説明

超音波探傷装置及び方法

【課題】横波斜角法、縦波斜角法、2次クリーピング波法、モード変換波法の4つの手法を、1つのアレイ探触子を用いて、1度の走査で探傷することを可能とする超音波探傷装置及び方法を提供することにある。
【解決手段】複数個の圧電素子の配列からなるアレイセンサ101を用いフェーズドアレイ方式により動作させ、被検査体内部を検査する。表示部103の表示部103Aには、被検査体100の横波音速に基づく横波屈折角による断面画像が表示される。表示部103Bには、被検査体100の縦波音速に基づく縦波屈折角による断面画像が表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体を検査対象とする超音波探傷技術に係り、特に、アレイセンサを用いてフェーズドアレイ方式により超音波探傷を行なう超音波探傷装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材など縦波と横波の双方の伝播を許す固体の非破壊検査方法として、超音波による手法(超音波探傷法)が従来から一般に用いられている。この超音波探傷法の一種に、いわゆるフェーズドアレイ方式の超音波探傷法がある。
【0003】
ここで、このフェーズドアレイ方式とは、電子走査方式又は電子スキャン方式とも呼ばれる。例えば圧電素子からなる複数の超音波発生素子をアレイ状に配置した探触子、いわゆるアレイ探触子が用いられる。超音波発生の契機となる電気信号を、このアレイ探触子の各素子毎に所定の時間だけ遅延させて与えることで、各素子から発生した超音波が重ね合わされ、合成波を形成する。これにより、被検査体への超音波の送信角度と受信角度、送信位置と受信位置、或いは合成波が干渉して互いにエネルギーを強め合う位置、つまり焦点位置などの条件が電気的な制御により高速で変化させることができる。ここで、素子毎に与える所定の遅延の組合せを、ディレイパターンと称する。
【0004】
このようにアレイ探触子を用いて探傷条件を電気的に走査する理由は、広い検査範囲にわたって超音波の送受信角度位置や焦点を自由に変化させられるからであり、そうすることにより、被検査体の内部或いは表面の反射源(欠陥等)からの反射波をより強く受信できる角度や位置、焦点を選択することで、反射源である欠陥が見付け易くできるからである。
【0005】
これに対して、従来から広く用いられている1つの超音波探触子(但し、送信と受信で素子を分ける場合は、送受信で各1つの合計2つの場合もある)を用いた超音波探傷法の場合、探触子の条件(送受信角度、送受信位置、焦点位置)も一つの値しか持つことができないため、探傷条件ごとに別の探触子を準備する必要があった。
【0006】
ここで、上記のアレイ探触子を用いたフェーズドアレイ法の場合でも、従来は通常の探触子の機能拡張を狙ったものがほとんどで、このため、フェーズドアレイ法により検査対象の健全性を評価する場合においても、通常の探触子による探傷法と同様、横波又は縦波を検査対象に斜め方向に伝播させ、欠陥等の反射源で反射された波を受信することで健全性を評価する、いわゆる斜角探傷法が主として用いられている。
【0007】
この斜角探傷法では、送信に使用される波と被検査体中を伝播する波、それに受信に使用される波の3者とも、伝播モード(縦波か横波)は常に一定であることが特徴といえる。例えば、横波斜角探傷法では、探触子から所定の入射角で横波が送信され、欠陥などの反射源で横波として反射され、その反射波が再び探触子で同じく横波として受信される。また、縦波斜角探傷法では、探触子から所定の入射角で縦波を送信し、反射源からの反射波を縦波として受信している。ここで、横波斜角探傷法では、き裂などの面状の反射源に斜め方向に超音波を入射させた場合、反射効率が良いことを利用して、欠陥検出に広く用いられている手法である。また、縦波斜角探傷法は、オーステナイト系ステンレス鋼などの高減衰材料での伝播特性が良いことが知られており、例えば、溶接部近傍のき裂の寸法測定(サイジング)に用いられている。
【0008】
一方、固定角を利用した探傷法として、斜角探傷法以外に、欠陥などの反射源の有無を判断する2次クリーピング波法や、欠陥のおおまかな寸法評価が可能なモード変換波法がある。
【0009】
これらの手法は、縦波斜角法の信頼性向上に寄与する機能を持つ。例えば、検査対象の検査領域内の欠陥を斜角法で探傷する場合、検査対象の形状変化部分(例えば、溶接や機械加工による変形など)からの反射波が得られることがあるが、この場合、形状変化部分による反射波と欠陥からの反射波の識別が困難になる可能性がある。
【0010】
このようなとき、2次クリーピング波やモード変換波を併用してやれば、反射波の識別性が向上し、従って、斜角法による探傷結果の信頼性向上に寄与できることになる。
【0011】
ここで、2次クリーピング波やモード変換波は、斜角探傷法の場合とは異なり、送信に使用した波と伝播中の波、それに受信される波は、伝播モードが必ずしも一致していない。例えば、2次クリーピング波法では、縦波(角度約70〜90度)の探触子から縦波と同時に発生する横波(角度約30〜32度)の超音波が利用されている。
【0012】
2次クリーピング波法では、探触子から横波成分が発射されたとすると、この横波成分は被検査体の底面で反射した際に横波から縦波に伝播モードが変化(モード変換という)し、反射源である欠陥の開口部で反射する。そして、この欠陥開口部付近で反射した縦波は、被検査体の底面近傍を伝播するが、この伝播中、横波にモード変換するため、横波成分が再び探触子に戻り、欠陥開口部からの反射波として受信される。このように、2次クリーピング波法では、欠陥の開口部付近での反射波が受信でき、このため欠陥の有無の判定に効果的になるのである。
【0013】
また、モード変換波法では、縦波(角度60度)の探触子から縦波と同時に発生する横波(角度約28度)の超音波を利用している。モード変換波法では、探触子から発生した横波成分は、被検査体の底面で反射する際に、横波から縦波へと伝播モードが変化する。反射源がある程度の高さを持つ欠陥であった場合、欠陥の先端、或いは先端に至る途中の面で反射が起きる。そして、この欠陥で反射した縦波成分は、そのまま被検査体中を伝播して探触子に戻り、欠陥からの反射波として受信される。しかし、反射源の高さが比較的小さい場合には、被検査体底面で横波からモード変換した縦波が欠陥の先端に届かないために、探触子に戻る超音波は現われない。このように、モード変換波法では、欠陥がある程度の高さ(板厚の3分の1程度)を有するか否かが、反射波の有無に対応するため、欠陥のおおまかな高さ寸法測定に効果的である。
【0014】
しかし、上述の2手法は、縦軸に超音波の受信強度、横軸に検査体内部の伝播距離(又は播時間)を取ったAスコープと呼ばれる波形により判断しているので、検査体内部における複雑な伝播径路の由来を解明し、欠陥の有無または概略の寸法を判断するのは極めて困難であり、また、熟練を要するものであった。
【0015】
そこで、従来は、第1に、横波斜角探傷法により欠陥の有無を調べ(欠陥検出)、第2に、2次クリーピング波、モード変換波を用いて、欠陥の有無あるいは大きさについて、複数の手法を用いて確認を行う。最後に、縦波斜角探傷法や、フェーズドアレイによる縦波斜角探傷法により、欠陥寸法を測定(サイジング)を行う。従来は、最後のサイジングのステップの一手法として、アレイ探触子を用いたフェーズドアレイ法を適用している。
【0016】
それに対して、本願発明者らは、欠陥検出、他手法による確認、サイジングの全てのステップについて、アレイ探触子を用いたフェーズドアレイ法を適用することを検討した。このように、アレイ探触子を用いて、上述の縦波斜角法、横波斜角法、および、2次クリーピング波法やモード変換波法の4つの手法を同時に実現するためには、アレイ探触子から縦波と横波の両方を所望の方向に発生させる必要がある。また、欠陥有無の判定から、他手法による確認(2次クリーピング波法及びモード変換波法)、サイジングに到るすべての手法について、検査体内部における複雑な伝播径路の由来にかかわらず、欠陥の有無または寸法評価を容易に行えるように探傷結果を表示する必要がある。
【0017】
従来のフェーズドアレイ法では、直接検査体に接触させる縦波用のアレイ探触子、いわゆる直接接触式のアレイ探触子と、楔(ウェッジ、シュー)と呼ばれるくさび状の中間媒質を用いて縦波と横波の両方に対応した、いわゆる楔有りアレイ探触子の2種が主に用いられてきた。そこで、以下、それぞれのアレイ探触子の特徴と課題について説明する。
【0018】
ここで、前者の直接接触式のアレイ探触子は、検査対象に直接接触または平行に配置して使用する縦波用のアレイ探触子であり、これは、圧電素子などの超音波発生素子をアレイ状に一列に配置し、被検査体内部に垂直(角度0度)から角度45度(ないしは角度60度)まで超音波の送信または受信の角度を電子的に変化させるものである。
【0019】
アレイ探触子を構成している個々それぞれの超音波発生素子からは、縦波と横波が発生している。この場合、縦波成分に注目し、これらの各素子に対して、例えば、式(1)で表される遅延時間(ディレイパターン)を与えることで、角度θ方向に伝播する非集束の縦波を合成することができる(例えば、非特許文献1参照)。ただし、式(1)で、伝搬速度cとして、検査対象(固体)中の縦波音速を用いるものとする。ここで、非集束とは、特定の焦点位置を設定しない平行ビームを意味する。

