説明

超電導用NbTi合金及び超電導用NbTi線材

【課題】超電導臨界電流密度Jc値を向上しつつ、伸線加工中の断線率の低減を図る。
【解決手段】Ta不純物が、2500ppm以下に管理されたNbTi合金において、Ti濃度が48.5wt%以上49.8wt%以下である。前記NbTi合金を用いて、Nbバリア層を安定化銅との間に設けた超電導用NbTi線材において、前記NbTi合金のTi濃度が、48.5wt%以上49.8wt%以下でであり、磁場4T〜8Tで用いられる超電導用NbTi線材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体ヘリウム温度(4.2K相当)において使用される超電導用NbTi合金及び超電導用NbTi線材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、NbTi超電導線のNbTi合金組成は、Ti濃度が40〜50wt%(特許文献1)、使用温度が4.2K相当においては、45.1〜47.8wt%(非特許文献1)、特に46.5wt%(非特許文献2)が最適とされてきた。
【0003】
この理由には2点あり、第1の理由として、NbTi合金の温度4.2Kにおける上部臨界磁場Hc2(超電導状態が常電導状態に転移する磁場)測定結果にある。これまでの実験に基づく通説では、Ti濃度が、46.5wt%のときに上部臨界磁場Hc2が最大値になると考えられてきた(非特許文献3)。
【0004】
第2の理由として、1988年頃に米国で計画されたSSC計画(非特許文献4)における線材試作・実験結果によるものであった。SSC計画では、線材要求スペックの一つに磁場7Tでの超電導特性Jc値があった。実用線材ではないが、Ti濃度50.4wt%のNbTi線材の作製も検討されていた(非特許文献5)。しかし、Ti濃度が、48wt%以上となると、磁場7Tにおける超電導特性Jc値が劣るので、実用化させる線材のTi濃度としては、46.5wt%が適切なものと認定され、実用材料として定着した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−141937号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】オーム社の超電導工学ハンドブック(p.477,p.483)
【非特許文献2】日本金属学会誌第58巻第6号(1994)591-595
【非特許文献3】伊原、戸叶著 東京大学出版会発行「超電導材料」
【非特許文献4】MICHEL McASHAN「SUPERCOLLIDER」(1989)
【非特許文献5】松下照男著 産業図書発行「磁束ピンニングと電磁現象」p.312
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでの多くの実験結果などを考察すると、製造条件、使用条件により超電導臨界電流密度Jc値や伸線加工中の断線率に違いがあり、条件によって、必ずしもTi濃度46.5wt%の場合が、常に最適とは考えられないので、この通説に惑わされることなく、使用条件に合致した最適値を見出すことが望ましい。
【0008】
まず、1971年に論文公開された実験が行われた頃は、NbTi合金には、多くのTa不純物が含まれていたものと推定されるが、現在は、このような不純物の量を管理する技術も向上してきた。また、1989年のSSC計画の要求項目の一つに、磁場7Tにおける超電導臨界電流密度Jc値があるが、使用条件として磁場4〜6Tを想定した場合には、必ずしもこのSSC計画に基づく条件に拘泥する必要はないと考えられる。
【0009】
本発明者が考察するに、現在のNbTi超電導線材の場合に、望まれるMRI機器、N
MR機器において実用上重要な点は、磁場4〜6Tにおける超電導臨界電流密度Jc値が高いことである。さらに、NbTi合金と銅との間に、Nbバリア層を有する構造が採用される場合に、Ti濃度46.5wt%では、磁場5Tで、超電導臨界電流密度Jc値は2800〜3000A/mm相当が実用上の限界となると考えられる。そして、工業的な側面として、NbTi合金を線材に加工する際の、伸線中の断線を低く抑えるべきであり、Ti濃度が断線率に及ぼす影響も重要な要素と考えるべきである。
【0010】
そこで、本発明の目的は、超電導臨界電流密度Jc値の向上を図りつつ、伸線加工中の断線率の低減に有利な超電導用NbTi合金及び超電導用NbTi線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施の態様によれば、Ta不純物が、2500ppm以下に管理されたNbTi合金において、Ti濃度が48.5wt%以上49.8wt%以下である超電導用NbTi合金が提供される。
