説明

超電導素子

【課題】
本発明は、従来の概念では想起し得なかった構造を持つ超電導デバイスを提供するものである。
【解決手段】
本発明の超電導素子は、導電性材料からなる導電部材と、この表面を被覆する絶縁性材料からなる被覆層と、この被覆層中に埋め込まれている超導電性材料からなる多数のナノ細線からなり、前記ナノ細線の一端が前記導電部材に電気的に接続され、他端が前記被覆層中に埋没されてなることを特徴とする。
本発明は、前記の超電導素子において、前記ナノ細線が、幹より多数の枝が分岐されてなる樹木状であることを特徴とし、前記の超電導素子において、前記超導電性材料がMgBであり、絶縁性材料がMgOであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性材料と超電導材料と絶縁材料によって構成される電導素子に関する。
【背景技術】
【0002】
MgBの細線が超電導特性を発現することは、特許文献1に示されるように従来より知られている事実である。しかしながら、特許文献1の発明の詳細な説明に記載されているように、従来行われてきたMgBナノ細線に関する評価は、その磁気的性質に限定されてきた。電流を通すことにより、MgBナノ細線がどのような挙動を示すかについては、全く明らかにされていない。
また特許文献2にも、MgBナノ細線の超電導特性として磁化測定データが示されているのみである。 これらの知見は、MgBナノ細線を、特許文献3、4に示されるような超電導素子に使用することを想定しているものと思われる。
これら従来技術では、超電導体自身は、その電流の流れ方向に長いものであるとの概念のもとに作られたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような従来の概念では想起し得なかった構造を持つ超電導デバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の超電導素子は、導電性材料からなる導電部材と、この表面を被覆する絶縁性材料からなる被覆層と、この被覆層中に埋め込まれている超導電性材料からなる多数のナノ細線からなり、前記ナノ細線の一端が前記導電部材に電気的に接続され、他端が前記被覆層中に埋没されてなることを特徴とする。
発明2は、発明1の超電導素子において、前記ナノ細線が、幹より多数の枝が分岐されてなる樹木状であることを特徴とする。
発明3は、発明1または2の超電導素子において、前記超導電性材料がMgBであり、絶縁性材料がMgOであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の超電導素子では、超電導細線の方向性に関係なく、前記導電性材料への通電特性に、前記ナノ細線の一次元性を反映した超電導特性を発現させることができた。
具体的には、転移幅1 K以下の鋭い超電導転移を示すことが可能である。
ナノ細線への磁束線の侵入が抑えられる結果、見掛け上極めて高い臨界電流密度を示す。
そして、本発明の素子は、導電性部材へ電気配線を施すだけで、ナノ細線の一次元超電導性を反映した電流輸送特性を得ることができるため、一次元超電導デバイス用の素子として高い利用価値を備えている。
また、その製造についても、化学的な合成法を用いることで、本発明の主要な構造を形成することができるので、従来のようなナノ成型技術に伴う問題を生じることなく、複雑なナノ構造を得ることが出来得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】実験No.1の絶縁性被膜層表面から得られたXRD測定結果。
【図2】実験No.1の絶縁性被膜層の導電部材から剥離したもののTEM像。
【図3】実験No.1の絶縁性被膜層の横断面TEM像。
【図4】実験No.1の絶縁性被膜層の縦断面のホウ素マッピング像。
【図5】本実施例のナノ構造を示す縦断面模式図。
【図6】実験No.1の材料全体の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフ。
【図7】実験No.1の電着膜全体の臨界電流密度の磁場依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書に記載の参考文献からも明らかな通り、本発明に用いられる材料としては、下記実施例のものに限らず各種のものが知られており、これらより適宜して、実施例に示す構造と同様な構造を有さしめることに何らの問題はない。
また、その形状を板状、リボン状あるいは線状とすることも可能である。
【実施例1】
【0008】
塩化マグネシウム(MgCl2、99.9%、高純度化学)、塩化カリウム(KCl、99%、高純度化学)、塩化ナトリウム(NaCl、99 %、Aldrich)、およびホウ酸マグネシウム(MgB、キシダ化学)を表1に示す割合で混合して、高純度アルゴンガス(99.9999 %)気流下、600 ℃に加熱し、溶融塩(1)とする。機械攪拌により、常に溶融塩組成の均一性を保つ。
一方、表面酸化被膜を除去した純鉄板(幅10mm×厚さ0.5mm)を飽和ホウ酸水溶液に浸潤後、大気中で十分に乾燥させて導電部材を生成する。
この導電部材を、太さ1mmのグラファイト棒とともに、前記溶融塩中に挿入する。グラファイト棒を正極、鉄基板を負極として、表1の電着条件で処理することにより、導電部材の表面に絶縁性被膜を形成した。導電部材を溶融塩から取り出し、メタノール洗浄を行うと、その表面は、表1に示す厚さの黒色電着膜(絶縁性被膜)によって被覆されていた。
そして、下記する分析結果から、その絶縁性被膜内には、表1に示すような超電導ナノ細線が形成されていた。
【0009】
【表1】

