説明

超電導線材および超電導線材の製造方法

【課題】臨界電流値を向上できる超電導線材および超電導線材の製造方法を提供する。
【解決手段】超電導線材10は、基板11と、基板11上に形成され、中間層12a,13aと中間層12a,13a上に形成された超電導層12b,13bとからなる積層単位12,13が2以上備えられた超電導線材である。それぞれの積層単位12,13において、超電導層12b,13bと対向する中間層12a,13aの面の表面粗さRaは20nm以下である。2以上の積層単位12,13のうち、基板11から見て最上層に位置する積層単位13以外の積層単位12の少なくとも1つにおいて、超電導層12bの主表面の一部が露出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材および超電導線材の製造方法に関し、たとえば中間層と超電導層が交互に積層されている超電導線材および超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超電導線材は、基板と、基板上に形成される中間層と、中間層上に形成される超電導層とを備えている。このような超電導線材において、臨界電流値Icを向上することを目的として超電導層を厚膜化すると、超電導層を厚くするにしたがって、超電導層の表面平滑性は低下する。超電導層の表面平滑性が低下すると、臨界電流密度Jcが低下してしまう。たとえば超電導層の厚みを2μm以上とすると、1MA/cm2以上の臨界電流密度Jcを実現することは困難であった。
【0003】
超電導層の表面平滑性を向上するため、平滑性に優れる単元素系中間層であるCeO2からなる中間層上に、超電導特性に優れるYBCOからなる超電導層を形成した超電導線材や、平滑性に優れるRE系123結晶膜であるSmBCOからなる中間層上にYBCOからなる超電導層を形成した超電導線材が提案されている。しかし、このような超電導線材では、CeO2やSmBCOからなる中間層に人工的な平滑化処理は実施されておらず、単純に材料が自然に保有している平滑性の性質を利用しているにすぎない。そのため、超電導層が薄い場合にはYBCOは超電導特性に優れているものの、膜厚を大きくすると、臨界電流密度Jcは悪くなる。そのため、臨界電流値Icが低いという問題がある。
【0004】
そこで、特開2006−27958号公報(特許文献1)に、基板上に形成された膜の特性を向上させることを目的とした薄膜材料およびその製造方法が提案されている。特許文献1では、基板と、該基板上に形成された上部表面が研磨加工されている中間薄膜層と、該中間薄膜層上に形成された単結晶性薄膜層とを備えている薄膜材料が開示されている。
【特許文献1】2006−27958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示の薄膜材料では、超電導層の厚みが0.25μm以内であれば高い臨界電流密度Jcを得られるものの、超電導層を厚膜化すると、a軸方向の粒子の成長に伴いポーラスになって結晶性が悪くなり、超電導層の表面平滑性が悪くなる。そのため、十分な臨界電流密度Jcを得られず、臨界電流値Icが低いという問題がある。
【0006】
それゆえ本発明の目的は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、臨界電流値を向上できる超電導線材および超電導線材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の超電導線材は、基板と、基板上に形成され、中間層と中間層上に形成された超電導層とからなる積層単位が2以上備えられた超電導線材である。それぞれの積層単位において、超電導層と対向する中間層の面の表面粗さRaは20nm以下である。2以上の積層単位のうち、基板から見て最上層に位置する積層単位以外の積層単位の少なくとも1つにおいて、超電導層の主表面の一部が露出している。
【0008】
本発明の超電導線材の製造方法は、基板を準備する工程と、積層単位を2以上形成する工程と、積層単位の一部を除去する工程とを備えている。積層単位を2以上形成する工程は、基板上に、中間層と中間層上に形成された超電導層とからなる積層単位を2以上形成する。積層単位の一部を除去する工程は、2以上の積層単位のうち、基板から見て最上層に位置する積層単位以外の積層単位の少なくとも1つにおいて、超電導層の主表面の一部が露出するように、積層単位の一部を除去する。2以上の積層単位を形成する工程は、それぞれの積層単位において、超電導層と対向する中間層の面の表面粗さRaが20nm以下になるように、中間層を平滑化する工程を含んでいる。
【0009】
本発明の超電導線材および超電導線材の製造方法によれば、それぞれの積層単位において、超電導層と対向する中間層の面の表面を平滑化しているので、中間層上に形成される超電導層の表面平滑性および面内配向性が向上する。そのため、それぞれ超電導層について、臨界電流密度や臨界電流値などの超電導特性を向上できる。また、最上層の超電導層および主表面の一部が露出された超電導層に電流を流すことができる。そのため、臨界電流密度が向上したこれらの超電導層に電流を流すことによって、臨界電流値を向上できる。よって、臨界電流値を向上できる超電導線材を得ることができる。
【0010】
なお、上記「表面粗さRa」とは、JIS B 0601に準拠して測定される値である。
【0011】
上記超電導線材において好ましくは、2以上の積層単位の端部では、それぞれの積層単位を構成する超電導層の主表面がそれぞれ露出するように、積層単位の主表面の位置が基板から離れるにしたがって階段状に後退するように決定されている。
