説明

超音波板厚測定装置

【課題】 超音波を用いた簡単な構成により、容器板厚を容易にかつ高精度に測定できる超音波板厚測定装置を提供する。
【解決手段】 超音波板厚測定装置1においては、周波数を複数の設定値に変更しつつ超音波送信部2により被測定系に超音波を送信し、各周波数にて超音波受信部2による残響振動波形の減衰レベルを測定する。そして、各周波数における残響振動波形の減衰レベル測定結果の集合に基づき、当該測定の範囲内にて減衰レベルが極小化される周波数を板厚反映周波数として特定し、予め記憶されている板厚/周波数関係を参照して、特定された板厚反映周波数に対応する板厚を測定実施位置における容器190の壁部板厚として算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波板厚測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2004−333314号公報
【0003】
LPガスボンベ等の容器壁部に超音波送信部及び受信部を配置し、容器内部の液面や反対側の壁面で反射したエコーの信号レベルにより液面の有無を判定するようにした超音波液面計が知られている(特許文献1)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の超音波液面計では、エコー情報から得られるのは液面位置に関係した情報のみであり、容器構造、特に容器板厚に関係した情報を測定できない問題があった。
【0005】
本発明の課題は、超音波を用いた簡単な構成により、容器板厚を容易にかつ高精度に測定できる超音波板厚測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の超音波板厚測定装置は、
液体を収容した容器を被測定系として、該容器の壁部外面に定められた測定実施位置に取り付けて使用され、被測定系に測定用超音波ビームを予め定められた時間励振入力した後、当該測定用超音波ビームの入力を遮断する超音波送信部と、
測定実施位置に取り付けて使用され、測定用超音波ビームの入力遮断後の残響振動波形を検出する残響検出手段と、
超音波の周波数を変更可能に設定する周波数設定部と、
周波数を複数の設定値に変更しつつ超音波送信部により被測定系に測定用超音波ビーム送信し、各周波数にて超音波受信部による残響振動波形の減衰レベルを測定する減衰レベル測定手段と、
各周波数における残響振動波形の減衰レベル測定結果の集合に基づき、当該測定の範囲内にて減衰レベルが極小化される周波数を板厚反映周波数として特定する板厚反映周波数特定手段と、
板厚反映周波数と容器の板厚との関係を記憶する板厚/周波数関係記憶手段と、
記憶された板厚/周波数関係を参照して、特定された板厚反映周波数に対応する板厚を測定実施位置における容器の壁部板厚として算出する壁部板厚算出手段と、
該壁部板厚の算出結果を出力する壁部板厚出力手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記本発明の超音波板厚測定装置の構成によると、周波数を複数の設定値に変更しつつ超音波送信部により被測定系に超音波を送信し、各周波数にて超音波受信部による残響振動波形の減衰レベルを測定するとともに、各周波数における残響振動波形の減衰レベル測定結果の集合に基づき、当該測定の範囲内にて減衰レベルが極小化される周波数を板厚反映周波数として特定し、予め記憶されている板厚/周波数関係を参照して、特定された板厚反映周波数に対応する板厚を測定実施位置における容器の壁部板厚として算出する。すなわち、超音波を用いた簡単な構成により、容器板厚を(非破壊にて)容易にかつ高精度に測定できる。
【0008】
残響検出手段は、残響振動波形の検出を容器上にて液体なしとなることが予め知れている位置にて行なうものとすることで、板厚固有振動数近傍での減衰残響振動レベル変化が急峻となり、測定精度を高めることができる。
【0009】
また、本発明の超音波板厚測定装置は、残響振動波形を包絡線検波する包絡線検波手段を設けることができる。この場合、減衰レベル測定手段は、残響振動波形の包絡線検波波形を用いて減衰レベルを測定するものとされる。残響振動の包絡線検波波形を用いて振幅特定を行なうことにより、例えば振幅のサンプリング点が振動波形のピーク点からずれていても正確な振幅評価を行なうことができる。
【0010】
