説明

超音波探触子および超音波撮像装置

【課題】完全反射層と接する板面を、均一に鏡面研磨することができる複合圧電素子を有する超音波探触子および超音波撮像装置を実現する。
【解決手段】複合圧電素子72の完全反射層73と対向する板面に、圧電素子83のみからなる板状接合部85を設け、対向する完全反射層73の板面と共に、板状接合部85の完全反射層73と対向する板面を鏡面研磨により、凹凸が小さいものとしているので、接着層を薄く、均一な厚さとし、ひいては超音波探触子を、高感度で広周波数帯域にすることを実現させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複合圧電素子に、発生される超音波の1/4波長に相当する弾性振動を励起する超音波探触子および超音波撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波撮像装置においては、断層画像情報の画質の改善が日々行われている。この画質を改善する方法に、超音波探触子を高感度化および広周波数帯域化することがある。
【0003】
近年、超音波探触子は、超音波探触子の圧電素子に、この圧電素子の有する厚さが1/4波長に相当する弾性振動を励起させ、この弾性振動による超音波を被検体に照射することを行う。これにより、圧電素子は、被検体が位置する方向と反対方向に照射される超音波のエネルギー(energy)を概ね零にし、被検体が存在する表面に照射される超音波のエネルギーを高くし、高い感度を実現する。なお、圧電素子に1/4波長共振を行わせる際には、圧電素子の被検体が位置する側の板面と対向する圧電素子の板面に、高音響インピーダンス(impedance)の完全反射層(デマッチング層;DE−MATCHING LAYERとも称される)が設けられる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、この1/4波長共振を行う圧電素子の材料として、複合圧電素子が用いられる。複合圧電素子は、PZT(ジルコン酸鉛)等の圧電素子をアレイ(array)状に配列し、この配列された圧電素子の間隙部分に樹脂を充填したものである。複合圧電素子は、電気機械結合係数がPZTと概ね等しくなる一方で、音響インピーダンスがPZTと比較して小さくなる。そして、この複合圧電素子を、1/4波長共振を行う圧電素子の材料として用いることにより、感度の向上および共振周波数特性の広帯域化が計られる。
【0005】
しかし、複合圧電素子を用いて、安定して良好な1/4波長共振を行わせることは、容易でない。すなわち、複合圧電素子に、安定して良好な1/4波長共振を行わせるためには、上述した完全反射層との境界に存在する接着層の厚みを、薄く均一なものとする必要がある。
【0006】
この接着層の厚みは、複合圧電素子が1/4波長共振を行う際の共振特性に大きな影響を与える。図7は、一例として、この接着層が1〜3μmの異なる厚みを有する際に、音響レンズ、音響整合層、圧電素子および完全反射層を含む超音波探触子が有する伝達関数の周波数帯域を、シミュレーション(simulation)した説明図である。図7では、横軸は、周波数(MHz)、縦軸は、周波数応答の大きさをデシベル(decibel;dB)表示したもので、周波数応答のピーク(peak)値を、0dB(デシベル)としている。この超音波探触子は、3MHz近傍が中心周波数となる周波数帯域を有する。
【0007】
図7の曲線81〜83は、各々接着層の厚みが1μm、2μm、3μmの場合の周波数帯域を示している。曲線81〜83で示される周波数帯域は、接着層の厚みが1μmから3μmへと厚くなるにつれて、周波数帯域が狭いものとなる。例えば、ピーク値から6dB降下した位置の曲線81〜83の帯域幅は、接着層の厚みが1μmから3μmに変化すると、帯域幅を中心周波数で割った比帯域幅が80%〜71%へと減少する。なお、超音波探触子は、広い周波数帯域を有する際に、超音波波形のリングダウン(ring down)特性の良い、時間的に短いパルス(pulse)を発生させることができ、ひいては断層画像の分解能を改善することができる。
【0008】
以上のことから、複合圧電素子および完全反射層間の接着層を、薄く均一な厚さとすることが、複合圧電素子に、安定して良好な1/4波長共振を行わせる上で必要とされる。そこで、上述したシミュレーション結果に示されている様に、接着層の厚さを数μmオーダー(order)で制御するために、この接着層を形成する際に、複合圧電素子および完全反射層の対向する接着面は、共に鏡面研磨され、平滑化される。
