説明

超音波アクチュエータ、磁気記録装置

【課題】装置の複雑化、高価格化を招くことなく、優れた駆動性能を安定して得ることが可能な超音波アクチュエータ、及び磁気記録装置を提供する。
【解決手段】駆動信号により伸縮する圧電変位部を備えた略三角形状の振動体と、振動体の3つの頂点と加圧接触し、該振動体に対して相対移動を生じる移動体と、を有し、移動体は、振動体の3つの頂点が、圧電変位部の伸縮により同一回転方向に楕円振動を行うことにより、振動体に対して相対移動を生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波アクチュエータ、磁気記録装置に関し、特に移動体を振動体に加圧接触させて相対移動を発生させる超音波アクチュエータ、磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な移動装置に超音波アクチュエータを用いることが試みられている。超音波アクチュエータは、通常、電気−機械エネルギー変換素子である圧電素子を備えた振動体と、該振動体に加圧された状態で接触する被駆動体(移動体)等から構成される。超音波アクチュエータは、振動体に駆動信号を入力して振動体を伸縮運動させ、振動体の一部に楕円振動(以下、円振動を含む。)をさせることにより、振動体に加圧接触された被駆動体との間で摩擦力により相対運動を発生させるものである。
【0003】
超音波アクチュエータは、小型、且つ静音性に優れ、また高速、高精度な位置決め制御が可能なことから、電子カメラ等の電子機器の駆動装置として利用されるようになり、その用途はさらに拡大しつつある。
【0004】
一方、近年、電子機器の小型、高性能化が進展するに伴い、その駆動装置として用いられる超音波アクチュエータの駆動性能もより優れたものが求められるようになってきた。
【0005】
そして、このような要求に応える為に、超音波アクチュエータの駆動効率を高める種々の検討が行われてきた。
【0006】
例えば、正三角形の圧電振動子を備え、移動体との接触点となる1つの頂点から、対向する辺の中点を結ぶ線で電極を2分割し、接触点となる1つの頂点に楕円振動を励起して、移動体を摩擦駆動する回転駆動型の超音波アクチュエータが知られている(特許文献1参照)。また、複数の超音波振動子を用いて、ロータを保持すると伴に回転駆動する超音波モータが知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−322270号公報
【特許文献2】特開2000−152671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている圧電振動子は、縦振動とベンディング2次モードを励起・合成することにより移動体との接触点に楕円振動を励起している。しかしながら、このような振動モードによる駆動方法では、所望の楕円振動が励起されるのは接触点のみであり、他の頂点は従動的に振動し、楕円軌跡、回転方向が異なる為、移動体と接触させると駆動ロスが発生する。例えば、ロータ(移動体)の内周面を駆動する場合、1点ではロータの回転中心が定まらない為、ベアリング等のロータを保持する部材が必要となる。このため、ベアリング負荷による駆動ロスによる駆動効率の低下、構成の複雑化、高価格化を招くといった問題がある。
【0008】
また、特許文献2に開示されている超音波モータは、複数の超音波振動子を必要とするため、構成の複雑化、高価格化を招くといった問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、装置の複雑化、高価格化を招くことなく、優れた駆動性能を安定して得ることが可能な超音波アクチュエータ、及び磁気記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、下記の1乃至12のいずれか1項に記載の発明によって達成される。
【0011】
1.駆動信号により伸縮する圧電変位部を備えた略三角形状の振動体と、
前記振動体の3つの頂点と加圧接触し、該振動体に対して相対移動を生じる移動体と、を有し、
前記移動体は、前記振動体の3つの頂点が、前記圧電変位部の伸縮により同一回転方向に楕円振動を行うことにより、前記振動体に対して相対移動を生じることを特徴とする超音波アクチュエータ。
【0012】
2.前記圧電変位部は、前記振動体の前記3つの頂点にそれぞれ対応して、前記駆動信号が供給される一対のA相電極およびB相電極を有することを特徴とする前記1に記載の超音波アクチュエータ。
【0013】
3.前記振動体は、前記3つの頂点をそれぞれ含む3つの等しい領域からなり、