【0012】
また、本発明の他の態様によれば、Ta不純物が、2500ppm以下に管理されたNbTi合金を用いて、Nbバリア層を安定化銅との間に設けた超電導用NbTi線材において、前記NbTi合金のTi濃度が、48.5wt%以上49.8wt%以下である超電導用NbTi線材が提供される。
【0013】
また、本発明の更に他の態様によれば、Ta不純物が、2500ppm以下に管理されたNbTi合金を用いて、Nbバリア層を安定化銅との間に設けた超電導用NbTi線材において、前記NbTi合金のTi濃度が、48.5wt%以上49.8wt%以下であり、磁場4T〜8Tで用いられる超電導用NbTi線材が提供される。
【0014】
好ましくは、運転温度が、4.2K近傍である。好ましくは、磁場4Tにおいて、超電導臨界電流密度Jc値が、3500A/mm以上3600A/mm以下である。好ましくは、磁場5Tにおいて、超電導臨界電流密度Jc値が、3200A/mmである。好ましくは、磁場6Tにおいて、超電導臨界電流密度Jc値が、2400A/mm以上2500A/mm以下である。好ましくは、磁場7Tにおいて、超電導臨界電流密度Jc値が、1300A/mm以上1500A/mm以下である。好ましくは、磁場8Tにおいて、超電導臨界電流密度Jc値が、800A/mm以上850A/mm以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、超電導臨界電流密度Jc値を向上できるとともに、伸線加工中の断線率の低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態は、NbTi合金におけるTi濃度について、Ta不純物濃度が2500ppm以下であることを前提とし、あらためて最適値を検討したものである。すなわち、Ti濃度が48.5〜49.8wt%の範囲のNbTi合金を適用する。
【0017】
超電導用合金として、NbTi合金及びこれを用いた線材は、よく知られており、安定化銅と超電導体であるNbTi芯材となる複合ビレットから延伸加工工程を経て製造される。さらに、NbTi芯材と銅との界面には拡散防止バリア材としてNbシートが適用される。
【0018】
前記延伸加工工程は、熱間押出し工程と冷間加工工程の他、冷間加工工程を随時中断して挿入された熱処理工程とからなっている。そして製造されたNbTi超電導線は、極細化したNbTiフィラメントが安定化銅中に埋め込まれた構造になっており、NbTiフィラメントと銅の間にはNbバリア層を有する構造になっている。
【0019】
本発明の態様では、このようなNbバリア層をNbTiフィラメントと安定化銅との間に設けた超電導用NbTi線材において、NbTiフィラメント層のTa不純物濃度を2500ppm以下とし、前記NbTi合金のTi濃度が、48.5wt%以上49.8wt%以下としている。
【0020】
さらに具体的な本発明の態様では、液体ヘリウム温度4.2K相当での運転で使用され、Ta不純物濃度が、2500ppm以下に管理されたNbTi合金を用いて、Nbバリア層を安定化銅との間に設けた超電導用NbTi線材において、前記NbTi合金のTi濃度が、48.5wt%以上49.8wt%以下であり、磁場4T〜8Tで用いられる。
【0021】
これらの本発明の態様では、従来のTi濃度よりTi濃度が高い値となるが、Nbバリア層を有する場合、Tiと銅との界面拡散がほとんど無視できるため、磁場7〜8Tにおける特性を犠牲にする一方で、磁場4〜6Tにおける超電導臨界電流密度Jc値を向上することができ、実用的に優れた特性を発揮するものである。
【0022】
これらの本発明の態様の製造方法としては、従来のNbTi線材の製造方法と全く同様であり、NbTi合金丸棒におけるTi濃度を48.5〜49.8wt%としたNbTi合金を用いる。最も好ましいTi濃度は、49.0wt%である。
【0023】
この濃度よりTi濃度が低い場合、磁場4〜6Tにおける超電導臨界電流密度Jc値が低下するので、特性面で好ましくない。この濃度よりTi濃度が高い場合、伸線加工中の断線率が高くなるので、工業的側面から好ましくない。
【0024】