【特許文献1】米国特許第6,685,647号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記背景技術によれば、複合圧電素子の接着面は、均一に鏡面研磨することが困難である。すなわち、複合圧電素子の接着面は、セラミック(ceramic)である圧電素子および充填材である樹脂を含み、硬度の異なる2つの材料が共存する。この様な接着面を、研磨材により均一に鏡面研磨し、数μmオーダーにまで凹凸を減少させることには困難が伴う。
【0010】
例えば、複合圧電素子の接着面の鏡面研磨では、圧電素子部分が深く鏡面研磨され、樹脂部分が浅く鏡面研磨される。その結果、複合圧電素子の接着面には、凹凸が生じ、平らなものでは無くなる。そして、複合圧電素子および完全反射層間の接着層も、接着面に凹凸が存在するために薄く、均一な厚さにすることが容易でない。
【0011】
これらのことから、完全反射層と対向する板面を、均一に鏡面研磨することができる複合圧電素子を有する超音波探触子および超音波撮像装置をいかに実現するかが重要となる。
【0012】
この発明は、上述した背景技術による課題を解決するためになされたものであり、完全反射層と対向する板面を、均一に鏡面研磨することができる複合圧電素子を有する超音波探触子および超音波撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、第1の観点の発明にかかる超音波探触子は、平面に間隙を持って配列された圧電素子および前記間隙に充填された充填剤を含む複合圧電素子と、前記平面と直交する超音波の照射方向に位置する、前記複合圧電素子の一方の複合圧電素子板面に接する接着層と、前記接着層を介して前記複合圧電素子と接着される、前記複合圧電素子で発生される超音波の弾性振動を、前記複合圧電素子板面の方向に概ね反射する完全反射層と、を備える超音波探触子であって、前記複合圧電素子は、前記接着層と接する前記複合圧電素子板面のすべてを覆う、前記圧電素子のみからなる板状接合部を備えることを特徴とする。
【0014】
この第1の観点による発明では、複合圧電素子は、圧電素子のみからなる板状接合部により、接着層と接する複合圧電素子板面のすべてを覆う。
【0015】
また、第2の観点の発明にかかる超音波探触子は、第1の観点に記載の超音波探触子において、前記複合圧電素子が、前記圧電素子を、前記平面の一次元方向にのみ配列させることを特徴とする。
【0016】
この第2の観点の発明では、電気機械結合係数を概ね維持したまま、音響インピーダンスを低下させる。
【0017】
また、第3の観点の発明にかかる超音波探触子は、第1の観点に記載の超音波探触子において、前記複合圧電素子が、前記圧電素子を、前記平面内の2次元方向にマトリクス状に配列させることを特徴とする。
【0018】
この第3の観点の発明では、電気機械結合係数を概ね維持したまま、さらに一層音響インピーダンスを低下させる。
【0019】
また、第4の観点の発明にかかる超音波探触子は、第1ないし3の観点のいずれか一つに記載の超音波探触子において、前記圧電素子および前記板状接合部が、直方体の形状を有する単一の圧電材料の掘削により形成されることを特徴とする。
【0020】
この第4の観点の発明では、少ない工程で、確実に圧電素子および板状接合部を形成する。
【0021】
また、第5の観点の発明にかかる超音波探触子は、第1ないし4の観点のいずれか一つに記載の超音波探触子において、前記圧電素子が、PZTであることを特徴とする。
【0022】
この第5の観点の発明では、電気機械結合係数を高いものにする。
【0023】
また、第6の観点の発明にかかる超音波探触子は、第1ないし5の観点のいずれか一つに記載の超音波探触子において、前記充填剤が、樹脂であることを特徴とする。
【0024】
また、第7の観点の発明にかかる超音波探触子は、第1ないし6の観点のいずれか一つに記載の超音波探触子において、前記接着層が、エポキシ樹脂接着剤を含むことを特徴とする。
【0025】
この第7の観点の発明では、複合圧電素子および完全反射層を、強力に接着する。
【0026】
また、第8の観点の発明にかかる超音波探触子は、第1ないし7の観点のいずれか一つに記載の超音波探触子において、前記複合圧電素子が、前記複合圧電素子板面が有する前記配列方向の2つの両端部近傍位置に、前記平面内の前記配列方向と直交する厚み方向に掘削された2つの掘削孔を備えることを特徴とする。
【0027】
この第8の観点の発明では、複合圧電素子板面に形成される電極部を、絶縁された2つの電極部に分離する。
【0028】
