説明

超電導素子および超電導素子の製造方法

【課題】ジョセフソン接合の動作特性に優れ、かつ、絶縁体膜の表面が緻密で平坦性に優れると共に、超電体層の平坦性および結晶性に優れる超電導素子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】酸化物基板1上に、第1酸化物超電導体薄膜2、セリアからなる第1絶縁体薄膜3、第2酸化物超電導体薄膜4、セリアからなる第2絶縁体薄膜5を順次形成する。第2酸化物超電導体薄膜4に、第1絶縁体薄膜3に対して鈍角をなす斜面を形成すると共に、第2絶縁体薄膜5に、第2酸化物超電導体薄膜4の斜面に略連続する斜面を形成する。第2酸化物超電導体薄膜4の斜面に極薄い絶縁体薄膜を形成する。第2絶縁体薄膜5上、第2絶縁体薄膜5の斜面上、上記極薄い絶縁体薄膜上、および、第1絶縁体薄膜3上に、第3酸化物超電導体膜6を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導素子に関する。また、本発明は、超電導素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジョセフソン接合を利用した超電導素子は、高速、低消費電力の次世代デバイスとして期待されている。更に、超電導素子の中でも、高温超電導体を用いたものは、低温超電導体を用いたものと比較して小型の冷凍機で実現できる40K程度の温度での動作が可能であるため、低温超電導体よりもさらに電力消費が小さくて、広範囲の用途での使用が期待できる。現在、超電導薄膜と絶縁体薄膜を多層積層した多層積層構造を有する高温超電導体を用いた素子が、開発研究されている。ここで、超電導薄膜としては、YBaCuOy等の酸化物材料が用いられている。現在、開発されている高温超電導体を用いたデバイスの積層構造は、多くの場合、グランドプレーン層、ベース電極層、カウンター電極層と呼ばれる3層の超電導体層を有し、それぞれの層間には絶縁体薄膜が配置され、3層の超電導体層は、互いに絶縁されている。
【0003】
ジョセフソン接合は、加工されたベース電極層とカウンター電極層の間に薄いバリア層を形成することによって構成される。グランドプレーン層は超電導回路のインダクタンスを低減させる目的で導入されている。超電導素子の構成としては、基板上にグランドプレーン層を成膜した後、グランドプレーン層上に絶縁体膜を形成し、更に、その絶縁体層の上にジョセフソン接合を形成するためのベース電極層およびカウンター電極層を形成する構成がある。また、別の構成としては、ジョセフソン接合を形成した上に絶縁体層およびグランドプレーン層を形成する構成がある。ここで、後者のようにジョセフソン接合形成後にグランドプレーン層を形成すると、グランドプレーンの形成温度に起因する熱エネルギーでジョセフソン接合の電気特性が変化するという問題がある。そのため、ジョセフソン接合は既に作製されたグランドプレーンおよび絶縁体層上に形成されることが望ましい。
【0004】
各超電導体層は、超電導電流を得るために、単一配向および整った面内配向を有する必要がある。このため、絶縁体薄膜は絶縁性が必要であると同時に、酸化物超電導体層の下地として結晶配向性の整った膜であることが求められる。また、各層の表面が平坦であると、配向性の整った状態を保持することができ、薄膜の積層構造を容易に作成できる。特に、ジョセフソン接合部分が数層の薄膜積層構造の上に形成されている場合は、接合特性の均一性を得るために、下地となっている積層薄膜の表面は平坦であることが必要不可欠になる。例えば、現在、開発されている超電導素子では、参考文献(IEEE Transactions on Applied Superconductivity, Vol. 15, No.2, 2005)に示されているように、グランドプレーン、第1絶縁体層、ベース電極層、第2絶縁体層の4層積層構造作製後、4層目表面の平均表面粗さが、算術平均粗さで2nm以下であることが望ましいとされている。
【0005】
