説明

超音波探傷方法及び超音波探傷装置

【課題】被検査材の超音波特性が未知の場合でも、超音波特性に基づき探傷感度を適正化した超音波探傷装置を提供する。
【解決手段】円筒状構造物あるいは円柱状構造物に設置した第一,第二の超音波探触子と超音波探傷器と、探触子移動制御器と、演算処理する探傷制御器から成る。探傷制御器は、基準検出レベルを記憶する探傷感度データベースから、基準検出レベルの呼び出しを行う基準感度設定手段、超音波探触子を用いた超音波透過法による透過法エコー強度及び前記探傷感度データベースに記憶された対比試験体を用いた試験で求めた透過法エコー強度に基づいて補正強度を求める補正強度算出手段、基準検出レベル及び前記補正強度より欠陥検出レベルを求める探傷感度設定手段、超音波探触子で超音波反射法による反射エコー強度を測定する欠陥部探傷手段、前記欠陥検出レベルと前記反射エコー強度を比較して欠陥を判定する欠陥判別手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状構造物あるいは円柱状構造物の外周側に形成された溝を検査する超音波探傷方法及び超音波探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンと発電機を備えた発電プラントにおいては、蒸気タービンのロータシャフトの端部と発電機のロータシャフトの端部を略円筒状のカップリングで連結して、蒸気タービンの回転力を発電機に伝達するようになっている。ロータシャフトとカップリングとの接続方法の一例として、特許文献1には、ロータシャフトの外周側に略直方体状のキー溝を形成し、カップリングの内周側に略直方体状のキーを形成し、ロータシャフトのキー溝にカップリングのキーを挿入しつつ、ロータシャフトの外周側にカップリングを焼嵌めする方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、超音波の減衰が問題となるような厚板材の超音波探傷において、被試験材料毎に標準欠陥加工を施して探傷距離振幅補正を行う必要がなく、任意の標準試験片の距離振幅特性曲線を設定したのちは、単に被試験材に対する超音波後方散乱パターンの測定のみで、正確かつ適正な探傷距離振幅補正が行える超音波探傷距離振幅補正装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−231705号公報
【特許文献2】特開昭63−222260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したロータシャフトの構造では、例えばロータシャフトの回転加速に伴い、キー溝における4つのコーナ部に、ねじれ応力が集中する。そして、一般に、応力集中によってキー溝のコーナ部にき裂が発生することのないように、ロータシャフトの材質や構造等が決められている。具体例の一つとして、キー溝のコーナ部は、応力集中を分散しやすいように曲面形状となっている。しかしながら、キー溝のコーナ部にき裂が万一発生していないかどうかを検査することが好ましく、初期段階のき裂を検出できることが好ましい。なお、キー溝のコーナ部に発生する初期段階のき裂は、ロータシャフトの軸方向に対して斜め方向に延在する。
【0006】
ロータシャフトのキー溝のコーナ部を検査する方法としては、ロータシャフトからカップリングを取外すことが困難である等の理由から、超音波探触子等を用いて探傷する超音波探傷方法が考えられる。すなわち、ロータシャフトの外周面の非カップリング領域(言い換えれば、カップリングが設けられていない領域)に超音波探触子を配置し、この超音波探触子からロータシャフトの外周面に対し斜めに超音波を入射させてキー溝のコーナ部の近傍(詳細には、き裂が存在しそうな範囲であって、コーナ部の表面から部材側に数ミリメートルの範囲)に到達させ、き裂が存在する場合はその反射波を超音波探触子で受信する方法である。
【0007】
