超音波を用いた欠陥識別方法及び欠陥識別装置
【課題】低圧蒸気タービンホイールの超音波検査において、反射波が得られた場合に、超音波の反射体が割れ等の欠陥なのか錆等の欠陥以外のものかを識別する。
【解決手段】タービンホイールに探触子を押し付けた状態で探触子保持具をタービンシャフトの回りに回転させて、タービンホイールの中心軸からの距離、および、首振り角度を一定に保った状態で探触子を走査することにより、エンコーダから発するパルス信号に基づいて超音波波形と探触子位置を記憶部に自動収録する。反射波が得られた場合には、孤立波形の路程変化に基づく第一の識別結果と、波群の路程変化に基づく第二の識別結果を相互相関処理部で算出して表示し、第一の識別結果と第二の識別結果を総合して欠陥と錆を識別する。
【解決手段】タービンホイールに探触子を押し付けた状態で探触子保持具をタービンシャフトの回りに回転させて、タービンホイールの中心軸からの距離、および、首振り角度を一定に保った状態で探触子を走査することにより、エンコーダから発するパルス信号に基づいて超音波波形と探触子位置を記憶部に自動収録する。反射波が得られた場合には、孤立波形の路程変化に基づく第一の識別結果と、波群の路程変化に基づく第二の識別結果を相互相関処理部で算出して表示し、第一の識別結果と第二の識別結果を総合して欠陥と錆を識別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠陥の有無を超音波を用いて検査する超音波検査方法とその検査装置に係り、特に比較的低圧で用いられる蒸気タービンの羽根車翼植込部の欠陥検査に好適な、タービン翼植込部の欠陥識別方法及び欠陥識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造体の内部に存在する欠陥を非破壊で検査する検査装置の代表例に超音波検査装置があり、完成品の欠陥検査に重用されている。
【0003】
例えば、タービン発電プラントでは、稼働時、タービンホイールの周辺にある翼植込部に大きな応力が働き、この応力は低圧タービン側の翼植込部におけるフック部で特に著しくなるので、定期検査時に、この部分の健全性を評価する必要がある。
【0004】
一方、プラントの稼働率向上の観点からは、定期検査期間の短縮が強く要求されるので、この翼植込部の健全性評価には、検査に際してタービンホイールから動翼を抜き取る必要のない超音波検査が採用されることが多い。
【0005】
ここで、図12Aは、一般的な蒸気タービンホイールの翼植込部を対象とした超音波検査装置の一例における走査機構部の概要を示す動翼も含めた断面図であり、図12Bは動翼を除いて示した正面図である。これらの図において、1はタービンホイール、2はタービンシャフト、3bは探触子保持具、9は探触子、それに30は動翼であり、破線10はこのときの超音波の経路を示す。
【0006】
この超音波検査装置では、1個、又は2個の探触子9を探触子保持具3bに取付けた上でタービンホイール1に押付け、タービンシャフト2の中心軸Oから探触子9までの距離Zと、探触子9の首振り角度θを一定に保ったまま探触子保持具3b全体をタービンシャフト2の周囲に沿って移動させ、これにより探触子9でタービンホイール1の翼植込部の全領域を走査する。
【0007】
探触子9は超音波の発振子と超音波の検出子を兼ねていて、探触子9から所定の時間間隔で超音波10のパルスを発射させ、パルス発射の都度、予め定めておいた時間ゲート内に反射波が検出されなければ翼植込部は健全であると判断し、反射波が現われたときは翼植込部に割れ等の欠陥が存在する可能性があると判断する。
【0008】
このような超音波検査方法の従来技術としては、例えば特許文献1、特許文献2を挙げることができるが、これらの方法では、タービンホイールの翼植込部に反射波が現われた場合、タービンホイールから一旦動翼を抜取り、目視するなどして、超音波の反射が割れ等の欠陥によるものなのか、錆や腐食痕など欠陥以外のものによるものかを判断している。このときの超音波の反射が本当の欠陥によるものであったときは、磁粉探傷などにより更に詳細な検査を実施するが、錆や腐食痕などの本当の欠陥以外のものであった場合は、次回定期検査時まではそのまま稼働させ、次回定期検査時に、更に詳細な検査を実施するようにする場合が多い。
【0009】
従って、これら特許文献1、特許文献2等に記載のタービンホイールの翼植込部の超音波検査では、被検査部に発生した錆から反射波が得られた場合に、反射体が欠陥か錆かを識別するために動翼を抜取る作業が必要となり検査に時間を要する。
【0010】
そこで、例えば特許文献3、特許文献4、特許文献5では、タービンホイールの翼植込部に反射波が現われた場合でも、動翼を抜き取ることなく、反射体(超音波を反射している部分)が割れなどの欠陥であるか、或いは錆や腐食痕など特に欠陥と見る必要のないものであるのか判断する方法について開示している。
【0011】
特許文献3、特許文献4の方法は、超音波探触子が或る位置にあるとき所定の時間ゲート内で受信し収録した反射波の波形と、他の位置で同じく時間ゲート内で受信し収録した反射波の波形を相互相関処理して相関係数を算出し、相関係数が予め定めておいた所定の閾値より大きい場合には、その翼植込部に欠陥があると判断し、閾値より小さい場合には欠陥以外のものであると判断する。
【0012】
一方、特許文献5の方法では、ビーム路程後方に尾引きを持つ指示反射波が確認されない場合には錆や孔食による反射波であると判断する。また、ロータホイールを挟む位置にある超音波探触子から得られたBスコープを参照して、割れ欠陥を示す指示反射波のピーク位置が第1フック部を示す帯状の反射波上にあるか否かを判定することにより、その割れ欠陥の大きさが第1フックを貫通するか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平1−161145号公報
【特許文献2】特開平7−244024号公報
【特許文献3】特開平10−267902号公報
【特許文献4】特開2002−310999号公報
【特許文献5】特開2002−148243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記従来技術のうち、特許文献3、特許文献4の方法は、小さな割れ(フックを貫通しない割れ)と錆を識別するのに適した方法であるのに対して、大きな割れと錆ではむしろ識別精度が劣るという問題があった。一方、特許文献5の方法は、大きな割れと錆を識別するのに適した方法であるが、小さな割れ(フックを貫通しない割れ)と錆を識別することが難しく、また評価の自動化には触れられていない。
【0015】
