説明

超電導コイル

【課題】交流損失を増加させることなく、臨界電流を上昇させることが可能であり、中心磁場を高めることが可能な超電導コイルの提供。
【解決手段】本発明の超電導コイル20は、テープ状の超電導線材10を巻回した複数のコイル体が、同軸的に積層されてなり、前記複数のコイル体のうち、少なくとも積層方向両端部に配置されたコイル体22が、複数の超電導線材10を重ねた状態で巻回して形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは、磁気共鳴画像診断装置(MRI)や超電導磁気エネルギー貯蔵装置(SMES)といった様々な用途に使用される。これまで超電導線材として、NbTi等の金属系超電導体が広く用いられてきたが、近年、BiSrCaCu8+δ(Bi2212)、BiSrCaCu10+δ(Bi2223)などのビスマス系超電導体や、REBaCu7−δ(RE123、RE:希土類元素)で表される希土類系超電導体を用いた酸化物高温超電導線材の開発が進んでいる。この酸化物高温超電導線材は、金属系超電導線材に比べて臨界温度が高温であるため、より高い温度での使用が可能であることから、コイル等への応用の開発も進んでいる。
【0003】
酸化物高温超電導線材は、そのほとんどがテープ状であり、長尺の基材上に酸化物超電導体が2軸配向して積層されている。この酸化物高温超電導線材は、線材にかかる磁場の角度や大きさにより臨界電流密度が異なるという特性を有しており、超電導線材に対して垂直方向の磁場がかかった場合に、最も臨界電流密度が小さくなる。
酸化物高温超電導線材を用いた超電導コイルとしては、断面積が異なる超電導線材より形成した複数のコイルを積層させたもの(特許文献1参照)や、複数のダブルパンケーキコイルを積層した超電導コイルにおいて、その端部のコイルの幅を小さくしたもの(特許文献2参照)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−142245号公報
【特許文献2】特開2009−238888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図2(a)に示すような従来の超電導コイル100は、図2(b)に示す如く1本の超電導線材101aが巻回されて形成されたドーナツ盤状のコイル体101が、複数個(図2では8個)積層されて構成されている。各コイル体101は、隣接するコイル体同士の巻回方向が逆とされており、巻回始端または巻回終端で電気的および機械的に接続されている。
このような構造の超電導コイル100に通電した場合に発生する磁場の分布を図3に示す。図3(b)においては、図3(a)に示す超電導コイル100の領域Aにおける磁場分布を示しており、矢印は磁場の向きと大きさ(強さ)をベクトルとして表している。図3に示すように、超電導コイル100では、積層方向外側に行くほど超電導線材の垂直方向(X方向)の磁場成分が多くなっていることがわかる。それに対し、超電導コイル100の中央部に近くなるほど、超電導線材に平行な方向(Y方向)の磁場成分が多くなっている。
【0006】
図4に、超電導線材にかかる磁場の角度と、臨界電流の関係の一例をプロットして示す。図4において、θ[deg]は超電導線材の垂直方向(図3におけるX方向:テープ状の超電導線材に垂直方向)に対する磁場の角度を示し、θ=0°は超電導線材に対して垂直方向に磁場がかかっている場合であり、θ=90°は超電導線材に対して水平方向(図3におけるY方向:テープ状の超電導線材に平行方向)に磁場がかかっている場合である。また、図4におけるIc/Ic0は、超電導線材に磁場がかかっていない場合の臨界電流Ic0(自己磁場下での臨界電流)に対して、超電導線材に角度θで0.5Tの磁場をかけた場合の臨界電流Icの割合を示したものである。Ic/Ic0の値が小さいほど臨界電流の変化(減少率)が大きく、Ic/Ic0の値が大きいほど臨界電流の変化(減少率)が小さいことを示す。図4に示すように、テープ状の超電導線材にかかる磁場が垂直に近くなるほど、臨界電流が低下していることがわかる。そのため、図3に示すような従来の超電導コイル100では、コイル体の積層方向両端部に行くほど垂直方向の磁場成分が多くなることから、コイル体の積層方向両端部の臨界電流が小さくなる。
【0007】
特許文献1に記載の超電導コイルは、コイルの積層方向両端部に行くほど臨界電流が小さくなり、それに伴い臨界電流密度が小さくなってしまう問題を解決するために、コイルの積層方向両端部に行くに従って、コイルを構成する線材の断面積を大きくして臨界電流を大きくして、臨界電流密度を確保している。しかしながら、特許文献1の超電導コイルでは、超電導線材の垂直方向の磁場が大きいコイルの積層方向両端部の線材の断面積を大きくしているため、交流損失が大きくなってしまうという問題があった。