ここで、き裂からの信号とき裂以外の信号(例えば、超音波探傷器材のノイズ)を分別するために、超音波探傷では予め超音波探傷感度の設定(欠陥検出レベルの設定)を行う。このためには、被検査材料の超音波減衰量(超音波伝播損失)などの超音波特性を把握する必要がある。超音波特性が既知、あるいは過去の検査において超音波検査が実施されていれば、超音波特性は算出できる。
【0008】
しかし、超音波特性が未知、あるいは過去の検査において超音波検査が未実施である場合、材料中の超音波エコー強度を測定して超音波特性を評価して、超音波特性を考慮した補正感度により超音波の探傷感度(欠陥検出レベル)を調整する必要がある。仮に、超音波減衰が大きい材料の場合、き裂からの超音波の受信波信号強度が小さくなり、適切な探傷感度に設定していない場合には、き裂からの信号が検出限界しきい値より小さくなり、き裂と判別できずにき裂を見落とすことになる。
【0009】
上述した超音波探傷などの一般的な超音波探傷において、超音波減衰を測定するためには、部材の一様平坦な底面部を使い、底面部に向かって超音波の送信および受信を行い、その底面反射波のエコー強度の低下率と超音波伝播距離から超音波減衰量を測定する。しかし、ロータシャフトには中心孔がある場合があり、この中心孔では安定した底面反射波を受信することは難しい。なお、部材角部などの形状特徴部がある場合、形状特徴部からの反射波のエコー強度から超音波減衰量を測定することもできる。しかし、ロータシャフトの形状特徴部はキー溝の角部のみであり、キー溝はカップリング下部にあるため、キー溝角部の表面状態を目視などにより確認することはできない。そのため、キー溝角部に表面きずやき裂がある場合や油等の付着物がある場合、安定した受信波が得られないことがある。このため、超音波探傷を行ううえで、探傷結果の信頼性の点で改善の余地がある。
【0010】
そこで、本発明は、非解体検査において、被検査材の超音波特性が未知、あるいは過去の検査において超音波検査が未実施である場合であっても、探傷結果の信頼性を向上させる超音波探傷方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、円筒状構造物あるいは円柱状構造物における超音波探傷方法において、前記円筒状構造物あるいは前記円柱状構造物の外表面に設置した第一の超音波探触子及び第二の超音波探触子を用いた超音波透過法による透過法エコー強度から、前記円筒状構造物あるいは前記円柱状構造物の超音波特性を評価する超音波探傷方法である。
【0012】
(2)円筒状構造物あるいは円柱状構造物における超音波探傷装置において、前記円筒状構造物あるいは前記円柱状構造物の外表面に設置した第一の超音波探触子及び第二の超音波探触子と、対比試験体を用いた試験で求めた基準検出レベルを記憶する探傷感度データベースから、前記基準検出レベルの呼び出しを行う基準感度設定手段及び、前記超音波探触子を用いた超音波透過法による透過法エコー強度及び前記探傷感度データベースに記憶された対比試験体を用いた試験で求めた透過法エコー強度に基づいて補正強度を求める補正強度算出手段及び、前記基準検出レベル及び前記補正強度より欠陥検出レベルを求める探傷感度設定手段及び、前記超音波探触子で超音波反射法による反射エコー強度を測定する欠陥部探傷手段及び、前記欠陥検出レベルと前記反射エコー強度を比較して欠陥を判定する欠陥判別手段を備えた探傷制御器と、を有する超音波探傷装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ロータシャフトの超音波検査において、探傷結果の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の検査対象であるロータシャフトの構造を表す斜視図である。
【図2】本発明の検査対象であるロータシャフトのキー溝の構造を表すY−Z面断面図,X−Y面断面図、及びZ−X面断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における超音波探傷装置の構成を、ロータシャフトとともに表す概略図である。
【図4】図3における探傷制御器11を構成する機能のブロック図である。
【図5】本発明の一実施形態における超音波透過法による超音波エコー強度測定時の超音波探触子の配置を表すZ−X面平面図及びX−Y面断面図である。