また、第9の観点の発明にかかる超音波探触子は、第8の観点に記載の超音波探触子において、前記接着層および前記完全反射層が、前記配列方向の前記掘削孔の位置で前記照射方向に掘削されることを特徴とする。
【0029】
この第9の観点の発明では、掘削孔により、接着層および完全反射層も、絶縁された2つの電極部として機能させる。
【0030】
また、第10の観点の発明にかかる超音波探触子は、第9の観点に記載の超音波探触子において、前記掘削孔が、前記接着層を介して接着された前記複合圧電素子および前記完全反射体の、前記完全反射体側からの掘削により形成されることを特徴とする。
【0031】
この第10の観点の発明では、簡易な製造工程で、掘削孔を形成する。
【0032】
また、第11の観点の発明にかかる超音波探触子は、第1ないし10の観点のいずれか一つに記載の超音波探触子において、前記完全反射層が、タングステンを含むことを特徴とする。
【0033】
この第11の観点の発明では、完全反射層を、高音響インピーダンスおよび導通状態にする。
【0034】
また、第12の観点の発明にかかる超音波探触子は、第11の観点に記載の超音波探触子において、前記接着層が位置する前記完全反射層の板面と対向する前記完全反射層の板面位置にフレキシブルプリント板を備えることを特徴とする。
【0035】
この第12の観点の発明では、接着層に影響を与えない電極の取り出しを行う。
【0036】
また、第13の観点の発明にかかる超音波探触子は、第12の観点に記載の超音波探触子において、前記フレキシブルプリント板が、前記完全反射層の掘削孔と接する部分に電気絶縁層、前記完全反射層の前記2つの掘削孔に挟まれた領域と接する部分に導体箔、さらに前記完全反射層の前記配列方向に位置する2つの掘削孔から端部方向の拡がる領域と接する部分に導体箔を備えることを特徴とする。
【0037】
この第13の観点の発明では、完全反射層のフレキシブルプリント板が存在する片面のみから、接地端子および駆動端子の両電極を、取り出す。
【0038】
また、第14の観点の発明にかかる超音波探触子は、第1ないし13観点のいずれか一つに記載の超音波探触子において、前記複合圧電素子が、前記照射方向のもう一方の複合圧電素子板面に音響整合層を備えることを特徴とする。
【0039】
この第14の観点の発明では、音響整合層により、感度を向上させる。
【0040】
また、第15の観点の発明にかかる超音波探触子は、第14の観点に記載の超音波探触子において、前記音響整合層が、前記照射方向の前記複合圧電素子と反対側の音響整合層板面にゴムレンズを備えることを特徴とする。
【0041】
この第15の観点の発明では、ゴムレンズにより、厚み方向に収束した音場を形成させる。
【0042】
また、第16の観点の発明にかかる超音波探触子は、被検体に超音波エコーの送信および前記被検体からの反射超音波エコーの受信を行う超音波探触子と、前記反射超音波エコーに基づいて、前記被検体の断層画像情報を取得する画像取得部と、前記断層画像情報を表示する表示部と、前記送信、前記受信、前記取得および前記表示を制御する制御部と、を備える超音波撮像装置であって、前記超音波探触子は、平面に間隙を持って配列された圧電素子および前記間隙に充填された充填剤を含む複合圧電素子と、前記平面と直交する超音波の照射方向に位置する、前記複合圧電素子の一方の複合圧電素子板面に接する接着層と、前記接着層を介して前記複合圧電素子と接着される、前記複合圧電素子で発生される超音波の弾性振動を、前記複合圧電素子板面の方向に概ね反射する完全反射層とを有し、前記複合圧電素子は、前記接着層と接する前記複合圧電素子板面のすべてを覆う、前記圧電素子のみからなる板状接合部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、複合圧電素子の圧電素子のみからなる板状接合部を鏡面研磨して凹凸が小さいものとするので、板状接合部および完全反射層に挟まれる接着層を、薄くしかも均一な厚さとし、ひいては複合圧電素子に、安定して確実な1/4波長共振の弾性振動を生じさせ、超音波探触子を高感度で広周波数帯域にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる超音波撮像装置を実施するための最良の形態について説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0045】
まず、本実施の形態にかかる超音波撮像装置100の全体構成について説明する。図1は、本実施の形態にかかる超音波撮像装置100の全体構成を示すブロック(block)図である。この超音波撮像装置100は、超音波探触子101、送受信部102、画像処理部103、シネメモリ(cine memory)部104、画像表示制御部105、表示部106、入力部107および制御部108を含む。
