説明

超純水中の全有機炭素含有量の測定システム及び方法

【課題】超純水に含まれる過酸化水素による影響を抑え、超純水中のTOC濃度を安定して測定する。
【解決手段】超純水中のTOC濃度の測定システム1は、過酸化水素を含む超純水から少なくとも一部の過酸化水素を除去することができる過酸化水素分解触媒2と、過酸化水素分解触媒の後段に設けられたTOC濃度測定装置3と、を有している。TOC濃度測定装置3は、超純水を導入し超純水を保持する保持チャンバー4と、保持チャンバーに保持された超純水に紫外線を照射する紫外線照射部5と、保持チャンバー4に保持された超純水の紫外線照射前後の導電率を測定する導電率測定部と、導電率測定部で測定した導電率から、紫外線照射部による紫外線の照射を受ける前に超純水に含まれていたTOC濃度を算出するデータ処理部9と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水中の全有機炭素含有量の測定システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野で多く用いられる超純水の水質要求は、年々厳しくなってきている。超純水の水質指標の一つである全有機炭素成分(以下、TOCという)濃度は、現在1ppb以下が求められることが多い。しかし、今後より低いTOC濃度が求められる可能性もあり、高精度なTOC濃度測定方法が即急に求められている。
【0003】
超純水等における低いTOC濃度の測定方法として、紫外線(UV)照射によりTOCが分解され発生した二酸化炭素をガス透過膜を介して脱イオン水に取込み、脱イオン水の導電率の変化からTOC濃度を算出する方法(UV−ガス透過膜式導電率測定法)が知られている。この方法では、サンプルのpH調整やTOC分解効率の促進のためにリン酸や酸化剤を使用しており、有機物の高い分解効率が得られる。しかし、リン酸や酸化剤などの薬剤に含まれるTOCもサンプルと一緒に測定されるため、測定誤差が生じる可能性がある。また、炭素ガスを取り込んだ脱イオン水はイオン交換樹脂に通して循環使用される。イオン交換樹脂からの炭酸イオンのブレーク防止のため、定期的な交換が必要となる。
【0004】
低いTOC濃度を測定する他の方法として、紫外線(UV)照射により光酸化反応を生じさせ超純水の導電率の変化を直接測定する方法(UV光酸化−直接導電率測定方式)が知られている(特許文献1)。この方法では、超純水に紫外線を照射し、光酸化触媒を用いてOHフリーラジカルを生成させ、TOCを水と二酸化炭素に分解する。このときCO2+H2O⇔H++HCO3-で表わされる平衡状態が生じ、TOCの分解が進行するに伴い導電率が増加する。従って、導電率の変化を測定することによって超純水中のTOC濃度を求めることができる。この方法は被測定水の超純水に薬剤等を添加せず、直接被測定水の導電率の変化を測定するため、他の有機炭素成分が混入する可能性が低く、超純水などに含まれる微量のTOC濃度を高精度で測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-153828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超純水は一般的に10〜50ppb程度の濃度で過酸化水素を含んでいる。また、超純水製造工程において、TOCの除去効率向上のために、あらかじめ超純水に過酸化水素を添加することがある。このような工程を含む場合、超純水中により高濃度の過酸化水素が存在している可能性がある。従って、超純水の製造供給装置のライン内で超純水中のTOC濃度を測定する場合、通常は過酸化水素を含んだ状態でTOC濃度が測定される。
【0007】
本願発明者はUV光酸化−直接導電率測定方式では、過酸化水素の影響によりTOC濃度がばらつくことを見出した。TOC濃度のばらつきは測定の信頼性を大きく低下させるだけでなく、ばらつきが大きいと、超純水がTOC濃度の要求値を満たしていることの確認すら困難となる。特に10ppb以下の極微量のTOC濃度を測定する場合には、測定値に対する誤差の割合が大きくなる。超純水製造プロセスにおいては、測定誤差を考慮して必要以上にTOC濃度を低下させる必要が生じる。
【0008】
本発明は、超純水に含まれる過酸化水素による影響を抑え、超純水中のTOC濃度を安定して測定することが可能なTOCの測定システム及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による超純水中の全有機炭素成分濃度の測定システムは、過酸化水素を含む超純水から少なくとも一部の過酸化水素を除去することができる過酸化水素分解触媒と、過酸化水素分解触媒の後段に設けられた全有機炭素成分濃度測定装置と、を有している。全有機炭素成分濃度測定装置は、超純水を導入し超純水を保持する保持チャンバーと、保持チャンバーに保持されている超純水に紫外線を照射する紫外線照射部と、保持チャンバーに保持されている超純水が紫外線照射部による紫外線の照射を受けて導電率の時間変化率が所定の値以下となったときの、保持チャンバーに保持されている超純水の導電率を測定する導電率測定部と、導電率測定部で測定した導電率から、紫外線照射部による紫外線の照射を受ける前に超純水に含まれていた全有機炭素成分濃度を算出するデータ処理部と、を備えている。
【0010】
本発明による超純水中の全有機炭素成分濃度の測定方法は、過酸化水素を濃度Xで含み全有機炭素成分濃度が10ppb以下である超純水から少なくとも一部の過酸化水素を除去する過酸化水素除去ステップと、過酸化水素除去ステップに続き、過酸化水素を含まずまたは過酸化水素を濃度X未満の濃度で含む超純水を保持チャンバーに保持し、保持チャンバーに保持されている超純水に紫外線を照射しながら、保持チャンバーに保持されている超純水の導電率を測定し、導電率の時間変化率が所定の値以下となったときの導電率を求めるステップと、導電率の時間変化率が所定の値以下となったときの導電率から、紫外線の照射を受ける前に超純水に含まれていた全有機炭素成分濃度を算出するステップと、を有している。
【0011】
過酸化水素は超純水の導電率を増加させるように作用する。従って、超純水を全有機炭素成分濃度測定装置に導入する前に、あらかじめ過酸化水素分解触媒に通し、過酸化水素の濃度を下げた状態で全有機炭素成分濃度を測定することで、過酸化水素が導電率に与える影響を抑え、その結果、全有機炭素成分濃度を安定して測定することができる。
【0012】
