説明

超電導細線の製造方法

【課題】本発明は、高価なフォトマスクを要することなくエッチングにより超電導層に溝部形成が可能であって細線化を確実に行うことができる方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、基材上に中間層を介し超電導層が形成され、少なくとも超電導層を複数に分断離間する分離溝を備えてなる超電導細線の製造方法であって、基材上に中間層と超電導層と保護層を備えた超電導導体に対し、保護層から少なくとも超電導層表面に達する溝部を超電導導体の長さ方向に沿って形成する工程と、ネガ型の感光性樹脂層を形成する工程と、保護層上の感光性樹脂層が残り、溝部に対応する位置の感光性樹脂層を除去して溝部に連続する接続溝を感光性樹脂層に形成するように露光、現像を行う工程と、溝部と接続溝を介してそれらの下に位置する酸化物超電導層をエッチングにより除去して分離溝を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流下で用いられる超電導細線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物系等の超電導体は、臨界温度、臨界電流、臨界磁界で規定される条件範囲内において、超電導状態が維持される。一方、超電導体は、その状態によっては、通電中に一部の領域が常電導状態となって発熱し、さらに超電導体全体が常電導状態に移転する、所謂クエンチ現象を引き起こすことが知られている。クエンチ現象が通電時に発生すると、超電導体が焼損してしまう虞がある。そこで、これを防止するために、熱伝導性および導電性が良好な金属からなる安定化層(金属安定化層)を超電導層に接触配置して複合化することがなされている。
安定化層を設ける手法としては、スパッタリングや蒸着により、銀(Ag)からなる安定化層(銀安定化層)を形成する方法(特許文献1参照)や、はんだを介して銀安定化層上に安価な銅(Cu)からなる安定化層(銅安定化層)を形成する方法(特許文献2参照)が開示されている。
【0003】
一方、超電導体をケーブルや変圧器等の実用に供するには、交流損失を低減することが必要である。これに対して、超電導線材を利用したコイルにおいては、金属基材にまで達する溝を超電導層に形成し、超電導層を複数に分割して細線化することにより、分割数に反比例するように交流損失を低減できることが知られている(特許文献3参照)。細線化の手法としては、レーザ照射、フォトリソグラフィー、エッチング等が通常適用される。
このように、金属安定化層を設けた超電導線材においては、交流損失を低減するために、超電導線材を細線化することが重要な技術となってきてる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−236652号公報
【特許文献2】特開2008−060074号公報
【特許文献3】特開2007−141688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如く超電導線材の交流損失低減のために、超電導線材を細線化する試みがなされている。
ここで酸化物超電導導体は一般に、耐熱金属テープなどの基材上に結晶配向制御、元素拡散抑制などの目的で中間層とキャップ層を積層した上、酸化物超電導層を積層し、その上に更に良導電性の安定化層を設けた構造が一般的とされている。従って、このような積層構造の酸化物超電導導体を細線化するには、酸化物超電導導体の長さ方向に複数本の溝を形成して酸化物超電導層を細分化する必要がある。
図3(A)に細線化する場合の一例構造を示すが、この図の例の酸化物超電導導体100は、耐熱金属製の長尺の基材101の上に、IBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition:イオンビームアシスト)法などの配向制御技術により結晶配向性に優れた中間層102を形成し、その上にCeOなどの自己配向化が可能なキャップ層103を形成して単結晶に近い結晶配向性を確保した上に、酸化物超電導層105を成膜し、その上に保護層106を積層した構造とされている。
【0006】