本発明の目的は、欠陥の大きさにかかわらず、錆と欠陥を自動的に識別できる超音波を用いた欠陥識別方法及び識別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、タービン翼植込部に探触子を用いて超音波を入射し、所定時間ゲート内に受信した反射波に基づいてタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行う超音波を用いた欠陥識別方法において、前記反射波のBスコープ上における孤立波形の移動する傾きに沿って第一の特徴量を算出し、波群の移動する傾きに沿って第二の特徴量を算出し、前記第一の特徴量と第二の特徴量の組合わせによりタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする。
【0017】
また、前記第一の特徴量が所定のしきい値を越えた場合と、前記第二の特徴量が所定のしきい値を越えた場合のいずれかの場合に、錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする。
【0018】
また、前記第一の特徴量と、前記第二の特徴量に所定の重み演算処理を行って、錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする。
【0019】
また、前記第一の特徴量として相関係数を用いることを特徴とする。相関係数としては、探触子移動距離を変数とする反射波相互の相関係数グラフの、所定の相関係数しきい値を越えた部分の長さを用いることができる。
【0020】
また、前記第二の特徴量として、振幅を用いることを特徴とする。振幅として、探触子移動距離を変数とする反射波の相対振幅グラフの、所定の相対振幅しきい値を越えた部分の長さを用いることが出来る。
【0021】
さらに、タービン翼植込部に探触子を用いて超音波を入射し、所定時間ゲート内に受信した反射波に基づいてタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行う欠陥識別装置において、超音波探触子を移動させるときにBスコープ上で前記反射波の孤立波形が移動する傾きに沿って第一の特徴量を算出し、前記反射波の波群が移動する傾きに沿って第二の特徴量を算出し、前記第一の特徴量と前記第二の特徴量の両方から錆と欠陥を識別する相互相関処理部と、前記相互相関処理部で識別した結果を表示する表示部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、超音波探触子を移動させるときに孤立波形の移動する傾きに沿って第一の特徴量を算出し、波群の移動する傾きに沿って第二の特徴量を算出し、前記第一の特徴量と前記第二の特徴量の両方から錆と欠陥を識別することにより、比較的簡便な探触子走査法によるタービン翼植込部の超音波検査において、動翼を抜き取ることなく超音波検査を行いながら、超音波の反射体が欠陥であるか欠陥以外のものであるかを、欠陥の大小によらず自動識別することができるので、検査の工程数削減と期間短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による超音波検査装置の一実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態における探触子を移動させたときの超音波検査装置が表示するBスコープの説明図である。
【図3A】割れ(小)による孤立波形反射波の説明図である。
【図3B】割れ(大)による波群反射波の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態における割れと錆を識別する方法を示すフローチャートである。
【図5A】探触子の位置座標と探触子の向く方向の直線の交点座標を説明する平面図である。
【図5B】探触子の位置座標と探触子の向く方向の直線の交点座標を説明する斜視図である。
【図6】タービンホイール翼植込部に超音波検査を適用した場合の割れと錆からの超音波反射の様子を示す説明図である。
【図7A】割れによる欠陥の場合の収録波形と相関処理結果の波形とを示した波形図である。
【図7B】錆による欠陥の場合の収録波形と相関処理結果の波形とを示した波形図である。
【図8】本発明の実施形態における表示画面の説明図である。
【図9A】試験体の翼植込部の頭頂部に錆が発生した状態の説明図である。
【図9B】試験体の翼植込部の第一段フックに割れ(小)が発生した状態の説明図である。
【図9C】試験体の翼植込部の第一段フックに割れ(大)が発生した状態状態の説明図である。
【図10A】本発明の実施形態における第一識別で錆のデータの処理結果の説明図である。
【図10B】本発明の実施形態における第一識別で割れ(小)のデータ処理結果の説明図である。
【図10C】本発明の実施形態における第一識別で割れ(大)のデータ処理結果の説明図である。
【図11A】本発明の実施形態における第二識別で錆のデータ処理結果の説明図である。
【図11B】本発明の実施形態における第二識別で割れ(小)のデータ処理結果の説明図である。
【図11C】本発明の実施形態における第二識別で割れ(大)のデータ処理結果の説明図である。
【図12A】従来技術によるタービンホイール翼植込部の超音波検査の概要を示す断面図である。
【図12B】従来技術によるタービンホイール翼植込部の超音波検査の概要を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明による超音波検査方法と超音波検査装置について、図示の実施の形態により詳細に説明する。
〔基本構成〕
図1は、本発明の一実施形態で、上記した従来技術の場合と同様、探触子9を探触子保持具3bに取付けた上でタービンホイール1に押付け、探触子保持具3bに設けられている車輪4a、4bによりタービンシャフト2の外周上を走行移動させて検査を行うように構成されている。このとき、探傷器12から探触子9にパルス電圧11aを印加してタービンホイール1の翼植込部に超音波10を入射し、これによる反射波を探触子9で受信して超音波信号11bを得、これを探傷器12で増幅する。
【0025】
従って、探触子保持具3a全体をタービンシャフト2の回りに移動させるだけで、タービンホイール1の中心軸からの距離と、首振り角度を一定に保った状態で探触子9を走査させることができ、この結果、探触子保持具3aを一旦取付けてしまえば、比較的簡便な操作でタービンホイール1の翼植込部の全周を検査することができる。
【0026】
探触子保持具3aにはエンコーダ5が設置してあり、探触子9がタービンシャフト2の外周面に沿って一定距離移動する毎にパルス信号6を発信する。そこで、A/D変換部15は、このパルス信号6を受信した直後、探傷器12のトリガ信号13に同期した超音波信号14をA/D変換する。このとき、トリガ信号13を受信した時点から変換を開始するまでの時間Tsと、変換の時間幅Twは予め設定してあり、このときの時間Tsから(Ts+Tw)までが時間ゲートである。
【0027】