前記3つの等しい領域がそれぞれ伸縮変形し、前記振動体の前記3つの頂点が同位相で放射状に往復運動する伸縮振動モードと、
前記3つの等しい領域がそれぞれ屈曲変形し、前記振動体の前記3つの頂点が同位相で前記振動体の重心位置を中心とする外接円の円周の接線方向に往復運動する屈曲振動モードと、を有し、
前記伸縮振動モードと前記屈曲振動モードとが共振励起されることにより、前記振動体の前記3つの頂点が同一回転方向に楕円振動を行うことを特徴とする前記1または2に記載の超音波アクチュエータ。
【0014】
4.前記駆動信号を生成する駆動信号生成部を有し、
前記伸縮振動モードと前記屈曲振動モードの共振周波数は略同じ値であって、
前記駆動信号生成部は、周波数が前記共振周波数の近傍で且つ位相が互いに異なる2相の交流電圧を生成し、それぞれ前記A相電極、前記B相電極に供給することを特徴とする前記3に記載の超音波アクチュエータ。
【0015】
5.前記駆動信号を生成する駆動信号生成部を有し、
前記伸縮振動モードと前記屈曲振動モードの共振周波数は所定の値異なり、
前記駆動信号生成部は、周波数が前記伸縮振動モードと前記屈曲振動モードのそれぞれの共振周波数の間の値である単相の交流電圧を生成し、前記A相電極、前記B相電極のいずれか一方に供給することを特徴とする前記3に記載の超音波アクチュエータ。
【0016】
6.前記振動体は正三角形状であることを特徴とする前記1乃至5のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【0017】
7.前記移動体は円筒形状をなし、前記振動体に対して回転運動を行うものであって、
円筒形状の前記移動体の内周面は、前記振動体の前記3つの頂点に外接し、前記移動体の弾性力によって前記振動体の前記3つの頂点に加圧接触することを特徴とする前記1乃至6のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【0018】
8.前記振動体は、該振動体の3つの辺のそれぞれの中心近傍を保持部材によって保持され固定されることを特徴とする前記1乃至7のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【0019】
9.前記振動体は、該振動体の重心位置近傍を保持部材によって保持され固定されることを特徴とする前記1乃至7のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【0020】
10.前記振動体は、該振動体の重心位置に貫通穴を有することを特徴とする前記1乃至9のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【0021】
11.前記振動体の前記3つの頂点には、前記移動体と接触する当接部材がそれぞれ設けられ、
前記当接部材の質量を調整することによって、前記伸縮振動モードと前記屈曲振動モードの共振周波数の関係を所定の値に設定することを特徴とする前記1乃至10のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【0022】
12.情報を記録する記録媒体と、
前記記録媒体に前記情報を読み書きする磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記記録媒体に対して相対移動可能に支持するアームと、
前記1乃至11のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータと、を有し、
前記アームは、前記超音波アクチュエータに設けられた前記移動体に固定されることを特徴とする磁気記録装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、移動体に加圧接触される振動体の3つの頂点に同一回転方向に楕円振動を行わせることにより、移動体を振動体に対して相対移動させるようにした。すなわち、移動体を略三角形状の振動体の3つの頂点で保持しながら相対移動させるようにしたので、移動体の姿勢が安定し、高い精度で移動させることができる。また、振動体の3つの頂点の他に移動体を保持する箇所を必要としないため、駆動ロスが抑制され高い駆動効率を得ることができる。これらにより、装置の複雑化、高価格化を招くことなく、優れた駆動性能を安定して得ることが可能な超音波アクチュエータを実現することができる。
【0024】
