説明

超伝導加速空洞の製造方法

【課題】コンパクトな装置構成で、安価に高品質の超伝導加速空洞を製造できる超伝導加速空洞の製造方法を提供する。
【解決手段】軸線方向の両端に開口部を有する複数のハーフセル5を軸線方向Lに配列し、相互の開口部同士を溶接によって接合して加速空洞(超伝導加速空洞)1を製造する加速空洞1の製造方法であって、ハーフセル5の接合は真空雰囲気とされた加速空洞1の内側からレーザ光を用いた溶接によって行われることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導加速空洞の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超伝導加速空洞は、軸線方向に配列された複数の部材が接合されて形成される。従来、この接合は不純物の混入が少ないので、真空雰囲気中で電子ビーム溶接によって行われていた。
また、たとえば、特許文献1に示されるようなアルゴン雰囲気でレーザ溶接を用いて超伝導加速空洞の接合を内側から行うものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3959198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の電子ビーム溶接では、超伝導加速空洞を駆動する駆動系、電子銃等が真空雰囲気中に入っているので、真空容器の容積が大きく装置が大型化し高価となる。真空容器の容積が大きいため真空雰囲気を形成するのに時間がかかるので、作業時間が長くなり作業コストが高くなるという課題がある。
また、特許文献1に示されるアルゴン雰囲気中でレーザ溶接を行うものでは十分な性能がでない可能性がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、コンパクトな装置構成で、安価に高品質の超伝導加速空洞を製造できる超伝導加速空洞の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる超伝導加速空洞の製造方法は、軸線方向の両端に開口部を有する複数の環状体を該軸線方向に配列し、相互の開口部同士を溶接によって接合して超伝導加速空洞を製造する超伝導加速空洞の製造方法であって、前記環状体の接合は真空雰囲気とされた前記超伝導加速空洞の内側からレーザ光を用いた溶接によって行われることを特徴とする。
【0007】
本発明によると、超伝導加速空洞を構成する環状体の接合は、真空雰囲気とされた超伝導加速空洞の内側からレーザ光を用いた溶接によって行われる。
このように、溶接手段が超伝導加速空洞の内部に設けられているので、真空雰囲気を形成する範囲が超伝導加速空洞を覆う狭い範囲に限定される。これにより、コンパクトな装置構成で接合が行えるので、安価な設備とすることができる。また、真空雰囲気の範囲が狭いので、真空雰囲気の形成が短時間で行うことができる。このため、作業時間が短縮できるので、作業コストを安価にできる。さらに、高真空とすることが容易であるので、高真空で溶接を行える。これにより、高品質の超伝導加速空洞を製造できる。
【0008】
本発明では、前記超伝導加速空洞の内側を真空吸引して真空雰囲気を形成することが好ましい。
【0009】
このようにすると、レーザ光による溶接作業時に発生するガス等の異物を直接かつ常時吸引して排出することができる。これにより、ガス等の異物が超伝導加速空洞の内表面に付着することを抑制できるので、高品質の超伝導加速空洞を製造できる。
【0010】
本発明では、前記超伝導加速空洞の内側からのレーザ光による溶接に先立って外側から非貫通溶接を行うことが好ましい。
【0011】
このように、接合部が外側から非貫通溶接されると、超伝導加速空洞に密閉された内部空間を形成することができるので、超伝導加速空洞自体を真空容器として用いることができる。超伝導加速空洞の内部空間を真空吸引することによって真空雰囲気を形成できるので、容易に高真空を得ることができる。これにより、高真空でレーザ溶接が行えるので、高品質の超伝導加速空洞を製造できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶接手段が超伝導加速空洞の内部に設けられているので、コンパクトな装置構成で、安価な設備とすることができる。また、真空雰囲気の範囲が狭いので、作業時間が短縮でき、作業コストを安価にできる。さらに、高真空とすることが容易であるので、高品質の超伝導加速空洞を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態にかかる加速空洞の製造方法を実施する溶接装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる加速空洞の製造方法の一工程を示す部分断面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる加速空洞の製造方法の別の一工程を示す部分断面図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる加速空洞の製造方法を実施する別の溶接装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる超伝導加速空洞の製造方法の一実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態にかかる加速空洞(超伝導加速空洞)の製造方法を実施する溶接装置の概略構成が示されている。図2は、本実施形態にかかる加速空洞の製造方法の一工程を示す部分断面図である。図3は、本実施形態にかかる加速空洞の製造方法の別の一工程を示す部分断面図である。