位置読取部7では、超音波検査の開始時、位置信号8をリセットして0にしておき、以後、パルス信号6を受信する毎に位置信号8を1ずつ加算していき、位置信号8の数値とパルス信号6の積算値が等しくなるようにする。そして、位置読取部7で読み取った位置信号8と、A/D変換部15で変換したデジタル信号16を記憶部17に転送して自動的に記憶させる。このような構成とすることにより、探触子保持具3aの移動操作に追随して、超音波波形と探触子位置を自動的に収録することができる。
【0028】
反射波の有無判定部18では、時間幅Twのデジタル信号16の最大振幅を抽出して閾値と比較し、最大振幅が閾値より大きければ反射波があると判定し、小さければ反射波がないと判定する。判定結果19は記憶部17に転送されて、位置信号8、デジタル信号16と関連づけて記憶する。
【0029】
連続して二回反射波と判定した場合は、反射波形のデジタル信号21、22を相互相関処理部22で演算して相関係数23を算出する。反射体識別部26は、算出した相関係数を基に反射体が欠陥か欠陥以外のものかを自動識別し、識別結果25を表示部24で表示する。
〔探触子位置と超音波波形〕
ここで、探触子位置と超音波波形との関係について、図2、図3A、図3Bを用いて説明する。図2は、探触子を移動させたときの超音波検査装置により表示される、反射波の時間変化を深さ方向の断面図として平面に展開するBスコープの説明図である。図2の横軸は、探触子走査によって超音波が入射する位置のホイール最外周上の移動距離であって、縦軸は路程すなわち超音波の反射体までの距離である。
【0030】
ホイール全面に錆があって、小さな割れ(フックを貫通しない割れ)と大きな割れ(フックを貫通した割れ)が各1個ずつある場合の典型的なBスコープを模式的に示している。
【0031】
小さな割れの反射波の特徴は、超音波が入射する位置のホイール最外周上の移動距離に対して、孤立した反射波の路程がほぼ直線的に変化することである。これは、図3Aの割れの大きさによる反射波の説明図に示すとおり、探触子位置が(1)→(2)→(3)と変化するにつれて、割れまでの直線距離が変化し、波形がa1、a2、a3と相似形を保ちながら振幅が変化する現象による。
【0032】
一方で、大きな割れの反射波の特徴は、超音波が入射する位置のホイール最外周上の移動距離に対して、孤立した反射波の路程がほぼ直線的に変化するものが、例えば、a2、b1、c1というように同時に複数存在する多重反射波が発生し、波群として変化することである。波群としては、孤立した反射波よりも急峻な変化を示し、a、b、cの孤立反射波の振幅が入れ替わることから、相似性が低いという特徴があり、上述した特許文献3、特許文献4ではこのような大きな割れを識別することが困難である。
〔反射体の識別原理〕
本発明の実施形態において、初めに、タービンホイール翼植込部の全周からの超音波を一旦収録してから、反射体が欠陥か錆かを識別する原理について図4から図7Bを用いて説明する。
【0033】
図4は、割れと錆を識別する方法を示すフローチャートである。始めに、孤立波形の移動する傾きと波群の移動する傾きを、タービンホイール翼植込部の幾何学的形状と探触子の配置から算出する(波形傾斜:ステップS101)。
【0034】
図5Aは、探触子を移動させたときの探触子の位置座標と探触子の向く方向の直線の交点座標を説明する平面図を示し、図5Bは斜視図を示す。図5Bで、探触子位置A2から屈折した超音波がホイール最外周の点C2の方向に進むとする。超音波は指向性の影響によって広がるが、音軸上の振幅が最も大きいので、仮に点C2の位置に欠陥があると、探触子位置が点A2のときに最大の反射波振幅を示すことになる。このときの、路程は点A2と点C2の直線距離になる。探触子位置が点A1にあった場合、その路程は点A1と点C2の直線距離になる。従って孤立波形の路程変化はこの幾何学的な関係によって求めることができる。
【0035】
一方で、波群の路程変化は超音波がフック位置で多重反射することで生じ、その路程は、点A1と点F12の直線距離とほぼ一致することが、実験データとの照合で明らかとなった。点F12は、点E12からフック深さ分だけ下に移動した点であり、点E12は、探触子が点A1にあるときの音軸をxy平面に投影した直線と、点Oと点G2と結ぶ直線の交点で与えられる。以上の関係を数値的に求めることによって、ステップS101で孤立波形の移動する傾きと波群の移動する傾きを算出することができる。
【0036】
次に、図2のBスコープにおける、孤立波形の移動する傾きに沿った波形の類似度を表す第一の特徴量を算出する(第一識別:ステップS102)。探触子保持具3bをタービンホイール1に対して一回転走査すると、記憶部17に全周分の位置信号8、デジタル信号16、反射波の有無の判定結果19が収録される。ここで、連続して反射波があると判定した探触子位置をグループ化し、グループ内で振幅が最大となる探触子位置で収録した波形を基準波形とし、基準波形とグループ内の他の探触子位置で収録した波形とを相互相関処理する。
【0037】
図6は、探触子9により割れ等の欠陥からの反射波が得られた場合と、錆や腐食痕等の欠陥以外のものからの反射波が得られる場合の状況を模式的に示したものである。割れ27による場合では超音波の反射体が一箇所で位置が明確なため、図3A、図3Bに示すように比較的単純な波形となる。また、この場合は、探触子9の位置を点A1から点A2に変えても、路程(超音波の経路)が変化するだけで、受信波形に大きな変化はなく、波形が良く保存されることが判る。
【0038】
ゲートの時間幅をTw、点A1で収録した波形をX(t)、点A2で収録した波形をY(t)としたとき、X(t)とY(t)を時間τずらしたときの相関値R(τ)は、次の式(1)で表わされ、ここで時間τを動かし、−TwからTwまで変化させたときの相関値R(τ)の最大値を相関係数と呼ぶ。
【0039】
【数1】
【0040】
この相関係数は2波形の関連の深さを示す指標であり、反射体が欠陥の場合には図7Aに示すように大きな値をとる。これに対し、錆28では一塊になった明確な反射体は見られず、複数の小さな反射体がタービンホイール頭頂部表面で複雑に分布しているため、図7Bに示すように、複数の反射波が重畳した波形となる。また、この場合、探触子9の位置を点B1から点B2に変えると、複数の反射体からの反射波の強度比が変化するので、受信波形も変化してしまい波形が保存されない。従って、点B1で収録した波形と点B2で収録した波形から算出した相関係数は、図7Bに示すように小さな値をとる。
【0041】
最終的には、あるしきい値を越える振幅の反射波のグループの最大振幅の反射波を基準として、その基準波形と前後何点かの波形との相関係数を求め、超音波が入射する位置のホイール最外周上の移動距離と相関係数の関係をグラフ化し、相関係数が実験的に得られた所定のしきい値を越える距離の長さを、波形が得られた反射源が欠陥であるか否かを判定する指標とする。
【0042】