また、このような構成の超音波アクチュエータを磁気記録装置のヘッドの駆動に用いることにより、ヘッドの移動精度や応答性が高まり、磁気記録装置の記録密度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下図面に基づいて、本発明に係る超音波アクチュエータ、及び磁気記録装置の実施の形態を説明する。尚、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。また、各実施の形態の相互で同一の部分や相当する部分には同一の符号を付して重複の説明を適宜省略する。
【0026】
〔実施形態1〕
最初に、実施形態1による超音波アクチュエータ5の構成を図1を用いて説明する。図1(a)は、超音波アクチュエータ1の全体構成の概要を示す正面図、図1(b)は、図1(a)におけるA−A′断面図である。
【0027】
超音波アクチュエータ5は、図1(a)に示すように、振動体10、ロータ20、FPC30、固定部材40等から構成される。
【0028】
振動体10は、正三角形状をなし、正三角形の各頂点に円筒形状のロータ20が外接している。ロータ(移動体)20は、振動体10に組み込まれる前は、各接触点の寸法が、振動体10の寸法より小さく設定されており、組み込まれることにより接触部以外の部位が弾性変形して(組み込み状態で、ロータ20は、わずかに三角形状になる)、振動体10の各接触部には、ロータ20により所定の押圧力が働く。
【0029】
図1(b)に示すように、ロータ20の円周断面には、V字状の溝20aが形成されている。振動体10の各頂点に設けられた後述の凸形状の3つのチップ部材103がロータ20のV字状の溝20a嵌まり込むため、スラスト方向への揺動が規制され、ロータ20は高精度に回転を行うことができる。
【0030】
振動体10は、後述するように振動の比較的小さい各辺の中央付近を、固定部材40に設けられた3つの固定ピン(保持部材)401により保持される。保持は、圧入、または接着により行う。また、振動体10の各辺の中央付近に切り欠きを設けて固定ピン401により保持することにより、固定部材40に対する位置決めを行うようにしてもよい。固定部材40を例えば、後述の磁気記録装置の筐体やフレームに固定することにより、超音波アクチュエータ5は位置決めされる。
【0031】
図2に振動体10の別例による固定方法を示す。図2(a)は、振動体10の概要を示す正面図、図1(b)は、図1(a)におけるA−A′断面図である。
【0032】
図2(b)に示すように、振動体10の重心位置に貫通穴10aを設け、ネジ(保持部材)403等を用いて固定してもよい。重心位置は、振動の節に当たるので、固定による振動への影響を最小限に抑えることができる。
【0033】
ロータ20の材料には、弾性の大きな材料が好ましく、ステンレス等の金属材料を用いる。また、磨耗を防ぐため、表面には、窒化処理などの硬化処理を行う。また、CrNやTiCN等のセラミックコーティングを行ってもよい。
【0034】
振動体10には、FPC(フレキシブルプリント配線板)30が接続され、図示しない後述の駆動信号生成部7から、FPC30を介して、所定の駆動信号が入力される。
【0035】
振動体10に駆動信号が入力されると、振動体10の各頂点に設けられた後述の3つのチップ部材103に、それぞれ同じ方向に回転する高周波の楕円振動が発生する。チップ部材103には、ロータ20が所定の押圧力で接しているため、摩擦力によって、ロータ20が回転を行う。図1(a)において、各頂点が時計回りに楕円振動を行う場合は、ロータ20も時計方向に回転し、各頂点が反時計回りに楕円振動を行う場合は、ロータ20も反時計方向に回転する。尚、楕円振動の大きさを変えることにより、速度やトルクを変化させることができる。
【0036】
ロータ20は、正三角形状の振動体10の頂点に設けられた3つのチップ部材103により保持されるので、ラジアル方向の姿勢安定性が非常に高く、且つ、スラスト方向にはV字状の溝20aにより揺動を規制されているので、芯振れ等がなく非常に高精度に回転が可能である。また、ガタがないので、剛性が高く、モータの応答性を高めることができる。また、振動体10の3つの頂点の他にロータ20を保持する箇所を必要としないため、駆動ロスが抑制され高い駆動効率を得ることができる。
【0037】
次に、振動体10の構成を図3を用いて説明する。図3(a)は、振動体10の構成を示す正面図、図3(b)は、側面図、図3(c)は、裏面図である。
【0038】
図3(a)に示すように、振動体10は、ロータ20に当接する3つのチップ部材(当接部材)103と正三角形の頂点に平面部が形成された圧電部材101から構成される。チップ部材103は、圧電部材101に接着により結合される。接着には、接着強度が高く、剛性の高いエポキシ系接着剤を用いる。
【0039】
