説明

超音波振動子

【課題】送信時に十分なパワーを発生でき、且つ、受信時に十分な感度を得られる超音波振動子を構成する。また、DCバイアスを必要としない超音波振動子を構成する。
【解決手段】超音波振動子は複数のセル14を有する。各セル14において、キャビティ20の上方には振動膜22が設けられ、それはシグナル電極層24及びグランド電極層26を備えている。振動膜22の本体は圧電材料を含み、そこでの圧電効果により生じた電圧が2つの電極層24,26により検知される。キャビティ20の上方には振動膜22と共に運動するマグネット30が設けられ、その下方には電磁石チップ36が設けられている。電磁石チップ36が交番磁界を生じさせ、これによりマグネット30に吸着力及び反発力が周期的に生じる。その結果、振動膜22が超音波振動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波振動子に関し、特に、半導体製造技術によって製作される微細構造をもった超音波振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野においては超音波診断が広く普及している。超音波診断では、超音波探触子(プローブ)が生体表面上に当接され、超音波の送受波が行われる。超音波の送受波は実際には超音波探触子内の超音波振動子(超音波送受波器)によって行われる。超音波振動子としては1Dアレイ振動子等が知られている。それは一次元配列された複数の振動素子によって構成される。2Dアレイ振動子等の他のタイプの超音波振動子も実用化されている。
【0003】
超音波振動子は、典型的には、PZTなどの圧電セラミック材料により構成される。近時、新しいタイプの超音波振動子として、半導体製造技術を用いて製作される容量性超音波トランスデューサ(cMUT: Capacitive Micro-machined Ultrasonic Transducers)が提案されている。cMUTは、シリコン基板上に形成された多数の微小セルを有する。各セルは微小の間隙を有し、その底面には一方の電極が配置され、その上部には他方の電極を備えた振動膜が設けられる。2つの電極間に電圧を印加することによって静電作用により振動膜が振動し、これによって超音波が生成される。生体内からの反射波は振動膜において受波され、一対の電極間の容量に変化を生じさせる。それを検知することによって受信信号が生成される。
【0004】
上記cMUTとは別の超音波振動子としてpMUT(Piezoelectric Micro-machined Ultrasonic Transducer) も知られている。これは上記cMUTと同様に半導体製造技術を使って製作されるものであるが、振動膜として圧電材料を有する膜を使用するものである。例えば、送信時にはcMUTと同様、当該膜の一方の電極と振動膜直下の空隙底面の電極に電圧を印加し、それによる静電作用により超音波振動が生成される。受信時には当該膜が反射波を受けることによって圧電効果により生じた起電力が膜の両面間で検出される。特許文献1には、cMUTとpMUTを複合化した超音波振動子が開示されている。その超音波振動子において、振動膜としては圧電材料膜が使用されている。これは送信時にcMUTとして動作し、受信時にpMUTとして動作するものである。
【0005】
なお、特許文献2にはDCバイアス不要の磁力型電気機械変換装置が開示されている。その動作メカニズムの詳細は不明なるものの、磁力を利用して振動膜が振動されているようである。これは指向性スピーカ用音源、インパルス信号発生器、として利用されるものであり、また超音波センサの音源等として利用されるものである。すなわち、超音波の送信だけを行うものである。送受信に機能する素子はこの特許文献2には記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−229328号公報
