超小型電力変換装置
【課題】超小型電力変換装置において半導体スイッチの数を2個より増加することなく、また半導体チップの大型化や効率の低下を招くことなく、昇降圧型の超小型電力変換装置を提供する。
【解決手段】超小型電力変換装置300は、板状の磁心を貫通して導体を巻きついた構造である(平面トランス)により構成される小型トランス100と、半導体スイッチS1,S2およびこれを制御する制御回路を含む半導体チップ200とで構成される。このように平面トランスにより構成される小型トランス100を用いてフライバックコンバータを構成することにより、半導体スイッチの数が2個で全体の大きさを従来の超小型電力変換装置と同様の大きさの昇降圧型の超小型電力変換装置を提供することができる。
【解決手段】超小型電力変換装置300は、板状の磁心を貫通して導体を巻きついた構造である(平面トランス)により構成される小型トランス100と、半導体スイッチS1,S2およびこれを制御する制御回路を含む半導体チップ200とで構成される。このように平面トランスにより構成される小型トランス100を用いてフライバックコンバータを構成することにより、半導体スイッチの数が2個で全体の大きさを従来の超小型電力変換装置と同様の大きさの昇降圧型の超小型電力変換装置を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型磁気素子と半導体チップを集積化して小型化する超小型電力変換装置に関し、特に昇降圧型の超小型電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DC−DCコンバータにその代表例をみる電力変換装置(スイッチング電源装置)において、超小型電力変換装置は、一般に小型磁気素子と半導体チップを集積化して小型化することにより構成される。図8は、超小型電力変換装置に用いられる小型インダクタの構成例を示す図である。このインダクタは、図8の(イ)〜(ハ)に示すように板状の磁心1を貫通して導体2が巻きついた構造であり、ソレノイドコイルを形成している。なお、図8の(イ)は、小型インダクタ10の平面図であり、磁心1に対し導体2、端子3が設けられており、また図8の(ロ)は、(イ)のa−a’に沿った小型インダクタの断面図であり、磁心1に対する導体2の配置および磁心1の両面にある導体2の接続が示され、また図8の(ハ)は、(イ)のb−b’に沿った小型インダクタの断面図であり、磁心1に対する端子3の配置および磁心1の両面にある端子3の接続が示されている。
【0003】
図9および図10は、図8に示した小型インダクタ10を用いた超小型電力変換装置の構成例を示す図である。図9において、小型インダクタ10と半導体チップ20とは、端子3が接合部(バンプ)4を介して半導体チップの表面21に設けられたパッド5に接続される構造となっている。一方、図10において、小型インダクタ10と半導体チップ20とは、端子3がワイヤ6を介して半導体チップの表面21に設けられたパッド5に接続される構造となっている。図9と図10とでは、半導体チップ20の裏面22が小型インダクタ10に対し外向きになるか(図9)または内向きになるか(図10)で構成が異なっている。
【0004】
下記特許文献1には、図9に示された超小型電力変換装置と同系の超小型電力変換装置の基本構造が開示されている。また下記特許文献2には、図10に示された超小型電力変換装置と類似の超小型電力変換装置の基本構造が開示されている。また下記特許文献3にはスルーホールを用いて構成された平面トランスが開示されている。そして超小型電力変換装置は、図9、図10に示すような構造で小型インダクタ10と半導体チップ20を集積化することにより、小型化されるものである。
【0005】
図11、図12および図13は超小型電力変換装置を実現する具体回路例を示す。すなわち図11の回路例は降圧型コンバータを実現する場合であり、図12の回路例は昇圧型コンバータを実現する場合であり、図13の回路例は反転型コンバータを実現する場合であり、いずれも半導体スイッチS1,S2のうち2個あるいは1個を搭載した半導体チップ20と小型インダクタ10とで超小型電力変換装置30が構成される。なお図11、図12および図13に示す回路例には、昇降圧コンバータの例は含まれていない。
【0006】
上述した従来の小型インダクタ10と半導体チップとを用いて昇降圧コンバータを実現すると、図14のような回路構成が想定される。しかしこの回路構成では、以下の理由により超小型電力変換装置を実現することは困難である。すなわち図14に示された回路構成では、