なお、「超純水」は一般に極めて純度の高い水を意味し、不純物の成分や濃度によって規定されるものではないが、本明細書ではTOC濃度が10ppb以下の条件を満たす水を「超純水」とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、超純水に含まれる過酸化水素による影響を抑え、超純水中のTOC濃度を安定して測定することが可能なTOCの測定システム及び測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る超純水中の全有機炭素成分濃度の測定システムを示す概略構成図である。
【図2】TOC濃度測定装置の概略構成図である。
【図3】実施例で用いた実験装置の概略構成図である。
【図4】導電率と過酸化水素の関係を示すグラフである。
【図5】実施例で用いた他の実験装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る超純水中の全有機炭素成分濃度の測定システム(以下、TOC濃度測定システムという)を示す概略構成図である。TOC濃度測定システム1は、超純水製造装置、超純水供給装置などの超純水が製造ないし使用される装置において、TOC濃度の測定が必要な部位に設置することができる。
【0016】
TOC濃度測定システム1は、過酸化水素分解触媒2と、過酸化水素分解触媒2の後段に設けられた全有機炭素濃度測定装置(以下、TOC濃度測定装置3という)と、を有している。TOC濃度測定システム1は、元弁11の設けられた導入配管12を介して、超純水製造装置の母管13等と接続されている。TOC濃度測定装置3は市販の装置でもよく、例えばA−1000XP(Anatel社製)などが挙げられる。市販の装置を用いる場合も、TOC濃度測定装置3の前段に過酸化水素分解触媒2を設けることで、本発明のTOC濃度測定システム1を構成することができる。
【0017】
過酸化水素分解触媒2は、超純水から、超純水に含まれている少なくとも一部の過酸化水素を除去する。過酸化水素分解触媒2は過酸化水素を分解除去可能である限り種類を問わないが、Pt(白金)、Pd(パラジウム)等の白金族金属であることが好ましい。白金族金属はそれ自体過酸化水素の分解能力を有しており、超純水中の過酸化水素が白金族金属触媒と接触することで、過酸化水素を触媒の分解作用によって除去することができる。
【0018】
過酸化水素分解触媒2は、アニオン交換体に白金族金属が担持された触媒金属担持体であることがより好ましい。一例として、粒状のアニオン交換樹脂にPt、Pd等の過酸化水素分解能力を有する触媒金属を担持させた触媒樹脂が挙げられる。過酸化水素分解触媒2は、モノリス状有機多孔質アニオン交換体に白金族金属が担持された触媒金属担持体であることがさらに好ましい。これらのアニオン交換体に白金族金属触媒を担持することにより、高い触媒能力の発揮と、触媒からの溶出物の低減を実現することができる。
【0019】
大きな空間速度(SV)を得るためには、モノリス状有機多孔質アニオン交換体に白金族金属が担持された触媒金属担持体を用いることが望ましい。モノリス状有機多孔質アニオン交換体は、アニオン交換樹脂が一体成形されたアニオン交換体である。この触媒金属担持体は好ましくは200〜20000h-1さらに好ましくは2000〜20000h-1のSVで超純水を通水させることができる。特にPdをモノリス状有機多孔質アニオン交換体に担持させたPdモノリスは、高速で超純水を通水させることができるため、TOC濃度測定システム1の小型化が容易である。SVが大きいため、触媒自体からのTOC溶出を抑えることができる。TOC濃度測定システム1の立ち上げ時に触媒自身から溶出したTOCが残留している場合も、高SVのため、残留しているTOCは速やかに排除され、装置の立ち上げ時間が短縮される。
【0020】
図2に、TOC濃度測定装置3の概略構成図を示す。TOC濃度測定装置3は、過酸化水素分解触媒2と隣接して設けられている。図1,2を併せて参照すると、TOC濃度測定装置3は、超純水が導入される保持チャンバー4を備えている。TOC濃度測定装置3の後段にはバルブ14が設けられており、バルブ14を閉めることによって保持チャンバー4の入口から導入された超純水を保持チャンバー4内に保持することができる。
【0021】
保持チャンバー4の一方の壁面には、紫外線ランプを備え保持チャンバー4に保持された超純水に紫外線を照射する紫外線照射部5が位置している。紫外線ランプとしては、少なくとも波長185nm及び波長254nmの成分の光を発生する低圧紫外線ランプを用いることが好ましい。保持チャンバー4は、紫外線ランプから出射した紫外線が所定の時間照射される紫外線照射領域(図示せず)を有している。保持チャンバー4の内部には、超純水と接する表面がTiO2でその下層がTiで形成された光触媒(図示せず)が設けられている。光触媒は保持チャンバー4に充填してもよいし、保持チャンバー4の内壁にコーティングしてもよい。波長185nm及び波長254nmの光はTOCの化学結合を解離させ、波長185nmの光は、光触媒の触媒作用のもとで超純水からOHフリーラジカルを生成する。生成されたOHフリーラジカルは、TOCを酸化反応によってCO2とH2Oとに分解する。
【0022】
保持チャンバー4に面して、保持チャンバー4に保持された超純水の導電率を測定する導電率測定部7が設けられている。導電率測定部7は、UV照射前の超純水の導電率C1と、酸化反応終了時の導電率C2を測定することができる。前述の通り、TOCの酸化反応によって生じたCO2及びH2Oは、CO2+H2O⇔H++HCO3-で表わされる平衡状態のもとで超純水中に存在する。従って、TOCの分解が進行すると、H+及びHCO3-の量が増え、超純水の導電率が増加する。導電率測定部7で測定された導電率はデータ処理部9に送られる。また、保持チャンバー4には温度センサー8が設けられており、保持チャンバー4の超純水の温度を測定することができる。温度センサー8は例えば導電率測定部7に隣接して設けることができる。温度センサー8で測定された温度もデータ処理部9に送られる。
【0023】
データ処理部9は導電率測定部7で測定されたUV照射前の超純水の導電率C1と、同じく導電率測定部7で測定された酸化反応終了時の導電率C2の差分C2−C1から、超純水に含まれていたTOC濃度を算出する。導電率とTOC濃度の間には相関性があり、この相関データはあらかじめデータ処理部9に記憶されている。得られた導電率を用いてTOC濃度を算出することができる。導電率は超純水の水温に依存するため、測定された温度を用いて導電率を補正し、TOC濃度を算出することができる。TOC濃度測定装置3はさらにコントローラー6を有している。コントローラー6は、紫外線ランプのオンオフ、バルブ14の開閉、導電率測定部7の作動などを制御する。