【0012】
また、上記超電導線材の製造方法において好ましくは、積層単位の一部を除去する工程では、2以上の積層単位の端部において、それぞれの積層単位を構成する超電導層の主表面がそれぞれ露出するように、積層単位の主表面の位置が基板から離れるにしたがって階段状に後退するように、積層単位の一部を除去する。
【0013】
これにより、それぞれの積層単位を構成する超電導層について、有する最大の能力の電流をそれぞれ流すことができる。そのため、臨界電流密度を向上する超電導層について、最大の能力を発揮できる。よって、臨界電流値をより一層向上できる超電導線材を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超電導線材および超電導線材の製造方法によれば、中間層上に形成される超電導層の表面平滑性および面内配向性が向上するため、それぞれの超電導層について、臨界電流密度や臨界電流値などの超電導特性を向上できる。また、最上層の超電導層および主表面の一部が露出された超電導層に電流を流すことができるため、臨界電流値を向上できる。よって、臨界電流値を向上できる超電導線材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における超電導線材を示す概略斜視図である。図2は、本発明の実施の形態1における超電導線材に電流端子を接続した状態を示す概略斜視図である。図1および図2を参照して、本発明の実施の形態1における超電導線材を説明する。本発明の実施の形態1における超電導線材10は、図1に示すように、基板11と、基板11上に形成され、中間層12a,13aと中間層12a,13a上に形成された超電導層12b,13bとからなる積層単位12,13が2以上備えられた超電導線材である。それぞれの積層単位12,13において、超電導層12b,13bと対向する中間層12a,13aの面の表面粗さRaは20nm以下である。2以上の積層単位12,13のうち、基板11から見て最上層に位置する積層単位13以外の積層単位12の少なくとも1つにおいて、超電導層12bの主表面の一部が露出している。
【0017】
詳細には、超電導線材10は、図1に示すように、基板11と、基板11上に形成された第1の中間層12aと、第1の中間層12a上に形成された第1の超電導層12bと、第1の超電導層12b上に形成された第2の中間層13aと、第2の中間層13a上に形成された第2の超電導層13bとを備えている。積層単位12は、第1の中間層12aと第1の超電導層12bとからなる。積層単位13は、第2の中間層13aと第2の超電導層13bとからなる。実施の形態1における超電導線材10は、2の積層単位12,13を備えている。
【0018】
基板11は、たとえば長尺の帯状の形状を有している。基板11において中間層12aと対向する面を、予め平滑化処理することが好ましい。その面上に優れた中間層を形成できる観点から、基板11における平滑化処理する面の表面粗さRaは20nm以下であることが好ましい。
【0019】
基板11を構成する材料は金属であることが好ましい。基板11は、配向金属基板を用いることがより好ましい。なお、配向金属基板とは、基板11の表面の面内の2軸方向に関して、結晶方位が揃っている基板を意味する。配向金属基板としては、たとえばNi(ニッケル)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Fe(鉄)、Pd(パラジウム)、Cu(銅)、Ag(銀)、およびAu(金)のうち2以上の金属からなる合金が好適に用いられる。これらの金属を他の金属または合金と積層することもでき、たとえば高強度材料であるSUSなどの合金を用いることもできる。なお、基板11の材料は特にこれに限定されず、たとえば金属以外の材料を用いてもよい。
【0020】
積層単位12,13において、超電導層12b,13bと対向する中間層12a,13aの面の表面粗さRaは20nm以下であり、好ましくは18nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。表面粗さRaが20nmを超えると、中間層12a,13a上に形成される超電導層12b,13bの表面平滑性や面内配向性を向上できないため、臨界電流値や臨界電流密度などの超電導特性を向上できない。表面粗さRaを18nm以下とすることによって、中間層12a,13a上に形成される超電導層12b,13bの表面平滑性や面内配向性をより向上できるため、臨界電流値や臨界電流密度などの超電導特性をより向上できる。表面粗さRaを10nm以下とすることによって、中間層12a,13a上に形成される超電導層12b,13bの表面平滑性や面内配向性をより向上できるため、臨界電流値や臨界電流密度などの超電導特性をより一層向上できる。
【0021】
中間層12a,13aの半値幅△Φ(°)は、たとえば5°〜8°であることが好ましい。8°を超える場合には、臨界電流密度(Jc)が1MA/cm2を超えることは困難であり、実用的な臨界電流値(Ic)の確保が難しい。8°以下とすることによって、1MA/cm2以上の臨界電流密度(Jc)の確保が容易である。より好ましくは5°〜6°程度にすることによって、臨界電流密度(Jc)を2MA/cm2程度に向上することができる。
【0022】
