説明

超臨界水を媒体とする反応系を利用したアミドの製造方法

【課題】亜臨界水又は超臨界水を媒体とする反応系を利用したアミド及び/又はカルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】亜臨界水又は超臨界水を媒体として使用し、反応系の反応条件を調整することにより、原料の不飽和アルキルニトリルを相当するアミド及び/又はカルボン酸に変換することを特徴とするアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
【効果】亜臨界水又は超臨界水を媒体として使用することで、従来法のように、強酸や有機溶媒、固体金属触媒や生物触媒を使用することなしに、短時間で、かつ高い選択率で上記化合物を合成することを可能とする環境低負荷型のアミド及び/又はカルボン酸の新規製造技術を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和アルキルニトリルを原料として、相当するアミド及び/又はカルボン酸を製造するアミドの製造方法に関するものであり、更に詳しくは、原料の不飽和アルキルニトリルを亜臨界水又は超臨界水を媒体とする反応系において、水素イオン濃度調整溶液(アルカリ及び酸など)の存在下に反応させることにより、短時間で、高い効率で、相当するアミド及び/又はカルボン酸を高選択率で合成することを可能とするアミドの新規製造方法に関するものである。本発明は、従来、強酸や有機溶媒、固体金属触媒や生物触媒を使用して原料のニトリルから製造されていた相当するアミドやカルボン酸を、これらを使用しない、環境低負荷型のプロセスにより、短時間で、高効率、かつ高い選択率で上記化合物を製造することを可能とする新しいアミド及び/又はカルボン酸の製造技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリルアミドは、様々な化学製品の原料として用いられる他に、ポリマー化されたポリアクリルアミドとして、例えば、下水、し尿処理、紙・パルプ、土木などにおける沈殿凝集剤、土壌改良剤、紙類の強度向上剤、接着・塗料原料、更には、石油採掘における残油の2次回収剤など、多くの分野において汎用的に使用されている重要な工業原料である(非特許文献1)。
【0003】
上記アクリルアミドの工業的な製造方法として、硫酸により原料のアクリロニトリルの部分加水分解を行う硫酸水和法、不均一触媒を使用してアクリルニトリルの加水分解を行う接触水和法、及び微生物由来酵素によりアクリルニトリルの部分加水分解を行うバイオ法などが存在する(非特許文献1)。
【0004】
これらのうち、硫酸水和法は、強酸である硫酸をアクリロニトリルとほぼ量論比で大量使用し、かつ副次生成物として、工業的価値が低い硫酸アンモニウムを排出するという特徴があり、それらの分離、精製工程を必要とする(非特許文献1)。上記の硫酸水和法の改良法として、硫酸を使用しない接触水和法があるが、この接触水和法は、金属触媒の作用によりアクリロニトリルの加水分解を行う方法であり、触媒の分離、回収工程を必要とする(非特許文献1)。
【0005】
また、別のアクリルアミドの製造方法であるバイオ法では、アクリロニトリルの希薄水溶液がニトリル加水分解菌由来酵素(ニトリルヒドラターゼ)を用いて加水分解されるが、細菌叢を固定した大型バイオリアクターによるバッチ式処理と、比較的長時間の反応時間を必要とし、かつ細菌類の活動環境の維持を必要とする(非特許文献1、2)。
【0006】
【非特許文献1】14705の化学商品、化学工業日報社刊、p.351(2004)
【非特許文献2】工業有機化学、第5版、東京化学同人、p.335(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、強酸や有機溶媒、固体金属触媒や生物触媒を使用しない新しいアミドの製造技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、亜臨界水又は超臨界水を媒体とする反応系を利用すること、及び該反応系の水素イオン濃度を調整することにより、環境低負荷型のプロセスで、短時間で、高効率及び高選択率に原料のニトリルから相当するアミド及びカルボン酸を製造できることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、上述の既存のアミド製造技術に比較して、強酸や有機溶媒、固体金属触媒や生物触媒を使用せず、簡便、かつ環境に考慮した環境低負荷型の連続生産工程を用いて、短時間で、かつ高い選択率で原料のアクリルニトリル等のニトリルから相当するアクリルアミド等のアミド及び/又はアクリル酸等のカルボン酸を合成することを可能にするアミド及び/又はカルボン酸の新規製造技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)亜臨界水又は超臨界水を媒体として使用し、反応系の反応条件を調整することにより、原料の不飽和アルキルニトリルを相当するアミド及び/又はカルボン酸に変換することを特徴とするアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