現在、実用材料として定着しているTi濃度46.5wt%のNbTi合金を適用した超電導線材においては、磁場7〜8Tにおける超電導臨界電流密度Jc値は、本発明の実施の形態より優れているものの、磁場4〜6Tにおける超電導臨界電流密度Jc値が低いため、好ましくない。さらに、これらの範囲を超えて、Ti濃度50wt%となると、伸線加工工程における断線率が高くなるため好ましくない。
【0025】
本発明の実施の形態によれば、Nbバリア層を有するNbTi合金を用いた線材において、NbTi合金のTa不純物濃度が2500ppm以下に管理されていることを条件として、NbTi合金のTi濃度が、48.5wt%以上49.8wt%以下に設定することにより、優れた超電導臨界電流密度Jc値を有する。さらに、伸線加工工程における断線率が小さく、工業的にも優れている。
また、本実施の形態においては、従来一般的であった、Ti濃度46.5wt%の場合と比較して、高価なNb原料の比率が減ることになるため、原料費用が低減できる可能性がある。
【実施例】
【0026】
本発明の実施例について、いくつかの比較例と対比させながら具体的に説明する。対比させた結果は、理解しやすいように、表1に纏めて記載している。
外径76mm、内径61mmの無酸素銅管の中に、Ti濃度が48.5wt%、48.7wt%、49.0wt%、49.4wt%、49.8wt%含まれたNbTi合金(外径58mm)をそれぞれ5種類準備した(実施例1〜5)。このNbTi丸棒のTa不純物濃度については、全てが2500ppm以下に管理されていることを確認した。さらに
、Nbシートをバリア材としてNbTi丸棒と銅管の間に挿入して1次複合ビレットを作製した。これに熱間押出しおよび冷間加工を施して対辺距離4mmの六角素線を作製した。この六角素線がCu/NbTiの一次複合材である。
【0027】
次いで、対辺距離4mmの六角無酸素銅線799本を外径150mm、内径125mmの無酸素銅管の中央に配置し、それと該無酸素銅管との隙間に前記六角素線を48本のCu/NbTi線複合材を充填した。こうして形成した2次複合ビレットを押出した後、所定の冷間加工及び時効加熱(加熱温度350℃〜400℃に制御された加熱炉)を施し、φ0.25mmの線径に仕上げ加工を施した。
【0028】
更に、この製法での断線率を評価するために、φ0.25mmの仕上げ伸線後に、内径φ0.21mmのダイスを用い、1パス減面加工度を26%に相当する高加工度の伸線を施し、線材長さ当りの断線率を評価した。表1には、内径φ0.21mmに加工するに発生した断線頻度の評価結果を示す。
【0029】
これら線材については、線径φ0.25mmの仕上げ径にて、臨界電流密度Jc値を評価するために、液体ヘリウム温度4.2Kにて磁場4〜8Tにて臨界電流Ic(A)を測定した。銅を除去したNbTi層の断面積S(mm)に対してJc=Ic/Sとし、Jc特性を算出した。表1には、その測定結果も示す。
【0030】
[比較例]
比較例についても、同様にTa不純物濃度を2500ppm以下に管理した条件にて、Ti濃度が46.5wt%、47.0wt%、47.5wt%、48.0wt%、50.0wt%、50.4wt%含まれたNbTi合金のインゴットを6種類準備した(比較例1〜6)。また、1970年当時のNbTi合金のインゴットを模擬するために、金属Taを意図的に5000ppm残有した状態で、Ti濃度が46.5wt%、49.0wt%、50.0wt%、50.4wt%含まれたNbTi合金のインゴットを4種類準備した(比較例7、9、11、13)。更に、Nbバリアのない場合との比較をするために、金属Taを5000ppm残有した状態のNbTi合金を用い、実施例と同様に線材を作製した(比較例8、10、12、14)。合計14種類の線材を作製した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1は、Ti濃度を比較するために、整理した結果である。すなわち、Nbバリア有、NbTi合金の不純物Ta濃度が2500ppm未満のものを用いた線材の場合、Ti濃度が49wt%近傍でのTi濃度依存性(Jc特性)、および断線頻度を示す結果である。
【0033】
実施例1〜5のように、Ti濃度が48.5〜49.8wt%の場合、磁場7TにおけるJc値は1300〜1500A/mm、磁場8TにおけるJc値は800〜850A/mmである。また、磁場4TにおけるJc値は3500〜3600A/mm、5TにおけるJc値は3200A/mm、6TにおけるJc値は2400〜2500A/mmである。また、断線頻度は0.03〜0.09回/kmである。
【0034】
