寄り掛かることができる背凭れ部12と、背凭れ部12の略中央かつ両側に設けられた一対のアームレスト部13と、を有している。
【0023】
各前輪2は、一対のサスペンション部4を介して車両本体1の着座部11の前方に夫々連結され、各後輪3は、一対の伸縮機構5を介して車両本体1の着座部11の後方に夫々連結されている。各伸縮機構5は、その一端が着座部11の後部に前後方向へ揺動可能に連結され、その他端が後輪3に連結されている。
【0024】
各伸縮機構5は、例えば、サーボモータ等の第1アクチュエータ51を用いて、略前後方向へ揺動することができる。また、各伸縮機構5は、例えば、ピストン及びシリンダー構造となっており、サーボモータ等の第2アクチュエータ52を用いて、シリンダー内圧力を変化させ、略上下方向へ伸縮することができる。各伸縮機構5は、上述のように揺動及び伸縮することで、各後輪3を車両本体1に対して前後方向へ相対移動させ、走行装置10のホイールベースLを伸縮することができる。なお、上記伸縮機構5の構成は一例であり、これに限らず、例えば、カム機構等を用いて伸縮させてもよく、ホイールベースLを適切に伸縮できれば任意の構成が適用可能である。
【0025】
また、後輪3のみが伸縮機構5を介して車両本体1に連結されているが、これに限らず、前輪2のみ或いは前輪2及び後輪3が夫々伸縮機構を介して車両本体1に連結されていてもよい。例えば、前輪2のみが伸縮機構を介して車両本体1に連結されている場合、各伸縮機構は、上述のように揺動及び伸縮することで、前輪2を車両本体1に対して前後方向へ相対移動させ、車両のホイールベースLを伸縮することができる。
【0026】
各前輪2には、各前輪2を独立して駆動できる一対の車輪駆動ユニット6が夫々連結されている。各車輪駆動ユニット6は、例えば、車輪駆動モータと、その車輪駆動モータの回転軸に動力伝達可能に連結された減速ギアと、によって構成することができる。なお、各後輪3に各車輪駆動ユニット6が夫々連結され、各後輪3が駆動される構成であってもよく、各前輪2及び各後輪3を各車輪駆動ユニット6により夫々駆動する構成であってもよい。
【0027】
車両本体1には、伸縮機構5の第1及び第2アクチュエータ51、52や各車輪駆動ユニット6の駆動を制御する制御装置7が設けられている。制御装置7は、走行装置10の重心位置を検出する重心位置検出部71と、伸縮機構5の第1及び第2アクチュエータ51、52の駆動を制御する機構制御部72と、各車輪駆動ユニット6の駆動を制御する車輪駆動制御部73と、を有している。
【0028】
なお、制御装置7は、例えば、制御処理、演算処理等と行うCPU(Central Processing Unit)、CPUによって実行される制御プログラム、演算プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)、処理データ等を記憶するRAM(Random Access Memory)等からなるマイクロコンピュータを中心にして、ハードウェア構成されている。
【0029】
重心位置検出部71は、重心位置検出手段の一具体例であり、前輪2及び後輪3の接地力F、Fに基づいて、走行装置10の重心位置Gを、重心距離dとして算出する(図3)。
【0030】
前輪2又はサスペンション部4には、前輪2の接地力F(以下、前輪接地力F)を検出するための荷重センサ8が設けられており、荷重センサ8は検出した前輪接地力Fを重心位置検出部71に対して出力する。同様に、後輪3又は伸縮機構5には、後輪3の接地力F(以下、後輪接地力F)を検出するための荷重センサ8が設けられており、荷重センサ8は検出した後輪接地力Fを重心位置検出部71に対して出力する。また、重心位置Gを示す重心距離dは、例えば、後輪3の中心から重心位置Gまでの距離とし、前方向を正としているが、これに限らず、例えば、前輪2の中心から重心位置Gまでの距離とし、後方向を正としてもよい。
【0031】
重心位置検出部71は、荷重センサ8から出力された前輪接地力F及び後輪接地力Fに基づき、下記(1)式を用いて、重心距離dを算出する。下記(1)式において、Lは走行装置10のホイールベースであり、L=L+x(Lは初期設定時のホイールベースであり、xは後輪3の移動量である。)を用いて算出する。移動量xは、例えば、伸縮機構5の揺動角度及び伸縮量に基づいて幾何学的に算出することができる。
d=L/(1+F/F) (1)式
【0032】
なお、後輪接地力Fのみが検出される場合、重心位置検出部71は、荷重センサ8から出力された後輪接地力Fに基づき、下記(2)式を用いて、重心距離dを算出してもよい。下記(2)式において、Mは走行装置10の質量であり、gは重力加速度である。
d=L(1−F/Mg) (2)式
【0033】