チップ部材103の材料には、磨耗を防ぐため、硬度の高い、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス、あるいは超硬合金等を用いる。
【0040】
圧電部材101は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電特性を示す圧電材料からなり、圧電部材a面には駆動用電極、b面には共通薄膜電極(GND電極)101cが形成される。電極は、銀や銀パラジウムからなり、蒸着等により形成される。駆動用電極は、図3(a)に示すように、振動体10の各頂点から対向する辺へ下ろした各垂線で分割される形状(6分割)で、各頂点に一対のA相電極領域、B相電極領域を有し、各A相電極101a、各B相電極101bが、FPC30を介してそれぞれ共通接続されている。FPC30は、後述する振動の節である三角形重心位置付近で接続することにより振動への影響を最小限に抑えることができる。尚、接続には、ハンダ、または導電性接着剤等を用いる。
【0041】
次に、このような構成の超音波アクチュエータ5の駆動方法について説明する。駆動方法の基本は、ロータ20を回転させる為の共振を用いた楕円振動駆動である。共振を用いることにより振動体10の各頂点に楕円振動を励起して駆動する方法であり、振幅を数十倍に拡大でき、低電圧で効率的に大きな楕円振動を得ることができる。以下に、その原理と駆動特性について説明する。
【0042】
(固有モード)
最初に固有モードについて図4を用いて説明する。振動体10の各頂点に同一回転方向の楕円振動を励起するために、本実施形態では、図4に示す2つの固有モードを用いる。図4(a)は、伸縮振動モード、図4(b)は、屈曲振動モードによる振動体10の変形の様子を示す模式図である。伸縮振動モードは、振動体10の重心位置Gを振動の節とし、各頂点を含む3分割された領域が伸縮振動し、各頂点が同位相で放射状に往復運動を行う。屈曲振動モードは、振動体10の重心位置Gを振動の節とし、各頂点を含む3分割された領域が屈曲振動し、各頂点が同位相で重心位置Gを中心とする振動体10の外接円の円周の接線方向に往復運動を行う。伸縮振動モードは、各A相電極101a、各B相電極101bに同位相、屈曲振動モードは、逆位相の各共振周波数と一致する駆動信号を入力することにより、それぞれ励起することができる。
【0043】
(位相差駆動方法)
図11、図12を用いて位相差駆動方法を説明する。図11は、駆動信号生成部7の一例を示すブロック図、図12は、駆動信号VA、VBの一例を示す図である。
【0044】
最初に、駆動信号生成部7の構成を図11を用いて説明する。駆動信号生成部7は、図11に示すように、制御部71、発振部72、位相変更部73、及び増幅部74等から構成される。
【0045】
発振部72は、駆動信号VA、VBの基本となる所定の周波数の信号を発振する発振器である。
【0046】
位相変更部73は、発振部72からの信号の位相を調整し、位相が異なる2つの信号を生成する。
【0047】
増幅部74は、位相変更部73で生成された信号を増幅して駆動信号VA、VBを生成し、振動体10の各A相電極101a、B相電極101bに印加する。
【0048】
制御部71は、超音波アクチュエータ5に設けられたロータ20の回転速度を検出する速度検出器75等の出力に基づきロータ20の駆動状況を検知し、発振部72、位相変更部73、及び増幅部74を制御し、駆動信号VA、VBの周波数、位相差、振幅を調整することにより、駆動特性(速度、トルク等)を制御する。
【0049】
次に、位相差駆動方法を説明する。前述の2つの固有モードの共振周波数を略一致させ、A相電極101a、B相電極101bに、例えば図12に示すような位相の90°ずれた共振周波数と一致する周波数の駆動信号VA、VBを入力することにより、2つの固有モードが励起・合成され、振動体10の各頂点に同じ回転方向の楕円振動が生成される。駆動信号VA、VBの位相を反転させることにより、楕円振動の回転方向が逆転する。また、駆動信号VA、VBの振幅や位相を変化させることにより、楕円振動の軌跡形状や大きさを変えることができる。
【0050】
楕円軌跡径は、振幅(電圧)に比例して変化する。また、駆動信号VA、VBの位相差を変化させることにより、楕円形状を変化させることができる。図5は、駆動信号VA、VBの位相差に対する楕円軌跡の変化の様子を示す模式図である。図5(a)は、駆動信号VAとVBの位相差が45°、図5(b)は、90°、図5(c)は、135°の場合を示す。位相差が小さくなると、ロータ20との接触点における法線方向Nの楕円径が大きくなり、位相差が大きくなると、接線方向Tの径が大きくなる。楕円軌跡形状を変化させることによって、後述するように、駆動特性を変化させることができるので、速度制御や位置制御に応用することができる。また、2相の駆動信号VA、VBで駆動する位相差駆動を行うことにより、低電圧で駆動できると伴に、位相差による駆動制御が可能である。