更には、YBaCuOy等の酸化物超電導体は、酸素の含有量でその超電導特性が変化することが知られており、デバイスに必要な超電導特性を得るには、超電導体層に十分な酸素を供給する必要があることが知られている。このため、現在、超電導体層に酸素を供給するため、一般には、デバイス形成後に数時間、あるいは、数日単位の酸素アニール工程が行われている。また、このことに関係するが、多層構造を有する高温超電導素子では、下層にある超電導体層の酸素欠損によって素子特性が劣化することが知られている。このことから、現在、多くの場合、不足した酸素を補うために素子作製工程の最後に酸素アニールが行われている。
【0006】
一方、長時間の高温アニールはジョセフソン接合の特性の変化を引き起こし、超電導素子の信頼性が低下する。したがって、この観点からは、ジョセフソン接合に与える影響を低く抑えるため、アニールを、極力短時間で行うことが望ましい。
【0007】
ここで、酸素透過性に優れた絶縁体材料の一つにセリウム酸化物(セリア)がある。積層構造の絶縁体膜部分にセリアを用いると、アニール時に酸素が効率よく透過されることから、超電導体層への酸素回復が容易になり、アニール時間の短縮が期待できる。それゆえ、セリアは多層積層構造を有する高温超電導素子用の絶縁体層として有望視されている。
【0008】
しかしながら、従来、例えば、(Physica C 320 (1999) 21−30)に示されているように、セリア薄膜は成長時に矩形グレインの成長やアウトグロースの発現による平坦性、絶縁性の悪化が避けられないという問題がある。このため、これまでセリアを絶縁体膜として利用し、かつ、超電導体層を3層以上積層すると共に、その2層目以上にジョセフソン接合を含む構造を有する動作特性に優れた超電導素子は実現していない。
【非特許文献1】Physica C 320 (1999) 21−30
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、ジョセフソン接合の動作特性に優れ、かつ、絶縁体膜の表面が緻密で平坦性に優れると共に、超電体層の平坦性および結晶性に優れる超電導素子を提供することにある。また、本発明の課題は、酸素アニール工程を短縮あるいは省略することができて、超電導素子の製造時間を格段に短縮することができると共に、ジョセフソン接合部分の特性変化を阻止でき、かつ、平坦で緻密な表面を有する絶縁体膜と平坦性および結晶性に優れる超電導体膜とを形成できる超電導素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明の超電導素子は、
基板と、
上記基板上に形成された第1酸化物超電導体膜と、
上記第1酸化物超電導体膜上に形成されると共に、セリウム酸化物を含む第1絶縁体膜と、
上記第1絶縁体膜上に形成された第2酸化物超電導体膜と、
上記第2酸化物超電導体膜上に形成されると共に、セリウム酸化物を含む第2絶縁体膜と、
上記第2絶縁体膜上に形成された第3酸化物超電導体膜と
を備え、
上記第1絶縁体膜の上記基板側と反対側にジョセフソン接合を有し、
上記第1絶縁体膜の上記基板側と反対側の表面における最大のグレインの円相当径が20nm以下であると共に、上記第2絶縁体膜の上記基板側と反対側の表面における最大のグレインの円相当径が20nm以下であることを特徴としている。
【0011】
ここで、グレインは、粒子が配向成長(結晶方位の揃った結晶成長)している領域のことを示している。また、円相当径は、上記第1および第2絶縁体膜の上記基板側と反対側の表面の夫々において、グレインに外接する外接円の直径のことをいう。
【0012】
本発明によれば、上記第1絶縁体膜の材料および上記第2絶縁体膜の材料が、ともにセリウム酸化物を含む材料であるので、従来と比較して第1および第2絶縁体膜の酸素透過性を格段に向上できて、第1乃至第3酸化物超電導体膜に供給される酸素量が十分なものになる。したがって、動作特性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明によれば、上記第1絶縁体膜の上記基板側と反対側の表面における最大のグレインの円相当径が20nm以下であると共に、上記第2絶縁体膜の上記基板側と反対側の表面における最大のグレインの円相当径が20nm以下であるので、上記第1絶縁体膜および上記第2絶縁体膜上に形成された第2酸化物超電導体膜および第3酸化物超電導体膜の平坦性および結晶性を格段に向上させることができる。