【0024】
次に、以上説明したTOC濃度測定システム1を用いて超純水中のTOC濃度を測定する方法について説明する。測定対象とする超純水のTOC濃度は10ppb以下、過酸化水素は濃度がXであるとする。測定対象とする超純水の電気抵抗率はTOC濃度測定装置3の仕様にも依存するが、一例では15MΩ・cm以上であることが望ましい。なお、「過酸化水素濃度X」とは、ある決まった値を指すものではなく、任意の超純水製造工程において超純水中に含まれている過酸化水素の濃度をいう。
【0025】
まず、紫外線照射部5の紫外線ランプが消灯し、元弁11とバルブ14が開いている状態で、超純水を保持チャンバー4内に導入し、TOC濃度測定装置3の全てのラインを洗浄する。一定の時間が経過するとコントローラー6の制御により元弁11とバルブ14が閉じられ、測定対象である超純水を、導入配管12を介して保持チャンバー4内に保持する。この際、超純水は過酸化水素分解触媒2と接触し、超純水から少なくとも一部の過酸化水素が除去される(過酸化水素除去ステップ)。これによって、超純水は過酸化水素を含まないか、または過酸化水素の濃度がX未満の状態で保持チャンバー4に導入される。バルブ14が閉じられているため、保持チャンバー4内に導入された超純水はそのまま保持チャンバー4内に保持される。なお、TOC濃度測定装置3は、過酸化水素分解触媒2と隣接して設けられることが望ましいが、超純水が過酸化水素を含まないか、または過酸化水素の濃度がX未満の状態で保持チャンバー4に導入される限り、TOC濃度測定装置3と過酸化水素分解触媒2の間に他の要素が介在していてもよい。
【0026】
この状態で導電率測定部7は、コントローラー6の制御により、保持チャンバー4内に保持された超純水の導電率C1を測定する。導電率C1は、紫外線照射部5による紫外線の照射を受ける前の、保持チャンバー4内に保持されている超純水の導電率である。超純水は微量の金属イオンなど導電性を有する物質を含有している場合があり、このような物質はTOCの分解に伴う導電率を測定する際のバックグラウンド導電率となる。従って、TOCの分解に伴う導電率の変化を測定するため、バックグラウンド導電率C1をあらかじめ測定しておくことが望ましい。
【0027】
次に、紫外線ランプを点灯する。保持チャンバー4内に保持された超純水に、少なくとも185nmと254nmの波長を含んだ紫外線が照射される。波長185nmと254nmの光の照射によって、超純水中に含まれる有機物の化学結合が解離される。波長185nmの光は超純水からOHフリーラジカルを生成する。OHフリーラジカル等の酸化反応により、有機物は二酸化炭素と水に分解される。この間、超純水の導電率は測定されている。酸化反応の進行に従い導電率が徐々に増加し、漸近値(飽和状態)に近づいてくる。コントローラー6の制御により、導電率の時間変化率(単位時間当たりの導電率の変化量)が所定の値以下となったときの(すなわち酸化反応が実質的に終了したときの)導電率C2を求める。導電率C2の測定が完了すると、コントローラー6の制御により紫外線ランプが消灯する。その後、コントローラー6の制御により元弁11およびバルブ14が開けられ、酸化反応が完了した超純水が排出された後、測定前と同様に一定時間、ラインの洗浄が行われる。
【0028】
次に、導電率C1と導電率C2の差分から、超純水に含まれていたTOC濃度を算出する。具体的にはデータ処理部9は、酸化反応が実質的に終了した後の導電率C2から紫外線照射前(酸化反応前)の導電率C1を引いた値ΔC(ΔC=C2−C1)を基にTOC濃度を算出する。これによって、TOCの酸化反応に起因する導電率の変動量を検出することができ、よって、超純水中に含まれていたTOC濃度を高精度でかつ安定して測定することができる。この際、超純水の温度測定結果を用いて、TOC濃度を補正することが望ましい。
【0029】
導電率C1が非常に小さいことが分かっている場合は導電率C1の測定を省略することもできる。すなわちΔC=C2として、導電率C2だけを用いて超純水に含まれていたTOC濃度を算出することもできる。
【0030】
(モノリス状有機多孔質アニオン交換体に白金族金属が担持された触媒金属担持体についての詳細な説明)
過酸化水素分解触媒2についてさらに詳細に説明する。過酸化水素分解触媒2は、活性炭、合成炭素系吸着材、イオン交換樹脂などを用いることもできるが、より好ましくは触媒金属担持体が好ましい。触媒金属担持体としては、アニオン交換樹脂にPt(白金)、Pd(パラジウム)等の過酸化水素分解能力を有する触媒金属を担持させた触媒樹脂が利用できるが、空間速度(SV)を得るためには、モノリス状有機多孔質アニオン交換体(以下、「モノリスアニオン交換体」という場合がある。)に白金族金属が担持された触媒金属担持体を用いることが望ましい。この触媒金属担持体は200〜20000h-1好ましくは2000〜20000h-1のSVで被処理水を通水させることができる。
【0031】
特にPdをモノリス状有機多孔質アニオン交換体に担持させたPdモノリスは、高速で被測定水を通水させることができるため、装置の小型化が容易である。モノリスアニオン交換体として特に好ましいのは、以下に述べるAタイプ及びBタイプである。
【0032】
(1)Aタイプのモノリスアニオン交換体
Aタイプのモノリスアニオン交換体は、モノリスにアニオン交換基を導入することで得られるものであり、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径30〜300μm、好ましくは30〜200μm、特に好ましくは40〜100μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体である。Aタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、モノリスにアニオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの開口の平均直径よりも大となる。水湿潤状態での開口の平均直径が30μm未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、水湿潤状態での開口の平均直径が大き過ぎると、被処理水とAタイプのモノリスアニオン交換体および担持された白金族金属ナノ粒子との接触が不十分となり、その結果、過酸化水素分解特性が低下してしまうため好ましくない。