(1)半導体スイッチS1〜S4の4個必要となる。
(2)降圧動作場合、スイッチのオン抵抗が直列した2つのスイッチS1とS4の合算およびS2とS4の合算となり、昇圧動作の場合、スイッチのオン抵抗が直列した2つのスイッチS1とS3の合算およびS1とS4の合算となるため、効率が悪化する。
(3)効率の低下を改善するために半導体スイッチS1〜S4を大きくしなくてはならない。
(4)4個の大きいスイッチS1〜S4を駆動するために、半導体チップ20’の消費電流が増加する。
(5)上記したことから半導体チップ20’が大きくなってしまう。
【0007】
ところで下記特許文献4には、フライバックコンバータを昇降圧手段に用いる例が開示されている。そしてフライバックコンバータを実現する場合の一般的な回路例を図15に示す。図15においてスイッチS2をダイオードで置換しても同様に実現可能である。
【特許文献1】特開2004−72815号公報(図23,24,25)
【特許文献2】特開2007−81146号公報(図1)
【特許文献3】特開2000−243630号公報(図5)
【特許文献4】特開平7−177740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献4に示したフライバックコンバータに用いられているトランスは通常のトランスである。通常のトランスは他の部品に比べて大きく、当然図14に示した昇降圧コンバータに用いられている小型インダクタ10より大きい。つまりトランスの大きさは、電源装置の大きさを決める第1の要因となる。したがい、特許文献4および当業者の従来の常識には、図14の昇降圧コンバータを小型化するために、すなわち昇降圧型の超小型電力変換装置を実現するのに、フライバックコンバータを用いるという思想は全くない。むしろ、フライバックコンバータを用いると、電力変換装置の大きさが大きくなるというのが設計者の常識であった。なお、従来は、上述したように半導体スイッチの数が多くなること、および、効率アップのため半導体スイッチを大きくしなければならない、という設計常識によって半導体チップが大きくなっても、半導体チップよりインダクタやトランスの方がはるかに大きいので、半導体チップそのものの大きさによる電源装置全体への影響は軽微でさほど問題にされなかった。
【0009】
このような事情から、超小型電力変換装置において昇降圧コンバータを実現しようとする場合、半導体スイッチの数は4つのまま、半導体チップのレイアウトや半導体製造プロセスの工夫で半導体チップを小さくするという発想しかなく、これでは限界があるため今まで実現できないでいた。
【0010】
これに対し本発明は、図11〜13に示す超小型電力変換装置のものより半導体スイッチの数が増加することがなく、また半導体チップの大型化や効率の低下を招くことのない、昇降圧型の超小型電力変換装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の超小型電力変換装置は、板状の磁心を貫通して導体を巻きついた構造である小型トランスと半導体スイッチを2個搭載した半導体チップを集積した構造で構成したものである。つまり本発明は、従来の図9、図10の超小型電力変換装置の構造に対し、上記特許文献3に基本構造が開示されている平面トランスを用いれば、フライバックコンバータを構成しても全体の大きさを従来の図9、図10に示す超小型電力変換装置と同様の大きさにすることができるということを発案し超小型電力変換装置を実現したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半導体スイッチの数を増加することによる半導体チップの大型化や効率の低下を招くことなく、昇降圧型の超小型電力変換装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明は、従来の図9、図10の超小型電力変換装置の構造に対し、上記特許文献3に基本構造が開示されている平面トランスを用いれば、フライバックコンバータを構成しても全体の大きさを従来の図9、図10に示す超小型電力変換装置と同様の大きさにすることができるという発想のもとに昇降圧型の超小型電力変換装置を実現したものである。
【0014】
上述したようにフライバックコンバータは、その回路例を図15に示したように2個の半導体スイッチS1,S2とトランスにより昇降圧動作を実現し得る。このことを説明すると、一般に、フライバックコンバータの電圧変換効率M(=出力電圧/入力電圧)は、