【0014】
また、一実施形態の超電導素子は、上記第2酸化物超電導体膜が、上記第1絶縁体膜に対して鈍角をなす斜面を有すると共に、上記第2絶縁体膜が、上記斜面に略連続する斜面を有し、上記第3酸化物超電導体膜が、上記第2絶縁体膜上に形成された第1部分と、この第1部分に連なると共に、上記第2絶縁体膜の上記斜面上に形成された第2部分と、上記第2部分に連なると共に、絶縁体膜または常電導金属膜を介して上記第2酸化物超電導体膜の上記斜面上に形成された第3部分と、上記第3部分に連なると共に、上記第1絶縁体膜上における上記第2酸化物超電導体膜が形成されていない部分に形成された第4部分とを有し、上記ジョセフソン接合が、上記第2酸化物超電導体膜、上記絶縁体薄膜または上記常電導金属薄膜、および、上記第3酸化物超電導体膜からなる。
【0015】
上記実施形態によれば、超電導素子が、単純な構成を有するので、超電導素子を簡単安価に製造できる。
【0016】
また、一実施形態の超電導素子は、上記第1絶縁体膜および上記第2絶縁体膜の膜厚が、ともに50nm以上である。
【0017】
上記実施形態によれば、酸化物超電導体膜間の絶縁性を、問題がない程度の大きさにすることができる。
【0018】
また、一実施形態の超電導素子は、上記第1絶縁体膜および上記第2絶縁体膜の膜厚が、ともに1000nm以下である。
【0019】
上記実施形態によれば、上記第1絶縁体膜および上記第2絶縁体膜の表面の平坦性を問題がない程度の大きさにすることができる。
【0020】
また、一実施形態の超電導素子は、上記第1絶縁体膜の上記基板側と反対側の表面の算術平均粗さから上記第1酸化物超電導体膜の上記基板側と反対側の表面の算術平均粗さを引いた値は、2nm以下であり、上記第2絶縁体膜の上記基板側と反対側の表面の算術平均粗さから上記第2酸化物超電導体膜の上記基板側と反対側の表面の算術平均粗さを引いた値は、2nm以下である。
【0021】
上記実施形態によれば、酸化物超電導体膜の平坦性および結晶性を、超電導素子の動作に問題がない程度の大きさにすることができる。
【0022】
また、本発明の超電導素子の製造方法は、セリウム酸化物を含む絶縁体膜を、酸化物超電導体膜上に酸素圧力が5Pa以下の状態でパルスレーザー蒸着法により成膜することを特徴としている。
【0023】
本発明者は、酸化物超電導体膜上にセリウム酸化物を含む絶縁体膜を、酸素圧力が5Pa以下の状態でパルスレーザー蒸着法により成膜すると、絶縁体膜の材料が良好な平坦性を獲得するのが難しいセリウム酸化物を含む材料であっても、問題がない絶縁性を有すると共に、表面粗さが小さくて平坦性に優れる絶縁体膜を、数分単位の短時間で形成できることを発見した。
【0024】
本発明によれば、酸化物超電導体膜上に酸素透過性に優れるセリウム酸化物を含む絶縁体膜を成膜するので、酸化物超電導体膜へ十分な酸素を供給できる。したがって、酸素アニール工程を短縮または省略することができるので、超電導素子を、従来と比して格段に短い時間で安価に製造できる。また、酸素アニール工程を短縮または省略することができるので、この方法によって製造される超電導素子がジョセフソン接合を有する場合、ジョセフソン接合の特性変化を阻止できる。
【0025】
また、本発明によれば、酸化物超電導体膜上にセリウム酸化物を含む絶縁体膜を酸素圧力が5Pa以下の状態でパルスレーザー蒸着法により成膜するので、絶縁体膜の材料が平坦性を獲得するのが難しいセリウム酸化物を含む材料であっても、問題がない絶縁性を有すると共に、表面粗さが小さくて表面が緻密で表面の平坦性に優れる絶縁体膜を数分単位の短時間で形成できる。更に、この表面粗さが小さくて平坦性に優れる絶縁体膜上に形成される超電導体層の平坦性および結晶性を格段に向上させることができる。
【0026】
また、一実施形態の超電導素子の製造方法は、上記絶縁体膜の成膜速度が、500nm/分以下である。