そこで、特許文献2に記載の超電導コイルでは、交流損失を小さくするために、超電導線材の垂直方向の磁場が大きいコイルの積層方向両端部の線材の幅(断面積)を小さくしている。しかしながら、このようにコイルの積層方向両端部の線材の断面積を小さくすると、交流損失は小さくなるが、臨界電流が小さくなり、それに伴い臨界電流密度も小さくなってしまうという問題があった。この様に、線材の断面積を変化させる方法では、臨界電流(および臨界電流密度)と交流損失はトレードオフの関係にあった。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、交流損失を増加させることなく、臨界電流を上昇させることが可能であり、中心磁場を高めることが可能な超電導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の超電導コイルは、テープ状の超電導線材を巻回した複数のコイル体が、同軸的に積層されてなる超電導コイルにおいて、前記複数のコイル体のうち、少なくとも積層方向両端部に配置されたコイル体が、複数の前記超電導線材を重ねた状態で巻回し形成されていることを特徴とする。
本発明の超電導コイルは、積層方向内側のコイル体より積層方向外側のコイル体の方が、個々により多くの超電導線材を重ねた状態で巻回し形成されて構成されてなることが好ましい。
前記複数のコイル体のうち、少なくとも積層方向中央部に配置されたコイル体は、1本の超電導線材を巻回し形成されていることが好ましい。
前記超電導線材は、テープ状の基材と、該基材上に設けられた超電導層と、該超電導層上に設けられた安定化層とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の超電導コイルは、積層方向両端部に位置するコイル体を複数の超電導線材が重ねられた状態で巻回されて形成されたコイル体としたことにより、コイルの積層方向両端部の臨界電流密度を下げることができるので、交流損失の増加を抑制することができる。
また、コイルの積層方向両端部の臨界電流(および臨界電流密度)が低く、コイルの積層方向両端部のコイル体を構成する各超電導線材にかかる負担を低下させることができるので、超電導コイル全体に流す電流値を従来よりも大きくすることができる。そのため、積層方向中央部のコイル体の臨界電流を大きくすることができ、超電導コイルの中心磁場を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の超電導コイルに使用される超電導線材の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2(a)は従来の超電導コイルを示す概略斜視図であり、図2(b)は同超電導コイルを構成するコイル体を示す概略斜視図である。
【図3】図2に示す超電導コイルにおいて発生する磁場の方向と大きさを示す図である。
【図4】臨界電流の磁場角度依存性の一例を示すグラフである。
【図5】図5(a)は本発明に係る超電導コイルの第1実施形態の一例を示す概略斜視図であり、図5(b)は同超電導コイルを構成する各コイル体を示す概略斜視図である。
【図6】図6(a)は本発明に係る超電導コイルの第2実施形態の一例を示す概略斜視図であり、図6(b)は同超電導コイルを構成する各コイル体を示す概略斜視図である。
【図7】図7は、本発明に係る超電導コイルにおけるコイル体同士の接続構造の一例を示す図であり、図7(a)は斜視図、図7(b)は上面図、図7(c)はA−A’断面図、図7(d)はB−B’断面図である。
【図8】図8は、本発明に係る超電導コイルにおけるコイル体同士の接続構造の他の例を示す図であり、図8(a)は分解斜視図、図8(b)は上面図、図8(c)はC−C’断面図である。
【図9】図9は、本発明に係る超電導コイルにおけるコイル体同士の接続構造の他の例を示す図であり、図9(a)は分解斜視図、図9(b)は上面図、図9(c)はD−D’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の超電導コイルについて、図面に基づき説明する。
本発明の超電導コイルは、テープ状の超電導線材を巻回した複数のコイル体が、同軸的に積層されてなる超電導コイルにおいて、前記複数のコイル体のうち、少なくとも両端部に配置されたコイル体が、複数の前記超電導線材を重ねた状態で巻回して形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の超電導コイルを構成するコイル体は、テープ状の超電導線材が巻回されて形成されている。図1は、本発明の超電導コイルに使用される超電導線材の一例を示す概略斜視図である。図1に示す超電導線材10は、長尺テープ状の基材11上に、中間層12、超電導層13及び安定化層14がこの順に積層されて構成されている。