また、前輪接地力F及び後輪接地力Fと夫々の上下変位Δy、Δyが略比例している場合、重心位置検出部71は、下記(3)式を用いて重心距離dを算出してもよい。なお、下記(3)式において、K及びKはバネ乗数である。
=KΔy、F=KΔy
d=L(1/(1+KΔy/KΔy)) (3)式
【0034】
さらに、走行装置10がバランスを崩し、主に後輪3が上下方向へ変位した場合、走行装置10のピッチ方向の回転角度Lθを、Lθ≒Δy=F/Kとして近似的に求めることができる。重心位置検出部71は、上記近似式を上記(2)式に代入して求めた下記(4)式を用いて、重心距離dを算出してもよい。上記走行装置10のピッチ方向の回転角度Lθは、走行装置10のジャイロセンサなどの姿勢センサ9を用いて検出することができる。
d=L(1−KLθ/Mg) (4)式
【0035】
なお、上記重心位置Gの算出方法は一例であり、重心位置検出部71は、任意の算出方法を用いて重心位置Gを算出することができる。重心位置検出部71は、算出した重心位置Gを機構制御部72に対して出力する。
【0036】
機構制御部72は、制御手段の一具体例であり、重心位置検出部71から出力された重心位置Gに基づいて、伸縮機構5の第1アクチュエータ51による略前後方向の揺動及び第2アクチュエータ52による略上下方向の伸縮を制御することで、ホイールベースLの伸縮を制御する。
【0037】
例えば、機構制御部72は、重心位置検出部71から出力された重心位置GがホイールベースL内の所定範囲(走行装置10が安定する範囲)内から外れたと判断したとき、重心位置Gが所定範囲内に入るように、第1アクチュエータ51により伸縮機構5を略前後方向に揺動させ及び第2アクチュエータ52により伸縮機構5を伸縮させることで、ホイールベースLを伸縮させる。これにより、車両の重心位置GがホイールベースL内の安定する位置となるため、走行装置10の安定性を向上させることができる。
【0038】
このとき、機構制御部72は、搭乗者の前後方向の姿勢を変化させずに、ホイールベースLの伸縮を制御するのが好ましい。より具体的には、機構制御部72は、着座部11の前後方向の水平状態を維持するように、第1アクチュエータ51を制御して伸縮機構5を略前後方向へ揺動させ、及び第2アクチュエータ52を制御して伸縮機構5を伸縮させ、ホイールベースLの伸縮を制御する。これにより、搭乗者の着座姿勢がより安定するため、走行装置10の安定性をより向上させることができる。
【0039】
車輪駆動制御部73は、搭乗者の走行操作に応じて、各車輪駆動ユニット6を制御することで、各前輪2の回転駆動を制御する。これにより、走行装置10は、例えば、前後進、左右旋回、加減速、停止などの所望の走行を行うことができる。
【0040】
図4は、本実施の形態1に係る制御装置による制御処理フローの一例を示すフローチャートである。
【0041】
まず、制御装置7の重心位置検出部71は、荷重センサ8から出力された前輪接地力F及び後輪接地力Fに基づいて、図5(a)に示すように、重心位置Gを重心距離d(d>d)として算出し(ステップS101)、算出した重心距離dを機構制御部72に対して出力する。
【0042】
機構制御部72は、重心位置検出部71から出力された重心距離dが所定距離d以下となり、重心位置Gが所定範囲内から外れたか否かを判断する(ステップS102)。ここで、上記所定距離dは、例えば、重心位置Gが前輪2又は後輪3近傍となり、走行装置10が不安定となる距離であり、予め上記RAM等に設定されている。また、上記所定距離dは、入力装置等を介して任意に設定変更できるように構成されていてもよい。
【0043】
例えば、搭乗者が大きく動作し、あるいは、走行装置10に外力が付加されると、機構制御部72は、図5(b)に示すように、重心位置検出部71から出力された重心距離dが所定距離d以下(d≦d)となり(重心位置Gが後輪3に近付き)、重心位置Gが所定範囲内から外れたと判断すると(ステップS102のYES)、第1アクチュエータ51を制御して伸縮機構5を略後方向へ揺動させ(ステップS103)、及び第2アクチュエータ52を制御して伸縮機構5を伸長させる(ステップS104)。これにより、図5(c)に示すように、例えば、ホイールベースLがxだけ伸長し(ステップS105)、走行装置10の重心位置Gは、ホイールベースL内の安定した位置となり、走行装置10の走行安定性が向上する。さらに、着座部11の水平状態で維持されるため、搭乗者の着座姿勢も安定する。
【0044】
ここで、機構制御部72は、例えば、走行装置10が最も安定する制御目標値を算出し、算出した制御目標値と重心位置検出部71から出力された重心位置dとの偏差Δが0となるように、フィードバック制御を行う。
【0045】