図3(A)に示す積層構造の酸化物超電導導体100を細線化するには、図1(B)に示す如く保護層106から酸化物超電導層105に達するように複数の溝110を形成して酸化物超電導層105を複数の超電導層105Aに分断することにより行うことができ、これにより超電導細線100Aを得ることができる。なお、超電導細線100Aにおいて溝110を介し隣り合う超電導層105Aどうしは相互絶縁されていることが必要となる。
なお、酸化物超電導層105に溝110を形成する場合、図4に示す如く保護層106と酸化物超電導層105に亘ってこれらを分断する溝110を形成することができるが、図5に示す如く保護層106と酸化物超電導層105とキャップ層103と中間層102まで分断して基材101の上面まで達するように溝111を形成することにより細分化することもできる。
【0007】
前述の酸化物超電導層105に溝を形成する方法として知られている第1の方法はフォトリソグラフィ技術を用いてエッチングなどの手法により溝を形成する方法、第2の方法は機械式の刃を用いて物理的に溝を形成して分割する方法である。また、その他の方法としてCOレーザーを照射し、先の溝に相当する位置の酸化物超電導層105に組成変位を生じさせて超電導部分を絶縁物化し、溝に相当する位置に形成した絶縁物によって酸化物超電導層105を複数に分断する方法も知られている。
【0008】
しかしながら、前述の第1の方法によるフォトリソグラフィ技術を用いた分断方法では露光のために高価なレチクルと称されるフォトマスクを必要とするなど、高価な装置が必要となる問題がある。また、前述の第2の方法による機械式の刃を用いた分断方法では複数の刃を用いることで一度に複数の溝を加工することが可能であり、溝加工の際のスループットは早いが、加工後に溝の内部に残存物が残り易く、残存物の影響があって、分断形成した超電導層どうしの絶縁抵抗を高くすることができない問題があった。従って、これらの残存物はエッチングなどの手法により除去する必要があるが、機械式の刃で分断した後に更にエッチングを行う必要があり、この際にもフォトレジストを形成するなどして溝の部分以外の酸化物超電導層を保護する必要があるので、工程が複雑となる問題がある。
更に前述の第3のCOレーザーを用いる方法では、長尺の酸化物超電導線の細線化の場合、絶縁部分を形成するための回数分、リールなどに巻き付けてある超電導線材を巻き返さなくてはならないため、交流損失低減のために分割数を増やす程、スループットが遅くなる問題がある。
【0009】
本発明は、高価なフォトマスクを要することなくエッチングにより超電導層に溝形成が可能であって超電導線材の細線化を確実に行うことができ、交流用として好ましい超電導細線の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を有する。
本発明は、基材上に中間層を介し超電導層が形成され、少なくとも前記超電導層を線材幅方向に複数に分断離間する分離溝を備えてなる超電導線材の製造方法であって、基材上に中間層と超電導層と保護層を備えた超電導導体に対し、前記保護層から少なくとも前記超電導層表面に達する溝部を前記超電導導体の長さ方向に沿って形成する工程と、前記保護層と溝部を覆うようにネガ型の感光性樹脂層を形成する工程と、前記保護層上の感光性樹脂層が残り、前記溝部に対応する位置の感光性樹脂層を除去して前記溝部に連続する接続溝を感光性樹脂層に形成するように露光、現像を行う工程と、前記溝部と前記接続溝を介してそれらの下に位置する酸化物超電導層をエッチングにより除去して酸化物超電導層を分断する分離溝を形成することを特徴とする。
本発明は、前記保護層の少なくとも表面を光反射性の材料から形成するとともに、前記保護層上に形成したネガ型の感光性樹脂層に露光する際、感光性樹脂層が感光する光量よりも低い光量で露光を行い、溝部上の感光性樹脂層を露光不足状態とし、保護層上の感光性樹脂層を感光充足状態としてから現像することを特徴とする。
【0011】
本発明は、前記感光性樹脂が感光する光量よりも低い光量で感光性樹脂層を露光する際、露光時間の短縮を選択するか、光強度の低下を選択するか、露光時間の短縮及び光強度の低下の両方を選択して実施するか、いずれかを実施することを特徴とする。