【0027】
上記実施形態によれば、絶縁体膜の成膜時における粒子の柱状の成長を確実に防止できて、粒子の柱状の成長に起因するグレインの円相当径の増大を防止できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の超電導素子によれば、第1絶縁体膜の材料および第2絶縁体膜の材料が、ともにセリウム酸化物を含む材料であるので、従来と比較して上記第1および第2絶縁体膜の酸素透過性を格段に向上できて、酸化物超電導体膜に供給される酸素量が十分なものになる。したがって、動作特性を向上させることができる。
【0029】
また、本発明の超電導素子によれば、上記第1絶縁体膜の基板側と反対側の表面の最大のグレインの円相当径が20nm以下であると共に、上記第2絶縁体膜の基板側と反対側の表面の最大のグレインの円相当径が20nm以下であるので、上記第1絶縁体膜および上記第2絶縁体膜上に形成された第2酸化物超電導体膜および第3酸化物超電導体膜の平坦性および結晶性を格段に向上させることができる。
【0030】
また、本発明の超電導素子の製造方法によれば、酸化物超電導体膜上に酸素透過性に優れるセリウム酸化物を含む絶縁体膜を成膜するので、酸化物超電導体膜へ十分な酸素を供給できて、酸素アニール工程を短縮または省略することができる。したがって、超電導素子を、従来と比して格段に短い時間で安価に製造できると共に、この方法によって製造される超電導素子がジョセフソン接合を有する場合、そのジョセフソン接合の特性変化を阻止できる。
【0031】
また、本発明の超電導素子の製造方法によれば、酸化物超電導体膜上にセリウム酸化物を含む絶縁体膜を酸素圧力が5Pa以下の状態でパルスレーザー蒸着法により成膜するので、絶縁体膜の材料が平坦性を獲得するのが難しいセリウム酸化物を含む材料であっても、問題がない絶縁性を有すると共に、表面が緻密で表面の平坦性に優れる絶縁体膜を数分単位の短時間で形成できる。更に、この表面粗さが小さくて平坦性に優れる絶縁体膜上に形成される超電導体層の平坦性および結晶性を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0033】
図1は本発明の一実施形態の超電導素子の層構造を示す模式断面図である。
【0034】
この超電動素子は、酸化物基板1上に、第1酸化物超電導体膜としての第1酸化物超電導体薄膜2、第1絶縁体膜としての第1絶縁体薄膜3、第2酸化物超電導体膜としての第2酸化物超電導薄膜4、第2絶縁体膜としての第2絶縁体薄膜5を順次積層している。図1に示すように、上記第2酸化物超電導体薄膜4は、第1絶縁体薄膜3に対して鈍角をなす斜面を有すると共に、第2絶縁体薄膜5は、上記斜面に略連続する斜面を有している。
【0035】
上記第2絶縁体薄膜5上、第2絶縁体薄膜5および第2酸化物超電導体薄膜4の夫々の斜面上、および、第1絶縁体薄膜3上における第2酸化物超電導体薄膜4が形成されていない部分に、第3超電導体膜としての第3超電導体薄膜6を堆積している。上記第3酸化物超電導体薄膜6は、第2絶縁体薄膜5上に形成された第1部分と、この第1部分に連なると共に、第2絶縁体薄膜5の斜面上に形成された第2部分と、この第2部分に連なると共に、第2酸化物超電導体薄膜4の斜面上に形成された第3部分と、この第3部分に連なると共に、第1絶縁体薄膜3上における第2酸化物超電導体薄膜4が形成されていない部分に形成された第4部分とからなっている。上記第1絶縁体薄膜3および第2絶縁体薄膜5は、セリウム酸化物(以下、セリアと記載)からなっている。上記第1絶縁体薄膜3および第2絶縁体薄膜5の酸化物基板1側と反対側の表面の夫々における最大のグレインの円相当径はともに20nm以下になっている。また、第1超電導体薄膜4の斜面と、第3超電導体薄膜6との間には、極薄い絶縁体が形成されている。上記第1超電導薄膜4、その極薄い絶縁体、および、第3超電導体薄膜6は、ジョセフソン接合7を構成している。
【0036】