【0051】
(単相駆動方法)
前述の2つの固有モードの共振周波数を所定値ずらし、その間の周波数の単相の駆動信号をA相電極101a、B相電極101bのいずれか一方に入力することにより、振動体10の各頂点に同一回転方向の楕円振動が励起される。入力する電極を切り替えることにより、楕円の回転方向を逆転できる。各固有モードの共振周波数を所定値ずらすことにより、片方の電極駆動による加振力によって、2つの固有モードの位相がずれて励起され、楕円振動が生成される。単相の駆動信号によって駆動できるので、駆動回路が簡略化でき、コストを低減することができる。
【0052】
(共振周波数の調整方法)
2つの固有モードの共振周波数は、チップ部材103の質量や、振動体10の重心位置に穴を設けて、穴径を調整することにより、所定の関係に設定することができる。また、製造時の2つの固有モードの共振周波数の誤差を後加工などで調整することができる。
【0053】
(楕円軌跡と駆動性能)
ここで、楕円軌道と駆動性能の関係について前述の図5を用いて説明する。チップ部材103に生じる楕円振動を、ロータ20の接線方向Tと法線方向Nに分解した場合、ロータ20の速度は、チップ部材103の楕円運動の方向Tの速度によって決まるため、楕円軌跡の方向Tの径Rtと駆動周波数で決まり、Rtが大きいほど速度が大きくなる。一方、駆動力は、加圧力と接触点の摩擦係数の積で決まるが、楕円軌跡の法線方向Nの径Rnも関係する。これは、楕円軌跡の加圧方向の径Rnに対して、加圧力が相対的に低い場合は、チップ部材103はロータ20に対して接触、離脱を繰り返しながら、接触中に摩擦力により駆動を行うが、径Rnに対してか圧力が相対的に大きくなると、ロータ20や接触部表面の弾性変形や加圧力を受ける構造部材の弾性変形により、常時接触した状態で楕円振動を行うことになる。この状態では、チップ部材103が振動周期中の反駆動方向への移動時にも摩擦力が働きブレーキとなるため、加圧力を上げてもRnで決まる値以上の駆動力は発生しない。また、このような状態での駆動においては、速度ムラや再現性などの駆動状態が不安定になり、また、異音が発生する等の不具合が起きる場合もある。従って、楕円軌跡の加圧方向の径Rnが大きいほど駆動力は大きくなり、安定した駆動が可能となる。
【0054】
従って、図5(a)に示す楕円軌跡は、低速高トルク特性、図5(c)に示す楕円軌跡は、高速低トルク特性となり、駆動信号VA、VBの位相差を変化させることにより、駆動性能を制御することができ、等速制御や位置決め制御等の高精度な駆動を行うことができる。
【0055】
(DC駆動)
次に、DC駆動について説明する。DC駆動は、ロータ20を微小に揺動動作させるための駆動方法で、非常に高精度な位置決めが要求される場合に用いられ、nmオーダーの位置決め分解能が得られる。前述の共振駆動により粗動(高速、広回転角駆動)を行った後、DC駆動により微動を行うことにより、広範囲、高速駆動、高精度位置決めが可能な駆動システムを実現できる。
【0056】
駆動方法としては、A相電極101aにのみ直流電圧を印加することにより、振動体10の各頂点を含む3等分した領域が、図4(b)に示すように、CCW方向に屈曲し、チップ部材103の先端がCCW方向に倒れる。チップ部材103に摩擦接触したロータ20は、摩擦力により同じ量だけ移動(回転)を行い、電圧印加を停止すると、元の状態に戻る。同様に、B相電極101bにのみ直流電圧を印加することにより、ロータ20をCW方向に微少量移動することができる。また、A相電極101aに直流電圧印加時、B相電極101bにマイナス電圧を印加することにより、振動体10の屈曲量が大きくなり、ロータ20の回転量を大きくすることができる。
【0057】
次に、このような構成の超音波アクチュエータ5を磁気記録ヘッドの駆動に用いた磁気記録装置の実施の形態について説明する。
【0058】
従来の磁気記録装置(以下、HDDと記する)の磁気記録ヘッド(以下、ヘッドと略称する)の駆動に用いられるアクチュエータは、ヘッドが取り付けられたアームをピボットベアリングで回転支持する構成で、VCM(ボイスコイルモータ)を用いて駆動を行っている。HDDのヘッドを駆動する場合、高速で回転するディスク上のトラックのうねり等に追従しながら位置決め制御を行う必要があり、アクチュエータには、非常に高い応答性と分解能が要求される。応答性が上がることにより、記録密度が高まるので、HDDの記録容量を増加させることができる。