中間層12a,13aを構成する材料は、岩塩型、蛍石型、ペロブスカイト型、およびパイロクロア型の少なくともいずれか1つの結晶構造を有する酸化物であることが好ましい。このような結晶構造を有する酸化物として、酸化セリウム(CeO2)、酸化ホルミニウム(Ho23)、酸化イットリウム(Y23)、および酸化イッテルビウム(Yb23)などの希土類元素酸化物、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、酸化マグネシウム(MgO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、BZO(BaZrO3)、および酸化アルミニウム(Al23)などのLn−M−O化合物(Lnは1種以上のランタノイド元素、MはSr、Zr、およびGaの中から選ばれる1種以上の元素、Oは酸素)が挙げられる。特に、結晶定数および結晶配向の観点から、中間層12aを構成する材料が、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、酸化セリウム(CeO2)、酸化マグネシウム(MgO)、およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)などが好適に用いられる。これらの材料は、超電導層12b,13bとの反応性が極めて低く、超電導層12b,13bと接触している境界面においても超電導層12b,13bの超電導特性を低下させない。特に、基板11を構成する材料として金属を用いる場合には、表面に結晶配向性を有する基板11と超電導層12b,13bとの差を緩和して、超電導層12b,13bを高温で形成する際に、表面に結晶配向性を有する配向金属からなる基板11から超電導層13bへの金属原子の流出を防止する役割を果たすことができる。なお、中間層12a,13aを構成する材料は特にこれに限定されない。
【0023】
また、中間層12a,13aは、良好な結晶配向性を有していることが好ましい。良好な結晶配向性を有する材料としては、上記材料が挙げられる。また、中間層12a,13aは、複数の層により構成されていてもよい。中間層12a,13aが複数の層により構成される場合、中間層12a,13aを構成するそれぞれの層は互いに異なる材質により構成されていてもよいし、同じ材質により構成されていてもよい。
【0024】
超電導層12b,13bの厚みは、0.2μm以上5μmとすることが好ましく、0.5μm以上2μmとすることがより好ましい。実施の形態1における超電導線材10は、臨界電流密度を低下させずに超電導層12b,13bの厚みを大きくできるため、0.2μm以上とすることによって、臨界電流値を向上できる。0.5μm以上とすることによって、臨界電流値をより向上できる。5μm以下とすることによって、臨界電流密度の低下を防止できる。2μm以下とすることによって、臨界電流密度の低下をより防止できる。
【0025】
超電導層12b,13bを構成する材料は特に限定されないが、たとえばRE−123系の超電導体とすることが好ましい。なお、RE−123系の超電導体とは、REBa2Cu3y(yは6〜8、より好ましくはほぼ7、REとはイットリウム、またはGd、Sm、Hoなどの希土類元素を意味する)として表わされる超電導体を意味する。大きな臨界電流値および臨界電流密度を示すRE−123系の超電導体を用いることにより、超電導線材10の超電導特性をより向上できる。
【0026】
実施の形態1では、図1に示すように、2以上の積層単位12,13の端部では、それぞれの積層単位12,13を構成する超電導層12b,13bの主表面がそれぞれ露出するように、積層単位12,13の主表面の位置が基板11から離れるにしたがって階段状に後退するように決定されている。すなわち、超電導線材10の末端にいくに従って、積層単位12,13のうち最上層に位置する積層単位13から最下層に位置する積層単位12まで順に各積層単位12,13の超電導層12b,13bが選択的に露出されている。実施の形態1では、図1に示すように、2段の階段状となっている。
【0027】
なお、超電導線材10は、2以上の積層単位12,13のうち、基板11から見て最上層に位置する積層単位13以外の積層単位12の少なくとも1つにおいて、超電導層12bの主表面の一部が露出していれば、特にこの構成に限定されない。たとえば、超電導線材10の内部において、積層単位12を構成する超電導層12bが露出されていてもよい。また、上記「超電導層12bの主表面」とは、超電導層12bにおいて、面積の相対的に大きい面(側面などではない面)を意味する。
【0028】
図2に示すように、超電導線材10は、2以上の積層単位12,13のうち、基板11から見て最上層に位置する積層単位13以外の積層単位12において、露出している超電導層12bの主表面の一部に、電流端子22を接続することができる。このように電流端子22を接続した超電導層12bには、電流を流すことができる。そのため、超電導線材10では、基板11から見て最上層に位置する積層単位13を構成する超電導層13bと、基板11から見て最上層に位置する積層単位13以外の積層単位12を構成する超電導層12bとに、電流を流すことができる。よって、超電導線材10は、その臨界電流値を向上できる。
【0029】
また、超電導線材10と電流端子22,24を接続する場合には、超電導線材10の幅方向と、電流端子22,24の延びる方向とが平行になるように配置されることが好ましい。
【0030】
なお、露出している超電導層12bの主表面の一部上、および最上層に位置する超電導層13b上に、安定化層21,23を形成して、安定化層21,23上で電流端子22,24と接続することが好ましい。安定化層21,23を構成する材料は、金属であれば特に限定されず、たとえばAg(銀)、Cu(銅)、Au(金)、またはこれらの合金などを用いることができる。電流端子22,24は、外部電極と接続可能としている。電流端子22,24は、たとえばCuリード線などを用いることができる。
【0031】
