説明

超耐熱自己融着線およびスピーカー用超耐熱性ボイスコイル

【課題】アルコールによる接着が可能で、耐熱性が要求される各種電気機器用コイル、特には超耐熱性ボイスコイルの製造に好適な超耐熱自己融着線を提供し、またこの自己融着線を使用した、例えば450℃以上の高温下に於いてもコイルの耐熱性が優れた超耐熱性ボイスコイルを提供する。
【解決手段】融点が150℃超200℃以下の高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂80〜100重量部に、ビスマレイミド化合物5〜50重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ基を残し位置選択的にアルコキシシランを化学結合させたシラン変性エポキシ樹脂20〜50重量部及びアミノ系樹脂5〜10重量部を添加し、これを有機溶剤に溶解した融着塗料を導体(1)上に他の絶縁皮膜(2)を介して塗布,焼付け、アルコール可溶性で耐熱性を有する融着皮膜(3)を形成させ超耐熱自己融着線(5)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己融着線およびスピーカー用ボイスコイル(以下、ボイスコイルと略記する)に関する。更に詳しくは、耐熱性が要求される偏向ヨーク、ボイスコイル、モーター用コイル等の電気機器用コイルを製造するのに好適な超耐熱自己融着線および例えば450℃以上の高温下においてもボイスコイルの耐熱性が優れた超耐熱性ボイスコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
導体上に絶縁皮膜を介して融着塗料を塗布,焼付けた自己融着線は、コイルの巻線後、加熱または溶剤処理により融着皮膜が溶解又は膨潤し線間相互を融着固化せしめ得ることから、簡単に自己支持型コイルを作ることが可能である。例えば偏向ヨーク、スピーカー用ボイスコイル、モーター用コイル等の電気機器用コイルとして、自己融着線を整列巻きにしたコイルが製造され、使用されている。前記ボイスコイルやモーター用コイルに用いられている自己融着線用の融着塗料は、通常、アルコール可溶性ポリアミド樹脂を有機溶剤に溶解して製造されている。従って、この融着塗料を絶縁導体上に塗布,焼付けた自己融着線の融着皮膜はアルコール可溶性ポリアミド樹脂により形成されている。また前記アルコール可溶性ポリアミド樹脂にエポキシ樹脂またはフェノール樹脂等の硬化付与成分を添加した融着塗料を絶縁導体上に塗布,焼付けた自己融着線も知られている。
上記アルコール可溶性ポリアミド樹脂にエポキシ樹脂を添加し、これを有機溶剤に溶解して製造した融着塗料を絶縁導体上に塗布,焼付けした自己融着線は下記特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平7−94026
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、各種電気機器が高性能化するとともに、ボイスコイルやモーターへの負荷が大きくなるためにコイルの耐熱性向上が要求されている。しかしながら、前記アルコール可溶性ポリアミド樹脂は、融点が110℃〜150℃の熱可塑性樹脂であるため、自己融着線を巻線したコイルは200℃近辺において接着力の低下が著しくなり、耐熱性が十分ではないという問題点があった。また、前記アルコール可溶性ポリアミド樹脂にエポキシ樹脂等の硬化付与成分を添加した融着塗料を絶縁導体上に塗布,焼付けた自己融着線を用い、ボイスコイル等の耐熱性を向上させることが行われているが十分な耐熱性が得られないという問題点があった。
特にスピーカーが高出力化、高性能化するとともにボイスコイルへの熱と振動による負荷が大きくなるためボイスコイルの更なる耐熱性向上が要求され、例えば450℃以上の高温下においても自己融着線がほつれず、コイルの形状を保持することが可能な超耐熱性ボイスコイルが要求されているが、上記従来の自己融着線では不可能であるという問題点があった。
【0004】