本発明は、前記保護層に形成する溝部を機械式の刃で形成することを特徴とする。
本発明は、基材上に中間層を介し超電導層が形成され、少なくとも前記超電導層を線材幅方向に複数に分断離間する分離溝を備えてなる超電導線材の製造方法であって、基材上に中間層と超電導層と保護層を備えた超電導導体に対し、前記保護層上に樹脂製の第2の保護層を形成する工程と、前記第2の保護層に溝部を前記超電導導体の長さ方向に沿って機械式の刃により形成する工程と、前記溝部を介してその下に位置する酸化物超電導層をエッチングにより除去して酸化物超電導層を分断する分離溝を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、露光用のレチクルなどの高価なフォトマスクを備えた露光装置を用いることなく酸化物超電導層を分断する分離溝の形成を行うことができるので、安価に超電導細線を製造することができる。また、エッチングにより超電導層を分断する分離溝の形成を行うので、機械式の溝加工やレーザーによる溝加工などの場合のように溝の内部側に残留物が生じる問題は、本発明では生じない。
従って分離溝内に残留物などを有していない、絶縁性が確保された分断構造の超電導層を複数備えた超電導細線を製造することができる。
【0013】
また、保護層の少なくとも表面を光反射性の材料から構成しておき、感光性樹脂層に露光する際、光量不足状態で露光しても、保護層表面からの反射光を利用して保護層の上に存在する感光性樹脂層を十分に露光することができ、それに対し、保護層に溝部を形成した部分の上の感光性樹脂層では保護層からの反射が無く、露光不足状態のままとすることができるので、この状態の感光性樹脂層を現像するならば、感光性樹脂層の露光不足となった部分のみを除去し、露光完了とした他の部分を残すことが可能となり、この感光性樹脂層の残った部分をマスクとしてエッチングを利用して超電導層を分割する分離溝を形成することができ、高価なフォトマスクやそれを用いた高価な露光装置を用いることなく目的の超電導層の分離溝の加工をエッチングで形成できる。よって、超電導層を細分化した構造の超電導細線を低コストで製造することができる。
前記保護層に溝部を形成する方法は機械式の刃を用いて物理的に行うこともでき、その場合に複数の刃を用いることで一度に複数の溝部を形成して超電導導体の長さ方向に一度の切断加工で複数の溝部を形成することが可能であり、良好な生産効率で超電導層を複数に分割することが可能となる。また、機械式の刃でもって溝部を形成するのは、保護層に対してであり、超電導層自体に対しエッチングにより分離溝を形成するので、超電導層に機械的な負荷が作用するおそれが少なく、超電導層自体を物理的に損傷させることなく分離溝を形成し、超電導細線を製造することができる。また、機械式の刃を用いて形成した溝部には切削くずなどの残留物が残留し易いが、溝部形成後にエッチングを行うので、溝部内の残留物を容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の第1実施形態に係る酸化物超電導細線の製造方法を工程順に説明するためのもので、図1(A)は基材上に中間層とキャップ層と超電導層と保護層を積層した状態を示す断面図、図1(B)は保護層に溝を形成した状態を示す断面図、図1(C)はレジスト層を形成した状態を示す断面図、図1(D)は露光現像を行った後の状態を示す断面図、図1(E)は酸化物超電導層まで達する溝を形成した状態を示す断面図、図1(F)は基材まで達する溝を形成した状態を示す断面図、図1(G)はレジスト層を除去した状態を示す断面図、図1(H)は基材まで達する溝を形成した状態からレジストを除去した状態を示す断面図。
【図2】図2は本発明の第2実施形態に係る酸化物超電導細線の製造方法を工程順に説明するためのもので、図2(A)は基材上に中間層とキャップ層と超電導層と保護層を積層した状態を示す断面図、図2(B)は保護層上に第2の保護層を形成した状態を示す断面図、図2(C)は第2の保護層に溝を形成した状態を示す断面図、図2(D)は酸化物超電導層まで達する溝を形成した状態を示す断面図、図2(E)は基材まで達する溝を形成した状態を示す断面図、図2(F)はレジスト層を除去した状態を示す断面図、図1(G)は基材まで達する溝を形成した状態からレジストを除去した状態を示す断面図。
