説明

超音波検査装置および方法

【課題】 多重反射の影響を受けずに正確な超音波検査を実現する。
【解決手段】 所定の厚さを有する媒体6を介して、超音波パルスを検査対象物に向けて照射するとともに、反射波を検出する超音波センサ2と、検出された反射波の強度の時間変化を検出信号波形として記憶する記憶手段122と、前記媒体6の厚さを変化させる変更手段4、9と、前記媒体の厚さを変化させることによって前記検出信号波形において検出時間が変化した信号成分を、前記検出信号波形から除去する除去手段12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物に超音波を発することにより、検査対象物における探傷若しくは検査を行う超音波検査装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、非破壊検査として、超音波を用いて検査対象物の検査を行う超音波検査装置が用いられている。一般に、超音波検査装置は、検査対象物を水、油等を媒体として使用している。空気層を介して超音波を検査対象物に照射すると、空気と検査対象物のそれぞれの音響インピーダンスの差が大きくなり、検査対象物表面においてほとんどの超音波が反射してしまう。そこで、媒体を介して超音波を検査対象物に照射することにより、検査対象物表面における超音波の反射を低減している。
【0003】
このような超音波検査方法としては、検査対象物を水槽中に水没させる全没水浸方式と、検査対象物を部分的に水没させる局部水浸方式とに大別される。局部水浸方式は、例えばノズルから水流を供給することにより、超音波センサと検査対象物との間に水柱を形成するものである。
【0004】
特許文献1は、局部水浸方式を用いた超音波探傷測定装置に関する。この装置は、プローブの先端に設けられるとともに水等の媒体を収納する媒体室と、媒体室底部に設けられた膜体とを備えている。媒体室に水を供給し続けることにより、媒体室から水が排出され、膜体と検査対象物との空隙へ流れる。プローブから発せられた超音波は、水を介して検査対象物に伝わり、検査対象物表面における反射が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−35419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、超音波センサと検査対象物との間に媒体を介在させると、媒体内部において超音波の多重反射が生じ易くなる。多重反射した超音波は、時間遅れを伴いながら超音波センサに戻り、検査対象物内部の反射波と重なって検出されてしまう。
【0007】
例えば、板金のスポット溶接部分を検査対象物として用いた場合、通電および加圧によって鋼板表面に溶接電極による陥没痕が生じる。この陥没痕にグリセリン等の媒体膜が形成され、媒体膜内において多重反射が起こる。このように、媒体内において多重反射が生じると、スポット溶接内部には欠陥が無いにもかかわらず、多重反射が欠陥として誤認識されてしまう。
【0008】
特許文献1に記載の装置は、膜体をできるだけ薄くすることによって媒体内で発生する多重反射を低減することを試みている。しかしながら、膜厚を薄くしたとしても、媒体内で発生する多重反射を十分に除去することはできない。
【0009】
また、検査対象物と膜体の空隙には媒体が介在しており、この媒体において多重反射が発生する。媒体に水分を含有させることによって、水槽と媒体のそれぞれの音響インピーダンスの差を小さくし、多重反射をある程度は低減することができる。しかしながら、この場合においても、多重反射を十分に除去することはできない。さらに、媒体に水分を含ませることによって、検査対象物の錆、腐食という問題が新たに生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明に係る超音波検査装置は、所定の厚さを有する媒体を介して、超音波パルスを検査対象物に向けて照射するとともに、反射波を検出する超音波センサと、検出された反射波の強度の時間変化を検出信号波形として記憶する記憶手段と、前記媒体の厚さを変化させる変更手段と、前記媒体の厚さを変化させることによって前記検出信号波形において検出時間が変化した信号成分を、前記検出信号波形から除去する除去手段とを備える。
【0011】
前記変更手段は、前記媒体に与える荷重を変化させることによって、前記媒体の厚さを変化させる。
【0012】
また、前記変更手段は、前記超音波センサが水没した水槽を上下に移動させることによって、前記媒体の厚さを変化させる。
【0013】
前記信号成分は前記媒体内における超音波パルスの多重反射に起因するものである。
【0014】
前記除去手段は、前記検出信号波形のうちの所定の検査範囲において、検出時間が変化した信号成分を除去する。
【0015】
さらに、前記媒体は水分を含まない油性の液体である。
【0016】