【0046】
超音波探触子101は、超音波を送受信するセクター(sector)型の探触子である。被検体2の撮像断面に超音波を送信し、被検体2の内部から反射された超音波エコー(echo)を時系列的な音線として受信する。超音波探触子101は、探触子を中心として、扇形に広がる送受信方向を、順次切り替えながら繰り返し走査を行い、撮像断面の2次元断層画像情報を取得する。
【0047】
送受信部102は、超音波探触子101と同軸ケーブル(cable)によって接続され、超音波探触子101の複合圧電素子を駆動するための電気信号を発生する。この電気信号は、超音波を発生する際の送信波形をなし、複合圧電素子の共鳴振動数に近似する繰り返し周波数を有する複数のパルスを含むバースト(burst)波形が用いられる。また、送受信部102は、受信した超音波エコー信号の初段増幅を行う。
【0048】
画像処理部103は、送受信部102で増幅された超音波エコー信号からBモード(mode)画像を、リアルタイム(real time)で生成する。具体的な処理内容は、受信した超音波エコー信号の遅延加算処理、A/D(analog/digital)変換処理、変換した後のデジタル(digital)情報をBモード(mode)画像情報として後述のシネメモリ部104に書き込む処理等がある。また、画像処理部103は、ドップラ(doppler)処理の一つであるカラーフローマッピング(color flow mapping)を行う場合には、超音波エコー信号の位相変化情報を抽出し、リアルタイム(real time)で速度、パワー(power)値、分散といった撮像断面の各点に付随する流れの情報を算出する。
【0049】
シネメモリ部104は、画像処理部103で生成されたBモード画像情報および流れの情報を蓄積するための画像メモリ(memory)である。
【0050】
画像表示制御部105は、画像処理部103で生成されたBモード画像情報および流れの情報の表示フレームレート(frame rate)変換、並びに、表示部106に表示する画像の形状や位置制御を行う。
【0051】
表示部106は、画像表示制御部105により、表示フレームレート変換および画像表示の形状や位置制御された画像情報を、オペレータ(operator)に対して表示するためのCRT(Cathode Ray Tube)あるいはLCD(Liquid Crystal Display)等からなる。
【0052】
入力部107は、オペレータによる操作入力信号、例えばBモードによる走査を行うか、さらにカラーフローマッピングの走査を行うか等を選択するための操作入力信号を、制御部108に送信する。
【0053】
制御部108は、入力部107から送信された操作入力信号、並びに、予め記憶したプログラム(program)やデータ(data)に基づいて、上述した超音波撮像装置各部の動作を制御する。
【0054】
図2は、セクター型の超音波探触子101の外観を示す外観図である。超音波探触子101は、音響レンズ(lens)部10、把持部11、機能素子部12および接続ケーブル14を含む。なお、音響レンズ部10は、理解を助けるため、内蔵される機能素子部12を部分的に露出させ、実際とは異なる状態で図示されている。また、図中に示されたxyz軸座標は、後の図面に記載されたxyz軸座標と共通の座標軸をなし、図面相互の位置関係を示している。
【0055】
音響レンズ部10は、超音波探触子101の被検体2と接する側に設けられており、機能素子部12で発生された超音波を、被検体2に効率良く入射させる。音響レンズ部10は、概ね被検体2および機能素子部12の中間の音響インピーダンスを有する材質からなる。音響レンズ部10は、被検体2と接する部分で凸型のレンズ形状を有し、被検体2に入射される超音波を収束させる。
【0056】
把持部11は、オペレータにより把持され、音響レンズ部10を被検体2の撮像領域に密着させる。把持部11の内部には、機能素子部12の電極部および接続ケーブル14に含まれる同軸ケーブルを接続するフレキシブルプリント(flexible print)板等が存在する。
【0057】
接続ケーブル14は、複数の同軸ケーブルを束ねたものであり、送受信部102と機能素子部12とを電気的に接続する。
【0058】
機能素子部12は、超音波を発生し、被検体2に超音波を入力すると同時に、被検体2の内部で反射された超音波エコーを受信する。
【0059】