【0014】
基材11は、通常の超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、長尺のプレート状又はシート状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル(Ni)合金又は銅(Cu)合金がより好ましい。なかでも、市販品であればハステロイ(商品名、ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。
基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで強度が一層向上し、上限値以下とすることで臨界電流密度を一層向上させることができる。
【0015】
中間層12は、超電導層13の結晶配向性を制御し、基材11中の金属元素の超電導層13への拡散を防止するものである。そして、基材11と超電導層13との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能し、その材質は、物理的特性が基材11と超電導層13との中間的な値を示す金属酸化物が好ましい。中間層12の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物が例示できる。
中間層12は、単層でも良いし、複数層でも良い。例えば、前記金属酸化物からなる層(金属酸化物層)は、結晶配向性を有していることが好ましく、複数層である場合には、最外層(最も超電導層13に近い層)が少なくとも結晶配向性を有していることが好ましい。
【0016】
中間層12と基材11との間には、ベッド層が介在されていてもよい。ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y)、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成される。このベッド層は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜200nmである。
【0017】
さらに、本発明においては、基材11とベッド層との間に拡散防止層が介在された構造としても良い。拡散防止層は、基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。なお、拡散防止層の結晶性は問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
このように基材11とベッド層との間に拡散防止層を介在させることにより、後述する中間層12や超電導層13等の他の層を形成する際に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合に、基材11の構成元素の一部がベッド層を介して超電導層13側に拡散することを効果的に抑制することができる。基材11とベッド層との間に拡散防止層を介在させる場合の例としては、拡散防止層としてAl、ベッド層としてYを用いる組み合わせを例示することができる。
【0018】
また中間層12は、前記金属酸化物層の上に、さらにキャップ層が積層された複数層構造でも良い。キャップ層は、超電導層13の配向性を制御する機能を有するとともに、超電導層13を構成する元素の中間層12への拡散や、超電導層13積層時に使用するガスと中間層12との反応を抑制する機能等を有するものである。そして、前記金属酸化物層により配向性が制御される。
【0019】
キャップ層は、前記金属酸化物層の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
【0020】
中間層12の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
中間層12が、前記金属酸化物層の上にキャップ層が積層された複数層構造である場合には、キャップ層の厚さは、通常は、0.1〜1.5μmである。
【0021】
中間層12は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシストスパッタ法(以下、IBAD法と略記する)、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、超電導層13やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる中間層12は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0022】