(2)不飽和アルキルニトリルが、アクリルニトリルであり、相当するアミド及び/又はカルボン酸が、アクリルアミド及び/又はアクリル酸である前記(1)に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
(3)反応系の反応条件として、圧力、温度、水素イオン濃度及び/又は反応時間を調整することによって、反応の進展割合を制御する前記(1)に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
(4)亜臨界水又は超臨界水の高温高圧条件が、温度350℃以上、圧力22.1MPa以上の温度圧力領域である前記(1)又は(3)に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
(5)高温高圧条件が、350〜400℃、25〜50MPaである前記(4)に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
(6)反応時間が、1秒以下である前記(1)又は(3)に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
(7)反応溶液を0.03秒以下の高速昇温で目標反応温度まで昇温させる前記(1)に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
(8)反応溶液を0.5秒以下で高速冷却して反応を停止する前記(1)に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
(9)反応をアルカリの存在下で行うことにより、1次反応物であるアミドを選択的に製造する前記(1)に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
(10)反応を酸の存在下で行うことにより、2次反応物であるカルボン酸を選択的に製造する前記(1)に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
【0010】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、不飽和脂肪族炭化水素類を骨格化合物Rとし、シアノ基(−CN)を有する原料のニトリル類(R−CN、例えば、アクリロニトリル:R=CHCH)を加水分解することによってアミド類(R−CONH)を製造するに当たり、該反応を、亜臨界水又は超臨界水中で、アンモニア(NH)等のアルカリ又は酸の共存下もしくは水単独の存在下で行うことを特徴とするものである。ここで、亜臨界水とは、温度350℃から374℃未満の温度条件であって、圧力が純粋な水の臨界圧力22.1MPaを超えた単相状態となっている高温高圧水を指し、また、超臨界水とは、純粋な水が、その熱力学的臨界点(温度374℃、圧力22.1MPa)を超える温度、圧力状態となっていることを指す。
【0011】
本発明では、原料として、不飽和アルキルニトリルが用いられるが、以下、本発明をアクリルニトリルの反応を例として説明する。本発明におけるアクリルニトリルからアクリルアミド、アクリル酸への化学反応式を図1に示す。本発明のアミド及び/又はカルボン酸の製造法では、アクリロニトリル(CHCHCN)及び基質溶液の導入後、常温から目標反応温度までの昇温時間が0.03秒以下の高速昇温となっていること、反応時間が1秒以下であること、及び反応溶液を0.5秒以下で高速に冷却して反応を停止させること、を好ましい実施態様としている。
【0012】
本発明では、好適には、目標反応温度(設定温度)までの昇温時間が0.03秒以下であるが、これは、例えば、後記する実施例に記載した反応装置を利用して、基質水溶液と超臨界水を直接混合して瞬時に設定温度に昇温させることで達成される。また、反応時間は、好適には1秒以下であり、反応液は0.5秒以下で冷却されるが、これらは、例えば、上記反応装置における反応液の流量及び流速条件を制御して反応器での滞在時間を一定時間に設定すること及び常温純水を混合して冷却することで達成される。その場合、上記反応装置において、反応基質、反応媒体の温度及び圧力条件、それらの流量及び流速条件、設定温度、滞在時間等の操作条件を任意に調節することにより反応条件を好適な範囲に任意に設定することが可能である。
【0013】