次に、図2のBスコープにおいて、波群の移動する傾きに沿った反射源の大きさを表す第二の特徴量を算出する(第二識別:ステップS103)。ステップS101で算出した波群の路程変化に沿って、ゲートbを移動させ、その中での最大振幅をサーチする。なお、ゲートbの幅は予めユーザが指定するか、記憶部17に定数として格納しておく。次に、探触子走査によって超音波が入射する位置のホイール最外周上の移動距離と、最大振幅の関係をグラフ化し、あるしきい値を越える距離の長さを指標とする。
【0043】
最後に、第一識別と第二識別の両方から錆と割れを識別する(総合識別:ステップS104)。これは、第一識別で得られた第一の特徴量の値と、第二識別で得られた第二の特徴量の値に重みをかけて演算することによって得られる。もしくは、第一識別で欠陥と識別するか、第二識別で欠陥と識別するかのいずれかの場合に、総合識別で欠陥と識別するような演算式とする。最終的には検査員は、図8の例に示すような超音波検査装置の表示画面で識別結果を判断することができる。
〔識別結果の事例〕
最後に、本発明の実施形態による効果を、錆、欠陥(小)、欠陥(大)の処理結果を例にとって、図9Aから図11Cを用いて説明する。
【0044】
図9Aは、翼植込部の頭頂部に錆が発生した状態の試験体の状態の説明図、図9Bは翼植込部の第一段フックに割れ(小)が発生した状態の試験体の状態の説明図、図9Cは翼植込部の第一段フックに割れ(大)が発生した状態の試験体の状態の説明図である。
【0045】
図10Aは、試験体の錆に対して、前述の第一識別処理を実施した結果を示す。図10Aは、図10Bの割れ(小)に比べて、相関係数が実験的に得られたしきい値0.6を超える距離が短く、両者を識別できることがわかる。一方で、図10Cの割れ(大)は、図10Aの錆よりもさらに相関距離が短く、錆との識別が困難である。
【0046】
図11Aは、試験体の錆に対して、前述の第二識別処理を実施した結果である。図11Aの錆は、実験的に得られたしきい値0.25を超える距離がゼロであるが、図11Bの割れ(小)も10mm以下と短く、錆と識別が困難なケースがある。一方で、図11Cの割れ(大)は比較的長い距離を示す。よって、第一識別と第二識別の各々の長所を合わせた総合識別によれば、欠陥の大きさによらず、錆と欠陥を自動識別することが可能になる。
【符号の説明】
【0047】
1…タービンホイール、2…タービンシャフト、5…エンコーダ、6…パルス信号、7…位置読取り部、8…位置信号、9…探触子、10…超音波(経路)、11a…パルス信号、11b…超音波信号、12…探傷器、13…トリガ信号、14…超音波信号、15…A/D変換部、16…デジタル信号、17…記憶部、18…相互相関処理条件設定部、19…相互相関処理間隔、20、21…デジタル信号、22…相互相関処理部、23…相関係数、24…反射体識別部、25…反射体識別条件、26…識別結果、27…表示部、28…割れ、29…錆、30…動翼
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠陥の有無を超音波を用いて検査する超音波検査方法とその検査装置に係り、特に比較的低圧で用いられる蒸気タービンの羽根車翼植込部の欠陥検査に好適な、タービン翼植込部の欠陥識別方法及び欠陥識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造体の内部に存在する欠陥を非破壊で検査する検査装置の代表例に超音波検査装置があり、完成品の欠陥検査に重用されている。
【0003】
例えば、タービン発電プラントでは、稼働時、タービンホイールの周辺にある翼植込部に大きな応力が働き、この応力は低圧タービン側の翼植込部におけるフック部で特に著しくなるので、定期検査時に、この部分の健全性を評価する必要がある。
【0004】
一方、プラントの稼働率向上の観点からは、定期検査期間の短縮が強く要求されるので、この翼植込部の健全性評価には、検査に際してタービンホイールから動翼を抜き取る必要のない超音波検査が採用されることが多い。
【0005】
ここで、図12Aは、一般的な蒸気タービンホイールの翼植込部を対象とした超音波検査装置の一例における走査機構部の概要を示す動翼も含めた断面図であり、図12Bは動翼を除いて示した正面図である。これらの図において、1はタービンホイール、2はタービンシャフト、3bは探触子保持具、9は探触子、それに30は動翼であり、破線10はこのときの超音波の経路を示す。
【0006】
この超音波検査装置では、1個、又は2個の探触子9を探触子保持具3bに取付けた上でタービンホイール1に押付け、タービンシャフト2の中心軸Oから探触子9までの距離Zと、探触子9の首振り角度θを一定に保ったまま探触子保持具3b全体をタービンシャフト2の周囲に沿って移動させ、これにより探触子9でタービンホイール1の翼植込部の全領域を走査する。
【0007】
探触子9は超音波の発振子と超音波の検出子を兼ねていて、探触子9から所定の時間間隔で超音波10のパルスを発射させ、パルス発射の都度、予め定めておいた時間ゲート内に反射波が検出されなければ翼植込部は健全であると判断し、反射波が現われたときは翼植込部に割れ等の欠陥が存在する可能性があると判断する。
【0008】
このような超音波検査方法の従来技術としては、例えば特許文献1、特許文献2を挙げることができるが、これらの方法では、タービンホイールの翼植込部に反射波が現われた場合、タービンホイールから一旦動翼を抜取り、目視するなどして、超音波の反射が割れ等の欠陥によるものなのか、錆や腐食痕など欠陥以外のものによるものかを判断している。このときの超音波の反射が本当の欠陥によるものであったときは、磁粉探傷などにより更に詳細な検査を実施するが、錆や腐食痕などの本当の欠陥以外のものであった場合は、次回定期検査時まではそのまま稼働させ、次回定期検査時に、更に詳細な検査を実施するようにする場合が多い。
【0009】
従って、これら特許文献1、特許文献2等に記載のタービンホイールの翼植込部の超音波検査では、被検査部に発生した錆から反射波が得られた場合に、反射体が欠陥か錆かを識別するために動翼を抜取る作業が必要となり検査に時間を要する。
【0010】
そこで、例えば特許文献3、特許文献4、特許文献5では、タービンホイールの翼植込部に反射波が現われた場合でも、動翼を抜き取ることなく、反射体(超音波を反射している部分)が割れなどの欠陥であるか、或いは錆や腐食痕など特に欠陥と見る必要のないものであるのか判断する方法について開示している。
【0011】
特許文献3、特許文献4の方法は、超音波探触子が或る位置にあるとき所定の時間ゲート内で受信し収録した反射波の波形と、他の位置で同じく時間ゲート内で受信し収録した反射波の波形を相互相関処理して相関係数を算出し、相関係数が予め定めておいた所定の閾値より大きい場合には、その翼植込部に欠陥があると判断し、閾値より小さい場合には欠陥以外のものであると判断する。
【0012】