超電導層13は通常知られている組成の超電導体からなるものを広く適用することができ、酸化物超電導体からなるものが好ましい。具体的には、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものが例示できる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
超電導層13は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法)等で積層でき、なかでもレーザ蒸着法が好ましい。
超電導層13の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0023】
安定化層14は、超電導層13の一部領域が常電導状態に遷移しようとした場合に、電流のバイパス路として機能することで、超電導層13を安定化させて焼損に至らないようにする、主たる構成要素である。
安定化層14は、導電性が良好な金属からなるものが好ましく、具体的には、銀又は銀合金、銅などからなるものが例示できる。安定化層14は1層構造でも良いし、2層以上の積層構造であってもよい。
安定化層14は、公知の方法で積層できるが、銀層をメッキやスパッタ法で形成し、その上に銅テープなどを貼り合わせるなどの方法を採用できる。安定化層14の厚さは、3〜300μmの範囲とすることができる。
【0024】
このような構成の超電導線材10は、さらにその外周面を絶縁層で被覆することで、各コイル体を構成する超電導線材とすることができる。
絶縁層は、通常使用される各種樹脂等、公知の材質からなるものである。前記樹脂として具体的には、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、シリコン樹脂、アルキッド樹脂、ビニル樹脂等が例示できる。絶縁層による被覆の厚さは特に限定されず、被覆対象部位等に応じて、適宜調節すれば良い。絶縁層は、その材質に応じて公知の方法で形成すれば良く、例えば、原料を塗布して、これを硬化させれば良い。また、シート状のものが入手できる場合には、これを使用して被覆しても良い。
【0025】
この様な構成のテープ状の超電導線材10が巻回されてコイル体を形成し、このコイル体が複数積層されて本発明の超電導コイルを構成する。
図5は、本発明の第一実施形態の超電導コイルの一例を示す斜視図である。図5(a)は、本実施形態の超電導コイル20の全体図であり、図5(b)は超電導コイル20を構成する各コイル体を示す図である。
本実施形態の超電導コイル20は、テープ状の1本の超電導線材10が、その基材11側を内側に安定化層14側を外側にして同心円状に巻回されて形成された第1コイル体21と、2本の超電導線材10が重ねられた状態で同心円状に巻回された第2コイル体22とが、複数個(図5では8個)同軸的に積層されて構成されている。この超電導コイル20において、その積層方向両端部(積層構造の最下部および最上部)に位置するコイル体は第2コイル体22であり、その他の部分は第1コイル体21とされている。超電導コイル20において、各コイル体22、21、21、21、21、21,21、22は、隣接するコイル体同士の巻回方向が逆とされており、巻回始端または巻回終端で銅などの良導電性材料よりなる接続板でその安定化層同士が、電気的および機械的に接続されている。
【0026】
ここで、第1コイル体21を構成する超電導線材と、第2コイル体22を構成する2本の超電導線材とは、同じ層構成(設けられる層の種類および構成材料が同じ)であってもよく、異なる層構成であってもよいが、同じ層構成とする方が生産プロセスが簡便である。本実施形態では、第1コイル体21と第2コイル体22が同じ層構成の超電導線材10より形成されている場合を例に説明する。
【0027】
超電導コイル20を構成する第1コイル体21と第2コイル体22との内径および外径はほぼ同一とされている。そのため、2本の超電導線材10が重ねられた状態で巻回された第2コイル体22では、超電導線材10の巻回回数は、第1コイル体21と比較して約半分となっている。このような構成の超電導コイル20に電流を流すと、コイルの積層方向端部に位置する第2コイル体22を構成する超電導線材10、10の1本当たりに流れる電流値は、第1コイル体21を構成する1本の超電導線材10に流れる電流値の約半分となる。そのため、全体としてみると、超電導コイル20の積層方向端部の第2コイル体22の電流密度は、第1コイル体21の約半分となる。通常、超電導コイルでは、積層方向両端部に位置するコイルには、電流を入力または出力するための電流リードが取り付けられており、この電流リードからの浸入熱による発熱の影響で、積層方向両端部のコイルが最初に臨界電流値に達してしまい、電流値を上げることが難しいという問題があった。しかしながら、本実施形態の超電導コイル20では、積層方向両端部に位置する第2コイル22の各超電導線材10、10に流れる電流値が、積層方向中央部の第1コイル21の1本の超電導線材に流れる電流値よりも低く、第2コイル22を構成する各超電導線材10への負担が小さいので、従来の超電導コイルに比較して、より高い電流を流すことが可能である。そのため、超電導コイル20全体に流すことのできる電流値を上げて、超電導コイル20の中心磁場をより強くすることができる。