【図3】図3は一般的な酸化物超電導線材の溝加工について説明するためのもので、図3(A)は酸化物超電導導体の一例構造を示す斜視図、図3(B)は酸化物超電導導体に溝を形成した状態を示す斜視図。
【図4】図4は酸化物超電導導体の一例構造において酸化物超電導層まで達する溝を形成した状態を示す断面図。
【図5】図5は酸化物超電導導体の一例構造において基材まで達する溝を形成した状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、以下説明する。
図1は本発明に係る超電導細線の製造方法の一形態について工程順に説明するためのもので、図1(A)は長尺の基材上に中間層と超電導層と保護層を積層した超電導導体を示す断面図、図1(B)は保護層に溝部を形成した状態を示す断面図、図1(C)は保護層上にレジスト層を形成した状態を示す断面図、図1(D)はレジスト層に露光、現像を行った後の状態を示す断面図、図1(E)はキャップ層表面まで達して超電導層を分断する溝を形成した状態を示す断面図、図1(G)はレジスト層を除去した状態を示す断面図である。
【0016】
本発明に係る第1の実施形態の製造方法では、図1(G)に示す如く、長尺のテープ状の基材1の上に、中間層2とキャップ層3と超電導分割層5Aと保護分割層6Aとが積層された構造であり、超電導分割層5Aと保護分割層6Aとが基材1の幅方向に複数、所定間隔で形成された分離溝7により複数区画されてなる構造の超電導細線9を製造することを目的の1つとする。なお、超電導細線9は長尺の超電導線材であり、図1(G)ではその横断面の積層構造を示しているので、超電導分割層5Aと保護分割層6Aが積層されてなる分割導体部8も超電導細線9の長さ方向に沿って延在されている。
以上構造の超電導細線9は、図1(A)に示す如く基材1の上に、中間層2とキャップ層3と超電導層5と保護層6とが積層されてなり、細線化されていない状態の酸化物超電導導体Aを後述する方法により細線化することで製造されたものである。
ここで、細線化する方法の説明の前に酸化物超電導導体Aの構造について説明する。
【0017】
酸化物超電導導体Aにおいて、基材1を構成する材料として用いるものは、強度及び耐熱性に優れた、Cu、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag等の金属又はこれらの合金を用いることができる。特に、好ましいのは、耐食性及び耐熱性の点で優れているステンレス、ハステロイ、その他のニッケル系合金である。あるいは、これらに加えてセラミック製の基材、非晶質合金の基材などを用いても良いのは勿論である。
【0018】
酸化物超電導導体Aにおいて、中間層2は、1層あるいは多層構造のものを選択して適用することができる。中間層2を多層構造とする場合は、基材1上に拡散防止層とベッド層を積層した上に配向制御層を組み合わせた積層構造の中間層2とすることができる。なお、拡散防止層とベッド層については、省略することもできる。
<拡散防止層>
拡散防止層は、基材1の構成元素拡散を防止する目的で形成されるもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成されることが好ましい。
<ベッド層>
ベッド層は、希土類酸化物の層を適用することができ、例えば、Yから構成することができる。このベッド層を形成することでその上に形成する後述のIBAD−MgOの配向制御層をより高配向性のものとすることができる。
<配向制御層>
配向制御層は、中間層2の主体をなすものであって、例えば、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)により成膜された蒸着膜であり、基材1と後述する酸化物超電導層との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能するとともに、この上に形成されるキャップ層3の結晶配向性を制御する配向制御膜として機能する。この配向制御層を成膜する場合にイオンビームアシストスパッタ装置を用い、イオンビームアシストスパッタ法を実施して結晶配向性を整えることが好ましいが、IBAD法による配向制御層に限るものではなく、他の方法で得られる配向制御層を適用しても差し支えない。