減衰レベル測定手段は、周波数を予め定められた周波数帯域内にてスイープするとともに、当該スイープ帯域内にて減衰レベルが極小化される周波数を壁部の板厚方向における縦波固有振動の固有周波数として見出し、これを板厚反映周波数として特定するものとできる。測定用超音波ビームの周波数が、壁部板厚方向の固有周波数(板厚固有周波数)と一致するとき残響振動の振幅も極大化するので、これを用いて板厚測定することにより精度を高めることができる。
【0011】
板厚/周波数関係記憶手段は、縦波固有振動の互いに隣接する複数の次数について各々、縦波固有振動の種々の板厚での固有周波数を板厚/固有周波数列として記憶するものとできる。容器の壁部は、例えばガスボンベ等では金属板材であり、その板厚方向に超音波を入力した場合、入力された超音波は縦波振動の形で壁部内部を該板厚方向に伝播する。このとき、入力される超音波の周波数設定値が、測定温度での壁部の固有周波数fmに一致しているとき、残響振動の振幅はピーク(極大点)を示す(つまり、減衰レベルが極小化し、長く尾を引いた減衰波形となる)。固有周波数fmは、板材を最も効率良く超音波が透過する周波数であり、板材を透過する縦波音波の波をλ、板の厚さをtとすると、
t=m・λ/2 ‥(1)
あるいは、
λ=2t/m ‥(1)’
であり、縦波の音速をC、固有周波数をfmとすると、
fm=C/λ ‥(2)
なので、(1)’(2)より、
fm=m・C/2t ‥(3)
ここに、mは固有振動の次数を示す整数である。固有周波数は振動の次数m=1(基本振動),2(2次振動),‥,N(N次振動)にそれぞれ対応して、f1=1・C/2t,f2=2・C/2t,‥,fN=N・C/2tと周期的に出現する。従って、受信振幅の極大点も、これら固有周波数に対応して周期的に出現する。板厚tが変化すれば、各次数の固有周波数も(3)式に従って双曲線状に変化する。これを各次数mの値毎にt(板厚)−f(周波数)平面上に描画すれば図6のようになる。板厚/固有周波数列は、(3)式に壁部材質に応じた音速Cと次数mを代入して得られる曲線となる。個々の板厚にて、測定用超音波ビームの周波数をスイープすれば、残響振動振幅の周波数依存性は、各次数の固有周波数を示す曲線位置と交わる周波数にて周期的に極大値を描くことになる。
【0012】
この場合、減衰レベル測定手段は、測定用超音波ビームの周波数のスイープ帯域幅を、減衰レベルが極小化される極点が当該帯域内に複数現れるように設定することができる(図6参照)。壁部板厚算出手段は、帯域内にて複数の極点に対応する周波数を極点周波数群として特定するとともに、板厚/固有周波数列に対してそれら極点周波数群が一括して適合する板厚値を探索することにより壁部板厚値を算出するよう構成できる。すなわち、板の固有振動に由来して出現する残響振動振幅の極大点(減衰レベル極小点)が、複数次数にわたって板厚/固有周波数列((3)式)に適合するかどうかを判定することで、板の固有振動に由来しないスプリアスを板厚測定から排除することができ、板厚測定の精度をさらに高めることができる。
【0013】
ただし、残響振動振幅の極大点(減衰レベル極小点)を複数次にわたってカバーするスイープ帯域幅は、図6に示すように相当に広帯域なので、次のように構成するとよい。すなわち、減衰レベル測定手段は、帯域をラフ探索用帯域として、当該ラフ探索用帯域内にて周波数を第一の周波数間隔にて断続的に変化させる形でスイープしつつ、各周波数での減衰レベルを測定するものとする。また、壁部板厚算出手段は、該第一の周波数間隔によるスイープ結果に基づいて複数の極点を特定し、板厚/固有周波数列に対してそれら極点周波数群が一括して適合する板厚値をラフ板厚値として特定するものとする。そして、減衰レベル測定手段は、複数の極点のいずれかを目印極点として選択するとともに、ラフ探索用帯域よりも狭い精密探索用帯域を、当該目印極点を含む形で設定し、該精密探索用帯域を第一の周波数間隔よりも小さい第二の周波数間隔にて断続的に変化させる形でスイープしつつ、各周波数での減衰レベルを測定する。壁部板厚算出手段は、該第二の周波数間隔によるスイープ結果に基づいて目印極点に対応する精密極点として特定し、該目印極点に対応する板厚/固有周波数列上にて精密極点を与える周波数に対応する板厚値を精密板厚値として算出する。このようにすると、スイープ帯域全体では第一の周波数間隔を採用することにより残響振動測定の点数を大幅に削減でき、かつ、板厚を読み取るための極点近傍では第一の周波数間隔よりも小さい第二の周波数間隔を採用することにより、極点の特定精度を大幅に向上することができる。