上記実施形態の超電導素子によれば、上記第1絶縁体薄膜3および第2絶縁体薄膜5が、セリアからなっているので、第1酸化物超電導体薄膜2および第2酸化物超電導薄膜4へ酸素を容易に供給することができて、第1酸化物超電導体薄膜2および第2酸化物超電導薄膜4に供給される酸素量が十分なものになる。したがって、この実施形態の超電導素子は、製造される際、酸素アニール工程を短縮しているので(他の実施形態として酸素アニール工程を省略しても良い)、アニール工程によるジョセフソン接合部分の特性悪化が起こることがない。
【0037】
また、上記実施形態の超電導素子によれば、セリアからなる第1絶縁体薄膜3および第2絶縁体薄膜5の酸化物基板1側と反対側の表面の夫々における最大のグレインの円相当径が20nm以下であるので、第1絶縁体薄膜3および第2絶縁体薄膜5の表面の平坦性を緻密で優れたものにすることができ、これら絶縁体薄膜3,5上に形成される超電導薄膜4,6の平坦性および結晶性を優れたものにすることができる。また、各薄膜の表面の平坦性および各薄膜の結晶性を向上させることができるので、ジョセフソン接合の特性ばらつきを抑制できる。尚、ここで言う平坦な表面とは、平均表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で約2nm以下の表面のことを言う。
【0038】
図2A〜図2Fは、本発明の超電導素子の製造方法の一実施形態を説明するための製造途中の超電導体素子の模式断面図である。
【0039】
以下に図2A〜図2Fを用いて、上記実施形態の超電導素子の製造方法について説明する。
【0040】
先ず、図2Aに示すように、基板の一例としての酸化マグネシウム(MgO)からなる酸化物基板11の表面全面に、スパッタ法によりLa0.2Y0.9Ba1.9CuOy(以下、La-YBCOと記載)からなる第1酸化物超電導体膜としての第1酸化物超電導薄膜12を成膜する。酸化物基板11の材料として、酸化物材料の中でも誘電率の低いMgOを採用することにより、超電導素子の高速動作を実現できる。尚、基板材料が、酸化マグネシウムに限られないのは勿論であり、SrTiO3、LaAlO3、サファイア等、超電導素子の基板材料として使用されているものであれば、如何なるものであっても良い。上記第1酸化物超電導体薄膜12はグランドプレーンの役割を果たす。La-YBCOは、超電導体YBaCuOy (以下YBCOと記載)のYおよびBaサイトの一部をLaで置換した超電導材料であり、YBCOよりも単一相の薄膜を得るのが容易であるという特徴がある。
【0041】
次に、図2Bに示すように、第1酸化物超電導体薄膜12の表面全面に、成膜時の酸素圧力を5Pa以下に保ちながら、パルスレーザー蒸着法にて、膜厚300nmのセリアからなる第1絶縁体膜としての第1絶縁体薄膜13を約50nm/分の成膜速度で成膜する。絶縁体薄膜として酸素透過性を有するセリアを用いると、超電導体薄膜へ酸素を容易に供給できる。また、成膜手段としてパルスレーザー蒸着法を用いると、成膜時間を数分程度にまで大幅に短縮することができる。図3Aは、La-YBCO薄膜である第1酸化物超電導薄膜12の表面を示すSEM(scanning electron microscope)写真を表す図であり、図3Bは、第1酸化物超電導薄膜12上に形成されたセリアからなる第1絶縁体薄膜13の表面を示すSEM写真を表す図である。図3Aおよび図3Bに示すように、第1酸化物超電導薄膜12と第1絶縁体薄膜13の表面粗さは、略同程度になっており、緻密で平坦な表面になっている。セリアからなる第1絶縁体薄膜13の詳細な解析によると、第1絶縁体薄膜13の酸化物基板11側と反対側の表面における最大のグレインの円相当径は20nm以下になっている。このことから、第1絶縁体薄膜13の成膜時の酸素圧力を5Pa以下に保つことにより、最大のグレインの円相当径が20nm以下で、かつ、平均表面粗さが、下地となっているLa-YBCOからなる第1酸化物超電導薄膜12と程同等の平均表面粗さを有するセリアからなる第1絶縁体薄膜13を獲得でき、かつ、第1酸化物超電導薄膜12および第1絶縁体薄膜13の表面を、緻密で平坦にすることができる。尚、セリアからなる絶縁体膜の基板側と反対側の表面の算術平均粗さがその下地となる超電導体膜の基板側と反対側の算術平均粗さから2nm以上増大しなければ、超電導素子の動作特性に良好なものにすることができる。