なお、乾燥状態のモノリス中間体の開口の平均直径、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径及び乾燥状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、水銀圧入法により測定される値を意味する。また、水湿潤状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、乾燥状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径に、膨潤率を乗じて算出される値である。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの開口の平均直径、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径を算出することもできる。
【0033】
Aタイプのモノリスアニオン交換体において、連続マクロポア構造体の切断面のSEM画像において、断面に表れる骨格部面積が、画像領域中、25〜50%、好ましくは25〜45%である。断面に表れる骨格部面積が、画像領域中、25%未満であると、細い骨格となり、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とAタイプのモノリスアニオン交換体およびそれに担持された白金族金属ナノ粒子との接触効率が低下し、触媒効果が低下するため好ましくなく、50%を超えると、骨格が太くなり過ぎ、通水時の圧力損失が増大するため好ましくない。
【0034】
また、Aタイプのモノリスアニオン交換体の全細孔容積は、0.5〜5ml/g、好ましくは0.8〜4ml/gである。全細孔容積が0.5ml/g未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過流体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が5ml/gを超えると、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にAタイプのモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とAタイプのモノリスアニオン交換体およびそれに担持された白金族金属ナノ粒子との接触効率が低下、触媒効果も低下してしまうため好ましくない。なお、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリスアニオン交換体)の全細孔容積は、水銀圧入法により測定される値を意味する。また、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリスアニオン交換体)の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0035】
なお、Aタイプのモノリスアニオン交換体に水を透過させた際の圧力損失は、これを1m充填したカラムに通水線速度(LV)1m/hで通水した際の圧力損失(以下、「差圧係数」と言う。)で示すと、0.001〜0.1MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.05MPa/m・LVであることが好ましい。
【0036】
Aタイプのモノリスアニオン交換体は、水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量が0.4〜1.0mg当量/mlである。体積当りのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml未満であると、体積当りの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、体積当りのアニオン交換容量が1.0mg当量/mlを超えると、通水時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、Aタイプのモノリスアニオン交換体の重量当りのアニオン交換容量は特に限定されないが、アニオン交換基が多孔質体の表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3.5〜4.5mg当量/gである。
【0037】
Aタイプのモノリスアニオン交換体において、連続マクロポア構造体の骨格を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好適には0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、10モル%を越えると、アニオン交換基の導入が困難になる場合があるため好ましくない。該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン等の芳香族ビニルポリマーが挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続マクロポア構造形成の容易さ、アニオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0038】
Aタイプのモノリスアニオン交換体のアニオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基等が挙げられる。
【0039】
導入されたアニオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。ここで言う「アニオン交換基が均一に分布している」とは、アニオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで表面および骨格内部に均一に分布していることを指す。アニオン交換基の分布状況は、対アニオンを塩化物イオン、臭化物イオンなどにイオン交換した後、EPMAを用いることで、比較的簡単に確認することができる。また、アニオン交換基が、モノリスの表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
【0040】