【特許文献2】特開2005−027186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、新しいタイプの超音波振動子を提供することを目的とし、特に、送信時に十分なパワーを発生でき、受信時に十分な感度を得られる超音波振動子を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、DCバイアスを必要としない超音波振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る超音波振動子は、基板上に形成された複数の送受波セルを含み、前記各送受波セルは、圧電材料を含む圧電層と当該圧電層の前面及び背面に形成された一対の電極層とを有し超音波振動可能な振動膜と、前記振動膜に取り付けられた可動磁性層と、前記振動膜の背面側において前記振動膜から隔てて設けられた固定磁性層と、を有し、前記可動磁性層と前記固定磁性層の少なくとも一方が送信信号によって磁場を生じさせる磁場発生器として構成され、送信時には磁気作用によって前記振動膜に超音波振動が引き起こされ、受信時には前記振動膜での圧電効果によって受信信号が生成される、ことを特徴とするものである。
【0010】
上記構成によれば、送信時には可動磁性層と固定磁性層の少なくとも一方において磁場が生じ、磁気作用によって可動磁性層を担持した振動膜に超音波振動が生じる。これにより送信波が生じてそれが生体へ放射される。受信時には振動膜における圧電効果により一対の電極層の間に電圧が生じ、それによって受信信号が生成される。送信時に磁気作用を利用するから、つまり吸引作用と反発作用の両方を利用可能であるから、DCバイアスによる予備変形の生成は必ずしも必要ではない。しかも磁気作用を利用して振動膜を大きく振動させることが容易なので大きな超音波パワーを生成可能である。受信時においては圧電作用を利用して微弱信号を感度よく検知することが可能である。振動膜それ自体が大きく振動しなくてもそれにおいて歪みが生じれば受信波を検出可能である。なお変形例としては受信時において振動膜の振動により磁性体間で誘起される起電力を検出することがあげられる。
【0011】
上記の超音波振動子は半導体製造技術(具体的にはリソグラフィ、エッチング、堆積等の技術)あるいはマイクロマシン技術を利用して製作可能である。送信部及び受信部は基板上に形成して、超音波振動子と一体化するのが望ましい。振動膜を構成する圧電部材としては高分子圧電材、PZT等があげられる。
【0012】
望ましくは、前記可動磁性層と前記固定磁性層の内の一方が前記磁場発生器として構成され、前記可動磁性層と前記固定磁性層の内の他方が磁性材料により構成され、前記可動磁性層と前記固定磁性層との間での磁気吸着作用と磁気反発作用とにより前記振動膜に超音波振動が生じる。送信信号は交番特性を有する磁気生成信号として構成される。
【0013】
望ましくは、前記可動磁性層が磁性材料により構成され、前記固定磁性層が前記磁場発生器として構成される。この構成によれば磁場発生器が固定側となるので振動膜の負荷を低減できる。磁性材料は永久磁石のような材料からなる薄膜層であってもよい。
【0014】
望ましくは、前記各送受波セルは、前記振動膜の背面側に設けられた空洞を有する。空洞を形成すれば振動膜の運動空間を確保してその運動を促進できる。
【0015】
なお、振動素子が複数の送受波セルにより構成される場合、それらが有する複数の電極を電気的に共通接続するようにしてもよい。電子走査方向に直交する方向につき個別的に制御して重み付け、開口可変、等を行うようにしてもよい。1Dアレイ振動子ではなく2Dアレイ振動子が構成されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、新しいタイプの超音波振動子を提供でき、特に、送信時に十分なパワーを発生でき、受信時に十分な感度を得られる超音波振動子を提供できる。あるいは、本発明によれば、DCバイアスを必要としない超音波振動子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る超音波振動子の上面図である。
【図2】本発明に係る超音波振動子の断面図である。
【図3】他の実施形態に係る超音波振動子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1には、本発明に係る超音波振動子の好適な実施形態が示されており、図1はその概略的な上面図である。この超音波振動子は生体(人体)の超音波診断において用いられるものであり、具体的には生体に当接される超音波探触子(プローブ)の中に設けられて、超音波の送受波を行うものである。図1において、超音波振動子10は、セルアレイ12を有している。セルアレイ12は、2次元的に密集配列された複数のセル14からなる。各セル14は送受波単位としての送受波器を構成するものであり、本実施形態において各セル14は上方から見て六角形を有している。もちろん他の形状を有していてもよい。
