説明

超伝導体放射線センサーシステム

【課題】いわゆる光からγ線までの波長領域の光子及び荷電粒子などの広い意味での放射線に対して、エネルギー高分解能でかつ撮像を可能とする高感度の放射線センサーシステムを提供することを課題とする。
【解決手段】X線などの放射線を単結晶基板に吸収させ、あるいは放射線が光である場合には基板の表面に設けた光吸収体に吸収させ、放射線のエネルギーを熱非平衡フォノンに変換し、それらのフォノンを複数の超伝導直列接合に吸収させて信号を発生させる。各信号の大きさあるいは信号の時間差を利用して放射線の入射位置を測定出来る。また、その位置分解能を利用して信号の大きさの入射位置依存性を補正して放射線のエネルギーあるいはパワーを高精度に測定することも可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線やγ線などのいわゆる放射線および赤外光から紫外光のいわゆる光などの光子を撮像可能な放射線センサーシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光子および放射線用の撮像センサーとしては半導体のCCDが広く用いられており、2次元の位置分解能も1000チャンネル×1000チャンネルすなわち100万画素を大きく上回るものも市場に出回っている。デジタルカメラなどではカラーのイメージの撮影が可能であるが、それは波長フイルターなどを利用しているためであり、個々の画素素子が光子のエネルギーあるいは波長を測定できているわけではない。X線用の半導体CCDでは従来の半導体X線検出器を上回るエネルギー分解能が得られているが、軽元素からの特性X線あるいはいわゆる光の光子のエネルギー測定は困難であり、また特性X線を利用した多元素同時測定での元素分離能も低いという問題がある。
【0003】
超伝導体を用いた放射線センサーとして超伝導トンネル接合検出器(超伝導単接合検出器)が提案され(非特許文献1参照)、近年、半導体検出器をはるかに上回るエネルギー分解能が実現されている(非特許文献2参照)。しかしながら、1つの超伝導単接合検出器で光子を直接吸収させてそのエネルギーを測定する単接合検出器では、面積が数100μm×数100μm程度と小さいために検出効率が低く、また厚さも数百nmと薄いためにエネルギーが数keV以上の光子に対しては吸収効率が10%以下と低い。1つのチップ上に超伝導単接合検出器素子を複数設け、それぞれの素子からの信号を測定すれば、検出効率は素子数に比例して向上する。どの素子から信号が発生したかで放射線の入射位置も測定できる。しかしながら、全ての画素からの信号を1つの増幅器で処理できるCCDと異なり、超伝導トンネル接合の場合、素子特性にばらつきがあるそれぞれの素子からの信号を別々に処理しなければならないため、100チャンネル以上の多素子化は困難である。その上、この方法では吸収効率を向上させることはできないという問題もある。
【0004】
X線や荷電粒子のエネルギーを基板で吸収させて非平衡フォノンに変換し、非平衡フォノンを基板表面上に設けた直列に接続した多数の超伝導トンネル接合からなる1つの直列接合で吸収させて信号を発生させる超伝導直列接合検出器では、高検出効率かつ高吸収効率のエネルギー超高分解能光子検出器を実現できる(特許文献1)。また、1つの超伝導直列接合検出器に複数の直列接合を用いることによって、2次元の位置分解能すなわち撮像が可能である(特許文献2)。しかしながら、撮像素子では基板上に超伝導トンネル接合のない不感領域を設け、不感領域の周りに不感領域を取り囲むように独立に作動する4つ以上の直列超伝導トンネル接合を設けたことを特徴とするものであったため、1cmのオーダーの大面積化と半導体CCDに相当する位置の高分解能化は困難であるという欠点があった。すなわち、不感領域の面積が大きいと非平衡フォノンが直列接合に達するのに時間がかかるのとともにその前に超伝導体中で電子を励起できない熱フォノンとなってしまう割合が多くなってしまい、高感度および高速性が困難になるという欠点があった。
【0005】
また、超伝導トンネル接合に光を照射すれば超伝導体中で電子が励起され、励起電子がトンネル効果で信号として取り出せることが知られているが(非特許文献3参照)、1つの接合で光を直接吸収するために光センサーとしての有効面積が狭い、光を超伝導体で吸収する効率が光の波長に大きく依存し、特に赤外線に対しては反射率が大きくなってしまい、吸収効率が極めて低くなってしまうという欠点がある。