例えば、図6に示すように、機構制御部72の制御目標値算出部721は、前輪2と後輪3との中心位置Oを制御目標値として算出し、算出した中心位置Oを偏差算出部722に対して出力する。偏差算出部722は、制御目標値算出部721からの中心位置Oと、重心位置検出部71からの重心位置dとの偏差Δを算出し、算出した偏差Δを指令値生成部723に対して出力する。指令値生成部723は、偏差算出部722により算出された偏差Δが0となるようなトルク指令値を生成し、生成したトルク指令値を第1及び第2アクチュエータ51、52に対して出力する。
【0046】
なお、機構制御部72は、前輪2と後輪3との中心位置Oを制御目標値としているが、これに限らず、例えば、前輪2と後輪3との間を4:3で分割した位置を制御目標値としてもよく、走行装置10が安定する位置であれば任意の位置を制御目標値としてもよい。また、機構制御部72は、上記のようにフィードバック制御を行っているが、これに限らず、例えば、フィードフォワード制御、ロバスト制御などの周知の制御を行っても良い。
【0047】
さらに、機構制御部72は、重心位置Gが所定範囲内から外れたと判断したときに、制御目標値に重心位置Gを追従させるための上記ホイールベースLの伸縮制御を行っているが、これに限らず、常時、制御目標値に重心位置Gを追従させる上記ホイールベースLの伸縮制御を行ってもよい。
【0048】
以上、本実施の形態1に係る走行装置10において、制御装置7の機構制御部72は、重心位置検出部71から出力された重心位置GがホイールベースL内の所定範囲内から外れたと判断したときに、重心位置Gが所定範囲内に入るように、第1及び第2アクチュエータ51を制御して、ホイールベースLの伸縮を制御する。
【0049】
これにより、走行装置10の重心位置Gは、ホイールベースL内の安定した位置に維持されるため、走行装置10の安定性を向上させることができる。例えば、地面投影面積が小さくコンパクトかつ小回り性の優れるホイールベースLが短い車両の安定性を、大幅に向上させることができる。さらに、機構制御部72は、搭乗者の着座姿勢を変化させずに、ホイールベースLの伸縮を制御する。これにより、搭乗者の着座姿勢が安定するため、走行装置10の安定性をより向上させることができる。
【0050】
実施の形態2.
図7(a)は、本発明の実施の形態2に係る走行装置を正面から見た概略的な正面図であり、図7(b)は図7(a)に示す走行装置を上方から見た概略的な上面図であり、図7(c)は、図7(a)に示す走行装置を側方から見た概略的な側面図である。図8は、本実施の形態2に係る走行装置の概略的なシステム構成を示すブロック図である。
【0051】
本実施の形態2に係る走行装置20は、左右一対に分割された分割座部21a、21bを有する着座部21と、分割された各分割座部21a、21bを上下方向へ相対移動させる移動機構22と、を有する点で、上記実施の形態1に係る走行装置10と構成が相違する。制御装置7の機構制御部72は、移動機構22の第3アクチュエータ23を制御して、各分割座部21a、21bの左右方向の水平状態を維持するように、各分割座部21a、21bの相対移動を制御する。
【0052】
例えば、機構制御部72は、姿勢センサ9により検出されたロール角度に基づいて、走行装置20が左側に傾斜していると判断した場合、左側の分割座部21aと右側の分割座部21bとで形成される座面が略水平状態となるように、移動機構22の第3アクチュエータ23を制御して、左側の分割座部21aを右側の分割座部21bに対して上方へ相対移動させる。これにより、走行装置20が左右方向へ傾斜した場合でも、搭乗者の左右方向の着座姿勢は変化しないため、その着座姿勢は安定し、走行装置20の安定性を向上させることができる。
【0053】
なお、機構制御部72は、上記各分割部座21a、21bの上下方向の移動と連動して、前後方向又は左右方向に水平状態を維持するように、各アームレスト部13a、13bの移動を制御してもよい。例えば、車両本体1の背凭れ部12には、各アームレスト部13a、13bを上下方向へ揺動させる移動機構24が設けられており、機構制御部72は、この移動機構24の第4アクチュエータ25を制御して、各アームレスト部13a、13bの上下方向への揺動を制御する。
【0054】
例えば、機構制御部72は、姿勢センサ9により検出されたロール角度に基づいて、走行装置20が右側に傾斜していると判断した場合、座面が略水平状態となるように、移動機構22の第3アクチュエータ23を制御して右側の分割座部21bを左側の分割座部21aに対して上方へ相対移動させると共に、一対のアームレスト部13a、13bが略水平状態となるように、移動機構24の第4アクチュエータ25を制御して右側のアームレスト部13bを上方へ揺動させる。
【0055】
これにより、走行装置20が左右方向へ傾斜した場合でも、搭乗者の左右方向の姿勢が変化しないため、その着座姿勢は安定し、さらに、各アームレスト部13a、13bも略水平状態に維持されるため、搭乗者の腕部を安定的に支持することがきる。従って、搭乗者の着座姿勢はより安定し、走行装置20の安定性をより向上させることができる。