【0042】
この実施形態では、第1酸化物超電導薄膜12の平均表面粗さは、算術平均粗さで1nm程度であり、第1酸化物超電導薄膜12上に第1絶縁体薄膜13を形成した後においても、第1酸化物超電導薄膜12の平均表面粗さの値は増加しなかった。一方、比較例として、セリアからなる第1絶縁体薄膜の成膜時の酸素圧力を5Paより大きくすると、セリアからなる第1絶縁体薄膜の成膜時に粒子が柱状に成長して、グレイン円相当径が格段に増大して、第1絶縁体薄膜の表面平坦性が大幅に悪化した。また、セリアからなる第1絶縁体薄膜の成膜速度が500nm/分より大きい場合も、セリアからなる第1絶縁体薄膜の成膜時に粒子が柱状に成長して、グレイン円相当径が格段に増大して、表面平坦性が大幅に悪化した。また、セリアからなる第1絶縁体薄膜の膜厚が、50nmより小さくなると、超電導素子に必要な絶縁性を保つことが困難になり、セリア薄膜の膜厚が1000nmより大きくなると、薄膜平坦性が大幅に悪化した。
【0043】
次に、図2Cに示すように、第1絶縁体薄膜13上にLa-YBCOからなる第2酸化物超電導体膜としての第2酸化物超電導体薄膜14を積層した後、第2酸化物超電導体薄膜14上にセリアからなる第2絶縁体膜としての第2絶縁体薄膜15を積層する。詳しくは、酸化物基板11上に第1酸化物超電導体薄膜12および第1絶縁体薄膜13を順次形成したときと同様に、第1絶縁体薄膜13の表面全面に、スパッタ法によって、La-YBCOからなる第2酸化物超電導体薄膜14を成膜した後、第2酸化物超電導体薄膜14の表面全面に、パルスレーザー蒸着法により、セリアからなる第2絶縁体薄膜15を成膜する。この実施形態では、上記第2酸化物超電導体薄膜14は、ベース電極の役割を果たしている。ここで、第2酸化物超電導体薄膜14は、単一配向を有し、かつ、その平均表面粗さは、算術平均粗さで2nm以下であった。このことは、第2酸化物超電導体薄膜14の下地である第1絶縁体薄膜13が緻密で平坦な表面を有していることに起因しているものと思われる。
【0044】
続いて、ジョセフソン接合を形成するための加工を行う。この工程では、フォトリソグラフィー法により、第2酸化物超電導体薄膜14の一部および第2絶縁体薄膜15の一部をエッチングして、第2絶縁体薄膜5と第1絶縁体薄膜4の一方の側の側面に斜面を形成する。フォトリソグラフィー加工の後、アルゴン(Ar)イオンミリングを行う。このアルゴンイオンミリングにより、加工後のベース電極表面に図2Eに20で示す超電導体の変質層を形成する。この変質層の部分は、ジョセフソン接合のバリア層としての役割を果たす。
【0045】
続いて、加工した積層構造の上に、パルスレーザー蒸着法により、La0.2Yb0.9Ba1.9CuOy(以下、La-YbBCOと記述する)からなる第3酸化物超電導体膜としての第3酸化物超電導体薄膜16を、下地の積層構造が作製された温度よりも低い基板温度で成膜する。第3酸化物超電導体薄膜16は、カウンター電極の役割を果たす。この実施形態のように第3酸化物超電導体薄膜16を、下地の積層構造が作製された温度よりも低い基板温度で形成すると、下地の構造にダメージを与えることを防止できる。また、実際、第3酸化物超電導体薄膜16の材料が、La-YbBCOであるので、第3酸化物超電導体薄膜16の成膜温度をLa-YBCOの成膜温度よりも低くすることができる。更に、ここでは、成膜法としてパルスレーザー蒸着法を用いているので、スパッタ法よりも短時間で成膜を行うことができる。第2酸化物超電導体薄膜14、図2Eに20で示す変質層、および、第3酸化物超電導体薄膜16は、図2Fに17で示すジョセフソン接合を構成している。第3酸化物超電導体薄膜16を成膜した後、作製された超電導素子を酸素雰囲気中で室温まで冷却する。このように酸素雰囲気中で冷却することにより、各超電導体薄膜に酸素を補給する。
【0046】