露出されている超電導層12bにおいて、超電導線材10の延在する方向の長さHは、2cm以上10cm以下とすることが好ましい。2cm以上とすることによって、露出した部分に電流端子22を接続できる。10cm以下とすることによって、各々の超電導層の特性を劣化させることなく電流の流し込み用端子付けを可能とし、かつ端末をコンパクトに仕上げることができる。
【0032】
次に、図1〜図3を参照して、超電導線材10の製造方法について説明する。なお、図3は、本発明の実施の形態1における超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【0033】
図1および図3に示すように、まず、基板11を準備する工程(S10)を実施する。具体的には、超電導線材10のベースとなる基板11を準備する。基板11としては、たとえばニッケルなどの金属からなる帯状の金属テープを準備する。
【0034】
次に、図1および図3に示すように、基板11上に、中間層12a,13aと中間層12a,13a上に形成された超電導層12b,13bとからなる積層単位12,13を2以上形成する工程(S20)を実施する。積層単位12,13を形成する工程(S20)は、それぞれの積層単位12,13において、超電導層12b,13bと対向する中間層12a,13aの面の表面粗さRaが20nm以下になるように、中間層12a,13aを平滑化する工程を含んでいる。中間層12a,13aを研磨する工程は、中間層12a,13aの面(超電導層12b,13bと対向する面)の表面粗さRaが10nm以下になるように平滑化することがより好ましい。
【0035】
実施の形態1の工程(S20)では、まず、準備された基板11上に、中間層12aを形成する。そして、中間層12aの表面粗さRaが20nm以下となるように平滑化する。そして、中間層12a上に、超電導層12bを形成する。そして、超電導層12b上に第2の中間層13aを形成する。そして、中間層13aの表面を表面粗さRaが20nm以下となるように平滑化する。そして、中間層13a上に超電導層13bを形成する。
【0036】
工程(S20)において、中間層12a,13aの表面粗さRaを20nm以下にするために、電界研磨法、化学研磨法、機械研磨法、およびメカノケミカル法の少なくとも1つを用いて中間層12a,13aを平滑化することが好ましい。
【0037】
電解研磨法とは、たとえば、濃リン酸または濃硫酸などの電解液中に、被研磨材を陽極として浸漬し、電解液に配置された陰極との間に直流電流を流して、電気化学的に被研磨材の表面を研磨する方法をいう。ここで、被研磨材は、基板供給ロール、基板浸漬ロール、および基板巻取りロールなどによって、連続的に電解研磨され巻き取られる。
【0038】
化学研磨法とは、たとえば、リン酸、硝酸、フッ酸−硝酸(HF−HNO3)混合溶液、フッ酸−過酸化水素水(HF−H22)混合溶液、シュウ酸−過酸化水素水((COOH)2−H22)混合溶液などの化学研磨液に、被研磨材を浸漬して、化学反応により被研磨材の表面を研磨する方法をいう。
【0039】
機械研磨法は、たとえば鏡面研磨法などを用いることができる。鏡面研磨法とは、ロール表面が鏡面加工された圧延ロールを用いて被研磨材を圧延加工することにより、ロール表面の鏡面を被研磨材の表面に転写して被研磨材の表面を平坦化する方法をいう。
【0040】
メカノケミカル法とは、たとえば、侵食性のある酸性または塩基性の液体中にSiO2、Al23などの研磨粒子を分散させた研磨スラリーを研磨スラリー供給装置から供給しながら、押さえ具を用いて研磨シートに被研磨材を押さえつけることによって、機械的かつ化学的な研磨により配向金属基板の表面を平坦化する方法をいう。ここで、研磨シートが配置されている研磨シート台を回転軸により回転させることにより、研磨シートが回転する。また、研磨シート供給ロールおよび研磨シート巻取りロールが回転することにより、新しい研磨シート面が供給される。
【0041】
なお、上記被研磨材とは、表面粗さRaを20nm以下にする、積層単位12,13における超電導層12b,13bと対向する中間層12a,13aの表面を含む部材を指す。
【0042】
中間層12a,13aを平滑化する工程では、中間層12a,13aの表面粗さRaを20nm以下にできれば特に限定されない。
【0043】
工程(S20)において中間層12a,13aを形成するために用いる成膜方法は、任意の成膜方法を用いることができるが、たとえばスパッタ法、EBD(電子線ビーム蒸着:Electron Beam Deposition)法、PLD(パルスレーザー蒸着:Pulse Laser Deposition)法、または熱蒸着法などを用いることができる。
【0044】
また、工程(S20)において超電導層12b,13bを形成するために用いる成膜方法は、たとえば気相法および液相法の少なくともいずれか一方を用いることができる。気相法としては、たとえばレーザ蒸着法、スパッタリング法、および電子ビーム蒸着法などが挙げられる。液相法としては、たとえば有機金属堆積法などが挙げられる。結晶配向性および表面平滑性に優れた表面を有する超電導層12b,13bを形成することができるため、レーザ蒸着法、スパッタリング法、電子ビーム法、および有機金属堆積法の少なくとも1つの方法またはそれらの複合化法により行なうことが好ましい。
【0045】
なお、超電導層12b,13bを形成した後に、酸素雰囲気下で熱処理を行なってもよい。熱処理は、超電導層12b,13bに酸素をドープするために実施する。熱処理は、350℃〜550℃で、10分〜90分の間、実施することが好ましい。
【0046】