【0056】
なお、機構制御部72は、独立して、一対のアームレスト部13a、13bが略水平状態となるように、移動機構24の第4アクチュエータ25を制御して各アームレスト部13a、13bを上下方向へ揺動させてもよい。また、移動機構24は各アームレスト部13a、13bを上下方向へ揺動させる構成であるが、これに限らず、上下方向へスライドさせる構成であってもよく、各アームレスト部13a、13bを上下方向へ移動させて、水平状態を維持できれば任意の構成が適用可能である。
【0057】
上記実施の形態2において、着座部21は、左右一対に分割された分割座部21a、21bを有する構成であるが、これに限らず、着座部は、左右へ3分割以上された分割座部を有する構成であってもよい。
【0058】
さらに、着座部は、前後一対或いは3分割以上に分割された分割座部を有する構成であってもよい。この場合、制御装置7の機構制御部72は、姿勢センサ9により検出されたピッチ角度に基づいて、移動機構のアクチュエータを制御して、各分割座部の前後方向の水平状態を維持するように、各分割座部の相対移動を夫々制御する。
【0059】
上記実施の形態2において、着座部21の左右側の分割座部21a、21bは一体で構成され、機構制御部72は傾斜機構のアクチュエータを制御して着座部21をロール方向へ回転させることで、着座部21の水平状態を維持してもよい(図9)。同様に、着座部21の前後側の分割座部は一体で構成され、機構制御部72は傾斜機構のアクチュエータを制御して着座部21をピッチ方向へ回転させることで、着座部21の水平状態を維持してもよい。
【0060】
上記実施の形態2において、搭乗者が着座する際及び立上がり際に、着座部21を上下方向へ移動させることで、その搭乗者の着座及び立上がり動作を補助してもよい。
【0061】
例えば、機構制御部72は、着座部21に設けられた荷重センサ8により検出された荷重値に基づいて、搭乗者の着座動作を検出すると、着座部21の移動機構22を用いて、着座部21を下方へ移動させる。これにより、搭乗者は着座部21に楽に着座することができる。一方、機構制御部72は、荷重センサ8により検出された荷重値に基づいて、搭乗者の立上がり動作を検出すると、移動機構22を用いて、着座部21を上方へ移動させる。これにより、搭乗者は着座部21から楽に立ち上がることができる。
【0062】
なお、機構制御部72は、着座部21に設けられた荷重センサ8を用いて、搭乗者の着座及び立上がり動作を検出しているが、これに限らず、着座及び立上がり動作のトリガーとなるスイッチ操作などに基づいて、搭乗者の着座及び立上がり動作を検出してもよい。
【0063】
本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上記実施の形態1及び2の構成を任意に組み合わせることも可能である。
【0064】
上述の実施の形態では、本発明をハードウェアの構成として説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、上述した処理を、上記CPUにコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。例えば、上述の重心位置検出部71及び機構制御部72の処理は、プログラムにより実現することも可能である。
【0065】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM)を含む。
【0066】
プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【符号の説明】
【0067】
1 車両本体
2 前輪
3 後輪
5 伸縮機構
6 車輪駆動ユニット
7 制御装置
8 荷重センサ
10 走行装置
11 着座部
12 背凭れ部
13 アームレスト部
71 重心位置検出部
72 機構制御部
73 車輪駆動制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の重心位置を検出する重心位置検出手段と、
前記車両のホイールベースを伸縮させる伸縮手段と、
前記重心位置検出手段により検出された前記車両の重心位置に基づいて、前記伸縮手段による前記ホイールベースの伸縮を制御する制御手段と、を備える、ことを特徴とする走行装置。
【請求項2】
請求項1記載の走行装置であって、
前記制御手段は、前記伸縮手段を制御して、搭乗者の前後方向の姿勢を変化させずに、前記ホイールベースを伸縮させる、ことを特徴とする走行装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の走行装置であって、