一方、特許文献5の方法では、ビーム路程後方に尾引きを持つ指示反射波が確認されない場合には錆や孔食による反射波であると判断する。また、ロータホイールを挟む位置にある超音波探触子から得られたBスコープを参照して、割れ欠陥を示す指示反射波のピーク位置が第1フック部を示す帯状の反射波上にあるか否かを判定することにより、その割れ欠陥の大きさが第1フックを貫通するか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平1−161145号公報
【特許文献2】特開平7−244024号公報
【特許文献3】特開平10−267902号公報
【特許文献4】特開2002−310999号公報
【特許文献5】特開2002−148243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記従来技術のうち、特許文献3、特許文献4の方法は、小さな割れ(フックを貫通しない割れ)と錆を識別するのに適した方法であるのに対して、大きな割れと錆ではむしろ識別精度が劣るという問題があった。一方、特許文献5の方法は、大きな割れと錆を識別するのに適した方法であるが、小さな割れ(フックを貫通しない割れ)と錆を識別することが難しく、また評価の自動化には触れられていない。
【0015】
本発明の目的は、欠陥の大きさにかかわらず、錆と欠陥を自動的に識別できる超音波を用いた欠陥識別方法及び識別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、タービン翼植込部に探触子を用いて超音波を入射し、所定時間ゲート内に受信した反射波に基づいてタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行う超音波を用いた欠陥識別方法において、前記反射波のBスコープ上における孤立波形の移動する傾きに沿って第一の特徴量を算出し、波群の移動する傾きに沿って第二の特徴量を算出し、前記第一の特徴量と第二の特徴量の組合わせによりタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする。
【0017】
また、前記第一の特徴量が所定のしきい値を越えた場合と、前記第二の特徴量が所定のしきい値を越えた場合のいずれかの場合に、錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする。
【0018】
また、前記第一の特徴量と、前記第二の特徴量に所定の重み演算処理を行って、錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする。
【0019】
また、前記第一の特徴量として相関係数を用いることを特徴とする。相関係数としては、探触子移動距離を変数とする反射波相互の相関係数グラフの、所定の相関係数しきい値を越えた部分の長さを用いることができる。
【0020】
また、前記第二の特徴量として、振幅を用いることを特徴とする。振幅として、探触子移動距離を変数とする反射波の相対振幅グラフの、所定の相対振幅しきい値を越えた部分の長さを用いることが出来る。
【0021】
さらに、タービン翼植込部に探触子を用いて超音波を入射し、所定時間ゲート内に受信した反射波に基づいてタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行う欠陥識別装置において、超音波探触子を移動させるときにBスコープ上で前記反射波の孤立波形が移動する傾きに沿って第一の特徴量を算出し、前記反射波の波群が移動する傾きに沿って第二の特徴量を算出し、前記第一の特徴量と前記第二の特徴量の両方から錆と欠陥を識別する相互相関処理部と、前記相互相関処理部で識別した結果を表示する表示部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、超音波探触子を移動させるときに孤立波形の移動する傾きに沿って第一の特徴量を算出し、波群の移動する傾きに沿って第二の特徴量を算出し、前記第一の特徴量と前記第二の特徴量の両方から錆と欠陥を識別することにより、比較的簡便な探触子走査法によるタービン翼植込部の超音波検査において、動翼を抜き取ることなく超音波検査を行いながら、超音波の反射体が欠陥であるか欠陥以外のものであるかを、欠陥の大小によらず自動識別することができるので、検査の工程数削減と期間短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による超音波検査装置の一実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態における探触子を移動させたときの超音波検査装置が表示するBスコープの説明図である。
【図3A】割れ(小)による孤立波形反射波の説明図である。
【図3B】割れ(大)による波群反射波の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態における割れと錆を識別する方法を示すフローチャートである。
【図5A】探触子の位置座標と探触子の向く方向の直線の交点座標を説明する平面図である。
【図5B】探触子の位置座標と探触子の向く方向の直線の交点座標を説明する斜視図である。
【図6】タービンホイール翼植込部に超音波検査を適用した場合の割れと錆からの超音波反射の様子を示す説明図である。
【図7A】割れによる欠陥の場合の収録波形と相関処理結果の波形とを示した波形図である。
【図7B】錆による欠陥の場合の収録波形と相関処理結果の波形とを示した波形図である。
【図8】本発明の実施形態における表示画面の説明図である。
【図9A】試験体の翼植込部の頭頂部に錆が発生した状態の説明図である。
【図9B】試験体の翼植込部の第一段フックに割れ(小)が発生した状態の説明図である。
【図9C】試験体の翼植込部の第一段フックに割れ(大)が発生した状態状態の説明図である。
【図10A】本発明の実施形態における第一識別で錆のデータの処理結果の説明図である。
【図10B】本発明の実施形態における第一識別で割れ(小)のデータ処理結果の説明図である。
【図10C】本発明の実施形態における第一識別で割れ(大)のデータ処理結果の説明図である。
【図11A】本発明の実施形態における第二識別で錆のデータ処理結果の説明図である。
【図11B】本発明の実施形態における第二識別で割れ(小)のデータ処理結果の説明図である。
【図11C】本発明の実施形態における第二識別で割れ(大)のデータ処理結果の説明図である。
【図12A】従来技術によるタービンホイール翼植込部の超音波検査の概要を示す断面図である。
【図12B】従来技術によるタービンホイール翼植込部の超音波検査の概要を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明による超音波検査方法と超音波検査装置について、図示の実施の形態により詳細に説明する。
