説明

超音波探触子及び超音波診断装置

【課題】圧電性能のばらつきが小さい、コンポジット材を積層した圧電部を備えた超音波探触子及び超音波診断装置を低コストで提供できる。
【解決手段】被検体に超音波を送信し前記超音波が被検体において反射して生成された反射超音波を受信して電気信号に変換する圧電部を有する超音波探触子。
圧電部は、圧電体と非圧電体とが交互に並列に配列されてなる複数の圧電層が積層されたものであり、
複数の圧電層のうち少なくとも1つの圧電層は、複数の圧電層のうち他の1つの圧電層と、圧電体と非圧電体の配列の方向が異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送信又は受信する超音波探触子、及び被検体からの反射波に基づいて被検体内部の超音波画像を生成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、通常、16000Hz以上の音波をいい、非破壊、無害及び略リアルタイムでその内部を調べることが可能なことから、欠陥の検査や疾患の診断等の様々な分野に応用されている。その一つに、被検体内を超音波で走査し、被検体内から伝搬する超音波の反射波から生成した受信信号に基づいて被検体内の内部状態を画像化する超音波診断装置がある。この超音波診断装置は、医療用では、他の医療用画像装置に較べて小型で安価であり、そしてX線等の放射線被爆が無く安全性が高いこと、また、ドップラ効果を応用した血流表示が可能であること等の様々な特長を有している。このため、超音波診断装置は、循環器系(例えば心臓の冠動脈等)、消化器系(例えば胃腸等)、内科系(例えば肝臓、膵臓及び脾臓等)、泌尿器系(例えば腎臓及び膀胱等)及び産婦人科系等で広く利用されている。
【0003】
超音波診断装置には、被検体に対して超音波を送受信する超音波探触子が用いられている。超音波探触子は、圧電現象を利用することによって、送信の電気信号に基づいて機械振動して超音波を発生し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる超音波の反射波を受けて受信の電気信号を生成する複数の圧電素子を備え、これら複数の圧電素子が例えば1次元アレイ状や2次元アレイ状に配列されて構成されている。
【0004】
近年では、超音波探触子から被検体内へ送信された超音波の周波数(基本周波数)成分ではなく、その高調波成分によって被検体内の内部状態の画像を形成するハーモニックイメージング(Harmonic Imaging)技術が研究開発されている。ハーモニックイメージング技術は、基本周波数成分のレベルに比較してサイドローブレベルが小さく、S/N比(Signal to Noise ratio)が良くなってコントラストが向上すること、周波数が高くなることによってビーム幅が細くなって横方向分解能が向上すること、近距離では音圧が小さくて音圧の変動が少ないために多重反射が抑制されること、及び、焦点以遠の減衰が基本波並みであり高周波を基本波とする場合に較べて深度を大きく取れること等の様々な利点を有している。(例えば、特許文献1,2参照)。
【0005】
かかる高調波成分を利用する場合には、超音波探触子自体の帯域を広げる必要があり、幾つかの技術が提案されている。例えば、2層積層型圧電振動子を構成する各圧電層を、モノリシック材(バルク)から、圧電体と非圧電体とから構成されるコンポジット材に変更すると送受信における超音波の帯域が広がることが示されている。(非特許文献1参照)。一方で、コンポジット材から構成される圧電層の積層に関しては位置合わせの重要性が示されている。(非特許文献2,3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−118065号公報
【特許文献2】特開2007−185525号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE TRANSACTIONS ON ULTRASONICS,FERROELECTRICS,AND FREQUENCY CONTROL, VOL.46, NO.4, pp.961−971, JULY 1999
【非特許文献2】2003 IEEE ULTRASONICS SYMPOSIUM pp.2007−2010