M=D/(n(1−D)) ・・・(1)
(但し、DはスイッチS1のオン時比率、nはトランスの1次巻線と2次巻線の巻線数比)と表される。
【0015】
上記(1)式でスイッチS1のオン時比率D=0→1と変化させると、フライバックコンバータの電圧変換効率M=0→∞ と変化し、スイッチS1のオン時比率Dによって昇降圧動作を実現することができる。
【0016】
そこで本発明の実施形態に係る超小型電力変換装置では、図1に示す回路構成にする。すなわち図1において本発明の実施形態に係る超小型電力変換装置300は、上述した平面トランスにより構成される小型トランス100と、半導体スイッチS1,S2およびこれを制御する制御回路を含む半導体チップ200とで構成される。このように構成した超小型電力変換装置は、図14に示した昇降圧コンバータ回路例における4個のスイッチを必要とせず、2個の半導体スイッチでフライバックコンバータを構成することにより図14に示した回路例の諸問題を解決した昇降圧型の超小型電力変換装置を実現し得るものである。
【0017】
ここで半導体スイッチS1,S2をグランド基準(接地電位基準)で動作させることにより、半導体スイッチS1,S2の駆動が容易となり、半導体チップ200の構成を簡単化できる。また、P型の半導体スイッチと比較して高速スイッチングが可能なNチャネルMOSFET(metal-oxide-semiconductor field effect transistor)に代表されるN型の半導体スイッチやNPNトランジスタなどで2つの半導体スイッチS1,S2を構成することができるため、高速でスイッチング動作することができ、装置の小型化が容易になる。
【0018】
なお、図1に示した半導体スイッチS2は効率の低下を気にしなければダイオードで置き換え可能であるが、本発明の実施形態では、ダイオード利用による効率ロスを問題としてトランジスタ(N型半導体スイッチ(MOSFETもしくはバイポーラトランジスタもしくはIGBT(insulated gate bipolar transistor)))を用いて回路を実現している。ダイオード利用による効率ロスを除けば、半導体スイッチS2がダイオードであろうが半導体スイッチであろうが動作は同じで、スイッチS1とスイッチS2を相補的にオンオフ(一方がオンなら他方がオフ)する制御を施せば実現できる。但し、インダクタ電流が負極性となる状況を避ける場合は、スイッチS1とスイッチS2の両方がオフとなる状態も加える制御を行う。
【0019】
図2および図3は、図1の超小型電力変換装置300に用いる小型トランス100のコイルパターンを示す図である。図2は、図1の小型トランス100の1次側コイル(t1-t1’)と図1の小型トランス100の2次側コイル(t2-t2’)を1巻きごとに交互に巻いたコイルパターンである。ここで複数巻きごとに交互に巻いてもよい。そして図2(a)に示すトランス例1はコイルの端子(a,b,c,d)を磁心の一辺に配置した場合である。また図2(b)に示すトランス例2の端子aとdを図中の上辺に配置しているが、これを図中の左右の辺に配置してもよい。端子bとcも同様である。
【0020】
図3は、図1の小型トランス100の1次側コイル(t1-t1’)と図1の小型トランス100の2次側コイル(t2-t2’)を別々に巻いたコイルパターンである。そして図3(a)に示すトランス例3はコイルの端子(a,c,b,d)を磁心の一辺に配置した場合である。また図3(b)に示すトランス例4の端子aとdを図中の上辺に配置しているが、これを図中の左右の辺に配置してもよい。図3(c)に示すトランス例5の端子aとdも同様に図中の左右の辺に配置してもよい。
【0021】
図4および図5は、図1の超小型電力変換装置300に用いる半導体チップ200中のスイッチS1とスイッチS2の配置例を示す図である。図4および図5においてスイッチS1とスイッチS2の端子をアルファベットのA,C、B,D、E,F,Gで示している。なお図5は、スイッチS1とスイッチS2の低電位側の端子を共通のグランド(接地電位)に接続することを想定し、端子Gを共通にしたため、図4に示す端子数より少なくなっている。図4および図5のスイッチ配置例では左側のスイッチをS1と決めたが、図6、図7に示す内容により整合を取らなければならない場合にはスイッチS1とスイッチS2の配置を入れ替えてもよい。
【0022】