【0059】
しかしながら、従来のアクチュエータの構成は、ベアリングを使用しているため、揺動動作の周波数を上げていくと、ベアリングガタに起因する不要な振動が励起され、その共振周波数以上に応答性を上げられないという問題がある。本実施形態による超音波アクチュエータ5をHDDのヘッドの駆動に用いることにより、このような課題に対応することができる。
【0060】
図6に、本発明の実施形態に係るHDD1Aの概略構成を示す。HDD1Aは、記録用のディスク(記録媒体)2、超音波アクチュエータ5により矢印Aの方向(トラッキング方向)に回転可能に設けられたアーム4、アーム4の先端に取り付けられたヘッド3、及びディスク2を矢印Bの方向に回転させる図示しないモータ等を筐体1の中に備えており、ヘッド3がディスク2に対して相対的に移動しうるように構成されている。
【0061】
超音波アクチュエータ5は、前述のように、ロータ20の弾性で振動体10を保持しながら回転駆動するガタのない構成であり、また、振動体10の正三角形の各頂点でロータ20を保持できるので非常に保持安定性が高い。従って、超音波アクチュエータ5の共振周波数を高くすることができ、従来の場合に比べて、非常に高い応答性を得ることができる。
【0062】
また、ディスク2上の記録領域は、アーム4の駆動角度にして約30°程度ある一方、トラックのうねりは、数nm〜数十μmであり、広範囲を高速駆動しながら、非常に高精度、高応答の位置決め性が要求される。本実施形態による超音波アクチュエータ5では、前述の共振駆動による粗動とDC駆動による微動を組み合わせることにより、これらの要求に応えることができ、さらに、非常に簡単な構成であるため、生産性を高め、製造コストを低減できる。
【0063】
〔実施形態2〕
実施形態2による振動体10を図7に示す。図7(a)は、実施形態2による振動体10の構成を示す正面図、図7(b)は、側面図、図7(c)は、第1内部電極層101n1、図7(d)は、第2内部電極層101n2の構成を示す図である。
【0064】
実施形態1による圧電部材101は、前述のように、単一の圧電セラミックスであるが、実施形態2の場合は、積層構造を有するものである。
【0065】
図7(b)に示すように、圧電部材101は、圧電セラミックス薄板(以下、圧電薄板と称する)101hと第1内部電極層101n1、第2内部電極層101n2が交互に積層されている。第1内部電極層101n1、第2内部電極層101n2は、図7(c)、図7(d)に示すように、実施形態1の場合の駆動用電極と同様に、振動体10の各頂点から対向する辺へ下ろした各垂線で分割される形状(6分割)で、各頂点に一対のA相電極領域、B相電極領域を有し、それぞれA相電極101a、B相電極101bが設けられている。
【0066】
振動体10の側面には、図7(b)に示すように、外部電極101ga、101gbが設けられ、端面に突出した内部電極(A相電極101a、B相電極101b)と接続されることにより、内部電極は、1層おきに共通接続される。この場合、側面の外部電極101ga、101gbにリード線等を用いて、駆動信号生成部との接続を行う。
【0067】
実施形態2による圧電部材101は、積層構造であるため、実施形態1の場合と比較して、低電圧で同じ振幅が得られる。従って、昇圧回路等が不要となり、駆動回路が簡略化され、携帯機器など電池駆動機器等への応用に好適である。尚、駆動方法は、実施形態1の場合と同様である。
【0068】
〔実施形態3〕
実施形態3による振動体10を図8に示す。図8(a)は、実施形態3による振動体10の構成を示す正面図、図8(b)は、側面図、図8(c)は、裏面図である。
【0069】
図8(b)に示すように、実施形態3による振動体10は、薄板状の振動板101sの両面に圧電薄板101hが貼り付けられた構成である。
【0070】
振動板101sは、金属で構成されている。圧電薄板101hは、導電性接着剤を用いて振動板101sに貼り付けられることにより、金属の振動板101sと導通し、振動板101sを共通電極(GND電極)とすることができる。圧電薄板101hの他方の面には、実施形態1の場合と同様に駆動用電極(A相電極101a、B相電極101b)が構成される。図示しないFPC30は、2面の駆動用電極と、振動体10を保持する図示しない固定ピン401を通じて導通する固定部材40に接続される。このような構成においては、チップ部材を新たに設ける必要がなく、金属の振動板101sに耐摩耗性材料や表面処理を施すことにより、チップ部材を兼用することができる。振動板101sの材料には、安価で製造しやすいステンレスに窒化処理などの表面硬化処理を施したものや、超硬合金などを用いる。