【0014】
この場合、減衰レベル測定手段は、周波数帯域を複数の副帯域に分割してそれら副帯域毎にスイープを行なうものとできる。残響検出手段は、副帯域毎に当該副帯域に対応する通過周波数帯域を有したバンドパスフィルタと、スイープを行なう副帯域の切り替えに伴い残響振動波形を通過させるバンドパスフィルタを対応する通過周波数帯域のものに逐次切り替えるフィルタ切替手段とを有し、測定用超音波ビームによる残響振動波形を、当該測定用超音波ビームの周波数が属する通過周波数帯域のバンドパスフィルタを通過させた後検出するものとすることができる。これにより、多重反射干渉や倍音振動あるいは部材間の望まざる共振結合等に由来したスプリアスやノイズの影響をバンドパスフィルタにより除去でき、検出される残響信号のS/N比を高めることができる。
【0015】
減衰レベル測定手段は、測定用超音波ビームの入力を遮断後に予め定められ時間を経過したときの残響振動波形の振幅を、減衰レベルを反映した情報として取得するとともに、当該振幅の極大値を与える周波数を壁部の板厚方向における縦波固有振動の固有周波数として見出し、これを板厚反映周波数として特定するよう構成することができる。この方式によると、励振を遮断した後の経過時間を固定化し、当該時間経過後に残響振動波形の振幅を一律に測定することで、周波数スイープしつつ行なう減衰レベルの変化挙動を容易に把握することができ、ひいては板厚反映周波数を見出す動作アルゴリズムを簡略化することができる。同様に、減衰レベル測定手段は、包絡線検波波形を予め定められた積分期間にて積分し、その積分値を、減衰レベルを反映した情報として取得するとともに、該積分値の極大値を与える周波数を壁部の板厚方向における縦波固有振動の固有周波数として見出し、これを板厚反映周波数として特定するよう構成することができる。減衰レベルを反映した情報を積分値として取得することにより、波形振幅の瞬時値を用いる場合よりもノイズ等の影響を受けにくくなり、測定精度を高めることができる。
【0016】
一方、減衰レベル測定手段は、減衰残響振動の減衰レベルが予め定められた参照レベルに到達するまでの減衰時間を計測する減衰時間計測手段を有し、当該減衰時間を、減衰レベルを反映した情報として取得するとともに、該減衰時間の極大値を与える周波数を壁部の板厚方向における縦波固有振動の固有周波数として見出し、これを板厚反映周波数として特定するよう構成することもできる。この方式では、減衰残響振動の時間変化を監視する必要があり、サンプリング回数は増大するが、ノイズ等による突発的なパラメータ値の変化を誤差として容易に識別できるので、判定精度を高めることができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る液体板厚測定装置の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は、測定対象となる容器の一例を示すものであり、LPG又はLNGの金属タンク190として構成されている。金属タンク190は鋼鉄製であり、円筒状の容器本体部200(容器本体部)の上下に、底面部202及び上面部203を溶接接合した構造を有する。上面部203は、容器最上面部の周縁に側壁部の上端部が連なる一体の蓋部材として形成されている。また、容器本体部200は、側壁部の残余部分をなすものである。上面部203の上部中央には圧力制御弁が組み込まれたガス取出部203Vが形成されている。該金属タンク190に上記LPGないしLNGからなる液体Lが収容され、被測定系を構成する。
【0018】
そして、液体板厚測定装置1は、上記の金属タンク190内の壁部の板厚を、所望の測定実施位置にてタンク外から測定できるように構成されている。液体板厚測定装置1は、具体的には、該容器190の容器本体部200の外面に対し、液深さ方向の任意位置に押し当て可能な(つまり、ユーザーの欲する任意の測定位置に取り付け可能な)超音波トランスジューサ2を有している。該超音波トランスジューサ2は、被測定系に超音波を送信する超音波送信部と、入力された該超音波に基づく反射波を受信する超音波受信部との機能を合わせ有するものである(すなわち、超音波送受信部として機能する)。
【0019】
