説明

超電導電磁石及び超電導磁場形成装置

【課題】外層コイル励磁用の電源に求められる電圧容量を小さく抑えながら内層コイルの迅速な立上げを行うことを可能にする。
【解決手段】超電導マグネット20は、主磁場形成用の外層コイル21と、内層コイル22とを備える。内層コイル22は、主磁場を補強するための補強用コイル23に加えて電磁誘導抑制用コイル24を含む。この電磁誘導抑制用コイル24は、外層コイル21が励磁された状態で補強用コイル23の励磁が立上がる時に外層コイルに発生する誘導電圧を低下させる向きに励磁される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルを用いて強磁場を形成するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)分析装置や画像診断装置(MRI)、シリコン単結晶育成、物性研究等において強磁場を形成するための手段として、一般に超電導電磁石が用いられる。この超電導電磁石は、所定の中心軸回りに超電導線材を巻回することにより構成された超電導コイルを備え、当該超電導コイルの内側空間に磁場を形成するものである。
【0003】
従来、前記超電導コイルを構成する超電導線材には、比較的安価で実績のあるNbTi系超電導材やNbSn系超電導材が多用される。しかし、これらの超電導材の臨界磁場はそれぞれ約10T、約25Tであるので、当該超電導材を用いて実際の形成することができる磁場の強さは実用上22T程度が限界とされている。それ以上の強磁場を形成するためには、前記NbTi系超電導材やNbSn系超電導材よりも臨界磁場の高い新世代の超電導線材(例えばNbAl超電導材や酸化物超電導材)を組み合わせて使用する必要がある。
【0004】
例えば特許文献1には、前記NbTi系超電導材やNbSn系超電導材により構成される外層コイルの内側であってこれと同軸となる位置に、前記NbAl超電導材や酸化物超電導材からなる内層コイルが配置された超電導電磁石が開示されている。この超電導電磁石では、前記外層コイルが内側空間に主磁場を形成し、これを前記内層コイルが補強する。これにより、当該内側空間に強磁場が形成される。
【特許文献1】特開2005−33039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のような外層コイル及び内層コイルを併有する超電導電磁石を立ち上げる方法として、両コイルを直列に接続して共通の電源に接続し、同時に立ち上げる方法と、前記外層コイル及び前記内層コイルにそれぞれ別の電源を接続し、これらのコイルを別個に励磁する方法とが考えられる。しかし、いずれの方法にも次のような利害得失がある。
【0006】
前者の方法では、励磁作業が一度で済むという利点を有する反面、内層コイル及び外層コイルの定格電流値を合致させる設計が必要であるという制約がある。従って、かかる設計が困難な電磁石には適用することができない。例えば、前記特許文献1に記載される超電導電磁石では、外層コイルを構成する材料と内層コイルを構成する材料との相違から、前記設計は困難となる。つまり、各コイルでの磁場発生効率を高めるためには、超電導線材を覆う絶縁被覆の断面積に対する超電導線材の断面積の比率を高くすることが好ましく、そのため当該超電導線材の断面積を極力大きくすることが望まれるが、この断面積の限界値には材料によって差があるため(現時点ではNbAl超電導材や酸化物超電導材の方が小さい)、外層コイルを構成する超電導線材の断面積と内層コイルを構成する超電導線材の断面積とを等しく設定することは実用上難しい。
【0007】
これに対し、後者の方法は、前記のような定格電流値の制約を受けないが、外層コイルと内層コイルを別々に励磁する必要があることから、立上げに要する時間が長くなる。この立上げ時間を短縮するには、各コイルの励磁速度を高く設定すればよいが、外層コイルは内層コイルに比べて自己インダクタンスが大きいため、当該外層コイルの高速励磁は難しい。よって、内層コイルを高速励磁するのが得策であるが、これには次のような課題がある。
【0008】