【非特許文献3】2004 IEEE ULTRASONICS SYMPOSIUM pp.630−633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献2,3には、良好な圧電性能を得るには、圧電体と非圧電体とが交互に配列したコンポジット材からなる圧電層を積層する際の位置合わせが非常に重要であって、コンポジット材の構成にもよるが積層される2つの圧電層における圧電体の位置が数十μmのずれることで、送受信における超音波の帯域、感度、すなわち圧電性能が大きく劣化することが示されている。このようなコンポジット材を積層した積層型圧電振動子における位置ずれ量は積層型圧電振動子毎に異なるため、圧電性能も積層型圧電振動子毎にばらつくことになる。
【0009】
一方、圧電層を積層する際、圧電体の相対的な位置ずれを数十μm以下に抑える作製方法は、例えばアライナーなどを用いて積層することで得られるが、後続の接着プロセスまで行える装置には、高額な設備費用を要するため、位置ずれを数十μm以下に抑えたコンポジット材を積層した積層型圧電振動子の作製は高コストなものとなってしまう。
【0010】
従って、低コストでバラツキなく均一な圧電性能を有するようにコンポジット材を積層した積層型圧電振動子を作製することは非常に難しく、超音波探触子、ひいては超音波診断装置を、製品としての一定の再現性・信頼性を有するよう作製することは非常に困難である。
【0011】
そこで、本発明は、圧電性能のばらつきの小さい積層型圧電振動子を備えた超音波探触子及び超音波診断装置を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の目的は、下記に記載する発明により達成される。
【0013】
1.超音波を送信又は受信する圧電部を有する超音波探触子であって、
前記圧電部は、圧電体と非圧電体とが交互に並列に配列されてなる複数の圧電層が積層されたものであり、
前記複数の圧電層のうち少なくとも1つの圧電層は、前記複数の圧電層のうち他の1つの圧電層と、前記圧電体と前記非圧電体の配列の方向が異なることを特徴とする超音波探触子。
【0014】
2.前記圧電部はN層の前記圧電層が積層されたものであり、
前記N層の前記圧電層は、前記圧電体と前記非圧電体の配列の方向が、互いに180/N[°]ずつ異なることを特徴とする前記1に記載の超音波探触子。
【0015】
3.前記圧電部が、一次元アレイ状又は二次元アレイ状に複数配列していることを特徴とする前記1又は2に記載の超音波探触子。
【0016】
4.前記圧電部が、一次元アレイ状に複数配列し、
積層された複数の前記圧電層のうち少なくとも1組の圧電層は、前記圧電体と前記非圧電体の配列の方向の対称軸が、複数の前記圧電部の配列方向と平行であることを特徴とする前記3に記載の超音波探触子。
【0017】
5.被検体に超音波を送信し前記超音波が被検体において反射して生成された反射超音波を受信して電気信号に変換する圧電部を有する超音波探触子と、
前記圧電部により変換された電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、を有し、
前記超音波探触子は、前記1から4のいずれか1項に記載の超音波探触子であることを特徴とする超音波診断装置。
【0018】
6.前記圧電部により変換された電気信号に含まれる高調波成分を抽出するための高調波抽出部を有し、
前記画像処理部は、前記高調波成分から前記被検体内の超音波画像を生成することを特徴とする前記5記載の超音波診断装置。
【発明の効果】
【0019】
積層するコンポジット材の相対的な位置ずれによる圧電性能の変動が抑制されるため、圧電性能のばらつきの小さい積層型圧電振動子を備えた超音波探触子及び超音波診断装置を低コストで提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係る超音波診断装置Sの外観構成を示す概要図である。
【図2】実施形態に係る超音波診断装置Sの電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る超音波診断装置Sの超音波探触子2の構成を示す概要図である。
【図4】圧電部38の斜視図である。
【図5】圧電層38a1,38a2,38a3各層の斜視図である。
【図6】2層の圧電層からなる圧電部38bの斜視図である。
【図7】圧電層38b1,38b2各層の斜視図である。
【図8】圧電部38の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施形態を図面により説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限られるものではない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0022】