τi=(i−1)P・sinθ/c …(1)

ここで、i:素子に対する通し番号、τi:i番目の素子に与える遅延時間、c:検査対象(固体)中の音速(伝播速度)、P:素子ピッチ、θ:超音波の入射角(入射方向)である。
【0020】
このとき、想定した角度θ方向に伝播する超音波(メインビームという)以外に、別の角度φにも超音波が合成されてしまう現象が発生することも知られている。
【0021】
そこで、この所望の伝播方向(角度)θに対して、メインビーム以外の超音波(グレーティングローブという)を発生させないようにするには、式(1)中の素子ピッチPの値を、式(2)式で表される値以下に設定する必要がある。

P=λ/(1+|sinθ|) …(2)

ここで、λ:検査対象(固体)中の縦波の波長である。
【0022】
このとき、超音波の入射角θの最大値は90度であるため、式(2)から、縦波を用いる場合の素子ギャップの最小値は、波長λの2分の1となる。
【0023】
この直接接触式のアレイ探触子によれば、縦波をグレーティングローブ無しに広い角度に送信することは可能であるが、このとき横波成分にはグレーティングが発生し、このため、アレイ探触子により上述の2次クリーピング波法やモード変換波法を実現する際の妨げとなる。
【0024】
一方、アレイ探触子を構成する複数個の圧電素子の中心間距離を、検査対象内での超音波の縦波成分の波長の4分の1の長さを越え、2分の1の長さ未満に収められているように設定し、縦波と横波を同時に発生させる方法及び装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0025】
しかし、特許文献1記載の方法は、縦波斜角探傷法、2次クリーピング波、モード変換波の3つの手法について開示しているが、欠陥検出段階である横波斜角探傷法に関して開示していない。
【0026】
次に、後者の楔有りアレイ探触子は、検査対象に対して、もう一つの媒質を間に配置させ、アレイセンサを傾斜させて使用するものであり、このとき検査対象とアレイセンサの間に配置される媒質としては、代表的なものに水や合成樹脂(アクリル、ポリスチレン、ポリイミドなど)があり、これらは、上記したように、楔(ウェッジ、シュー)と呼ばれている。
【0027】
そして、この楔を用いることにより、楔に対する超音波の入射角が小さくても、超音波の屈折現象により、検査対象内部に入射する屈折角としては大きな角度を得ることができる(例えば、非特許文献2参照)。
【0028】
ここで、式(3)に、楔に対する入射角θ'と検査体中の屈折角θの関係式を示す。

θ'=sin -1(sinθ×V'/V) …(3)

ここで、θ':楔に対する縦波の入射角度、θ:に入射される超音波の屈折角、V':楔中の縦波音速、V:検査対象(固体)中の縦波音速である。
【0029】
例えば、音速約1500m/秒の水から縦波 約5900m/秒、横波 約3000m/秒の鋼(鉄)に超音波を入射する場合、検査対象に入射角度70度の横波を得るには、水に対して約14度の角度で超音波を入射すればよいが、このとき、鋼の内部には、角度が約29度の横波も同時に発生する。
【0030】
このため、楔内部の多重反射波がノイズ信号として探触子で受信されることになり、欠陥からの反射波の識別を妨げる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2005−274557号公報
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】社団法人 日本電子機械工業会編「改訂 医用超音波機器ハンドブック」1997年
【非特許文献2】日本学術振興会製鋼第19委員会編「改訂 超音波探傷法」昭和49年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
上述した従来の方法では、、欠陥からの反射波の識別について配慮がされておらず、横波斜角による超音波、縦波斜角による超音波、2次クリーピング波、モード変換波の4つの超音波を、画像を用いて明瞭に識別する点に問題があった、
本発明の目的は、横波斜角法、縦波斜角法、2次クリーピング波法、モード変換波法の4つの手法を、1つのアレイ探触子を用いて、1度の走査で探傷することを可能とする超音波探傷装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0034】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、複数個の圧電素子の配列からなるアレイセンサを用いフェーズドアレイ方式により動作させ、被検査体内部を検査する超音波探傷装置であって、前記被検査体の横波音速に基づく横波屈折角による断面画像と、前記被検査体の縦波音速に基づく縦波屈折角による断面画像との両方を表示する表示手段を備えるようにしたものである。
かかる構成により、横波斜角法、縦波斜角法、2次クリーピング波法、モード変換波法の4つの手法を、1つのアレイ探触子を用いて、1度の走査で探傷することが可能となる。
【0035】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記横波音速を用い、横波屈折角として横波臨界角θCRから(90度−横波臨界角θCR)の角度を含んだ斜角方向に対応する第一のディレイパターンと、前記縦波音速を用い、縦波屈折角として角度0度から70の角度を含んだ斜角方向に対応する第二のディレイパターンを作成するディレイパターン作成手段と、該ディレイパターン作成手段により作成された前記第一のディレイパターンにより前記アレイセンサから前記横波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される第一の受信信号と、前記ディレイパターン作成手段により作成された前記第二のディレイパターンにより前記アレイセンサから前記縦波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される第二の受信信号を連続して収録する収録手段を備えるようにしたものである。
【0036】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記横波の伝播音速を用い、横波屈折角として角度0度から55度の角度を含んだ斜角方向に対応する第一のディレイパターンを作成するディレイパターン作成手段と、該ディレイパターン作成手段により作成された前記第一のディレイパターンにより前記アレイセンサから前記横波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される受信信号を収録する収録手段と、該収録手段に収録された前記受信信号から、横波屈折角による第一の断面画像と、縦波屈折角による第二の断面画像の両方を作成する作成手段を備えるようにしたものである。
【0037】
(4)上記(2)または(3)において、好ましくは、断面画像の基準となる前記被検査体の音速を表示する音速表示手段を備えるようにしたものである。
【0038】
(5)上記(2)または(3)において、好ましくは、前記2つの断面画像間で連動して、反射源の位置を示すカーソル手段を備えるようにしたものである。
【0039】
(6)上記(1)において、好ましくは、音速の異なる複数の断面画像を一つの断面画像として合成して表示する合成表示手段と、該合成表示手段における合成断面画像において、音速の異なる領域の境界を設定する境界設定手段を備えるようにしたものである。
【0040】
(7)また、上記目的を達成するために、本発明は、複数個の圧電素子の配列からなるアレイセンサを用いフェーズドアレイ方式により動作させ、被検査体内部を検査する超音波探傷方法であって、横波音速に対応した第一のディレイパターンにより、前記アレイセンサから横波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される第一の受信信号を収録し、縦波音速に対応した第二のディレイパターンにより、前記アレイセンサから縦波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される第二の受信信号を収録し、前記第一の受信信号から作成された横波屈折角による第一の断面画像と、前記第二の受信信号から作成された縦波屈折角による第二の断面画像との少なくとも一方を表示するようにしたものである。
かかる方法により、横波斜角法、縦波斜角法、2次クリーピング波法、モード変換波法の4つの手法を、1つのアレイ探触子を用いて、1度の走査で探傷することが可能となる。
【0041】
(8)上記目的を達成するために、本発明は、複数個の圧電素子の配列からなるアレイセンサを用いフェーズドアレイ方式により動作させ、被検査体内部を検査する超音波探傷方法であって、横波音速に対応した第一のディレイパターンにより、前記アレイセンサから横波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される第一の受信信号を収録し、前記第一の受信信号から作成された横波屈折角による第一の断面画像と、前記第一の受信信号から作成された縦波屈折角による第二の断面画像との少なくとも一方を表示するようにしたものである。