これに対して比較例1〜4のように、Ti濃度が48.5wt%(実施例1)より低い場合、断線頻度が実施例1並に少なく、磁場7T、8TにおけるJc値も実施例1〜5と比べて高い。しかし、磁場6T以下では、比較例1〜4の場合、Jc値が実施例1〜5と比べて若干小さくなっている。Ti濃度が49.8wt%より高い場合(比較例5、6)、いずれの磁場においてもJc値は実施例並であるが、断線頻度が1桁増加している。
【0035】
これより、Ti濃度を48.5〜49.8wt%としたNbTi合金を用いた実施例1〜5によると、磁場7〜8Tにおける特性は犠牲になるものの、磁場4〜6Tにおける超電導臨界電流密度Jc値を向上することができ、最も好ましいTi濃度は、49.0wt%であることが分かった。
【0036】
【表2】

【0037】
表2は、NbTi合金の不純物Ta濃度が5000ppmのものを用いた線材の場合、表1と同様にTi濃度が49wt%近傍での、Nbバリアが有るときと無いときにおけるJc特性及び断線頻度を示す評価結果である。
【0038】
ここで、不純物Ta濃度を5000ppmとしたのは、非特許文献1に記載されている実験(477ページ)で適用されたNbTi合金が、1971年以前に製造されたNbTi合金であり、当時のNbTi合金にはTa不純物濃度がかなり多いことが想定されるためである。表2は、このように当時の状況を再現するために、Taが5000ppm相当含有していたことを想定した場合の線材作製結果である。
【0039】
表2においては、Nbバリア有りの場合、Ti濃度46.5wt%で製作した比較例7が最も好ましい条件とされたものであるが、それでも磁場7〜8Tを除く磁場6T以下では、実施例よりJc特性は低い。また、実施例で最も好ましいTi濃度とされた49.0
wt%を含むその他のTi濃度で製作したものでも、同様に実施例よりJc特性は低い。また、Nbバリア無しの場合も、比較例10のTi濃度49wt%は、比較例7の46.5wt%より断線が多く、Jc特性面でも好ましくない。また、その他のTi濃度で製作したものでも、同様に比較例7よりJc特性は低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ta不純物が、2500ppm以下に管理されたNbTi合金において、Ti濃度が48.5wt%以上49.8wt%以下であることを特徴とする超電導用NbTi合金。
【請求項2】
Ta不純物が、2500ppm以下に管理されたNbTi合金を用いて、Nbバリア層を安定化銅との間に設けた超電導用NbTi線材において、前記NbTi合金のTi濃度が、48.5wt%以上49.8wt%以下であることを特徴とする超電導用NbTi線材。
【請求項3】
Ta不純物が、2500ppm以下に管理されたNbTi合金を用いて、Nbバリア層を安定化銅との間に設けた超電導用NbTi線材において、前記NbTi合金のTi濃度が、48.5wt%以上49.8wt%以下であり、磁場4T〜8Tで用いられることを特徴とする超電導用NbTi線材。
【請求項4】
運転温度が、4.2K近傍であることを特徴とする請求項2に記載の超電導用NbTi線材。
【請求項5】
磁場4Tにおいて、超電導臨界電流密度Jc値が、3500A/mm以上3600A/mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の超電導用NbTi線材。
【請求項6】
磁場5Tにおいて、超電導臨界電流密度Jc値が、3200A/mmであることを特徴とする請求項3に記載の超電導用NbTi線材。
【請求項7】
磁場6Tにおいて、超電導臨界電流密度Jc値が、2400A/mm以上2500A/mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の超電導用NbTi線材。
【請求項8】
磁場7Tにおいて、超電導臨界電流密度Jc値が、1300A/mm以上1500A/mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の超電導用NbTi線材。
【請求項9】
磁場8Tにおいて、超電導臨界電流密度Jc値が、800A/mm以上850A/mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の超電導用NbTi線材。

【公開番号】特開2013−84364(P2013−84364A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221785(P2011−221785)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】