図6は、図1中のスイッチS1の端子s1,s1’、スイッチS2の端子s2,s2’と、図4および図5中のスイッチS1の端子A,C;E,G、スイッチS2の端子B,D;F,Gとに係る3通りの端子対応(対応1〜対応3)を示す対応表である。
【0023】
図7は、図1中の1次側コイル(t1-t1’)のトランス端子t1,t1’、2次側コイル(t2-t2’)のトランス端子t2,t2’と、図2および図3中のトランス端子a,b,c,dとの対応を示す対応表である。
【0024】
図6および図7に示す対応にしたがい、図1中の小型トランス100と半導体チップ200の端子間を、上述した図9に示す接合部(バンプ)4及びパッド5を使用した構成で接続または図10に示すワイヤ6及びパッド5を使用した構成で接続することにより、一層小型化した構成にすることができる。なお図2、図3に示すトランスの配置例は、図10に示すワイヤ6及びパッド5を使用した構成をとることを前提に配置を決めているが、もし図9に示す接合部4及びパッド5を使用した構成にする場合には、図2、図3に示すトランスまたは図4、図5に示す半導体チップのいずれかを左右反転させた構成のものを採用することにより実現する。
【0025】
ここで、図6および図7に示す対応表について補足すると、図7の「スイッチの端子対応2」の「トランス例3」の上側の配置は、小型トランス100(トランス例3)の外側のa,d端子を半導体チップ200の内側のC,D端子に接続し、小型トランス100の内側のc,b端子は図3(a)の裏面(裏面にも端子が設けられている)から接続するようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る超小型電力変換装置を実現するための回路構成を示す図である。
【図2】図1の超小型電力変換装置に用いる小型トランスの第1のコイルパターンを示す図である。
【図3】図1の超小型電力変換装置に用いる小型トランスの第2のコイルパターンを示す図である。
【図4】図1の超小型電力変換装置に用いる半導体チップの中のスイッチS1とスイッチS2の第1の配置例を示す図である。
【図5】図1の超小型電力変換装置に用いる半導体チップの中のスイッチS1とスイッチS2の第2の配置例を示す図である。
【図6】図1中のスイッチS1の端子s1,s1’、スイッチS2の端子s2,s2’と、図4および図5中のスイッチS1の端子A,C;E,G、スイッチS2の端子B,D;F,Gとの対応を示す対応表である。
【図7】図1中のトランス端子t1,t1’、t2,t2’と、図2および図3中のトランス端子a,b,c,dとの対応を示す対応表である。
【図8】超小型電力変換装置に用いられる従来の小型インダクタの構成例を示す図である。
【図9】図8に示した小型インダクタを用いた超小型電力変換装置の第1の構成例を示す図である。
【図10】図8に示した小型インダクタを用いた超小型電力変換装置の第2の構成例を示す図である。
【図11】超小型電力変換装置を実現する従来の第1の具体回路例を示す図である。
【図12】超小型電力変換装置を実現する従来の第2の具体回路例を示す図である。
【図13】超小型電力変換装置を実現する従来の第3の具体回路例を示す図である。
【図14】昇降圧型超小型電力変換装置を実現するために想定される回路例を示す図である。
【図15】フライバックコンバータを実現する従来の回路例を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 磁心
2 導体
3 端子
4 接合部(バンプ)
5 パッド
6 ワイヤ
10 小型インダクタ
20、20’ 半導体チップ
21 半導体チップの表面
22 半導体チップの裏面
30 超小型電力変換装置
100 小型トランス
200 半導体チップ
300 超小型電力変換装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型磁気素子と半導体チップを集積化して小型化する超小型電力変換装置に関し、特に昇降圧型の超小型電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DC−DCコンバータにその代表例をみる電力変換装置(スイッチング電源装置)において、超小型電力変換装置は、一般に小型磁気素子と半導体チップを集積化して小型化することにより構成される。図8は、超小型電力変換装置に用いられる小型インダクタの構成例を示す図である。このインダクタは、図8の(イ)〜(ハ)に示すように板状の磁心1を貫通して導体2が巻きついた構造であり、ソレノイドコイルを形成している。なお、図8の(イ)は、小型インダクタ10の平面図であり、磁心1に対し導体2、端子3が設けられており、また図8の(ロ)は、(イ)のa−a’に沿った小型インダクタの断面図であり、磁心1に対する導体2の配置および磁心1の両面にある導体2の接続が示され、また図8の(ハ)は、(イ)のb−b’に沿った小型インダクタの断面図であり、磁心1に対する端子3の配置および磁心1の両面にある端子3の接続が示されている。