【0071】
実施形態3の場合は、圧電薄板101hの加振力によって振動板101sが共振することにより、振動体10の各頂点に楕円振動が生じる。通常、圧電セラミックスよりも、金属のほうがQ値が高いため、振動時の損失が小さく、振動体10の発熱を抑えられると伴に、駆動効率を高めることができる。また、非常に薄く構成することが可能であり、圧電部材101の体積を比較的小さくできるため、コストを低減することができ、携帯機器などへの応用に好適である。
【0072】
〔実施形態4〕
実施形態4による振動体10を図9に示す。図9(a)は、実施形態4による振動体10の構成を示す正面図、図9(b)、図9(d)は、側面図、図9(c)は、底面図である。
【0073】
図9(a)に示すように、実施形態4による振動体10は、金属弾性体105の各辺に圧電薄板101hが貼り付けたられた構成である。各辺の圧電薄板101hを2分割し、実施形態1乃至実施形態3の場合と同様に、各頂点に駆動用電極(A相電極101a、B相電極101b)が設けられている。圧電薄板101hは、導電性接着剤を用いて金属弾性体105に貼り付けられることにより、金属弾性体105と導通し、金属弾性体105を共通電極(GND電極)とすることができる。また、この場合、振動体10は、重心位置に貫通穴10aを設け、図示しない固定ピン401を介して固定部材40に固定される。
【0074】
金属弾性体105の材料には、実施形態3の場合と同様に、ステンレスに窒化処理などの表面硬化処理を施したものや、超硬合金などを用いる。
【0075】
実施形態3の場合と同様に、圧電薄板101hの加振力によって金属弾性体105が共振することにより、振動体10の各頂点に楕円振動が生じる。この場合も、振動時の損失が小さいため、振動体の発熱を抑えられると伴に、駆動効率を高めることができる。
【0076】
〔実施形態5〕
実施形態5による振動体10を図10に示す。図10(a)は、実施形態5による振動体10の構成を示す正面図、図10(b)は、側面図、図10(c)は、裏面図である。
【0077】
図10(a)に示すように、実施形態5による振動体10は、実施形態1の場合の変形例であり、振動体10の各辺の中心付近がくびれた形状に形成されている。このような形状にすることにより、屈曲振動モードが励起されやすく、前述の接線方向Tの振幅を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施形態1による超音波アクチュエータの全体構成図である。
【図2】実施形態1による振動体の固定方法を示す図である。
【図3】実施形態1による振動体の構成を示す図である。
【図4】実施形態1による振動体の固有モードにおける変形の様子を示す図である。
【図5】駆動信号の位相差に対する楕円軌跡の変化の様子を示す模式図である。
【図6】本発明の実施形態による磁気記録装置の概略を示す全体構成図である。
【図7】本発明の実施形態2による振動体の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施形態3による振動体の構成を示す図である。
【図9】本発明の実施形態4による振動体の構成を示す図である。
【図10】本発明の実施形態5による振動体の構成を示す図である。
【図11】駆動信号生成部の一例を示すブロック図である。
【図12】駆動信号の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1A 磁気記録装置(HDD)
1 筐体
2 ディスク
3 ヘッド
4 アーム
5 超音波アクチュエータ
10 振動体
10a 貫通穴
101 圧電部材
101a A相電極
101b B相電極
101c 共通電極
101ga、101gb 外部電極
101h 圧電セラミックス薄板(圧電薄膜)
101n1 第1内部電極層
101n2 第2内部電極層
101s 振動版
103 チップ部材
105 金属弾性体
20 ロータ(移動体)
30 FPC(フレキシブルプリント配線板)
40 固定部材
401 固定ピン
403 ネジ
405 接着剤
7 駆動信号生成部
71 制御部
72 発振部
73 位相変更部
74 増幅部
75 速度検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号により伸縮する圧電変位部を備えた略三角形状の振動体と、
前記振動体の3つの頂点と加圧接触し、該振動体に対して相対移動を生じる移動体と、を有し、