図3は、機能素子部12のみの外観を示す外観図である。機能素子部12は、音響整合層70、複合圧電素子72、接着層77、完全反射層73、バッキング(backing)材78およびフレキシブルプリント板74を含む。直方体の形状を有する音響整合層70、複合圧電素子72および完全反射層73は、超音波の照射方向であるz軸方向に積み重ねられた積層構造をなす。そして、同様の積層構造をなす音響整合層70、複合圧電素子72および完全反射層73が、配列方向、すなわちy軸方向に配列させられる。
【0060】
複合圧電素子72は、直方体の形状を有し、この直方体の厚み方向であるx軸方向にPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電素子が一次元的に配列される。また、厚み方向に配列された圧電素子の間隙部分には、エポキシ樹脂が充填される。複合圧電素子72は、充填されたエポキシ樹脂も含めて圧電素子として機能する。複合圧電素子72は、電気機械結合係数がPZTと概ね同等である一方で、音響インピーダンスがPZTと比較して小さい。これにより、複合圧電素子72の負荷となる、音響整合層70等との音響インピーダンスの差が、小さなものとなり、共振周波数特性は、広い周波数帯域を有するものとなる。
【0061】
音響整合層70は、複合圧電素子72の被検体2が存在する照射方向であるz軸の正方向の板面に接着される。音響整合層70は、複合圧電素子72および図2に示される音響レンズ部10の概ね中間の音響インピーダンスを有する。音響整合層70は、透過する超音波の概ね4分の1波長の厚さを有し、音響インピーダンスの異なる境界面での反射を抑制する。また、図3では、音響整合層が一層の場合を例示したが、2層あるいは多層とすることもできる。
【0062】
接着層77は、複合圧電素子72および完全反射層73を接着させるための層で、エポキシ(epoxy)樹脂接着剤等からなる。
【0063】
完全反射層73は、複合圧電素子72で発生される弾性振動を、完全に反射する反射層であり、複合圧電素子72の照射方向とは反対方向の板面に接着される。完全反射層73は、被検体2の方向と反対方向に照射される複合圧電素子72の超音波を、被検体2の照射方向へ完全反射し、被検体2に入射される超音波パワーを増加させる。完全反射層73の材質は、超音波を完全に反射すると言う目的から、音響インピーダンスの高いものが好ましく、タングステン(tungsten)等が用いられる。なお、複合圧電素子72、接着層77および完全反射層73の厚み方向端部近傍には、掘削孔88が存在する。掘削孔88は、例えば、複合圧電素子72および完全反射層73を接着層77により接着した後に、完全反射層73側から、ダイアモンド砥石等を用いた切削加工により形成される。なお、掘削孔88の機能については、後に詳述する。
【0064】
バッキング材78は、完全反射層73およびフレキシブルプリント板74を保持する。
【0065】
フレキシブルプリント板74は、完全反射層73およびバッキング材78の間に配設される4層のフレキシブルプリント板である。フレキシブルプリント板74は、バッキング材78の厚み方向側面に沿って、被検体2と反対の後方に引き出され、接続ケーブル14と接続される。なお、図3には、バッキング材78の厚み方向側面に沿って一様な銅箔で覆われた、フレキシブルプリント板74の接地面が図示されている。図示しないフレキシブルプリント板74の接地面の裏側には、絶縁膜を介して、配列方向の複合圧電素子72ごとに独立した電極をなす、z軸方向に平行して走る複数の銅箔パターン(pattern)が存在する。なお、詳細は、つぎの図4で示す。
【0066】
図4は、機能素子部12のxz断面の詳細を示す断面図である。ここで、図3と比較して、複合圧電素子72には、第1の電極部71および第2の電極部75、フレキシブルプリント板74には、銅箔79、80およびポリイミド(polyimide)膜81,82が、さらに詳細に示されている。
【0067】
第1の電極部71および第2の電極部75は、複合圧電素子72のxz軸断面を囲む様に配設される。第1の電極部71および第2の電極部75は、掘削孔88により互いに電気的に絶縁される。第1の電極部71は、複合圧電素子72の照射方向の板面、x軸方向側面および完全反射層73側に存在する2つの掘削孔88からx軸方向端部に向かう板面に配設され、第2の電極部75は、複合圧電素子72の完全反射層73側の板面に存在する2つの掘削孔88間に配設される。なお、第1の電極部71および第2の電極部75は、スパッタ(spatter)等により形成される。
【0068】