図1は、実施形態に係る超音波診断装置Sの外観構成を示す概要図である。図2は、実施形態に係る超音波診断装置Sの電気的な構成を示すブロック図である。図3は、実施形態に係る超音波診断装置Sの超音波探触子2に備えられる振動部30の構成を示す概要図である。
【0023】
超音波診断装置Sは、図1及び図2に示すように、図略の生体等の被検体Hに対して超音波を送信すると共に、被検体Hで反射した超音波の反射超音波を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体Hに対して超音波を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体H内からの反射超音波に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体H内の内部状態を超音波画像として医用画像に画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
【0024】
超音波診断装置本体1には、超音波探触子2を使用しない時に、超音波探触子2を保持させておく超音波探触子フォルダ4が備えられている。
【0025】
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、画像処理部15と、表示部16と、制御部17と、記憶部19と、を備えて構成されている。
【0026】
操作入力部11は、例えば、診断開始を指示するコマンドや被検体Hの個人情報等のデータを入力するものであり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
【0027】
送信部12は、制御部17の制御に従って、後述する圧電部38を駆動する電気信号である送信信号を生成する。また、超音波探触子2内の圧電部38へ、ケーブル3を介して送信信号を供給し、超音波探触子2に超音波を発生させる。送信部12は、例えば、高電圧のパルスを生成する高圧パルス発生器等を備えて構成される。
【0028】
受信部13は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2からケーブル3を介して電気信号である受信信号を受信する。そして該電気信号から高調波成分を抽出し、また所定の信号処理を施す高調波抽出部としての回路を有す。
【0029】
画像処理部15は、制御部17の制御に従って、受信部13で信号処理された受信信号に基づいて超音波画像を生成する回路である。例えば、受信信号に対して包絡線検波処理を施すことにより、反射超音波の振幅強度に対応したBモード信号を生成する。また、ハーモニックイメージング技術を用いる場合には、受信部13の高調波抽出部で抽出された高調波成分から被検体内の超音波画像を生成する。
【0030】
記憶部19はRAMやROMで構成され、制御部17に用いられるプログラムが記録され、また、表示部16で表示する各種画像のテンプレートが記録されている。
【0031】
制御部17は、例えば、マイクロプロセッサ、記憶素子及びその周辺回路等を備えて構成され、これら操作入力部11、送信部12、受信部13、画像処理部15、表示部16、記憶部19を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
【0032】
表示部16は、制御部17の制御に従って、画像処理部15で生成された超音波画像を表示する装置である。表示部16は、例えば、CRTディスプレイ、LCD、ELディスプレイ及びプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0033】
超音波探触子2は、振動部30を備える。振動部30は、図略の生体等の被検体Hに対して超音波を送信すると共に、被検体Hからの反射超音波を受信する。振動部30は、図3に示すように、圧電部38と、音響整合層33と、音響レンズ34と、FPC35と、バッキング層36と、固定板37とを有する。
【0034】
圧電部38は、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波との間で相互に信号を変換するものである。圧電部38は、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して入力された送信信号の電気信号を超音波へ変換して超音波を送信すると共に、受信した反射超音波を電気信号へ変換してこの電気信号(受信信号)を、ケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。超音波探触子2が被検体Hに当接されることによって圧電部38で生成された超音波が被検体H内へ送信され、被検体H内からの反射超音波が圧電部38で受信される。圧電材料には無機材料や有機材料が使用される。