本発明は、上記従来技術が有する各種問題点を解決するためになされたものであり、アルコール系溶剤による接着が可能で、耐熱性が要求される各種電気機器用コイル、特には超耐熱性ボイスコイルの製造に好適な超耐熱自己融着線を提供し、またこの自己融着線を使用した、例えば450℃以上の高温下においても自己融着線がほつれず、コイルの形状を保持することが可能な超耐熱性ボイスコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点として本発明は、融点が150℃を超え、200℃以下の高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂(以下、高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂と略記する)80〜100重量部に、ビスマレイミド化合物5〜50重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ基を残し位置選択的にアルコキシシランを化学結合させたシラン変性エポキシ樹脂(以下、シラン変性エポキシ樹脂と略記する)20〜50重量部及びアミノ系樹脂5〜10重量部を添加し、これを有機溶剤に溶解した融着塗料を導体上に直接、または他の絶縁皮膜を介して塗布,焼付け、アルコール可溶性で耐熱性を有する融着皮膜(以下、耐熱融着皮膜と略記する)を形成させたことを特徴とする超耐熱自己融着線にある。
前記耐熱融着皮膜はアルコール塗布により膨潤,溶融し、乾燥、熱処理後自己融着線同士を強固に固着するとともに、固着融着皮膜に耐熱性を付与しなければならない。そのためポリアミド樹脂の選定及び耐熱付与成分との組合せが重要となるが、本発明では、その組合せと配合組成について特に配慮したものである。
【0006】
上記第1観点の自己融着線は、高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂を主成分とし、これにビスマレイミド化合物、シラン変性エポキシ樹脂、及びアミノ系樹脂を添加した4成分からなる融着塗料を導体上に直接、または他の絶縁皮膜を介して塗布,焼付けることにより耐熱融着皮膜が形成される。この融着皮膜は、アルコール(アルコール系溶剤)塗布により膨潤,溶解すると、前記4成分が一定の比率で溶解融着皮膜中に均一に分散する。そして、乾燥することにより溶解融着皮膜中のアルコールが蒸発し、次いで熱処理を行うことにより、高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂とシラン変性エポキシ樹脂との架橋反応が、架橋剤として添加されたアミノ系樹脂により促進されて進行する。また同時に、シラン変性エポキシ樹脂のアルコキシシランの加水分解、縮合が起こり、またシラン変性エポキシ樹脂のエポキシ基とビスマレイミド化合物のイミド基とが反応し、これらの樹脂相互の硬化を促進する。従って、シラン変性エポキシ樹脂及びビスマレイミド化合物の添加は、融着皮膜の耐熱性を付与する作用をする。なお、前記高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂と耐熱付与成分との配合組成を上記のように限定した理由は、この範囲外ではアルコール塗布による溶融性が悪くなり、またコイルにした後の耐熱性が低下してしまうので好ましくないためである。前記アルコール(アルコール系溶剤)としては、例えばメタノール、エタノール、変成アルコール、或いはこれらの混合溶剤が挙げられる。
【0007】
前記高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂は、融着塗料の主成分樹脂として用いられ、融着皮膜となった場合、接着力に一番寄与する樹脂である。この高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂は6.10ポリアミド樹脂又は6.6ポリアミド樹脂等からなる共重合ポリアミド樹脂である。その具体例としては、例えばMX1178(アトフィナジャパン社商品名:融点180〜190℃)が挙げられる。
前記ビスマレイミド化合物は、反応促進に寄与する官能基を有しており、コイル巻線後の加熱処理の段階でシラン変性エポキシ樹脂と反応して融着皮膜が硬化するため、耐熱性が付与されるものである。その具体例としては、例えばBT2100(三菱ガス化学社商品名)が挙げられる。
