超電導コイル機器、超電導機器、および超電導コイル機器の製造方法
【課題】密閉性を向上することが可能な容器を備える超電導コイル機器、および当該超電導コイル機器を用いた超電導機器を提供する。
【解決手段】本発明に係る超電導コイル機器は、超電導コイル10と、超電導コイル10を内部に保持する内槽容器50および外槽容器60とを備える。内槽容器50および外槽容器60はFRPからなり、内槽容器50および外槽容器60の角部71においては、角部71に沿って、樹脂からなる封止補強部2が形成されている。内槽容器50および外槽容器60の側面には開口部53、63が形成されており、封止補強部2は、開口部53、63の角部71に配置されていることが好ましい。
【解決手段】本発明に係る超電導コイル機器は、超電導コイル10と、超電導コイル10を内部に保持する内槽容器50および外槽容器60とを備える。内槽容器50および外槽容器60はFRPからなり、内槽容器50および外槽容器60の角部71においては、角部71に沿って、樹脂からなる封止補強部2が形成されている。内槽容器50および外槽容器60の側面には開口部53、63が形成されており、封止補強部2は、開口部53、63の角部71に配置されていることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイル機器および超電導機器に関するものであり、より特定的には、超電導コイルを内部に保持する容器を備える超電導コイル機器、および当該超電導コイルを用いた超電導機器に関するものである。また上記超電導コイル機器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導線材を巻回した超電導コイルは、極低温の温度下にて用いられる。このため、たとえば超電導コイルを用いたモータなどの超電導機器においては、超電導コイルは容器の内部に保持された状態で用いられる。当該容器の内部に液体窒素などの冷媒を供給することにより超電導コイルが冷却された状態で使用される。
【0003】
上述した容器のように、極低温の冷媒を内部に貯蔵した上で超電導コイルを保持するクライオスタットの内槽の製造方法として、たとえば従来から特開2007−35835号公報(特許文献1)に開示されるような方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−35835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2007−35835号公報に開示されるクライオスタットの製造方法は以下のとおりである。まずガラス繊維やカーボン繊維などの補強繊維に熱硬化性樹脂を含浸した材質を熱硬化することにより強度を高くしたFRP(Fiber Reinforced Plastics)と呼ばれる繊維強化プラスチックからなる枠体を準備する。この枠体に、FRPと同様の材質からなるプリプレグと呼ばれる未硬化の物質を貼り付ける。そしてこのプリプレグを貼り付けた枠体を熱硬化させることにより、プリプレグが容器の側面として形成される。このようにして、クライオスタットの内槽が形成される。
【0006】
クライオスタットのように極低温の冷媒を保持する容器は、室温と極低温との温度サイクルにより生じる熱膨張や熱収縮に耐えうる材質とすることが要求される。補強繊維を含まない樹脂はこのような温度サイクルに耐えうるだけの強度を有さない。このため当該容器は、FRPのような樹脂が繊維材料により補強された材料を用いて形成されることが好ましい。またFRPのような不導体を容器の材料に用いることにより、当該容器に電流が流れてジュール熱が発生し、容器の内部の冷媒を加熱する現象の発生を抑制することができる。
【0007】
しかし、特開2007−35835号公報に開示される製造方法のように、プリプレグを枠体の外側に複数層貼り付ける方法を用いた場合、特に枠体の構造が段差となった領域において、貼り付けるプリプレグが貼り付けられる枠体の段差の形状に追随できず、特に枠体の段差がなす角部の近傍において、プリプレグが枠体と接触せず、プリプレグと枠体との間に間隙が形成される。当該間隙には空気などが貯留しやすいため、間隙が存在された容器に対して温度サイクルを付加すると、貯留した空気が周囲の筐体に熱応力を与える。その結果、容器には当該角部を起点としてクラックなどの破損が発生する可能性がある。
【0008】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものである。その目的は、超電導コイルの容器を構成する枠体と側面を構成する樹脂材料との間の充填精度を向上することにより、密閉性を向上することが可能な容器を備える超電導コイル機器、および当該超電導コイル機器を用いた超電導機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る超電導コイル機器は、超電導コイルと、超電導コイルを内部に保持する容器とを備える超電導コイル機器である。容器はFRPからなり、容器の角部においては、角部に沿って、樹脂からなる封止補強部が形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る超電導コイル機器は、超電導コイルを内部に保持する容器の角部(樹脂を含浸する側から見て山型に屈曲した「角」や、樹脂を含浸する側から見て谷型に屈曲した「隅」)が樹脂からなる封止補強部により充填される。このため角部などの、容器を構成するために組み立てられた複数の枠体の部材の接続部分において間隙が形成されることが抑制される。したがって、当該容器の封止性能を向上することができる。また当該容器に温度サイクルを与えた場合においても、角部の間隙に大きな熱応力が発生することによる容器の破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る超電導機器の外観の状態を示す概略模式図である。
【図2】図1の線分II−IIにおける概略断面図である。
【図3】図1および図2のロータの概略斜視図である。
【図4】図1および図2のステータの概略斜視図である。
【図5】超電導コイルが内部に保持される内槽容器の構成を示す概略斜視図である。
【図6】図5の内槽容器を取り囲む外槽容器の構成を示す概略斜視図である。
【図7】図5の線分VII−VIIにおける概略断面図である。
【図8】図2が示す、内槽容器と外槽容器との内部を示す部分の態様をより詳細に示す拡大図である。
【図9】図8中の丸点線「IX」で囲まれた領域の概略拡大図である。
【図10】図7中の丸点線「X」で囲まれた領域の概略拡大図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る超電導コイル容器の製造工程を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす要素には同一の参照符号を付し、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
【0013】
本実施の形態に係る超電導機器としては、たとえば図1に示す超電導モータ100が挙げられる。超電導モータ100は、回転子として用いるロータ30と、固定子として用いるステータ20とからなる。図1の超電導モータ100は概略の構造を示す模式図であるが、図面を見やすくするためロータ30を構成する部材の一部のみを図示し、ステータ20を構成する部材については図示を省略している。そしてロータ30およびステータ20を構成する各部材については図2の断面図および、図3〜図6により具体的に図示している。以下においては図1〜図6を適宜参照して、超電導モータ100について説明する。
【0014】
超電導モータ100のロータ30は、ロータコア13の周囲に超電導線材を超電導コイル10として巻回させたものに外部から電流を流し、当該電流の向きに応じてロータコア13に磁性を生じさせる。超電導コイル10はたとえば図1、図3、図4に示すようにレーストラック型コイルの態様とすることが好ましい。ステータ20についてもステータコア23の周囲の超電導コイル10に流れる電流の向きに応じてステータコア23に磁性を生じさせる。ロータコア13とステータコア23との磁性による両者間の引き寄せや反発を利用してロータ30をロータ軸16の周囲に沿った方向へ回転させる。ロータ30の回転は、ロータ30の回転を出力する負荷に接続された出力軸18から外部へと伝播される。出力軸18の回転はベアリング35により支持される。
【0015】