【0035】
圧電部38の詳細については後述する。音響整合層33は第1音響整合層331と、第2音響整合層332とを有する。
【0036】
音響整合層33は、圧電部38の音響インピーダンスと被検体Hの音響インピーダンスの中間の値の音響インピーダンスを備えることで、圧電部38から送信される超音波を被検体Hに送信する際に、圧電部38と被検体Hとの音響インピーダンスの差に応じて生じる反射超音波を軽減する機能を有し、圧電部38で生じた超音波を被検体Hへ、また被検体H内で反射した超音波を圧電部38へ効率良く伝達することができる。
【0037】
第1音響整合層331と第2音響整合層332の二つの音響整合層を備えることで、音響整合層が一つに場合に比べて、圧電部38と被検体Hの音響インピーダンスを滑らかに変化することができ、圧電部38と被検体Hの間で生じる反射超音波の大きさをより軽減することができる。なお、圧電部38から被検体Hへ音響インピーダンスが徐々に近づいていくように3層以上の音響整合層を形成すれば、さらに反射超音波の大きさを軽減できることは言うまでもない。
【0038】
音響レンズ34は、圧電部38から送信される超音波を測定箇所へ向けて集束させる機能を有する。
【0039】
FPC(Flexible printed circuits)35はフレキシブルプリント基板であり、超音波探触子を電気的に制御するための回路が形成されている。
【0040】
バッキング層36は、超音波を吸収する材料から構成された部材であり、圧電部38からバッキング層36方向へ放射される超音波を吸収するものである。
【0041】
バッキング層36は、不要な超音波を吸収し得る超音波吸収体である。バッキング層36に用いられるバッキング材としては、天然ゴム、フェライトゴム、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル、ポリビニルブチラール(PVB)、ABS樹脂、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、フッ素樹脂(PTFE)ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体などの熱可塑性樹脂などに、酸化タングステンや酸化チタン、フェライト等の金属化合物の粉末やマコールガラス粉末等の無機物性の粉末を入れてプレス成形したゴム系複合材や樹脂複合材を用いることができる。
【0042】
好ましいバッキング材としては、ゴム系複合材及びまたはエポキシ樹脂複合材からなるものであり、その形状は圧電体や圧電体を含むプローブヘッドの形状に応じて、適宜選択することができる。
【0043】
バッキング材の厚さは、概ね1〜10mmが好ましく、特に1〜5mmであることが好ましい。
【0044】
固定板37は、バッキング層36を固定し、超音波探触子2に剛性を持たせたり、加工時に固定したりする機能を有するものである。
【0045】
次いで、圧電部38について詳しく説明する。図4は、圧電部38aの斜視図である。
【0046】
図5は、圧電層38a1,38a2,38a3各層の斜視図である。
【0047】
図4に示すように、圧電部38aは3つの圧電層38a1,38a2,38a3が積層された積層型圧電振動子である。圧電層38a1,38a2,38a3は積層される界面に接着剤が塗布されることで固定されている。
【0048】
各圧電層38a1,38a2,38a3は、圧電体42と非圧電体44とが交互に配列したコンポジット材(2−2コンポジット材)であって、圧電体42と非圧電体44とを一組としたピッチをtとして、それぞれ所定の方向に周期性をもって、圧電体42と非圧電体44とが1次元状に交互に並列されている。
【0049】
図5に示すように、各圧電層38a1,38a2,38a3は、圧電体42と非圧電体44の配列する方向が互いに60度だけ異なるように配置されている。
【0050】
圧電層38a1と圧電層38a2と圧電層38a3とをこのように配置すると、各圧電層の位置決め精度を緩和して配置しても、圧電部38aの圧電性能の変動を抑制することができる。ここで圧電性能とは、感度と帯域を表す。
【0051】
感度とは、送信時に電極間に投入する電力に対する超音波強度の率(送信感度)、また、受信時に受信した超音波強度に対する電極を通じて得られる電力の率(受信感度)、さらに、送信時に電極間に投入する電力に対する受信時に電極を通じて得られる電力の率(送受信感度)の総称を言う。