【0003】
図9および図10は、図8に示した小型インダクタ10を用いた超小型電力変換装置の構成例を示す図である。図9において、小型インダクタ10と半導体チップ20とは、端子3が接合部(バンプ)4を介して半導体チップの表面21に設けられたパッド5に接続される構造となっている。一方、図10において、小型インダクタ10と半導体チップ20とは、端子3がワイヤ6を介して半導体チップの表面21に設けられたパッド5に接続される構造となっている。図9と図10とでは、半導体チップ20の裏面22が小型インダクタ10に対し外向きになるか(図9)または内向きになるか(図10)で構成が異なっている。
【0004】
下記特許文献1には、図9に示された超小型電力変換装置と同系の超小型電力変換装置の基本構造が開示されている。また下記特許文献2には、図10に示された超小型電力変換装置と類似の超小型電力変換装置の基本構造が開示されている。また下記特許文献3にはスルーホールを用いて構成された平面トランスが開示されている。そして超小型電力変換装置は、図9、図10に示すような構造で小型インダクタ10と半導体チップ20を集積化することにより、小型化されるものである。
【0005】
図11、図12および図13は超小型電力変換装置を実現する具体回路例を示す。すなわち図11の回路例は降圧型コンバータを実現する場合であり、図12の回路例は昇圧型コンバータを実現する場合であり、図13の回路例は反転型コンバータを実現する場合であり、いずれも半導体スイッチS1,S2のうち2個あるいは1個を搭載した半導体チップ20と小型インダクタ10とで超小型電力変換装置30が構成される。なお図11、図12および図13に示す回路例には、昇降圧コンバータの例は含まれていない。
【0006】
上述した従来の小型インダクタ10と半導体チップとを用いて昇降圧コンバータを実現すると、図14のような回路構成が想定される。しかしこの回路構成では、以下の理由により超小型電力変換装置を実現することは困難である。すなわち図14に示された回路構成では、
(1)半導体スイッチS1〜S4の4個必要となる。
(2)降圧動作場合、スイッチのオン抵抗が直列した2つのスイッチS1とS4の合算およびS2とS4の合算となり、昇圧動作の場合、スイッチのオン抵抗が直列した2つのスイッチS1とS3の合算およびS1とS4の合算となるため、効率が悪化する。
(3)効率の低下を改善するために半導体スイッチS1〜S4を大きくしなくてはならない。
(4)4個の大きいスイッチS1〜S4を駆動するために、半導体チップ20’の消費電流が増加する。
(5)上記したことから半導体チップ20’が大きくなってしまう。
【0007】
ところで下記特許文献4には、フライバックコンバータを昇降圧手段に用いる例が開示されている。そしてフライバックコンバータを実現する場合の一般的な回路例を図15に示す。図15においてスイッチS2をダイオードで置換しても同様に実現可能である。
【特許文献1】特開2004−72815号公報(図23,24,25)
【特許文献2】特開2007−81146号公報(図1)
【特許文献3】特開2000−243630号公報(図5)
【特許文献4】特開平7−177740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献4に示したフライバックコンバータに用いられているトランスは通常のトランスである。通常のトランスは他の部品に比べて大きく、当然図14に示した昇降圧コンバータに用いられている小型インダクタ10より大きい。つまりトランスの大きさは、電源装置の大きさを決める第1の要因となる。したがい、特許文献4および当業者の従来の常識には、図14の昇降圧コンバータを小型化するために、すなわち昇降圧型の超小型電力変換装置を実現するのに、フライバックコンバータを用いるという思想は全くない。むしろ、フライバックコンバータを用いると、電力変換装置の大きさが大きくなるというのが設計者の常識であった。なお、従来は、上述したように半導体スイッチの数が多くなること、および、効率アップのため半導体スイッチを大きくしなければならない、という設計常識によって半導体チップが大きくなっても、半導体チップよりインダクタやトランスの方がはるかに大きいので、半導体チップそのものの大きさによる電源装置全体への影響は軽微でさほど問題にされなかった。