【図6】本発明の一実施形態におけるキー溝部の欠陥検査時の超音波探触子の配置を表すZ−X面平面図及びX−Y面断面図であり、検査対象のコーナ部の近傍に超音波を照射する場合を示す。
【図7】本発明の一実施形態における超音波探傷装置の制御処理内容を表すフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態における対比試験体及び実機ロータ材での超音波の受信波振幅−時間に関するグラフである。
【図9】本発明の一実施形態における超音波の受信波振幅−時間に対するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1は、本発明の検査対象であるロータシャフトの構造を表す斜視図である。発電機のロータシャフト1は、厚肉で、その直径が数百ミリメートルに及ぶものもある。この発電機のロータシャフト1の端部と図示しない蒸気タービンのロータシャフトの端部は、略円筒状のカップリング2(図1中、便宜上、二点鎖線で示す)で連結されている。すなわち、ロータシャフト1端部の外周側にカップリング2が焼嵌めされている。ロータシャフト1はロータシャフト軸中心部に中心孔3が加工されている。
【0017】
また、ロータシャフト1の端部の外周側には略直方体状のキー溝4が形成されている。
なお、図1では、便宜上、キー溝4を1つだけ示しているが、周方向に2つ以上あってもよい。そして、カップリング2の内周側には略直方体状のキー(図示せず)が形成されており、このキーがロータシャフト1のキー溝4に嵌合されている。
【0018】
図1に示す座標系は、ロータシャフト1の軸心をZ軸にとっている。また、ロータシャフト1の軸心と直交する径方向断面において、ロータシャフト1の軸心Oとキー溝4の幅方向中心(X−Y面におけるキー溝4の中心)を結ぶ直線をY軸にとり(Y軸はZ軸と直交する)、ロータシャフト1の軸心Oを通ってY軸及びZ軸に直交する直線をX軸にとっている。図2(a),(b)、及び(c)は、ロータシャフト1のキー溝4の構造を表すY−Z面断面図,X−Y面断面図、及びZ−X面断面図である。
【0019】
ロータシャフト1のキー溝4はコーナ部4aから4dを有し、これらコーナ部4a〜4dは曲面形状となっている。キー溝4のコーナ部4a〜4dのうち、例えばロータシャフト1の回転方向側(図2(b)右側,図2(c)上側)に位置するコーナ部4b,4dは、ロータシャフト1の回転加速時にねじれ応力が集中する部位である。反対側(図2(b)左側,図2(c)下側)に位置するコーナ部4a,4cは、ロータシャフト1の回転減速時にねじれ応力が集中する部位である。特に、コーナ部4a,4bはカップリング端に位置するため、応力集中が大きくなる可能性がある。そこで、コーナ部4a,4bにき裂が万一発生していないかどうかを、後述する超音波探触装置により検査することが好ましい。なお、図示のようにコーナ部4a,4bに初期段階のき裂5が発生した場合、このき裂5はロータシャフト1の軸方向に対して斜め方向(約45度の方向)に延在する。
【0020】
図3は、本発明の一実施形態における超音波探傷装置の構成を、ロータシャフト1とともに表す概略図である。本実施形態の超音波探傷装置は、ロータシャフト1の外周面に超音波を送信および受信する2つの超音波探触子6a,6bを有している。なお、超音波探触子には斜角探触子を用いた場合を本実施例では述べるが、フェーズドアレイ法に用いる超音波アレイセンサや、磁石とコイル等からなる電磁超音波探触子を用いた場合でも検査可能である。超音波探触子6aと6bは同一機能を有している。フェーズドアレイ法に用いる超音波アレイセンサは、アレイセンサを構成する複数個の振動子に加える電圧の印加時間を制御することで、ビームの伝搬方向だけでなく、任意の位置に焦点域を変えることができるのが大きな特徴である。
【0021】