次に、図1および図3に示すように、2以上の積層単位12,13のうち、基板11から見て最上層に位置する積層単位13以外の積層単位12の少なくとも1つにおいて、超電導層12bの主表面の一部が露出するように、積層単位13の一部を除去する工程(S30)を実施する。積層単位13の一部を除去する工程(S30)では、2以上の積層単位12,13の端部において、それぞれの積層単位12,13を構成する超電導層12b,13bの主表面がそれぞれ露出するように、積層単位12,13の主表面の位置が基板11から離れるにしたがって階段状に後退するように、積層単位12,13を除去することが好ましい。
【0047】
実施の形態1の工程(S30)では、積層単位13の端部を、積層単位13の厚さ分だけ除去する。これにより、図1に示すように、超電導線材10の端部において、積層単位12を構成する超電導層12bが露出する。除去する積層単位13の端部の長さ(超電導線材10の延在する方向の長さ)Hは、2cm〜10cmとすることが好ましい。
【0048】
工程(S30)において、積層単位13の一部を除去する場合には、下層の超電導層を損傷させることなく必要長のみを露出させる観点から、化学研磨法およびメカノケミカル研磨法の少なくともいずれか一方を用いて行なうことが好ましい。なお、積層単位13の一部を除去する手法としては、特にこれに限定されず、たとえば中間層12a,13aを除去できるメカノケミカル研磨法など任意の方法を用いることができる。
【0049】
以上の工程(S10〜S30)を実施することにより、図1に示す実施の形態1における超電導線材10を製造できる。超電導線材10に電流端子を接続する場合には、さらに以下の工程を実施する。
【0050】
図2に示すように、超電導線材10において露出された積層単位12の超電導層12b上に、安定化層21を形成する。そして、超電導線材10において最上層である積層単位13の超電導層13b上に安定化層23を形成する。なお、これらの安定化層21,23の形成によって超電導層から酸素が抜ける場合があり、安定化層21,23の形成後に再度、超電導層12b,13bに酸素をドープするための熱処理として、酸素100%、1気圧の雰囲気にて、350℃〜550℃で、10分〜90分の間、実施することが好ましい。
【0051】
そして、安定化層21,23と、電流端子22,24とを接続する。接続する方法は特に限定されないが、たとえば、はんだ接合を用いることができる。また、接続する際に接続が容易になる観点から、超電導線材10の幅方向(超電導線材10の延在する方向と反対の方向)に沿って電流端子22,24を接続することが好ましい。また、電流端子22,24としては、たとえばCuリード線などを用いることができる。さらに銀被覆Bi−2223線材やRE系薄膜線材を用いることも可能である。
【0052】
以上説明したように、本発明の実施の形態1における超電導線材10によれば、基板11と、基板11上に形成され、中間層12a,13aと中間層12a,13a上に形成された超電導層12b,13bとからなる積層単位12,13が2以上備えられた超電導線材であって、それぞれの積層単位12,13において、超電導層12b,13bと対向する中間層12a,13aの面の表面粗さRaは20nm以下であり、2以上の積層単位12,13のうち、基板11から見て最上層に位置する積層単位12,13以外の積層単位12,13の少なくとも1つにおいて、超電導層12b,13bの主表面の一部が露出している。これにより、それぞれの積層単位12,13において、超電導層12b,13bと対向する中間層12a,13aの面の表面を平坦化しているので、中間層12a,13a上に形成される超電導層12b,13bの表面平滑性および面内配向性が向上する。そのため、各超電導層12b,13bについて、臨界電流密度や臨界電流値などの超電導特性を向上できる。また、臨界電流密度が向上した最上層の超電導層13bおよび主表面の一部が露出された超電導層12bに電流を流すことができる。2以上の超電導層12b,13bにおけるそれぞれの臨界電流値の合計が超電導線材10における臨界電流値となるので、超電導線材10の臨界電流値を向上できる。よって、臨界電流値を向上できる超電導線材10を得ることができる。
【0053】
上記超電導線材10において好ましくは、中間層12a,13aの面の表面粗さRaが10nm以下である。これにより、それぞれの中間層12a,13a上に形成される超電導層12b,13bの表面平滑性および面内配向性がより向上する。そのため、それぞれの超電導層12b,13bについて臨界電流密度をより向上できる。よって、臨界電流密度が向上した複数の超電導層12b,13bに電流を流すことによって、臨界電流値をより向上できる超電導線材10を得ることができる。
【0054】
上記超電導線材10において好ましくは、2以上の積層単位12,13の端部では、それぞれの積層単位12,13を構成する超電導層12b,13bの主表面がそれぞれ露出するように、積層単位12,13の主表面の位置が基板11から離れるにしたがって階段状に後退するように決定されている。これにより、それぞれの積層単位12,13を構成する超電導層12b,13bのすべてについて、超電導線材10の形状から発揮できる最大の能力の電流を流すことができる。また、超電導層12b,13bのすべてについて、臨界電流密度を向上している。よって、臨界電流値をより一層向上できる超電導線材10を得ることができる。
【0055】