図2は、液体板厚測定装置1の電気回路構成を概念的に示すブロック図である。該液体板厚測定装置1は、ユーザーが手で保持可能な樹脂等で構成された筐体3を有し、その先端面に超音波トランスジューサ2がはめ込まれている。超音波放出面となる超音波トランスジューサ2の前端面は、筐体3の前端に形成された開口内に位置し、その表面に密着する形で音響インピーダンス整合層2Pが取り付けられている。音響インピーダンス整合層2Pは、超音波トランスジューサ2(圧電セラミック)と容器本体部200(鋼鉄)との中間(望ましくは両者の幾何学平均値)の音響インピーダンスを有するとともに、容器本体部200に押し付けられたときに追従変形してその外面に密着できる柔軟弾性材料(例えば、シリコーン樹脂)にて構成されている。
【0020】
超音波トランスジューサ2は、駆動回路101からの駆動電圧の印加により超音波ビームを送出する一方、反射波の受信により電気信号(受信信号)を信号処理回路103に出力する。具体的には、板厚方向に分極処理された圧電セラミック振動板21と、該圧電セラミック振動板21の各主表面を覆う形で該圧電セラミック振動板21を挟んで対向形成された電極対2e,2eとを備える。この電極対2e,2eは、超音波ビームの送信駆動時には該圧電セラミック振動板21を超音波振動させるための駆動電圧が印加される駆動電極となり、反射波の受信時には圧電セラミック振動板21の振動に伴う電気信号を出力する出力電極となる。これら電極対2e,2eと、駆動回路101及び信号処理回路103との接続切り替えは切替スイッチ101sにより行なわれる。
【0021】
駆動回路101は、マイコン100からのデジタル周波数指示値をアナログ周波数指示電圧に変換するD/A変換部101cと、そのアナログ周波数指示電圧が入力され、対応する周波数にて発振出力するVCO(Voltage Controlled Oscillator)101bと、そのVCO101bの出力を増幅して圧電セラミック振動板21へ駆動信号として出力する主回路(アンプ)101aとを有する。また、信号処理回路103は、圧電セラミック振動板21の振動波形を増幅するアンプ103a、増幅された減衰振動波形を包絡線検波する包絡線検波部103b、その検波出力をデジタル変換してマイコン100に入力するA/D変換部103cとを有する。
【0022】
図2に戻り、上記の駆動回路101、切替スイッチ101s、周波数設定部102、信号処理回路103は、これらの動作シーケンス制御を司るマイコン100に接続されている。また、該マイコン100には入力部105と表示部104も接続されている。入力部105は押しボタンスイッチやキーボードなどで構成され、板厚測定の開始トリガー操作に使用される。また、表示部104は板厚測定結果を数字等により出力するものであり、例えば7セグメントLEDや液晶ディスプレイ等により構成される。
【0023】
液体板厚測定装置1の各回路ブロック(マイコン100、駆動回路101、信号処理回路103)へは、交換可能な乾電池Bから安定化電源回路102を介して電源電圧が供給される。
【0024】
以下、液体検知装置1の動作について、図3のフローチャートにより説明する。図1に示すように、まず、超音波トランスジューサ2上の音響インピーダンス整合層2Pの表面(以下、検知面という)を、容器190の容器本体部200の外面に対し、所望の測定位置に検知面を押し当て、図2の入力部105から測定開始入力を行なう(例えば、入力部105に含まれる検知ボタン105aを押すなど:図3、S0)。すると、マイコン100は測定駆動プログラムを起動し、測定処理を開始する。まず、S1にて、超音波トランスジューサ2の初期設定として、バーストパルスの駆動印加時間や、周波数スイープの帯域幅等を設定する。次いで、駆動周波数をスイープの帯域開始値fminに設定し、図2のVCO101bを該周波数にて動作開始する。そして、S2において、切替スイッチ101Sが、超音波トランスジューサ2を駆動回路104に接続する駆動接続状態に切り替わり、駆動回路104は、設定された周波数にて駆動交流電圧のバーストパルスを1ないし複数回、超音波トランスジューサ2に印加する。これにより、超音波トランスジューサ2から超音波ビームSWが上記の測定位置にて容器本体部200に向け出力される。
【0025】
この駆動交流電圧のバーストパルス印加は、例えば10〜50μs程度に定められた印加パルス期間tnが完了すれば強制的に遮断される。そして、その遮断とともに図2の切替スイッチ101Sは、超音波トランスジューサ2を信号処理回路103に接続する信号検出接続状態に切り替わり、励振遮断後の容器190からの残響振動を超音波トランスジューサ2により検出する。実際には、切替スイッチ101Sの切替動作に要する期間等を勘案し、励振遮断後一定の遅延時間Δt経過してから残響振動の検出が開始される。