【0009】
このような事情から、超小型電力変換装置において昇降圧コンバータを実現しようとする場合、半導体スイッチの数は4つのまま、半導体チップのレイアウトや半導体製造プロセスの工夫で半導体チップを小さくするという発想しかなく、これでは限界があるため今まで実現できないでいた。
【0010】
これに対し本発明は、図11〜13に示す超小型電力変換装置のものより半導体スイッチの数が増加することがなく、また半導体チップの大型化や効率の低下を招くことのない、昇降圧型の超小型電力変換装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の超小型電力変換装置は、板状の磁心を貫通して導体を巻きついた構造である小型トランスと半導体スイッチを2個搭載した半導体チップを集積した構造で構成したものである。つまり本発明は、従来の図9、図10の超小型電力変換装置の構造に対し、上記特許文献3に基本構造が開示されている平面トランスを用いれば、フライバックコンバータを構成しても全体の大きさを従来の図9、図10に示す超小型電力変換装置と同様の大きさにすることができるということを発案し超小型電力変換装置を実現したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半導体スイッチの数を増加することによる半導体チップの大型化や効率の低下を招くことなく、昇降圧型の超小型電力変換装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明は、従来の図9、図10の超小型電力変換装置の構造に対し、上記特許文献3に基本構造が開示されている平面トランスを用いれば、フライバックコンバータを構成しても全体の大きさを従来の図9、図10に示す超小型電力変換装置と同様の大きさにすることができるという発想のもとに昇降圧型の超小型電力変換装置を実現したものである。
【0014】
上述したようにフライバックコンバータは、その回路例を図15に示したように2個の半導体スイッチS1,S2とトランスにより昇降圧動作を実現し得る。このことを説明すると、一般に、フライバックコンバータの電圧変換効率M(=出力電圧/入力電圧)は、
M=D/(n(1−D)) ・・・(1)
(但し、DはスイッチS1のオン時比率、nはトランスの1次巻線と2次巻線の巻線数比)と表される。
【0015】
上記(1)式でスイッチS1のオン時比率D=0→1と変化させると、フライバックコンバータの電圧変換効率M=0→∞ と変化し、スイッチS1のオン時比率Dによって昇降圧動作を実現することができる。
【0016】
そこで本発明の実施形態に係る超小型電力変換装置では、図1に示す回路構成にする。すなわち図1において本発明の実施形態に係る超小型電力変換装置300は、上述した平面トランスにより構成される小型トランス100と、半導体スイッチS1,S2およびこれを制御する制御回路を含む半導体チップ200とで構成される。このように構成した超小型電力変換装置は、図14に示した昇降圧コンバータ回路例における4個のスイッチを必要とせず、2個の半導体スイッチでフライバックコンバータを構成することにより図14に示した回路例の諸問題を解決した昇降圧型の超小型電力変換装置を実現し得るものである。
【0017】
ここで半導体スイッチS1,S2をグランド基準(接地電位基準)で動作させることにより、半導体スイッチS1,S2の駆動が容易となり、半導体チップ200の構成を簡単化できる。また、P型の半導体スイッチと比較して高速スイッチングが可能なNチャネルMOSFET(metal-oxide-semiconductor field effect transistor)に代表されるN型の半導体スイッチやNPNトランジスタなどで2つの半導体スイッチS1,S2を構成することができるため、高速でスイッチング動作することができ、装置の小型化が容易になる。
【0018】