本発明の実施の形態1における超電導線材10の製造方法は、基板11を準備する工程(S10)と、基板11上に、中間層12a,13aと中間層12a,13a上に形成された超電導層12b,13bとからなる積層単位12,13を2以上形成する工程(S20)と、2以上の積層単位12,13のうち、基板11から見て最上層に位置する積層単位13以外の積層単位12の少なくとも1つにおいて、超電導層12b,13bの主表面の一部が露出するように、積層単位12,13の一部を除去する工程(S30)とを備え、積層単位12,13を形成する工程(S20)は、それぞれの積層単位12,13において、超電導層12b,13bと対向する中間層12a,13aの面の表面粗さRaが20nm以下になるように、中間層12a,13aを平滑化する工程を含んでいる。積層単位12,13を形成する工程(S20)で、それぞれの積層単位12,13において、超電導層12b,13bと対向する中間層12a,13aの面の表面を平滑化にしているので、中間層12a,13a上に形成される超電導層12b,13bの表面平滑性および面内配向性が向上する。そのため、それぞれの超電導層12b,13bについて、臨界電流密度や臨界電流値などの超電導特性を向上できる。また、臨界電流密度が向上した最上層の超電導層13bおよび主表面の一部が露出された超電導層12bに電流を流すことができる。そのため、臨界電流値を向上できる。よって、臨界電流値を向上できる超電導線材10を製造できる。
【0056】
上記超電導線材10の製造方法において好ましくは、中間層12a,13aを平滑化する工程は、中間層12a,13aの面の表面粗さRaが10nm以下になるように研磨している。これにより、それぞれの中間層12a,13a上に形成される超電導層12b,13bの表面平滑性および面内配向性がより向上する。そのため、それぞれの超電導層12b,13bについて臨界電流密度をより向上できる。よって、臨界電流密度が向上した複数の超電導層12b,13bに電流を流すことによって、臨界電流値をより向上できる超電導線材10を製造できる。
【0057】
上記超電導線材10の製造方法において好ましくは、積層単位12,13の一部を除去する工程(S30)は、2以上の積層単位12,13の端部では、それぞれの積層単位12,13を構成する超電導層12b,13bの主表面がそれぞれ露出するように、積層単位12,13の主表面の位置が基板11から離れるにしたがって階段状に後退するように、積層単位12,13を除去する。これにより、それぞれの積層単位12,13を構成するすべての超電導層12b,13bについて、超電導層12b,13bの形状から可能となる最大の電流を流すことができる。そのため、臨界電流密度を向上できる超電導層12b,13bについて、それぞれ最大の能力を発揮できる。よって、臨界電流値をより一層向上できる超電導線材10を製造できる。
【0058】
(実施の形態2)
図4を参照して、本発明の実施の形態2における超電導線材を説明する。図4に示すように、実施の形態2における超電導線材10は、基本的には実施の形態1における超電導線材10と同様の構成を備えているが、3の積層単位を備えている点においてのみ異なる。なお、図4は、本発明の実施の形態2における超電導線材を示す概略斜視図である。
【0059】
具体的には、3の積層単位12,13,14の端部では、それぞれの積層単位12,13,14を構成する超電導層12b,13b,14bの主表面がそれぞれ露出するように、積層単位12,13,14の主表面の位置が基板11から離れるにしたがって階段状(3段)に後退するように決定されている。
【0060】
また、超電導線材が、超電導層12b,13b,14bの露出している主表面上に形成された安定化層21,23,25を備えている場合には、その安定化層21,23,25と電流端子22,24,26とを接続することにより、すべての超電導層12b,13b,14bに電流を流すことができる。
【0061】
なお、超電導線材は、特にこの構成に限定されず、図5に示すように、3の積層単位12,13,14のうち、基板11から見て最上層に位置する積層単位14以外の積層単位12,13の少なくとも1つである積層単位13において、超電導層13bの主表面の一部が露出している構成としてもよい。この場合には、露出している超電導層13b,14b上に形成される安定化層23,25を備えると、安定化層23,25と電流端子24,26とを接続することにより、2の超電導層13b,14bに電流を流すことができる。なお、図5は、本発明の実施の形態2における超電導線材の別の例を示す概略斜視図である。
【0062】
実施の形態2における超電導線材の製造方法は、基本的には実施の形態1における超電導線材10と同様であるが、積層単位を形成する工程(S20)において3の積層単位12,13,14を形成する点、および積層単位の一部を除去する工程(S30)において2の積層単位13,14の端部を除去する点においてのみ異なる。そのため、実施の形態1と同様であるのでその説明は繰り返さない。
【0063】
なお、図5に示す超電導線材の製造方法では、積層単位の一部を除去する工程(S30)において、1の積層単位14の端部を除去する点においてのみ図4に示す超電導線材の製造方法と異なる。
【0064】
以上説明したように、本発明の実施の形態2における超電導線材によれば、3の積層単位12,13,14を備えている。そのため、積層単位12,13,14のすべての超電導層12b,13b,14bを露出させて電流を流すことができる場合には、臨界電流密度を向上したすべての超電導層12b,13b,14bについて臨界電流値が向上するので、実施の形態2における超電導線材の臨界電流値はさらに向上できる。
【0065】