〔基本構成〕
図1は、本発明の一実施形態で、上記した従来技術の場合と同様、探触子9を探触子保持具3bに取付けた上でタービンホイール1に押付け、探触子保持具3bに設けられている車輪4a、4bによりタービンシャフト2の外周上を走行移動させて検査を行うように構成されている。このとき、探傷器12から探触子9にパルス電圧11aを印加してタービンホイール1の翼植込部に超音波10を入射し、これによる反射波を探触子9で受信して超音波信号11bを得、これを探傷器12で増幅する。
【0025】
従って、探触子保持具3a全体をタービンシャフト2の回りに移動させるだけで、タービンホイール1の中心軸からの距離と、首振り角度を一定に保った状態で探触子9を走査させることができ、この結果、探触子保持具3aを一旦取付けてしまえば、比較的簡便な操作でタービンホイール1の翼植込部の全周を検査することができる。
【0026】
探触子保持具3aにはエンコーダ5が設置してあり、探触子9がタービンシャフト2の外周面に沿って一定距離移動する毎にパルス信号6を発信する。そこで、A/D変換部15は、このパルス信号6を受信した直後、探傷器12のトリガ信号13に同期した超音波信号14をA/D変換する。このとき、トリガ信号13を受信した時点から変換を開始するまでの時間Tsと、変換の時間幅Twは予め設定してあり、このときの時間Tsから(Ts+Tw)までが時間ゲートである。
【0027】
位置読取部7では、超音波検査の開始時、位置信号8をリセットして0にしておき、以後、パルス信号6を受信する毎に位置信号8を1ずつ加算していき、位置信号8の数値とパルス信号6の積算値が等しくなるようにする。そして、位置読取部7で読み取った位置信号8と、A/D変換部15で変換したデジタル信号16を記憶部17に転送して自動的に記憶させる。このような構成とすることにより、探触子保持具3aの移動操作に追随して、超音波波形と探触子位置を自動的に収録することができる。
【0028】
反射波の有無判定部18では、時間幅Twのデジタル信号16の最大振幅を抽出して閾値と比較し、最大振幅が閾値より大きければ反射波があると判定し、小さければ反射波がないと判定する。判定結果19は記憶部17に転送されて、位置信号8、デジタル信号16と関連づけて記憶する。
【0029】
連続して二回反射波と判定した場合は、反射波形のデジタル信号21、22を相互相関処理部22で演算して相関係数23を算出する。反射体識別部26は、算出した相関係数を基に反射体が欠陥か欠陥以外のものかを自動識別し、識別結果25を表示部24で表示する。
〔探触子位置と超音波波形〕
ここで、探触子位置と超音波波形との関係について、図2、図3A、図3Bを用いて説明する。図2は、探触子を移動させたときの超音波検査装置により表示される、反射波の時間変化を深さ方向の断面図として平面に展開するBスコープの説明図である。図2の横軸は、探触子走査によって超音波が入射する位置のホイール最外周上の移動距離であって、縦軸は路程すなわち超音波の反射体までの距離である。
【0030】
ホイール全面に錆があって、小さな割れ(フックを貫通しない割れ)と大きな割れ(フックを貫通した割れ)が各1個ずつある場合の典型的なBスコープを模式的に示している。
【0031】
小さな割れの反射波の特徴は、超音波が入射する位置のホイール最外周上の移動距離に対して、孤立した反射波の路程がほぼ直線的に変化することである。これは、図3Aの割れの大きさによる反射波の説明図に示すとおり、探触子位置が(1)→(2)→(3)と変化するにつれて、割れまでの直線距離が変化し、波形がa1、a2、a3と相似形を保ちながら振幅が変化する現象による。
【0032】
一方で、大きな割れの反射波の特徴は、超音波が入射する位置のホイール最外周上の移動距離に対して、孤立した反射波の路程がほぼ直線的に変化するものが、例えば、a2、b1、c1というように同時に複数存在する多重反射波が発生し、波群として変化することである。波群としては、孤立した反射波よりも急峻な変化を示し、a、b、cの孤立反射波の振幅が入れ替わることから、相似性が低いという特徴があり、上述した特許文献3、特許文献4ではこのような大きな割れを識別することが困難である。
〔反射体の識別原理〕
本発明の実施形態において、初めに、タービンホイール翼植込部の全周からの超音波を一旦収録してから、反射体が欠陥か錆かを識別する原理について図4から図7Bを用いて説明する。
【0033】
図4は、割れと錆を識別する方法を示すフローチャートである。始めに、孤立波形の移動する傾きと波群の移動する傾きを、タービンホイール翼植込部の幾何学的形状と探触子の配置から算出する(波形傾斜:ステップS101)。
【0034】
図5Aは、探触子を移動させたときの探触子の位置座標と探触子の向く方向の直線の交点座標を説明する平面図を示し、図5Bは斜視図を示す。図5Bで、探触子位置A2から屈折した超音波がホイール最外周の点C2の方向に進むとする。超音波は指向性の影響によって広がるが、音軸上の振幅が最も大きいので、仮に点C2の位置に欠陥があると、探触子位置が点A2のときに最大の反射波振幅を示すことになる。このときの、路程は点A2と点C2の直線距離になる。探触子位置が点A1にあった場合、その路程は点A1と点C2の直線距離になる。従って孤立波形の路程変化はこの幾何学的な関係によって求めることができる。
【0035】
一方で、波群の路程変化は超音波がフック位置で多重反射することで生じ、その路程は、点A1と点F12の直線距離とほぼ一致することが、実験データとの照合で明らかとなった。点F12は、点E12からフック深さ分だけ下に移動した点であり、点E12は、探触子が点A1にあるときの音軸をxy平面に投影した直線と、点Oと点G2と結ぶ直線の交点で与えられる。以上の関係を数値的に求めることによって、ステップS101で孤立波形の移動する傾きと波群の移動する傾きを算出することができる。
【0036】
次に、図2のBスコープにおける、孤立波形の移動する傾きに沿った波形の類似度を表す第一の特徴量を算出する(第一識別:ステップS102)。探触子保持具3bをタービンホイール1に対して一回転走査すると、記憶部17に全周分の位置信号8、デジタル信号16、反射波の有無の判定結果19が収録される。ここで、連続して反射波があると判定した探触子位置をグループ化し、グループ内で振幅が最大となる探触子位置で収録した波形を基準波形とし、基準波形とグループ内の他の探触子位置で収録した波形とを相互相関処理する。
【0037】
図6は、探触子9により割れ等の欠陥からの反射波が得られた場合と、錆や腐食痕等の欠陥以外のものからの反射波が得られる場合の状況を模式的に示したものである。割れ27による場合では超音波の反射体が一箇所で位置が明確なため、図3A、図3Bに示すように比較的単純な波形となる。また、この場合は、探触子9の位置を点A1から点A2に変えても、路程(超音波の経路)が変化するだけで、受信波形に大きな変化はなく、波形が良く保存されることが判る。