【0026】
図4A、図4Bは、その残響振動の検出波形の一例を示すもので、液体の非存在部(液無し部)では容器190容器本体部200の内側が空隙となり、壁部内面を境とした音響インピーダンス差が非常に大きくなる。容器本体部200に入力された測定用超音波ビームは、その励振周波数が容器本体部200の壁部の材質及び厚さにて決まる固有周波数と一致していれば、壁部内面にてほぼ全反射して金属製の容器本体部200内に戻り、振動継続するため減衰が生じにくい。その結果、図4Aの上に示すように、残響の尾引きが非常に長くなる。しかし、液体の存在部(液有り部)では、容器本体部200の内側に液体Lが存在するため、上記の音響インピーダンス差は縮小し、容器本体部200を透過して内部摩擦の大きい液体内に漏れこむ音波比率が増加するので、図4Bに示すごとく振動減衰は著しくなる。従って、測定用超音波ビームの周波数を一定の帯域でスイープしたとき、液体の非存在部(液無し部)では、減衰振動の振幅の周波数変化がより顕著に表れる形となり、板板厚固有振動数近傍での減衰残響振動レベル(減衰振動の振幅あるいは尾引きの度合い)の変化が急峻となり、測定精度を高めることができる。従って、板厚測定を行なう際には、該液無し部を選んで測定実施位置を定めることが、測定精度向上を図る上で望ましい。該液無し部として、例えば容器本体部200の上部を採用してもよいし、はじめから空とわかっている容器を採用すればで、容器本体部200の任意位置が液無し部として採用できる。
【0027】
具体的には、図4Aに示すように、測定用超音波ビームSWの入力を遮断後に予め定められ時間tsを経過したときの、該減衰残響振動の振幅を減衰レベル情報としてスイープ中の周波数毎に取得する。図2の信号処理回路では、図5に示すごとく、減衰振動波形をアンプ103aにて増幅し(ステップ1)、検波回路103bにより半波整流し(ステップ2)、さらにその半波整流波形を包絡線検波する(ステップ3)。そして、その包絡線検波された波形の時間ts経過後のレベルを振幅値として取得するのである。
【0028】
上記の測定は、測定用超音波ビームの周波数を決められた周波数帯域内にてスイープしながら繰り返し実施され、当該スイープ帯域内にて上記減衰振動波形の振幅が極大化する周波数(すなわち、減衰レベルが極小化される周波数)を壁部の板厚方向における縦波固有振動の固有周波数として見出し、これを板厚反映周波数として特定する。具体的には、縦波固有振動の互いに隣接する複数の次数について、縦波固有振動の種々の板厚での固有周波数が板厚/固有周波数列として、図1のマイコン100内のメモリ(ROM等)に記憶されている。
【0029】
容器の壁部はここでは鉄板(金属板材)であり、前述のごとく、その固有周波数fmは、鉄板を透過する縦波音波の波をλ、板の厚さをt、縦波の音速をC、固有周波数をfm(mは次数)として、
fm=m・C/2t ‥(3)
である。(3)式を各次数mの値毎にt(板厚)−f(周波数)平面上に描画すれば図6のごとく、板厚/固有周波数列は、(3)式に壁部材質に応じた音速Cと次数mを代入して得られる曲線となる。なお、板厚/固有周波数列のデータは、(3)式を充足する(t,fm)の離散データとして記憶しておいてもよいし、(3)式そのものを関数として記憶しておいてもよい。
【0030】
この段階では板厚tは未だ特定されていないが、板厚tそのものは不変であるから、(図6上のある未知の板厚tに対応する位置にて)測定用超音波ビームの周波数をスイープすれば、残響振動振幅の周波数依存性は各次数の固有周波数を示す曲線位置と交わる周波数にて周期的に極大値を描くことになる。そして、測定用超音波ビームの周波数のスイープ帯域幅は、減衰レベルが極小化される極点が当該帯域内に複数(具体的には、2個〜4個)現れるように設定されている。
【0031】