反応物をきわめて短い時間のみ高いエネルギー状態とすることで、過剰なエネルギー供与を抑制して、反応基質及び生成物の副次反応の進行を抑制もしくは制御して、アミド及びカルボン酸を短時間で、かつ高い選択率で合成可能にすることが本発明の最大の特徴である。本発明では、目標反応温度(設定温度)までの昇温時間、反応条件及び反応時間を制御することにより、本発明の反応の進展割合を制御することができる。
【0014】
例えば、図1の反応式において、設定温度までの昇温時間、反応条件(圧力、温度、水素イオン濃度等)及び反応時間を制御することにより、1次反応[アクリロニトリル→アクリルアミド(CHCHCONH)]及び2次反応[アクリルアミド→アクリル酸(CHCHCOOH)]の進展割合を制御することが可能である。このときの反応条件としては、純水をキャリアとして、高温高圧(350℃以上、22.1MPa以上)の温度圧力領域であることが好ましく、更に好ましくは、温度領域が350〜400℃、圧力領域が25〜50MPaであることが望ましい。
【0015】
図2は、本発明の製造法における反応機構の図である。アクリルアミドの製造を主目的とする場合、1次反応の収率が高くなくても、例えば、2次反応生成物であるアクリル酸に対してアンモニアを添加することでアクリルアミドへ転換し、プロセス全体として、アクリルアミドの収率の向上が可能である。また、アクリル酸は、汎用的な工業原料でもあることから、アクリル酸を選択的に合成し、分離することも可能である。
【0016】
本発明において、原料の不飽和アルキルニトリルとしては、好適には、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、3−又は4−ペンテンニトリルが例示される。しかし、これらに限定されるものではなく、本発明では、上記反応により相当するアミド及び/又はカルボン酸を合成できるあらゆる種類の不飽和アルキルニトリルを原料として使用することができる。
【0017】
本発明では、反応系の水素イオン濃度を調整するために、水素イオン濃度調整剤としてアルカリ又は酸が添加されるが、アルカリとしては、例えば、金属イオンを含まないアルカリとしてのアンモニア水が好ましく、また、酸としては、好適には、例えば、塩酸、硝酸、硫酸が例示される。しかし、本発明において、水素イオン濃度調整剤は、これらに限定されるものではなく、これらと同等もしくは類似のもので、同効のものであれば同様に使用することができる。
【0018】
本発明では、上記ニトリルのアミドへの変換反応において、反応をアルカリ存在下で行うことにより、1次反応物であるアミドを選択的に合成することが可能であり、また、反応を酸の存在下で行うことにより、2次反応物であるカルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸を選択的に合成することができる。本発明では、上述のように、原料の不飽和アルキルニトリルとしてアクリルニトリルを用いた場合を例として本発明の反応について具体的に説明したが、本発明の反応の反応機構から推察されるように、本発明の反応は、不飽和アルキルニトリルの種類に制限されることなく適用可能である。
【0019】
従来法では、原料のニトリルからアミドを製造する際に、強酸や有機溶媒、固体金属触媒や生物触媒等を用いて、アミドを製造することが行われていたが、そのために、環境負荷の大きい原料の使用や、長時間の反応及びそれらの分離、回収工程が不可欠であった。これに対し、本発明では、亜臨界水又は超臨界水を媒体として使用することで、強酸や有機溶媒、固体金属触媒や生物触媒等を使用しないで、短時間の反応で、高効率で、かつ高選択率に原料のニトリルから相当するアミド及び/又はカルボン酸を製造することが可能であり、本発明により、アミド製造工程において、新しい環境低負荷型のプロセスを採用し、提供することが実現できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明は、原料のアクリロニトリル等のニトリルからアクリルアミド等のアミドを製造する際に、反応媒体として亜臨界水又は超臨界水を用いることにより、強酸や有機溶媒を使用せず、かつ無触媒で、従来法よりも短時間で、かつ簡便な工程で、更に、高い選択率で相当するアミド及び/又はカルボン酸を製造することができる。
(2)特に、反応時間又は滞留時間を1秒以下に短縮することで、アミドの高効率の連続生産が可能になることから、アミドの製造コストの大幅な削減が可能である。
(3)更に、副生産物として生成されるアクリル酸は、重要な工業原料であり、適切に分離、精製することで、工業的に再利用することが可能である。
(4)同一の製造装置を用いて、反応条件を変化させることにより、アミド及び/又はカルボン酸の生産を任意に切り替えることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