【0038】
ゲートの時間幅をTw、点A1で収録した波形をX(t)、点A2で収録した波形をY(t)としたとき、X(t)とY(t)を時間τずらしたときの相関値R(τ)は、次の式(1)で表わされ、ここで時間τを動かし、−TwからTwまで変化させたときの相関値R(τ)の最大値を相関係数と呼ぶ。
【0039】
【数1】
【0040】
この相関係数は2波形の関連の深さを示す指標であり、反射体が欠陥の場合には図7Aに示すように大きな値をとる。これに対し、錆28では一塊になった明確な反射体は見られず、複数の小さな反射体がタービンホイール頭頂部表面で複雑に分布しているため、図7Bに示すように、複数の反射波が重畳した波形となる。また、この場合、探触子9の位置を点B1から点B2に変えると、複数の反射体からの反射波の強度比が変化するので、受信波形も変化してしまい波形が保存されない。従って、点B1で収録した波形と点B2で収録した波形から算出した相関係数は、図7Bに示すように小さな値をとる。
【0041】
最終的には、あるしきい値を越える振幅の反射波のグループの最大振幅の反射波を基準として、その基準波形と前後何点かの波形との相関係数を求め、超音波が入射する位置のホイール最外周上の移動距離と相関係数の関係をグラフ化し、相関係数が実験的に得られた所定のしきい値を越える距離の長さを、波形が得られた反射源が欠陥であるか否かを判定する指標とする。
【0042】
次に、図2のBスコープにおいて、波群の移動する傾きに沿った反射源の大きさを表す第二の特徴量を算出する(第二識別:ステップS103)。ステップS101で算出した波群の路程変化に沿って、ゲートbを移動させ、その中での最大振幅をサーチする。なお、ゲートbの幅は予めユーザが指定するか、記憶部17に定数として格納しておく。次に、探触子走査によって超音波が入射する位置のホイール最外周上の移動距離と、最大振幅の関係をグラフ化し、あるしきい値を越える距離の長さを指標とする。
【0043】
最後に、第一識別と第二識別の両方から錆と割れを識別する(総合識別:ステップS104)。これは、第一識別で得られた第一の特徴量の値と、第二識別で得られた第二の特徴量の値に重みをかけて演算することによって得られる。もしくは、第一識別で欠陥と識別するか、第二識別で欠陥と識別するかのいずれかの場合に、総合識別で欠陥と識別するような演算式とする。最終的には検査員は、図8の例に示すような超音波検査装置の表示画面で識別結果を判断することができる。
〔識別結果の事例〕
最後に、本発明の実施形態による効果を、錆、欠陥(小)、欠陥(大)の処理結果を例にとって、図9Aから図11Cを用いて説明する。
【0044】
図9Aは、翼植込部の頭頂部に錆が発生した状態の試験体の状態の説明図、図9Bは翼植込部の第一段フックに割れ(小)が発生した状態の試験体の状態の説明図、図9Cは翼植込部の第一段フックに割れ(大)が発生した状態の試験体の状態の説明図である。
【0045】
図10Aは、試験体の錆に対して、前述の第一識別処理を実施した結果を示す。図10Aは、図10Bの割れ(小)に比べて、相関係数が実験的に得られたしきい値0.6を超える距離が短く、両者を識別できることがわかる。一方で、図10Cの割れ(大)は、図10Aの錆よりもさらに相関距離が短く、錆との識別が困難である。
【0046】
図11Aは、試験体の錆に対して、前述の第二識別処理を実施した結果である。図11Aの錆は、実験的に得られたしきい値0.25を超える距離がゼロであるが、図11Bの割れ(小)も10mm以下と短く、錆と識別が困難なケースがある。一方で、図11Cの割れ(大)は比較的長い距離を示す。よって、第一識別と第二識別の各々の長所を合わせた総合識別によれば、欠陥の大きさによらず、錆と欠陥を自動識別することが可能になる。
【符号の説明】
【0047】
1…タービンホイール、2…タービンシャフト、5…エンコーダ、6…パルス信号、7…位置読取り部、8…位置信号、9…探触子、10…超音波(経路)、11a…パルス信号、11b…超音波信号、12…探傷器、13…トリガ信号、14…超音波信号、15…A/D変換部、16…デジタル信号、17…記憶部、18…相互相関処理条件設定部、19…相互相関処理間隔、20、21…デジタル信号、22…相互相関処理部、23…相関係数、24…反射体識別部、25…反射体識別条件、26…識別結果、27…表示部、28…割れ、29…錆、30…動翼
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン翼植込部に探触子を用いて超音波を入射し、所定時間ゲート内に受信した反射波に基づいてタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行う超音波を用いた欠陥識別方法において、
前記反射波のBスコープ上における孤立波形の移動する傾きに沿って第一の特徴量を算出し、波群の移動する傾きに沿って第二の特徴量を算出し、前記第一の特徴量と第二の特徴量の組合わせによりタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項2】
請求項1に記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記第一の特徴量が所定のしきい値を越えた場合と、前記第二の特徴量が所定のしきい値を越えた場合のいずれかの場合に、錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項3】
請求項1に記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記第一の特徴量と、前記第二の特徴量に所定の重み演算処理を行って、錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記第一の特徴量として相関係数を用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項5】
請求項4に記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記第一の特徴量の相関係数として、探触子移動距離を変数とする反射波相互の相関係数グラフの、所定の相関係数しきい値を越えた部分の長さを用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記第二の特徴量として、振幅を用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項7】
請求項6に記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記前記第二の特徴量の振幅として、探触子移動距離を変数とする反射波の相対振幅グラフの、所定の相対振幅しきい値を越えた部分の長さを用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項8】