Aタイプのモノリスアニオン交換体は、骨太のモノリスにアニオン交換基が導入されるため、例えば骨太モノリスの1.4〜1.9倍のように大きく膨潤する。このため、骨太モノリスの開口径が小さいものであっても、モノリスイオン交換体の開口径は概ね、上記倍率で大きくなる。また、開口径が膨潤で大きくなっても全細孔容積は変化しない。従って、Aタイプのモノリスイオン交換体は、開口径が格段に大きいにもかかわらず、骨太骨格を有するため機械的強度が高い。
【0041】
(2)Bタイプのモノリスアニオン交換体
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、アニオン交換基が導入された全構成単位中、架橋構造単位を0.3〜5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが水湿潤状態で1〜60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が水湿潤状態で10〜100μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、全細孔容積が0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.3〜1.0mg当量/mlであり、アニオン交換基が該多孔質イオン交換体中に均一に分布している。
【0042】
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、アニオン交換基が導入された平均太さが水湿潤状態で1〜60μm、好ましくは3〜58μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が水湿潤状態で10〜100μm、好ましくは15〜90μm、特に好ましくは20〜80μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体である。すなわち、共連続構造は、連続する骨格相と連続する空孔相とが絡み合ってそれぞれが共に3次元的に連続する構造である。この連続した空孔は、従来の連続気泡型モノリスや粒子凝集型モノリスに比べて空孔の連続性が高くてその大きさに偏りがないため、極めて均一なイオンの吸着挙動を達成できる。また、骨格が太いため機械的強度が高い。
【0043】
Bタイプのモノリスアニオン交換体の骨格の太さ及び空孔の直径は、モノリスにアニオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの骨格の太さ及び空孔の直径よりも大となる。この連続した空孔は、従来の連続気泡型モノリス状有機多孔質アニオン交換体や粒子凝集型モノリス状有機多孔質アニオン交換体に比べて空孔の連続性が高くてその大きさに偏りがないため、極めて均一なアニオンの吸着挙動を達成できる。三次元的に連続した空孔の平均直径が水湿潤状態で10μm未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、100μmを超えると、被処理水と有機多孔質アニオン交換体との接触が不十分となり、その結果、被処理水中の溶存酸素の除去が不十分となるため好ましくない。また、骨格の平均太さが水湿潤状態で1μm未満であると、体積当りのアニオン交換容量が低下するといった欠点のほか、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にBタイプのモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とBタイプのモノリスアニオン交換体との接触効率が低下し、触媒効果が低下するため好ましくない。一方、骨格の太さが60μmを越えると、骨格が太くなり過ぎ、通水時の圧力損失が増大するため好ましくない。
【0044】
上記連続構造体の空孔の水湿潤状態での平均直径は、水銀圧入法で測定した乾燥状態のモノリスアニオン交換体の空孔の平均直径に、膨潤率を乗じて算出される値である。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの空孔の平均直径、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの空孔の平均直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の空孔の平均直径を算出することもできる。また、上記連続構造体の骨格の水湿潤状態での平均太さは、乾燥状態のBタイプのモノリスアニオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の骨格の太さを測定し、その平均値に、膨潤率を乗じて算出される値である。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの骨格の平均太さ、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの骨格の平均太さに、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の骨格の平均太さを算出することもできる。なお、骨格は棒状であり円形断面形状であるが、楕円断面形状等異径断面のものが含まれていてもよい。この場合の太さは短径と長径の平均である。
【0045】
また、Bタイプのモノリスアニオン交換体の全細孔容積は、0.5〜5ml/gである。全細孔容積が0.5ml/g未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過水量が小さくなり、処理水量が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が5ml/gを超えると、体積当りのアニオン交換容量が低下し、白金族金属ナノ粒子の担持量も低下し触媒効果が低下するため好ましくない。また、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にBタイプのモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とBタイプのモノリスアニオン交換体との接触効率が低下して、過酸化水素分解効果も低下してしまうため好ましくない。三次元的に連続した空孔の大きさ及び全細孔容積が上記範囲にあれば、被処理水との接触が極めて均一で接触面積も大きく、かつ低圧力損失下での通水が可能となる。なお、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリスアニオン交換体)の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0046】