【0019】
中間層2の主体となる配向制御層を構成する材料としては、これらの物理的特性が基材1と後述の酸化物超電導層との中間的な値を示すものが用いられる。このような配向制御層の材料としては、例えば、MgO、イットリア安定化ジルコニウム(YSZ)、GdZr、CeO等を挙げることができ、その他、パイロクロア構造、希土類−C構造、ペロブスカイト型構造又は蛍石型構造を有する適宜の化合物を用いることができる。これらの中でも、配向制御層の材料としては、MgO、YSZ、あるいは、GdZrを用いることが好ましい。特に、MgOやGdZrは、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、配向制御層の材料として特に適している。
【0020】
<キャップ層>
キャップ層3は、その上に設けられる酸化物超電導層の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層を構成する元素の拡散や、成膜時に使用するガスと中間層2との反応を抑制する機能などを有する。
キャップ層3としては、特に、中間層2の表面(配向制御層の表面)に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て成膜された膜であるのがより好ましい。このように選択成長しているキャップ層3は、中間層2よりも更に高い面内配向度が得られる。
キャップ層3を構成する材料としては、このような機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、例えば、CeO、LaMnO、SrTiO、Y、Al等を用いることが好ましい。
キャップ層3の構成材料としてCeOを用いる場合、キャップ層3は、全体がCeOによって構成されている必要はなく、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいてもよい。
【0021】
<酸化物超電導層>
酸化物超電導分割層5Aの材料としては、RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−n:REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素)を用いることができる。RE−123系酸化物として好ましいのは、Y123(YBaCu7−n)又はGd123(GdBaCu7−n)等である。
なお、この酸化物超電導層5Aの上には超電導特性の安定化などの目的でAgやAg合金などの良電導性金属材料からなる安定化層が別途形成されていても良い。
<保護層>
保護分割層6Aの材料としては、AgあるいはAu、Ptなどの貴金属を例示することができ、良電導性かつ光反射性の高い金属からなることが好ましい。超電導線材において超電導分割層5Aの安定化を行うためには、良電導性のAgを適用することが多いので、Agの保護分割層6Aを用いると、本実施形態で使用する保護分割層6Aをそのまま金属安定化層の基層として流用することが可能となるので好ましい。超電導線導体Aの安定化層としては、Agの基層の上に必要厚さの銅層などを積層して得ることができる。
【0022】
図1(A)に示す積層構造の酸化物超電導導体Aを用意したならば、保護層6の表面に機械式の刃を用いて切り込み形成した溝部6aを酸化物超電導導体Aの幅方向に複数本、酸化物超電導導体Aの長さ方向全長に形成する。ここで形成する溝部6aの本数は、酸化物超電導層5を分割したい数に合わせて形成するので、酸化物超電導導体Aの幅によっても異なるが1本以上、20本程度の範囲で溝部6aを設けることができる。勿論、溝部6aを設ける数はこの範囲に限るものではない。溝部6aを形成することで保護層6は複数の保護分割層6Aに分離される。
