説明

超電導薄膜線材の製造方法

【課題】超電導層膜に大きなダメージを発生させることがなく、切断工程において厳しい条件管理を必要としない、また、製品の歩留まりを低下させず、生産性の向上を図ることができる超電導薄膜線材の製造方法を提供する。
【解決手段】金属基板上に中間層膜、超電導層膜の順に積層する超電導薄膜線材の製造方法であって、所望する超電導薄膜線材の倍以上の幅を有する金属基板の上に、中間層膜を形成して金属基板/中間層膜複合線材とする中間層膜形成工程と、金属基板/中間層膜複合線材を、所望する超電導薄膜線材の幅に切断する切断工程と、切断された金属基板/中間層膜複合線材の中間層膜の上に超電導層膜を形成する超電導層膜形成工程とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導薄膜線材の製造方法に関し、特に帯状の金属基板を中間層膜が形成された段階で所定の幅に切断し、その後超電導層膜を形成する超電導薄膜線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転位温度(Tc)が液体窒素温度以上の高温超電導体である酸化物超電導体からなる超電導層膜が設けられた超電導薄膜線材は、一般に、幅10mm程度の長尺でフレキシブルな金属テープ(金属基板)上に、中間層膜、超電導層膜、安定化層膜が順に形成されることにより製造されている。
【0003】
そして、この超電導薄膜線材を、例えば、交流を使用する超電導機器用線材として使用する際には、交流損失が小さく、より良好な機器特性を得るために、さらに、2〜5mm幅に切断加工して使用されている。
【0004】
また、近年、超電導薄膜線材の製造効率の向上を図って、より幅広(12〜40mm程度)の金属基板を用いて超電導薄膜線材を作製した後、所望の幅(2〜5mm)に切断加工して、超電導機器に使用することも行われている。
【0005】
これら切断加工には、刃を用いて機械的に切断するスリッタ加工や、レーザ光を用いて連続的に切断するレーザ加工が、通常用いられている(特許文献1の段落117、非特許文献1のFig.2とその説明、非特許文献2の4節)。
【0006】
前記交流損失を低減する手段としては、他に、基板の全幅に亘って形成された幅広の超電導層膜にレーザを用いて一定の間隔毎に細い溝を形成し(レーザスクライビング)、磁束の干渉により交流損失を低減することも行われている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−503594号公報
【特許文献2】特開2007−141688号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A P Malozemoff 他13名著、「Progress in high temperature superconductor coated conductors and their applications」、Supercond.Sci.Technol.21(2008)
【非特許文献2】V.Selvamanickam 他12名著、「Scale up of Applications−ready Practical Y−Ba―Cu−O Coated Conductors」、IEEE Transactions on Applied Superconductivity.Vol.15、no.2、pp.2596−2599.June 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの超電導薄膜線材の製造方法では、切断加工時に高温に曝されたり機械的な歪みが発生したりするため、超電導層膜のエッジ部(切断で生じた端面やその近傍)に大きなダメージが発生して超電導特性を劣化させる恐れがある。このようなエッジ部の超電導特性が劣化した超電導薄膜線材は、交流損失を増大させて製品の歩留まりを低下させるため、切断工程の条件管理を厳しくする必要があり、コストアップを招く要因ともなっていた。また、生産性の向上を図ることも困難であった。
【0010】
このため、超電導層膜に大きなダメージを発生させることがなく、切断工程において厳しい条件管理を必要としない、また、製品の歩留まりを低下させず、生産性の向上を図ることができる超電導薄膜線材の製造方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としてなされたものであり、金属基板に中間層膜が形成された段階で所定の幅に切断し、その後、酸化物超電導層薄膜を形成するようにした発明である。以下、各請求項の発明を説明する。
【0012】
請求項1に記載の発明は、
金属基板上に中間層膜、超電導層膜の順に積層する超電導薄膜線材の製造方法であって、
所望する超電導薄膜線材の倍以上の幅を有する金属基板の上に、中間層膜を形成して金属基板/中間層膜複合線材とする中間層膜形成工程と、
前記金属基板/中間層膜複合線材を、所望する超電導薄膜線材の幅に切断する切断工程と、
切断された前記金属基板/中間層膜複合線材の中間層膜の上に超電導層膜を形成する超電導層膜形成工程と
を有していることを特徴とする超電導薄膜線材の製造方法である。
【0013】
本請求項の発明においては、従来の方法のように、超電導層膜形成後に切断加工を施すのではなく、中間層膜を形成した段階で切断加工を施しているため、得られた超電導薄膜線材において超電導特性を低下させるダメージの発生が抑制される。その結果、製品の歩留まりが低下せず、生産性の向上を図ることができる。
【0014】
即ち、前記した通り、超電導層膜形成後に切断加工を施した場合、超電導層膜のエッジ部に大きなダメージが発生して、得られた超電導薄膜線材において超電導特性に大きな劣化を招く。