なお、Bタイプのモノリスアニオン交換体に水を透過させた際の圧力損失は、多孔質体を1m充填したカラムに通水線速度(LV)1m/hで通水した際の圧力損失(以下、「差圧係数」と言う。)で示すと、0.001〜0.5MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.1MPa/m・LVである。
【0047】
Bタイプのモノリスアニオン交換体において、共連続構造体の骨格を構成する材料は、全構成単位中、0.3〜5モル%、好ましくは0.5〜3.0モル%の架橋構造単位を含んでいる芳香族ビニルポリマーであり疎水性である。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、5モル%を越えると、多孔質体の構造が共連続構造から逸脱しやすくなる。該芳香族ビニルポリマーの種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレンが挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、共連続構造形成の容易さ、アニオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
【0048】
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量が0.3〜1.0mg当量/mlのイオン交換容量を有する。Bタイプのモノリスアニオン交換体は、三次元的に連続した空孔の連続性や均一性が高いため、全細孔容積を低下させても圧力損失はさほど増加しない。そのため、圧力損失を低く押さえたままで体積当りのアニオン交換容量を飛躍的に大きくすることができる。体積当りのアニオン交換容量が0.3mg当量/ml未満であると、体積当りの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、体積当りのアニオン交換容量が1.0mg当量/mlを超えると、通水時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、Bタイプのモノリスアニオン交換体の乾燥状態における重量当りのアニオン交換容量は特に限定されないが、イオン交換基が多孔質体の骨格表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3.5〜4.5mg当量/gである。
【0049】
Bタイプのモノリスアニオン交換体のアニオン交換基としては、Aタイプのモノリスアニオン交換体の説明で挙げたものと同様のものを挙げることができる。また、アニオン交換基の分布状態や、「アニオン交換基が均一に分布している」ことの意味内容や、アニオン交換基分布状態の確認方法や、アニオン交換基がモノリスの表面のみならず多孔質体の骨格内部にまで均一に分布することの効果もAタイプのモノリスアニオン交換体と同様である。
【0050】
モノリス中間体のポリマー材料の種類は、Aタイプのモノリスアニオン交換体のモノリス中間体のポリマー材料の種類と同様であり、その説明を省略する。
【0051】
モノリス中間体の全細孔容積は、16ml/gを超え、30ml/g以下、好適には16ml/gを超え、25ml/g以下である。すなわち、このモノリス中間体は、基本的には連続マクロポア構造ではあるが、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)が格段に大きいため、モノリス構造を構成する骨格が二次元の壁面から一次元の棒状骨格に限りなく近い構造を有している。これを重合系に共存させると、モノリス中間体の構造を型として共連続構造の多孔質体が形成される。全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの構造が共連続構造から連続マクロポア構造に変化してしまうため好ましくなく、一方、全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの機械的強度が低下したり、体積当たりのアニオン交換容量が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体の全細孔容積をBタイプのモノリスアニオン交換体の特定の範囲とするには、モノマーと水の比を、概ね1:20〜1:40とすればよい。
【0052】
また、モノリス中間体は、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の平均直径が乾燥状態で5〜100μmである。開口の平均直径が乾燥状態で5μm未満であると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が小さくなり、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。一方、100μmを超えると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が大きくなりすぎ、被処理水とモノリスアニオン交換体との接触が不十分となり、その結果、過酸化水素分解特性が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0053】
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、共連続構造のモノリスにアニオン交換基が導入されるため、例えばモノリスの1.4〜1.9倍に大きく膨潤する。また、空孔径が膨潤で大きくなっても全細孔容積は変化しない。従って、Bタイプのモノリスアニオン交換体は、3次元的に連続する空孔の大きさが格段に大きいにもかかわらず、骨太骨格を有するため機械的強度が高い。また、骨格が太いため、水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量を大きくでき、更に、被処理水を低圧、大流量で長期間通水することが可能である。
【0054】
(触媒金属担持体)
触媒金属担持体は、モノリスアニオン交換体に白金族金属が担持されてなるものであり、モノリスアニオン交換体に、白金族金属のナノ粒子が担持されている触媒金属担持体であることが好ましい。
【0055】
モノリスアニオン交換体としては、上述したA,Bタイプのモノリスアニオン交換体が好ましい。
【0056】