溝部6aを形成したならば、脱脂あるいは化学研磨等の手段により保護層6の表面及び溝部6aの内部を洗浄し、次いで溝部6a形成後溝部6aと保護層6の表面を覆うようにネガ型の感光性樹脂層10を形成する。この感光性樹脂層10は、ディップ法、スプレー法、ロールコーター法などの塗布方法により、保護層6上と溝部5に感光性樹脂を塗布した後、温風乾燥機あるいは遠赤外線照射装置などを用い、プリベーク処理などの乾燥工程を行ない、乾燥させることで得ることができる。
ここで用いるネガ型の感光性樹脂10として、日本ペイント(株)、商品名OPTO−ER、Nシリーズ(OPTOは登録商標)、関西ペイント(株)、商品名ゾンネLDIシリーズ等を用いることができる。
【0023】
次に、感光性樹脂層10の上から、超高圧水銀灯あるいはメタルハライド水銀灯などを光源とする露光装置を用いて露光する。この露光の際、光源からの光強度あるいは露光時間を調節して、感光性樹脂層10を完全に露光するために必要な光強度と時間の関係のうち、どちらか一方、あるいは、両方の条件が完全露光のためには不足な条件で露光を行うものとする。光強度を低下する場合は光源からの出力を低下させ、露光時間を短くするには照射時間を削減すれば良い。ここで、光強度×時間=光量の関係として、完全露光に必要な光量の50%以上〜100%未満の露光量とすることが好ましい。即ち、光量か時間のいずれかのパラメータを調整して露光不足状態とする必要がある。
【0024】
ここで保護層6はその少なくとも表面が光反射性の金属からなるので、保護層6の上に位置する感光性樹脂層10にあっては、上記の露光不足条件であっても、保護層6が光を反射することによって、保護層6の上に位置する感光性樹脂層10にあっては満足な露光がなされるのに対し、溝部6aの上に位置する感光性樹脂層10は露光不足状態となる。なお、保護層6はその少なくとも表面が光反射性であれば良いので、保護層6を多層構造として最表面層のみを光反射性の低い材料から形成しても良い。
【0025】
この状態から炭酸ソーダなどの現像液を用いて25℃〜35℃程度の液温度にて30秒〜120秒現像し、次いでリンス液をスプレー塗布して現像完了とする。この現像工程により、感光性樹脂層10において露光不足であった領域のみが除去されて先の感光性樹脂層10の溝部6aに対応した部分に図1(D)に示す如く接続孔10aが形成される結果、感光性樹脂層10は複数の感光性樹脂分割層10Aに分割される。この接続孔10aを形成した後、酸化物超電導導体Aの表面をリンスして清浄化した後、エッチング処理を行う。
清浄化の後、感光性樹脂分割層10Aとその下に存在する保護分割層6Aをマスクとして酸化物超電導層5の湿式エッチングによる分割を行う。ここで用いるエッチング液として、硝酸、またはアンモニア水+過酸化水素水を用いることができる。なお、酸化物超電導層5を物理的エッチングで分割することもできる。
【0026】
前記のエッチング工程により酸化物超電導層5をエッチングして溝部6aと接続孔10aの部分の下に位置する酸化物超電導層5を部分的に選択除去して酸化物超電導層5に分離溝5aを形成し、この分離溝5aが酸化物超電導層5の下地のキャップ層6に到達したならば、エッチング工程を終了する。このエッチング工程により酸化物超電導層5を分離溝7により分割した構造の酸化物超電導分割層5Aを形成することができる。
エッチング工程の終了後、水酸化ナトリウム水溶液(3〜5%、液温40〜55℃)に60〜90秒程度浸漬することで、感光性樹脂分割層10Aを保護分割層6Aから剥離することで、図1(G)に示す断面構造であり、分離溝7により複数に分割された酸化物超電導分割層5Aを有する超電導細線9を得ることができる。
【0027】
以上説明の方法により製造した超電導細線9は、分離溝7により超電導層5が複数の超電導分割層5Aに分割されて細線化されているので、交流通電時などにおいて交流損失を少なくすることができる特徴を有する。
また、図1(A)〜(G)を基に説明した本実施形態の製造方法にあっては、保護層6に刃を用いて機械的に形成した溝部6aと、保護分割層6Aの光反射を利用し、保護分割層6Aの上に形成した感光性樹脂分割層10Aが露光完了する条件よりも少ない光強度あるいは露光時間で全体を露光することで、光反射性の保護分割層6Aの上に位置する感光性樹脂層10を露光完了状態に、溝部6aの上の感光性樹脂層10を露光不足状態に仕分けることで、レチクルなどの高価なフォトマスクを要することなく選択的露光処理ができる。そして、この際に形成した露光不足の部分を現像により除去して感光性樹脂層10に接続孔10aを形成し、その下に位置する溝部6aとともに酸化物超電導層5の表面に達する連続孔とすることができ、その他の部分を感光性樹脂分割層10Aと保護分割層6Aで覆う構成とすることができるので、これらをマスクとして酸化物超電導層5の選択的エッチングを行って分離溝7を形成し、酸化物超電導層5を複数の酸化物超電導分割層5Aとすることができる。