【0006】
従来、超伝導直列接合検出器では信号の大きさが放射線の入射位置に依存するためにエネルギーを高分解能で測定することが困難であるという大きな問題があった。1次元の入射位置依存性は入射位置依存性を曲線で近似することによって補正できることが示されており、2次元の入射位置を測定するための超伝導直列接合検出器も提案された(特許文献2)。しかしながら、超伝導直列接合検出器で2次元の入射位置依存性を補正するための補正手段はこれまで無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2799036
【特許文献2】特開H8−262144号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】応用物理、第53巻、1984年、533−537ページ
【非特許文献2】日本物理学会誌、第51巻、1996年、425−433ページ
【非特許文献3】Japanese Journal of Applied Physics,Vol.28、(1989)L549
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、いわゆる光からX線、γ線までの波長領域の光子及び荷電粒子などの放射線に対して個々の放射線のエネルギーを精度良く測定できるエネルギー高分解能でかつ数百チャンネル×数百チャンネルに相当する放射線の入射位置分解能すなわち撮像を可能とすると同時に高検出効率で高速の超伝導体放射線センサーを提供することであり、また、超伝導直列接合検出器をエネルギー高分解能とするために信号波高の2次元の入射位置依存性を補正する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
超伝導直列接合検出器からエネルギー情報だけでなく2次元の位置情報も取り出し、2次元の位置情報を複数のサブ領域に分割し、それぞれのサブ領域における特定のエネルギーの放射線による信号の平均的大きさRを求め、それぞれのサブ領域で発生した放射線による信号の大きさをそのサブ領域のRを利用して補正することにより、超伝導直列接合検出器のエネルギー分解能を向上させる。また、各放射線毎の入射位置に応じてその入射位置が属するサブ領域およびその周りのサブ領域の補正係数Rから内挿法などによってその入射位置での新たな補正係数rを信号毎に求め、各信号の大きさをそのrを利用して補正することにより、超伝導直列接合検出器のエネルギー分解能を更に向上させることもできる。X線、γ線、荷電粒子などのいわゆる放射線およびいわゆる光を吸収して放射線のエネルギーを非平衡フォノンに変換する単結晶基板の表面に、共通の不感領域を取り囲まない7個以上の超伝導直列接合を設ける(図2参照)。あるいは中心にエネルギー測定用の直列接合を設け且つその外側に入射位置測定用の4つ以上の直列接合を設ける(図4参照)。それらの超伝導直列接合から別個に信号を取り出すことにより、それらの信号の大きさを測定できるようにする。1つの放射線に対する複数の直列接合からの信号の時間差も測定できる。各放射線に対する2次元の位置情報(X,Y)は、各信号の大きさの比較あるいは時間差の大きさから求めることが出来る。
【発明の効果】
【0011】
放射線の入射位置の分解能を利用して、放射線の入射位置による信号の大きさの変動(入射位置依存性)を補正し、それによって放射線のエネルギーの測定精度を向上させることが出来る。図2、図3及び図4に例示するような検出器素子構造と位置依存性補正方法とによって広い領域での信号の大きさの入射位置依存性を補正できるので、放射線検出器の実効面積を従来よりも広くでき、その結果として検出効率を大きくすることもできる。図4に例示するような検出器素子構造と位置依存性補正方法とによって測定を高速にすることが出来る。いわゆる光に対しては、基板表面に設けた光吸収膜で光のエネルギーを非平衡フォノンに変換することにより、X線などのいわゆる放射線と同じように、照射位置の測定も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】1実施例のセンサー素子の直列接合の配置を示した平面図である。(実施例1)