該周波数帯域は、図6に示すように複数の(ここでは3つの)副帯域に分割する形で設定されており、各副帯域毎にスイープが実施される(図3:S3)。そして、各副帯域毎に、当該副帯域に対応する通過周波数帯域を有したバンドパスフィルタF−1(通過帯域:1100〜1350kHz),F−2(通過帯域:900〜1100kHz),F−3(通過帯域:650〜900kHz)が設けられている。そして、スイープを行なう副帯域の切り替えに伴い残響振動波形を通過させるバンドパスフィルタも対応する通過周波数帯域のものに逐次切り替えられる。測定用超音波ビームによる残響振動波形は、当該測定用超音波ビームの周波数が属する通過周波数帯域のバンドパスフィルタを通過させた後、振幅(減衰レベル)の特定に供される(図3:S4,S5,S6)。なお、本実施形態において各バンドパスフィルタは、マイコン100上にて取り込んだデジタル包絡線検波波形に対し、当該マイコン100が実行するソフトウェアフィルタリングプログラムとして構成されているが、アナログ包絡線検波波形を信号として直接通過させるパッシブフィルタ回路ないしアクティブフィルタ回路として構成することも可能である。
【0032】
上記の帯域内では、図7に示すごとく、周波数スイープして得られる減衰振動の振幅データ上にて、該振幅が極大となる周波数f1,f2,f3が極点周波数群として特定される。そして、メモリに記憶されている図6の板厚/固有周波数列上で、それら極点周波数群f1,f2,f3が一括して適合する板厚値を探索し、これを壁部板厚値として算出する。図6では、測定可能な板厚範囲(ここでは、2.4〜15.9mm)の全域を複数の区間(ここでは、A,B,C,D,Eの5区間)に区切り、特定された極点周波数群f1,f2,f3の板厚/固有周波数列にマッチングさせる際に、極点を与える固有周波数の個数や出現間隔が区間毎に異なることを利用して、どの区間が極点周波数群f1,f2,f3に適合するかを先行判定する。例えば、図6において、各板厚/固有周波数列が前述のごとく双曲線関数であるから低板厚側ほど変化率が急峻となり、隣接する次数の板厚/固有周波数列の周波数方向の出現間隔は広くなる。従って、該出現間隔は、最も低板厚側の区間Aにおいて最大となり,区間B,C,D,Eの順で小さくなる。
【0033】
従って、特定された極点周波数群f1,f2,f3の周波数間隔が、A,B,C,D,Eのどの区間において、板厚/固有周波数列の周波数方向の出現間隔に一番近くなるかを先行判定することは、区間特定を行なう上で有効といえる。そして、極点周波数群f1,f2,f3の周波数間隔が、どの区間の出現間隔にも一致しないか、あるいは、ある区間にて間隔のみは一致しても、板厚/固有周波数列の出現周波数位置において不一致となるなど、理論的照合の妥当性が得られない場合は、図8に示すごとく、周波数スイープして得られる減衰振動の振幅/周波数プロファイルが不要スプリアスを含んでいる可能性が高いので、図3のS8において、特定された極点周波数群f1,f2,f3を不適と判断し、S2に戻って測定をやり直すようにする。
【0034】
なお、残響振動振幅の極大点(減衰レベル極小点)を複数次にわたってカバーするスイープ帯域幅は、図6では約600kHzと相当に広帯域である。そこで、この帯域をラフ探索用帯域として、当該ラフ探索用帯域内にて周波数を第一の周波数間隔(例えば、2〜10kHz)にて断続的に変化させる形でスイープしつつ、各周波数での減衰レベルを測定する(図3:S2〜S8)。そして、該第一の周波数間隔によるスイープ結果に基づいて上記のごとく複数の極点f1、f2、f3を特定し、板厚/固有周波数列に対してそれら極点周波数群が一括して適合する板厚値をラフ板厚値t’として特定する。次に、複数の極点のいずれかを目印極点として選択する。そして、ラフ探索用帯域よりも狭い精密探索用帯域を、当該目印極点を含む形で設定し、該精密探索用帯域を第一の周波数間隔よりも小さい第二の周波数間隔(例えば、50〜1000Hz)にて断続的に変化させる形でスイープしつつ、各周波数での減衰レベルを測定する。
【0035】
例えば、区間Dが特定された場合は、一例として、3つある極点f1、f2、f3のうち、中央のものf2を目印極点とできる。また、このときのラフ板厚値t’は約11.5mmであり、目印極点f2を含む精密探索用帯域を1010〜1050kHzとして設定できる。また、ラフ探索帯域で特定したf2の周波数を中心として前後等間隔(例えば±20kHz)で精密探索用帯域を設定してもよい。
【0036】
そして、該第二の周波数間隔によるスイープ結果に基づいて目印極点に対応する精密極点として特定し、該目印極点に対応する板厚/固有周波数列上にて精密極点を与える周波数に対応する板厚値を精密板厚値tとして算出する。スイープ帯域全体では第一の周波数間隔を採用することにより残響振動測定の点数を大幅に削減でき、かつ、板厚を読み取るための極点近傍では第一の周波数間隔よりも小さい第二の周波数間隔を採用することにより、極点の特定精度を大幅に向上することができる。