この超音波探傷装置の駆動系は、大別して、超音波探触子6a,6bをロータシャフト1の外周面の非カップリング領域に沿ってロータシャフト1の軸方向及び周方向に移動させる探触子移動機構と、制御系とで構成されている。探触子移動機構は、ロータシャフト1の外周側に取付けられ、ロータシャフト1の全周に亘って延在する円環状のレール7と、このレール7上に(すなわち、ロータシャフト1の周方向に)移動できるように設けられたスキャナ8a,8bと、このスキャナ8a,8bからロータシャフト1の軸方向に延在するアーム9a,9bと、このアーム9a,9b上に(すなわち、ロータシャフト1の軸方向に)移動できるように設けられ、超音波探触子6a,6bを固定保持する探触子保持部(図示せず)とを備えている。超音波探触子6a,6bは本実施例の特徴である超音波透過法による測定時と、キー溝部の欠陥検出試験時とでは超音波の送信および受信方向が異なるため、探触子保持部にはロータシャフト外面の法線方向に対して回転走査できる機構を備えている。また、スキャナ8aと8b、アーム9aと9bは同一機能を有している。
【0022】
制御系は、超音波探傷器10,探傷制御器11,探触子移動制御器12、及び表示器(モニタ)13を備えている。超音波探傷器10は超音波探触子6a,6bに接続し、超音波の送信信号の制御および受信信号の収録とデジタル化等を行っている。探傷制御器11及び探触子移動制御器12は、互いに連携して制御を行う。探傷制御器11は、超音波探傷器10での超音波の送信指示及び受信波の数値解析,記録とともに、探傷情報(超音波探触子6a,6bの位置情報と受信波の情報を含む)を演算処理する。探触子移動制御器12は、レール7上のスキャナ8a,8bの移動(超音波探触子6a,6bのX軸及びY軸方向の移動)及びアーム9a,9b上の探触子保持部の移動(超音波探触子6a,6bのZ軸方向移動)を制御して、超音波探触子6a,6bの位置を調整する。また、探触子保持部では超音波探触子6a,6bのロータシャフト表面での保持と超音波探触子の回転走査を行う。表示器13は、探傷制御器11及び探触子移動制御器12からの出力信号に基づき、超音波探触子6a,6bの位置や探傷結果等を表示する。
【0023】
図4に探傷制御器11を構成する機能ブロック図を示す。探傷制御器11は、探傷感度データベース11a,基準感度設定手段11b,超音波透過法測定手段11c,超音波透過法強度算出手段11d,補正強度算出手段11e,探傷感度設定手段11f,欠陥部探傷手段11g,信号強度抽出手段11h,欠陥判別手段11iを有しており、図4に示すブロック図のように機能連携している。
【0024】
探傷感度データベース11aはロータ寸法,材質,運転条件等の条件に応じたき裂の探傷感度条件などに関する探傷条件データを保持しており、検査開始時の装置操作者が探傷条件データを設定する。このデータは検査対象形状を模擬した対比試験体で予め取得した探傷データに基づいている。このデータが基準感度設定手段11bに送られ、超音波探傷時の欠陥判別しきい値である基準検出レベルとなる。ここで、ロータ材が対比試験体と同じ材料、あるいは超音波減衰,音速などの超音波特性が同じ材料である場合、基準感度設定手段11bで得た基準検出レベルのエコー強度の値と探傷感度設定手段11fで得たエコー強度の値は同値となり、この値を欠陥検出レベルとして設定する。
【0025】
しかし、ロータ材の超音波減衰,音速などの超音波特性が未知である材料、あるいは超音波特性が異なる材料の場合、超音波透過法測定手段11cが動作する。超音波透過法測定手段11cでは、超音波探触子6a及び6bの屈折角(ロータ材中への超音波入射角)とロータ径から算出した超音波探触子間距離sを離して設置し、超音波透過法による超音波試験を行う。
【0026】
一般的な超音波探傷では1つの超音波探触子で超音波の送信と受信を行い、底面部,角部などの反射源からの反射波を使った測定を行う(反射法という)。しかし、ロータ材では適切な反射源がないため、反射法は適用できない。一方、超音波透過法では一対の超音波探触子を用い、一方の超音波探触子(例えば6a)から材料内へ超音波を送信し、もう一方の超音波探触子(例えば6b)で材料中を伝播した超音波を受信する。この方法では、反射源がない場合でも、超音波の受信が可能であり、超音波特性を調査することができる。ここで、ロータ材の超音波減衰などの超音波特性に影響を及ぼす因子として、ロータ材の結晶粒の大きさが挙げられる。これは、ロータ材製造時の機械的強度向上のための熱処理の過程で生じる。一般に、結晶粒が大きいと超音波減衰は大きくなり、超音波のエコー強度が低下する。エコー強度は超音波の振幅である。そこで、超音波の透過法エコー強度を比較することで、材料間の超音波特性の差を評価でき、適切な探傷感度設定(欠陥検出レベル設定)ができる。