前記制御手段は、前記伸縮手段を制御して、搭乗者の左右方向の姿勢を変化させずに、前記ホイールベースを伸縮させる、ことを特徴とする走行装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか1項記載の走行装置であって、
前記伸縮手段は、車両本体にその一端が連結され、他端が前記車輪に連結され、略前後方向へ揺動かつ略上下方向へ伸縮可能な伸縮機構を有しており、
前記制御手段は、前記伸縮機構の揺動及び伸縮を制御することで、前記車両本体に設けられ搭乗者が着座する着座部の前後方向の水平状態を維持して、前記車輪を前記車両本体に対して前方又は後方へ相対移動させる、ことを特徴とする走行装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちいずれか1項記載の走行装置であって、
車両本体に設けられ搭乗者が着座する着座部は、左右に分割された分割座部と、該分割された各分割座部を上下方向へ相対移動させる移動機構と、を有し、
前記制御手段は、前記移動機構を制御して、前記各分割座部の左右方向の水平状態を維持するように、前記各分割座部の相対移動を制御する、ことを特徴とする走行装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のうちずれか1項記載の走行装置であって、
車両本体に設けられ搭乗者が着座する着座部は、前後に分割された分割座部と、該分割された各分割座部を上下方向へ相対移動させる移動機構と、を有し、
前記制御手段は、前記移動機構を制御して、前記各分割座部の前後方向の水平状態を維持するように、前記各分割座部の相対移動を制御する、ことを特徴とする走行装置。
【請求項7】
請求項1乃至4のうちいずれか1項記載の走行装置であって、
車両本体に設けられ搭乗者が着座する着座部は、該着座部を左右方向又は前後方向へ傾斜させる傾斜機構を有し、
前記制御手段は、前記傾斜機構を制御して、前記着座部の水平状態を維持するように、前記着座部の傾斜を制御する、ことを特徴とする走行装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちいずれか1項記載の走行装置であって、
車両本体に設けられ搭乗者の腕を乗せる一対のアームレスト部と、
前記各アームレスト部を移動させる移動機構と、を更に備え、
前記制御手段は、前記移動機構を制御して、前記各アームレスト部の前後方向又は左右方向の水平状態を維持するように、前記各アームレスト部の移動を制御する、ことを特徴とする走行装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちいずれか1項記載の走行装置であって、
搭乗者の着座及び立上がり動作を検出する検出手段と、
搭乗者が着座する着座部を上下方向へ移動させる移動機構と、を更に備え、
前記制御手段は、前記検出手段により検出された前記搭乗者の着座及び立上がり動作に基づき、前記移動機構を制御して、前記着座部を上下方向へ移動させる、ことを特徴とする走行装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のうちいずれか1項記載の走行装置であって、
前記制御手段は、前記重心位置検出手段により検出された前記車両の重心位置が前記ホイールベース内の所定範囲以内に入るように、前記ホイールベースの伸縮を制御する、ことを特徴とする走行装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のうちいずれか1項記載の走行装置であって、
前記重心位置検出手段は、前記重心位置を前記車輪から該重心位置までの重心距離として算出し、
前記制御手段は、前記重心位置検出手段により算出された前記重心距離が所定距離以下となったと判断したとき、前記重心距離が前記所定距離より大きくなるように、前記ホイールベースの伸縮を制御する、ことを特徴とする走行装置。
【請求項12】
車両の重心位置を検出し、
前記検出された前記車両の重心位置に基づいて、前記車両のホイールベースの伸縮を制御する、ことを特徴とする走行装置の制御方法。
【請求項13】
車両の重心位置を検出する処理と、
前記検出された前記車両の重心位置に基づいて、前記車両のホイールベースの伸縮を制御する処理と、
をコンピュータに実行させる、ことを特徴とする走行装置の制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−46086(P2012−46086A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190454(P2010−190454)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】