【0052】
帯域とは、送信する各次数の超音波の帯域、また、受信する各次数の超音波の帯域、さらに、送信してから受信するまでを含めた各次数の超音波の帯域の総称を言う。
【0053】
上述のハーモニックイメージング技術を用いる場合には、被検体内で高調波を発生させるために被検体内における超音波の音圧を十分に高める必要があること、また、受信する超音波に含まれる高調波は微弱であることから、送信感度や受信感度が高く、ばらつきの小さい超音波探触子が求められる。さらに、送信する超音波の周波数の整数倍の周波数にまで広がる高調波を受信する必要があることから、帯域が十分に広く、ばらつきの小さい超音波探触子が求められる。本発明の超音波探触子は、圧電部38aの圧電性能、即ち、感度と帯域の変動が小さいことから、ハーモニックイメージング技術に用いる超音波探触子として特に有効である。
【0054】
複数のコンポジット材を積層した積層型圧電振動子である圧電部38aの圧電性能の変動を抑制することができることとなる理由は以下の通りである。
【0055】
従来技術のように、複数の圧電層を、圧電体42と非圧電体44の配列する方向(以下、圧電体配列方向という)が一致するように積層した場合には、複数の圧電層の相対角度や相対位置が少しずれると、複数の圧電層の圧電体42同士が上下に重なる部分の面積が大きく変動してしまう。これに対し、上記の例のように、複数の圧電層のうち少なくとも1つの圧電層を、複数の圧電層のうち他の1つの圧電層と、圧電体配列方向が異なるように積層する場合には、相対角度や相対位置が少しずれたとしても、複数の圧電層の圧電体42同士が上下に重なる部分の面積の変動が小さくなるので、圧電性能の変動を抑制することができる。
【0056】
このように、圧電体の相対的な位置ずれによる圧電性能の変動を抑制するには、複数の圧電層のうち少なくとも1つの圧電層を、複数の圧電層のうち他の1つの圧電層と、圧電体配列方向が異なるように配置して積層すればよい(即ち、全ての圧電層で圧電体配列方向が一致するように配置しなければよい)。積層する圧電層の数に特に制限は無い。例えば、2層の圧電層が積層した積層型圧電振動子の場合は、2つの圧電層を、圧電体配列方向が互いに異なるように積層すればよい。また、3層の圧電層が積層した積層型圧電振動子の場合は、3つの圧電層の圧電体配列方向が全て異なるように積層してもよいし、2つの圧電層については圧電体配列方向を一致させ、他の1つの圧電層の圧電体配列方向が異なるように積層してもよい。また、4層の圧電層が積層した積層型圧電振動子の場合は、(1)4つの圧電層の圧電体配列方向が全て異なるように積層してもよいし、(2)3つの圧電層については圧電体配列方向を一致させ、他の1つの圧電層の圧電体配列方向が異なるように積層してもよいし、(3)圧電体配列方向が一致する圧電層のペアを2組設け、2つのペアの間では圧電体配列方向が異なるようにして積層してもよい。
【0057】
また、N層の圧電層を積層する場合において、圧電体配列方向が、互いに180/N[°]ずつ異なるように積層すると、圧電層の相対角度や相対位置が少しずれた場合の、複数の圧電層の圧電体42同士が上下に重なる部分の面積の変動をより小さくすることができるので、圧電性能の変動をより効果的に抑制することができる。図4の例の場合には、圧電層38a1の圧電体配列方向Va1と圧電層38a2の圧電体配列方向Va2との角度θa1、圧電層38a2の圧電体配列方向Va2と圧電層38a3の圧電体配列方向Va3との角度θa2、及び、圧電層38a3の圧電体配列方向Va3と圧電層38a1の圧電体配列方向Va1との角度θa3が、いずれも60°(=180°/3)となるように積層されている。
【0058】
次いで、圧電部38における圧電層が3層でなく2層の場合について説明する。
【0059】
図6は、2層の圧電層からなる圧電部38bの斜視図である。
【0060】
図7は、圧電層38b1,38b2各層の斜視図である。
【0061】
図6に示すように、圧電部38bは2つの圧電層38b1,38b2が積層されてなる。圧電層38b1,38b2は界面に接着剤が塗布されて固定されている。
【0062】
各圧電層38b1,38b2は、圧電体42と非圧電体44とを一組としたピッチをtとして、一軸方向に周期性をもつ1次元状に交互に並列されている。
【0063】
図7に示すように、各圧電層38b1,38b2は、圧電層38b1の圧電体配列方向Vb1と圧電層38b2の圧電体配列方向Vb2との角度θbが、90°(=180°/2)となるように積層されている。
【0064】