【図2】1実施例のセンサー素子の直列接合の配置を示した平面図である。(実施例2)
【図3】1実施例のセンサー素子の実施方法を示した説明図である。(実施例3)
【図4】1実施例のセンサー素子の超伝導トンネル接合側の平面図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0013】
超伝導体薄膜で吸収させる場合、各光子は超伝導体薄膜中で多数の電子あるいは正孔を励起する。励起電子あるいは正孔は再結合して超伝導対を形成して余剰のエネルギーを非平衡フォノンとして放出する。非平衡フォノンは、超伝導体薄膜から基板へと伝搬する。半導体または絶縁体の基板で光を吸収させる場合、光子は半導体中で電子を励起する。励起電子は余剰のエネルギーをフォノンとして放出する。半導体光センサーの場合と異なり、励起電子を電場を利用して外部に信号として取り出すことはしない。そのため、エネルギーギャップの上に緩和した電子は空孔と再結合、または伝導帯から不純物レベルあるいは不純物レベルから荷電子帯へと戻り、エネルギーを非平衡フォノンとして放出して光子によって励起される以前のエネルギー状態へと戻る。上記の基板中の非平衡フォノンは基板の表面に設けたエネルギーギャップの小さい超伝導体で作製された多数の超伝導トンネル接合で吸収され、超伝導トンネル接合中で電子を励起させる。超伝導体のエネルギーギャップは1meV程度あるいはそれ以下と小さいために、非平衡フォノンは電子を効率良く励起することができる(非特許文献2)。そのため、上記の過程で放出された非平衡フォノンは超伝導トンネル接合中で電子を効率良く励起することが出来る。なお、いわゆる光を超伝導薄膜あるいは基板で吸収してそのエネルギーを非平衡フォノンに変換する方法では、フォノンを高効率に吸収するために超伝導トンネル接合は直列接合であることは重要であるが、必ずしも複数の超伝導直列接合を用いる必要はない。複数の直列接合を用いた場合には撮像も可能となる。
【0014】
超伝導直列接合は大面積であって非平衡フォノンの吸収効率が高い、すなわち半導体中の励起電子から放出されたフォノンが熱化される前にそれらを素早く吸収し、そのエネルギーを超伝導体中の励起電子に変換することが出来る。そのため、本発明の光センサーでは光子1個当たり信号電荷が1個のみ得られるのではなく、個々の光子のエネルギーに比例した信号電荷を得ることが出来、光吸収用の超伝導薄膜あるいは光吸収用の基板として用いる半導体のエネルギーギャップあるいは不純物準位よりエネルギーの大きい光子に対してその波長・エネルギーにかかわらず高検出効率の光センサーとなる。しかも、効率は光の波長に殆ど依存しないという利点をもつ。光量をセンサーの温度変化で測定するボロメーターと異なり、熱フォノンではなく非平衡フォノンを利用するため、光への応答速度は1/10000秒程度以下と高速である。なお、本願発明は、光子に対してだけでなく、荷電粒子に対しても有効であることは当然である。
【0015】
超伝導直列接合検出器から放射線入射毎の2次元の入射位置(X、Y)情報と放射線のエネルギーに相当する信号の大きさの情報(Z)を得る。より具体的には、例えば、図1に示した4つの直列接合からなる検出器の場合は、4つの直列接合それぞれからの信号の大きさをV、V、V、Vとした場合、X=V/(V+V)、Y=V/(V+V)、Z=V+V+V+VでX、Y、Zを与える。XとYは位置情報を与えるよいパラメータであればよく、V/VとV/Vで定義することなども可能なことは勿論である。また、Zの定義式の右側の各項の前に適当な係数を掛けておいても良いことなども当然である。入射位置(X、Y)情報を用いて位置(X、Y)を複数のサブ領域に分割し、各サブ領域におけるある特定のエネルギーの放射線に対する信号の大きさの平均的値に比例したRを求める、より具体的にはそのサブ領域に属するデータの波高スペクトル上でのその放射線のエネルギーに相当するピークの平均位置あるいはピークの中心位置の信号の大きさを求める。