接着層77は、照射方向をなすz軸方向の厚さが、数μm程度以下に抑えられている。この厚さは、第1の電極部71および第2の電極部75と接する板面が有する凹凸、並びに後述する完全反射層73と接する板面が有する凹凸と同程度の大きさとなっている。従って、接着層77は、エポキシ樹脂接着剤を含む絶縁体であるにもかかわらず、第1の電極部71および第2の電極部75と完全反射層73とは、板面の凹凸部分で部分的に接触し、z軸方向に導電性を有する。
【0069】
完全反射層73は、高い硬度を有するタングステンを含む。ここで、完全反射層73は、複合圧電素子72が存在する側の板面に、鏡面研磨が施されている。従って、完全反射層73は、複合圧電素子72が存在する側の板面の凹凸が、数μm程度に抑えられる。
【0070】
また、完全反射層73を構成するタングステンは、同時に高い導電性を有する物質でもあるので、後述するフレキシブルプリント板74の銅箔と、複合圧電素子72を電気的に接続する役目も有する。なお、掘削孔88は、接着層77および完全反射層73のx軸方向位置に設けられており、接着層77および完全反射層73のx軸方向中央部と、x軸方向端部を電気的な絶縁状態とする。
【0071】
フレキシブルプリント板74は、完全反射層73のバッキング材78側に設けられ、複合圧電素子72に電圧を印加する。フレキシブルプリント板74は、例えば、銅箔79、80およびポリイミド膜81、82の4層からなる。銅箔79および80は、ポリイミド膜81により互いに絶縁されている。銅箔79は、掘削孔88から完全反射層73のx軸方向端部に位置する。銅箔80は、完全反射層73のx軸方向端部では、ポリイミド膜81を介して銅箔79の背面に位置し、完全反射層73のx軸方向中央部分では、導電性を有するスルーホール(through hole)を介して、銅箔79と同一面にも存在する。
【0072】
銅箔79は、電気的な導電性を有する完全反射層73および接着層77を介して、第1の電極部71と電気的に接続され、銅箔80は、電気的な導電性を有する完全反射層73および接着層77を介して、第2の電極部75と電気的に接続される。
【0073】
図5は、複合圧電素子72のみの外観を示す説明図である。なお、第1の電極部71および第2の電極部75は、図示を省略した。複合圧電素子72は、超音波の照射方向をなすz軸方向に複合圧電素子部84および板状接合部85を含む。
【0074】
複合圧電素子部84は、複合圧電素子72の音響整合層70側に位置し、x軸方向にPZT等からなる圧電素子83および樹脂86が交互に配列された構造を有する。
【0075】
板状接合部85は、複合圧電素子72の完全反射層73側に位置し、xy軸面が圧電素子83のみからなる板状の構造を有する。なお、板状接合部85は、例えば、図5に示す複合圧電素子72と同形の直方体形状の圧電材料を、音響整合層70側から切削することにより形成される。この際、照射方向の切削深さは、複合圧電素子72の照射方向の長さの概ね80%程度にされる。
【0076】
ここで、複合圧電素子72の完全反射層73側の板面は、研磨材を用いて鏡面研磨される。この板面は、板状接合部85からなり、一様な硬度を有する圧電素子83のみからなる。従って、複合圧電素子72の完全反射層73側の板面は、鏡面研磨により、凹凸を小さくすることができる。
【0077】
ちなみに、板状接合部85が存在しない場合には、複合圧電素子72の完全反射層73側の板面は、硬度が大きく異なる2つの材質、すなわちセラミックからなる圧電素子83および樹脂86が共存する。この様な板面は、均一に鏡面研磨することが難しく、数μmオーダーの小さな凹凸を実現することが容易でない。
【0078】
また、複合圧電素子72の完全反射層73側の板面および完全反射層73の複合圧電素子72側の板面は、共に単一材料からなるので、均一な鏡面研磨を行い、凹凸が小さくされる。さらにこの結果、複合圧電素子72および完全反射層73の間に形成される接着層77は、厚さが均一でかつ薄いものとされる。
【0079】
つぎに、機能素子部12の動作について、図6を用いて概略を説明する。図6は、機能素子部12の部分的構造および弾性的な振動を示す説明図である。図6(A)は、複合圧電素子72、接着層77および完全反射層73のxz軸断面を示す図である。ここで、複合圧電素子72のz軸方向厚さは、発生させる超音波の中心周波数により決定され、概ね数100μm程度の厚さとなる。一方、接着層77の厚さは、複合圧電素子72および完全反射層73の対向する板面が共に均一に鏡面研磨されるので、厚さおよび厚さのばらつきが数μm程度以内に抑えられる。
【0080】
完全反射層73は、複合圧電素子72と比較して、高い音響インピーダンスの材質からなるので、複合圧電素子72から入射される超音波は、概ね反射される。従って、完全反射層73の内部に、複合圧電素子72で発生された超音波は、存在しないものとなる。