白金族金属とは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金である。これらの白金族金属は、一種類を単独で用いても、二種類以上の金属を組み合わせて用いてもよく、更に、二種類以上の金属を合金として用いてもよい。これらの中で、白金、パラジウム、白金/パラジウム合金は触媒活性が高く、好適に用いられる。
【0057】
白金族金属のナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmであり、好ましくは1〜50nm、更に好ましくは1〜20nmである。平均粒子径が1nm未満であると、ナノ粒子が担体から脱離する可能性が高くなるため好ましくなく、一方、平均粒子径が100nmを超えると、金属の単位質量当たりの表面積が少なくなり触媒効果が効率的に得られなくなるため好ましくない。なお、ナノ粒子の平均粒子径が上記範囲内の場合、表面プラズモン共鳴によりナノ粒子は強く着色するため、目視によっても確認可能である。
【0058】
乾燥状態の触媒金属担持体中の白金族金属ナノ粒子の担持量((白金族金属ナノ粒子/乾燥状態の白金族金属担持触媒)×100)は、0.004〜20重量%、好ましくは0.005〜15重量%である。白金族金属ナノ粒子の担持量が0.004重量%未満であると、過酸化水素分解効果が不十分になるため好ましくない。
【0059】
触媒金属担持体において、白金族金属ナノ粒子の担体であるモノリスアニオン交換体のイオン形は、白金族金属ナノ粒子を担持した後は、通常、塩化物形のような塩形となる。このような塩形のものを過酸化水素分解用の触媒として用いても良い。また、触媒金属担持体は、モノリスアニオン交換体のイオン形を、OH形に再生したものであってもよい。そして、これらのうち、モノリスアニオン交換体のイオン形がOH形であることが、高い触媒効果が得られるため好ましい。白金族金属ナノ粒子を担持した後のモノリスアニオン交換体のOH形への再生方法には特に制限はなく、水酸化ナトリウム水溶液を通液する等の公知の方法を用いればよい。
【実施例】
【0060】
(過酸化水素と導電率の関係)
図3に示す構成の実験装置において通水流量60L/時で超純水を通水し、過酸化水素注入ポンプPによって過酸化水素を注入し、20、50、80、100ppbとなるように過酸化水素濃度を調整した。その後、過酸化水素濃度の調整された超純水を2つに分岐させ、一方は30L/時で過酸化水素分解触媒に通水した後、比抵抗を測定した。他方は30L/時で過酸化水素分解性能を持さないアニオンモノリスに通水した後、比抵抗を測定した。
【0061】
過酸化水素分解触媒としては、内径10mmのチューブに層高50mm(約2.5mL)でPdモノリスを充填したものを用いた。アニオンモノリスとしては、内径10mmのチューブに層高50mm(約2.5mL)で充填したものを用いた。これによって、Pdの有無による比抵抗の違いだけを抽出することができる。比抵抗計には875CR型(FOXBORO製)を使用した。過酸化水素濃度はサンプリングした後、フェノールフタリン法を用いて吸光光度計にて測定した。図中のSはサンプリング点を示す。
【0062】
結果を図4に示す。導電率と比抵抗は逆数の関係にあり、図4に示した導電率は、測定した比抵抗の逆数をとったものである。図4より、導電率と過酸化水素との間には相関があることがわかる。具体的には過酸化水素濃度が高くなると導電率も増加する傾向にある。また過酸化水素分解触媒がない場合は、過酸化水素分解触媒がある場合と比べ、導電率の増加が明らかに大きい。これより、超純水中の過酸化水素濃度は導電率に大きな影響を与えることが分かる。
【0063】
(実施例1)
超純水製造装置から供給された超純水を、図5に示す構成の実験装置に通水流量100L/時で供給した。供給された超純水の電気抵抗率は18MΩ・cm以上であった。実施例1では、供給された超純水を過酸化水素分解触媒に通水し、これをTOC濃度測定装置に供給した。
【0064】
超純水のTOC濃度はTOC濃度測定装置(Anatel社製A−1000XP型)を用いてオンラインで測定した。過酸化水素濃度はサンプリング点Sでサンプリングした後、フェノールフタリン法を用いて吸光光度計にて測定した。測定された過酸化水素濃度は被測定水の実際の過酸化水素濃度を示している。過酸化水素分解触媒としては、内径25mmのアクリルカラムに層高400mm(約200mL)でPd樹脂を充填したものを用いた。過酸化水素濃度とTOC濃度の測定結果を表1に示す。過酸化水素分解触媒出口での過酸化水素濃度の測定値は1ppb未満であり、TOC濃度は0.57ppbであった。
【0065】
(比較例1)
比較例1では、過酸化水素分解触媒を(バイパスライン経由で)バイパスして超純水をTOC濃度測定装置に供給した他は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。TOC測定前の過酸化水素濃度は19ppbであり、TOC濃度は0.60ppbであった。過酸化水素濃度が高い状態ではTOC濃度が大きめに測定されることがわかる。
【0066】
【表1】

【0067】
(実施例2)
超純水製造装置から供給された超純水を、図5に示す構成の実験装置に通水流量12L/時で供給した。供給された超純水の電気抵抗率は18MΩ・cm以上であった。実施例2では、供給された超純水を過酸化水素分解触媒に通水し、これをTOC濃度測定装置に供給した。
【0068】
超純水のTOC濃度及び過酸化水素濃度は実施例1と同様に測定した。過酸化水素分解触媒としては、内径10mmのナイロンカラムに層高30mm(約2.5mL)でPdモノリスを充填したものを用いた。結果を表2に示す。過酸化水素分解触媒出口での過酸化水素濃度の測定値は1ppb未満であり、TOC濃度は1.02ppbであった。
【0069】
(比較例2)
比較例2では、過酸化水素分解触媒をバイパスして超純水をTOC濃度測定装置に供給した他は、実施例2と同様とした。結果を表2に示す。TOC測定前の過酸化水素濃度は14ppbであり、TOC濃度は1.24ppbであった。過酸化水素濃度が高い状態ではTOC濃度が大きめに測定されることがわかる。
【0070】
【表2】

【符号の説明】
【0071】
1 TOC濃度測定システム
2 過酸化水素分解触媒
3 TOC濃度測定装置
4 保持チャンバー
5 紫外線照射部
6 コントローラー
7 導電率測定部
9 データ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素を含む超純水から少なくとも一部の過酸化水素を除去することができる過酸化水素分解触媒と、