【0028】
超電導コイル20において重要な特性である中心磁場の強さは、主に積層方向中央部に位置する第1コイル体21の電流値(および電流密度)が大きく影響する。本実施形態の超電導コイル20では、積層方向両端部の第2コイル体22の各超電導線材10に流れる電流値は、積層方向中心部の第1コイル体21の1本の超電導線材10に流れる電流値よりも低く、したがって、積層方向両端部の第2コイル体22の電流密度は積層方向中心部の第1コイル体21よりも低い。しかしながら、その分、積層方向両端部の第2コイル体22に従来の超電導コイルよりも高い電流を流しても、第2コイル体22を構成する2本の超電導線材10にかかる負担が少ない。そのため、超電導コイル20全体に流す電流値を高くすることができ、積層方向中央部の第1コイル体21の電流値(および電流密度)を高くすることができるので、より高い中心磁場を発生することができる。従って、超電導コイル20全体の特性を考えた場合、従来の超電導コイルよりも高い特性(高磁場)とすることができる。また、本実施形態の超電導コイル20では、超電導線材の垂直方向の磁場成分が多くなり、平行方向ではない方向の磁場の強さも強くなる積層方向両端部のコイル体を、2本の超電導線材10が巻回された第2コイル体22としたことにより、交流損失の増加を抑えることができる。
【0029】
ここで、1本の超電導線材10より形成された第1コイル体21と、2本の超電導線材20より形成された第2コイル体22との接続構造について図7〜図9に基づき説明する。図7〜図9において、説明を簡略化するために、超電導線材10の層構成は一部図示略とした。
図7は第1コイル体21と第2コイル体22との接続構造の一実施形態を示す図であり、図7(a)は分解斜視図、図7(b)は上面図、図7(c)はA−A’断面図、図7(d)はB−B’断面図である。
【0030】
図7に示すように、第1コイル体21と第2コイル体22の接続構造では、1本の超電導線材10が安定化層14側を外側にして巻回された第1コイル体21の巻回終端部と、2本の超電導線材10、10がそれぞれ安定化層14側を外側にして重ねられた状態で巻回された第2コイル体22の巻回端部とが、隣接するように配されている。第2コイル体22を構成する2本の超電導線材10、10は、内側に位置する超電導線材10の端部22Aが、外側に位置する超電導線材10の端部22Bよりも長く設定されている。そのため、第1コイル体21の超電導線材10の端部21Aと、第2コイル体22の外側の超電導線材10の端部21Bとが隣接し、第2コイル体22の内側の超電導線材10の端部21Aは、第1コイル体の超電導線材10の巻回終端の手前部21Bと隣接している。
【0031】
第2コイル体22の内側の超電導線材10の端部22Aの安定化層14の表面と、第1コイル体21の超電導線材10の巻回終端の手前部21Bの安定化層14の表面とを覆うように、銅などの良導電性材料よりなる板状の接続板42が半田を介して接合されている。これにより、第2コイル体22の内側の超電導線材10と、第1コイル体21の超電導線材10とは、電気的および機械的に接続されている。
また、第1コイル体21の超電導線材10の端部21Aでは、該線材の下部にエポキシ樹脂やFRP(繊維強化プラスチック)等の絶縁材などにより形成されたスペーサー43が配されており、第1コイル体21の超電導線材10の端部21Aの安定化層14の表面と、第2コイル体22の外側の超電導線材10の安定化層14の表面はほぼ同じ高さで隣接しており、各安定化層14の表面を覆うように、銅などの良導電性材料よりなる接続板41が半田を介して設置されている。これにより、第2コイル体22の外側の超電導線材10と、第1コイル体21の超電導線材10とは、電気的および機械的に接続されている。
【0032】
半田としては、特に限定されず、例えば、Pb−Sn系合金半田の他、Sn−Ag系合金、Sn−Bi系合金、Sn−Cu系合金、Sn−Zn系合金等の鉛フリー半田等が挙げられ、これらのうちから1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