【0081】
図6(B)は、複合圧電素子72および完全反射層73において、z軸方向に発生される弾性振動の振幅の分布を示す図である。図6(B)の横軸は、z軸方向位置、縦軸は、弾性振動の振幅の大きさを示している。なお、横軸で示されるz軸方向の座標位置は、図6(A)に示された複合圧電素子72および完全反射層73のz軸方向位置に対応するものである。
【0082】
複合圧電素子72は、第1の電極部71および第2の電極部75間に印加される電圧により共鳴振動を励起する。この共鳴振動は、被検体2側が音響整合層70からなる低音響インピーダンス、バッキング材78側が完全反射層73からなる高音響インピーダンスとなっているので、概ね被検体2側が自由振動端、バッキング材78側が固定端となる定在波を形成する。
【0083】
図6(B)は、複合圧電素子72の被検体2側の端部で振幅が最大となり、複合圧電素子72のバッキング材78側で振幅が零となる定在波を図示したものである。この図から、複合圧電素子72では、共振状態で複合圧電素子72のz軸方向厚さを1/4波長とする定在波が発生することがわかる。また、完全反射層73では、弾性振動が全く入射しないので、振幅は零となる。
【0084】
複合圧電素子72で発生された弾性振動のエネルギーは、すべて被検体2側に放出されるので、複合圧電素子72の感度を向上することができる。また、接着層77は、薄く均一な構造とされているので、接着層77が完全反射層73の弾性振動の固定端としての機能を損なうことはなく、発生される超音波も振幅の大きいものとなる。
【0085】
上述してきたように、本実施の形態では、複合圧電素子72の完全反射層73と対向する板面に、圧電素子83のみからなる板状接合部85を設け、対向する完全反射層73の板面と共に、板状接合部85の完全反射層73と対向する板面を鏡面研磨により、凹凸が小さいものとしているので、接着層77を薄く、均一な厚さとし、ひいては超音波探触子を、高感度で広周波数帯域にすることができる。
【0086】
また、本実施の形態では、複合圧電素子72は、2−2タイプ(type)と呼ばれる厚み方向に圧電素子が一次元的に配列されたものとしたが、xy軸面内に圧電素子がマトリックス(matrix)状に2次元配列され、この圧電素子の間隙部分に樹脂が充填されたものとすることもできる。これにより、より低音響インピーダンスの複合圧電素子とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】超音波撮像装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】超音波探触子の外観を示す外観図である。
【図3】超音波探触子の機能素子部のみの外観を示す外観図である。
【図4】超音波探触子の機能素子部の断面を示す断面図である。
【図5】機能素子部の複合圧電素子の外観を示す外観図である。
【図6】複合圧電素子および完全反射層の弾性振動を示す説明図である。
【図7】複合圧電素子および完全反射層の間に存在する接着層の厚さと、周波数帯域幅の関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0088】
2 被検体
10 音響レンズ部
11 把持部
12 機能素子部
14 接続ケーブル
70 音響整合層
71 第1の電極部
72 複合圧電素子
73 完全反射層
74 フレキシブルプリント板
75 第2の電極部
77 接着層
78 銅箔
78 バッキング材
79、80銅箔
81,82 ポリイミド膜
83 圧電素子
84 複合圧電素子部
85 板状接合部
86 樹脂
88 掘削孔
100 超音波撮像装置
101 超音波探触子
102 送受信部
103 画像処理部
104 シネメモリ部
105 画像表示制御部
106 表示部
107 入力部
108 制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面に間隙を持って配列された圧電素子および前記間隙に充填された充填剤を含む複合圧電素子と、
前記平面と直交する超音波の照射方向に位置する、前記複合圧電素子の一方の複合圧電素子板面に接する接着層と、
前記接着層を介して前記複合圧電素子と接着される、前記複合圧電素子で発生される超音波の弾性振動を、前記複合圧電素子板面の方向に概ね反射する完全反射層と、
を備える超音波探触子であって、