【0015】
これに対して、中間層膜は、結晶構造の配向性さえ良好であればよく、切断加工を施しても、得られた超電導薄膜線材において超電導特性に大きな劣化を招く恐れがない。その結果、製品の歩留まりが低下せず、生産性の向上を図ることができる。
【0016】
また、上記したように、中間層膜は、結晶構造の配向性さえ良好であれば超電導薄膜線材の超電導特性に影響を及ぼすことが少ないため、中間層膜を形成する際に、温度分布の均一性や組成比等の形成条件を厳しく管理する必要がない。この結果、幅広の金属基板/中間層膜複合線材を大量生産することができ、コストの低減を図ることができる。
【0017】
一方、超電導層膜は、結晶構造が複雑であり、組成の揺らぎ、a軸/c軸の方向の相違、酸素量等によって超電導特性が大きく変化するため、超電導層膜を形成する際に、温度分布の均一性等の形成条件を厳しく管理する必要があり、形成する超電導層膜の幅が広くなるにつれて、より厳しい管理が必要となる。しかし、本請求項の発明においては、狭い幅に切断された中間層膜の上に超電導層膜を形成しているため、形成条件をさほど厳しく管理する必要がなく、管理コストの低減を図ることができる。
【0018】
なお、本請求項の発明において、「所望する超電導薄膜線材の倍以上の幅」とは、切断によって、2本以上の複数本、所望する幅の超電導薄膜線材を作製することができる幅を指す。
【0019】
中間層膜および超電導層膜の形成は、PLD法やMOD法等、公知の方法を用いて形成すればよく、中間層膜としては、通常、CeO/YSZ(イットリア安定化ジルコニア)/CeO等の複数の層からなる中間層膜が好ましく用いられ、超電導層膜としては、RE−123系の酸化物超電導体(ここで、REは希土類元素を示す)からなる超電導層膜が好ましく用いられる。
【0020】
請求項2に記載の発明は、
前記切断工程と前記超電導層膜形成工程との間に、
切断された前記金属基板/中間層膜複合線材の切断面を研削する研削工程を有している
ことを特徴とする請求項1に記載の超電導薄膜線材の製造方法である。
【0021】
前記した通り、金属基板/中間層膜複合線材に切断加工を施す際、中間層膜のエッジ部にダメージが発生したとしても、このダメージが超電導特性の劣化に及ぼす影響は少なく、超電導特性を少し劣化させるだけであるが、少ないながら劣化が発生している。本請求項の発明においては、この軽微なダメージを受けた中間層膜をも研削して除去しているため、確実に超電導特性の劣化を抑制することができる。
【0022】
なお、本請求項の発明を適用するに際しては、中間層膜の切断面を研削するため、切断工程においては、この研削代を見込んだ幅で切断を行う。
【0023】
請求項3に記載の発明は、
前記金属基板が、配向金属基板であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超電導薄膜線材の製造方法である。
【0024】
金属基板として配向金属基板を用いることにより、より幅広の金属基板上に均一な中間層膜を形成することができ、特性の安定した超電導薄膜線材を効率よく製造することができる。
【0025】
配向金属基板としては、Ni、Ni−W合金またはNi−Cr合金などを圧延した後熱処理することにより、結晶配向性を付与したものが好ましく用いられる。その他、Cu、Agなどやその合金などを用いてもよい。また、基板の配向性向上のために、結晶配向性を付与した金属層と支持層を複合したクラッド型の配向金属基板も好ましく用いられる。
【0026】
請求項4に記載の発明は、
前記超電導層膜形成工程の後に、
前記超電導層膜の上に安定化層膜を形成する安定化層膜形成工程を有している
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の超電導薄膜線材の製造方法である。
【0027】
超電導層膜の上に安定化層膜を設けることにより、超電導層膜が大気等に触れることから保護される。また、超電導層膜に欠陥部がある場合、欠陥部の温度が上昇し超電導特性が失われるが、安定化層膜を設けることにより、この安定化層膜がバイパスの役割を果たし電流を安定して流すため、欠陥部の温度上昇が抑制され、超電導特性を維持することができる。
【0028】
安定化層膜としては、通常、まず、超電導層膜の上に銀層が保護層を兼ねて形成され、その後、銅安定化層が形成される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、超電導層膜にダメージを発生させることがなく、切断工程において厳しい条件管理を必要としない、また、製品の歩留まりを低下させず、生産性の向上を図ることができる超電導薄膜線材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の超電導薄膜線材の製造方法の各工程における線材の断面構成を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0032】
(実施例)
以下の実施例は、金属基板/中間層膜複合線材を切断工程で3分割し、切断面を研削した後、超電導層膜を形成した例であり、図1を参照しつつ説明する。
【0033】
図1は、本実施の形態の超電導薄膜線材の製造方法の各工程における線材の断面構成を概念的に示す図である。図1において、1は切断前の金属基板/中間層膜複合線材であり、2は切断後の金属基板/中間層膜複合線材であり、3は超電導層膜形成後の超電導薄膜線材であり、4は安定化層膜形成後の超電導薄膜線材である。
【0034】