かかる構成により、横波斜角法、縦波斜角法、2次クリーピング波法、モード変換波法の4つの手法を、1つのアレイ探触子を用いて、1度の走査で探傷することが可能となる。
【0042】
(9)上記(7)または(8)において、好ましくは、超音波の屈折角度の絶対値が横波臨界角度以下の領域を含む縦波による断面画像と、横波臨界角度より大きい角度の領域を含む横波による断面画像の両方を合成して1枚の断面画像として表示するようにしたものである。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、横波斜角法、縦波斜角法、2次クリーピング波法、モード変換波法の4つの手法を、1つのアレイ探触子を用いて、1度の走査で探傷することを可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による探傷方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ探触子の構成図である。
【図4】固体中の縦波音速(V)と横波音速(Vs)の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による横波斜角探傷法または縦波斜角探傷法の説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による横波斜角探傷法の説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置によるモード変換法における超音波伝播の概要の説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置によるモード変換法における超音波伝播の概要の説明図である。
【図9】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による2次クリーピング波法における超音波伝播の概要の説明図である。
【図10】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による横波斜角探傷法における代表的な探傷結果の断面図の例を示す模式図である。
【図11】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による横波斜角探傷法における断面画像のうち、被検査体の横波音速に基づく横波屈折角による実際の断面図である。
【図12】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による各エコーの反射経路の模式図である。
【図13】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置において、横波が被検査体底面に反射した際の、横波屈折角と縦波反射角の関係の説明図である。
【図14】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置における、横波入射角と被検査体底面及び反射源(欠陥)における往復反射率の関係の説明図である。
【図15】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による通常の縦波斜角探傷法の模式図である。
【図16】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による縦波斜角探傷法における代表的な探傷結果の断面図の例を示す模式図である。
【図17】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による縦波斜角探傷法における断面画像のうち、被検査体の縦波音速に基づく横波屈折角による実際の断面図である。
【図18】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置における、他の表示例の説明図である。
【図19】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置における、その他の表示例の説明図である。
【図20】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による探傷方法の内容を示すフローチャートである。
【図21】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による探傷方法の説明図である。
【図22】本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による探傷方法の説明図である。
【図23】本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置による探傷方法の内容を示すフローチャートである。
【図24】本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置による探傷方法の内容を示すフローチャートである。
【図25】本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置における横波臨界角θの説明図である。
【図26】本発明の第3の実施形態による超音波探傷装置による表示例の説明図である。
【図27】本発明の第3の実施形態による超音波探傷装置による表示例の説明図である。
【図28】本発明の第3の実施形態による超音波探傷装置による表示例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図1〜図22を用いて、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による超音波探傷装置の全体構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置の全体構成を示すブロック図である。
【0046】
本実施形態による超音波探傷装置は、検査対象である被検査体100に超音波を入射するアレイ探触子101と、送受信部102と、受信信号を表示する表示部103とで構成されている。本実施形態の超音波探傷装置は、配管の超音波検査に適用されるものである。図1において、被検査体100は、配管の軸方向断面を示している。なお、本実施形態の超音波探傷装置は、平板形状の検査対象にも同様に適用することが可能である。
【0047】
アレイ探触子101は、被検査体100の探傷面に設定され、送受信部102から供給される駆動信号により超音波を発生し、これを被検査体100内に伝播させ、これにより現れる反射波を検出し、受信信号を送受信部102に入力する。
【0048】
送受信部102は、計算機102Aと、遅延時間制御部102Bと、パルサー102Cと、レシーバ102Dと、データ収録部102Eと、記憶部102Fとを備えている。パルサー102Cは、駆動信号をアレイ探触子101に供給し、これによりアレイ探触子101から入力される受信信号をレシーバ102Dが処理する。
【0049】
計算機102Aは、遅延時間制御部102Bと、パルサー102Cと、レシーバ102Dと、データ収録部102Eとを制御して、必要な動作が得られるようにする。記憶部102Fには、被検査体100の横波音速に基づくディレイパターンと、縦波音速に基づくディレイパターンの2種類が記憶されている。
【0050】
遅延時間制御部102Bは、パルサー102Cから出力される駆動信号のタイミングを制御すると共に、レシーバ102Dによる受信信号の入力タイミングを制御し、これにより横波音速及び縦波音速による2種類のフェーズドアレイ方式によるアレイ探触子101の動作が得られるようにする。
【0051】
データ収録部102Eは、レシーバ102Dから供給される受信信号を処理し、表示部103に供給する働きをするが、ここで、表示部103の動作については、後述する。
【0052】
次に、図2を用いて、本実施形態による超音波探傷装置による探傷方法について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による探傷方法を示すフローチャートである。
【0053】
ステップS10において、本実施形態による超音波探傷装置は、アレイ探触子101を用いたフェーズドアレイ法による横波斜角探傷法により、欠陥の有無を検出する(欠陥検出)。
【0054】
次に、ステップS20において、アレイ探触子101を用いたフェーズドアレイ法による2次クリーピング波を用いて、欠陥の有無を検出し、さらに、アレイ探触子101を用いたフェーズドアレイ法によるモード変換波を用いて、欠陥の大きさについて確認する。
【0055】
次に、アレイ探触子101を用いたフェーズドアレイ法による縦波斜角探傷法により、欠陥寸法を測定(サイジング)を行う。
【0056】
次に、図3及び図4を用いて、本実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ探触子101の構成について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ探触子の構成図である。図3(A)は断面図であり、図3(B)は平面図である。図4は、固体中の縦波音速(V)と横波音速(Vs)の説明図である。