前記シラン変性エポキシ樹脂は、融着皮膜の耐熱性向上に寄与するために添加される樹脂であり、例えばコンポセランE102、E103、E201、E202(荒川化学工業社商品名)等を挙げることができる。なお前記シラン変性エポキシ樹脂のアルコキシシランのタイプとしては3官能メトキシまたは4官能メトキシが好ましい。例えば上記コンポセランE103、E201のアルコキシシランのタイプは3官能メトキシであり、またコンポセランE102、E202のタイプは4官能メトキシである。
前記アミノ系樹脂は、架橋剤として添加され、高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂とシラン変性エポキシ樹脂との架橋反応を促進させる樹脂である。その具体例としては、例えばデラミンA−100SL、デラミンCTU−100、デラミンMT−30(富士化成社商品名)等を挙げることができる。また前記絶縁皮膜としては、耐熱性を有する絶縁皮膜、例えばポリアミドイミド絶縁皮膜、ポリエステルイミド絶縁皮膜、またはポリイミド絶縁皮膜が好ましく用いられる。
以上のように、本発明の自己融着線は優れた耐熱性が付与されるため、得られるコイルの耐熱性が高くなる。従って、高温かつ振動する環境下での使用に極めて好適となり、高出力のスピーカーに用いられるボイスコイルとしても極めて好適となる。
【0008】
第2の観点として本発明は、前記シラン変性エポキシ樹脂は10wt%〜60wt%のシリカ分を含有することを特徴とする超耐熱自己融着線にある。
例えば上記コンポセランE103はシラン変性エポキシ樹脂中に35wt%のシリカ分を含有している。
上記第2観点の超耐熱自己融着線では、シラン変性エポキシ樹脂は10wt%〜60wt%のシリカ分を含有するので、自己融着線はより優れた耐熱性が付与されるため、得られるコイルの耐熱性がより高くなる。なお、シリカ分が10wt%未満では耐熱性の付与に大きな効果が得られず、またシリカ分が60wt%を超えても耐熱性の付与に更なる効果が得られないためである。
【0009】
第3の観点として本発明は、上記第1または第2観点の超耐熱自己融着線を、アルコール系溶剤を用いて巻き筒に巻線した後、更に熱処理を施してコイルの接着力と耐熱性を向上させたことを特徴とするスピーカー用超耐熱性ボイスコイル(以下、超耐熱ボイスコイルと略記する)にある。
前記アルコール系溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、変成アルコール、或いはこれらの混合溶剤が用いられる。また、前記巻き筒としては、耐熱性を有する巻き筒が好ましく、例えばアルミ箔、ポリイミド樹脂フィルム(カプトン(商品名))等が用いられる。
上記第3観点の超耐熱ボイスコイルでは、上記超耐熱自己融着線を、アルコール系溶剤を用いて巻き筒に巻線した後、更に熱処理を施しているため、ボイスコイルの接着力と耐熱性が大幅に向上し、ボイスコイルへの熱と振動による負荷が大きくなった場合にも使用することができる。従って、高出力のスピーカーに用いられるボイスコイルとしても極めて好適となる。
【0010】
第4の観点として本発明は、上記第3観点の熱処理が、熱処理温度150℃〜250℃で行われることを特徴とするスピーカー用超耐熱性ボイスコイルにある。
上記第4観点の超耐熱ボイスコイルでは、熱処理温度が150℃〜250℃で行われるので、熱処理を短時間で行うことが出来、上記第3観点の超耐熱ボイスコイルが好ましく製造できる。なお、熱処理温度が150℃未満では、熱処理時間が長くなるので好ましくなく、また250℃を超えると、前記各反応が急速に起こり、耐熱性付与の効果が減少するので好ましくない。
【発明の効果】
【0011】
本発明の超耐熱自己融着線は、融着皮膜のアルコール可溶性が極めて優れており、また接着特性に優れているのでコイルの製造を効率よく行うことが可能である。またコイルに巻線後、熱処理をすることにより、優れた接着力と耐熱性が付与されるため、コイルの耐熱性が極めて高くなり、高温環境下での使用に耐えられるので、超耐熱ボイスコイル用の自己融着線として極めて好適となる。
