説明

超音波キャビテーション洗浄方法

【課題】例えば超音波を用いて原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する構造体の付着固形物の洗浄、除去を行う際でも、作業に長時間を要さず、作業員の被爆量が軽減できると共に、構成が複雑でなく、コストの大幅上昇を生じない超音波キャビテーション洗浄方法を提供する。
【解決手段】 内部が水7で満たされた円筒状構造体14の内表面の付着固体物を、超音波振動子2の発する超音波を用いて洗浄、除去する方法で、構造体14に外方側から超音波振動子2の発する超音波を入射すると共に、入射する超音波の周波数を、超音波の1/2波長の整数倍と該構造体の厚さtとが等しくなるよう調整し、調整した超音波を構造体14に入射して厚さ方向の共振を生起させ、構造体14の内表面にキャビティ泡21を発生させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種プラントの配管内や配管内構造物などに付着するクラッド等の固形物の洗浄、除去に好適する超音波キャビテーション洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントや各種産業用プラントにおいては、長期間に渡るプラント稼動により配管内面や配管内設置構造物などの表面にクラッド(CRUD:Chalk River Unclassified Deposit)等の固形物が付着する。こうした固形物の付着、例えば沸騰水型原子力プラントにおけるジェットポンプ内面に付着した場合には、再循環系の圧力損失の増大を招き、発電効率の低下等の不具合が発生する可能性がある。このような事象が生じるのを防ぐためには、通常、配管内面や配管内設置構造物などの表面を定期的に洗浄することが必要である。洗浄方法としては、ブラシ洗浄やウォータジェット洗浄、化学反応を利用した化学洗浄、さらには超音波を利用した洗浄などの方法がある。
【0003】
こうした洗浄方法のうちの超音波を利用した洗浄方法には、例えば電子部品等の比較的対象物が小型である場合、水等の洗浄液が満たされた洗浄槽に洗浄する対象物を浸すように入れて超音波を照射し、照射することにより発生するキャビテーションの崩壊時の衝撃力を利用して付着した固形物を付着面から剥がし、除去するもの(例えば、特許文献1参照)がある。また、発電プラント内部に設置された比較的大型の構造物等を対象とした超音波を利用した洗浄方法としては、例えば熱交換器の伝熱管内にひも付きの超音波振動子を投入し、移動させながら行うもの(例えば、特許文献2)、プール内の燃料集合体の周囲に超音波振動子を配置し、上下に移動させながら行うもの(例えば、特許文献3)、インターナルポンプケーシングのストレッチチューブ又はノズル内に超音波振動子を備える洗浄具を挿入して行うもの(例えば、特許文献4)があり、さらに、構造物である配管に形成した開口からロッドを挿入、接触させて外部から超音波を照射し、管内のベンチュリフローノズルを洗浄するもの(例えば、特許文献5参照)がある。
【0004】
しかし、構造体、例えば沸騰水型原子力発電プラント等の原子炉圧力容器やその付属物、原子炉冷却系を構成するジェットポンプ等の機器や配管、接続配管などの原子炉冷却材圧力バウンダリの表面に、長期稼動により冷却水内の放射性不純物が付着したことによるクラッド等の固形物を超音波利用により除去する場合、洗浄槽を用いる洗浄装置の場合には、大型で半永久的に設置される原子炉内機器では、適用が不可能であり、直接構造体内の洗浄対象部分に洗浄装置を設置したり、装置設置のために分解作業を必要としたりすることになると、作業員の被爆量が増大する要因となってしまう。また、洗浄装置が移動洗浄を行うようなものの場合には、装置構成が複雑な機構を備えたものとなり、固形物の洗浄、除去に長時間を要し、高コストとなってしまう。さらに原子炉冷却材圧力バウンダリである配管等に開口を形成するような場合には、開口部分のシール構造が複雑なものとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2832443号公報