従来は、上述したように、前記酸素雰囲気中での冷却後に、さらに、拡散炉内にて数時間から数日単位の酸素アニール工程を行わなければ、超電導体薄膜に充分な酸素を導入することができなかった。すなわち、酸素アニール工程を行わないと、超電導体薄膜に酸素が不足し、デバイス動作に必要な超電導特性を得ることができなかった。
【0047】
これに対し本実施形態では、絶縁体薄膜に酸素透過性の良いセリア薄膜を用いているので、各超電導体薄膜に充分な酸素を供給でき、酸素アニール工程を省略してもデバイス動作に必要な超電導特性を得ることができる。したがって、アニール工程を省略できることに起因して、動作特性に優れる超電導素子を従来よりも大幅に短い時間でかつ安価に製造できると共に、ジョセフソン接合への熱ダメージを防止できて、ジョセフソン接合特性の悪化を防止できる。また、表面平坦性に優れたセリア薄膜を用いているので、結晶性、平坦性の良好な超電導体薄膜からなるベース電極を獲得できると共に、結晶性、平坦性の良好な超電導体薄膜からなるカウンター電極を獲得できて、デバイス動作に優れるジョセフソン接合特性を獲得することができる。
【0048】
尚、上記実施形態では、第1絶縁体膜および第2絶縁体膜の材料がセリアであったが、この発明では、絶縁体膜として、セリアを含む材料を用いても良い。例えば、絶縁体膜として、セリアとジルコニアの固溶体等を使用しても、上記実施形態と同様の作用効果を獲得できる。また、本実施形態では超電導体薄膜として、La0.2Y0.9Ba1.9CuOyまたはLa0.2Yb0.9Ba1.9CuOyを用いているが、超電導体薄膜として、YBaCuOy、YbBaCuOyを用いても良い。また、YBaCuOyにおけるY(イットリウム)の一部または全部を、他の希土類元素のうちの一つまたは二つ以上を組み合わせたものに置き換えた酸化物超電導体材料を使用することもできる。例えば、YBaCuOyにおけるY(イットリウム)の一部または全部を、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロジウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、および、ルテシウム(Lu)のうちの一つまたは二つ以上を組み合わせたものに置き換えた酸化物超電導体材料を使用することもできる。また、超電導体薄膜における元素の組成比が、この実施形態以外の組成比であっても構わないのは言うまでもない。
【0049】
また、上記実施形態では、ジョセフソン接合を、超電導体膜、絶縁体膜、および、超電導体膜で構成したが、ジョセフソン接合を、超電導体膜、常電導金属膜、および、超電導体薄膜で構成しても良い。
【0050】
また、上記実施形態の超電導素子は、超電導体層を3層積層し、その2層目がジョセフソン接合の一部を成す構成であったが、この発明の超電導素子は、超電導体層を3層以上積層し、その2層目以上の層がジョセフソン接合の一部を成す構成であれば、如何なる構造であっても良い。この場合、本実施形態と同様の作用効果を獲得することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態の超電導素子の層構造を示す模式断面図である。
【図2A】本発明の超電導素子の製造方法の一実施形態を説明するための製造途中の超電導体素子の模式断面図である。
【図2B】本発明の超電導素子の製造方法の一実施形態を説明するための製造途中の超電導体素子の模式断面図である。
【図2C】本発明の超電導素子の製造方法の一実施形態を説明するための製造途中の超電導体素子の模式断面図である。
【図2D】本発明の超電導素子の製造方法の一実施形態を説明するための製造途中の超電導体素子の模式断面図である。
【図2E】本発明の超電導素子の製造方法の一実施形態を説明するための製造途中の超電導体素子の模式断面図である。
【図2F】本発明の超電導素子の製造方法の一実施形態を説明するための製造途中の超電導体素子の模式断面図である。
【図3A】第1酸化物超電導薄膜の表面を示すSEM写真を表す図である。
【図3B】第1絶縁体薄膜の表面を示すSEM写真を表す図である
【符号の説明】