【0057】
図3は、アレイ探触子101の最も基本的な構成を模式的に示している。図示のように、アレイ探触子101は、基本的には複数個(図示の例では、N個)の超音波発生素子101aで構成されている。
【0058】
超音波発生素子101aの一例として、PZT圧電セラミックスの細棒を高分子材の中に埋めこんだ複合圧電体(コンポジットともいう)を用いているが、このとき、このアレイ探触子101の性能を左右するパラメータの一つに素子ピッチPがある。素子ピッチPは、超音波発生素子101aの素子幅Wと、素子間のギャップGを加えた値(W+G)であり、アレイ探触子から発生するメインビームやグレーティングローブの発生を決定する主要な因子の一つである。
【0059】
前述したように、従来は、縦波の発生を目的としているため、それに使用する超音波発生素子については、各素子から発生する超音波を合成して形成される縦波成分に主として注目しており、このため、縦波成分に対して、所望の入射方向と異なる波(グレーティングローブ)が発生しないようにするため、素子ピッチを2分の1波長としていた。
【0060】
それに対して、本実施形態では、横波の発生も考慮しているため、例えば、素子ピッチを横波波長の2分の1波長、縦波波長に換算すると約4分の1波長に設定する。これは、一般に固体中の縦波音速(V)と横波音速(Vs)について、それらの比(音速比という) V/Vs を比較すると、図4に示すように、多くの固体において、音速比(V/Vs)の値が2近傍にある(非特許文献2参照)。周波数がfの場合の波長λは、音速Cを用いて、λ=C/fとかけることから、周波数が同一の場合、縦波波長は横波波長のV/Vs倍となることが分かる。従って、横波波長で2分の1波長は、縦波波長で、約4分の1波長に相当する。例えば、被検査体が鉄(縦波音速5850m/秒、横波音速3230m/秒)で、使用する超音波の周波数が2MHzの場合、本発明の実施形態では、最適な素子ピッチPとして、例えば、縦波の約4分の1波長の値である0.75mmが選択される。
【0061】
そして、このとき、素子幅WとギャップGとして、例えば、W=0.65mm、G=0.1mmを選択する。このように選択すれば、素子ピッチPが横波の2分の1波長の値(0.8075mm)以下の値となるので、縦波及び横波の送受信においてグレーティングローブを抑制することができる。
【0062】
次に、図5〜図22を用いて、本実施形態による超音波探傷装置による探傷方法及び結果の表示方法について説明する。
最初に、図5を用いて、本実施形態による超音波探傷装置による横波斜角探傷法または縦波斜角探傷法について説明する。
図5は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による横波斜角探傷法または縦波斜角探傷法の説明図である。なお、図5において、図1と同一符号は同一部分を示している。
【0063】
本実施形態では、アレイ探触子を用いたフェーズドアレイ法により、横波斜角探傷法と縦波斜角探傷法の両方についてディレイパターンを作成し、横波斜角探傷法の断面画像と、縦波斜角探傷法の断面画像を表示する。
【0064】
十分に微細なピッチ(例えば、上述の縦波の1/4波長)で配列された圧電素子から構成されるアレイ探触子の場合、グレーティングローブの発生なく、横波と縦波を発生することができる。非集束斜角ビームに対するディレイパターンは、式(1)に示したように、被検査体を伝播する音速cを、横波音速とするか縦波音速とするかで設定することが可能である。
【0065】
ここで、図5を用いて、特定の焦点位置を設定するビーム(斜角焦点ビーム)を発生させる場合のディレイパターンの計算方法について説明する。アレイ探触子101のセンサ中心位置101Aと焦点fの距離をF0とし、i番目の圧電素子と焦点fの距離をF(i)とする。i番目の圧電素子に与える遅延は、式(4)で与えられる。式(4)の検査対象中の音速cとして、横波音速を与えるか縦波音速を与えるかによって、横波斜角探傷法または縦波斜角探傷法を実現するためのディレイパターンを作成することができる。

τi=[F(i)−F0]/c …(4)

ここで、i:素子に対する通し番号、τi:i番目の素子に与える遅延時間、c:検査対象(固体)中の音速(伝播速度)である。
【0066】
まず、横波斜角探傷法において、2次クリーピング波は、前述の通り、縦波約70〜90度と同時に発生する横波約30〜32度を利用する探傷法である。また、モード変換波は、縦波約60度と同時に発生する横波約28度を利用する探傷法である。また、2次クリーピング波やモード変換波は、横波よりも音速の速い縦波成分が被検査体を伝播する特徴を持つ。このため、2次クリーピング波やモード変換波は、横波のみの伝播を取り扱う通常の横波斜角探傷法の場合と比較して、反射波が探触子に受信するまでにより少ない伝播時間で到達する。
【0067】
次に、図6を用いて、本実施形態による超音波探傷装置による横波斜角探傷法について説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による横波斜角探傷法の説明図である。なお、図6において、図1と同一符号は同一部分を示している。
【0068】
図6は、横波斜角法の一つである角度45度方向送受(横波45度斜角法)の場合の伝播径路の概要を示している。この場合、探触子101から送信された横波成分CTは、反射源RSに当って、反射源RSの開口部又は先端部で反射し、再び縦波成分CTとして探触子101に戻り、信号として受信される。
【0069】
従って、横波斜角探傷法において、図6に示すような、横波斜角探傷法による横波のみの伝播を取り扱う場合の受信波形が表示される断面画像には、2次クリーピング波及びモード変換波による受信波形も同時に表示されることとなる。
【0070】
次に、図7及び図8を用いて、本実施形態による超音波探傷装置によるモード変換法における超音波伝播の概要について説明する。
図7及び図8は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置によるモード変換法における超音波伝播の概要の説明図である。なお、図7及び図8において、図1と同一符号は同一部分を示している。
【0071】
図7及び図8に示すように、探触子101から発生した横波成分CTは、被検査体100の底面で反射する際に、横波CTから縦波CLへと伝播モードが変化する。
【0072】
ここで、図7に示す反射源RSがある程度の高さを持つ欠陥であった場合、欠陥の先端、或いは先端に至る途中の面で反射が起きる。そして、この欠陥で反射した縦波成分CL2は、そのまま被検査体中を伝播して探触子101に戻り、欠陥からの反射波として受信される。
【0073】
しかし、図8に示す反射源RSの高さが比較的小さい場合には、被検査体底面で横波CTからモード変換した縦波CLが欠陥の先端に届かないために、探触子101に戻る超音波は現われない。
【0074】
このように、モード変換波法では、欠陥がある程度の高さ(板厚の3分の1程度)を有するか否かが、反射波の有無に対応するため、欠陥のおおまかな高さ寸法測定に効果的である。
【0075】
次に、図9を用いて、本実施形態による超音波探傷装置による2次クリーピング波法における超音波伝播の概要について説明する。
図9は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による2次クリーピング波法における超音波伝播の概要の説明図である。なお、図9において、図1と同一符号は同一部分を示している。
【0076】
探触子101から横波成分CT1が発射されたとすると、この横波成分CT1は被検査体100の底面で反射した際に横波から縦波CL1に伝播モードが変化(モード変換という)し、反射源である欠陥RSの開口部で反射する。
【0077】
そして、欠陥RSの開口部付近で反射した縦波CL2は、被検査体の底面近傍を伝播するが、この伝播中、横波にモード変換するため、横波成分CT2が再び探触子101に戻り、欠陥開口部からの反射波として受信される。
【0078】
このように、2次クリーピング波法では、欠陥の開口部付近での反射波が受信でき、このため欠陥の有無の判定に効果的になるのである。
【0079】
また、このようにモード変換を利用した、いわゆるモード変換波法では、縦波(角度60度)の探触子から縦波と同時に発生する横波(角度約28度)の超音波を利用している。
【0080】
次に、図10〜図14を用いて、本実施形態による超音波探傷装置による横波斜角探傷法について説明する。
図10は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による横波斜角探傷法における代表的な探傷結果の断面図の例を示す模式図である。図11は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による横波斜角探傷法における断面画像のうち、被検査体の横波音速に基づく横波屈折角による実際の断面図である。なお、図11において、図11(A)は、探触子101による被検体100の走査の模式図であり、図11(B)は、図11(A)に示すように走査された場合の、実際の断面図である。図12は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による各エコーの反射経路の模式図である。