即ち、本実施形態の方法によれば、レチクルなどの高価なフォトマスクを要することなく酸化物超電導層5の選択的エッチングができるので、安価に超電導細線9を製造することができる。
【0028】
次に本発明に係る製造方法では、図1(H)に示す如く、長尺のテープ状の基材1の上に、中間層2Aとキャップ層3Aと超電導分割層5Aと保護分割層6Aとが積層された構造であり、中間層2Aとキャップ層3Aと超電導分割層5Aと保護分割層6Aとが基材1の幅方向に複数、所定間隔で形成された分離溝11により複数に分割された形状の分割導体部12を具備してなる超電導細線13を製造することもできる。なお、超電導細線13は長尺の超電導線材であり、図1(H)ではその横断面の積層構造を示しているので、分割導体部12と分離溝11は、いずれも超電導細線13の長さ方向に延在されている。
【0029】
次に本発明に係る第2実施形態の製造方法では、先に説明した第1実施形態で用いたものと同等構造の酸化物超電導導Aを用いて図2に示す工程に従って図2(F)に示す積層構造の酸化物超電導細線22あるいは図2(G)に示す酸化物超電導細線25を製造することができる。
図2(A)に示す酸化物超電導導体Aを用い、保護層6の上に樹脂製の第2の保護層20を積層し、この後、先の第1実施形態で用いたものと同等の刃を用いて機械式にて第2の保護層20に溝部20aを必要幅かつ必要本数、酸化物超電導導体Aの長さ方向に形成し、第2の保護層20を分割保護層20Aとする。
この後、第2の保護層20の溝部20aを介しエッチング液によるエッチングを行い、溝部20aの下に位置する保護層6と酸化物超電導層5とキャップ層6と中間層2を分断する分離溝21を形成し、この後に第2の保護層20Aを剥離して除去することにより図1(F)に示す断面構造の酸化物超電導細線22を得ることができる。
【0030】
第2実施形態の製造方法において、図2(C)に示す状態から、エッチングにより分離溝24を基材1の表面まで到達するように形成し、保護層6を保護分割層6Aに、酸化物超電導層5を酸化物超電導分割層5Aとした上に、キャップ層3と中間層2をそれぞれ分割構造として超電導細線25を製造することもできる。
【0031】
以上説明した方法により酸化物超電導細線22、25を製造する工程においても、高価なフォトマスクを要することなく高価な露光装置を使用することなくエッチングによる酸化物超電導層の分割処理ができるので、安価に酸化物超電導細線22、25を製造することができる効果を有する。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の具体的実施例について説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
長さ10mのテープ状の幅1cmのハステロイ金属基材上にスパッタ法によりAlの拡散防止層を成膜した。Al層の成膜温度は室温、膜厚は100nmとした。
次に、このAlの拡散防止層上に、イオンビームスパッタ法によりYのベッド層を成膜した。このベッド層の膜厚は20nmとした。
続いてIBAD法によりMgOのターゲットを用いてアシストイオンビームを入射角45゜で照射しながらMgOのターゲットにイオンビームを照射してターゲット粒子を叩き出し、ベッド層上にIBAD−MgOの中間層を成膜した(膜厚5nm)。
次に、IBAD−MgOの中間層上に、パルスレーザー蒸着法(PLD法)により800℃で厚さ500nmのCeOのキャップ層を形成した。
更に、PLD法(パルスレーザー蒸着法)によりキャップ層上にY123(YBaCu7−n)なる組成の酸化物超電導層を形成した。(膜厚1μm)
【0033】