ここで超電導コイル10は超電導線材により構成されるため、これを作動するために液体窒素などの冷媒17で冷やす必要がある。そのため超電導コイル10は容器の内部に保持されている。当該容器の内部に冷媒17を供給することにより、超電導コイル10を冷却して使用可能な状態とする。
【0016】
ここでいう容器とは、超電導コイル10を収納する超電導コイル用容器のことである。超電導コイル用容器は、図2に示すように超電導コイル10を内部に直接保持する内槽容器50と、内槽容器50の外周部を取り囲むように配置された外槽容器60とからなる。超電導コイル10が内槽容器50の内部に保持され、内槽容器50の外周部を取り囲むように外槽容器60が配置された構成により、超電導コイル機器が形成される。内槽容器50および外槽容器60は、ロータ30、ステータ20のそれぞれの超電導コイル10に備えられている。なお内槽容器50および外槽容器60は、図1、3、4においては図示されていない。
【0017】
当該容器が内槽容器50を備えることにより、超電導コイル10を冷却して安定に作動させることができる。また当該容器が外槽容器60を備えることにより、冷媒を保持する内槽容器50が室温である外気に触れることを抑制する断熱容器としての作用を有する。
【0018】
したがって内槽容器50および外槽容器60は、断熱性に優れた材料から構成されることが好ましい。一例としてこれらはFRP(繊維強化プラスチック)により形成されることが好ましい。FRPは強度や断熱性が非常に高いため、容器の内部と外部との温度差や、当該超電導モータ100の使用時と不使用時との容器内部の温度差による熱応力による破損や、冷媒による超電導コイル10の冷却効率の劣化を抑制することができる。ただしFRPの代わりに、内槽容器50および外槽容器60としてたとえばフィラー含有プラスチックやセラミックスなどを用いてもよい。
【0019】
図5と図6にはそれぞれ一例として、ステータ20に用いられる内槽容器および外槽容器を示している。内槽容器50は図5に示すように、たとえば円筒形状を有するFRPの筐体からなる。内槽容器50の円筒部は内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52との2台の円筒形状の筐体が、これらの円筒形状の底面としての円形の中心がほぼ一致して同心円をなすように配置される。内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52とに挟まれた領域が、超電導コイル10が載置される領域である。超電導コイル10の中空の領域を、ステータコア23やロータコア13が貫通するために、内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52の側面(円筒形状をなす側部)には開口部53が形成されている。つまり複数の開口部53のそれぞれに超電導コイル10の中空の部分やステータコア23、ロータコア13が配置され、隣り合う開口部53に挟まれた領域に隣り合う超電導コイル10の超電導線材が配置される構成となる。
【0020】
なお開口部53は、図5に示すように、内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52との側面の両方にたとえば矩形の孔が形成されることにより、内槽容器外側筐体51から内槽容器内側筐体52まで、側面に交差する方向に貫通するように形成されたものであってもよい。しかしたとえば内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52とのいずれか一方のみに矩形の孔が形成されることにより、たとえば内槽容器50の側面の外側(内側)から見たときに、開口部53が凹部をなすような形状となっていてもよい。
【0021】
開口部53の縁部は開口部側面54としてFRPにより塞がれる。また内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52との底面近傍(円筒形状の端部)においてもフランジ形状を有するFRPからなる端部筐体55、56を配置する。以上により、内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52とに挟まれた領域が密閉空間となり、内槽容器50としての態様をなす。ここにたとえば液体窒素などの冷媒17(図2参照)を給排するための冷媒供給管と冷媒排出管とが接続される。図5に示すように、端部筐体55から冷媒を流通させる管状部材が2本突出している。これらのうち1本(管状部材57)は内槽容器50の内部に冷媒17を供給するための冷媒供給管であり、他の1本(管状部材58)は内槽容器50の内部から冷媒17を排出するための冷媒供給管である。しかし両者は同様の構造を備えているため、ここでは両者を合わせて冷媒供給管と呼ぶことにする。
【0022】
一方、断熱容器としての外槽容器60は、上述したように内槽容器50の外側を取り囲むように配置される。具体的には図2に示すように、内槽容器50の内槽容器外側筐体51の外側に、内槽容器外側筐体51に対向するように外槽容器外側筐体61が載置され、内槽容器内側筐体52の内側に、内槽容器内側筐体52に対向するように外槽容器内側筐体62が載置される。外槽容器外側筐体61および外槽容器内側筐体62に挟まれた領域(つまり外槽容器60の内部)に内槽容器50が載置される。また図6に示すように、外槽容器外側筐体61および外槽容器内側筐体62にも複数の開口部63が形成されており、開口部53に重なるように配置される。このようにして、開口部63と開口部53とが重畳された領域に超電導コイル10の中空の領域やステータコア23、ロータコア13が配置される構成となる(図2参照)。開口部63の縁部にも開口部側面64が存在し、また端部筐体65、66が配置されることにより、外槽容器60の内部が密閉空間をなす態様となっている。
【0023】
つまり各容器の底面がなす円形の直径は、大きい順から外槽容器外側筐体61、内槽容器外側筐体51、内槽容器内側筐体52、外槽容器内側筐体62であり、開口部63は開口部53より小さい。
【0024】
内槽容器50と外槽容器60とは、それぞれの底面がなす円形の径方向に関して互いに接触しないように配置されている。つまり図2に示すように、たとえば内槽容器50の内槽容器外側筐体51と、外槽容器60の外槽容器外側筐体61との間には径方向に一定の間隙が存在する。内槽容器50の内槽容器内側筐体52と、外槽容器60の外槽容器内側筐体62とについても同様である。つまり当該間隙はたとえば図2に示す間隙21として存在し、内槽容器50の外周を取り囲むように存在する。この間隙21の存在により、内槽容器50の内部が冷媒17により冷却される効率を高め、内槽容器50の内部の温度が、たとえば外槽容器60の外側の室温の影響を受けることを抑制している。このため外槽容器60が、内槽容器50の内部の温度制御を容易にする断熱材として作用するものであるといえる。
【0025】
そして管状部材57の外側を覆うように、外槽容器60には図6に示す外管が配置されている。また管状部材58の外側を覆うように、外槽容器60には図6に示す外管部材68が配置されている。これらも管状部材57、58と同様に、端部筐体65から2本突出しており、2本のうち一方は内槽容器50の内部に冷媒17を供給する管状部材57の外側を囲むものであり、他方は内槽容器50の内部から冷媒17を排出する管状部材58の外側を囲むものである。ここでは管状部材57の外側を囲むものを外管部材67、管状部材58の外側を囲むものを外管部材68とするが、ここでは両者とも外管と呼ぶことにする。
【0026】
なお図6に示す開口部63は、開口部53と同様に、外槽容器外側筐体61と外槽容器内側筐体62との側面の両方にたとえば矩形の孔が形成されることにより、外槽容器外側筐体61から外槽容器内側筐体62まで、側面に交差する方向に貫通するように形成されたものであってもよい。しかしたとえば外槽容器外側筐体61と外槽容器内側筐体62とのいずれか一方のみに矩形の孔が形成されることにより、たとえば外槽容器60の側面の外側(内側)から見たときに、開口部63が凹部をなすような形状となっていてもよい。
【0027】
上述したように、図2や図5の内槽容器50の内部には超電導コイル10が載置されている。その態様は図7の断面図に示すとおりである。そして当該超電導コイル10には、これを構成する超電導線材に電流を供給するための端子が接続されている。その態様は図7に示すとおりであり、端子41は筐体固定端子43と端子構成部材45と、線材固定用端子47とから構成される。なお図7においては、形成を容易にするために端子41が筐体固定端子43と端子構成部材45と、線材固定用端子47との3つの部材から構成されているが、端子41は単独の部材から構成されていてもよい。