【0027】
超音波透過法強度算出手段11dでは、超音波透過法測定手段11cで取得した透過法エコー強度を抽出する。補正強度算出手段11eでは、超音波透過法強度算出手段11dで抽出した透過法エコー強度と、探傷感度データベース11aに予め記憶していた対比試験体での透過法エコー強度に基づいて、欠陥探傷時の補正強度を算出する。探傷感度設定手段11fでは、基準感度設定手段11bで設定した基準検出レベルと補正強度算出手段11eで算出した補正強度を考慮した欠陥検出レベルを設定する。
【0028】
欠陥部探傷手段11gでは、キー溝に発生する欠陥探傷に関する走査を行う。探触子移動制御器12には、欠陥探傷を実施する位置への超音波探触子6a,6bの移動指示を出す。また、欠陥部探傷手段11gは、超音波探傷器10に対して超音波探触子6a,6bの移動に応じた超音波の送信指示を出す。この時、超音波探傷器10で反射法による超音波の送信及び受信を行うように指示を出す。また、超音波探触子6a,6bはそれぞれ独立した送信および受信を行う。超音波探傷器10での受信信号は欠陥部探傷手段11gを通して信号強度抽出手段11hに送られる。信号強度抽出手段11hでは、超音波探触子と欠陥想定部の位置に基づいて受信波形での欠陥評価時間範囲を設定し、その範囲における受信信号強度を抽出する。欠陥判別手段11iでは、信号強度抽出手段11hで得た受信エコー強度と、探傷感度設定手段11fで設定した欠陥検出レベルを比較して欠陥の有無の判別を行う。欠陥判別の結果や各手段で得られたエコー強度は、表示器13に表示する。
【0029】
次に、超音波探傷装置の駆動系と制御系の連携動作について記す。本発明における超音波測定に関する操作は大きく2つからなる。1つは、超音波透過法による超音波特性測定であり、もう1つはキー溝部の欠陥検出試験である。
【0030】
はじめに、超音波透過法による超音波特性測定について、図3と図5を用いて説明する。この測定時では、探触子保持部により回転させて超音波の送信及び受信方向がY軸と垂直になるようにし、超音波探触子6a,6bは互いに対向する。また、超音波探触子6a,6bの表面上の距離sは数式1で表す位置になるように配置し、スキャナ8a,8bの位置を調整する。ここで、θは超音波探触子の屈折角、rはロータ半径である。一対の超音波探触子は、超音波探触子同士を結ぶ線が円筒状構造物あるいは円柱状構造物等の被検査材の中心軸に対して直交するように配置する。このとき、超音波探触子6aのロータ材中を伝播した超音波到達点に、超音波探触子6bは位置することになり、もっとも効率よくかつ安定した超音波を受信することができる。
【0031】
【数1】

【0032】
ここで、超音波探触子6aを送信探触子、超音波探触子6bを受信探触子とする。探傷制御器11からの指示により、超音波探傷器10は超音波探触子6aに対して電気信号を送る。電気信号を受けた超音波探触子6aはロータ材中へ超音波を送信する。ロータ材中を伝播した超音波は超音波探触子6bで受信する。超音波探触子6bの受信波は電気信号に変換され、超音波探傷器10に送られ、探傷制御器11に受信信号として記録される。
このとき、超音波探触子6aと6bの役割を逆とした場合、つまり超音波探触子6bを送信探触子、超音波探触子6aを受信探触子としてもよい。逆方向からも測定することでより信頼性の高い透過法による被検査材の超音波特性測定が可能となる。また、受信強度のデータのばらつきを低減するために、超音波探触子6aと6bの距離を保った状態で、周方向あるいはZ軸方向に移動して超音波の送信及び受信をしてデータ拡充を図ってもよい。
【0033】