【0015】
加速空洞(超伝導加速空洞)1は、図1に示されるように、中央部が膨らんだ円筒形状のセル3が、たとえば、5個組み合わされた構造体である。加速空洞1は、たとえば、超伝導材料であるニオブ材を曲げ加工、プレス成型加工して、セル3が軸線方向で2分割されたハーフセル(環状体)5が形成される。ハーフセル5は、軸線方向Lにおいてセル3の最も膨らんだ部分である赤道部9と最も引っ込んだ部分であるアイリス部11との間に延在している。ハーフセル5は、その両端部、すなわち、赤道部9およびアイリス部11に対応する部分に開口部が形成された環状部材である。
【0016】
複数のハーフセル5が赤道部9同士あるいはアイリス部11同士が重なるように軸線方向Lに配列され、接触した部分が接合されることによって加速空洞1が形成される。
環状体としてはハーフセル5に限定されるものではなく、セル3、2個のハーフセル5がアイリス部11で一体とされた形態、あるいはその他種々の形態が用いられる。
【0017】
図1に示されるように溶接装置7には、加速空洞1の変形を防止するように拘束する保持部材13と、加速空洞1の内部を真空吸引する真空吸引部材15,17と、加速空洞1の内部に設置されるレーザ出力装置19とが備えられている。
【0018】
保持部材13には、加速空洞1の両端部を強固に保持する一対の保持板21と、一対の保持板21間を連結し、その間隔を維持する複数の拘束シャフト23と、が備えられている。拘束シャフト23は、加速空洞1の構成材料と線膨張係数が近い材料で形成されている。たとえば、加速空洞1がニオブ材で形成されている場合、拘束シャフト23はニオブとジルコニウムとの合金、あるいはチタン材等で形成されている。
【0019】
真空吸引部材15,17には、真空ポンプ25,27と、真空ポンプ25,27および加速空洞1の内部を連通させる吸引配管29,31と、吸引配管29,31を開閉させる開閉弁33,35とが備えられている。
吸引配管29は、加速空洞1の一端側のフランジ部に接続され、吸引配管31は他端側のフランジ部に接続される。
【0020】
レーザ出力装置19には、加速空洞1の軸線中心を通るように配置され、吸引配管29,31に軸線中心回りに自転可能に取り付けられた回転軸37と、図示しないレーザ光出力用のレーザ光学系が格納されたレーザ出力部39と、が備えられている。
回転軸37は図示しない駆動装置によって軸線中心回りに回転させられる。
レーザ出力部39は回転軸37に、回転方向の移動は拘束され、軸線方向Lには移動できるように取り付けられている。レーザ出力部39は、真空雰囲気中に位置するので、内部に格納されたレーザ光学系のミラーは冷却されるようにされている。レーザ光学系には、外部の図示しない光源から、たとえば、光ファイバを経由して光が供給されるようにされている。
【0021】
本実施形態における加速空洞の製造方法では、まず、複数のハーフセル5が積み重ねられた状態で、図2に示されるように接合部である各赤道部9および各アイリス部11が外周側から非貫通溶接41が行われる。これにより、加速空洞1の内部空間は密閉された状態とされる。
この外周側の非貫通溶接41は、アルゴン雰囲気下でレーザ溶接されてもよいし、その他公知の溶接手段で行うことができる。
【0022】
この状態で、加速空洞1は溶接装置7に搬入され、両端部が保持板21に強固に取り付けられる。保持板21間の間隔を保持するように保持板21に拘束シャフト23が取り付けられる。
吸引配管29,31が加速空洞1の内部空間と連通するように取り付けられる。同時に、回転軸37およびレーザ出力部39が加速空洞1の内部空間の所定位置に位置するように取り付けられる。
【0023】
この状態で、真空ポンプ25,27を作動し加速空洞1の内部空間を真空吸引し、たとえば1×10−4Pa程度の圧力とする。このように加速空洞1自体を真空容器として用いることができるので、真空容器を別途準備する必要が無くなる。これにより、装置構成を簡略化でき、かつ、コンパクトな装置構成で接合が行えるので、安価な設備とすることができる。
また、加速空洞1の内部空間という限られた範囲を真空吸引することによってレーザ溶接用の真空雰囲気を形成できるので、容易に高真空を得ることができる。
このように、真空雰囲気の形成を短時間で行うことができるので、作業時間が短縮でき、作業コストを安価にできる。
【0024】
加速空洞1の内部空間の真空度が所定値になると、レーザ出力装置19による溶接作業が開始される。
レーザ出力部39の位置を接合部に合わせ、図示しない光源から供給される光をレーザ光学系によりレーザ光をハーフセル5の接合部に供給し、図1に示されるように接合部である各赤道部9および各アイリス部11が内周側から非貫通溶接43が行われる。
このとき、回転軸37を回転させることにより、加速空洞1の内周面全周に亘って非貫通溶接43を施すことができる。
【0025】
1箇所の溶接が終わると、レーザ出力部39を回転軸37に沿って移動させる。レーザ出力部39が次の接合部へ位置させられ、同様にレーザ溶接が実施される。
これを繰り返して全ての接合部が溶接されると溶接作業が終了となる。
真空雰囲気となるのが加速空洞1の内部空間のみと狭い容積であるので、高真空とすることが容易である。高真空で溶接を行えるので、高品質の超伝導加速空洞を製造できる。
【0026】
溶接作業中も真空ポンプ25,27は吸引動作をしているので、レーザ光による溶接作業時に発生するガス等の異物を直接かつ常時吸引して排出することができる。
これにより、ガス等の異物が加速空洞1の内表面に付着することを抑制できるので、高品質の超伝導加速空洞を製造できる。