【0028】
内槽容器50をなす内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52とは、図8に示すようにベース体1と、ベース体1の外周部を取り囲むように配置された補強繊維3とから構成される。外槽容器60をなす外槽容器外側筐体61と外槽容器内側筐体62とについても同様である。
【0029】
ベース体1は内槽容器50や外槽容器60の骨組みをなす枠体であるため、上述したように内槽容器50や外槽容器60を構成するFRPや、あるいはフィラー含有プラスチックやセラミックスなどにより構成されるものであることが好ましい。
【0030】
容器状のベース体1を構成するために組み立てられる複数の部材同士の接続をより強固にするために、ベース体1の表面全体を覆うように(ベース体1の表面全体に巻き付けるように)補強繊維3が配置される。補強繊維3はたとえばエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂が、ガラスクロスなどのガラス繊維材料や、カーボン繊維などの補強材料中に含浸された材料からなる。つまり補強繊維3はベース体1と同様にたとえばFRPからなる。
【0031】
そしてベース体1の角71には封止補強部2が形成されている。図8や図5に示す角71と、図5に示す隅72とを合わせてここでは角部と呼ぶことにする。
角71とは内槽容器50や外槽容器60の外側から見たときに、ベース体1を構成するために組み立てられた複数の部材同士の接続部分が山型に(凸形状をなすように)屈曲したようになっている場所のことである。隅72とは内槽容器50や外槽容器60の外側から見たときに、ベース体1を構成するために組み立てられた複数の部材同士の接続部分が谷型に(凹形状をなすように)屈曲したようになっている場所のことである。
【0032】
封止補強部2は、補強繊維3中に含まれる熱硬化性樹脂と同様の樹脂材料からなる。封止補強部2は、ベース体1において複数形成される角71や隅72(角部)が延在する方向(図8における紙面に垂直な方向)に沿って延在するように配置される。つまり封止補強部2は、延在する角71や隅72を、内槽容器50や外槽容器60の外側から覆うように配置される。
【0033】
図9に示す内槽容器50のベース体1の外周部分を覆うように補強繊維3が配置される。この補強繊維3はシート状の部材がベース体1の表面上に密着するように配置される。このため補強繊維3とベース体1とが一体となり、内槽容器50や外槽容器60の表面には、特に室温と極低温との温度サイクルによる熱応力に耐えうる強度を持たせることができる。これは補強繊維3を構成するガラス繊維材料や、カーボン繊維などの補強材料による。
【0034】
ところが、たとえば図9の上下方向に延在する部材と図9の左右方向に延在する部材との接続部分がなす角71の近傍においては、ベース体1の表面上に密着するように補強繊維3が配置されず、ベース体1と補強繊維3との間に間隙が形成される傾向がある。これは補強繊維3をベース体1の表面上に沿うように巻き付ける際に、角71において補強繊維3がベース体1の表面の形状(直角に近い角度で交差する形状)に追随するように変形することが困難であるためである。つまり角71の近傍において補強繊維3は、図9に示すように、ベース体1の角71における形状に比べて丸みを帯びるように湾曲する。このため補強繊維3の湾曲部と、ベース体1の角71との間に間隙が形成されやすい。
【0035】
角71などの角部は複数の部材の接続部分であるため、角部には部材同士が完全に接合されず、一部空隙を形成するように接合されることがある。このような空隙は、特に上記の接続部分における複数の部材同士の接合強度が不足している場合に発生しやすい。仮に角71が空隙を形成している状態で、さらに当該空隙に密着せずに補強繊維3が配置されると、当該空隙の部分において、内槽容器50や外槽容器60の内部と外部とを貫通する孔が形成されることになる。
【0036】
このような孔が形成されると、内槽容器50や外槽容器60の、内部に対する封止性能が低下する。具体的には、たとえば内槽容器50の内部に保持する超電導コイル10を冷却するための冷媒17(図2参照)が内槽容器50の外部へ漏洩する可能性がある。また孔により外槽容器60の内部と外部との間に空気などのガスの微小な漏れが発生すれば、外槽容器60の内部における真空状態を保持することが困難になる。つまり外槽容器60の、内槽容器50に対する断熱性が低下し、内槽容器50の内部を冷媒17で冷却する効率が低下する可能性がある。
【0037】
封止補強部2は、角部に上述した孔が形成されたとしても、当該孔を覆うように配置される。つまり封止補強部2は、角部の孔を塞ぐことにより、内槽容器50や外槽容器60の封止性能を向上させる。封止補強部2により孔が塞がれれば、内槽容器50や外槽容器60の内外を通じたガスや冷媒などの漏洩が抑制され、超電導コイル10の機能を高めることができる。
【0038】
また樹脂からなる封止補強部2によりベース体1と補強繊維3との間隙が埋められれば、ベース体1と補強繊維3とに挟まれた領域に空気などのガスが滞留する可能性を低減することができる。ベース体1と補強繊維3との間に空気が滞留し、たとえば当該空気が角71の延在する方向に沿って延在するように存在する場合、ベース体1を構成する部材の接続部分に、熱応力などに起因して発生する亀裂が拡大し、ベース体1が破損する可能性が高くなる。しかしベース体1と補強繊維3とに挟まれた領域が樹脂材料(封止補強部2)で充填されている場合には、たとえベース体1を構成する部材の接続部分に亀裂が形成されても、当該亀裂が封止補強部2により容易に覆われる(亀裂の内部が封止補強部2により充填される)ため、当該亀裂が進展してベース体1が破損する可能性が低くなる。
【0039】
以上に述べたように封止補強部2は、図8に示すように、内槽容器50の側面の開口部53(外槽容器60の側面の開口部63)の角部(角71)に形成されている。開口部53、63は、ベース体1を構成する複数の部材が接続されて容器状の枠体が形成された結果、当該部材が配置されない空間領域として形成される。このため開口部53、63にはベース体1を構成する部材の接続部分が複数存在することになる。したがって開口部53、63のなす角71(角部)に封止補強部2が配置されることが好ましい。このようにすれば、開口部53、63における超電導コイル機器の真空漏れの発生や封止機能の低下をより確実に抑制することができる。
【0040】
図10は、超電導コイル10へ外部から電源を供給したり、超電導コイル10の電力を外部へ出力するための端子が、内槽容器50の端部筐体55を貫通するように配置された領域の態様を示す拡大断面図である。図10においては端部筐体55の左側が内槽容器50の内側であり、端部筐体55の右側が内槽容器50の外側である。端部筐体55は内槽容器50の一部分であるため、これは図8に示す内槽容器外側筐体51などと同様にベース体1であると考えることができる。
【0041】
ベース体1を貫通する端子41を構成する部材のなかで、内槽容器50の外側のうちもっともベース体1に近い領域に配置される部材は、たとえばベース体1と端子41とのベース体1と端子41との固定を維持する役割を有する部材としての端子構成部材45である。
【0042】
図10に示すように端部筐体55(ベース体1)の表面を覆うように、言い換えれば端部筐体55(ベース体1)の表面に密着するように、補強繊維3が配置される。しかしベース体1と端子構成部材45とが交差する角部である隅72において、補強繊維3が隅72に密着するように配置されず、図10に示すようにベース体1と端子構成部材45との間に間隙が形成される傾向にある。これは上述したように補強繊維3が、隅72のなす直角に近い角度に追随するように変形することが困難であるためである。つまり隅72の近傍において補強繊維3は、図10に示すように、ベース体1の角71における形状に比べて丸みを帯びるように湾曲する。このため補強繊維3の湾曲部と、ベース体1の隅72との間に間隙が形成されやすい。
【0043】
この間隙を埋めるように封止補強部2が配置されることが好ましい。このようにすれば、上述した図8や図9の場合と同様に、封止補強部2が、端部筐体55と端子41との交差する領域(隅72)に発生する孔を覆ったり充填したりすることにより、内槽容器50の内部の封止機能を高めることができる。また、当該孔の近傍においてたとえばベース体1に亀裂が発生したとしても、封止補強部2が亀裂を塞ぐことにより、亀裂が進展し、内槽容器50が破損を起こす可能性を低減することができる。