【特許文献2】特許第2537056号公報
【特許文献3】特許第3293928号公報
【特許文献4】特許第2896443号公報
【特許文献5】特許第2548721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした状況に鑑みて本発明はなされたもので、その目的とするところは、超音波を用いて、例えば原子炉の通常運転時に原子炉冷却材を内包して原子炉と同じ条件となり、異常時の圧力障壁を形成する原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する構造体(原子炉圧力容器、一次系配管等)の表面に付着した固形物の洗浄、除去を行う際、複雑な構成とならず、また洗浄対象部分への直接の装置設置や分解作業を要さず作業員の被爆量が軽減でき、さらに長時間を必要とせず、大幅にコスト上昇することもなく洗浄、除去を行うことができる超音波キャビテーション洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は上記目的を達成するものであって、内部が液体で満たされた円筒状をなす構造体の内表面の付着固体物を、超音波振動子の発する超音波を用いて洗浄、除去する超音波キャビテーション洗浄方法であって、前記構造体に外方側から前記超音波振動子の発する超音波を入射すると共に、入射する超音波の周波数を、超音波の1/2波長の整数倍と該構造体の厚さとが等しくなるよう調整し、調整した超音波を該構造体に入射して厚さ方向の共振を生起させ、該構造体の内表面にキャビティ泡を発生させるようにしたことを特徴とする方法である。
【0008】
また、内部が液体で満たされた円筒状をなす構造体の内表面の付着固体物を、超音波振動子の発する超音波を用いて洗浄、除去する超音波キャビテーション洗浄方法であって、前記構造体に外方側から前記超音波振動子の発する超音波を入射すると共に、入射する超音波の周波数を、波長の整数倍と該構造体の周方向長とが等しくなるよう調整し、調整した超音波を該構造体に入射して周方向の共振を生起させ、該構造体の内表面にキャビティ泡を発生させるようにしたことを特徴とする方法である。
【0009】
また、内部が液体で満たされた円筒状をなす構造体の内表面の付着固体物を、超音波振動子の発する超音波を用いて洗浄、除去する超音波キャビテーション洗浄方法であって、前記構造体に外方側から前記超音波振動子の発する超音波を入射すると共に、超音波の周波数を、該構造体の周方向の高次の固有周波数と一致するように調整し、周方向の共振を生起させ、該構造体の内表面にキャビティ泡を発生させるようにしたことを特徴とする方法である。
【0010】
また、内部が液体で満たされた円筒状をなす構造体の内表面の付着固体物を、超音波振動子の発する超音波を用いて洗浄、除去する超音波キャビテーション洗浄方法であって、前記構造体に外方側から複数の前記超音波振動子の発する各超音波を、位相を同期させるようにして入射すると共に、該超音波の周波数を、波長の整数倍と該構造体の周方向長とが等しくなるよう調整して周方向の共振をそれぞれ生起させ、該構造体の内表面にキャビティ泡を発生させるようにしたことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複雑な構成とならず、また洗浄対象部分への装置の直接設置や分解作業をする必要がなく、さらに長時間を必要とせず、作業員の被爆量が軽減でき、大幅にコスト上昇することもなく、超音波を用いて、例えば原子炉冷却材圧力バウンダリ等の構造体における付着固形物の洗浄、除去を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態における超音波洗浄装置の構成及び洗浄状態を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に使用される沸騰水型原子炉の概略を示す縦断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における洗浄方法を説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の変形形態における超音波洗浄装置を示す構成図で、図4(a)は第1変形形態の構成図、図4(b)は第2変形形態の構成図である。