次に、キー溝部の欠陥検出試験について、図3と図6を用いて説明する。探触子移動制御器12は、探触子移動機構を制御して超音波探触子6a,6bを図6(a)及び(b)で示す位置に配置させる。ここで、超音波探触子6a,6bはZ軸を対称にして同様の動作をするため、ここでは超音波探触子6aを例として動作を説明する。探傷制御器11は、超音波探触子6からロータシャフト1のキー溝4のコーナ部4bの近傍に超音波を照射させる。このとき、図示のようにコーナ部4bの近傍にき裂5が発生していたならば、その反射波が超音波探触子6aで受信される。探傷制御器11は、超音波探触子6aで受信した反射波により、コーナ部4bに生じたき裂5を検出し、その結果を表示器13に表示させる。
【0034】
超音波探触子6aの配置は、超音波探触子の仕様やロータシャフト1及びキー溝4の寸法等に基づき幾何学的に決めることができ、設定している。例えば図6(a)及び(b)に示すように、超音波探触子6aからロータシャフト1のキー溝4のコーナ部4bへの超音波伝播方向がX軸に平行である場合、超音波入射位置I(Ix,Iy,Iz)は下記の数式2で与えられる。rはロータシャフト1の半径、hはキー溝4の深さ、wはキー溝4の幅(X軸方向寸法)、αはZ−X面における超音波の照射角度(例えば約45度)である。より強い反射エコーを得るために、照射角は45度を中心に40度から50度の範囲で移動させることが望ましい。
【0035】
【数2】

【0036】
また、コーナ部4bの近傍の超音波照射位置をJとし、上記の超音波入射位置IからZ軸へ降ろした垂線の交点をKとしたときの立体角∠JIK(すなわち、超音波の照射立体角θ)は、ベクトル演算を用いて下記の数式3で与えられる。
【0037】
【数3】

【0038】
次に、上述した超音波探傷装置の動作と制御手順を、図7を用いて説明する。図7は、本実施形態における超音波探傷装置での制御処理内容を表すフローチャートである。なお、この制御処理は、超音波探傷器10,探傷制御器11および探触子移動制御器12の内部メモリに予め記憶されたプログラムに基づいて実施されるものである。
【0039】
まず、ステップ100において、基準検出レベル(この値をAとする)の設定を行う。
これは、ロータ径などの構造寸法,材料強度特性,トルク等の運転条件に基づいて、超音波検査において検出すべき欠陥寸法を決定し、その欠陥が検出できるための超音波探傷器10の探傷感度を設定する。この基準検出レベルは検査対象であるロータ形状を模擬した対比試験体での欠陥を予め探傷した条件に基づいて探傷制御器11が記憶しておき、超音波探傷器10に設定する。
【0040】
ステップ110ではロータ材が対比試験体と同じであるかどうかの判定により、基準検出レベルに対する補正強度(この値をBとする)の設定動作が変わる。ロータ材が対比試験体と同じである場合、ステップ120に示すように補正強度B=0とし、補正は必要ない。
【0041】
しかし、ロータ材が対比試験体と異なる、あるいは超音波特性が不明である場合、補正強度を設定する必要がある。そのため、ステップ130に示す対比試験体での透過法エコー強度(この値をCとする)を探傷制御器11から参照する。この測定は図3に示す装置を対比試験体に設置して、超音波透過法の測定により得た超音波強度である。超音波強度は超音波探触子における受信波の信号振幅である。図8に示した値Cが対比試験体での透過法エコー強度となる。
【0042】
次に、ステップ140に示す、実際に超音波検査を実施するロータでの透過法エコー強度(この値をDとする)を測定する。図8に示した値Dが実機ロータ材での透過法エコー強度となる。超音波透過法の実施にあたり、超音波探触子6aと6bが数式1に示すように距離s離れて対向するように、探傷制御器11は探触子移動制御器12に指示を送る。
超音波探傷器10は超音波の送信および受信信号の処理手順を超音波透過法の測定モードに変更する。つまり、超音波探触子6aから送信して、材料中を伝播した超音波を超音波探触子6bで受信するようにする。そして、探傷制御器11からの指示により、超音波探傷器10では超音波透過法による測定を行う。ここで、対比試験体と検査対象のロータで超音波減衰などの超音波特性が異なる場合、2つの透過法エコー強度、つまりCとDに差が生じる。