【0044】
以上に述べたように封止補強部2は、図10に示すように、内槽容器50の側面(壁部であるたとえば端部筐体55)と、当該側面を貫通するように配置された端子41との接続部分における角部(隅72)に形成されている。この領域は、ベース体1と端子41との接続部分を有するため、接続部分のなす隅72(角部)に封止補強部2が配置されることが好ましい。このようにすれば、隅72における超電導コイル機器の真空漏れの発生や封止機能の低下をより確実に抑制することができる。
【0045】
なお端子41や管状部材57、58、外管部材67、68は、図5、6、7においては端部筐体55を貫通するように配置されている。しかしこれらはたとえば内槽容器50や外槽容器60の側面を貫通するように(開口部53、63と同様の、内槽容器50や外槽容器60の側面を貫通する空洞を貫通するように)配置されていてもよい。
【0046】
次に以上に述べた超電導コイル機器の製造方法について説明する。図11のフローチャートに示すように、まず超電導コイルを準備する工程(S10)が実施される。これは上述した超電導コイル10を形成する工程である。
【0047】
超電導コイル10を構成する超電導線材は、テープ状であり、ビスマス(Bi)系の超電導線材を用いてもよく、薄膜超電導線材を用いてもよい。また超電導線材をたとえば鞍形のレーストラック型コイルの形状をなすように巻回することが好ましい。
【0048】
次に容器ベース体を準備する工程(S20)が実施される。これは内槽容器50や外槽容器60を構成する枠体としてのベース体1を形成する工程である。ここで内槽容器50のベース体1を形成する際には、工程(S10)で準備した超電導コイル10がベース体1の内部に保持されるようにすることが好ましい。また外槽容器60のベース体1を形成する際には、内槽容器50の外表面を覆うように外槽容器60が形成されることが好ましい。
【0049】
内槽容器50や外槽容器60のベース体1は、強度が高く、断熱性に優れたたとえばFRPからなる部材により形成されることが好ましい。ただし内槽容器50や外槽容器60は複雑な形状をなすため、たとえば金型を用いて一体成形することは困難である。このためベース体1を形成するために必要な部材を複数準備し、これらを接合することによりベース体1の態様をなすよう形成することが好ましい。
【0050】
次に繊維を配置する工程(S30)が実施される。これは具体的には、ベース体1の外周(外側の表面)を覆うように、繊維部材である補強繊維3を形成するためのシート状の部材を配置する工程である。
【0051】
シート状の部材としては、たとえば補強繊維3中に含まれるガラスクロスなどのガラス繊維材料や、カーボン繊維などの補強材料からなる繊維部材を準備することが好ましい。これらは樹脂を含浸することにより、当該樹脂の強度が向上される補強材としての役割を有する材料である。シート状の部材をベース体1の外周の表面に密着するように配置すれば、形成される補強繊維3の強度が向上される。
【0052】
ここでシート状の部材は、ベース体1の表面に密着するように配置され、たとえばベース体の角部においても可能な限り当該角部と密着するように配置されることが好ましい。
【0053】
次に図11に示す金型にセットする工程(S40)が実施される。これは具体的には、工程(S30)にてベース体1に配置したシート状の部材の内部に樹脂を含浸させる処理を行なうための金型の内部に、ベース体1をセットする工程である。
【0054】
そして樹脂を含浸する工程(S50)が実施される。ここで上記の金型の内部に、たとえばエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を投入する。このようにすれば金型の内部に載置されているベース体1の外周を覆うシート状の部材(繊維部材)の内部に当該熱硬化性樹脂が含浸される。
【0055】
ただしここで、たとえばベース体1とシート状部材との間に間隙が形成されていれば、当該樹脂はベース体1とシート状部材との間隙を充填する。この状態で硬化処理を行なう工程(S60)を行なう。ここでは具体的に、ベース体1を上記金型内で50℃以上200℃以下の温度で2時間以上48時間以下の時間加熱することが好ましい。このようにすれば、樹脂が含浸されたシート状部材は熱硬化を起こしてFRP材からなる補強繊維3となり、補強繊維3はベース体1と一体をなすように配置され、超電導コイル機器を構成する容器が形成される。したがって形成される内槽容器50や外槽容器60の強度や断熱性をさらに高めることができる。
【0056】
このとき、工程(S50)においてベース体1とシート状部材との間隙を充填するように配置された樹脂材料が、工程(S60)の熱処理により、図9や図10に示すように、ベース体1とシート状部材(補強繊維3)との間を充填する封止補強部2として形成される。
【0057】
以上に示す、本発明に係る超電導コイル機器の製造方法においては、内槽容器50や外槽容器60を構成するベース体1の外側の補強繊維3を形成する際に、補強繊維3を構成する繊維部材からなるシート状部材を先に配置し、その後で補強繊維3に含まれる樹脂材料を供給している。このようにすれば、たとえシート状部材をベース体の表面上に配置する際に、ベース体とシート状部材との間に間隙が形成されたとしても、次に供給される樹脂材料が、ベース体とシート状部材との間の間隙を充填する。このため熱硬化により最終的に形成される補強繊維3とベース体1との間隙部は樹脂が硬化された封止補強部2により充填される。つまりシート状部材を供給した後に供給(含浸)される樹脂により、ベース体1を構成する部材の接続部分としての角部や、ベース体1と端子41との接続部としての角部に空隙が形成されていたとしても、当該空隙を塞ぐ封止補強部2が形成されるため、形成される超電導コイル機器を構成する各容器の封止機能を向上させることができる。
【0058】
仮に補強繊維3を形成する際に、たとえば補強繊維3を構成する材料である繊維材料と樹脂材料との両方を含むシート状の部材をベース体1の表面に配置した上で熱硬化を行なえば、ベース体1とシート状の部材との間に形成された間隙がそのまま残る。シート状の部材中に含まれる樹脂材料が、ベース体1とシート状の部材との間の間隙を埋めるべく浸み出すという効果は起こりにくいため、ベース体1とシート状の部材との密着が不十分である領域には間隙が形成されることになる。したがって当該間隙が形成された領域が、たとえばベース体1の角部であり、かつ部材の接続が不十分である空隙が存在すれば、当該空隙を起点として当該容器の封止機能の低下や、容器の破損を来たす可能性が高くなる。
【0059】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、超電導機器における超電導コイルを保持する容器の封止機能を向上する技術として、特に優れている。
【符号の説明】
【0061】
1 ベース体、2 封止補強部、3 補強繊維、10 超電導コイル、13 ロータコア、16 ロータ軸、17 冷媒、18 出力軸、20 ステータ、21 間隙、23 ステータコア、30 ロータ、35 ベアリング、41 端子、43 筐体固定端子、45 端子構成部材、47 線材固定用端子、50 内槽容器、51 内槽容器外側筐体、52 内槽容器内側筐体、53,63 開口部、54,64 開口部側面、55,56,65,66 端部筐体、57,58 管状部材、60 外槽容器、61 外槽容器外側筐体、62 外槽容器内側筐体、67,68 外管部材、71 角、72 隅、100 超電導モータ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイル機器および超電導機器に関するものであり、より特定的には、超電導コイルを内部に保持する容器を備える超電導コイル機器、および当該超電導コイルを用いた超電導機器に関するものである。また上記超電導コイル機器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導線材を巻回した超電導コイルは、極低温の温度下にて用いられる。このため、たとえば超電導コイルを用いたモータなどの超電導機器においては、超電導コイルは容器の内部に保持された状態で用いられる。当該容器の内部に液体窒素などの冷媒を供給することにより超電導コイルが冷却された状態で使用される。
【0003】