【0020】
符号16によって示されるハッチングされた複数のセルが1つの振動素子を構成している。すなわち電子制御の1単位を構成している。図1において、X方向が電子走査方向であり、Y方向が電子走査方向に直交するエレべーション方向である。そのエレべーション方向に重み付けや開口可変を行えるように、個々の超音波振動素子に対して電子的な制御を適用するようにしてもよい。図1に示される超音波振動子はいわゆる1Dアレイ振動子であるが、本発明は1.5Dアレイ振動子や2Dアレイ振動子に対しても適用することも可能である。
【0021】
図2には、図1に示した超音波振動子の概略的な断面図が示されている。それぞれの部材の厚みやサイズは発明説明のためのものであり、実施に際しては適切な厚みやサイズが適用される。図2において、Xは上述したように電子走査方向を表しており、Z方向が厚み方向である。そのZ方向が送受波方向であり、図2においては上方が生体側に相当する。
【0022】
基板18は平板状のシリコンプレートとして構成されている。その上層において複数のセル14が半導体製造技術を利用して製作されている。複数のセル14の間は仕切り壁18Aである。
【0023】
以下に、各セル14の構造について説明する。セル14は空洞室としてのキャビティ20を有している。そのキャビティ20は井戸状の形態を有している。キャビティ20の上部には水平方向に広がった薄い層としての振動膜22が設けられている。各セルの振動膜22が連なって単一の膜を構成するように構成してもよいし、各セル毎に振動膜22を設けるようにしてもよい。図2においては単一の振動膜が採用されている。振動膜22はその本体として圧電層を有しており、その圧電層はPVDFあるいはPZT等によって構成される。すなわち圧電層は圧電効果を生じる材料を含んで構成される。振動膜22の下面側、具体的には各セル14に対応した底の部分にはシグナル電極層24が形成されている。一方、振動膜22の上面側には全面的にグランド電極層26が構成されている。後に説明するように受信時においてシグナル電極層24とグランド電極層26との間に生じる電圧が検出される。
【0024】
振動膜22の上方は保護層32によって覆われている。保護層32の上面が生体に対して直接的に当接されてもよいし、更に整合層あるいはケーシング部材などを介して生体に当接されるように構成してもよい。保護層32は、振動膜22の自然状態においてその中央部が各セル14毎に下方にやや下がっていることに対応して、保護層32においても各セル14毎にキャビティ20側にやや落ち込んだ形態を有している。ただしその上面が符号34に示されるように平坦であってもよい。
【0025】
振動膜22の背面側すなわち下側にはスペーサとしての絶縁層28を介してマグネット30が設けられている。このマグネット30は磁性材料により構成され、特に強磁性材料により構成されるのが望ましい。キャビティ20の底面上には電磁石チップ36が設けられている。この電磁石チップ36は送信時において磁場を発生する磁場発生器である。例えば電磁石チップ36は渦巻き型のシグナルラインを有する。それによって交番磁界を生じさせるようにしてもよい。本実施形態においては、送信時においてこのような電磁石チップ36によって生じる磁場により各セル14毎に振動膜22を上下に振動させることが可能である。その場合においては吸引力に加えて反発力も利用することが可能である。その結果、従来の静電気型の送受波器のようにDCバイアスによる予備吸引作用等を必要としないセル構造を実現することが可能である。
【0026】
電磁石チップ36にはライン38,40を介して外部電極42,44が接続され、更にそれらは送信部46に接続されている。また、各セルにおけるシグナル電極層24とグランド電極層26はライン50,52を介して受信部48に接続されている。送信部46は、送信時において各セル毎に超音波振動を生じさせるための高周波信号を供給するものである。その高周波信号は高周波磁場を生じさせる信号である。受信部48は、各セル毎に生じる圧電効果の結果としての電圧信号を検知し、これによって受信信号を生成する。図2においては、送信部46及び受信部48が基板18の外部に描かれているが、送信部46及び受信部48を基板18上に形成するのが望ましい。すなわち半導体技術を使って送信アンプや受信アンプあるいは整相加算部等を形成するのが望ましい。
【0027】