【図5】本発明の第2の実施形態における超音波洗浄装置の構成及び洗浄状態を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施形態における超音波洗浄装置の構成及び洗浄状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
先ず本発明の第1の実施形態と変形形態を図1乃至図4により説明する。
【0015】
図1乃至図3において、超音波洗浄装置1は、20kHz以上の超音波を発する超音波振動子2を有する振動子部3と、超音波振動子2を駆動する発振回路等を設けて構成された駆動部4と、超音波振動子2の振動周波数が所定の周波数に、音圧が所定の音圧以上になるよう駆動部4を制御する制御部5を備えて構成されている。また振動子部3の超音波振動子2の先端部分には、必要に応じて取着される超音波の伝送効率を高めるためのホーン6が取着されている。
【0016】
そして洗浄を行うのに際し、超音波洗浄装置1の振動子部3を、洗浄対象である内部に液体、例えば原子炉冷却材である水7が満たされた、例えば図2に示すような沸騰水型原子力発電プラント等の原子炉8の原子炉圧力容器9やその付属物、原子炉冷却系を構成する再循環ポンプ10、ジェットポンプ11等の機器や配管12、接続配管などである原子炉冷却材圧力バウンダリ13を構成する円筒状をなす構造体14の外面に、ホーン6先端との間に密着性が悪い場合には超音波が良好に伝達されるように必要に応じて接触媒質を設けるようにして取り付ける。なお、15は炉心、16は炉心シュラウド、17は制御棒案内管、18は給水スパージャ、19は気水分離器、20は蒸気乾燥器であり、実線矢印は冷却材である水7の流れを示す。
【0017】
構造体14に外方側から振動子部3の取付けを行った後、制御部5による制御のもとに駆動部4を駆動させ、超音波振動子2から超音波を発生させ、超音波振動を構造体14に入射、伝播させる。このとき、構造体14には超音波振動子2から超音波の進行方向である厚さ方向に縦波が伝播される。そして伝播される超音波は、その周波数を制御部5の周波数調整を行うことで、図1に超音波波長Sを模式的に示すように、超音波の1/2波長の整数倍が構造体14の厚さtと等しくなるような所定の周波数に調整する。同時に、超音波の圧力振幅ΔP[Pa]が構造体14内部の水圧P1[Pa]と飽和蒸気圧Pv[Pa]との差よりも大きくなるように制御部5で調整する。
【0018】
これによって、超音波振動子2から発せられた超音波と構造体14との共振が厚さ方向で生起し、超音波は構造体14内で大きく減衰することなく構造体14内表面から内部の水7に伝播する。超音波が水7に伝播することでキャビティ泡21が発生し、構造体14内面の超音波キャビテーションによる洗浄が行われる。
【0019】
なお、超音波の水中の圧力振幅ΔP[Pa]を、構造体14内部の水圧P1[Pa]と飽和蒸気圧Pv[Pa]との差よりも大きくなるよう調整するのは、以下の理由による。
【0020】
すなわち、キャビテーションは、圧力が低下し、その圧力が飽和蒸気圧以下となった場合に、局所的に液相から気相になる現象で、超音波キャビテーションにおいては、
σ=(P1−Pv)/ΔP で定義されるキャビテーション数σによってキャビテーションの発生有無の評価が行われ、キャビテーション数σが1以下、
σ=(P1−Pv)/ΔP<1
にならないとキャビテーションは発生しないことになる。
【0021】