【0081】
図10及び図11において、図示されている代表的エコーは、下記の通りである。
【0082】
エコーEC1は、縦波による被検査体100の底面エコーである。エコーEC2は、縦波による多重底面エコーである。縦波による多重底面エコーは、図12(A)に示すように、探触子101から送信された角度0度の縦波CL0が、被検体100の底面で反射して探触子101に戻ることにより受信される。
【0083】
エコーEC3は、図6にて説明した横波斜角法による欠陥先端エコーである。エコーEC4は、図6にて説明した横波斜角法による欠陥コーナエコーである。図12(B)に示すように、探触子101から送信された角度35度〜60度の横波CTが、被検体100に生じた欠陥RSの先端で反射され、横波CT’として探触子101に戻り、また、被検体100に生じた欠陥RSの開口部で反射され、横波CT”として探触子101に戻ることにより受信される。
【0084】
エコーEC5は、図7及び図8にて説明したモード変換波によるエコーである。図12(C)に示すように、探触子101から発生した横波成分CTは、被検査体100の底面で反射する際に、横波CTから縦波CLへと伝播モードが変化し、欠陥RSの先端、或いは先端に至る途中の面で反射した縦波成分CL2が探触子101に戻り、反射波として受信される。
【0085】
エコーEC6は、図9にて説明した2次クリーピング波によるエコーである。図12(D)に示すように、探触子101から送信された横波成分CT1が被検査体100の底面で反射した際に縦波CL1にモード変換され、欠陥RSの開口部で反射し、反射した縦波CL2は、横波CT2にモード変換した上で探触子101に戻り、欠陥開口部からの反射波として受信される。
【0086】
次に、図13を用いて、本実施形態による超音波探傷装置において、横波が被検査体底面に反射した際の、横波屈折角と縦波反射角の関係について説明する。
図13は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置において、横波が被検査体底面に反射した際の、横波屈折角と縦波反射角の関係の説明図である。
【0087】
図13は、被検査体が鋼材とし、縦波音速が5900m/sであり、横波音速3200m/sの場合に、横波が被検査体底面に反射した際の、横波屈折角と縦波反射角の関係を示している。
【0088】
次に、図14を用いて、本実施形態による超音波探傷装置における、横波入射角と被検査体底面及び反射源(欠陥)における往復反射率の関係について説明する。
図14は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置における、横波入射角と被検査体底面及び反射源(欠陥)における往復反射率の関係の説明図である。
【0089】
図14(A)は、横波の入射波と、欠陥RSによる反射波との関係を模式的に示している。
【0090】
図14(B)に示すように、被検体が鋼材の場合、屈折角が約33度から57度の範囲で、反射率が約1となり、効率よく反射される。横波入射角θと往復反射率の関係は、45度を中心として左右対称となる。ここで、横波入射角を0度から徐々に増加すると、往復反射率は徐々に低下し、その後増加する。そして、反射率が1となる角度は、横波臨界角θCRである。すなわち、往復反射率が1となる横波入射角θの範囲は、横波臨界角θCRから(90−横波臨界角θCR)の範囲である。ここで、横波臨界角θCRは、被検体の材料によって異なる。
【0091】
図10及び図11に示した例において、エコーEC1は、縦波音速で屈折角0度方向に伝播する波であるため、図10の断面図において、θ=0(度)の方向にエコーが観察される。また、縦波音速が横波音速の約2倍の速さのため、横波で距離に換算すると、約半分程度の短い伝搬距離(ビーム路程)として表示される。すなわち、被検査体の板厚が50mmであれば、横波音速による表示画面上で、約25mmの位置に縦波底面エコーが表示される。
【0092】
エコーEC3及びEC4は、横波斜角法によるエコーである。横波入射角と被検査体底面及び反射源(欠陥)にける往復反射率の関係は、図14(B)に示したように、横波臨界角θCRから(90−横波臨界角θCR)の範囲で、反射率が約1となり、効率よく反射される。従って、横波斜角法による欠陥エコー(特に、コーナエコーEC4)は、主として、屈折角35度から60度に観察される。欠陥先端からエコーが受信されるときは、幾何学的な関係から、コーナエコーより大きな屈折角で観察されることとなる。
【0093】
エコーEC5は、モード変換波によるエコーである。モード変換波法では、横波から縦波60度成分にモード変換した波が欠陥面に反射するエコーに注目する。図13に破線で示すように、被検査体底面での縦波の反射角が60度となるには、横波屈折角は約28度となる。従って、モード変換波エコーEC5は、横波斜角法のエコーEC4より小さな屈折角(約28度)に観察される。また、モード変換波は、縦波で伝播する距離が長いため、ビーム路程も、エコーEC4より短い位置に表示される。
【0094】
エコーEC6は、2次クリーピング波によるエコーである。2次クリーピング波法では、横波から縦波70〜90度成分にモード変換した波が欠陥の根元(コーナ部)に反射するエコーに注目する。図13に一点鎖線で示すように、被検査体底面での縦波の反射角が70〜90度となるには、横波屈折角は約30〜32度となる。従って、2次クリーピング波エコーEC6は、横波斜角法のエコーEC4と、モード変換波のエコーEC5の間の屈折角(30〜32度)に観察される。また、2次クリーピング波は、一部縦波音速で底面近傍を伝播するが、横波音速で往復する距離が長いため、エコーEC4とほぼ同じビーム路程に表示される。
【0095】
以上のことから、図10および図12に示すように、エコーEC1〜EC6は、横波斜角法の断面図において、屈折角及び路程により容易に判断することが可能である。
【0096】
次に、図15〜図17を用いて、本実施形態による超音波探傷装置による縦波斜角探傷法について説明する。
最初に、図15を用いて、本実施形態による超音波探傷装置による通常の縦波斜角探傷法について説明する。
図15は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による通常の縦波斜角探傷法の模式図である。
【0097】
図15は、縦波斜角法で広く用いられている角度45度方向送受(縦波45度斜角法)の場合の伝播径路の概要を示している。探触子101から送信された縦波成分CLは、反射源RSに当って、反射源の開口部又は先端部で反射し、再び縦波成分として探触子101に戻り、信号として受信される。
【0098】
従って、縦波斜角探傷法において、図15に示すような、縦波斜角探傷法による縦波のみの伝播を取り扱う場合の受信波形が表示される断面画像において、表示される路程が、被検査体の板厚の2倍程度の広い範囲を表示することにより、2次クリーピング波及びモード変換波による受信波形も同時に表示されることとなる。
【0099】
縦波斜角探傷法において、2次クリーピング波は、横波斜角探傷法と同様に、縦波約70〜90度と同時に発生する横波約30〜32度を利用する探傷法である。また、モード変換波は、縦波約60度と同時に発生する横波約28度を利用する探傷法である。また、2次クリーピング波やモード変換波は、縦波よりも音速の遅い横波成分が被検査体を伝播する特徴を持つ。
【0100】
このため、横波斜角探傷法の場合とは異なり、2次クリーピング波やモード変換波は、縦波のみの伝播を取り扱う通常の縦波斜角探傷法の場合と比較して、反射波が探触子に受信するまでにより多くの伝播時間を必要とする。
【0101】
次に、図16及び図17を用いて、本実施形態による超音波探傷装置における、2次クリーピング波法及びモード変換波法について説明する。
図16は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による縦波斜角探傷法における代表的な探傷結果の断面図の例を示す模式図である。図17は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による縦波斜角探傷法における断面画像のうち、被検査体の縦波音速に基づく横波屈折角による実際の断面図である。なお、図17において、図17(A)は、探触子101による被検体100の走査の模式図であり、図17(B)は、図17(A)に示すように走査された場合の、実際の断面図である。
【0102】
図16及び図17に示す代表的エコーは、下記の通りである。エコーECL1は、縦波による底面エコーである。エコーECL2は、縦波による多重底面エコーである。エコーECL3は、縦波斜角法による欠陥先端エコーである。エコーECL4は、縦波斜角法による欠陥コーナエコーである。エコーECL5は、モード変換波によるエコーである。エコーECL6は、2次クリーピング波によるエコーである。
【0103】