上述した容器のように、極低温の冷媒を内部に貯蔵した上で超電導コイルを保持するクライオスタットの内槽の製造方法として、たとえば従来から特開2007−35835号公報(特許文献1)に開示されるような方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−35835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2007−35835号公報に開示されるクライオスタットの製造方法は以下のとおりである。まずガラス繊維やカーボン繊維などの補強繊維に熱硬化性樹脂を含浸した材質を熱硬化することにより強度を高くしたFRP(Fiber Reinforced Plastics)と呼ばれる繊維強化プラスチックからなる枠体を準備する。この枠体に、FRPと同様の材質からなるプリプレグと呼ばれる未硬化の物質を貼り付ける。そしてこのプリプレグを貼り付けた枠体を熱硬化させることにより、プリプレグが容器の側面として形成される。このようにして、クライオスタットの内槽が形成される。
【0006】
クライオスタットのように極低温の冷媒を保持する容器は、室温と極低温との温度サイクルにより生じる熱膨張や熱収縮に耐えうる材質とすることが要求される。補強繊維を含まない樹脂はこのような温度サイクルに耐えうるだけの強度を有さない。このため当該容器は、FRPのような樹脂が繊維材料により補強された材料を用いて形成されることが好ましい。またFRPのような不導体を容器の材料に用いることにより、当該容器に電流が流れてジュール熱が発生し、容器の内部の冷媒を加熱する現象の発生を抑制することができる。
【0007】
しかし、特開2007−35835号公報に開示される製造方法のように、プリプレグを枠体の外側に複数層貼り付ける方法を用いた場合、特に枠体の構造が段差となった領域において、貼り付けるプリプレグが貼り付けられる枠体の段差の形状に追随できず、特に枠体の段差がなす角部の近傍において、プリプレグが枠体と接触せず、プリプレグと枠体との間に間隙が形成される。当該間隙には空気などが貯留しやすいため、間隙が存在された容器に対して温度サイクルを付加すると、貯留した空気が周囲の筐体に熱応力を与える。その結果、容器には当該角部を起点としてクラックなどの破損が発生する可能性がある。
【0008】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものである。その目的は、超電導コイルの容器を構成する枠体と側面を構成する樹脂材料との間の充填精度を向上することにより、密閉性を向上することが可能な容器を備える超電導コイル機器、および当該超電導コイル機器を用いた超電導機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る超電導コイル機器は、超電導コイルと、超電導コイルを内部に保持する容器とを備える超電導コイル機器である。容器はFRPからなり、容器の角部においては、角部に沿って、樹脂からなる封止補強部が形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る超電導コイル機器は、超電導コイルを内部に保持する容器の角部(樹脂を含浸する側から見て山型に屈曲した「角」や、樹脂を含浸する側から見て谷型に屈曲した「隅」)が樹脂からなる封止補強部により充填される。このため角部などの、容器を構成するために組み立てられた複数の枠体の部材の接続部分において間隙が形成されることが抑制される。したがって、当該容器の封止性能を向上することができる。また当該容器に温度サイクルを与えた場合においても、角部の間隙に大きな熱応力が発生することによる容器の破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る超電導機器の外観の状態を示す概略模式図である。
【図2】図1の線分II−IIにおける概略断面図である。
【図3】図1および図2のロータの概略斜視図である。
【図4】図1および図2のステータの概略斜視図である。
【図5】超電導コイルが内部に保持される内槽容器の構成を示す概略斜視図である。
【図6】図5の内槽容器を取り囲む外槽容器の構成を示す概略斜視図である。
【図7】図5の線分VII−VIIにおける概略断面図である。
【図8】図2が示す、内槽容器と外槽容器との内部を示す部分の態様をより詳細に示す拡大図である。
【図9】図8中の丸点線「IX」で囲まれた領域の概略拡大図である。
【図10】図7中の丸点線「X」で囲まれた領域の概略拡大図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る超電導コイル容器の製造工程を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす要素には同一の参照符号を付し、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
【0013】
本実施の形態に係る超電導機器としては、たとえば図1に示す超電導モータ100が挙げられる。超電導モータ100は、回転子として用いるロータ30と、固定子として用いるステータ20とからなる。図1の超電導モータ100は概略の構造を示す模式図であるが、図面を見やすくするためロータ30を構成する部材の一部のみを図示し、ステータ20を構成する部材については図示を省略している。そしてロータ30およびステータ20を構成する各部材については図2の断面図および、図3〜図6により具体的に図示している。以下においては図1〜図6を適宜参照して、超電導モータ100について説明する。
【0014】
超電導モータ100のロータ30は、ロータコア13の周囲に超電導線材を超電導コイル10として巻回させたものに外部から電流を流し、当該電流の向きに応じてロータコア13に磁性を生じさせる。超電導コイル10はたとえば図1、図3、図4に示すようにレーストラック型コイルの態様とすることが好ましい。ステータ20についてもステータコア23の周囲の超電導コイル10に流れる電流の向きに応じてステータコア23に磁性を生じさせる。ロータコア13とステータコア23との磁性による両者間の引き寄せや反発を利用してロータ30をロータ軸16の周囲に沿った方向へ回転させる。ロータ30の回転は、ロータ30の回転を出力する負荷に接続された出力軸18から外部へと伝播される。出力軸18の回転はベアリング35により支持される。
【0015】
ここで超電導コイル10は超電導線材により構成されるため、これを作動するために液体窒素などの冷媒17で冷やす必要がある。そのため超電導コイル10は容器の内部に保持されている。当該容器の内部に冷媒17を供給することにより、超電導コイル10を冷却して使用可能な状態とする。
【0016】
ここでいう容器とは、超電導コイル10を収納する超電導コイル用容器のことである。超電導コイル用容器は、図2に示すように超電導コイル10を内部に直接保持する内槽容器50と、内槽容器50の外周部を取り囲むように配置された外槽容器60とからなる。超電導コイル10が内槽容器50の内部に保持され、内槽容器50の外周部を取り囲むように外槽容器60が配置された構成により、超電導コイル機器が形成される。内槽容器50および外槽容器60は、ロータ30、ステータ20のそれぞれの超電導コイル10に備えられている。なお内槽容器50および外槽容器60は、図1、3、4においては図示されていない。
【0017】
当該容器が内槽容器50を備えることにより、超電導コイル10を冷却して安定に作動させることができる。また当該容器が外槽容器60を備えることにより、冷媒を保持する内槽容器50が室温である外気に触れることを抑制する断熱容器としての作用を有する。
【0018】
したがって内槽容器50および外槽容器60は、断熱性に優れた材料から構成されることが好ましい。一例としてこれらはFRP(繊維強化プラスチック)により形成されることが好ましい。FRPは強度や断熱性が非常に高いため、容器の内部と外部との温度差や、当該超電導モータ100の使用時と不使用時との容器内部の温度差による熱応力による破損や、冷媒による超電導コイル10の冷却効率の劣化を抑制することができる。ただしFRPの代わりに、内槽容器50および外槽容器60としてたとえばフィラー含有プラスチックやセラミックスなどを用いてもよい。
【0019】