これを図示すると図3に示す通りで、水圧P1[Pa]と飽和蒸気圧Pv[Pa]に対し、超音波の音圧が大きく、実線Aで示す超音波波形に飽和蒸気圧Pv[Pa]以下の部分が生じ、圧力振幅ΔP[Pa]が(P1−Pv)より大きくなると、(P1−Pv)<ΔPの部分がキャビテーション発生領域Xとなる。また超音波の音圧が小さく、点線Bで示す超音波波形に飽和蒸気圧Pv[Pa]以下の部分が生じない状態だと、キャビテーション発生領域Xは生じない。しかし、実際には水中には気体が溶け込んでいるので、溶け込んでいる気体がキャビテーション核となって、キャビテーション数σが1より大きくても初生キャビテーションが発生する。こうして発生する初生キャビテーションの衝撃力は、気体のクッション効果によりあまり大きなものではない。
【0022】
このため、確実な洗浄効果が得られるよう、少なくともキャビテーション数σが1以下、すなわち、超音波の圧力振幅ΔP[Pa]の大きさが、洗浄対象とする構造体14内部の水の圧力P1[Pa]と飽和蒸気圧力Pv[Pa]との差よりも大きくなるように調整しなければならないことになる。ここで、圧力振幅ΔP[Pa]を、超音波強度I[W/m]、水密度ρ[kg/m]、水中での音速c[m/s]を用いて示すと、
ΔP=(2ρcI)1/2
となり、キャビテーション数σ<1となるように超音波強度I[W/m]を調整すればよい。このときの超音波強度I[W/m]については、超音波は構造体14を透過して水7に作用するため、構造体14透過後の超音波強度でなければならず、構造体14の透過率を加味した所要強度の超音波を構造体14に入射する。
【0023】
以上の通り本実施形態を構成することで、例えば内部に原子炉冷却材である水7が満たされた沸騰水型原子力発電プラント等の原子炉冷却材圧力バウンダリ13となる構造体14の内表面に、長期稼動によって冷却用の水7内の放射性不純物がクラッド等の固形物として付着した場合でも、超音波洗浄装置1の振動子部3を構造体14の外面に取り付け、外方側からの超音波を利用しての付着固形物の洗浄、除去が、作業者の被爆量を軽減した状態で簡単に行える。
【0024】
またこの際、超音波の周波数を構造体14の厚さtに対応して所定の適正周波数に調整し、圧力振幅も構造体14内部の水圧と飽和蒸気圧に対応して適正に調整するので、超音波振動子2からの超音波と構造体14の共振が生起し、さらに超音波が構造体14内で大きく減衰することなく効率よく内部の水7に伝播され、超音波キャビテーションの発生効率がより向上したものになり、構造体14内面の付着固形物の洗浄、除去が、キャビティ泡21の崩壊による高い衝撃圧が加わることによって、確実に行える。
【0025】
なお、上記において、構造体14の厚さtが不明の場合、また構造体14の透過率が不明の場合は、予め超音波振動子2に超音波を発する機能と共に受信の機能を持たせるようにして厚さ、あるいは透過率を求めるようにすればよい。例えば図4(a)に示す第1変形形態のように、超音波洗浄装置1aの振動子部3aを超音波振動子2と、超音波振動子2から発した超音波の反射波を受信する受信用振動子22とを設けて構成し、構造体14への超音波の入射時間と構造体14内面で反射した反射波の受信時間との時間差に基づき、制御部5aで演算を行い構造体14の厚さを求める。また透過率については、構造体14への入射波と受信した反射波の大きさの違いに基づき制御部5aで演算を行って求める。
【0026】
さらに、図4(b)に示す第2変形形態のように、超音波洗浄装置1bの振動子部3bを超音波の送信と受信が可能な超音波振動子2bで構成し、超音波振動子2bで超音波の構造体14への入射を外面から行うと共に、構造体14内面での反射波を受信し、受信回路23を介して制御部5bに入力し、同様に、構造体14への超音波の入射時間と構造体14内面からの反射波の受信時間との時間差に基づき、制御部5bで演算を行い構造体14の厚さを求める。また透過率についても、構造体14への入射波と受信した反射波の大きさの違いに基づき制御部5bで演算を行って求める。
【0027】
なおまた、構造体14に1つの振動子部3を取り付けるようにしたが、複数の振動子部3を取り付けるようにして、各超音波振動子2の周波数を互いに整数倍または1/2倍ずらすようにし、キャビテーションの発生する位置が細かく分布するようにして、構造体14内面をむらなく洗浄するようにしてもよい。