タービン翼植込部に探触子を用いて超音波を入射し、所定時間ゲート内に受信した反射波に基づいてタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行う超音波を用いた欠陥識別装置において、超音波探触子を移動させるときにBスコープ上で前記反射波の孤立波形が移動する傾きに沿って第一の特徴量を算出し、前記反射波の波群が移動する傾きに沿って第二の特徴量を算出し、前記第一の特徴量と前記第二の特徴量の両方から錆と欠陥を識別する相互相関処理部と、前記相互相関処理部で識別した結果を表示する表示部を有することを特徴とする超音波を用いた欠陥識別装置。
【請求項9】
請求項8に記載された超音波を用いた欠陥識別装置において、前記第一の特徴量として、相関係数を用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別装置。
【請求項10】
請求項9に記載された超音波を用いた欠陥識別装置において、前記第一の特徴量の相関係数として、探触子移動距離を変数とする反射波相互の相関係数グラフの、所定の相関係数しきい値を越えた部分の長さを用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別装置。
【請求項11】
請求項8に記載された超音波を用いた欠陥識別装置において、前記第二の特徴量として、振幅を用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別装置。
【請求項12】
請求項11に記載された超音波を用いた欠陥識別装置において、前記前記第二の特徴量の振幅として、探触子移動距離を変数とする反射波の相対振幅グラフの、所定の相対振幅しきい値を越えた部分の長さを用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別装置。
【請求項1】
タービン翼植込部に探触子を用いて超音波を入射し、所定時間ゲート内に受信した反射波に基づいてタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行う超音波を用いた欠陥識別方法において、
前記反射波のBスコープ上における孤立波形の移動する傾きに沿って第一の特徴量を算出し、波群の移動する傾きに沿って第二の特徴量を算出し、前記第一の特徴量と第二の特徴量の組合わせによりタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項2】
請求項1に記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記第一の特徴量が所定のしきい値を越えた場合と、前記第二の特徴量が所定のしきい値を越えた場合のいずれかの場合に、錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項3】
請求項1に記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記第一の特徴量と、前記第二の特徴量に所定の重み演算処理を行って、錆と欠陥の識別を行うことを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記第一の特徴量として相関係数を用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項5】
請求項4に記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記第一の特徴量の相関係数として、探触子移動距離を変数とする反射波相互の相関係数グラフの、所定の相関係数しきい値を越えた部分の長さを用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記第二の特徴量として、振幅を用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項7】
請求項6に記載された超音波を用いた欠陥識別方法において、前記前記第二の特徴量の振幅として、探触子移動距離を変数とする反射波の相対振幅グラフの、所定の相対振幅しきい値を越えた部分の長さを用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別方法。
【請求項8】
タービン翼植込部に探触子を用いて超音波を入射し、所定時間ゲート内に受信した反射波に基づいてタービン翼植込部における錆と欠陥の識別を行う超音波を用いた欠陥識別装置において、超音波探触子を移動させるときにBスコープ上で前記反射波の孤立波形が移動する傾きに沿って第一の特徴量を算出し、前記反射波の波群が移動する傾きに沿って第二の特徴量を算出し、前記第一の特徴量と前記第二の特徴量の両方から錆と欠陥を識別する相互相関処理部と、前記相互相関処理部で識別した結果を表示する表示部を有することを特徴とする超音波を用いた欠陥識別装置。
【請求項9】
請求項8に記載された超音波を用いた欠陥識別装置において、前記第一の特徴量として、相関係数を用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別装置。
【請求項10】
請求項9に記載された超音波を用いた欠陥識別装置において、前記第一の特徴量の相関係数として、探触子移動距離を変数とする反射波相互の相関係数グラフの、所定の相関係数しきい値を越えた部分の長さを用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別装置。
【請求項11】
請求項8に記載された超音波を用いた欠陥識別装置において、前記第二の特徴量として、振幅を用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別装置。
【請求項12】
請求項11に記載された超音波を用いた欠陥識別装置において、前記前記第二の特徴量の振幅として、探触子移動距離を変数とする反射波の相対振幅グラフの、所定の相対振幅しきい値を越えた部分の長さを用いることを特徴とする超音波を用いた欠陥識別装置。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【公開番号】特開2011−47655(P2011−47655A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193829(P2009−193829)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】
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