また本発明の超耐熱ボイスコイルは、本発明の自己融着線を用い、アルコール系溶剤を用いて巻き筒に巻線した後、更に熱処理、好ましくは150℃〜250℃の熱処理を施してコイルの接着力と耐熱性を向上させたものであるので、高温環境下、例えば450℃以上の高温下においても自己融着線がほつれず、ボイスコイルの形状を保持することが可能となり、高出力のスピーカー用ボイスコイルとして極めて好適となる。従って、本発明は産業に寄与する効果が極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の内容を、図に示す実施の形態により更に詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
図1は本発明の超耐熱自己融着線の1実施形態(実施例)を示す断面図である(比較例の自己融着線にも使用)。図2は本発明の超耐熱ボイスコイルの1実施形態(実施例)を示す略図であり、同図(a)は斜視図、また同図(b)は断面図である(比較例のボイスコイルにも使用)。図3は本発明の超耐熱自己融着線の耐熱接着力試験結果(ヘリカルコイル法)を示すグラフである(比較例の自己融着線も示す)。また図4はボイスコイルの耐熱性試験に使用する回路図である。
これらの図において、1は導体(銅線)、2は絶縁皮膜、3は耐熱融着皮膜(融着皮膜)、5は超耐熱自己融着線(自己融着線)、10は巻き筒(基材)、20は超耐熱ボイスコイル(ボイスコイル)(試験用ボイスコイル)、Aは電流計、Kは交流電源、またVは電圧計である。
【0013】
本発明の超耐熱自己融着線および超耐熱ボイスコイルの実施形態について融着塗料の調製から順を追って説明する。なお比較例についても同時に説明する。
(1)超耐熱自己融着線用融着塗料(融着塗料)の調製
融着塗料の調製について表1を用いて説明する。なお表1は実施例1〜5の超耐熱自己融着線および比較例1、2の自己融着線に用いる融着塗料の配合組成表である。
【0014】
【表1】

【0015】
―実施調製例1―
撹拌機、温度計及び冷却管をつけた2000mlのセパラブル丸底フラスコに、表1の配合組成表に従って、主成分の高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂のMX1178を145.5g、ビスマレイミド化合物としてBT2100を9.0g、シラン変性エポキシ樹脂としてコンポセランE103(硬化残分48.7% 荒川化学工業社商品名)を74.7g、アミノ系樹脂としてデラミンMT−30を9.1g、及び有機溶剤としてクレゾール/キシロール=1/1混合溶剤(以下混合溶剤という)を800.0g入れ、60〜80℃の温度で3時間加熱撹拌して樹脂を溶解した後、この溶液を室温迄冷却し、濃度20%の実施調製例1の融着塗料を調製した。
【0016】
―実施調製例2―
撹拌機、温度計及び冷却管をつけた2000mlのセパラブル丸底フラスコに、表1の配合組成表に従って、主成分の高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂のMX1178を134.9g、ビスマレイミド化合物としてBT2100を15.9g、シラン変性エポキシ樹脂としてコンポセランE103を81.5g、アミノ系樹脂としてデラミンMT−30を9.5g、及び有機溶剤として混合溶剤を800.0g入れ、60〜80℃の温度で3時間加熱撹拌して樹脂を溶解した後、この溶液を室温迄冷却し、濃度20%の実施調製例2の融着塗料を調製した。
【0017】
―実施調製例3―
撹拌機、温度計及び冷却管をつけた2000mlのセパラブル丸底フラスコに、表1の配合組成表に従って、主成分の高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂のMX1178を122.4g、ビスマレイミド化合物としてBT2100を27.3g、シラン変性エポキシ樹脂としてコンポセランE103を83.8g、アミノ系樹脂としてデラミンMT−30を9.5g、及び有機溶剤として混合溶剤を800.0g入れ、60〜80℃の温度で3時間加熱撹拌して樹脂を溶解した後、この溶液を室温迄冷却し、濃度20%の実施調製例3の融着塗料を調製した。
【0018】
―実施調製例4―