縦波斜角法によるエコーの反射経路は、図12に示した横波斜角探傷法の場合と同じである。しかしながら、縦波斜角法では、縦波屈折角及び縦波音速により断面図が表示されるため、横波斜角法の断面図と比較すると、エコーが観察される屈折角及び路程が異なって表示される。
【0104】
エコーECL1は、縦波音速で屈折角0度方向に伝播する波であるため、図16の断面図において、θ=0(度)の方向にエコーが観察される。また、縦波音速によるエコーが縦波音速で表示されるため、伝搬距離(ビーム路程)も正しい位置に、すなわち、被検査体の板厚が50mmであれば、50mm近傍に縦波底面エコーは表示される。
【0105】
エコーECL3及びECL4は、縦波斜角法によるエコーである。縦波斜角探傷法の場合は、横波斜角探傷法のように、特別に往復反射率が1に近い範囲が明確に存在しないが、通常の縦波斜角探傷では、45度を中心に、20度から70度までの広い範囲の縦波屈折角が用いられる。なお、欠陥先端からエコーが受信されるときは、幾何学的な関係から、コーナエコーより大きな屈折角で観察されることとなる。
【0106】
エコーECL5は、モード変換波によるエコーである。モード変換波法では、横波から縦波60度成分にモード変換した波が欠陥面に反射するエコーに注目する。図13に示したように、被検査体底面での縦波の反射角が60度となるには、横波屈折角は約28度となる。
【0107】
従って、縦波斜角法において、欠陥コーナによるエコーECL4を45度でとらえるようにアレイ探触子を設置した場合、モード変換波エコーECL5は、縦波斜角法のエコーEC5より小さな屈折角(約60度)に観察される。また、モード変換波は、一部を横波として伝播するため、ビーム路程も、エコーEC4より少し長く、被検査体の板厚に相当するエコーECL1のビーム路程の約1.5倍の位置に表示される。
【0108】
エコーECL6は、2次クリーピング波によるエコーである。2次クリーピング波法では、横波から縦波70〜90度成分にモード変換した波が欠陥の根元(コーナ部)に反射するエコーに注目する。図13に示したように、被検査体底面での縦波の反射角が70〜90度となるには、横波屈折角は約30〜32度となる。従って、2次クリーピング波エコーECL6は、縦波斜角法のエコーECL4と、モード変換波のエコーECL5の両方より大きな屈折角(70〜90度)に観察される。また、2次クリーピング波は、一部縦波音速で底面近傍を伝播するが、横波音速で往復する距離が長いため、被検査体の板厚に相当するエコーECL1のビーム路程の約2倍の路程として表示される。
【0109】
以上のことから、図16および図17に示すように、エコーECL1〜ECL6は、縦波斜角法の断面図において、屈折角及び路程により容易に判断することが可能である。
【0110】
図10及び図11に示すような被検査体の横波音速に基づく断面像と、図16及び図17に示すような被検査体の縦波音速に基づく断面像を得るには、図1に示した計算機102Aは、記横波の伝播音速を用い、横波屈折角として横波臨界角θCRから(90度−横波臨界角θCR)の角度を含んだ斜角方向に対応する第一のディレイパターンと、縦波の伝播音速を用い、縦波屈折角として角度0度から70度の角度を含んだ斜角方向に対応する第二のディレイパターンを作成するようにしている。
【0111】
これらのディレイを与えることで、横波45度の横波斜角法と、縦波0度による底面エコーと、縦波45度の縦波斜角法と、縦波60度によるモード変換法と、縦波70度による2次元クリーピング波法による反射像を得ることができる。なお、2次元クリーピング波法は、縦波70度〜90度の範囲で利用できるため、2次元クリーピング波法を縦波90度により実施する場合には、第二のディレイパターンは、縦波屈折角として角度0度から90度の角度を含んだ斜角方向に対応するディレイパターンとなる。
【0112】
本実施形態の表示方法としては、図1に示すように、データ表示部103において、屈折角θと路程(または伝播時間)によりエコーの受信位置を示し、2次元の図として、被検査体の断面図として表示する。表示されるのは、図10及び図11に示すように、断面画像表示部103Aに表示される被検査体の横波音速に基づく断面画面と、図16及び図17に示すように、断面画像表示部103Bに表示される被検査体の縦波音速に基づく断面画面である。なお、エコーの強度に応じて、カラーバー(またはモノクロ)により色付け表示してもよい。
【0113】
次に、図18を用いて、本実施形態による超音波探傷装置における、他の表示例について説明する。
図18は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置における、他の表示例の説明図である。
【0114】
本例では、データ表示部103には、横波音速の断面画像表示部103Aと、縦波音速の断面画像表示部103Bと、受信信号表示部103Cとを備える。横波による断面画像表示部103Aと、縦波による断面画像表示部103Bとは、選択スイッチSW1,SW2により、選択的に切り替えて表示される。横波音速の断面画像表示部103Aには、横波音速の断面画像が表示され、縦波音速の断面画像表示部103Bには、縦波音速の断面画像とが表示される。
【0115】
また、エコーの位置を指示する手段として、屈折角を示す角度カーソルCS1と、深さ方向の位置をあらわす横カーソルCS2と、水平方向の位置を表す縦カーソルCS3とを備えている。
【0116】
ここで、角度カーソルCS1を動かして、所定の角度にセットすると、角度カーソルCS1で選択された屈折角に対応した受信信号が、受信信号表示画面103Cに、縦軸に振幅、横軸に時間(または路程)として表示される。図示の例では、エコーEC4に角度カーソルCS1をセットしたことにより、受信信号表示部103Cには、エコーEC4に対する受信信号EC4’を表示することができる。
【0117】
また、深さ方向及び水平距離方向には、それぞれ目盛りが付されている。従って、エコーに横カーソルCS2をセットすることで、エコーの深さを知ることができ、また、エコーに縦カーソルCS3をセットすることで、エコーの水平距離を知ることができる。
【0118】
次に、図19を用いて、本実施形態による超音波探傷装置における、その他の表示例について説明する。
図19は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置における、その他の表示例の説明図である。
【0119】
本例では、データ表示部103には、横波音速の断面画像表示部103Aと、縦波音速の断面画像表示部103Bと、横波用受信信号表示部103Cと、縦波用受信信号表示部103Dとを備える。また、表示部103A,103Bには、エコーの位置を指示する手段として、屈折角を示す角度カーソルEC1A,EC1Bと、深さ方向の位置をあらわす横カーソルEC2A,EC2Bと、水平方向の位置を表す縦カーソルEC3A,EC3Bとを備えている。角度カーソルEC1A,EC1Bで選択された屈折角に対応した受信信号は、それぞれ、横波用受信信号表示部103Cと縦波用受信信号表示部103Dとに、縦軸に振幅、横軸に時間(または路程)として表示される。また、横波音速の断面画像表示部103Aと、縦波音速の断面画像表示部103Bとには、それぞれ、音速表示部DS1,DS2を備えており、この表示部に横波音速と縦波音速(m/s)が表示される。
【0120】
本例において、横波音速の断面画像表示部103A、縦波音速の断面画像表示部103Bのうち、エコーの位置を表すカーソル(角度、深さ方向、水平方向)のいずれかを、両断面図において連動するように設定することができる。すなわち、例えば、角度を連動させることで、横波と縦波の断面図及び受信信号について、同じ屈折角の信号を比較表示することが容易となる。また、深さ方向及び水平方向を連動させることで、横波と縦波の断面図について、得られたエコーが同一の反射源によるものかを判断することが容易となる。
【0121】
次に、図20〜図22を用いて、本実施形態による超音波探傷装置による探傷方法について説明する。
図20は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による探傷方法の内容を示すフローチャートである。図21及び図22は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置による探傷方法の説明図である。
【0122】
最初に、ステップS100において、計算機102Aは、横波及び縦波によるディレイパターンを設定する。なお、ディレイパターンは、例えば、前述の式(1)及び式(4)によって算出される。そして、ステップS110において、計算機102Aは、記憶部102Fにディレイパターンを記憶する。
【0123】
次に、ステップS120において、遅延時間制御部102Bは、ステップs100にて設定されたディレイパターンに応じて探傷処理、即ち、パルサー102C及びレシーバ102Dを駆動して超音波の送信、受信を行い、データ収録部102Eに受信した信号を収録する。
【0124】
次に、ステップS130において、計算機102Aは、ディレイパターンで使用した音速Vに関して、ある屈折角θのデータについて処理を開始する。
【0125】
まず、ステップS140において、計算機102Aは、受信信号をアナログ/デジタル変換(A/D変換)を行い、受信された時間(伝播時間)tに相当する信号の振幅値Aを求める。