図7に示す接続構造とすることにより、第1コイル体21と第2コイル体22とは電気的な接続だけでなく、機械的にも強固に接続することができる。
【0033】
なお、1本の超電導線材10より形成された第1コイル体21と、2本の超電導線材20より形成された第2コイル体22との接続構造は、図7に示す例に限定されるものではない。
図8は第1コイル体21と第2コイル体22との接続構造の他の実施形態を示す図であり、図8(a)は分解斜視図、図8(b)は上面図、図8(c)はC−C’断面図である。図8において、図7に示す接続構造と同じ構成要素には同じ符号を付した。
本実施形態では、第2コイル体22は、内側の超電導線材10は安定化層14側を外側とし、外側の超電導線材10は基材11側を外側とした状態で重ねられて巻回されて構成されている。すなわち、2本の超電導線材10、10は、その安定化層14側同士が対向して巻回されている。このような構造の第2コイル体22の巻回終端では、2本の超電導線材10、10の端部22A、22Bがほぼ同じ長さとなっており、各端部22A、22Bが、第1コイル体21の巻回終端である超電導線材10の端部21Aと隣接している。第1コイル体21の超電導線材10の安定化層14の表面と、第2コイル体22の内側の超電導線材10の端部22Aの安定化層14の表面とを覆うように銅などよりなる接続板41が半田を介して設置されている。さらに、第2コイル体22の巻回終端では、内側の超電導線材10上に設置された接続板41の上面と、外側の超電導線材10の安定化層14の表面とが半田を介して接続されている。このような構成の接続構造とすることによっても、第1コイル体21と第2コイル体22とは電気的な接続だけでなく、機械的にも強固に接続することができる。
【0034】
また、第1コイル体21と、第2コイル体22との接続構造としては、図9に示すような接続構造とすることもできる。
図9は第1コイル体21と第2コイル体22との接続構造の他の実施形態を示す図であり、図9(a)は分解斜視図、図9(b)は上面図、図9(c)はD−D’断面図である。図9において、図7に示す接続構造と同じ構成要素には同じ符号を付した。
【0035】
本実施形態では、本実施形態では、第2コイル体22は、内側の超電導線材10と外側の超電導線材10は、それぞれ安定化層14側を外側とした状態で重ねられて巻回されて構成されている。第2コイル体22の巻回終端において、内側の超電導線材10の端部22Aと外側の超電導線材10の端部22Bとは、ほぼ同じ長さとされており、各端部22A、22Bが、第1コイル体21の巻回終端である超電導線材10の端部21Aと隣接している。第1コイル体21の超電導線材10の安定化層14の表面と、第2コイル体22の内側の超電導線材10の端部22Aの安定化層14の表面とを覆うように銅などよりなる接続板42が半田を介して設置されている。さらに、第2コイル体22の外側の超電導線材10の端部22Bの安定化層14の表面を覆うように、銅などよりなる接続板41が半田を介して設置されており、この接続板41は、厚めに形成した半田や銅などの良導電性材料よりなる接続部材44により、第1コイル体21の端部21A上の接続板42と電気的および機械的に接続されている。このような構成の接続構造とすることによっても、第1コイル体21と第2コイル体22とは電気的な接続だけでなく、機械的にも強固に接続することができる。
【0036】
本実施形態の超電導コイル20は、両端部に位置するコイル体を2枚の超電導線材10が重ねられた状態で巻回されたコイル体22とし、その他の部分を1本の超電導線材10が巻回されたコイル体21としたことにより、コイル端部の電流密度を下げることができるので、交流損失の増加を抑制することができる。また、コイル端部の電流密度が低く、コイル端部の第2コイル体22を構成する各超電導線材10にかかる負担を低下させることができるので、超電導コイル20に流す電流値を大きくすることができる。そのため、中央部の第1コイル体21の電流密度を大きくすることができ、超電導コイル20の中心磁場を高めることができる。
【0037】
次に、本発明に係る超電導コイルの第2実施形態について説明する。
図6は、本発明に係る超電導コイルの第2実施形態の一例を示す斜視図である。図6(a)は、本実施形態の超電導コイル30の全体図であり、図6(b)は超電導コイル30を構成する各コイル体を示す図である。
本実施形態の超電導コイル30は、1本の超電導線材10が同心円状に巻回されて形成された第1コイル体31と、2本の超電導線材10が重ねられた状態で同心円状に巻回された第2コイル体32と、3本の超電導線材10が重ねられた状態で同心円状に巻回された第3コイル体33、複数個(図6では8個)同軸的に積層されて構成されている。