その後、各サブ領域の信号の大きさの情報(Z)の入射位置依存性をサブ領域毎あるいは信号毎にZ/Rを計算して補正する、あるいは各放射線のデータ(X、Y、Z)毎に、位置情報(X、Y)に応じてそのデータが属するサブ領域の中心点での補正係数に相当するRとその周りのサブ領域でのRからそのデータの(X、Y)に対する補正係数rを内挿法などで算出し、各データの大きさの情報(Z)の入射位置依存性をZ/rを計算して補正する。複数のRからrを求める方法としては、内挿法だけでなく、内挿法と外挿法を組み合わせたものでも良いことは当然である。それらのR補正係数を求めるためのデータと実際の補正計算をするデータは同じものであっても良いが、必ずしも同じデータである必要はない。一般的には補正係数を求めるための測定を1度行えば、その後はその補正係数を用いて他の測定で得られるデータを補正することができる。しかも、測定中のデータの実時間補正が可能である。例えば、エネルギー情報用の大きな直列接合1つと位置情報用の4つの直列接合からなる直列接合検出器の場合、XとYは図1の検出器と同じように定義して求めることができ、Zとしてはエネルギー情報用の直列接合からの信号の大きさあるいはそれに、位置情報用直列接合で吸収されたエネルギーの効果も取り込むために、(V+V+V+V)に適当な係数を掛けたものを加えたものとしても良い。後の処理は図1の場合と全く同様に行うことができる。
【0016】
基板上に共通の不感領域を取り囲まない多数の超伝導直列接合を設けておき、発生した非平衡フォノンを近くの複数の直列接合で吸収させ、それらの複数の直列接合からの信号の大きさあるいは信号発生の時間を比較することによって光子の入射位置を測定することができる。光子の入射位置を求めることができるために、それらの複数の直列接合からの信号の大きさの和の入射位置依存性を補正することが可能となり、直列接合を配置した基板全体がセンサーとして有効となり大面積化と位置高分解能とエネルギー高分解能が可能となる。なお、請求項3と4において超伝導直列接合の数を7個以上としたのは、本願発明では大面積化と位置分解能の向上のために少なくとも図2の上半分の7個の直列接合からなる放射線センサー素子であることが必要であると考えられるためである。
【0017】
素子中心に放射線エネルギー測定用の超伝導直列接合を設け、その外側の周りに放射線の入射位置測定用の4つ以上の超伝導直列接合を設ける。素子中心に接合を置かない不感領域を設けずにエネルギー測定用の超伝導直列接合を設けた場合、信号の大きさは放射線の入射位置に依存して大きく変動するが、周りの入射位置測定用の超伝導直列接合からの信号を用いてエネルギー用直列接合からの信号の大きさの位置依存性を補正することが出来る。また、中心に不感領域がないため放射線によって基板で発生したフォノンを直列接合で高速に検出することが出来る。
【0018】
以下、本発明の実施例を示すことにより、本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1に示した4つの直列接合からなる直列接合検出器の直列接合で囲まれた1.5mm×1.5mmの領域の内の約1mm×1mmの部分にα粒子を照射した。単純に4つの直列接合からの信号V、V、V、Vの和をエネルギーとした場合の波高スペクトルでは、信号波高の入射位置依存性によってエネルギー分解能は約10%と悪かった。入射位置の情報をX=V/(V+V)、Y=V/(V+V)として得、その位置情報を、30×30のサブ領域に等分割し、それぞれのサブ領域でピークの中心位置の信号波高を求めて補正係数Rを算出した。なお、この測定ではα線源が弱いことと放射線を検出器全体には照射していないため、多くのサブ領域ではピークの中心位置の信号波高は決定できておらず、補正係数が求められなかったサブ領域に属するデータはその後の補正計算では使用しなかった。補正係数を求めるのに使用したのと同じデータを各サブ領域毎に補正係数を用いて補正し、全サブ領域の補正後のデータを足し合わせて得られた波高スペクトルでは、エネルギー分解能は0.92%と大きく改善された。各データ毎に、その入射位置情報(X、Y)を利用して補正係数Rの内挿値rを求めて位置依存性を補正した波高スペクトルでは、エネルギー分解能は0.79%と更に改善された。
【実施例2】
【0020】