【0010】
絶縁性被膜層によって被覆された導電部材表面から得られたX線回折(XRD)の結果を示す(図1)。
導電材料である鉄の回折ピーク以外に、MgOに帰属される複数の回折ピークが認められる。一方、MgB101回折のピークが、MgO 200回折ピークの肩として観察される。
絶縁性被膜層は、主相のMgOと、副相のMgB(体積分率 <20%)によって構成されていることが分かる。
図2の導電部材表面から剥離した絶縁性被膜層の透過電子顕微鏡(TEM)像と、図3の導電部材表面に平行に切断した絶縁性被膜層の横断面のTEM像から、以下の事実が明らかとなった。
中間的なコントラストを持つ不定形相(A相)と共に、低いコントラストを持つ幹の太さ約1×102nmの樹木状のナノ細線が多数並立する組織(B相)が認められる。
電子線回折(TED)観測の結果、AおよびB相はそれぞれ、単相MgOおよび単相MgBに帰属された。
TEDの回折点の鋭さから、MgBナノ細線は高い結晶性を備えているものと結論される。
絶縁性被膜層は、ナノ細線状のMgB相と、バルク状のMgO相(以後、MgOマトリックスと呼ぶ)とが混じり合った、特殊なナノ構造を備えていることが分かる。
その結果を模式的に図5に示す。
【0011】
絶縁性被膜層を導電部材表面平行に切断・薄片化し、断面TEM試料を作製した。絶縁性被膜層横断面の高分解能TEM像を示す図3において、画面中央、100nm程度の多角形領域に、周囲のMgO(200)原子列像に埋め込まれる形で、MgB(001)原子列像が認められる。これは、基板表面垂直に伸長したMgBナノ細線の垂直断面像と見做すことができる。
導電部材表面に垂直に切断した電着膜断面に対し、電子線プローブマイクロアナライザ (EPMA)を用い、ホウ素の空間分布マッピングを行った結果をしめす図4では、MgOマトリックス中に埋め込まれたMgBナノ細線が、導電部材表面に垂直な方向に伸びる樹枝状構造として観察されている。
上記結果を総合して、導電部材表面に対して垂直に伸長した超電導MgBナノ細線が、絶縁体MgO内部に埋め込まれた形態を持つ、金属・超電導・絶縁体複合材料であると結論できる。(図5)。
【0012】
導電部材に電流・電圧端子を取り付け、四端子法によって電気輸送特性を評価した。
電気抵抗率の温度依存性を示す図6より、34Kにおいて、MgBナノ細線の超電導転移に伴う鋭い(遷移温度<1K)電気抵抗率の温度変化が認められる。MgBナノ細線は、導電部材と高い電気的導通を保っていることが分かる。
有限磁場下での超電導臨界電流測定結果を示す図7では、5Kおよび20Kそれぞれの測定温度において、絶縁性被膜層全体の臨界電流密度として、1×10Acm−2および4×10Acm−2という値が得られた。絶縁性被膜層中のMgB相の体積分率の低さ(<20%)を考慮すると、MgBナノ細線は全体として、極めて高い臨界電流密度(>5×10Acm−2 @5 K;>2×10Acm−2@20 K)を備えていることが分かる。
【0013】
図1は、電着膜表面から得られたXRD測定結果であり、ピーク位置に対応する面指数を記す。挿入図は、MgO 200反射近傍の拡大図である。
図2は、剥離電着膜のTEM像。挿入図A・Bはそれぞれ、TEM像中A・Bで示した部分から得られたTED像である。挿入図中に、回折点に対応する面指数を記す。
図3は、基板表面平行に切断した電着膜の断面TEM像。収束イオン線(FIB)を用い、超高真空下で切断・成形作業を行った。試料厚さは < 50 nmである。
図4は、基板表面垂直に切断した電着膜の断面EPMA像。ホウ素の特性X線を用い、元素マッピングを行った。
図6は、材料全体の電気抵抗率の温度依存性。電流端子、電圧端子ともに、金属基板に取り付けられた。測定電流の方向は、金属基板表面に平行である。
図7は、電着膜全体の臨界電流密度の磁場依存性。電流端子、電圧端子ともに、金属基板に取り付けられた。測定電流方向は金属基板表面に平行、磁場の方向は、金属基板表面に垂直である。臨界電流密度は、測定された臨界電流を、電着膜の厚みと幅で割ることによって求められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2007-521664
【特許文献2】特開2004-217463
【特許文献3】特開平08-106825
【特許文献4】特開平07-170721

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料と超電導材料と絶縁材料とからなる超電導素子であって、前記導電性材料からなる導電部材と、この表面を被覆する絶縁性材料からなる被覆層と、この被覆層中に埋め込まれている超導電性材料からなる多数のナノ細線からなり、前記ナノ細線の一端が前記導電部材に電気的に接続され、他端が前記被覆層中に埋没されてなることを特徴とする超電導素子。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導素子において、ナノ細線が、幹より多数の枝が分岐されてなる樹木状であることを特徴とする超電導素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超電導素子において、前記超導電性材料がMgB2であり、絶縁性材料がMgOであることを特徴とする超電導素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−245430(P2010−245430A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94870(P2009−94870)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】