【0037】
なお、包絡線検波波形は、図5のステップ4に示すごとく、上記の時間tsを積分期間として積分演算し、その積分値を、減衰レベルを反映した情報として使用するとともに、該積分値の極大値を与える周波数を壁部の板厚方向における縦波固有振動の固有周波数として見出し、これを板厚反映周波数として特定するようにしてもよい。また、図9に示すように、減衰残響振動の減衰レベルが予め定められた参照レベルVthに到達するまでの減衰時間tdを計測し、当該減衰時間tdを、減衰レベルを反映した情報として取得するとともに、該減衰時間の極大値を与える周波数を壁部の板厚方向における縦波固有振動の固有周波数として見出し、これを板厚反映周波数として特定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の超音波板厚測定装置の使用例を示す模式図。
【図2】図1の超音波板厚測定装置の電気的構成例を示すブロック図。
【図3】図2のマイコンが実行する測定プログラムの流れを示すフローチャート。
【図4A】液体の非存在部における減衰振動波形の一例を示す図。
【図4B】液体の存在部における減衰振動波形の一例を示す図。
【図5】減衰振動波形の処理概念を説明する図。
【図6】板厚/固有周波数列の具体例を示す図。
【図7】周波数スイープして得られる減衰振動の振幅データの一例を示す図。
【図8】減衰振動の振幅データにおける不要スプリアスの影響を説明する図。
【図9】減衰振動波形の処理概念の別例を説明する図。
【符号の説明】
【0039】
1 液体板厚測定装置
2 超音波トランスジューサ(超音波送信部、超音波受信部)
SW 超音波ビーム
L 液体
2 超音波トランスジューサ(超音波送信部、残響検出手段)
SW 超音波ビーム
L 液体
100 マイコン(減衰レベル測定手段、板厚反映周波数特定手段、板厚/周波数関係記憶手段、壁部板厚算出手段)
101b VCO(周波数設定部)
102 周波数設定部
103 信号処理回路
103b 包絡線検波部(包絡線検波手段)
104 表示部(壁部板厚出力手段)
190 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容した容器を被測定系として、該容器の壁部外面に定められた測定実施位置に取り付けて使用され、前記被測定系に前記測定用超音波ビームを予め定められた時間励振入力した後、当該測定用超音波ビームの入力を遮断する超音波送信部と、
前記測定実施位置に取り付けて使用され、前記測定用超音波ビームの入力遮断後の残響振動波形を検出する残響検出手段と、
前記超音波の周波数を変更可能に設定する周波数設定部と、
前記周波数を複数の設定値に変更しつつ前記超音波送信部により前記被測定系に前記測定用超音波ビーム送信し、各周波数にて前記超音波受信部による前記残響振動波形の減衰レベルを測定する減衰レベル測定手段と、
各前記周波数における前記残響振動波形の減衰レベル測定結果の集合に基づき、当該測定の範囲内にて前記減衰レベルが極小化される周波数を板厚反映周波数として特定する板厚反映周波数特定手段と、
前記板厚反映周波数と前記容器の板厚との関係を記憶する板厚/周波数関係記憶手段と、
記憶された前記板厚/周波数関係を参照して、特定された前記板厚反映周波数に対応する板厚を前記測定実施位置における前記容器の壁部板厚として算出する壁部板厚算出手段と、
該壁部板厚の算出結果を出力する壁部板厚出力手段と、
を備えたことを特徴とする超音波板厚測定装置。
【請求項2】
前記残響検出手段は、前記残響振動波形の検出を前記容器上にて液体有りとなることが予め知れている位置にて行なう請求項1記載の超音波板厚測定装置。
【請求項3】
前記残響振動波形を包絡線検波する包絡線検波手段を有し、
前記減衰レベル測定手段は、前記残響振動波形の包絡線検波波形を用いて前記減衰レベルを測定する請求項1又は請求項2に記載の超音波板厚測定装置。
【請求項4】
前記減衰レベル測定手段は、前記周波数を予め定められた周波数帯域内にてスイープするとともに、当該スイープ帯域内にて前記減衰レベルが極小化される周波数を前記壁部の板厚方向における縦波固有振動の固有周波数として見出し、これを前記板厚反映周波数として特定する請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の超音波板厚測定装置。
【請求項5】
