説明

超電導線材の加工方法

【課題】基板上に酸化物超電体からなる超電導膜が形成された幅広の超電導線材を長手方向に切断して細線化するに際して、切断されたエッジ部分やその近傍での劣化による超電導線材の超電導特性の低下を抑制して、材料をスムースに切断することができる超電導線材の加工方法を提供する。
【解決手段】基板上に酸化物超電導体からなる超電導膜が形成された幅広の超電導線材を長手方向に切断して細線化する超電導線材の加工方法であって、超電導線材に連続レーザーを照射することにより前記超電導線材を切断する超電導線材の加工方法。配向金属基板上に、順に、セラミック中間層、酸化物超電導膜、銀安定化層が形成され、さらに上下面の表層に銅保護層が形成された幅広の超電導線材が、連続レーザーにより長手方向に切断されることにより作製されている超電導線材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材の加工方法に関し、詳しくは基板上に酸化物超電導体からなる超電導膜が形成された幅広の超電導線材を長手方向に切断して細線化する超電導線材の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体からなる超電導膜を用いた超電導線材は、一般に、幅1〜10cm程度の金属基板上に中間層、超電導膜、安定化層を形成した後、必要に応じて酸素導入処理を行い、用途に合わせた所定の線材幅に細線加工することにより作製される。
【0003】
このような細線加工の方法として、従来より、スリッターなどを用いて機械的に剪断する方法や、レーザーなどを用いて熱的に焼き切る方法などが採用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−287629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機械的に剪断する方法は、速い加工速度を有するものの、部材を引き裂いて切断する方法であるため、切断されたエッジ部分やその近傍が変形して劣化し易く、細線化された超電導線材の超電導特性を低下させる恐れがあった。
【0006】
これに対して、レーザーを用いた切断は、一般にスリッターによる切断に比べて劣化範囲を小さくできるという利点を有している。このレーザーとしては、瞬間的に材料を貫通することができる点からパルスレーザーが一般的に用いられているが、超電導線材の切断においては、材料をスムースに切断できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑み、基板上に酸化物超電体からなる超電導膜が形成された幅広の超電導線材を長手方向に切断して細線化するに際して、切断されたエッジ部分やその近傍での劣化による超電導線材の超電導特性の低下を抑制して、材料をスムースに切断することができる超電導線材の加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するに当って、まず、パルスレーザーを用いた場合、何故、超電導線材の切断が困難になるのか、種々の実験と検討を行った。その結果、パルスレーザーの特徴である間欠的なレーザー照射に問題があることが分かった。
【0009】
即ち、パルスレーザーは、間欠的にレーザーを照射、即ち、エネルギーを蓄えて瞬間的に照射することにより、切断部の温度を上昇させて材料を瞬間的に融解、蒸発させて切断した後、凝固させて切断面を形成することを繰り返している。しかし、超電導線材には熱伝導速度が速い銅などの金属材料が使用されており、熱が拡散され易いため、材料の融解が起こり難くなり、融解してもすぐに凝固してしまう。この結果、超電導線材の切断が困難になっていることが分かった。
【0010】
このような熱の拡散を補うために、1パルスのエネルギーを大きくすることが考えられるが、この場合には、セラミック層である超電導層が熱劣化し、超電導特性の低下を招くことが分かった。
【0011】
そこで、本発明者は、このように間欠的に出力するパルスレーザーに替えて、連続的に出力する連続レーザーに着目し、実験を行ったところ、連続レーザーを用いた場合、熱伝導速度が速い銅などの金属材料が使用されている超電導線材に対して、スムースな切断が可能となり、さらに、切断速度も速くでき、効率的に切断できることが分かった。
【0012】
即ち、連続的なレーザー出力により拡散する熱を連続的に補っているため、パルスレーザーの場合のようにパルス間における凝固の発生がない。このため、材料をスムースに、しかも、速い速度で切断することができる。また、拡散により失われる熱を効率的に補い、短時間で切断することが可能なため、セラミック層である超電導層の熱劣化を抑制することができる。
【0013】
本発明は、上記の知見に基づく発明であり、請求項1に記載の発明は、