この超電導コイル30において、その積層方向両端部(積層構造の最下部および最上部)に位置するコイル体は第3コイル体33であり、積層方向両端部の一段内側(積層構造の下から2段目および上から2段目)に位置するコイル体は第2コイル体32であり、その他の部分は第1コイル体31とされている。超電導コイル30において、各コイル体33、32、31、31、31、31,32、33は、隣接するコイル体同士の巻回方向が逆とされており、巻回始端または巻回終端で銅などの良導電性材料よりなる接続板でその安定化層同士が、電気的および機械的に接続されている。各コイル体同士の接続は、上述した第1実施形態の接続構造を適宜組み合わせることで行うことが可能である。
【0038】
ここで、第1コイル体31を構成する超電導線材と、第2コイル体32を構成する2本の超電導線材と、第3コイル体を構成する超電導線材とは、同じ層構成(設けられる層の種類および構成材料が同じ)であってもよく、異なる層構成であってもよいが、同じ層構成とする方が生産プロセスが簡便である。本実施形態では、第1コイル体31と第2コイル体32と第3コイル体33が同じ層構成の超電導線材10より形成されている場合を例に説明する。
【0039】
超電導コイル30を構成する各コイル体の内径および外径はほぼ同一とされている。そのため、2本の超電導線材10が重ねられた状態で巻回された第2コイル体32では、超電導線材10の巻回回数は、第1コイル体31と比較して約半分となっている。また、3本の超電導線材10が重ねられた状態で巻回された第3コイル体33では、超電導線材10の巻回回数は、第1コイル体31と比較して約1/3となっている
【0040】
このような構成の超電導コイル30に電流を流すと、コイル積層方向端部に位置する第3コイル体33を構成する各超電導線材10に流れる電流値は、第1コイル体31を構成する超電導線材10に流れる電流値の約1/3となる。また、コイル積層方向端部の一段内側に位置する第2コイル体32を構成する各超電導線材10に流れる電流値は、第1コイル体31を構成する超電導線材10に流れる電流値の約半分となる。そのため、全体としてみると、超電導コイル30の積層方向端部の第3コイル体33の電流密度は、第1コイル体31の約1/3となり、端部から一段内側の第2コイル体32の電流密度は、第1コイル体31の約半分となる。このような構成の超電導コイル30とすることにより、コイル積層方向端部に位置する第3コイル体33を構成する各超電導線材10への負担を小さくすることができるので、コイル積層方向端部に設置される電流リードによる発熱の影響を低減しつつ、高い電流を流すことができる。そのため、従来の超電導コイルに比較して、より高い電流を流して積層方向中央部の第1コイル体10を構成する1本の超電導線材10の電流値を高めて、その電流密度を高めることができるので、超電導コイル30の中心磁場をより強くすることができる。また、本実施形態の超電導コイル30では、超電導線材の垂直方向の磁場成分が多くなり、平行方向ではない方向の磁場の強さも強くなる積層方向両端部のコイル体を、3本の超電導線材10が巻回された第3コイル体33としたことにより、交流損失の増加をより効果的に抑えることができる。
【0041】
以上、本発明に係る超電導コイルの第1実施形態および第2実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
上述した第1実施形態においては、積層方向上端部に位置するコイル体と積層方向下端部に位置するコイル体を、それぞれ1段ずつ、2本の超電導線材より形成された第2コイル体22とする超電導コイル20を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。超電導コイルを構成するコイル体の積層数や、各コイル体の高さ(すなわち、超電導線材の幅)に応じて適宜変更が可能であり、例えば、超電導コイル全体の高さに対して、積層方向端部から1〜20%程度の部分を2枚の超電導線材より形成されたコイル体とすることもできる
【0042】
また、第2実施形態においては、コイルの積層方向最端部に3本の超電導線材より形成された第3コイル体33を配し、積層方向端部の一段内側に2本の超電導線材より形成された第2コイル体32を配す構成の超電導コイル30を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、コイル積層方向端部に位置するコイル体を構成する超電導線材の枚数や、積層方向端部からの中心部へ向けての各コイル体の構成および配置は適宜変更である。しかしながら、コイル積層方向端部に位置するコイル体は、少なくとも2枚以上の超電導線材より構成されていなければ、本発明の効果を奏することはできない。また、コイル積層方向中心付近に配されるコイル体は、超電導コイルの中心磁場の強さに大きく影響するため、1本の超電導線材より形成されていることが望ましい。なお、上記実施形態においては、8個のコイル体が積層された超電導コイルを例示したが、本発明はこれに限定されず、コイルの積層数は適宜変更可能である。