【0028】
(第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態を図5により説明する。なお、第1の実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、第1の実施形態と異なる本発明の実施の形態の構成について説明する。
【0029】
図5において、超音波洗浄装置31は、20kHz以上の超音波を発する超音波振動子32を有する振動子部33と、超音波振動子32を駆動する発振回路等を設けて構成された駆動部34と、超音波振動子32の振動周波数が所定の周波数に、音圧が所定の音圧以上になるよう駆動部34を制御する制御部35を備え、さらに超音波センサ36を備えて構成され、超音波センサ36の検出信号が制御部35に入力されるようになっている。
【0030】
そして洗浄を行うのに際し、超音波洗浄装置31の振動子部33を、洗浄対象である内部に液体、例えば水7が満たされた、例えば図2に示すような沸騰水型原子力発電プラントの原子炉冷却材圧力バウンダリ13を構成する円筒状をなす構造体14の外面に、ホーン6先端との間に必要に応じ接触媒質を設けるようにして取り付ける。また、超音波センサ36を、超音波の入射位置である振動子部33の取付け位置の反対側となる構造体14の対向位置(180度対称位置)に設ける。
【0031】
構造体14に振動子部33を入射位置に取り付け、超音波センサ36を設置した後、先ず制御部35による制御のもとに駆動部34を駆動させ、超音波振動子32から超音波を発生させ、超音波振動を構造体14に入射、伝播させ、超音波センサ36により構造体14に伝播された超音波を捕らえる。超音波を捕らえた後、制御部35において、超音波振動子32から発せられた超音波と超音波センサ36で捕らえた超音波の時間差、すなわち入射時間と捕捉時間の時間差に基づき、筒体状の構造体14の半周の長さを算出し、構造体14の周方向長(周方向の長さ)を得る。なお、構造体14の周方向長が明らかである場合は、超音波センサ36を用いての算出は不要となる。
【0032】
次に構造体14の周方向長を得た後、再び制御部35による制御のもとに駆動部34を駆動して超音波振動子32から超音波を発し、超音波振動を構造体14に入射、伝播させる。そして超音波振動子32から構造体14に伝播される超音波の周波数を調整し、超音波の進行方向(縦波伝播方向)に垂直な方向(横波伝播方向)となる構造体14の周方向長が、超音波波長の整数倍である所定周波数となるように周波数の調整を行う。
【0033】
このように超音波波長の整数倍が構造体14の周方向長に等しくなるような所定周波数に超音波を調整することで、図5に超音波波形を実線Cで模式的に示すように、超音波振動子32から発せられた超音波により構造体14の周方向の共振が生起し、定在波が生じる。超音波による構造体14の周方向の共振については、構造体14の周方向の高次の固有振動数に一致させるようにして生起させてもよい。また周方向の共振と同時に、構造体14の内表面における超音波の圧力振幅ΔP[Pa]が、構造体14内部の水圧P1[Pa]と飽和蒸気圧Pv[Pa]との差よりも大きくなるように制御部35での調整を行う。
【0034】
また、超音波による構造体14の共振が周方向で生起することで、超音波は構造体14内で大きく減衰することなく内表面から内部の水7に伝播する。超音波が水7に伝播することで定在波の圧力振幅が最大となる腹部分近傍にキャビティ泡21が発生し、構造体14内面の超音波キャビテーションによる洗浄が行われる。
【0035】
以上の通り本実施形態を構成することで、第1の実施形態と同様に、例えば内部に原子炉冷却材である水7が満たされた沸騰水型原子力発電プラントの原子炉冷却材圧力バウンダリ13等の構造体14の表面に、長期稼動によって冷却用の水7内の放射性不純物がクラッド等の固形物として付着した場合でも、超音波洗浄装置31の振動子部33を構造体14の外面に取り付け、外方側からの超音波を利用しての付着固形物の洗浄、除去が、作業者の被爆量を軽減した状態で簡単に行える。