すなわち、前記外層コイル及び前記内層コイルを立ち上げるには、まず安定性の高い外層コイルの励磁を完了してから、内層コイルの励磁を開始するのが好ましいが、この内層コイルと外層コイルとは相互インダクタンスによって磁気的に結合されているため、内層コイルの励磁速度を高くするほど外層コイルに大きな誘導電圧が生ずることになる。この誘導電圧が大きいほど、外層コイル励磁用の電源に求められる電圧容量が大きくなる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、外層コイル励磁用の電源に求められる電圧容量を小さく抑えながら内層コイルの迅速な立上げを行うことが可能な超電導電磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、所定の中心軸回りに超電導線材が巻回されることにより構成される超電導コイルを備え、当該超電導コイルの励磁により当該超電導コイルの内側の空間に磁場を形成する超電導電磁石であって、前記超電導コイルとして、前記空間に主磁場を形成するための外層コイルと、この外層コイルと中心軸が合致する位置であって当該外層コイルよりも径方向内側の位置に配設され、当該外層コイルとは別個に励磁される内層コイルとを備え、前記内層コイルは、前記主磁場を補強する向きに励磁される補強用コイルと、前記外層コイルが励磁された状態で前記補強用コイルの励磁が立上がる時に当該外層コイルに発生する誘導電圧を低下させる向きに励磁される電磁誘導抑制用コイルと、を含むものである。
【0011】
また本発明は、前記超電導電磁石を用いて磁場を形成する方法であって、前記超電導電磁石の外層コイルを励磁して主磁場を形成する工程と、前記外層コイルの励磁完了後、前記内層コイルにおける補強用コイル及び電磁誘導抑制用コイルの双方の励磁を開始し、当該補強用コイルの励磁の進行により前記外層コイルに生ずる誘導電圧を前記電磁誘導抑制用コイルの励磁により抑制しながら当該補強用コイル及び当該電磁誘導抑制用コイルの励磁の完了に至る工程と、含むものである。
【0012】
以上の構成では、外層コイルの内側に設けられる内層コイルが、当該外層コイルの形成する主磁場を補強する補強用コイルに加え、前記外層コイルが励磁された状態で前記補強用コイルの励磁が立上がる時に当該外層コイルに発生する誘導電圧を低下させる向きに励磁される電磁誘導抑制用コイルを含むので、前記外層コイルの励磁が完了してから前記内層コイルにおける補強用コイル及び電磁誘導抑制用コイルの双方の励磁を開始した後、当該補強用コイルの励磁の進行により前記外層コイルに生ずる誘導電圧を前記電磁誘導抑制用コイルの励磁により抑制することができる。このことは、当該内層コイルの励磁速度を高めながら、外層コイル側の誘導電圧の発生を抑えることを可能にする。つまり、外層コイル励磁用の電源に求められる電圧容量を小さく抑えながら内層コイルの迅速な立上げを行うことを可能にする。
【0013】
前記電磁誘導抑制用コイルとしては、前記外層コイルの軸方向中央位置を通る赤道面を挟んで軸方向両側となる位置であって前記補強用コイルよりも前記外層コイルの赤道面から両軸端側にそれぞれ離れた位置に設けられる複数の軸端側コイルを含むものが、好適である。これらの軸端側コイルが前記補強用コイルよりも前記外層コイルの赤道面から両軸端側に離れている分、当該軸端側コイルが前記主磁場に与える影響を小さくすることができる。
【0014】
ここで、前記各軸端側コイルは、前記補強用コイルの軸方向両端の位置よりも軸方向内側の位置から前記外層コイルの軸方向両端の位置までの範囲内に設けられていることが、より好ましい。この配置は、各軸端側コイルが外層コイルの軸端よりも外側にはみ出さない範囲で当該軸端側コイルの位置をなるべく当該軸端側にシフトさせながら当該軸端側コイルの軸長を大きく確保することを可能にする。つまり、各軸端側コイルが前記外層コイルの両軸端間の範囲内に収まるコンパクトな構造を維持しながら、各軸端側コイルによる電磁誘導抑制効果の確保と、当該軸端側コイルが主磁場に与える影響の抑制とを両立させることができる。
【0015】
前記電磁誘導抑制用コイルは、前記軸端側コイルに加え、前記赤道面を含む位置に設けられて前記空間に形成される磁場を軸方向に均一化させる磁場を形成する補正用コイルを含んでいてもよい。この補正用コイルは、主磁場均一用コイルと電磁誘導抑制用コイルとに兼用されることになる。
【0016】
また、前記電磁誘導抑制用コイルは、前記赤道面を境として軸方向に対称となる位置に配設されていることが、より好ましい。この配置は、軸方向についての主磁場の偏りを抑制する。
【0017】
また、前記電磁誘導抑制用コイルは、前記補強用コイルよりも径方向外側の位置に配設されていることが、好ましい。この配置は、当該電磁誘導抑制用コイルの形成する磁場が主磁場に与える影響をより低く抑える。
【0018】
前記補強用コイル及び前記電磁誘導抑制用コイルは、共通の超電導線材により構成され、かつ、共通の電源に接続可能となるように互いに直列につながっていることが、より好ましい。このような接続は、共通の電源を用いながら主磁場の補強と外層コイルに発生する誘導電圧の抑制との双方を同時に実行することを可能にする。