(アクリルアミド合成実験)
超臨界水中でのアクリルアミド(CHCHCONH)の合成実験を実施する目的で、図3に示す反応実験装置を製作した。この装置図において、ポンプ1a、1b、1c、1dは、それぞれ送液能力0.1−50ml/minを有する高圧仕様液体ポンプである。1aは超臨界水供給用、1bは第一基質用、1cは第二基質用、1dは冷却水供給用である。各ポンプの溶液吸引口には、固形物フィルター、吐出口には、逆支弁が設置されている。図3の圧力計2と1aの間には1aによって供給される高圧化された純水を加熱して超臨界水とするための加熱ユニットが設けられている。また、このシステムには、安全弁が同様に付属されている。
【0023】
3a、3bは温度監視制御するための熱電対であり、3aは合流直後の温度モニターを行い、3bは反応器終点の温度モニターを行う。反応器5は、内径0.5mm、長さ50cmの寸法を持つ、SUS304製管状反応器であり、雰囲気温度が最高温度450℃(精度±0.2℃の範囲)で均一に制御可能なオーブン4の中に設置され、反応温度が均一になるように温度制御される。
【0024】
反応器5内部の圧力条件は、精度±0.02MPaの範囲で電子圧力調整器6によって調整される。反応器5及び電子圧力調整器6を通過した反応溶液は、電子天秤上に置かれたリザーバー7に貯留され、その重量は10秒ごとにコンピュータに取り込まれ、流入量がモニターされる。
【0025】
製造を開始する前に、最初に各ポンプに水による送液を行うことによって、圧力のチェックと各ポンプの送液量を確認した。次いで、実験比率に合わせた送液量で設定した送液がなされていることを確認した。圧力は、その間に常に確認し、所定内の精度で制御されていることを確認した。次いで、各ポンプの逆支弁の作動を各ポンプのラインを切り離して確認した。次いで、200℃程度の高圧熱水を流し、超臨界流体供給ユニット、オーブン等各部の温度状況を確認し、表示器類が正常に作動していることを確認した。
【0026】
確認できた時点で、実験の目的温度と圧力条件に設定して、流量を確認した。全ての確認を終えた後、基質ポンプ1c及び1bの供給タンクを切り替えて、製造実験を開始した。反応サンプルの採取は、温度モニター用の3aと3bが、共に所定の温度条件を示した時点より行った。
【0027】
次に、実験条件について説明する。基質1として濃度0.35Mに調整したアクリロニトリル水溶液、基質2として濃度1.75Mに調整したアンモニア水を必要量準備し、それぞれ各ポンプより2ml/min、2ml/minで送液を行い、ポンプ1aによって10ml/minで送られる超臨界水と直接混合し、反応器5内で一定時間、圧力40MPa、温度385℃を保ち、ポンプ1dにより常温純水を混合することにより冷却し、減圧し、反応溶液を回収した。
【0028】
この流量条件における反応器での滞在時間は0.243秒であり、反応容器内の断面平均流速は2.09m/sであった。高圧液体クロマトグラフィ及び質量分析装置(LC/MS)により分析した反応溶液中のアクリルアミド濃度は370ppmであり、その収率は14.0%であった。
【実施例2】
【0029】
(通電加熱方式のマイクロリアクタ利用実験)
上記実施例1は、常温の基質水溶液に高温の超臨界水、及び常温純水を直接混合させることにより急速に加熱冷却を行う方式であり、基質水溶液の2段階の希釈が発生する。そこで、アクリルニトリル水溶液を外部から間接的に加熱冷却して、希釈することなく、短時間所定の超臨界状態にすることで反応を進行させることができる反応実験装置(図4)を用いて、反応実験を実施した。以下に装置の説明を記載する。
【0030】
図4において、ポンプ1は、送液能力0.1−50ml/minを有する高圧仕様定量液体ポンプである。装置の立ち上げ時には、純水リザーバー7から送液を行い、各部の温度及び圧力条件が所定の実験条件になったことを確認したのち、溶液リザーバー8に切り替えて、反応溶液を送液した。反応溶液を加熱して超臨界条件とするための加熱器2aは、長さ210mm、外径1.59mm、内径0.25mmのニッケル合金製の金属管と、その両端に設置された電極端子からなり、金属管自体に通電し、ジュール発熱させることにより、内部を流通する流体を高速に加熱することができる。
【0031】
反応管2bは、加熱器2aと冷却器3を接続する、長さ300mm、外径3.2mm、内径0.5mmのニッケル合金製の金属管であり、加熱器2aを通過して、所定の温度に達した反応溶液の温度を保って、一定時間反応を進行させることを目的とする装置である。その外側は、保温を目的とした断熱材によって囲まれている。熱交換器3は、反応溶液の反応を停止させるための冷却器であり、外側を流れる冷却水と効率良く熱交換を行うことによって、急速に反応溶液の温度を下げることができる。その他、各部の温度と圧力を監視制御するための圧力センサ(4a、4b、4c)、及び熱電対(5a、5b、5c)を備える。