なお、図1に示した半導体スイッチS2は効率の低下を気にしなければダイオードで置き換え可能であるが、本発明の実施形態では、ダイオード利用による効率ロスを問題としてトランジスタ(N型半導体スイッチ(MOSFETもしくはバイポーラトランジスタもしくはIGBT(insulated gate bipolar transistor)))を用いて回路を実現している。ダイオード利用による効率ロスを除けば、半導体スイッチS2がダイオードであろうが半導体スイッチであろうが動作は同じで、スイッチS1とスイッチS2を相補的にオンオフ(一方がオンなら他方がオフ)する制御を施せば実現できる。但し、インダクタ電流が負極性となる状況を避ける場合は、スイッチS1とスイッチS2の両方がオフとなる状態も加える制御を行う。
【0019】
図2および図3は、図1の超小型電力変換装置300に用いる小型トランス100のコイルパターンを示す図である。図2は、図1の小型トランス100の1次側コイル(t1-t1’)と図1の小型トランス100の2次側コイル(t2-t2’)を1巻きごとに交互に巻いたコイルパターンである。ここで複数巻きごとに交互に巻いてもよい。そして図2(a)に示すトランス例1はコイルの端子(a,b,c,d)を磁心の一辺に配置した場合である。また図2(b)に示すトランス例2の端子aとdを図中の上辺に配置しているが、これを図中の左右の辺に配置してもよい。端子bとcも同様である。
【0020】
図3は、図1の小型トランス100の1次側コイル(t1-t1’)と図1の小型トランス100の2次側コイル(t2-t2’)を別々に巻いたコイルパターンである。そして図3(a)に示すトランス例3はコイルの端子(a,c,b,d)を磁心の一辺に配置した場合である。また図3(b)に示すトランス例4の端子aとdを図中の上辺に配置しているが、これを図中の左右の辺に配置してもよい。図3(c)に示すトランス例5の端子aとdも同様に図中の左右の辺に配置してもよい。
【0021】
図4および図5は、図1の超小型電力変換装置300に用いる半導体チップ200中のスイッチS1とスイッチS2の配置例を示す図である。図4および図5においてスイッチS1とスイッチS2の端子をアルファベットのA,C、B,D、E,F,Gで示している。なお図5は、スイッチS1とスイッチS2の低電位側の端子を共通のグランド(接地電位)に接続することを想定し、端子Gを共通にしたため、図4に示す端子数より少なくなっている。図4および図5のスイッチ配置例では左側のスイッチをS1と決めたが、図6、図7に示す内容により整合を取らなければならない場合にはスイッチS1とスイッチS2の配置を入れ替えてもよい。
【0022】
図6は、図1中のスイッチS1の端子s1,s1’、スイッチS2の端子s2,s2’と、図4および図5中のスイッチS1の端子A,C;E,G、スイッチS2の端子B,D;F,Gとに係る3通りの端子対応(対応1〜対応3)を示す対応表である。
【0023】
図7は、図1中の1次側コイル(t1-t1’)のトランス端子t1,t1’、2次側コイル(t2-t2’)のトランス端子t2,t2’と、図2および図3中のトランス端子a,b,c,dとの対応を示す対応表である。
【0024】
図6および図7に示す対応にしたがい、図1中の小型トランス100と半導体チップ200の端子間を、上述した図9に示す接合部(バンプ)4及びパッド5を使用した構成で接続または図10に示すワイヤ6及びパッド5を使用した構成で接続することにより、一層小型化した構成にすることができる。なお図2、図3に示すトランスの配置例は、図10に示すワイヤ6及びパッド5を使用した構成をとることを前提に配置を決めているが、もし図9に示す接合部4及びパッド5を使用した構成にする場合には、図2、図3に示すトランスまたは図4、図5に示す半導体チップのいずれかを左右反転させた構成のものを採用することにより実現する。
【0025】
ここで、図6および図7に示す対応表について補足すると、図7の「スイッチの端子対応2」の「トランス例3」の上側の配置は、小型トランス100(トランス例3)の外側のa,d端子を半導体チップ200の内側のC,D端子に接続し、小型トランス100の内側のc,b端子は図3(a)の裏面(裏面にも端子が設けられている)から接続するようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る超小型電力変換装置を実現するための回路構成を示す図である。
【図2】図1の超小型電力変換装置に用いる小型トランスの第1のコイルパターンを示す図である。
【図3】図1の超小型電力変換装置に用いる小型トランスの第2のコイルパターンを示す図である。
【図4】図1の超小型電力変換装置に用いる半導体チップの中のスイッチS1とスイッチS2の第1の配置例を示す図である。