【0019】
そのための具体的構成として、例えば、前記補強用コイル及び前記電磁誘導抑制用コイルを互いに逆巻きとすれば、これらのコイルに同じ方向から電流を流しながら前記主磁場の補強と前記誘導電圧の抑制とを同時に実現することができる。
【0020】
本発明は、特に、前記補強用コイル及び前記電磁誘導抑制用コイルが前記外層コイルを構成する超電導線材よりも臨界磁場の高い超電導線材により構成されるものに、好適である。このような超電導電磁石は、前記外層コイルに接続され、当該外層コイルを励磁する外層コイル用電源と、前記補強用コイル及び前記電磁誘導抑制用コイルに接続され、これらの補強用コイル及び前記電磁誘導抑制用コイルを同時に励磁する内層コイル用電源とともに、簡素な構成で強磁場を形成することが可能な超電導磁場形成装置を構成することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明では、補強用コイルと電磁誘導抑制コイルとを含む内層コイルが、外層コイルにより形成される主磁場を補強する磁場に加え、当該内層コイルの立上げ時に外層コイルに発生する誘導電圧を抑制するための磁場を形成するので、外層コイルの電源の電圧容量を特に大きくすることなく、その励磁終了後に内層コイルを迅速に立ち上げることを可能にして作業効率を高めることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る超電導マグネット20と、これを臨界温度以下に保冷するための保冷容器10とを備えた超電導磁場形成装置を示したものである。
【0024】
前記保冷容器10は、試料空間11を囲むドーナツ状の全体形状を有し、液体ヘリウム槽12と、この液体ヘリウム槽12を収容する液体窒素槽14と、この液体窒素槽14を収容する真空容器16とを備える。液体ヘリウム槽12内には、保冷用の冷媒である液体ヘリウム18が収容され、この液体ヘリウム18内に前記超伝導マグネット20が浸漬される。液体窒素槽14は、前記液体ヘリウム槽12を収容する収容部と、この収容部を囲んで液体窒素19を収容する保冷部とを有する。前記液体ヘリウム槽12及び前記液体窒素槽14の保冷部からはそれぞれ上向きに首管12a,14aが延び、これら首管12a,14aの上端が前記真空容器16の天壁に接合されている。
【0025】
前記超電導マグネット20は、所定の中心軸回りに超電導線材が巻回される複数の超電導コイルを備える。具体的には、前記試料空間11に主磁場を形成するための外層コイル21と、この外層コイル21よりも径方向内側の位置に配設される内層コイル22とを備える。これらのコイル21,22の中心軸はともに前記試料空間11の中心軸に合致している。
【0026】
前記外層コイル21は、所定の巻枠21aに超電導線材が巻付けられたものである。この超電導線材の具体的な種類は特に問わないが、一般に使用されている金属系超電導線材、例えばNbTi超電導線材や、NbSn超電導線材が用いられることが、コスト上好ましい。この外層コイル21の超電導線材には、図2に示すような外層コイル用電源31が接続される。図例では、前記外層コイル用電源31が前記第1の超電導線材に電流を流すことにより前記試料空間11に上向きの主磁場が形成されるように、当該第1の超電導線材の巻方向が設定されている。前記試料空間11内では、前記外層コイル21の軸方向中央位置に対応する位置に図1に示すような磁場中心Pが存在する。
【0027】
前記内層コイル22は、補強用コイル23と、電磁誘導抑制用コイル24とを含む。これらのコイル23,24は、それぞれ別の巻枠23a,24aに超電導線材が巻回されることにより構成されているが、その超電導線材には同種のものが用いられている。この超電導線材としては、前記外層コイル21を構成する超電導線材よりも臨界磁場の高いものが好ましく、例えばNbAl超電導線材や酸化物超電導線材が好適である。
【0028】
前記補強用コイル23は、前記主磁場と同じ向きの磁場を形成して当該主磁場を補強する正コイルである。この補強用コイル23は、この実施の形態では、その軸方向中央位置が前記外層コイル21の軸方向中央位置と合致するように配置されている。換言すれば、前記外層コイル21の赤道面、すなわち、前記磁場中心Pを通る水平面を境にして軸方向に対称(図では上下対称)となる位置に設けられている。
【0029】