前記移動体は、前記振動体の3つの頂点が、前記圧電変位部の伸縮により同一回転方向に楕円振動を行うことにより、前記振動体に対して相対移動を生じることを特徴とする超音波アクチュエータ。
【請求項2】
前記圧電変位部は、前記振動体の前記3つの頂点にそれぞれ対応して、前記駆動信号が供給される一対のA相電極およびB相電極を有することを特徴とする請求項1に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項3】
前記振動体は、前記3つの頂点をそれぞれ含む3つの等しい領域からなり、
前記3つの等しい領域がそれぞれ伸縮変形し、前記振動体の前記3つの頂点が同位相で放射状に往復運動する伸縮振動モードと、
前記3つの等しい領域がそれぞれ屈曲変形し、前記振動体の前記3つの頂点が同位相で前記振動体の重心位置を中心とする外接円の円周の接線方向に往復運動する屈曲振動モードと、を有し、
前記伸縮振動モードと前記屈曲振動モードとが共振励起されることにより、前記振動体の前記3つの頂点が同一回転方向に楕円振動を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項4】
前記駆動信号を生成する駆動信号生成部を有し、
前記伸縮振動モードと前記屈曲振動モードの共振周波数は略同じ値であって、
前記駆動信号生成部は、周波数が前記共振周波数の近傍で且つ位相が互いに異なる2相の交流電圧を生成し、それぞれ前記A相電極、前記B相電極に供給することを特徴とする請求項3に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項5】
前記駆動信号を生成する駆動信号生成部を有し、
前記伸縮振動モードと前記屈曲振動モードの共振周波数は所定の値異なり、
前記駆動信号生成部は、周波数が前記伸縮振動モードと前記屈曲振動モードのそれぞれの共振周波数の間の値である単相の交流電圧を生成し、前記A相電極、前記B相電極のいずれか一方に供給することを特徴とする請求項3に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項6】
前記振動体は正三角形状であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項7】
前記移動体は円筒形状をなし、前記振動体に対して回転運動を行うものであって、
円筒形状の前記移動体の内周面は、前記振動体の前記3つの頂点に外接し、前記移動体の弾性力によって前記振動体の前記3つの頂点に加圧接触することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項8】
前記振動体は、該振動体の3つの辺のそれぞれの中心近傍を保持部材によって保持され固定されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項9】
前記振動体は、該振動体の重心位置近傍を保持部材によって保持され固定されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項10】
前記振動体は、該振動体の重心位置に貫通穴を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項11】
前記振動体の前記3つの頂点には、前記移動体と接触する当接部材がそれぞれ設けられ、
前記当接部材の質量を調整することによって、前記伸縮振動モードと前記屈曲振動モードの共振周波数の関係を所定の値に設定することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項12】
情報を記録する記録媒体と、
前記記録媒体に前記情報を読み書きする磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記記録媒体に対して相対移動可能に支持するアームと、
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の超音波アクチュエータと、を有し、
前記アームは、前記超音波アクチュエータに設けられた前記移動体に固定されることを特徴とする磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−44952(P2009−44952A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149175(P2008−149175)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】