なお、実施の形態1の超電導線材10は、2の積層単位12,13を、実施の形態2の超電導線材では3の積層単位12,13,14を備えているが、本発明の超電導線材が備える積層単位の数は、2以上であれば特に限定されない。超電導線材が備える積層単位の数は、2以上5以下が好ましい。2以上とすることによって、臨界電流値を向上できる。5以下とすることによって、積層プロセスの複雑さを緩和し、端末をコンパクトにできる。
【0066】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
実施例1は、実施の形態1における超電導線材の製造方法にしたがって図1に示す超電導線材を製造した。具体的には、まず、基板を準備する工程(S10)として、半値幅△Φが6°であり、表面粗さRaが10nmであるNi合金基板を準備した。
【0068】
次に、基板上に、中間層と中間層上に形成された超電導層とからなる、2以上の積層単位を形成する工程(S20)を実施した。具体的には、基板上に、スパッタリング法により1層当たり0.5μmのCeO2からなる中間層を成膜した。その後、中間層の表面粗さRaが20nmになるようにメカノケミカル研磨を実施した。その後、中間層の表面粗さRaが18nmになるように化学研磨を実施した。2段階の研磨(メカノケミカル研磨および化学研磨)により、中間層の表面は0.1μm除去され、1層当たり0.4μmとした。その後、中間層上にHoBCOからなる超電導層を、1層当たり0.3μmとなるように形成した。その後、超電導層上に中間層を同様に形成した。その後、中間層上に超電導層を同様に形成した。なお、HoBCOからなる超電導層を形成した後に、酸素100%雰囲気下で500℃の温度で60分の熱処理を実施した。熱処理を実施することで、超電導層へ酸素のドープを完全に行なった。
【0069】
次に、2以上の積層単位のうち、基板から見て最上層に位置する積層単位以外の積層単位の少なくとも1つにおいて、超電導層の主表面の一部が露出するように、積層単位の一部を除去する工程(S30)を実施した。具体的には、超電導線材の最上層に位置する1の積層単位の端部を、5cm除去した。
【0070】
次に、最上層の積層単位の超電導層および一部が露出した超電導層の表面上に、厚さ20μmのAgからなる安定化層を形成した。これにより、実施例1における超電導線材を得た。なお、安定化層上に電流端子を接続して、2の超電導層に通電を可能とした。
【0071】
(実施例2)
実施例2は、基本的には実施例1と同様の構成を備えているが、実施例2は、中間層と中間層上に形成された超電導層とからなる積層単位を3つ備えている点、およびそれぞれの中間層の表面粗さRaを20nmとした点においてのみ異なる。なお、超電導層の最上層に位置する積層単位の端部を5cm除去し、最上層から2層目に位置する積層単位の端部を3cm除去して、3の超電導層に通電を可能とした。
【0072】
(比較例1)
比較例1は、基本的には実施例1と同様の構成を備えているが、中間層と中間層上に形成された超電導層とからなる積層単位を1つ備えている点、中間層を平滑化する工程を実施していない点においてのみ異なる。
【0073】
(比較例2)
比較例2は、基本的には実施例1と同様の構成を備えているが、中間層を平滑化する工程を実施していない点においてのみ異なる。なお、2の超電導層に通電を可能とした。
【0074】
(比較例3)
比較例3は、基本的には実施例1と同様の構成を備えているが、中間層と中間層上に形成された超電導層とからなる積層単位を3つ備えている点、中間層を平滑化する工程を実施していない点においてのみ異なる。なお、3の超電導層に通電を可能とした。
【0075】
(比較例4)
比較例4は、基本的には実施例1と同様の構成を備えているが、中間層と中間層上に形成されている超電導層とからなる積層単位を1つ備えている点、および中間層の表面粗さRaを14nmとした点においてのみ異なる。
【0076】
(測定方法)
実施例1,2、および比較例1〜4について臨界電流密度および臨界電流値をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。なお、実施例1,2、および比較例2,3の超電導線材の臨界電流密度は、それぞれの超電導層の臨界電流密度の平均値としている。
【0077】
【表1】

【0078】
(測定結果)
表1に示すように、実施例1および2の超電導線材は、比較例1〜4の超電導線材と比較して臨界電流値を向上できた。なお、積層単位が同じ(厚みが同じ)実施例1と比較例2、実施例2と比較例3とを比較して、臨界電流密度が向上していることがわかった。そのため、超電導層の厚みが同じであれば臨界電流値が非常に向上することがわかった。また、超電導層の厚みの合計を大きくした実施例2は、臨界電流値がさらに向上することがわかった。一方、中間層の平滑化処理を行なわなかった比較例1〜3については臨界電流密度が悪かった。また、中間層の平滑化処理を行なった比較例4は、臨界電流密度は良好であったものの、超電導層が1層であったため、臨界電流値は実施例1,2に比べて悪かった。
【0079】
次に、2以上の積層単位のうち、基板から見て最上層に位置する積層単位以外の積層単位の少なくとも1つにおいて、超電導層の主表面の一部が露出していることの効果を確認するべく以下の実験を行なった。
【0080】
(実施例3)
実施例3は、図4に示す実施例2の超電導線材と同様の超電導線材を製造した。得られた超電導線材の3の超電導層上にAgからなる安定化層を10μm形成した。さらに超電導層の熱処理は、酸素100%の雰囲気下で、550℃の温度で、30分間実施した。
【0081】
(実施例4)
実施例4は、図5に示す超電導線材とした。具体的には、実施例2と同様に、基板を準備する工程(S10)と3の積層単位を形成する工程(S20)とを実施した。次に、積層単位の一部を除去する工程(S30)について、最上層に位置する積層単位についてのみ除去した。これにより、図5に示す実施例3における段数が2段の超電導線材を製造した。