前記電磁誘導抑制用コイル24は、上下一対の軸端側コイル26により構成される。これらの軸端側コイル26は、前記主磁場と逆向きの磁場を形成する負コイルであり、その磁場は、前記外層コイル21が励磁された状態で前記補強用コイル23の励磁が立上がる時に両コイル21,23間の電磁誘導によって当該外層コイル21に発生する誘導電圧を低下させる(より好ましくは消滅させる)。これらの軸端側コイル26は、前記外層コイル21の赤道面を挟んで軸方向両側となる位置であって前記補強用コイルよりも前記外層コイルの赤道面から両軸端側にそれぞれ離れた位置に設けられる。
【0030】
この実施の形態では、共通の巻枠24aの上下部分にそれぞれ前記超電導線材が巻き付けられることにより、前記各軸端側コイル26が、前記補強用コイル23の軸方向両端の位置よりも軸方向内側の位置から前記外層コイル21の軸方向両端(上下端)の位置までの範囲内に構築され、かつ、前記外層コイル21の赤道面を境にして軸方向に対称(図では上下対称)となる位置に配されている。
【0031】
ここで、前記巻枠24aは、前記巻枠23aよりも径方向外側の位置、すなわち前記巻枠23aと前記巻枠21aの間の位置に設けられている。従って、前記両軸端側コイル26からなる電磁誘導抑制用コイル24は前記補強用コイル23よりも径方向外側の位置に構築されている。
【0032】
図2に示されるように、前記補強用コイル23及び両軸端側コイル26は、互いに直列に配されて共通の内層コイル用電源32に接続されている。そして、この内層コイル用電源32が前記各コイル23,26,26に直流に電流を流すことにより、前記補強用コイル23が前記主磁場と同じ向きの正磁場を形成すると同時に前記各軸端側コイル26が前記主磁場と逆向きの負磁場を形成するように、各コイル23,26,26における超電導線材の巻方向が設定されている。この実施の形態では、前記補強用コイル23と前記両軸端側コイル26が互いに逆巻きとされている。従って、これらのコイル23,26に対して同じ側(例えば上側)から電流が流されるように当該コイル23,26が前記内層コイル用電源32に接続されている。
【0033】
なお、前記外層コイル用電源31には前記外層コイル21と並列に外層コイル保護用抵抗33が接続されている。同様に、前記内層コイル用電源32には前記補強用コイル23及び両軸端側コイル26と並列に内層コイル保護用抵抗34が接続されている。
【0034】
次に、この超電導磁場形成装置を用いた磁場形成方法(特に同装置の立上げ運転方法)について説明する。
【0035】
この装置では、外層コイル21の自己インダクタンスが内層コイル22のそれよりも著しく大きいため、まず外層コイル21の立上げが行われる。具体的には、外層コイル用電源31から外層コイル21への給電により当該外層コイル21の励磁が開始される。この励磁速度は、前記外層コイル21の自己インダクタンスを踏まえて所定速度以下に抑えられる。
【0036】
前記外層コイル21の励磁が完了した後、続いて内層コイル22の励磁が開始される。具体的には、内層コイル用電源32から補強用コイル23及び両軸端側コイル26に同時に給電が行われる。このとき、当該内層コイル22は前記補強用コイル23に加えて電磁誘導抑制用コイル24である両軸端側コイル26を含んでいるため、前記外層コイル21の電源の電圧容量を特に大きくすることなく内層コイル22の励磁速度を高く設定することが可能であり、このことが超電導マグネット20の立上げの総所要時間を短縮して運転効率を高める。
【0037】
具体的に、前記内層コイル22が電磁誘導抑制用コイル24を具備しない従来装置では、その内層コイル22の励磁速度を高めると、その分だけ外層コイル21と内層コイル22との間の相互インダクタンスが外層コイル21に生じさせる誘導電圧が大きくなってしまう。このことは、当該励磁速度を抑えるか、もしくは外層コイル21の電源の電圧容量を大きくすることを必要にする。これに対し、図1及び図2に示される磁場形成装置では、補強用コイル23が前記主磁場を補強する一方で、電磁誘導抑制用コイル24を構成する両軸端側コイル26が前記主磁場と逆向きの負磁場を形成することにより、前記外層コイル21に生ずる誘導電圧を低下させるため、前記外層コイル21の電源の電圧容量を抑えながら内層コイル22の励磁速度を高めることが可能である。
【0038】
前記両軸端側コイル26(電磁誘導抑制用コイル24)による前記誘導電圧の低下度合いは、その位置や巻数、電流の大きさの設定等により自由に変更することが可能であり、その設定によっては、前記外層コイル21における誘導電圧を実質的に消滅させることも可能である。しかも、この実施の形態に係る軸端側コイル26は、前記補強用コイル23よりも径方向外側の位置にあり、また、当該補強用コイル23よりも外層コイル21の赤道面から軸端側に離れた位置にあるので、当該軸端側コイル26が形成する負磁場が主磁場に与える影響を極力抑えることが可能である。