【0043】
次に、ステップ150の補正強度の算出を行う。超音波透過法測定時の超音波伝播経路をx、欠陥探傷時の超音波探触子と欠陥部との超音波伝播経路をwとすると、補正強度はB=(C−D)・2w/xとして算出できる。ここで、wを2倍しているのは、超音波探傷が反射法、つまり送信経路と受信経路を考慮する必要があることによる。また、対比試験体と検査対象のロータの径が違う場合でも、2つの超音波探触子6aと6bの距離に応じた変換により補正強度を算出する演算を行うことができる。
【0044】
ステップ160では、超音波透過法により測定した透過法エコー強度に基づいて欠陥検出レベル(この値をEとする)を設定する。ステップ100で得た基準検出レベルAと、ステップ120あるいはステップ150で得た補正強度Bから、E=A+Bとして求める。この欠陥検出レベルEは探傷制御器11に設定される。図9に受信波振幅−距離に関するグラフを示す。基準検出レベルAは実線で、欠陥検出レベルEは破線でプロットされている。欠陥検出レベルEは補正強度Bを考慮した値となっている。
【0045】
そして、ステップ170の欠陥検出試験を行う。ここでは、超音波探傷器10では超音波の送信および受信信号の処理手順を超音波反射法の測定モードに変更する。つまり、超音波探触子6aから送信して、欠陥などからの反射波を超音波探触子6aで受信するようにする。超音波探触子6bについても同様の処理ができるように変更する。超音波探触子6a及び6bの2個の探触子を使用した場合には、処理の高速化が図れる。探触子移動制御器12では超音波探触子6aおよび6bの位置および向きを、図6に示す欠陥を探傷する配置に移動する。そして、超音波探触子を移動しながら、欠陥検出試験を行う。このとき、探触子移動制御器12における超音波探触子6aの位置情報から欠陥想定部、つまりキー溝のコーナ部4bまでの超音波伝播距離を求める。この伝播距離に該当する範囲の超音波信号に着目し、当該範囲で最大となる反射波振幅をFとして抽出する。
【0046】
ステップ180では、反射波のエコー強度の比較を行い、欠陥判別情報の抽出を行う。
ステップ160で設定した欠陥検出レベルEと、ステップ170の測定時に得た反射信号のエコー強度Fを比較する。このとき、F<Eならば、ステップ190の“き裂なし”の判定になる。しかし、F≧Eならば、ステップ200の“き裂あり”の判定になる。“き裂あり”の場合は、運転継続のために詳細評価が必要になる。例えば、ステップ210のようにき裂寸法測定などの追加測定を行い、健全性評価解析に必要なデータを測定する。
【0047】
そして、ステップ190の判定あるいはステップ210の測定が終了すれば、検査は終了となる。
【0048】
本実施形態の作用効果を説明する。本発明の実施形態によれば、ロータシャフトの非解体検査において、ロータシャフト材の超音波特性、特に超音波減衰を超音波透過法で測定し、その程度に基づいて欠陥検出レベルを設定しき裂発生の有無を超音波検査が可能である。これにより、探傷結果の信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 ロータシャフト
2 カップリング
3 中心孔
4 キー溝
4a,4b,4c,4d キー溝のコーナ部
5 き裂
6,6a,6b 超音波探触子
7 レール
8a,8b スキャナ
9a,9b アーム
10 超音波探傷器
11 探傷制御器
11a 探傷感度データベース
11b 基準感度設定手段
11c 超音波透過法測定手段
11d 超音波透過法強度算出手段
11e 補正強度算出手段
11f 探傷感度設定手段
11g 欠陥部探傷手段
11h 信号強度抽出手段
11i 欠陥判別手段
12 探触子移動制御器
13 表示器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状構造物あるいは円柱状構造物における超音波探傷方法において、
前記円筒状構造物あるいは前記円柱状構造物の外表面に設置した第一の超音波探触子及び第二の超音波探触子を用いた超音波透過法による透過法エコー強度から、前記円筒状構造物あるいは前記円柱状構造物の超音波特性を評価する超音波探傷方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探傷方法において、