【0032】
次に、実験条件について説明する。図4に示した反応実験装置を用いて、濃度0.05Mに調整したアクリロニトリル水溶液のみをポンプ1によって20ml/minで送液し、加熱器2aによって室温から目標反応温度まで0.03秒以下の通過時間で高速に加熱し、反応管2bを通過する間、圧力40MPaを保って反応を進行させた。反応管2bを通過した反応溶液は、ただちに冷却器3に入り、常温まで急速冷却された。冷却された反応溶液は、減圧弁6を通過し、各実験条件において、それぞれ2分間分(40ml)サンプル瓶に採取、回収された。
【0033】
この反応実験における、実験条件及び装置各部分の通過時間、回収された反応溶液を高圧液体クロマトグラフィ及び質量分析装置(LC/MS)により分析した。その結果を表1に示す。実験結果は、反応時間が短いことから、アクリルアミド収率は1%未満に留まり、原料ニトリルの回収率は98%以上であった。この実験事実は、超臨界水中のような反応性の高い環境に反応溶液を置いても、反応時間を制御することによって反応の進行度を制御可能であることを示している。
【0034】
【表1】

【実施例3】
【0035】
(アンモニア添加をした反応実験)
次に、アンモニア添加の効果を見るために、上記実施例2と同一の反応実験装置を用いて、濃度0.05Mのアクリロニトリル水溶液に対して、濃度0.25Mとなるようにアンモニア水を添加した混合溶液を調製し、反応温度を変化させて流通させた。その他の実験条件は、実施例2と同じく圧力40MPa、ポンプ送液量20cc/minとした。回収された反応溶液を高圧液体クロマトグラフィ及び質量分析装置(LC/MS)により分析した。その結果を表2に示す。アンモニア添加の効果として、アクリルアミドの収率は3.3倍から8.9倍の向上を示した。
【0036】
【表2】

【実施例4】
【0037】
(反応時間延長実験)
上記実施例2及び3では、反応時間が短いことにより、アクリルアミド収率は全体として低い結果となった。そこで、図4中の反応管2bの長さを延長し、反応時間を延長できるように反応実験装置の改修を実施した。改修された反応管は、インコネル625製、長さ700mm、外径3.2mm、内径1.0mmであり、その外部には反応温度を一定に保持するための保温用ヒータを設置した。代表的な実験条件として、圧力40MPa、温度400℃、ポンプ送液量17cc/minとした場合に、反応溶液の反応管通過時間は0.94秒と計算された。
【0038】
改修された反応実験装置を用いてアンモニア添加を行わない反応実験を行った。その結果を表3に示す。反応後に回収された溶液をGC−FID及びLC/MSにより定量分析し、反応時間を1秒前後に延長した結果、アクリロニトリルの転化率は2.5−4.6%であり、アクリルアミドが95.3−98.0%の高い選択率で生成していることが分かった。反応温度を高温化することにより、アクリルアミドからアクリル酸への転換が進み、アクリル酸の収率は増加する傾向にあった。
【0039】
【表3】

【実施例5】
【0040】
(反応時間延長実験+アンモニア・酸添加)
上記実施例4に対するアンモニア添加の効果を調べるために、実施例4と同一の反応実験装置を用いて、濃度0.05Mのアクリロニトリル水溶液に対して、濃度0.25Mとなるようにアンモニア水を添加した混合溶液を調製し、反応温度を変化させて流通させた。その他の実験条件は、実施例2と同じく、圧力40MPa、ポンプ送液量17cc/minとした。回収された反応溶液をGC−FID及び高圧液体クロマトグラフィ及び質量分析装置(LC/MS)によって定量分析した。その結果を表4に示す。
【0041】
アンモニアを添加することにより、アクリロニトリル転化率は29.3−51.2%まで増加し、アクリルアミド収率も25.1−44.5%と大幅な向上が見られた。また、アクリルアミドの生成が進行したことにより、その転化物であるアクリル酸の収率も1.5−7.3%まで向上した。このように、反応時間を制御し、装置に対して悪影響を与えない程度の少量のアンモニアを用いた塩基性環境下で反応を進行させることで、高い選択性を維持してアミドを製造することが可能であることが分かった。
【0042】
【表4】

【実施例6】
【0043】
(酸性条件での実験)
上記実施例5では、塩基性環境での転換を行ったが、0.05Nの希硝酸水溶液を0.05Mのアクリロニトリル水溶液に添加し、pH3−4程度に調整した反応溶液を用いて、水素イオン存在下、酸性条件での実験を行った。その結果を表5に示す。この時の反応条件は実施例4と同一である。
【0044】