以上説明の如く得られた酸化物超電導導体に対し、酸化物超電導層上に厚さ5μmのAgの保護層をメッキ法により形成し、Agの保護層とした。
この保護層に対し、幅100μmの分離溝を4本、回転円盤型の刃を有する切断装置により酸化物超電導導体の幅方向に等間隔で酸化物超電導導体の全長に形成し、保護層を5つの保護分離層に分断した。
次いで、ネガ型感光性レジスト(OPTO−ER、N)からなる感光性樹脂層をスプレー塗布により塗布し、これを150℃で1分プリベークしてから超高圧水銀灯により露光量45mJ/cmとした。この感光樹脂は露光が完全になされる露光量が60mJ/cmであるので、本実施例では75%の露光量に設定して露光している。
【0034】
次いで、露光後の感光性樹脂層を1%炭酸ソーダ(1:7希釈)を用いて現像し、上記切断装置にて形成した分離溝の下の酸化物超電導層を除去し、5分割した構造の幅2mmの酸化物超電導分割層を備えた酸化物超電導細線を得た。
酸化物超電導細線の幅方向一端部側に位置して溝部により分割した隣接する酸化物超電導分割層どうしの線間絶縁性を調査したところ、1MΩ以上の絶縁抵抗があることを確認することができ、線間絶縁性の優れた酸化物超電導細線を製造できたことを確認することができた。
【符号の説明】
【0035】
A…酸化物超電導導体、1…基材、2、2A…中間層、3、3A…キャップ層、5…酸化物超電導層、6…保護層、7、11…分離溝、8、12…分割導体部、9、13…超電導細線、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に中間層を介し超電導層が形成され、少なくとも前記超電導層を線材幅方向に複数に分断離間する分離溝を備えてなる超電導線材の製造方法であって、
基材上に中間層と超電導層と保護層を備えた超電導導体に対し、前記保護層から少なくとも前記超電導層表面に達する溝部を前記超電導導体の長さ方向に沿って形成する工程と、
前記保護層と溝部を覆うようにネガ型の感光性樹脂層を形成する工程と、
前記保護層上の感光性樹脂層が残り、前記溝部に対応する位置の感光性樹脂層を除去して前記溝部に連続する接続溝を感光性樹脂層に形成するように露光、現像を行う工程と、
前記溝部と前記接続溝を介してそれらの下に位置する酸化物超電導層をエッチングにより除去して酸化物超電導層を分断する分離溝を形成することを特徴とする超電導細線の製造方法。
【請求項2】
前記保護層の少なくとも表面を光反射性の材料から形成するとともに、前記保護層上に形成したネガ型の感光性樹脂層に露光する際、感光性樹脂層が感光する光量よりも低い光量で露光を行い、溝部上の感光性樹脂層を露光不足状態とし、保護層上の感光性樹脂層を感光充足状態としてから現像することを特徴とする請求項1に記載の超電導細線の製造方法。
【請求項3】
前記感光性樹脂が感光する光量よりも低い光量で感光性樹脂層を露光する際、露光時間の短縮を選択するか、光強度の低下を選択するか、露光時間の短縮及び光強度の低下の両方を選択して実施するか、いずれかを実施することを特徴とする請求項2に記載の超電導細線の製造方法。
【請求項4】
前記保護層に形成する溝部を機械式の刃で形成することを特徴とする請求項1または2に記載の超電導細線の製造方法。
【請求項5】
基材上に中間層を介し超電導層が形成され、少なくとも前記超電導層を線材幅方向に複数に分断離間する分離溝を備えてなる超電導線材の製造方法であって、
基材上に中間層と超電導層と保護層を備えた超電導導体に対し、前記保護層上に樹脂製の第2の保護層を形成する工程と、
前記第2の保護層に溝部を前記超電導導体の長さ方向に沿って機械式の刃により形成する工程と、
前記溝部を介してその下に位置する酸化物超電導層をエッチングにより除去して酸化物超電導層を分断する分離溝を形成することを特徴とする超電導細線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−138689(P2011−138689A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297946(P2009−297946)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】