【0027】
本実施形態では、外周側の溶接が完了し、一体とされた加速空洞1が溶接装置7に搬入されているが、これは溶接装置7で溶接するようにしてもよい。
たとえば、ハーフセル5を積み重ねた状態で保持部材13に保持させ、外周側から溶接するようにしてもよい。
【0028】
本実施形態では、外周側の溶接が完了し、加速空洞1が一体とされた後、加速空洞1の内部を真空雰囲気とし、内周側からの溶接を行っているが、これに限定されるものではない。
たとえば、図4に示されるように、保持部材13に換えて加速空洞1が格納できる程度の空間を持つ真空容器45を備えるようにしてもよい。
真空容器45は、軸線が上下方向に延在する円筒形状をし、高さ方向の一部が上下方向に伸縮可能なジャバラ部47とされている。真空容器45の下端面は加速空洞1を挿入できるように大きく開口している。この開口部は吸引配管31の端部によって密閉される。
【0029】
ジャバラ部47を挟んで上下に一対のブラケット49が周方向に間隔を空けて複数対取り付けられている。上下一対のブラケット49の間隔を拘束する拘束シャフト51が備えられている。拘束シャフト51は着脱可能とされている。
ジャバラ部47は、加速空洞の上下方向の高さの変化に対応して伸縮するもので、加速空洞が設置されると、拘束シャフト51を取り付けてジャバラ部47の伸縮を制限する。
【0030】
真空容器45の内部を真空吸引する真空吸引部材53が備えられている。真空吸引部材53には、真空ポンプ55と、真空ポンプ55および真空容器45の内部を連通させる吸引配管57と、吸引配管57を開閉させる開閉弁59とが備えられている。
【0031】
各ハーフセル5は積み重ねられた状態で、真空容器45内に設置される。このとき、加速空洞1の高さの変動はジャバラ部47の伸縮によって吸収される。
吸引配管29,31が加速空洞1の内部空間と連通するとともに真空容器45を密閉するように取り付けられる。
同時に、回転軸37およびレーザ出力部39が加速空洞1の内部空間の所定位置に位置するように取り付けられる。
これらの作業が終わると、拘束シャフト51が一対のブラケット49間の間隔が変動しないように取り付けられる。
【0032】
この状態で、真空ポンプ25,27,55を作動し加速空洞1および真空容器45の内部空間を真空吸引し、たとえば1×10−4Pa程度の圧力とする。
真空容器45は加速空洞1の周囲を小さく覆う程度の大きさであるので、真空吸引する容積は狭い範囲に限定される。これにより、コンパクトな装置構成で接合が行えるので、安価な設備とすることができる。
また、真空雰囲気の範囲が狭いので、真空雰囲気の形成が短時間で行うことができる。このため、作業時間が短縮できるので、作業コストを安価にできる。さらに、高真空とすることが容易であるので、高真空で溶接を行える。これにより、高品質の超伝導加速空洞を製造できる。
【0033】
加速空洞1の内部空間の真空度が所定値になると、レーザ出力装置19による溶接作業が開始される。この場合は、接合部である各赤道部9および各アイリス部11が内周側から貫通溶接が行われる。
このとき、回転軸37を回転させることにより、加速空洞1の内周面全周に亘って貫通溶接が施される。
1箇所の溶接が終わると、上述の手順でレーザ出力部39を次の接合部へ位置させ、同様にレーザ溶接が実施される。
【0034】
溶接作業中も真空ポンプ25,27は吸引動作をしているので、レーザ光による溶接作業時に発生するガス等の異物を直接かつ常時吸引して排出することができる。
これにより、ガス等の異物が加速空洞1の内表面に付着することを抑制できるので、高品質の超伝導加速空洞を製造できる。
【0035】
なお、図4に示される溶接装置によって外周側から非貫通溶接を行い一体化された加速空洞1を用いて、内周側から非貫通溶接を行うようにしてもよい。
このようにすると、加速空洞1の内外圧力差が小さくなるので、加速空洞1にかかる応力を無くすことができる。したがって、加速空洞1が変形する恐れを防止することができる。
【0036】
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形を行ってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 加速空洞
3 セル
5 ハーフセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向の両端に開口部を有する複数の環状体を該軸線方向に配列し、相互の開口部同士を溶接によって接合して超伝導加速空洞を製造する超伝導加速空洞の製造方法であって、
前記環状体の接合は真空雰囲気とされた前記超伝導加速空洞の内側からレーザ光を用いた溶接によって行われることを特徴とする超伝導加速空洞の製造方法。
【請求項2】
前記超伝導加速空洞の内側を真空吸引して真空雰囲気を形成することを特徴とする請求項1に記載の超伝導加速空洞の製造方法。
【請求項3】
前記超伝導加速空洞の内側からのレーザ光による溶接に先立って外側から非貫通溶接を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の超伝導加速空洞の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−40321(P2011−40321A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188354(P2009−188354)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】