前記板厚/周波数関係記憶手段は、前記縦波固有振動の互いに隣接する複数の次数について各々、前記縦波固有振動の種々の板厚での固有周波数を板厚/固有周波数列として記憶するものであり、
前記減衰レベル測定手段は、前記周波数のスイープ帯域幅を、前記減衰レベルが極小化される極点が当該帯域内に複数現れるように設定するものであり、
前記壁部板厚算出手段は、前記帯域内にて前記複数の極点に対応する周波数を極点周波数群として特定するとともに、前記板厚/固有周波数列に対してそれら極点周波数群が一括して適合する板厚値を探索することにより壁部板厚値を算出するものである請求項4記載の超音波板厚測定装置。
【請求項6】
前記減衰レベル測定手段は、前記帯域をラフ探索用帯域として、当該ラフ探索用帯域内にて前記周波数を第一の周波数間隔にて断続的に変化させる形でスイープしつつ、各周波数での前記減衰レベルを測定し、
前記壁部板厚算出手段は、該第一の周波数間隔によるスイープ結果に基づいて複数の前記極点を特定し、前記板厚/固有周波数列に対してそれら極点周波数群が一括して適合する板厚値をラフ板厚値として特定し、
前記減衰レベル測定手段は、前記複数の極点のいずれかを目印極点として選択するとともに、前記ラフ探索用帯域よりも狭い精密探索用帯域を、当該目印極点を含む形で設定し、該精密探索用帯域を前記第一の周波数間隔よりも小さい第二の周波数間隔にて断続的に変化させる形でスイープしつつ、各周波数での前記減衰レベルを測定し、
前記壁部板厚算出手段は、該第二の周波数間隔によるスイープ結果に基づいて前記目印極点に対応する精密極点として特定し、該目印極点に対応する前記板厚/固有周波数列上にて前記精密極点を与える周波数に対応する板厚値を精密板厚値として算出するものである請求項5記載の超音波板厚測定装置。
【請求項7】
前記減衰レベル測定手段は、前記周波数帯域を複数の副帯域に分割してそれら副帯域毎に前記スイープを行なうものであり、
前記残響検出手段は、前記副帯域毎に当該副帯域に対応する通過周波数帯域を有したバンドパスフィルタと、前記スイープを行なう前記副帯域の切り替えに伴い前記残響振動波形を通過させるバンドパスフィルタを対応する通過周波数帯域のものに逐次切り替えるフィルタ切替手段とを有する請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の超音波板厚測定装置。
【請求項8】
前記減衰レベル測定手段は、前記測定用超音波ビームの入力を遮断後に予め定められ時間を経過したときの前記残響振動波形の振幅を、前記減衰レベルを反映した情報として取得するとともに、当該振幅の極大値を与える周波数を前記壁部の板厚方向における縦波固有振動の固有周波数として見出し、これを前記板厚反映周波数として特定する請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の超音波板厚測定装置。
【請求項9】
前記減衰レベル測定手段は、前記減衰残響振動の減衰レベルが予め定められた参照レベルに到達するまでの減衰時間を計測する減衰時間計測手段を有し、当該減衰時間を、前記減衰レベルを反映した情報として取得するとともに、該減衰時間の極大値を与える周波数を前記壁部の板厚方向における縦波固有振動の固有周波数として見出し、これを前記板厚反映周波数として特定する請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の超音波板厚測定装置。
【請求項10】
請求項3記載の要件を備えるとともに、
前記減衰レベル測定手段は、前記包絡線検波波形を予め定められた積分期間にて積分し、その積分値を、前記減衰レベルを反映した情報として取得するとともに、該積分値の極大値を与える周波数を前記壁部の板厚方向における縦波固有振動の固有周波数として見出し、これを前記板厚反映周波数として特定する請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の超音波板厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−103459(P2009−103459A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272725(P2007−272725)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000006932)リコーエレメックス株式会社 (708)
【Fターム(参考)】