圧電層38b1と圧電層38b2とをこのように配置すると、圧電体42と非圧電体44の重なり部分の面積が小さいので、相対角度や相対位置が少しずれたとしても、2つの圧電層の圧電体42同士が上下に重なる部分の面積の変動が小さくなるので、圧電性能の変動を抑制することができる。
【0065】
次いで、複数のコンポジット材を積層した積層型圧電振動子である圧電部38の製造方法について図4に示した圧電部38aを例として説明する。
【0066】
圧電部38aは例えば、ダイス&フィル法により作製される。
【0067】
図8は、圧電部38aの製造方法を説明する図である。
【0068】
非圧電体44は具体的には樹脂層であり、圧電体42の間に充填する充填剤が好ましく用いられる。
【0069】
図8(a)は圧電材料であるPZTの板材81である。圧電部38に用いることのできる圧電材料には、水晶、LiNbO、LiTaO、KNbO、マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体などの単結晶、ZnO、AlNなどの薄膜、Pb(Zr,Ti)O系などの焼結体(PZT等)、フッ化ビニリデンの重合体あるいは共重合体、シアン化ビニリデンの重合体あるいは共重合体、尿素樹脂、ポリエステルなどの非フッソ系樹脂とフッ化ビニリデンの重合体などのフッソ系重合体の微粒子とを含有する有機材料、多孔質ポリプロピレンに電荷を注入したエレクトレットなどが挙げられる。
【0070】
PZTの板材81に対して、図8(b)に示すように、ダイシングソーを用いて等ピッチの溝82を形成する。溝82を形成することで、圧電体42が等ピッチで配列される。ダイシングは、溝幅以下の厚みを有する矩形状のダイシングブレードを採用して行う。
【0071】
次いで、図8(c)に示すように、充填剤に樹脂を選択し、形成した溝82に充填剤を充填し、非圧電体44を形成する。圧電部38に用いることができる充填剤は、エポキシ樹脂やシリコン樹脂などの汎用樹脂が挙げられる。物性調整のため、フィラーなどの他の添加物を加えるのもよい。
【0072】
次いで、図8(d)に示すように、板材81における非圧電体44の底部より下のPZTを研磨により除去し、圧電体42と非圧電体44とが交互に並列された圧電部を得る。
【0073】
次いで、図8(e)に示すように、作製した圧電部の両面に電極46を形成して1個の圧電層38a1を得る。電極46の形成は、例えば真空成膜法を用いて金属等の導電体を成膜することで行う。
【0074】
圧電層38a2,38a3についてはダイシングの角度を各々60度傾斜させ、その他の工程は圧電層38a1の作製方法と同様に作製する。
【0075】
次いで、得られた圧電層38a1,38a2,38a3の間に接着剤の接着層48を形成しつつ、圧電層38a1,38a2,38a3を積層接着する。用いる接着剤には、UV硬化性接着剤や熱硬化性接着剤などが挙げられる。
【0076】
なお、上記では、圧電層38a1,38a2,38a3の各々を同一の大きさに作製した後に接着して積層して完成品の圧電部38を得たが、予め完成品より大きく作製しておいて、ダイシング等により、切断することで、複数の完成品の圧電部38を得ることで、低コストで量産することが可能となる。
【0077】
なお、接着剤からなる接着層48の厚みが厚すぎると、共振周波数の低下など、圧電部の振動への影響を無視できなくなることから、接着性に支障を及ぼさない範囲でできるだけ薄いことが好ましい。例えば、医療用に用いる超音波探触子であって、1MHz〜20MHz程度の周波数の超音波の送受信を行う場合には、接着層48の厚みは3μm以下とすることが好ましく、2μm以下とすることがより好ましい。
【0078】
また、コンポジット材を積層して圧電部を形成した後、さらにダイシングを行って素子を分割し、圧電部が一次元アレイ状又は二次元アレイ状に複数配列した超音波探触子とすることも好ましい。このように複数の圧電部がアレイ状に配列した超音波探触子は、1Dアレイ素子や、2Dアレイ素子等と呼ばれ、それぞれの圧電部を所定のタイミングで駆動するビームフォーミングを行うことで、超音波を送受信する方向や焦点位置を制御することができる。
【0079】
圧電部が一次元アレイ状に複数配列した超音波探触子の場合は、積層された複数の圧電層のうち少なくとも1組の圧電層の圧電体配列方向の対称軸が、圧電部の配列方向と平行となるように構成することがより好ましい。そのような構成とすることにより、エレベーション方向(圧電部の配列方向と垂直な方向)における各圧電部の圧電性能の分布を、中心に対して対称な形に近づけることができ、サイドローブの小さい超音波探触子とすることができる。