【0126】
次に、ステップS150において、計算機102Aは、カラーマップにより、時間t、振幅値Aに対応した画素値Pを求める。
【0127】
ここで、図21を用いてステップS150の処理について説明する。受信信号のうち、伝播時間tに対応する点Pの振幅値Aに対応したカラーマップCMの値を求めて、画素値(例えば、カラーバーの色)を設定する。
【0128】
次に、ステップS160において、計算機102Aは、時間tと音速Vから、路程Lを算出し、ステップS170において、屈折角θで路程Lに対応する画素に画素値Pを与える。
【0129】
ここで、図22を用いて、ステップS160,S170の処理について説明する。ステップS150で設定された画素値は、図22に示すように、アレイ探触子101のセンサ中心位置101Aを基準として、屈折角θ、路程Lに位置する画素P(i)の値(例えば、色)として設定され、断面図として表示される。
【0130】
次に、ステップS180において、計算機102Aは、全ての伝播時間t及び屈折角θに対して処理を行ったかどうかを判定し、ステップS130〜S170の処理を繰り返し、全ての処理が終了すると、断面図表示の処理は終了する。
【0131】
以上説明した本実施形態によれば、グレーティングローブの低減と、縦波と横波の両方に対してメインビームの送信を可能にするための最適な素子ピッチを備えたアレイ探触子を用い、被検査体の横波音速及び縦波音速に基づくディレイパターンによる横波音速の断面図と縦波音速による断面図を両方表示することにより、1つのアレイ探触子を用いて、欠陥検出性にすぐれた横波斜角探傷法に加えて、2次クリーピング波法やモード変換波法を実現でき、さらに、欠陥サイジングにすぐれた縦波斜角探傷法を実現できる。また、表示画面(断面図)の角度及び路程から、得られるエコーが横波または縦波斜角法によるものか、あるいは、モード変換波法及び2次クリーピング波によるものかを容易に判断ができ、超音波探傷の信頼性を向上することができる。
【0132】
次に、図23〜図25を用いて、本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置の構成及び動作について説明する。なお、本実施形態による超音波探傷装置の全体構成は、図1に示したものと同様である。
図23及び図24は、本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置による探傷方法の内容を示すフローチャートである。図25は、本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置における横波臨界角θの説明図である。
【0133】
本実施形態では、探傷時に被検査体の横波音速に基づくディレイパターンのみを準備して探傷を行い、探傷後に横波の探傷データから、被検査体の縦波音速に基づく断面図を作成するようにしている。
【0134】
図23の処理内容は、図21に示した処理内容と同様であるが、ステップS100Aにおいて、横波音速に基づくディレイパターンのみを作成する。従って、以降のステップS110〜ステップS170においては、横波に対してのみ処理が実行される。
【0135】
被検査体の横波音速に基づくディレイパターンを用いた探傷が終了すると、次に、図24のステップS200において、計算機102Aは、横波音速に基づくディレイパターンにより収録したデータをファイル等で読み込む。
【0136】
次に、ステップS210において、計算機102Aは、ある横波屈折角θのデータから処理を開始する。そして、ステップS220において、計算機102Aは、ステップ当該収録データの伝播時間t及び振幅Aを読み取る。なお、処理対象となる横波屈折角θは、式(5)で計算される横波臨界角θCR以下の角度を対象とする。

θCR=sin−1(V横/V縦) …(5)

ここで、θCR:横波臨界角、V縦:被検査体中を伝播する縦波音速、V横:被検査体中を伝播する横波音速である。
【0137】
ここで、図25を用いて、横波臨界角θCRについて説明する。図25は、横波斜角探傷法において、横波と同時に発生する縦波の発生角度を示している。横波臨界角θCR未満の領域では、縦波発生角度が0度から90度の全ての角度に分布している。従って、横波臨界角θCR未満の領域には、縦波斜角法に起因するエコーが含まれているため、受信信号の伝播時間に被検査体の縦波音速を乗算することで、縦波斜角探傷法に起因するエコーの路程を算出することが可能となる。また、屈折角についても、縦波と横波の音速比から、横波屈折角を縦波屈折角に変換することができる。
【0138】
そこで、ステップS230において、計算機102Aは、横波屈折角及び伝播時間から縦波屈折角及び縦波路程を算出する。
【0139】
縦波路程(L縦波)は、伝播時間t×(縦波速度(V縦波))として算出できる。
【0140】
また、縦波屈折角(θ縦波)は、sin−1(sin(θ縦波))×(V横波)/(V縦波))として算出できる。
【0141】
次に、ステップS240において、計算機102Aは、縦波音速に変換した場合もエコーの振幅値Aは変化しないため、カラーマップ等から決定される画素値Pを設定する。
【0142】
次に、ステップS250において、計算機102Aは、図22に示したように、縦波屈折角と縦波路程に対応した領域に、画素値Pを設定する。
【0143】
次に、ステップS260において、計算機102Aは、全ての伝播時間t及び屈折角θに対して処理を行ったかどうかを判定し、ステップS220〜S250の処理を繰り返し、全ての処理が終了すると、断面図表示の処理は終了する。
【0144】
なお、上述のように計算した縦波音速に基づく断面図は、図18または図19のように、横波音速に基づく断面図と表示することができる。
【0145】
図10及び図11に示すような被検査体の横波音速に基づく断面像と、図16及び図17に示すような被検査体の縦波音速に基づく断面像を得るには、図1に示した計算機102Aは、記横波の伝播音速を用い、横波屈折角として横波臨界角θCRから(90度−横波臨界角θCR)の角度を含んだ斜角方向に対応する第一のディレイパターンを作成するようにしている。
【0146】
これらのディレイを与えることで、横波45度の横波斜角法と、横波0度による底面エコーと、横波45度の横波斜角法から演算により算出される縦波45度の縦波斜角法と、横波28度のモード変換法から演算される縦波60度によるモード変換法と、横波30度〜32度の2次元クリーピング波法から演算される縦波70度〜90度による2次元クリーピング波法による反射像を得ることができる。
【0147】
以上説明した本実施形態によれば、グレーティングローブの低減と、横波に対してメインビームの送信を可能にするための最適な素子ピッチを備えたアレイ探触子を用い、被検査体の横波音速に基づくディレイパターンによる横波音速の探傷結果から、横波音速による断面図と縦波音速による断面図の両方を表示することが可能であり、1つのアレイ探触子を用いて、欠陥検出性にすぐれた横波斜角探傷法に加えて、2次クリーピング波法やモード変換波法を実現でき、さらに、欠陥サイジングにすぐれた縦波斜角探傷法を実現できる。また、表示画面(断面図)の角度及び路程から、得られるエコーが横波または縦波斜角法によるものか、あるいは、モード変換波法及び2次クリーピング波によるものかを容易に判断ができ、超音波探傷の信頼性を向上することができる。
【0148】
次に、図26〜図28を用いて、本発明の第3の実施形態による超音波探傷装置の構成及び動作について説明する。なお、本実施形態による超音波探傷装置の全体構成は、図1に示したものと同様である。
図26〜図28は、本発明の第3の実施形態による超音波探傷装置による表示例の説明図である。
【0149】
本実施形態では、被検査体の横波音速に基づく断面図において、横波臨界角θCR以下の領域を含む、第1の領域と、横波臨界角θCRより大きい角度の第2の領域を合成して1枚の断面図として表示するようにしている。
【0150】
ここで、横波臨界角θCRは、式(5)で与えられる角度で、横波と同時に発生する縦波の屈折角がちょうど90度(臨界)に達するときの、横波屈折角である。
【0151】
図11及び図12に示した横波音速に基づく断面図において、屈折角θが0度から横波臨界角(約32度)の領域で、縦波斜角法によるエコーが混在して表示される。特に、0度近傍では、被検査体100の底面100Bに反射される縦波による底面エコーEC1が表示される。したがって、被検査体の底面近傍に位置する反射源RSに相当するエコーEC4と、底面エコーEC1の深さ方向の表示位置がずれて表示される。
【0152】
一方、図16及び図17に示した縦波音速に基づく断面図では、屈折角θが0度近傍に観察される縦波底面エコーECL1と、被検査体100の底面近傍に位置する反射源1801に相当するエコーECL6がほぼ同じ深さとして表示される。
【0153】
そこで、本実施形態では、上述の横波音速における断面図に対して、横波臨界角以下の領域を含む範囲に、縦波音速による断面図を合成して表示するようにしている。
【0154】