そして、10は切断前の金属基板であり、11は切断後の金属基板であり、20は切断前の中間層膜であり、21は切断後の中間層膜であり、29は中間層膜の切断面部であり、31は切断後の中間層膜21の上に形成された超電導層膜であり、41は超電導層膜31の上に形成された安定化層膜である。また、91は研削用治具である。
【0035】
1.中間層膜形成工程
最初に、図1の(1)に示すように、幅10mm、厚さ100μm、長さ4mの幅広の金属基板10の上面に、RFスパッタリング法を用いて厚さ0.5μmの中間層膜20を形成し、金属基板/中間層膜複合線材を得た。これを長さ2mに2分し、それぞれを、本実施例および後述する比較例における金属基板/中間層膜複合線材とした。
【0036】
なお、金属基板10としては、下からSUS316L、Cu、Niを順に積層したクラッド型の配向金属基板を用いた。
【0037】
また、中間層膜20としては、結晶の配向の良好な酸化物超電導層膜を形成するため、CeO/YSZ/CeOの3層からなる中間層膜とした。この中間層膜は、配向性金属基板の結晶配向性を引き継いで、2軸配向した結晶配向性を有していた。
【0038】
2.切断工程
次に、スリッタ加工により、金属基板/中間層膜複合線材1を幅4.1mmに2分割して、図1の(2)に示す金属基板/中間層膜複合線材2を得た。
【0039】
3.研削工程
次に、図1の(3)に示すように、切断後の金属基板/中間層膜複合線材2の切断面部29には、結晶構造等の不具合、損傷あるいは劣化が発生した可能性があるため、研削用治具91を用いた研削により、その直下の基板11ごと除去した。この研削により、切断後の金属基板/中間層膜複合線材2の幅は4mmとなった。
【0040】
4.超電導膜形成工程
次に、図1の(4)に示すように、研削された切断後の金属基板/中間層膜複合線材の中間層膜21の上に、PLD法を用いてYBCOの超電導層膜31を形成し、超電導薄膜線材3を得た。
【0041】
5.安定化層膜形成工程
図1の(5)に示すように、超電導層膜形成後の超電導薄膜線材3の超電導層膜31の上に、DCスパッタリング法を用いて、厚さ2μmの銀安定化層を形成した。なお、この銀安定化層は保護層を兼ねている。
【0042】
さらに、銀安定化層の上面にめっき法により厚さ10μmの銅安定化層を形成し、安定化層膜41とした。以上により得られた超電導薄膜線材4を、実施例の超電導薄膜線材とした。
【0043】
6.比較例
実施例において作製した長さ2mの金属基板/中間層膜複合線材を用いて、その上に超電導層膜の形成を行った後、実施例で得られた超電導薄膜線材と同じ4mm幅になるように切断加工を施し、比較例の超電導薄膜線材を得た。
【0044】
7.超電導薄膜線材の超電導特性の測定
実施例および比較例で得られた各超電導薄膜線材につき、臨界電流密度Jcと臨界電流値Icを測定したところ、実施例で得られた各超電導薄膜線材では、Icが100Aであった。これに対し、比較例で得られた各超電導薄膜線材では、Icが80Aであり、実施例の場合、比較例に比較してIcが優れていることが確認できた。
【0045】
8.まとめ
以上のように、本発明によれば、金属基板/中間層膜複合線材に切断加工を施した後に超電導層膜を形成しているため、超電導膜へのダメージがなく、超電導層膜を形成した後に切断加工を施した場合に比べ、優れた超電導特性の超電導薄膜線材を効率的に提供することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 切断前の金属基板/中間層膜複合線材
2 切断後の金属基板/中間層膜複合線材
3 超電導層膜形成後の超電導薄膜線材
4 安定化層膜形成後の超電導薄膜線材
10 切断前の金属基板
11 切断後の金属基板
20 切断前の中間層膜
21 切断後の中間層膜
29 中間層膜の切断面部
31 超電導層膜
41 安定化層膜
91 研削用治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板上に中間層膜、超電導層膜の順に積層する超電導薄膜線材の製造方法であって、
所望する超電導薄膜線材の倍以上の幅を有する金属基板の上に、中間層膜を形成して金属基板/中間層膜複合線材とする中間層膜形成工程と、
前記金属基板/中間層膜複合線材を、所望する超電導薄膜線材の幅に切断する切断工程と、
切断された前記金属基板/中間層膜複合線材の中間層膜の上に超電導層膜を形成する超電導層膜形成工程と
を有していることを特徴とする超電導薄膜線材の製造方法。
【請求項2】
前記切断工程と前記超電導層膜形成工程との間に、
切断された前記金属基板/中間層膜複合線材の切断面を研削する研削工程を有している
ことを特徴とする請求項1に記載の超電導薄膜線材の製造方法。
【請求項3】
前記金属基板が、配向金属基板であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超電導薄膜線材の製造方法。
【請求項4】
前記超電導層膜形成工程の後に、
前記超電導層膜の上に安定化層膜を形成する安定化層膜形成工程を有している
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の超電導薄膜線材の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−113664(P2011−113664A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266441(P2009−266441)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「イットリウム系超電導電力機器技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】