次に、各セル14の動作について説明する。送信時においては、送信部46からセル14における電磁石チップ36に対して高周波信号が供給される。これにより電磁石チップ36において磁場が発生し、その磁場を受けるマグネット30において吸引力及び反発力が交互に生じる。振動膜22はマグネット30を担持しているため、そのような吸引力及び反発力の作用により振動膜22それ自体が超音波振動する。それが生体側に伝達され、超音波送信信号として伝達されることになる。
【0028】
一方、受信時において、生体内からの反射波が各セル14において検知される。具体的には、振動膜22が超音波振動をした結果、そこに含まれている圧電材料の圧電作用が発現し、2つの電極間に電圧が生じる。電圧が一対の電極層24,26により検知され、受信部において増幅されることになる。したがって、送信時においては磁力を利用可能であるので強大な送信パワーを容易に得られるという利点がある。特に、本実施形態においてはキャビティ20が設けられているため、振動膜22の全体的な運動を許容することができ、送信パワーを出し易いという利点が得られる。受信時においては微小な振動を圧電効果により高感度に検知できるという利点が得られる。本実施形態においては、いずれにしてもDCオフセットは不要になるから、従来の静電作用を利用した送受波器における問題を解消することが可能である。
【0029】
なお、上記の超音波振動子は半導体製造技術を利用して製造することが可能であり、すなわちリソグラフィー技術、エッチング技術、整膜技術、貼り合わせ技術等を利用して超音波振動子を構成可能である。その場合においては一度に多数のセルを形成可能であり、更に送信部及び受信部を同じ基板上に形成可能であるから、実用性の高い超音波振動子を構成可能である。
【0030】
図3には、他の実施形態が示されている。この実施形態において、超音波振動子54は複数のセルアレイ56を有し、それは複数のセル58を有している。各セル58は上方から見て四角形の形態を有している。ここで符号60,62,64が1つの振動素子を示しており、それらの間に存在するセル66,68は音響的なクロストークを防止するためのものとして機能している。もちろん、それらのセルも含めてアレイ振動子を構成してもよい。
【符号の説明】
【0031】
10 超音波振動子、12 セルアレイ、14 セル、16 振動素子、18 基板、20 キャビティ、22 振動膜、24 シグナル電極層、26 グランド電極層、30 マグネット、36 電磁石チップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された複数の送受波セルを含み、
前記各送受波セルは、
圧電材料を含む圧電層と、当該圧電層の前面及び背面に形成された一対の電極層と、を有し、超音波振動可能な振動膜と、
前記振動膜に取り付けられた可動磁性層と、
前記振動膜の背面側において前記振動膜から隔てて設けられた固定磁性層と、
を有し、
前記可動磁性層と前記固定磁性層の少なくとも一方が送信信号によって磁場を生じさせる磁場発生器として構成され、
送信時には磁気作用によって前記振動膜に超音波振動が引き起こされ、受信時には前記振動膜での圧電効果によって受信信号が生成される、ことを特徴とする超音波振動子。
【請求項2】
請求項1記載の超音波振動子において、
前記可動磁性層と前記固定磁性層の内の一方が前記磁場発生器として構成され、
前記可動磁性層と前記固定磁性層の内の他方が磁性材料により構成され、
前記可動磁性層と前記固定磁性層との間での磁気吸着作用と磁気反発作用とにより前記振動膜に超音波振動が生じる、ことを特徴とする超音波振動子。
【請求項3】
請求項2記載の超音波振動子において、
前記可動磁性層が磁性材料により構成され、
前記固定磁性層が前記磁場発生器として構成された、ことを特徴とする超音波振動子。
【請求項4】
請求項1記載の超音波振動子において、
前記各送受波セルは、前記振動膜の背面側に設けられた空洞を有する、ことを特徴とする超音波振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−175507(P2012−175507A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36868(P2011−36868)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】