撹拌機、温度計及び冷却管をつけた2000mlのセパラブル丸底フラスコに、表1の配合組成表に従って、主成分の高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂のMX1178を109.8g、ビスマレイミド化合物としてBT2100を34.7g、シラン変性エポキシ樹脂としてコンポセランE103を94.9g、アミノ系樹脂としてデラミンMT−30を9.3g、及び有機溶剤として混合溶剤を800.0g入れ、60〜80℃の温度で3時間加熱撹拌して樹脂を溶解した後、この溶液を室温迄冷却し、濃度20%の実施調製例4の融着塗料を調製した。
【0019】
―実施調製例5―
撹拌機、温度計及び冷却管をつけた2000mlのセパラブル丸底フラスコに、表1の配合組成表に従って、主成分の高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂のMX1178を100.5g、ビスマレイミド化合物としてBT2100を40.2g、シラン変性エポキシ樹脂としてコンポセランE103を103.3g、アミノ系樹脂としてデラミンMT−30を9.0g、及び有機溶剤として混合溶剤を800.0g入れ、60〜80℃の温度で3時間加熱撹拌して樹脂を溶解した後、この溶液を室温迄冷却し、濃度20%の実施調製例5の融着塗料を調製した。
【0020】
―比較調製例1―
攪拌機、温度計及び冷却管を取り付けた2000mlのセパラブル丸底フラスコに、表1の配合組成表に従って、主成分のアルコール可溶性ポリアミド樹脂としてM1276(融点110℃〜115℃)(独国elfatchem社商品名)を153.8g、添加樹脂のビスフェノールA型エポキシ樹脂としてエピコート1007を46.2g、及び混合溶剤を800.0g入れ、60〜80℃の温度で3時間攪拌して各樹脂を溶解した後、この溶液を室温迄冷却し、濃度20%の比較調製例1の融着塗料を調製した。
【0021】
―比較調製例2―
攪拌機、温度計及び冷却管を取り付けた2000mlのセパラブル丸底フラスコに、表1の配合組成表に従って、主成分のアルコール可溶性ポリアミド樹脂としてM1276を153.8g、添加樹脂のフェノール樹脂としてPS−2772(群栄化学工業社商品名)を46.2g、及び混合溶剤を800.0g入れ、60〜80℃の温度で3時間攪拌して各樹脂を溶解した後、この溶液を室温迄冷却し、濃度20%の比較調製例2の融着塗料を調製した。
【0022】
(2)超耐熱自己融着線(自己融着線)の製造
本発明の超耐熱自己融着線の製造について図1を用いて説明する。また、比較例の自己融着線の製造についても説明する。
【実施例1】
【0023】
導体径0.180mmの銅線(1)にポリアミドイミド絶縁塗料を外径が0.196mmとなるように塗布,焼付けして絶縁皮膜(2)を設けた絶縁導体上に、前記実施調製例1により得られた融着塗料を、ダイスを用いて5回掛けで塗布,焼付し、皮膜厚が0.010mmの耐熱融着皮膜(3)を設けて実施例1の超耐熱自己融着線(5)を製造した。なお、前記融着皮膜(3)の焼付後、皮膜の表面に流動パラフィンを塗布してからボビンに巻き取った。また前記融着皮膜(3)の焼付は2.5m長の横型電気炉を用い、炉温260/300℃,線速40m/minで行った。
【実施例2】
【0024】
前記実施調製例2により得られた融着塗料を用いて皮膜厚が0.010mmの耐熱融着皮膜(3)を設ける以外は上記実施例1と同様にして実施例2の超耐熱自己融着線(5)を製造した。
【実施例3】
【0025】
前記実施調製例3により得られた融着塗料を用いて皮膜厚が0.010mmの耐熱融着皮膜(3)を設ける以外は上記実施例1と同様にして実施例3の超耐熱自己融着線(5)を製造した。
【実施例4】
【0026】
前記実施調製例4により得られた融着塗料を用いて皮膜厚が0.010mmの耐熱融着皮膜(3)を設ける以外は上記実施例1と同様にして実施例4の超耐熱自己融着線(5)を製造した。
【実施例5】
【0027】
前記実施調製例5により得られた融着塗料を用いて皮膜厚が0.010mmの耐熱融着皮膜(3)を設ける以外は上記実施例1と同様にして実施例5の超耐熱自己融着線(5)を製造した。
【0028】
−比較例1、2−
比較例1、2の自己融着線の製造について説明する。
上記比較調製例1、2により得られた融着塗料をそれぞれ用いて皮膜厚が0.010mmの融着皮膜(3)を設ける以外は上記実施例1と同様にして比較例1、2の自己融着線(5)を製造した。