表5に示すアクリルアミドの転化率は12.6−16.2%であり、実施例4と比較して、アクリルアミド収率に対してアクリル酸収率が大きく向上した。これらの実験事実から、超臨界水単独で原料のニトリルはアミドに選択的に転換されるが、反応溶液に若干量のアルカリ・酸を補助的に添加し、超臨界水中での[OH]濃度、[H]濃度を調整することで、アミド及びカルボン酸を選択的に製造可能であることが示唆された。
【0045】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0046】
以上詳述したように、本発明は、亜臨界水又は超臨界水を媒体とする反応系を利用したアミドの製造方法に係るものであり、本発明により、新しい反応系を利用して、原料のアクリロニトリル等の不飽和アルキルニトリルからアクリルアミド等のアミドを製造するための新しいアミド製造技術を提供することができる。本発明では、反応媒体として亜臨界水又は超臨界水を用いることにより、強酸や有機溶媒を使用せず、かつ無触媒で、従来法よりも短時間で、かつ簡便な工程で、更に、高い選択率でアクリルアミド等のアミドを製造することができる。
【0047】
本発明では、特に、反応時間又は滞留時間を1秒以下に短縮することで、アミドの高効率の連続生産が可能になることから、アミド製造コストの大幅な削減が可能である。更に、副生産物として生成されるアクリル酸は重要な工業原料であり、適切に分離、精製することで、工業的に再利用することが可能である。本発明は、短時間で、かつ高い選択率で原料のニトリルから相当するアミド及び/又はカルボン酸を製造することを可能とする環境低負荷型の新しいアミド製造技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ニトリルからアミド、アクリル酸への反応式を示す。
【図2】本発明の製造法の反応機構を示す。
【図3】実施例で用いた反応実験装置の一例を示す。
【図4】実施例で用いた反応実験装置の一例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜臨界水又は超臨界水を媒体として使用し、反応系の反応条件を調整することにより、原料の不飽和アルキルニトリルを相当するアミド及び/又はカルボン酸に変換することを特徴とするアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
不飽和アルキルニトリルが、アクリルニトリルであり、相当するアミド及び/又はカルボン酸が、アクリルアミド及び/又はアクリル酸である請求項1に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
【請求項3】
反応系の反応条件として、圧力、温度、水素イオン濃度及び/又は反応時間を調整することによって、反応の進展割合を制御する請求項1に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
【請求項4】
亜臨界水又は超臨界水の高温高圧条件が、温度350℃以上、圧力22.1MPa以上の温度圧力領域である請求項1又は3に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
【請求項5】
高温高圧条件が、350〜400℃、25〜50MPaである請求項4に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
【請求項6】
反応時間が、1秒以下である請求項1又は3に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
【請求項7】
反応溶液を0.03秒以下の高速昇温で目標反応温度まで昇温させる請求項1に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
【請求項8】
反応溶液を0.5秒以下で高速冷却して反応を停止する請求項1に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
【請求項9】
反応をアルカリの存在下で行うことにより、1次反応物であるアミドを選択的に製造する請求項1に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。
【請求項10】
反応を酸の存在下で行うことにより、2次反応物であるカルボン酸を選択的に製造する請求項1に記載のアミド及び/又はカルボン酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−223920(P2007−223920A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44579(P2006−44579)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】