前記超音波特性の評価に基づいて補正強度を求めるステップと、
対比試験体を用いた試験で求めた基準検出レベルに対して、前記補正強度を考慮した欠陥検出レベルを設定するステップと、
前記第一の超音波探触子又は第二の超音波探触子を用いた超音波反射法による試験により欠陥エコー強度を求めるステップと、
前記欠陥検出レベルと前記欠陥エコー強度を比較して欠陥検出判定を行うステップからなる超音波探傷方法。
【請求項3】
請求項1また2のいずれか一項に記載の超音波探傷方法において、
前記超音波特性の評価は、対比試験体を用いた試験で求めた透過法エコー強度及び前記円筒状構造物あるいは前記円柱状構造物における透過法エコー強度から求めることを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の超音波探傷方法において、
前記超音波探触子が斜角探触子あるいは超音波アレイセンサであることを特徴とした超音波探傷方法。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波探傷方法において、
前記超音波透過法による測定時には一対の超音波探触子を結ぶ線が円筒状構造物あるいは円柱状構造物の中心軸に対して直交になるように配置することを特徴とした超音波探傷方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の超音波探傷方法において、
前記円筒状構造物が発電機ロータシャフトであることを特徴とした超音波探傷方法。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波探傷方法において、
前記発電機ロータシャフトがキー溝構造を有することを特徴とした超音波探傷方法。
【請求項8】
請求項7に記載の超音波探傷方法において、
前記超音波反射法による欠陥検出試験時にはキー溝のコーナ部に対して斜め方向から超音波を入射することを特徴とした超音波探傷方法。
【請求項9】
円筒状構造物あるいは円柱状構造物における超音波探傷装置において、
前記円筒状構造物あるいは前記円柱状構造物の外表面に設置した第一の超音波探触子及び第二の超音波探触子と、
対比試験体を用いた試験で求めた基準検出レベルを記憶する探傷感度データベースから、前記基準検出レベルの呼び出しを行う基準感度設定手段及び、
前記超音波探触子を用いた超音波透過法による透過法エコー強度及び前記探傷感度データベースに記憶された対比試験体を用いた試験で求めた透過法エコー強度に基づいて補正強度を求める補正強度算出手段及び、
前記基準検出レベル及び前記補正強度より欠陥検出レベルを求める探傷感度設定手段及び、
前記超音波探触子で超音波反射法による反射エコー強度を測定する欠陥部探傷手段及び、
前記欠陥検出レベルと前記反射エコー強度を比較して欠陥を判定する欠陥判別手段を備えた探傷制御器と、
を有することを特徴とした超音波探傷装置。
【請求項10】
請求項9に記載の超音波探傷装置において、
前記超音波探触子が斜角探触子あるいは超音波アレイセンサであることを特徴とした超音波探傷装置。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の超音波探傷装置において、
前記円筒状構造物が発電機ロータシャフトであることを特徴とした超音波探傷装置。
【請求項12】
請求項11に記載の超音波探傷装置において、
前記発電機ロータシャフトがキー溝構造を有することを特徴とした超音波探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−242306(P2012−242306A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114281(P2011−114281)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】