【0052】
1,11 酸化物基板
2,12 第1酸化物超電導体薄膜
3,13 第1絶縁体薄膜
4,14 第1酸化物超電導体薄膜
5,15 第2絶縁体薄膜
6,16 第3酸化物超電導体薄膜
7,17 ジョセフソン接合

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
上記基板上に形成された第1酸化物超電導体膜と、
上記第1酸化物超電導体膜上に形成されると共に、セリウム酸化物を含む第1絶縁体膜と、
上記第1絶縁体膜上に形成された第2酸化物超電導体膜と、
上記第2酸化物超電導体膜上に形成されると共に、セリウム酸化物を含む第2絶縁体膜と、
上記第2絶縁体膜上に形成された第3酸化物超電導体膜と
を備え、
上記第1絶縁体膜の上記基板側と反対側にジョセフソン接合を有し、
上記第1絶縁体膜の上記基板側と反対側の表面における最大のグレインの円相当径が20nm以下であると共に、上記第2絶縁体膜の上記基板側と反対側の表面における最大のグレインの円相当径が20nm以下であることを特徴とする超電導素子。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導素子において、
上記第2酸化物超電導体膜は、上記第1絶縁体膜に対して鈍角をなす斜面を有すると共に、上記第2絶縁体膜は、上記斜面に略連続する斜面を有し、
上記第3酸化物超電導体膜は、上記第2絶縁体膜上に形成された第1部分と、この第1部分に連なると共に、上記第2絶縁体膜の上記斜面上に形成された第2部分と、上記第2部分に連なると共に、絶縁体膜または常電導金属膜を介して上記第2酸化物超電導体膜の上記斜面上に形成された第3部分と、上記第3部分に連なると共に、上記第1絶縁体膜上における上記第2酸化物超電導体膜が形成されていない部分に形成された第4部分とを有し、
上記ジョセフソン接合は、上記第2酸化物超電導体膜、上記絶縁体薄膜または上記常電導金属薄膜、および、上記第3酸化物超電導体膜からなることを特徴とする超電導素子。
【請求項3】
請求項1に記載の超電導素子において、
上記第1絶縁体膜および上記第2絶縁体膜の膜厚は、ともに50nm以上であることを特徴とする超電導素子。
【請求項4】
請求項1に記載の超電導素子において、
上記第1絶縁体膜および上記第2絶縁体膜の膜厚は、ともに1000nm以下であることを特徴とする超電導素子。
【請求項5】
請求項1に記載の超電導素子において、
上記第1絶縁体膜の上記基板側と反対側の表面の算術平均粗さから上記第1酸化物超電導体膜の上記基板側と反対側の表面の算術平均粗さを引いた値は、2nm以下であり、上記第2絶縁体膜の上記基板側と反対側の表面の算術平均粗さから上記第2酸化物超電導体膜の上記基板側と反対側の表面の算術平均粗さを引いた値は、2nm以下であることを特徴とする超電導素子。
【請求項6】
セリウム酸化物を含む絶縁体膜を、酸化物超電導体膜上に酸素圧力が5Pa以下の状態でパルスレーザー蒸着法により成膜することを特徴とする超電導素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の超電導素子の製造方法において、
上記絶縁体膜の成膜速度は、500nm/分以下であることを特徴とする超電導素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図2E】
image rotate

【図2F】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate


【公開番号】特開2007−109717(P2007−109717A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296561(P2005−296561)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低消費電力型超電導ネットワークデバイスの開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】