第2の実施例の放射線センサー素子の平面図を図2に示す。放射線センサー素子はヘリウム3クライオスタットで0.35Kに冷却された。1センチメートル角のサファイア基板1上に直径0.1mmの円形の超伝導トンネル接合(Nb/Al/酸化Al/Al/Nb)を160個直列に接続して構成した直列接合52を12個形成し、それぞれの直列接合から別々に信号取り出せるようにした。基板の直列接合を設けた面の反対側の面にX線を照射した。それぞれの直列接合からの信号の大きさはX線の入射位置に大きく依存したが、X線の入射毎に12個の直列接合それぞれから発生する信号の大きさを測定し、その内の大きい方から4つの信号の大きさS,S,S,Sとその4つの信号がそれぞれどの直列接合から発生したかという情報もデーターとした。また、X線の入射毎に大きい方から8個の信号の大きさの和S=S+S+・・・・+Sも求めた。放射線の入射位置を決定するには、80μm角の穴が100μm間隔で2次元に配置された厚さが50μmの銅製のメッシュを通して約6keVのX線を照射し、入射した1個毎のX線による4つの信号の大きさS,S,S,Sとそれらの信号を発生した直列接合がどれかという情報をメッシュの穴の位置と対応させることによって、S,S,S,Sとそれらを発生させた直列接合が分かれば実際の入射位置を決定できる。メッシュの穴のあいていない部分はX線が透過しないので、その部分の位置はデータを内挿して求めた。これにより、この検出器で約50μmの位置分解能が得られた。なお、この例では位置の情報としては、簡単のために大きい方から4つの信号のみを利用したが、それ以上の数の信号を用いても良いことは当然である。
【0021】
X線のエネルギーは一定でも各X線に対するSは入射位置に依存するため、Sから光子のエネルギーを直接精度良く決定することはできない。そのため、検出器の位置のデーター領域を200×200の小領域に分割し、メッシュなしでX線を照射してそれぞれの小領域でSの波高スペクトルを求め、それぞれの波高スペクトルからそれぞれの小領域(X、Y)におけるX線のエネルギーに相当するSの平均的値S(X、Y)を求め、S(X、Y)から小領域(X、Y)毎の信号波高値の補正値R(X、Y)=[S(X、Y)]/[S(X、Y)の最大値]を求めた、それ以後の測定ではX線の入射毎に位置情報(X、Y)とSを同様に測定し、SをR(X、Y)で割った値をエネルギー値とすることによって、入射位置によって信号波高が異なるために制限されていた超伝導直列接合検出器のエネルギー分解能を10倍以上向上させることで出来た。また、位置分解能に関しては、基板上に超伝導トンネル接合のない不感領域を設けて不感領域のさらに周りには不感領域を取り囲むように独立に作動する4つの直列超伝導トンネル接合を設けたことを特徴とする実施例1の放射線センサーに比べると、分解能はどちらも約50μmで同等であったが、本実施例の素子では位置を基板全面にわたって測定することができ、従来の素子に比べると面積が約4倍となり、撮像能力は画素数200×200に相当する。
【実施例3】
【0022】
実施例2と同じ平面構造で、接合の種類はTaを主要な超伝導体とするものである(Ta/Al/酸化Al/Al/Ta)。基板はサファイア基板であり、その基板の超伝導直列接合を設けた面の反対側の面にTaの約2倍の大きさのエネルギーギャップをもつNbの厚さが約30nmの光吸収用の薄膜を設けた。超伝導トンネル接合を光吸収用超伝導体薄膜の超伝導体よりエネルギーギャップの小さい超伝導体で作製したのは、光吸収用超伝体導薄膜から放出された非平衡フォノンを超伝導トンネル接合で効率よく吸収するためである。その放射線センサーに波長が約0.8ミクロンの周期的パルスレーザー光を照射した(図3)。パルスレーザー光の光子吸収用超伝導体薄膜上の大きさは直径で約0.2mmであった。実施例2と同様の手段によって、パルスレーザー光照射の中心位置を約0.3mmの位置分解能で決定することができた。
【実施例4】
【0023】