【0080】
また、各圧電層の厚みが小さくなってくると、研磨時や非圧電部の熱硬化時に生じた収縮応力が圧電体の剛性を超えてひずみが無視できなくなってくる。生じるひずみの度合いは圧電体配列方向や圧電体の寸法(例えば長軸方向の長さ)に関係するが、本発明のように、複数の圧電層のうち少なくとも1つの圧電層を、複数の圧電層のうち他の1つの圧電層と、圧電体配列方向が異なるように積層することで、生じるひずみの度合いを軽減することができる。その結果、加工時の歩留りが向上し、加工後も潜在するひずみが小さいため、安定した品質を維持することができる。
【実施例】
【0081】
[超音波探触子2aの作製]
下層から順に、固定板、バッキング層、パターニングされたFPCとなるようエポキシ系接着剤DP−460(3M社製)で、2.94×10Paの圧力下、50℃4時間で積層接着した。
【0082】
その後、PZT(セラミック)の板材をダイス&フィル法により、セラミック/樹脂=35/35(μm)に加工整形した2−2コンポジット材を作製し、セラミックと樹脂の配列する方向(圧電体配列方向)が短軸方向に平行なタイプ(タイプa1)と、圧電体配列方向が短軸から+60°、−60°回転したタイプ(タイプa2、タイプa3)の計3種類について、それぞれ5.1mm×52.5mm×100μmの薄板状に切りだした。樹脂はEセットLエポキシ樹脂(コニシ社製)を用いた。3種類のコンポジット材の表裏面にそれぞれ電極を形成し、エポキシ系接着剤DP−460(3M社製)にて、まずタイプa2とタイプa3とを接着し、その後タイプa1を同様の条件にて積層接着した。その後、第1、第2音響整合層を同条件にて積層接着後、長手方向に0.15mmピッチで30μmの厚みを有するブレードでダイシングを行った。さらに、パラキシリレンにより表面に3μm程度の絶縁層を設け、さらにその上に音響レンズを接着した。その後、FPCにコネクタを接続し、こうして作製した超音波トランスデューサをケースに収め、超音波探触子2aを作製した。このような工程を繰り返し、合計20個の超音波探触子2aを作製した。
[超音波探触子2bの作製]
下層から順に、固定板、バッキング層、パターニングされたFPCとなるようエポキシ系接着剤DP−460で、2.94×10Paの圧力下、50℃4時間で積層接着した。
【0083】
その後、PZTの板材をダイス&フィル法により、セラミック/樹脂=35/35(μm)に加工整形した2−2コンポジット材を作製し、圧電体配列方向が短軸方向に平行なタイプ(タイプb1)と、圧電体配列方向が短軸から+90°回転したタイプ(タイプb2)の2種類について、それぞれ5.1mm×52.5mm×100μmの薄板状に切りだした。樹脂はEセットLエポキシ樹脂(コニシ社製)を用いた。2種類のコンポジット材の表裏面にそれぞれ電極を形成し、エポキシ系接着剤DP−460にて同様の条件にて積層接着した。その後、第1、第2音響整合層を同条件にて積層接着後、長手方向に0.07mmピッチで30μmの厚みを有するブレードでダイシングを行った。さらに、パラキシリレンにより表面に3μm程度の絶縁層を設け、さらにその上に音響レンズを接着した。その後、FPCにコネクタを接続し、こうして作製した超音波トランスデューサ(振動部)をケースに収め、超音波探触子2bを作製した。このような工程を繰り返し、合計20個の超音波探触子2bを作製した。
[比較探触子A、Bの作製]
コンポジット材として、圧電体配列方向が短軸方向に平行なタイプ(タイプa1)3枚を用いて、超音波探触子2aと同様に積層接着した比較探触子Aと、コンポジット材として、圧電体配列方向が短軸方向に平行なタイプ(タイプb1)2枚を用いて、超音波探触子2bと同様に積層接着した比較探触子Bを、それぞれ20個ずつ作製した。
【0084】
比較探触子Bを作製する際、積層して接着した後の圧電部の側面を実体顕微鏡で観察し、2枚のコンポジット材の位置ずれ量を求めたところ、平均値は0.11mm、最大値は0.18mm、標準偏差は0.05mmであった。なお、作製した全ての超音波探触子(超音波探触子2a、2b、及び、比較探触子A、B)において、コンポジット材を積層する際のアライメント精度は同じであるため、全ての超音波探触子において、同程度の位置ずれが生じていると考えられる。
[超音波探触子2a、2bの評価]
超音波探触子2a、2bと、比較探触子A、Bの各々を、パルサーレシーバー(PANAMETRICS−NDT MODEL 5900PR、オリンパス社製、入力インピーダンス5000Ω)とオシロスコープ(TPS5032、Tektronix社製)とが接続された状態で、脱気した水の中に入れ、超音波放射面側に金属製の反射板を配置した。