【図5】図1の超小型電力変換装置に用いる半導体チップの中のスイッチS1とスイッチS2の第2の配置例を示す図である。
【図6】図1中のスイッチS1の端子s1,s1’、スイッチS2の端子s2,s2’と、図4および図5中のスイッチS1の端子A,C;E,G、スイッチS2の端子B,D;F,Gとの対応を示す対応表である。
【図7】図1中のトランス端子t1,t1’、t2,t2’と、図2および図3中のトランス端子a,b,c,dとの対応を示す対応表である。
【図8】超小型電力変換装置に用いられる従来の小型インダクタの構成例を示す図である。
【図9】図8に示した小型インダクタを用いた超小型電力変換装置の第1の構成例を示す図である。
【図10】図8に示した小型インダクタを用いた超小型電力変換装置の第2の構成例を示す図である。
【図11】超小型電力変換装置を実現する従来の第1の具体回路例を示す図である。
【図12】超小型電力変換装置を実現する従来の第2の具体回路例を示す図である。
【図13】超小型電力変換装置を実現する従来の第3の具体回路例を示す図である。
【図14】昇降圧型超小型電力変換装置を実現するために想定される回路例を示す図である。
【図15】フライバックコンバータを実現する従来の回路例を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 磁心
2 導体
3 端子
4 接合部(バンプ)
5 パッド
6 ワイヤ
10 小型インダクタ
20、20’ 半導体チップ
21 半導体チップの表面
22 半導体チップの裏面
30 超小型電力変換装置
100 小型トランス
200 半導体チップ
300 超小型電力変換装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の磁心を貫通して導体を巻きついた構造である小型トランスと半導体スイッチを2個搭載した半導体チップを集積した構造で構成される超小型電力変換装置。
【請求項2】
前記2つの半導体スイッチがグランド基準で動作するスイッチである請求項1記載の超小型電力変換装置。
【請求項3】
前記2つの半導体スイッチがN型半導体スイッチで構成される請求項1または2記載の超小型電力変換装置。
【請求項4】
前記2つのN型半導体スイッチのソースまたはエミッタが、半導体チップ上で並んで配置されるよう構成した請求項3記載の超小型電力変換装置。
【請求項5】
前記超小型電力変換装置が昇降圧型の電力変換装置であることを特徴とする請求項1記載の超小型電力変換装置。
【請求項6】
前記小型トランスの1次側コイルと2次側コイルが1巻きごとまたは複数巻きごとに交互に配置された請求項1記載の超小型電力変換装置。
【請求項7】
前記小型トランスの1次側コイルと2次側コイルが別々に巻かれて配置された請求項1記載の超小型電力変換装置。
【請求項1】
板状の磁心を貫通して導体を巻きついた構造である小型トランスと半導体スイッチを2個搭載した半導体チップを集積した構造で構成される超小型電力変換装置。
【請求項2】
前記2つの半導体スイッチがグランド基準で動作するスイッチである請求項1記載の超小型電力変換装置。
【請求項3】
前記2つの半導体スイッチがN型半導体スイッチで構成される請求項1または2記載の超小型電力変換装置。
【請求項4】
前記2つのN型半導体スイッチのソースまたはエミッタが、半導体チップ上で並んで配置されるよう構成した請求項3記載の超小型電力変換装置。
【請求項5】
前記超小型電力変換装置が昇降圧型の電力変換装置であることを特徴とする請求項1記載の超小型電力変換装置。
【請求項6】
前記小型トランスの1次側コイルと2次側コイルが1巻きごとまたは複数巻きごとに交互に配置された請求項1記載の超小型電力変換装置。
【請求項7】
前記小型トランスの1次側コイルと2次側コイルが別々に巻かれて配置された請求項1記載の超小型電力変換装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−142018(P2009−142018A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314294(P2007−314294)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】
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