図26に示すように、横波音速の断面画像表示部103A、縦波音速の断面画像表示部103Bを備えている。また、エコーの位置を指示する手段として、屈折角を示す角度カーソルCS1と、深さ方向の位置をあらわす横カーソルCS2と、水平方向の位置を表す縦カーソルCS3とを備えている。角度カーソルCS1で選択された屈折角に対応した受信信号が受信信号表示部103Cに、縦軸に振幅、横軸に時間(または路程)として表示される。また、表示する断面図を選択する手段SW1,SW2を備えている。
【0155】
ここで、横波臨界角以下のある角度において、区切り線DLにより、断面図が分割されるものとする。区切り線DLの角度は、例えば、区切り線の角度を入力する角度入力手段DIにより値が設定されるものとする。区切り線DLの角度以下の第1の領域A1では、縦波音速による断面図が表示され、区切り線DLより大きい角度の第2の領域A2では、横波音速による断面図が表示され、一つの扇形の断面図として合成され表示される。図示の例では、角度入力手段DIにより、32度と入力しているので、32度以下の第1の領域A1には、縦波音速による断面図が表示され、32度より大きい角度の第2の領域A2には、横波音速による断面図が表示されている。また、図示の例では、スイッチSW1により横波断面図が表示される状態であるので、例えば、角度入力手段DIの入力値を0度とすれば、表示部103Aには、0度〜90度の範囲の横波音速による断面図が表示される。
【0156】
図27は、区切り線DLにおいて、縦波と横波とを合成した断面図の例を示している。比較のため、図28に、横波音速のみによる断面図を示している。なお、図27において、図27(A)は、探触子101による被検体100の走査の模式図であり、図27(B)は、図27(A)に示すように走査された場合の、実際の断面図である。また、図28において、図28(A)は、探触子101による被検体100の走査の模式図であり、図28(B)は、図28(A)に示すように走査された場合の、実際の断面図である。
【0157】
図28に示すように、横波音速のみによる断面図では、底面からのエコーEC1と、反射源RSに相当するエコーEC4の深さ位置がずれて表示されている。
【0158】
一方、図27に示すように,本実施形態により合成された断面図においては、被検査体100の底面近傍に位置する反射源RSに相当するエコーEC4と、被検査体の底面からのエコーEC1が同じ深さとして表示されている。
【0159】
以上説明したように、本実施形態によれば、グレーティングローブの低減と、縦波と横波の両方に対してメインビームの送信を可能にするための最適な素子ピッチを備えたアレイ探触子を用い、被検査体の横波音速及び縦波音速に基づくディレイパターンによる横波音速の断面図と縦波音速による断面図を両方表示することにより、1つのアレイ探触子を用いて、欠陥検出性にすぐれた横波斜角探傷法に加えて、2次クリーピング波法やモード変換波法を実現でき、さらに、欠陥サイジングにすぐれた縦波斜角探傷法を実現できる。また、表示画面(断面図)の角度及び路程から、得られるエコーが横波または縦波斜角法によるものか、あるいは、モード変換波法及び2次クリーピング波によるものかを容易に判断がでる。さらに、横波斜角法による断面図と縦波斜角法による断面図を合成することで、横波断面図において被検査体の底面の位置を認識することが容易となり、横波斜角法の反射源によるエコーの位置の識別が容易となり、超音波探傷の信頼性を向上することができる。
【符号の説明】
【0160】
100…被検査体
100B…被検査体底面
101…アレイ探触子
102…送受信部
102A…計算機
102B…遅延時間制御部
102C…パルサー
102D…レシーバ
102E…データ収録部
102F…記憶部
103…データ表示部
103A、103B…断面画像表示部
103C,103D…受信信号表示部
DI…
RS…欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の圧電素子の配列からなるアレイセンサを用いフェーズドアレイ方式により動作させ、被検査体内部を検査する超音波探傷装置であって、
前記被検査体の横波音速に基づく横波屈折角による断面画像と、前記被検査体の縦波音速に基づく縦波屈折角による断面画像との両方を表示する表示手段を備えることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波探傷装置において、
前記横波音速を用い、横波屈折角として横波臨界角θCRから(90度−横波臨界角θCR)の角度を含んだ斜角方向に対応する第一のディレイパターンと、前記縦波音速を用い、縦波屈折角として角度0度から70の角度を含んだ斜角方向に対応する第二のディレイパターンを作成するディレイパターン作成手段と、
該ディレイパターン作成手段により作成された前記第一のディレイパターンにより前記アレイセンサから前記横波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される第一の受信信号と、前記ディレイパターン作成手段により作成された前記第二のディレイパターンにより前記アレイセンサから前記縦波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される第二の受信信号を連続して収録する収録手段を備えることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項3】
請求項1記載の超音波探傷装置において、
前記横波の伝播音速を用い、横波屈折角として角度0度から55度の角度を含んだ斜角方向に対応する第一のディレイパターンを作成するディレイパターン作成手段と、
該ディレイパターン作成手段により作成された前記第一のディレイパターンにより前記アレイセンサから前記横波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される受信信号を収録する収録手段と、
該収録手段に収録された前記受信信号から、横波屈折角による第一の断面画像と、縦波屈折角による第二の断面画像の両方を作成する作成手段を備えることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3のいずれかに記載の超音波探傷装置において、
断面画像の基準となる前記被検査体の音速を表示する音速表示手段を備えることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3のいずれかに記載の超音波探傷装置において、
前記2つの断面画像間で連動して、反射源の位置を示すカーソル手段を備えることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項6】
請求項1記載の超音波探傷装置において、
音速の異なる複数の断面画像を一つの断面画像として合成して表示する合成表示手段と、
該合成表示手段における合成断面画像において、音速の異なる領域の境界を設定する境界設定手段を備えることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項7】
複数個の圧電素子の配列からなるアレイセンサを用いフェーズドアレイ方式により動作させ、被検査体内部を検査する超音波探傷方法であって、
横波音速に対応した第一のディレイパターンにより、前記アレイセンサから横波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される第一の受信信号を収録し、
縦波音速に対応した第二のディレイパターンにより、前記アレイセンサから縦波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される第二の受信信号を収録し、
前記第一の受信信号から作成された横波屈折角による第一の断面画像と、前記第二の受信信号から作成された縦波屈折角による第二の断面画像との少なくとも一方を表示することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項8】
複数個の圧電素子の配列からなるアレイセンサを用いフェーズドアレイ方式により動作させ、被検査体内部を検査する超音波探傷方法であって、
横波音速に対応した第一のディレイパターンにより、前記アレイセンサから横波屈折角による超音波を被検体に送信し、そのとき受信される第一の受信信号を収録し、
前記第一の受信信号から作成された横波屈折角による第一の断面画像と、前記第一の受信信号から作成された縦波屈折角による第二の断面画像との少なくとも一方を表示することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8のいずれかに記載の超音波探傷方法において、
超音波の屈折角度の絶対値が横波臨界角度以下の領域を含む縦波による断面画像と、横波臨界角度より大きい角度の領域を含む横波による断面画像の両方を合成して1枚の断面画像として表示することを特徴とする超音波探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2010−276465(P2010−276465A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129028(P2009−129028)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】