【0085】
十分に広帯域の周波数成分を有する短パルスの超音波を水中に送信し、反射板で反射された超音波を受信して電気信号に変換し、オシロスコープでその電圧波形を確認した。
【0086】
超音波探触子2a、2bと反射板との距離は6mmとし、電圧波形の実効値が最大となるようにアライメントを行った。
【0087】
アライメントの後、上記の周波数で超音波の送受信を行い、得られた電気信号の強度から送受信感度を評価した。評価は、それぞれの超音波探触子(各20個)の中で、それぞれ最も感度の高かったものを基準としたときの、各20個の超音波探触子の感度低下量(dB)の標準偏差を求めることにより行った。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
表1に示されているように、3層積層型である超音波探触子2aの感度低下量の標準偏差は0.9dBであり、同じく3層積層型である比較探触子Aの2.5dBと比べ、十分に抑制されている。また、2層積層型である超音波探触子2bの感度低下量の標準偏差は0.5dBであり、同じく2層積層型である比較探触子Bの2.5dBと比べ、十分に抑制されている。このように、超音波探触子2a、超音波探触子2bは、積層するコンポジット材の相対的な位置ずれによる圧電性能の変動が抑制されるため、超音波探触子2a、超音波探触子2bを用いることで、圧電性能のばらつきの小さい積層型圧電振動子を備えた超音波探触子及び超音波診断装置を低コストで提供できることが分かる。
【符号の説明】
【0090】
1 超音波診断装置本体
2 超音波探触子
3 ケーブル
4 超音波探触子フォルダ
11 操作入力部
12 送信部
13 受信部
15 画像処理部
16 表示部
17 制御部
19 記憶部
30 振動部
33 音響整合層
34 音響レンズ
35 FPC
36 バッキング層
37 固定板
38 圧電部
42 圧電体
44 非圧電体
46 電極
48 接着層
S 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信又は受信する圧電部を有する超音波探触子であって、
前記圧電部は、圧電体と非圧電体とが交互に並列に配列されてなる複数の圧電層が積層されたものであり、
前記複数の圧電層のうち少なくとも1つの圧電層は、前記複数の圧電層のうち他の1つの圧電層と、前記圧電体と前記非圧電体の配列の方向が異なることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記圧電部はN層の前記圧電層が積層されたものであり、
前記N層の前記圧電層は、前記圧電体と前記非圧電体の配列の方向が、互いに180/N[°]ずつ異なることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記圧電部が、一次元アレイ状又は二次元アレイ状に複数配列していることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記圧電部が、一次元アレイ状に複数配列し、
積層された複数の前記圧電層のうち少なくとも1組の圧電層は、前記圧電体と前記非圧電体の配列の方向の対称軸が、複数の前記圧電部の配列方向と平行であることを特徴とする請求項3に記載の超音波探触子。
【請求項5】
被検体に超音波を送信し前記超音波が被検体において反射して生成された反射超音波を受信して電気信号に変換する圧電部を有する超音波探触子と、
前記圧電部により変換された電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、を有し、
前記超音波探触子は、請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波探触子であることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
前記圧電部により変換された電気信号に含まれる高調波成分を抽出するための高調波抽出部を有し、
前記画像処理部は、前記高調波成分から前記被検体内の超音波画像を生成することを特徴とする請求項5記載の超音波診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−170760(P2012−170760A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37980(P2011−37980)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】