前記複合圧電素子は、前記接着層と接する前記複合圧電素子板面のすべてを覆う、前記圧電素子のみからなる板状接合部を備えることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記複合圧電素子は、前記圧電素子を、前記平面の一次元方向にのみ配列させることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記複合圧電素子は、前記圧電素子を、前記平面内の2次元方向にマトリクス状に配列させることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記圧電素子および前記板状接合部は、直方体の形状を有する単一の圧電材料の掘削により形成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記圧電素子は、PZTであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記充填剤は、樹脂であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の超音波探触子。
【請求項7】
前記接着層は、エポキシ樹脂接着剤を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載の超音波探触子。
【請求項8】
前記複合圧電素子は、前記複合圧電素子板面が有する前記配列方向の2つの両端部近傍位置に、前記平面内の前記配列方向と直交する厚み方向に掘削された2つの掘削孔を備えることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一つに記載の超音波探触子。
【請求項9】
前記接着層および前記完全反射層は、前記配列方向の前記掘削孔の位置で前記照射方向に掘削されることを特徴とする請求項8に記載の超音波探触子。
【請求項10】
前記掘削孔は、前記接着層を介して接着された前記複合圧電素子および前記完全反射体の、前記完全反射体側からの掘削により形成されることを特徴とする請求項9に記載の超音波探触子。
【請求項11】
前記完全反射層は、タングステンを含むことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一つに記載の超音波探触子。
【請求項12】
前記超音波探触子は、前記接着層が位置する前記完全反射層の板面と対向する、前記完全反射層の板面位置にフレキシブルプリント板を備えることを特徴とする請求項11に記載の超音波探触子。
【請求項13】
前記フレキシブルプリント板は、前記完全反射層の掘削孔と接する部分に電気絶縁層、前記完全反射層の前記2つの掘削孔に挟まれた領域と接する部分に導体箔、さらに前記完全反射層の前記配列方向に位置する2つの掘削孔から端部方向の拡がる領域と接する部分に導体箔を備えることを特徴とする請求項12に記載の超音波探触子。
【請求項14】
前記複合圧電素子は、前記照射方向のもう一方の複合圧電素子板面に音響整合層を備えることを特徴とする請求項1ないし13のいずれか一つに記載の超音波探触子。
【請求項15】
前記音響整合層は、前記照射方向の前記複合圧電素子と反対側の音響整合層板面にゴムレンズを備えることを特徴とする請求項14に記載の超音波探触子。
【請求項16】
被検体に超音波エコーの送信および前記被検体からの反射超音波エコーの受信を行う超音波探触子と、
前記反射超音波エコーに基づいて、前記被検体の断層画像情報を取得する画像取得部と、
前記断層画像情報を表示する表示部と、
前記送信、前記受信、前記取得および前記表示を制御する制御部と、
を備える超音波撮像装置であって、
前記超音波探触子は、平面に間隙を持って配列された圧電素子および前記間隙に充填された充填剤を含む複合圧電素子と、前記平面と直交する超音波の照射方向に位置する、前記複合圧電素子の一方の複合圧電素子板面に接する接着層と、前記接着層を介して前記複合圧電素子と接着される、前記複合圧電素子で発生される超音波の弾性振動を、前記複合圧電素子板面の方向に概ね反射する完全反射層とを有し、
前記複合圧電素子は、前記接着層と接する前記複合圧電素子板面のすべてを覆う、前記圧電素子のみからなる板状接合部を備えることを特徴とする超音波撮像装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−61112(P2009−61112A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231709(P2007−231709)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】