図5と図6にはそれぞれ一例として、ステータ20に用いられる内槽容器および外槽容器を示している。内槽容器50は図5に示すように、たとえば円筒形状を有するFRPの筐体からなる。内槽容器50の円筒部は内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52との2台の円筒形状の筐体が、これらの円筒形状の底面としての円形の中心がほぼ一致して同心円をなすように配置される。内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52とに挟まれた領域が、超電導コイル10が載置される領域である。超電導コイル10の中空の領域を、ステータコア23やロータコア13が貫通するために、内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52の側面(円筒形状をなす側部)には開口部53が形成されている。つまり複数の開口部53のそれぞれに超電導コイル10の中空の部分やステータコア23、ロータコア13が配置され、隣り合う開口部53に挟まれた領域に隣り合う超電導コイル10の超電導線材が配置される構成となる。
【0020】
なお開口部53は、図5に示すように、内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52との側面の両方にたとえば矩形の孔が形成されることにより、内槽容器外側筐体51から内槽容器内側筐体52まで、側面に交差する方向に貫通するように形成されたものであってもよい。しかしたとえば内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52とのいずれか一方のみに矩形の孔が形成されることにより、たとえば内槽容器50の側面の外側(内側)から見たときに、開口部53が凹部をなすような形状となっていてもよい。
【0021】
開口部53の縁部は開口部側面54としてFRPにより塞がれる。また内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52との底面近傍(円筒形状の端部)においてもフランジ形状を有するFRPからなる端部筐体55、56を配置する。以上により、内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52とに挟まれた領域が密閉空間となり、内槽容器50としての態様をなす。ここにたとえば液体窒素などの冷媒17(図2参照)を給排するための冷媒供給管と冷媒排出管とが接続される。図5に示すように、端部筐体55から冷媒を流通させる管状部材が2本突出している。これらのうち1本(管状部材57)は内槽容器50の内部に冷媒17を供給するための冷媒供給管であり、他の1本(管状部材58)は内槽容器50の内部から冷媒17を排出するための冷媒供給管である。しかし両者は同様の構造を備えているため、ここでは両者を合わせて冷媒供給管と呼ぶことにする。
【0022】
一方、断熱容器としての外槽容器60は、上述したように内槽容器50の外側を取り囲むように配置される。具体的には図2に示すように、内槽容器50の内槽容器外側筐体51の外側に、内槽容器外側筐体51に対向するように外槽容器外側筐体61が載置され、内槽容器内側筐体52の内側に、内槽容器内側筐体52に対向するように外槽容器内側筐体62が載置される。外槽容器外側筐体61および外槽容器内側筐体62に挟まれた領域(つまり外槽容器60の内部)に内槽容器50が載置される。また図6に示すように、外槽容器外側筐体61および外槽容器内側筐体62にも複数の開口部63が形成されており、開口部53に重なるように配置される。このようにして、開口部63と開口部53とが重畳された領域に超電導コイル10の中空の領域やステータコア23、ロータコア13が配置される構成となる(図2参照)。開口部63の縁部にも開口部側面64が存在し、また端部筐体65、66が配置されることにより、外槽容器60の内部が密閉空間をなす態様となっている。
【0023】
つまり各容器の底面がなす円形の直径は、大きい順から外槽容器外側筐体61、内槽容器外側筐体51、内槽容器内側筐体52、外槽容器内側筐体62であり、開口部63は開口部53より小さい。
【0024】
内槽容器50と外槽容器60とは、それぞれの底面がなす円形の径方向に関して互いに接触しないように配置されている。つまり図2に示すように、たとえば内槽容器50の内槽容器外側筐体51と、外槽容器60の外槽容器外側筐体61との間には径方向に一定の間隙が存在する。内槽容器50の内槽容器内側筐体52と、外槽容器60の外槽容器内側筐体62とについても同様である。つまり当該間隙はたとえば図2に示す間隙21として存在し、内槽容器50の外周を取り囲むように存在する。この間隙21の存在により、内槽容器50の内部が冷媒17により冷却される効率を高め、内槽容器50の内部の温度が、たとえば外槽容器60の外側の室温の影響を受けることを抑制している。このため外槽容器60が、内槽容器50の内部の温度制御を容易にする断熱材として作用するものであるといえる。
【0025】
そして管状部材57の外側を覆うように、外槽容器60には図6に示す外管が配置されている。また管状部材58の外側を覆うように、外槽容器60には図6に示す外管部材68が配置されている。これらも管状部材57、58と同様に、端部筐体65から2本突出しており、2本のうち一方は内槽容器50の内部に冷媒17を供給する管状部材57の外側を囲むものであり、他方は内槽容器50の内部から冷媒17を排出する管状部材58の外側を囲むものである。ここでは管状部材57の外側を囲むものを外管部材67、管状部材58の外側を囲むものを外管部材68とするが、ここでは両者とも外管と呼ぶことにする。
【0026】
なお図6に示す開口部63は、開口部53と同様に、外槽容器外側筐体61と外槽容器内側筐体62との側面の両方にたとえば矩形の孔が形成されることにより、外槽容器外側筐体61から外槽容器内側筐体62まで、側面に交差する方向に貫通するように形成されたものであってもよい。しかしたとえば外槽容器外側筐体61と外槽容器内側筐体62とのいずれか一方のみに矩形の孔が形成されることにより、たとえば外槽容器60の側面の外側(内側)から見たときに、開口部63が凹部をなすような形状となっていてもよい。
【0027】
上述したように、図2や図5の内槽容器50の内部には超電導コイル10が載置されている。その態様は図7の断面図に示すとおりである。そして当該超電導コイル10には、これを構成する超電導線材に電流を供給するための端子が接続されている。その態様は図7に示すとおりであり、端子41は筐体固定端子43と端子構成部材45と、線材固定用端子47とから構成される。なお図7においては、形成を容易にするために端子41が筐体固定端子43と端子構成部材45と、線材固定用端子47との3つの部材から構成されているが、端子41は単独の部材から構成されていてもよい。
【0028】
内槽容器50をなす内槽容器外側筐体51と内槽容器内側筐体52とは、図8に示すようにベース体1と、ベース体1の外周部を取り囲むように配置された補強繊維3とから構成される。外槽容器60をなす外槽容器外側筐体61と外槽容器内側筐体62とについても同様である。
【0029】
ベース体1は内槽容器50や外槽容器60の骨組みをなす枠体であるため、上述したように内槽容器50や外槽容器60を構成するFRPや、あるいはフィラー含有プラスチックやセラミックスなどにより構成されるものであることが好ましい。
【0030】
容器状のベース体1を構成するために組み立てられる複数の部材同士の接続をより強固にするために、ベース体1の表面全体を覆うように(ベース体1の表面全体に巻き付けるように)補強繊維3が配置される。補強繊維3はたとえばエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂が、ガラスクロスなどのガラス繊維材料や、カーボン繊維などの補強材料中に含浸された材料からなる。つまり補強繊維3はベース体1と同様にたとえばFRPからなる。
【0031】
そしてベース体1の角71には封止補強部2が形成されている。図8や図5に示す角71と、図5に示す隅72とを合わせてここでは角部と呼ぶことにする。
角71とは内槽容器50や外槽容器60の外側から見たときに、ベース体1を構成するために組み立てられた複数の部材同士の接続部分が山型に(凸形状をなすように)屈曲したようになっている場所のことである。隅72とは内槽容器50や外槽容器60の外側から見たときに、ベース体1を構成するために組み立てられた複数の部材同士の接続部分が谷型に(凹形状をなすように)屈曲したようになっている場所のことである。
【0032】
封止補強部2は、補強繊維3中に含まれる熱硬化性樹脂と同様の樹脂材料からなる。封止補強部2は、ベース体1において複数形成される角71や隅72(角部)が延在する方向(図8における紙面に垂直な方向)に沿って延在するように配置される。つまり封止補強部2は、延在する角71や隅72を、内槽容器50や外槽容器60の外側から覆うように配置される。
【0033】