【0036】
またこの際、超音波の周波数を構造体14の周方向長に対応して所定の適正周波数に調整され、圧力振幅も構造体14内部の水圧と飽和蒸気圧に対応して適正に調整がなされるので、超音波振動子32からの超音波と構造体14の共振が生起し、さらに超音波が構造体14内で大きく減衰することなく効率よく内部の水7に伝播され、超音波キャビテーションの発生効率がより向上したものになり、キャビティ泡21の崩壊による高い衝撃圧が加わって、構造体14内面の付着固形物を確実に洗浄、除去することができる。
【0037】
なお、本実施形態において、振動子部33が周波数スイープ機能を有するよう、例えば超音波振動子32の発する超音波周波数が連続可変、かつ周波数制御が可能となるよう構成し、制御部35による制御によって周波数連続可変の超音波を構造体14に周波数スイープを行いながら加えると共に、超音波センサ36により構造体14の振動変位又は受信される超音波の強度を測定し、振動変位又は超音波強度が最大となる周波数を予め求め、その最大となる周波数に超音波周波数を設定して超音波の入射を振動子部33から構造体14に行うことにより、共振周波数が不明であっても、構造体14を共振状態とすることができ、同様に、付着固形物を確実に洗浄、除去することができる。
【0038】
なおまた、構造体14に1つの振動子部33を取り付けるようにしたが、複数の振動子部33を取り付けるようにして、各超音波振動子32の周波数を互いに整数倍または1/2倍ずらすようにし、キャビテーションの発生する位置が細かく分布するようにして、構造体14内面をむらなく洗浄するようにしてもよい。
【0039】
(第3の実施形態)
次に本発明の第3の実施形態を図6により説明する。なお、第1、第2の実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、第1、第2の実施形態と異なる本発明の実施の形態の構成について説明する。
【0040】
図6において、超音波洗浄装置41は、それぞれ整数倍または1/2倍ずつ異なる周波数の超音波を発する複数の超音波振動子32a,32b,・・・をそれぞれ有する振動子部33a,33b,・・・と、超音波振動子32a,32b,・・・を駆動する発振回路等を設けて構成された駆動部34a,34b,・・・と、超音波振動子32a,32b,・・・の振動周波数が所定の周波数に、また音圧が所定の音圧以上になるよう駆動部34a,34b,・・・を制御すると共に、位相制御回路を設けて各超音波振動子32a,32b,・・・の振動位相を同位相、逆位相に同期させるよう位相制御を行う制御部42を備えて構成されている。
【0041】
そして洗浄を行うのに際し、超音波洗浄装置41の各振動子部33a,33b,・・・を、洗浄対象である内部に液体、例えば水7が満たされた、例えば図2に示すような沸騰水型原子力発電プラントの原子炉冷却材圧力バウンダリ13を構成する円筒状をなす構造体14外面の異なる取付け位置(超音波入射位置)に、ホーン6先端との間に必要に応じ接触媒質を設けるようにして、それぞれ取り付ける。
【0042】
構造体14に振動子部33a,33b,・・・を取り付けた後、先ず制御部42による制御のもとに駆動部34a,34b,・・・を駆動し、超音波振動子32a,32b,・・・から超音波を発し、超音波振動を構造体14に入射、伝播させる。さらに超音波振動子32a,32b,・・・から構造体14に伝播される超音波の周波数をそれぞれ調整し、超音波の横波伝播方向となる構造体14の周長が、超音波波長の整数倍である所定周波数となるように各超音波振動子32a,32b,・・・の超音波周波数の調整を行う。
【0043】