【0039】
本発明の第2の実施の形態を図3および図4に示す。この実施の形態では、内層コイル22における電磁誘導抑制用コイル24が、前記第1の実施の形態に示される両軸端側コイル26に加え、補正用コイル28を含み、この補正用コイル28も含めて内層コイル22を構成するコイル23,26,28が全て共通の内層コイル用電源32に直列に接続されている。
【0040】
前記補正用コイル28は、前記補強用コイル23のすぐ外側の位置で前記外層コイル21の赤道面を含む位置(図では赤道面を境として上下対称の位置)に配設され、その位置で前記両軸端側コイル26と同じく負磁場を形成する。そして、この負磁場が前記磁場中心P付近での主磁場を軸方向に均一化する方向に補正するように、当該補正用コイル28が設計されている。つまり、この補正用コイル28は、主磁場の補正をするための補正用コイルと、外層コイル21での誘導電圧を低下させる電磁誘導抑制用コイルとして兼用されるものである。この第2の実施の形態は、主磁場の強さよりも軸方向の均一性が要求される場合に特に好適となる。
【0041】
前記補正用コイル28の存在は、前記両軸端側コイル26の必要長さ及び巻数を削減する。この補正用コイル28が存在する場合は特に、前記両軸端側コイル26が主磁場に与える影響を抑えるべく、これら軸端側コイル26の位置が前記赤道面から前記外層コイル21の両軸端側に離れていることが好ましい。
【0042】
なお、この第2の実施の形態では、前記外層コイル21も、そのメインコイル25に加えてさらに外側に補正用のコイル27を具備している。このように、外層コイル21の具体的構成は本発明において特に限定されない。
【0043】
本発明の第3の実施の形態を図5に示す。この実施の形態では、外層コイル21の両軸端が内層コイル22の両軸端側コイル26の軸端よりも十分外側(軸方向の外側)に位置している。このように、外層コイル21の軸長は、求められる主磁場の大きさ等に応じて適宜設定が可能である。超電導マグネット20全体のコンパクト化のためには、両軸端側コイル26が前記外層コイル21の全長の範囲内(すなわちその軸端よりも内側の範囲内)に設けられることが、好ましい。
【0044】
本発明の第4の実施の形態を図6に示す。この実施の形態では、前記図1に示される超電導マグネット20が無冷媒式の保冷容器10′内に収容されている。
【0045】
前記保冷容器10′は、前記図1に示される液体ヘリウム槽12および液体窒素槽14に代えて真空容器16内に保冷槽17を備え、この保冷槽17内に前記超電導マグネット20を収容する。前記真空容器16には2段式の冷凍機40が設置されている。この冷凍機40は、第1冷却ステージ41と、この第1冷却ステージ41よりも運転温度の低い第2冷却ステージ42とを有し、前記第1冷却ステージ41が熱伝導可能に前記保冷槽17に接続され、第2冷却ステージ42が冷却バス(熱伝導媒体)44を介して前記超電導マグネット20の各コイル21,23,24に熱伝導可能に接続されている。
【0046】
このように、本発明では、超電導マグネット20を補正するための手段を問わない。また、高温超電導体からなる超電導マグネットにも本発明の適用が可能である。
【実施例1】
【0047】
図1及び図2に示される装置について、各コイルのパラメータが表1に示されるように設定される。
【0048】
【表1】

【0049】
なお、外層コイル21は径方向に3つのコイルが積層されることにより構成されている。この外層コイル21は、試料空間11内に7T(テスラ)の主磁場を形成することが可能である。この外層コイル21の自己インダクタンスは49.7H(ヘンリー)であり、定格の7Tまで20分で外層コイル21を励磁すると、3.5Vの励磁電圧が発生することになる。この励磁は、電源ケーブルでの発生電圧を見込んでも、外層コイル用電源31が5Vの電圧容量を有していれば十分に可能である。
【0050】
内層コイル22のうち、正コイルである補強用コイル23が形成する正磁場は0.524Tであり、当該補強用コイル23と外層コイル21との相互インダクタンスは0.90Hである。一方、負コイルである軸端側コイル26は前記補強用コイル23よりも赤道面から遠いので、この軸端側コイル26が磁場中心Pに形成する磁場は−0.1244Tである。よって内層コイル22全体が前記磁場中心Pで形成する磁場(補強磁場)は差し引き+0.4Tであり、外層コイル21との相互インダクタンスは0.005Hとなる。このような僅かな相互インダクタンスは、内層コイル22をわずか2秒で励磁したとしても外層コイル21に3.6V程度の誘導電圧しか生じさせない。仮に前記軸端側コイル26が存在しないとすると、前記外層コイル21を2秒で励磁した場合に同コイル21には47.5Vもの誘導電圧が発生してしまう。