【0029】
―超耐熱自己融着線(自己融着線)の特性試験―
(イ)一般特性試験
上記により得られた実施例1〜5の超耐熱自己融着線、および比較例1、2の自己融着線について一般特性試験を行った。その結果を下記表2に示す。
表2の試験結果から明らかなように、本発明の超耐熱自己融着線はピンホール等の一般特性が良好であった。また表には記載しなかったが、本発明の自己融着線の耐熱融着皮膜はアルコール可溶性が極めて優れていた。
【0030】
【表2】

【0031】
(ロ)耐熱接着力試験(ヘリカルコイル法)
上記により得られた実施例1〜5の超耐熱自己融着線、および比較例1、2の自己融着線より試験線を採取し、巻き付け棒(マンドレル)として、線外径の10倍径の1.8mmΦのものを用い、このマンドレルに20ターン巻きつけてヘリカルコイルとした。次に、このヘリカルコイルにメタノールを塗布し、常温で30分乾燥後、180℃×30分熱処理してコイルを接着させ試験コイルを作製した。次に、これらの試験コイルを40℃〜180℃の範囲で20℃間隔に保った恒温槽中に各3分間保持し、耐熱接着力を測定した。なお20℃については常温で測定した。その結果を下記表3に示す。またこの表3をグラフ化したものを図3に示す。なお、実施例5については実施例4と殆んど数値が同じであり、また比較例2についても比較例1と殆んど数値が同じであったので、表と図に載せなかった。
この試験結果から明らかなように、本発明の自己融着線は160℃まで殆んど接着力が低下せず、また各温度において比較例の自己融着線よりも接着力が高いので耐熱接着力が優れていることが分かる。
【0032】
【表3】

【0033】
(3)超耐熱ボイスコイル(ボイスコイル)(試験用ボイスコイル)の製造
本発明の超耐熱ボイスコイルの製造について図1、図2を用いて説明する。また、比較例のボイスコイルの製造についても説明する。なお、自動巻線機等は図示しない。
【実施例6】
【0034】
ボイスコイルのアルコール系溶剤による接着として、先ずカプトン(商品名)からなる巻き筒(10)を自動巻線機の巻線治具に円筒状に取り付けた。次にこの巻き筒(10)に、前記実施例1により得られた超耐熱自己融着線(5)にメタノールを塗布し、この融着線(5)の耐熱融着皮膜(3)を膨潤,溶解させながら回転数500rpmで整列に一層密巻きした。巻線後、常温にて30分乾燥し、続いて200℃に設定した恒温槽(図示せず)中にて、30分間保持するという熱処理を行い、半硬化状態にあった融着皮膜樹脂を硬化させ、実施例6の試験用の超耐熱ボイスコイル(20)を製造した。
【実施例7】
【0035】
上記実施例2により得られた超耐熱自己融着線(5)を用いる以外は、上記実施例6と同様にして実施例7の試験用の超耐熱ボイスコイル(20)を製造した。
【実施例8】
【0036】
上記実施例3により得られた超耐熱自己融着線(5)を用いる以外は、上記実施例6と同様にして実施例8の試験用の超耐熱ボイスコイル(20)を製造した。
【実施例9】
【0037】
上記実施例4により得られた超耐熱自己融着線(5)を用いる以外は、上記実施例6と同様にして実施例9の試験用の超耐熱ボイスコイル(20)を製造した。
【実施例10】
【0038】
上記実施例5により得られた超耐熱自己融着線(5)を用いる以外は、上記実施例6と同様にして実施例10の試験用の超耐熱ボイスコイル(20)を製造した。
【0039】
−比較例3、4−
上記比較例1、2により得られた自己融着線(5)を用い、上記実施例6と同様にしてカプトン(商品名)からなる巻き筒(10)に、整列に一層密巻きした。巻線後、常温にて30分乾燥し、続いて200℃に設定した恒温槽(図示せず)中にて、30分間保持するという熱処理を行い、比較例3、4の試験用のボイスコイル(20)を製造した。
【0040】
―ボイスコイルの耐熱性試験―
上記実施例6〜10、比較例3、4で得られた試験用ボイスコイル(20)についてボイスコイルの耐熱性を測定した。この耐熱性試験は、図4の回路図に示すように、前記各試験用ボイスコイル(20)の両端末に交流電源(K)の30V(一定)を印加して通電し、耐熱温度(短絡温度)(℃)と耐熱時間(短絡時間)(秒)を測定したものである。なお短絡温度は前記試験用ボイスコイル(20)の表面に設置した熱電対により測定し、また短絡時間は試験用ボイスコイル(20)の自己融着線(5)が短絡する瞬間までを目視で観察し、ストップウオッチで測定した。その結果を下記表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