このように構造体14の周方向長が、波長の整数倍であるような所定周波数に各超音波を調整することで、図6に超音波波形を実線D,E,・・・で模式的に示すように、超音波振動子32から発せられた超音波により構造体14の周方向の共振が生起し、定在波が生じる。超音波による構造体14の周方向の共振は、構造体14の周方向の高次の固有振動数に一致させるようにして生起させてもよい。また周方向の共振と同時に、構造体14の内表面における各超音波の圧力振幅ΔP[Pa]が、構造体14内部の水圧P1[Pa]と飽和蒸気圧Pv[Pa]との差よりも大きくなるように制御部42での調整を行う。
【0044】
また、各超音波による構造体14の共振が周方向でそれぞれ生起することで、超音波は構造体14内で大きく減衰することなく内表面から内部の水7に伝播する。超音波が水7に伝播することで定在波の圧力振幅が最大となる腹部分近傍にキャビティ泡21が発生し、構造体14内面の超音波キャビテーションによる洗浄が行われる。このとき、複数の共振する周波数が構造体14に加わっていることで、構造体14の略全内面においてキャビティ泡21を発生させることができることになる。
【0045】
以上の通り本実施形態を構成することで、第1、第2の実施形態と同様に、例えば内部に冷却材である水7が満たされた沸騰水型原子力発電プラントの原子炉冷却材圧力バウンダリ13を構成する構造体14の表面に、長期稼動により冷却用の水7内の放射性不純物がクラッド等の固形物として付着した場合でも、超音波洗浄装置41の振動子部33a,33b,・・・を構造体14の外面に取り付け、外方側からの超音波を利用しての付着固形物の洗浄、除去が、作業者の被爆量を軽減した状態で簡単に行える。
【0046】
またこの際、各超音波の周波数を構造体14の周方向長に対応してそれぞれ適正周波数に調整し、圧力振幅も構造体14内部の水圧と飽和蒸気圧に対応して適正に調整するので、超音波振動子32a,32b,・・・からの超音波と構造体14の共振が生起し、さらに超音波が構造体14内で大きく減衰することなく効率よく内部の水7に伝播され、超音波キャビテーションの発生効率がより向上したものになり、キャビティ泡21の崩壊による高い衝撃圧が加わって、構造体14内面の付着固形物が確実に洗浄、除去することができる。
【0047】
さらに、複数の共振する周波数が構造体14に加わることで、構造体14の略全内面においてキャビティ泡21が発生し、洗浄むらを生じることなく付着固形物を洗浄、除去することができる。また複数の周波数における定在波が干渉し合うことによる音圧強度の強まりが生じ、干渉位置での付着固形物の洗浄、除去を効果的に行うことができ、振動子部33a,33b,・・・取付け位置を適正に選定することで、より効果的な洗浄、除去が行える。
【符号の説明】
【0048】
1,1a,1b,31,41…超音波洗浄装置、2,2a,2b,32,32a,32b…超音波振動子、3,3a,3b,33,33a,33b…振動子部、4,34,34a,34b…駆動部、5,5a,5b,35,42…制御部、6…ホーン、7…水、8…原子炉、9…原子炉圧力容器、10…再循環ポンプ、11…ジェットポンプ、12…配管、13…原子炉冷却材圧力バウンダリ、14…構造体、15…炉心、16…炉心シュラウド、17…制御棒案内管、18…給水スパージャ、19…気水分離器、20…蒸気乾燥器、21…キャビティ泡、22…受信用振動子、23…受信回路、36…超音波センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が液体で満たされた円筒状をなす構造体の内表面の付着固体物を、超音波振動子の発する超音波を用いて洗浄、除去する超音波キャビテーション洗浄方法であって、
前記構造体に外方側から前記超音波振動子の発する超音波を入射すると共に、入射する超音波の周波数を、超音波の1/2波長の整数倍と該構造体の厚さとが等しくなるよう調整し、調整した超音波を該構造体に入射して厚さ方向の共振を生起させ、該構造体の内表面にキャビティ泡を発生させるようにしたことを特徴とする超音波キャビテーション洗浄方法。
【請求項2】
前記構造体に入射した超音波の前記構造体内表面での反射波を受信するよう構成して超音波入射時と反射波受信時の時間差に基づいて該構造体の厚さを予め算出し、算出した該構造体の厚さと超音波の1/2波長の整数倍とが等しくなるよう超音波の周波数を調整し、調整した超音波を該構造体に入射して厚さ方向の共振を生起させることを特徴とする請求項1記載の超音波キャビテーション洗浄方法。