図9に示す内槽容器50のベース体1の外周部分を覆うように補強繊維3が配置される。この補強繊維3はシート状の部材がベース体1の表面上に密着するように配置される。このため補強繊維3とベース体1とが一体となり、内槽容器50や外槽容器60の表面には、特に室温と極低温との温度サイクルによる熱応力に耐えうる強度を持たせることができる。これは補強繊維3を構成するガラス繊維材料や、カーボン繊維などの補強材料による。
【0034】
ところが、たとえば図9の上下方向に延在する部材と図9の左右方向に延在する部材との接続部分がなす角71の近傍においては、ベース体1の表面上に密着するように補強繊維3が配置されず、ベース体1と補強繊維3との間に間隙が形成される傾向がある。これは補強繊維3をベース体1の表面上に沿うように巻き付ける際に、角71において補強繊維3がベース体1の表面の形状(直角に近い角度で交差する形状)に追随するように変形することが困難であるためである。つまり角71の近傍において補強繊維3は、図9に示すように、ベース体1の角71における形状に比べて丸みを帯びるように湾曲する。このため補強繊維3の湾曲部と、ベース体1の角71との間に間隙が形成されやすい。
【0035】
角71などの角部は複数の部材の接続部分であるため、角部には部材同士が完全に接合されず、一部空隙を形成するように接合されることがある。このような空隙は、特に上記の接続部分における複数の部材同士の接合強度が不足している場合に発生しやすい。仮に角71が空隙を形成している状態で、さらに当該空隙に密着せずに補強繊維3が配置されると、当該空隙の部分において、内槽容器50や外槽容器60の内部と外部とを貫通する孔が形成されることになる。
【0036】
このような孔が形成されると、内槽容器50や外槽容器60の、内部に対する封止性能が低下する。具体的には、たとえば内槽容器50の内部に保持する超電導コイル10を冷却するための冷媒17(図2参照)が内槽容器50の外部へ漏洩する可能性がある。また孔により外槽容器60の内部と外部との間に空気などのガスの微小な漏れが発生すれば、外槽容器60の内部における真空状態を保持することが困難になる。つまり外槽容器60の、内槽容器50に対する断熱性が低下し、内槽容器50の内部を冷媒17で冷却する効率が低下する可能性がある。
【0037】
封止補強部2は、角部に上述した孔が形成されたとしても、当該孔を覆うように配置される。つまり封止補強部2は、角部の孔を塞ぐことにより、内槽容器50や外槽容器60の封止性能を向上させる。封止補強部2により孔が塞がれれば、内槽容器50や外槽容器60の内外を通じたガスや冷媒などの漏洩が抑制され、超電導コイル10の機能を高めることができる。
【0038】
また樹脂からなる封止補強部2によりベース体1と補強繊維3との間隙が埋められれば、ベース体1と補強繊維3とに挟まれた領域に空気などのガスが滞留する可能性を低減することができる。ベース体1と補強繊維3との間に空気が滞留し、たとえば当該空気が角71の延在する方向に沿って延在するように存在する場合、ベース体1を構成する部材の接続部分に、熱応力などに起因して発生する亀裂が拡大し、ベース体1が破損する可能性が高くなる。しかしベース体1と補強繊維3とに挟まれた領域が樹脂材料(封止補強部2)で充填されている場合には、たとえベース体1を構成する部材の接続部分に亀裂が形成されても、当該亀裂が封止補強部2により容易に覆われる(亀裂の内部が封止補強部2により充填される)ため、当該亀裂が進展してベース体1が破損する可能性が低くなる。
【0039】
以上に述べたように封止補強部2は、図8に示すように、内槽容器50の側面の開口部53(外槽容器60の側面の開口部63)の角部(角71)に形成されている。開口部53、63は、ベース体1を構成する複数の部材が接続されて容器状の枠体が形成された結果、当該部材が配置されない空間領域として形成される。このため開口部53、63にはベース体1を構成する部材の接続部分が複数存在することになる。したがって開口部53、63のなす角71(角部)に封止補強部2が配置されることが好ましい。このようにすれば、開口部53、63における超電導コイル機器の真空漏れの発生や封止機能の低下をより確実に抑制することができる。
【0040】
図10は、超電導コイル10へ外部から電源を供給したり、超電導コイル10の電力を外部へ出力するための端子が、内槽容器50の端部筐体55を貫通するように配置された領域の態様を示す拡大断面図である。図10においては端部筐体55の左側が内槽容器50の内側であり、端部筐体55の右側が内槽容器50の外側である。端部筐体55は内槽容器50の一部分であるため、これは図8に示す内槽容器外側筐体51などと同様にベース体1であると考えることができる。
【0041】
ベース体1を貫通する端子41を構成する部材のなかで、内槽容器50の外側のうちもっともベース体1に近い領域に配置される部材は、たとえばベース体1と端子41とのベース体1と端子41との固定を維持する役割を有する部材としての端子構成部材45である。
【0042】
図10に示すように端部筐体55(ベース体1)の表面を覆うように、言い換えれば端部筐体55(ベース体1)の表面に密着するように、補強繊維3が配置される。しかしベース体1と端子構成部材45とが交差する角部である隅72において、補強繊維3が隅72に密着するように配置されず、図10に示すようにベース体1と端子構成部材45との間に間隙が形成される傾向にある。これは上述したように補強繊維3が、隅72のなす直角に近い角度に追随するように変形することが困難であるためである。つまり隅72の近傍において補強繊維3は、図10に示すように、ベース体1の角71における形状に比べて丸みを帯びるように湾曲する。このため補強繊維3の湾曲部と、ベース体1の隅72との間に間隙が形成されやすい。
【0043】
この間隙を埋めるように封止補強部2が配置されることが好ましい。このようにすれば、上述した図8や図9の場合と同様に、封止補強部2が、端部筐体55と端子41との交差する領域(隅72)に発生する孔を覆ったり充填したりすることにより、内槽容器50の内部の封止機能を高めることができる。また、当該孔の近傍においてたとえばベース体1に亀裂が発生したとしても、封止補強部2が亀裂を塞ぐことにより、亀裂が進展し、内槽容器50が破損を起こす可能性を低減することができる。
【0044】
以上に述べたように封止補強部2は、図10に示すように、内槽容器50の側面(壁部であるたとえば端部筐体55)と、当該側面を貫通するように配置された端子41との接続部分における角部(隅72)に形成されている。この領域は、ベース体1と端子41との接続部分を有するため、接続部分のなす隅72(角部)に封止補強部2が配置されることが好ましい。このようにすれば、隅72における超電導コイル機器の真空漏れの発生や封止機能の低下をより確実に抑制することができる。
【0045】
なお端子41や管状部材57、58、外管部材67、68は、図5、6、7においては端部筐体55を貫通するように配置されている。しかしこれらはたとえば内槽容器50や外槽容器60の側面を貫通するように(開口部53、63と同様の、内槽容器50や外槽容器60の側面を貫通する空洞を貫通するように)配置されていてもよい。
【0046】
次に以上に述べた超電導コイル機器の製造方法について説明する。図11のフローチャートに示すように、まず超電導コイルを準備する工程(S10)が実施される。これは上述した超電導コイル10を形成する工程である。
【0047】
超電導コイル10を構成する超電導線材は、テープ状であり、ビスマス(Bi)系の超電導線材を用いてもよく、薄膜超電導線材を用いてもよい。また超電導線材をたとえば鞍形のレーストラック型コイルの形状をなすように巻回することが好ましい。
【0048】
次に容器ベース体を準備する工程(S20)が実施される。これは内槽容器50や外槽容器60を構成する枠体としてのベース体1を形成する工程である。ここで内槽容器50のベース体1を形成する際には、工程(S10)で準備した超電導コイル10がベース体1の内部に保持されるようにすることが好ましい。また外槽容器60のベース体1を形成する際には、内槽容器50の外表面を覆うように外槽容器60が形成されることが好ましい。
【0049】
内槽容器50や外槽容器60のベース体1は、強度が高く、断熱性に優れたたとえばFRPからなる部材により形成されることが好ましい。ただし内槽容器50や外槽容器60は複雑な形状をなすため、たとえば金型を用いて一体成形することは困難である。このためベース体1を形成するために必要な部材を複数準備し、これらを接合することによりベース体1の態様をなすよう形成することが好ましい。