基板上に酸化物超電導体からなる超電導膜が形成された幅広の超電導線材を長手方向に切断して細線化する超電導線材の加工方法であって、
前記超電導線材に連続レーザーを照射することにより前記超電導線材を切断することを特徴とする超電導線材の加工方法である。
【0014】
基板としては、酸化物超電導体をc軸配向してエピタキシャル成長させるため、配向金属基板やIBAD中間層基板が好ましく用いられ、配向金属基板の具体的な材料としてはNi−W合金基板、SUS等をベース金属としたクラッドタイプの金属基板等を挙げることができる。また、配向金属基板上にCeO/YSZ/CeOからなる3層構造等のセラミックからなる中間層が設けられた基板を用いることもできる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、
前記連続レーザーの照射エネルギーが50〜500(J/s)であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の加工方法である。
【0016】
照射エネルギーが小さ過ぎる場合は、熱量が不足するため、スムースに切断できない。一方、大き過ぎる場合は、熱により超電導膜が劣化する恐れがある。本発明者の実験によれば、好ましい照射エネルギーは50〜500J/sであり、具体的な一例として、後述する実施例に示す材料を切断速度90m/minで加工する場合、好ましい照射エネルギーは200〜300J/sである。
【0017】
請求項3に記載の発明は、
前記超電導線材が、銅を含有する層を有する超電導線材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超電導線材の加工方法である。
【0018】
銅は、金属材料の内でも、特に熱伝導速度が速いため、銅を含有する層を有する超電導線材に本発明を適用することにより、本発明の効果が顕著に発揮される。
【0019】
なお、超電導線材には、銅保護層の他に、熱伝導速度が速い銀層が安定化層として設けられているが、その厚みは銅層の厚みに比べてはるかに薄いため、銀層における熱の逃げは充分無視することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、
配向金属基板上に、順に、セラミック中間層、酸化物超電導膜、銀安定化層が形成され、さらに上下面の表層に銅保護層が形成された幅広の超電導線材が、連続レーザーにより長手方向に切断されることにより作製されていることを特徴とする超電導線材である。
【0021】
配向金属基板上に、順に、セラミック中間層、酸化物超電導膜、銀安定化層が形成され、さらに上下面の表層に銅保護層が形成された幅広の超電導線材は、優れた超電導特性を有する。このような超電導特性が優れた幅広の超電導線材を、連続レーザーを用いてスムースに切断しているため、切断に伴う劣化による超電導特性の低下が抑制されて、優れた超電導特性が維持された超電導線材を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、基板上に酸化物超電体からなる超電導膜が形成された幅広の超電導線材を長手方向に切断して細線化するに際して、切断されたエッジ部分やその近傍での劣化による超電導線材の超電導特性の低下を抑制して、材料をスムースに切断することができる超電導線材の加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】超電導線材の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例および比較例の超電導線材の切断部の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0025】
1.超電導線材
本実施例においては、図1に示す構成の超電導線材を使用した。図1は、本実施例における超電導線材の構成を模式的に示す断面図であり、3は超電導線材、31は金属基板、32は中間層、33は超電導膜、34および36は銀安定化層、35は銅保護層である。
【0026】
(1)金属基板
金属基板31としては、100μm厚のSUS層の表面に、20μm厚のCu層および2μm厚のNi層が形成された総厚み約120μmのクラッドタイプの金属基板を用いた。
【0027】
(2)中間層
中間層32としては、CeO/YSZ/CeOの3層構造で構成されている総厚0.6μmの中間層を設けた。なお、各層の形成には、スパッタリング法を用いた。
【0028】
(3)超電導膜
超電導膜33としては、2μm厚のGdBaCu7−x超電導膜を設けた。なお、超電導膜33の形成には、レーザー蒸着法を用いた。
【0029】
(4)銀安定化層