【請求項3】
内部が液体で満たされた円筒状をなす構造体の内表面の付着固体物を、超音波振動子の発する超音波を用いて洗浄、除去する超音波キャビテーション洗浄方法であって、
前記構造体に外方側から前記超音波振動子の発する超音波を入射すると共に、入射する超音波の周波数を、波長の整数倍と該構造体の周方向長とが等しくなるよう調整し、調整した超音波を該構造体に入射して周方向の共振を生起させ、該構造体の内表面にキャビティ泡を発生させるようにしたことを特徴とする超音波キャビテーション洗浄方法。
【請求項4】
超音波の入射位置の反対側となる前記構造体の対向位置に、該構造体を伝播してくる超音波を検知する超音波センサを設け、超音波入射時と前記超音波センサでの超音波受信時との時間差に基づいて該構造体の周方向長を予め算出し、算出した周方向長と波長の整数倍とが等しくなるよう超音波の周波数を調整し、調整した超音波を該構造体に入射して周方向の共振を生起させることを特徴とする請求項3記載の超音波キャビテーション洗浄方法。
【請求項5】
前記超音波振動子の発する超音波周波数を連続可変とし、予め周波数連続可変の超音波を前記構造体に周波数をスイープしながら加え、前記超音波センサで該構造体の振動変位又は超音波の強度を測定して振動変位又は超音波強度が最大となる周波数を求めた後、得られた最大となる周波数の超音波を該構造体に入射して周方向の共振を生起させることを特徴とする請求項3又は4記載の超音波キャビテーション洗浄方法。
【請求項6】
内部が液体で満たされた円筒状をなす構造体の内表面の付着固体物を、超音波振動子の発する超音波を用いて洗浄、除去する超音波キャビテーション洗浄方法であって、
前記構造体に外方側から前記超音波振動子の発する超音波を入射すると共に、超音波の周波数を、該構造体の周方向の高次の固有周波数と一致するように調整し、周方向の共振を生起させ、該構造体の内表面にキャビティ泡を発生させるようにしたことを特徴とする超音波キャビテーション洗浄方法。
【請求項7】
複数の超音波振動子を設けると共に、各超音波振動子の発する周波数が互いに整数倍又は1/2倍ずれた複数の超音波を、前記構造体にそれぞれ入射して共振を生起させ、該構造体の内表面にキャビティ泡を発生させるようにしことを特徴とする請求項1又は3又は6に記載の超音波キャビテーション洗浄方法。
【請求項8】
内部が液体で満たされた円筒状をなす構造体の内表面の付着固体物を、超音波振動子の発する超音波を用いて洗浄、除去する超音波キャビテーション洗浄方法であって、
前記構造体に外方側から複数の前記超音波振動子の発する各超音波を、位相を同期させるようにして入射すると共に、該超音波の周波数を、波長の整数倍と該構造体の周方向長とが等しくなるよう調整して周方向の共振をそれぞれ生起させ、該構造体の内表面にキャビティ泡を発生させるようにしたことを特徴とする超音波キャビテーション洗浄方法。
【請求項9】
前記構造体の内表面における超音波の圧力振幅の大きさが、該構造体内部の液体の圧力と飽和蒸気圧力との差よりも大きくなるように調整することを特徴とする請求項1又は3又は6又は8記載の超音波キャビテーション洗浄方法。
【請求項10】
前記構造体の内表面における超音波の圧力振幅が、予め前記構造体に入射した超音波の入射波の圧力振幅と、入射した超音波の前記構造体内表面での反射波の圧力振幅との大きさの差に基づいて算出した超音波透過率を乗じた値であることを特徴とする請求項9記載の超音波キャビテーション洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−78894(P2011−78894A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232301(P2009−232301)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】