【0050】
次に繊維を配置する工程(S30)が実施される。これは具体的には、ベース体1の外周(外側の表面)を覆うように、繊維部材である補強繊維3を形成するためのシート状の部材を配置する工程である。
【0051】
シート状の部材としては、たとえば補強繊維3中に含まれるガラスクロスなどのガラス繊維材料や、カーボン繊維などの補強材料からなる繊維部材を準備することが好ましい。これらは樹脂を含浸することにより、当該樹脂の強度が向上される補強材としての役割を有する材料である。シート状の部材をベース体1の外周の表面に密着するように配置すれば、形成される補強繊維3の強度が向上される。
【0052】
ここでシート状の部材は、ベース体1の表面に密着するように配置され、たとえばベース体の角部においても可能な限り当該角部と密着するように配置されることが好ましい。
【0053】
次に図11に示す金型にセットする工程(S40)が実施される。これは具体的には、工程(S30)にてベース体1に配置したシート状の部材の内部に樹脂を含浸させる処理を行なうための金型の内部に、ベース体1をセットする工程である。
【0054】
そして樹脂を含浸する工程(S50)が実施される。ここで上記の金型の内部に、たとえばエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を投入する。このようにすれば金型の内部に載置されているベース体1の外周を覆うシート状の部材(繊維部材)の内部に当該熱硬化性樹脂が含浸される。
【0055】
ただしここで、たとえばベース体1とシート状部材との間に間隙が形成されていれば、当該樹脂はベース体1とシート状部材との間隙を充填する。この状態で硬化処理を行なう工程(S60)を行なう。ここでは具体的に、ベース体1を上記金型内で50℃以上200℃以下の温度で2時間以上48時間以下の時間加熱することが好ましい。このようにすれば、樹脂が含浸されたシート状部材は熱硬化を起こしてFRP材からなる補強繊維3となり、補強繊維3はベース体1と一体をなすように配置され、超電導コイル機器を構成する容器が形成される。したがって形成される内槽容器50や外槽容器60の強度や断熱性をさらに高めることができる。
【0056】
このとき、工程(S50)においてベース体1とシート状部材との間隙を充填するように配置された樹脂材料が、工程(S60)の熱処理により、図9や図10に示すように、ベース体1とシート状部材(補強繊維3)との間を充填する封止補強部2として形成される。
【0057】
以上に示す、本発明に係る超電導コイル機器の製造方法においては、内槽容器50や外槽容器60を構成するベース体1の外側の補強繊維3を形成する際に、補強繊維3を構成する繊維部材からなるシート状部材を先に配置し、その後で補強繊維3に含まれる樹脂材料を供給している。このようにすれば、たとえシート状部材をベース体の表面上に配置する際に、ベース体とシート状部材との間に間隙が形成されたとしても、次に供給される樹脂材料が、ベース体とシート状部材との間の間隙を充填する。このため熱硬化により最終的に形成される補強繊維3とベース体1との間隙部は樹脂が硬化された封止補強部2により充填される。つまりシート状部材を供給した後に供給(含浸)される樹脂により、ベース体1を構成する部材の接続部分としての角部や、ベース体1と端子41との接続部としての角部に空隙が形成されていたとしても、当該空隙を塞ぐ封止補強部2が形成されるため、形成される超電導コイル機器を構成する各容器の封止機能を向上させることができる。
【0058】
仮に補強繊維3を形成する際に、たとえば補強繊維3を構成する材料である繊維材料と樹脂材料との両方を含むシート状の部材をベース体1の表面に配置した上で熱硬化を行なえば、ベース体1とシート状の部材との間に形成された間隙がそのまま残る。シート状の部材中に含まれる樹脂材料が、ベース体1とシート状の部材との間の間隙を埋めるべく浸み出すという効果は起こりにくいため、ベース体1とシート状の部材との密着が不十分である領域には間隙が形成されることになる。したがって当該間隙が形成された領域が、たとえばベース体1の角部であり、かつ部材の接続が不十分である空隙が存在すれば、当該空隙を起点として当該容器の封止機能の低下や、容器の破損を来たす可能性が高くなる。
【0059】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、超電導機器における超電導コイルを保持する容器の封止機能を向上する技術として、特に優れている。
【符号の説明】
【0061】
1 ベース体、2 封止補強部、3 補強繊維、10 超電導コイル、13 ロータコア、16 ロータ軸、17 冷媒、18 出力軸、20 ステータ、21 間隙、23 ステータコア、30 ロータ、35 ベアリング、41 端子、43 筐体固定端子、45 端子構成部材、47 線材固定用端子、50 内槽容器、51 内槽容器外側筐体、52 内槽容器内側筐体、53,63 開口部、54,64 開口部側面、55,56,65,66 端部筐体、57,58 管状部材、60 外槽容器、61 外槽容器外側筐体、62 外槽容器内側筐体、67,68 外管部材、71 角、72 隅、100 超電導モータ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導コイルと、
前記超電導コイルを内部に保持する容器とを備える超電導コイル機器であって、
前記容器はFRPからなり、
前記容器の角部においては、前記角部に沿って、樹脂からなる封止補強部が形成されている超電導コイル機器。
【請求項2】
前記容器の側面には開口部が形成されており、
前記封止補強部は、前記開口部の前記角部に配置されている、請求項1に記載の超電導コイル機器。
【請求項3】
前記容器と、前記容器の壁部を貫通するように配置された端子とをさらに備え、前記容器の前記壁部と前記端子との接続部の前記角部に前記封止補強部が配置されている、請求項1または2に記載の超電導コイル機器。
【請求項4】
請求項1に記載の超電導コイル機器を用いた超電導機器。
【請求項5】
前記超電導コイルを準備する工程と、
前記超電導コイルを内部に保持する、前記容器のベース体を準備する工程と、
前記ベース体の外周を覆うように繊維部材を配置する工程と、
前記ベース体の外周に配置した前記繊維部材に樹脂を含浸する工程と、
前記繊維部材を硬化することにより容器を形成する工程とを備える、請求項1に記載の超電導コイル機器の製造方法。
【請求項1】
超電導コイルと、
前記超電導コイルを内部に保持する容器とを備える超電導コイル機器であって、
前記容器はFRPからなり、
前記容器の角部においては、前記角部に沿って、樹脂からなる封止補強部が形成されている超電導コイル機器。
【請求項2】
前記容器の側面には開口部が形成されており、
前記封止補強部は、前記開口部の前記角部に配置されている、請求項1に記載の超電導コイル機器。
【請求項3】
前記容器と、前記容器の壁部を貫通するように配置された端子とをさらに備え、前記容器の前記壁部と前記端子との接続部の前記角部に前記封止補強部が配置されている、請求項1または2に記載の超電導コイル機器。
【請求項4】
請求項1に記載の超電導コイル機器を用いた超電導機器。
【請求項5】
前記超電導コイルを準備する工程と、
前記超電導コイルを内部に保持する、前記容器のベース体を準備する工程と、
前記ベース体の外周を覆うように繊維部材を配置する工程と、
前記ベース体の外周に配置した前記繊維部材に樹脂を含浸する工程と、
前記繊維部材を硬化することにより容器を形成する工程とを備える、請求項1に記載の超電導コイル機器の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−228177(P2012−228177A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−165647(P2012−165647)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【分割の表示】特願2010−2922(P2010−2922)の分割
【原出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【分割の表示】特願2010−2922(P2010−2922)の分割
【原出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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