【0051】
参考として、負コイルである両軸端側コイル26の位置(赤道面から軸端位置までの距離Pz)と、その位置に設定したときに誘導電圧を消滅させるのに必要な当該軸端側コイル26のコイル長さと、各コイル23,26がそれぞれ形成する磁場の大きさとの関係を図7のグラフに示す。この図7は、負コイルである軸端側コイル26が赤道面に近づくほど(すなわちPzが小さいほど)当該コイル26が磁場中心Pに形成する磁場が大きくなること、それに対応して正コイルである補強用コイル23の磁場を増強させなければならないこと、を示している。このことは、軸端側コイル26が赤道面から離れているのが望ましいことを意味する。しかし、その距離が大きすぎると軸端側コイル26の必要長さ(図中破線)が著しく増大するので、これらの点を考慮したコイル設計が望ましい。
【実施例2】
【0052】
図3及び図4に示される装置について、各コイルのパラメータが表2に示されるように設定される。
【0053】
【表2】

【0054】
ここでも、外層コイル21のメインコイル25は径方向に3つのコイルが積層されることにより構成されている。この外層コイル21も、試料空間11内に7T(テスラ)の主磁場を形成することが可能である。内層コイル22に含まれる補正用コイル28は、磁場中心Pを中心とする直径50mmの空間内での磁場の均一度を0.1%まで高める。内層コイル22と外層コイル21との間の相互インダクタンスは3.6mHまで抑えられ、内層コイル22をわずか1秒で励磁したとしても外層コイル21に発生する誘導電圧は0.3Vに収まる。
【実施例3】
【0055】
図5に示される装置について、各コイルのパラメータが表1に示されるように設定される。
【0056】
【表3】

【0057】
ここでも、外層コイル21は径方向に3つのコイルが積層されることにより構成されており、形成可能な磁場の大きさも7Tであるが、その軸長は実施例1の倍の600mmである。この外層コイル21は、試料空間11内に7T(テスラ)の主磁場を形成することが可能である。内層コイル22が形成する磁場の大きさは総じて0.5Tである。
【0058】
この実施例3について、前記図7に示されるグラフに相当するグラフを図8に示す。このグラフは、Pzが150mm以上の領域で負コイルである軸端側コイル26の必要長さが激増し、逆にPzが150mm未満の領域で同コイル26が形成する磁場が急に大きくなることを示している。このことから、実施例3ではPzが150mmに設定されている。この実施例3において、内層コイル22と外層コイル21との相互インダクタンスは9mHなので、内層コイル22を僅か1秒で励磁しても外層コイル21に発生する誘導電圧は0.94Vに収まる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る超電導磁場発生装置の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る超電導磁場発生装置の回路図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る超電導磁場発生装置のコイル配置を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る超電導磁場発生装置の回路図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る超電導磁場発生装置のコイル配置を示す図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態に係る超電導磁場発生装置の断面図である。
【図7】実施例1についての軸端側コイルの位置と発生磁場の大きさ及び必要コイル長さとの関係を示すグラフである。
【図8】実施例3についての軸端側コイルの位置と発生磁場の大きさ及び必要コイル長さとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
P 磁場中心
10,10′保冷容器
11 試料空間
20 超電導マグネット
21 外側コイル
22 内層コイル
23 補強用コイル
24 電磁誘導抑制用コイル
26 軸端側コイル
28 補正用コイル
31 外層コイル用電源