銀安定化層としては、超電導膜33の表面に8μm厚の銀安定化層34を、また、金属基板31の表面に2μm厚の銀安定化層36を設けた。なお、各銀安定化層34および36の形成には、スパッタリング法を用いた。
【0030】
(5)銅保護層
銅保護層35としては、銀安定化層34および36の外側に、20μm厚の銅保護層を設けた。なお、銅保護層の形成には、めっき法を用いた。
【0031】
2.細線加工
以下に示す仕様の連続レーザーを用い、10mm幅の上記超電導線材(長さ:200mm)の中央部を4mm幅、両サイドを1mm幅に切断して、4mm幅および1mm幅の細線各2本を得た。なお、細線加工に際しては、切断部の酸化を防ぐためと溶解した材料を吹き飛ばすために、レーザー照射箇所にArガスを吹き付けた。また、この細線加工におけるロス幅は20μmであった。
【0032】
レーザーの波長 1064nm
出力 300W
エネルギー 300J/s
切断速度 90m/min
【0033】
(比較例1)
細線加工を、切断速度2m/minのスリッターを用いて行った他は、実施例と同様にして細線を得た。
【0034】
(比較例2)
細線加工を、以下に示す仕様のパルスレーザーを用いて行った他は、実施例と同様にして細線を得た。
【0035】
レーザーの波長 1064nm
平均出力 50W
パルス幅 100ns
繰り返し周波数 10kHz
切断速度 50m/hour
【0036】
3.切断部の観察
顕微鏡を用いて実施例、比較例1、2で得られた細線の切断部を観察した。図2は実施例1および比較例1、比較例2の各々で得られた細線の切断部の顕微鏡写真であり、(a)は比較例1、(b)は比較例2、(c)は実施例1である。
【0037】
図2に示すように、比較例1では、スリッターにより超電導線材を引き裂いて切断しているため、切断箇所が大きく変形している。また、比較例2では、特に右側がスムースに切断されておらず、熱によるとみられる劣化が認められる。これに対して、実施例では、これらの変形や熱による劣化が認められず、スムースに切断されていることが分かる。
【0038】
4.超電導特性
細線化された各超電導線材について、超電導特性の一例として、77K、自己磁場下における臨界電流値Icを測定した。なお、このとき、細線加工前の幅広の超電導線材についても測定した。
【0039】
その結果、細線加工前には300(A/cm)であったIcが、実施例では299(A/cm)となっており、スムースな切断により、Icの低下が抑制されていることが分かる。これに対して、比較例1では270(A/cm)、比較例2では295(A/cm)となっており、前記した変形や熱による劣化により、Icが低下していることが分かる。また、実施例と比較例2においてはIc劣化度合いの差は小さいが加工速度においては連続レーザーの方が素早く綺麗に加工できた。
【0040】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0041】
3 超電導線材
31 金属基板
32 中間層
33 超電導膜
34、36 銀安定化層
35 銅保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に酸化物超電導体からなる超電導膜が形成された幅広の超電導線材を長手方向に切断して細線化する超電導線材の加工方法であって、
前記超電導線材に連続レーザーを照射することにより前記超電導線材を切断することを特徴とする超電導線材の加工方法。
【請求項2】
前記連続レーザーの照射エネルギーが50〜500(J/s)であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の加工方法。
【請求項3】
前記超電導線材が、銅を含有する層を有する超電導線材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超電導線材の加工方法。
【請求項4】
配向金属基板上に、順に、セラミック中間層、酸化物超電導膜、銀安定化層が形成され、さらに上下面の表層に銅保護層が形成された幅広の超電導線材が、連続レーザーにより長手方向に切断されることにより作製されていることを特徴とする超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−169057(P2012−169057A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27044(P2011−27044)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「イットリウム系超電導電力機器技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)公益財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】