上記表4の試験結果から明らかなように、本発明の超耐熱ボイスコイルは短絡温度が何れも450℃以上であり、また短絡時間も90秒を超えているので、耐熱性が極めて高いことが分かる。一方、比較例のボイスコイルは短絡温度が何れも320℃台であり、また短絡時間も20秒台であるので、本発明のボイスコイルよりも大幅に耐熱性が悪いことが分かる。また、試験中、本発明のボイスコイルは短絡温度になっても自己融着線がほつれず、コイルの形状が保持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の超耐熱自己融着線は、融着皮膜のアルコール可溶性が極めて優れており、また接着特性に優れているのでコイルの製造を効率よく行うことが可能である。またコイルに巻線後、熱処理をすることにより優れた耐熱性が付与されるため、コイルの耐熱性が極めて高くなり、高温環境下での使用に耐えられるので、超耐熱性ボイスコイルの他、偏向ヨーク、モーターコイル等の電気機器用コイルの自己融着線として好適に使用できる。
また本発明の超耐熱ボイスコイルは、本発明の自己融着線を用い、アルコール系溶剤を用いて巻き筒に巻線した後、更に熱処理を施してコイルの接着力と耐熱性を向上させたものであるので、コイルの耐熱性が極めて高く、高温環境下での使用に耐えられ、高出力のスピーカー用ボイスコイルとして好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の超耐熱自己融着線の1実施形態(実施例)を示す断面図である(比較例の自己融着線にも使用)。
【図2】本発明の超耐熱ボイスコイルの1実施形態(実施例)を示す略図であり、同図(a)は斜視図、また同図(b)は断面図である(比較例のボイスコイルにも使用)。
【図3】本発明の超耐熱自己融着線の耐熱接着力試験結果(ヘリカルコイル法)を示すグラフである(比較例の自己融着線も示す)。
【図4】ボイスコイルの耐熱性試験に使用する回路図である。
【符号の説明】
【0045】
1 導体(銅線)
2 絶縁皮膜
3 耐熱融着皮膜(融着皮膜)
5 超耐熱自己融着線(自己融着線)
10 巻き筒(基材)
20 超耐熱ボイスコイル(ボイスコイル)(試験用ボイスコイル)
A 電流計
K 交流電源
V 電圧計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が150℃を超え、200℃以下の高融点アルコール可溶性ポリアミド樹脂80〜100重量部に、ビスマレイミド化合物5〜50重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ基を残し位置選択的にアルコキシシランを化学結合させたシラン変性エポキシ樹脂20〜50重量部及びアミノ系樹脂5〜10重量部を添加し、これを有機溶剤に溶解した融着塗料を導体上に直接、または他の絶縁皮膜を介して塗布,焼付け、アルコール可溶性で耐熱性を有する融着皮膜を形成させたことを特徴とする超耐熱自己融着線。
【請求項2】
前記シラン変性エポキシ樹脂は10wt%〜60wt%のシリカ分を含有することを特徴とする請求項1記載の超耐熱自己融着線。
【請求項3】
請求項1または2記載の超耐熱自己融着線を、アルコール系溶剤を用いて巻き筒に巻線した後、更に熱処理を施してコイルの接着力と耐熱性を向上させたことを特徴とするスピーカー用超耐熱性ボイスコイル。
【請求項4】
請求項3記載の熱処理が、熱処理温度150℃〜250℃で行われることを特徴とするスピーカー用超耐熱性ボイスコイル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−85906(P2006−85906A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266225(P2004−266225)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】