32 内層コイル用電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の中心軸回りに超電導線材が巻回されることにより構成される超電導コイルを備え、当該超電導コイルの励磁により当該超電導コイルの内側の空間に磁場を形成する超電導電磁石であって、
前記超電導コイルとして、前記空間に主磁場を形成するための外層コイルと、この外層コイルと中心軸が合致する位置であって当該外層コイルよりも径方向内側の位置に配設され、当該外層コイルとは別個に励磁される内層コイルとを備え、
前記内層コイルは、前記主磁場を補強する向きに励磁される補強用コイルと、前記外層コイルが励磁された状態で前記補強用コイルの励磁が立上がる時に当該外層コイルに発生する誘導電圧を低下させる向きに励磁される電磁誘導抑制用コイルと、を含むことを特徴とする超電導電磁石。
【請求項2】
請求項1記載の超電導電磁石において、
前記電磁誘導抑制用コイルは、前記外層コイルの軸方向中央位置を通る赤道面を挟んで軸方向両側となる位置であって前記補強用コイルよりも前記外層コイルの赤道面から両軸端側にそれぞれ離れた位置に設けられる複数の軸端側コイルを含むことを特徴とする超電導電磁石。
【請求項3】
請求項2記載の超電導電磁石において、
前記各軸端側コイルは、前記補強用コイルの軸方向両端の位置よりも軸方向内側の位置から前記外層コイルの軸方向両端の位置までの範囲内に設けられていることを特徴とする超電導電磁石。
【請求項4】
請求項2または3記載の超電導電磁石において、
前記電磁誘導抑制用コイルは、前記軸端側コイルに加え、前記赤道面を含む位置に設けられて前記空間に形成される磁場を軸方向に均一化させる磁場を形成する補正用コイルを含むことを特徴とする超電導電磁石。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の超電導電磁石において、
前記電磁誘導抑制用コイルは、前記赤道面を境として軸方向に対称となる位置に配設されていることを特徴とする超電導電磁石。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の超電導電磁石において、
前記電磁誘導抑制用コイルは、前記補強用コイルよりも径方向外側の位置に配設されていることを特徴とする超電導電磁石。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の超電導電磁石において、
前記補強用コイル及び前記電磁誘導抑制用コイルは、共通の超電導線材により構成され、かつ、共通の電源に接続可能となるように互いに直列につながっていることを特徴とする超電導電磁石。
【請求項8】
請求項7記載の超電導電磁石において、前記補強用コイル及び前記電磁誘導抑制用コイルが互いに逆巻きであることを特徴とする超電導電磁石。
【請求項9】
請求項7または8記載の超電導電磁石において、前記補強用コイル及び前記電磁誘導抑制用コイルは、前記外層コイルを構成する超電導線材よりも臨界磁場の高い超電導線材により構成されることを特徴とする超電導電磁石。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の超電導電磁石と、
前記外層コイルに接続され、当該外層コイルを励磁する外層コイル用電源と、
前記補強用コイル及び前記電磁誘導抑制用コイルに接続され、これらの補強用コイル及び前記電磁誘導抑制用コイルを同時に励磁する内層コイル用電源と、を備えたことを特徴とする超電導磁場形成装置。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の超電導電磁石を用いて磁場を形成する方法であって、
前記超電導電磁石の外層コイルを励磁して主磁場を形成する工程と、
前記外層コイルの励磁完了後、前記内層コイルにおける補強用コイル及び電磁誘導抑制用コイルの双方の励磁を開始し、当該補強用コイルの励磁の進行により前記外層コイルに生ずる誘導電圧を前記電磁誘導抑制用コイルの励磁により抑制しながら当該補強用コイル及び当該電磁誘導抑制用コイルの励磁の完了に至る工程と、
を含むことを特徴とする超電導電磁石を用いた磁場形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−9987(P2009−9987A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167372(P2007−167372)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】