素子中心の2.25mm×2.25mmの領域に下部電極面積が120μm角の超伝導トンネル接合を作製した。等間隔で配置された各下部電極の上にはそれぞれ2個の超伝導トンネル接合が設けられている。接合の接続は108直列×6並列であり、合計の接合数は648個である。その中心直列接合の周りに同じ接合構造の位置計測用の超伝導直列接合を4個配置した。接合の接続は各36直列×2並列である。素子構造概要は図4に示す。裏面の約1mm角の領域に約6keVのX線を照射した。中心接合からの信号は1マイクロ秒程度と高速であった。信号の位置依存性は大きかったが、周りの4個の位置測定用直列接合で位置情報を約80μmの精度で測定でき、位置依存性を補正して約100eVのエネルギー分解能が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本願発明は光やX線あるいは荷電粒子を利用した様々な分析装置等に利用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 単結晶基板
2 超伝導直列接合
3 非平衡フォノン
4 光吸収用超伝導体薄膜
5 光子
51 単結晶基板
52 超伝導直列接合

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導トンネル接合を用いた放射線センサーシステムにおいて、超伝導直列接合検出器から放射線入射毎の2次元の入射位置(X、Y)情報と放射線のエネルギーに相当する信号の大きさの情報(Z)を得、入射位置(X、Y)情報を用いて位置(X、Y)を複数のサブ領域に分割し、各サブ領域における特定のエネルギーの放射線に対する信号の大きさの平均的値Rを求め、各サブ領域の信号の大きさの情報(Z)の入射位置依存性をサブ領域毎あるいは信号毎にZ/Rを計算して補正することを特徴とする超伝導体放射線センサーシステム。
【請求項2】
超伝導トンネル接合を用いた放射線センサーシステムにおいて、超伝導直列接合検出器から放射線入射毎の2次元の入射位置(X、Y)情報と放射線のエネルギーに相当する信号の大きさの情報(Z)を得、入射位置(X、Y)情報を用いて位置(X、Y)を複数のサブ領域に分割し、各サブ領域における特定のエネルギーの放射線に対する信号の大きさの平均的値Rを求め、各放射線のデータ(X、Y、Z)毎に、位置情報(X、Y)に応じてそのデータが属するサブ領域の中心点での補正係数に相当するRとその周りのサブ領域でのRを用いてそのデータの位置(X、Y)に対する新たな補正係数rを算出し、各データごとに波高の大きさの情報(Z)の入射位置依存性をZ/rを計算して補正することを特徴とする超伝導体放射線センサーシステム。
【請求項3】
超伝導トンネル接合を用いた放射線センサーシステムにおいて、絶縁体あるいは半導体の1つの単結晶基板とその上に設けた共通の不感領域を取り囲まない7個以上の超伝導直列接合で検出素子を構成したことを特徴とする超伝導体放射線センサー。
【請求項4】
超伝導トンネル接合を用いた放射線センサーシステムにおいて、共通の不感領域を取り囲まない7個以上の超伝導直列接合から構成される超伝導直列接合放射線センサーと光子の入射毎に少なくとも4つの直列接合からの信号の大きさまたは信号の時間差を用いて光子の入射位置を決定すると同時に少なくとも4つの直列接合からの信号の大きさの和も求めることによって信号の大きさの和の入射位置依存性を測定して入射位置毎に信号の大きさの和の補正係数を作成するための信号処理装置、および光子の入射毎に入射位置と信号の大きさの和を求めるとともに信号の大きさの和を入射位置に応じて補正係数を用いて補正して光子のエネルギーを測定するための信号処理装置を備えていることを特徴とする超伝導体放射線センサーシステム。
【請求項5】
超伝導トンネル接合を用いた放射線センサーシステムにおいて、絶縁体あるいは半導体の単結晶基板の表面に超伝導直列接合を設けた放射線センサーであり、中心にエネルギー測定用の超伝導直列接合を設け、その外側に入射位置測定用の4つ以上の超伝導直列接合を設けたことを特徴とする超伝導体放射線センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−168827(P2009−168827A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111782(P2009−111782)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【分割の表示】特願2002−217812(P2002−217812)の分割
【原出願日】平成14年7月26日(2002.7.26)
【出願人】(599119824)
【Fターム(参考)】