【0043】
以上、本発明の超電導コイルについて説明したが、上記実施形態において、超電導線材の各部、超電導コイルを構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
幅5mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基材上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)により1.2μm厚のGdZr(GZO;中間層)を形成した上に、パルスレーザー蒸着法(PLD法)により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のGdBaCu(超電導層)を形成し、さらに超電導層上にスパッタ法により10μmの銀層と0.1mm厚の銅層(安定化層)とを順次積層し、図1に示す構造の超電導線材を作成した。得られた超電導線材の臨界電流は250Aであった。
次いで、得られた超電導線材を同心円状に複数回巻回させて内径70mm、外径107mmの第1コイル体を作製した。
次に、同様の手順で作製した2本の超電導線材を、各線材の安定化層が外側になるようにして重ねた状態で同心円状に巻回して内径70mm、外径107mmの第2コイル体を作製した。
続いて、同様の手順で複数の第1コイル体と第2コイル体を作製し、積層方向両端部の一層が第2コイル体、その他の部分が第1コイル体となるように、12個のコイル体を同軸的に積層させることにより、図5に示す構造の超電導コイルを作製した。なお、第1コイル体と第2コイル体は、図7に示す接続構造で電気的および機械的に接続した。
【0045】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で、複数の第1コイル体と第2コイル体を作製し、両端部の2段ずつ(1段目、2段目、11段目、12段目)を第2コイル体とし、その他の部分が第1コイル体となるように、12個のコイル体を同軸的に積層させることにより、超電導コイルを作製した。
(比較例1)
実施例1と同様の手順で12個の第1コイル体を作成し、12個のコイル体を同軸的に積層させることにより、図2に示す構造の超電導コイルを作製した。
【0046】
実施例および比較例の超電導コイルについて、臨界電流と中心磁場を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果より、本発明に係る実施例1および2の超電導コイルでは、比較例1の超電導コイルと比較して、臨界電流が高く、コイル中心磁場も強くなっていた。
【符号の説明】
【0049】
10…超電導線材、11…基材、12…中間層、13…超電導層、14…安定化層、20、30…超電導コイル、21、31…第1コイル体、22、32…第2コイル体、33…第3コイル体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の超電導線材を巻回した複数のコイル体が、同軸的に積層されてなる超電導コイルにおいて、
前記複数のコイル体のうち、少なくとも積層方向両端部に配置されたコイル体が、複数の前記超電導線材を重ねた状態で巻回し形成されていることを特徴とする超電導コイル。
【請求項2】
積層方向内側のコイル体より積層方向外側のコイル体の方が、個々により多くの超電導線材を重ねた状態で巻回し形成されて構成されてなることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記複数のコイル体のうち、少なくとも積層方向中央部に配置されたコイル体は、1本の超電導線材を巻回し形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記超電導線材が、テープ状の基材と、該基材上に設けられた超電導層と、該超電導層上に設けられた安定化層とを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超電導コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−228479(P2011−228479A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96948(P2010−96948)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】