【0082】
(比較例5)
比較例5は、図6に示す超電導線材とした。具体的には、実施例2と同様に基板を準備する工程(S10)と3の積層単位を形成する工程(S20)とを実施した。そして、積層単位の一部を除去する工程(S30)を実施しなかった。これにより、段数が1段の図6に示す比較例4における超電導線材を製造した。なお、図6は、比較例5における超電導線材を示す概略斜視図である。
【0083】
(測定方法)
実施例3,4および比較例5の超電導線材について、同様に臨界電流値を測定した。その結果を表2に示す。なお、臨界電流値の設計値は、基板の側から見て、84A、66Aおよび60Aであった。
【0084】
【表2】

【0085】
(測定結果)
表2に示すように、実施例3,4の超電導線材は、3層および2層の超電導層に電流を流すことができたので、比較例5の超電導線材よりも臨界電流値が高かった。特に、すべての超電導層に電流を流した実施例3の超電導線材は、臨界電流値を非常に向上できた。なお、実施例3,4および比較例5の超電導線材の臨界電流値は、設計値とほぼ同じであった。
【0086】
以上説明したように、実施例によれば、積層単位において、超電導層と対向する中間層の面の表面粗さRaを20nm以下とすることによって、臨界電流密度を向上できることが確認できた。また、2以上の積層単位のうち、基板から見て最上層に位置する積層単位以外の積層単位の少なくとも1つにおいて、超電導層の主表面の一部が露出することによって、臨界電流密度を向上できることが確認できた。さらに、2以上の積層単位の端部では、それぞれ積層単位を構成する超電導層の主表面がそれぞれ露出するように、積層単位の主表面の位置が基板から離れるにしたがって階段状に後退するように決定することによって、超電導線材の臨界電流値をさらに向上できることが確認できた。
【0087】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施の形態1における超電導線材を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1における超電導線材に電流端子を接続した状態を示す概略斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1における超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態2における超電導線材を示す概略斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態2における超電導線材の別の例を示す概略斜視図である。
【図6】比較例5における超電導線材を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0089】
10 超電導線材、11 基板、12,13,14 積層単位、12a,13a,14a 中間層、12b,13b,14b 超電導層、21,23,25 安定化層、22,24,26 電流端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され、中間層と前記中間層上に形成された超電導層とからなる積層単位が2以上備えられた超電導線材であって、
それぞれの前記積層単位において、前記超電導層と対向する前記中間層の面の表面粗さRaは20nm以下であり、
2以上の前記積層単位のうち、前記基板から見て最上層に位置する前記積層単位以外の前記積層単位の少なくとも1つにおいて、前記超電導層の主表面の一部が露出している、超電導線材。
【請求項2】
2以上の前記積層単位の端部では、それぞれの前記積層単位を構成する前記超電導層の主表面がそれぞれ露出するように、前記積層単位の主表面の位置が前記基板から離れるにしたがって階段状に後退するように決定されている、請求項1に記載の超電導線材。
【請求項3】
基板を準備する工程と、
前記基板上に、中間層と前記中間層上に形成された超電導層とからなる積層単位を2以上形成する工程と、
2以上の前記積層単位のうち、前記基板から見て最上層に位置する前記積層単位以外の前記積層単位の少なくとも1つにおいて、前記超電導層の主表面の一部が露出するように、前記積層単位の一部を除去する工程とを備え、
前記積層単位を形成する工程は、それぞれの前記積層単位において、前記超電導層と対向する前記中間層の面の表面粗さRaが20nm以下になるように、前記中間層を平滑化する工程を含む、超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記積層単位の一部を除去する工程では、2以上の前記積層単位の端部において、それぞれの前記積層単位を構成する前記超電導層の主表面がそれぞれ露出するように、前記積層単位の主表面の位置が前記基板から離れるにしたがって階段状に後退するように、前記積層単位を除去する、請求項3に記載の超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−16257(P2009−16257A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178769(P2007−178769)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基板技術研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】