前記過酸化水素分解触媒の後段に設けられた全有機炭素成分濃度測定装置であって、前記超純水を導入し前記超純水を保持する保持チャンバーと、前記保持チャンバーに保持されている超純水に紫外線を照射する紫外線照射部と、前記保持チャンバーに保持されている超純水が前記紫外線照射部による紫外線の照射を受けて導電率の時間変化率が所定の値以下となったときの、前記保持チャンバーに保持されている前記超純水の導電率を測定する導電率測定部と、前記導電率測定部で測定した前記導電率から、前記紫外線照射部による紫外線の照射を受ける前に前記超純水に含まれていた全有機炭素成分濃度を算出するデータ処理部と、を備えた全有機炭素成分濃度測定装置と、
を有する、超純水中の全有機炭素成分濃度の測定システム。
【請求項2】
過酸化水素を含む超純水から少なくとも一部の過酸化水素を除去することができる過酸化水素分解触媒と、
前記過酸化水素分解触媒の後段に設けられた全有機炭素成分濃度測定装置であって、前記超純水を導入し前記超純水を保持する保持チャンバーと、前記保持チャンバーに保持されている超純水の導電率を測定する導電率測定部と、前記導電率測定部で測定した導電率から前記超純水に含まれていた全有機炭素成分濃度を算出するデータ処理部と、を備えた全有機炭素成分濃度測定装置と、
を有し、
前記導電率測定部は、前記保持チャンバーに保持されている前記超純水の導電率が、前記紫外線照射部による紫外線の照射を受ける前と、前記紫外線照射部による紫外線の照射を受けて前記導電率の時間変化率が所定の値以下となったときの2つの段階で得られるようにされ、
前記データ処理部は、前記2つの段階における前記導電率の差分から、前記紫外線照射部による紫外線の照射を受ける前に前記超純水に含まれていた全有機炭素成分濃度を算出するようにされている、超純水中の全有機炭素成分濃度の測定システム。
【請求項3】
前記全有機炭素成分濃度測定装置は前記過酸化水素分解触媒の後段に前記過酸化水素分解触媒と隣接して設けられている、請求項1または2に記載の測定システム。
【請求項4】
前記過酸化水素分解触媒は白金族金属である、請求項1から3のいずれか1項に記載の測定システム。
【請求項5】
前記過酸化水素分解触媒はアニオン交換体に白金族金属が担持された触媒金属担持体である、請求項1から3のいずれか1項に記載の測定システム。
【請求項6】
前記触媒金属担持体は、モノリス状有機多孔質アニオン交換体に白金族金属が担持された触媒金属担持体である、請求項5に記載の測定システム。
【請求項7】
前記アニオン交換体がOH形である請求項5または6に記載の測定システム。
【請求項8】
前記触媒金属担持体は、有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子が、担持されている白金族金属担持触媒であり、
前記有機多孔質アニオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径30〜300μmの開口となる連続マクロポア構造を有し、0.3〜10モル%の架橋構造単位を含有する有機ポリマー材料からなり、全細孔容積が0.5〜5ml/gであり、アニオン交換容量が湿潤状態で0.4〜1mg当量/mlであり、アニオン交換基が該多孔質イオン交換体中に均一に分布している、請求項5から7のいずれか1項に記載の測定システム。
【請求項9】
前記触媒金属担持体は、有機多孔質アニオン交換体に白金族金属のナノ粒子が、担持されている白金族金属担持触媒であり、
前記有機多孔質アニオン交換体は、アニオン交換基が導入された全構成単位中、架橋構造単位を0.3〜5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが水湿潤状態で1〜60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が水湿潤状態で10〜100μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、全細孔容積が0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.3〜1.0mg当量/mlであり、アニオン交換基が該多孔質イオン交換体中に均一に分布している、請求項5から7のいずれか1項に記載の測定システム。
【請求項10】
過酸化水素を濃度Xで含み全有機炭素成分濃度が10ppb以下である超純水から少なくとも一部の過酸化水素を除去する過酸化水素除去ステップと、
前記過酸化水素除去ステップに続き、過酸化水素を含まずまたは過酸化水素を濃度X未満の濃度で含む前記超純水を保持チャンバーに保持し、前記保持チャンバーに保持されている前記超純水に紫外線を照射しながら、前記保持チャンバーに保持されている前記超純水の導電率を測定し、導電率の時間変化率が所定の値以下となったときの導電率を求めるステップと、
前記導電率の時間変化率が所定の値以下となったときの導電率から、前記紫外線の照射を受ける前に前記超純水に含まれていた全有機炭素成分濃度を算出するステップと、
を有する、超純水中の全有機炭素成分濃度の測定方法。
【請求項11】
過酸化水素を濃度Xで含み全有機炭素成分濃度が10ppb以下である超純水から少なくとも一部の過酸化水素を除去する過酸化水素除去ステップと、
前記過酸化水素除去ステップに続き、過酸化水素を含まずまたは濃度X未満の濃度で過酸化水素を含む前記超純水を保持チャンバーに保持し、前記保持チャンバーに保持されている前記超純水に紫外線を照射しながら、前記保持チャンバーに保持されている前記超純水の導電率を測定し、その後前記保持チャンバーに保持されている前記超純水に紫外線を照射し前記保持チャンバーに保持されている前記超純水の導電率の時間変化率が所定の値以下となったときの導電率を求めるステップと、
2つの前記導電率の差分から、前記紫外線の照射を受ける前に前記超純水に含まれていた全有機炭素成分濃度を算出するステップと、
を有する、超純水中の全有機炭素成分濃度の測定方法。
【請求項12】
前記一部の過酸化水素を除去することは、前記超純水を過酸化水素分解触媒に接触させることを含む、請求項10または11に記載の測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−63302(P2012−63302A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209234(P2010−209234)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】