また、前記水槽は底部に膜体を有し、該膜体と前記検査対象物との間に前記媒体を介在させ、前記変更手段は、前記水槽を上下に移動させることによって、前記媒体の厚さを変化させるとともに、前記膜体の厚さを変化させ、前記除去手段は、前記媒体の厚さおよび前記膜体の厚さの変化によって、前記検出信号波形において検出時間が変化した信号成分を、前記検出信号波形から除去する。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、変更手段によって媒体の厚さを変化させ、検出信号波形において検出時間が変化した信号成分を検出信号波形から除去している。媒体内において生じた多重反射に起因する信号成分は、媒体の厚さを変化させることよって検出時間が変化する。従って、この信号成分を検出信号波形から除去することにより、多重反射の影響を受けずに検査対象物を正確に検査することが可能となる。
【0018】
また、変更手段は、媒体に与える荷重を変化させることによって、媒体の厚さを変化させることができる。さらに、超音波センサが水没した水槽を上下に移動させることによって、媒体の厚さを任意に変化させることができる。
【0019】
また、水分を含まない油性の液体を媒体として使用することによって、検査対象物の腐食または錆を回避することができる。
【0020】
さらに、変更手段が底部に膜体を有する水槽を上下に移動させることによって媒体の厚さを変化させるとともに、膜体の厚さを変化させることができる。除去手段は、媒体の厚さおよび膜体の厚さの変化によって、検出信号波形において検出時間が変化した信号成分を、検出信号波形から除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る超音波検査装置の概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係るパルサーレシーバ、制御装置、解析装置、表示装置のブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る多重反射を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態に係る超音波検査装置の動作原理を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態に係る水槽上端位置における検出信号波形および超音波検査装置の断面図。
【図6】本発明の実施形態に係る水槽下端位置における検出信号波形および超音波検査装置の断面図である。
【図7A】本発明の実施形態に係る超音波検査方法を表すフローチャートである。
【図7B】本発明の実施形態に係る超音波検査方法を表すフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態に係る水槽下端位置における検出信号波形および超音波検査装置の断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係る水槽上端位置における検出信号波形および超音波検査装置の断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る水槽中間位置における検出信号波形および超音波検査装置の断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る多重反射除去前の画像である。
【図12】本発明の実施形態に係る多重反射除去後の画像である。
【図13】本発明の実施形態に係る検査対象物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
[第1実施形態]
(全体構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る超音波検査装置の概略図である。超音波検査装置1は、超音波センサ2、ステージ3、水槽4、膜体5、接触媒体6、ステージ8、水槽駆動装置9、パルサーレシーバ10、制御装置11、解析装置12、表示装置13を備えて構成されている。
【0024】
超音波センサ2は、圧電素子等から構成されており、数MHzから数十MHzの超音波パルスを発し、反射した超音波パルスを検出可能である。ステージ3は超音波センサ2を移動可能であって、ステージ31、32、33を備えている。ステージ31は駆動モータ、位置エンコーダ等を備え、超音波センサ2をX・Y軸にスキャンさせることができる。ステージ32は超音波センサ2をZ軸に移動可能であり、ステージ33はR・θ軸に移動可能である。これらのステージ31、32、33によって、超音波センサ2をX軸、Y軸、Z軸、R軸、θ軸の5軸において移動することができる。このように、超音波センサ2を5軸において移動させることによって、検査対象物7内部の所望の箇所をスキャンし、断層画像を生成することが可能となる。
【0025】
水槽4には、水、液体の媒体41が注入されており、媒体41中には超音波センサ2が水没している。水槽4の底部には膜体5が形成されている。つまり、超音波センサ2と膜体5との間には、媒体41が充填されている。膜体5は柔軟性を有しており、検査対象物7に当接した際に、検査対象物7の表面の形状に応じて、膜体5の形状および膜厚が変化する。第1実施形態に用いた膜体5の材質は、柔軟性があり、検査過程で膜厚が変化するエラストマーを用いたが、ゴム等を用いることができる。また、膜体5は、検査過程で膜厚が変化しない樹脂等を用いても良い。
【0026】
接触媒体6はグリセリン等の油性の液体である。後述するように、本実施形態においては、検出信号波形において多重反射の信号成分を除去することができるため、多重反射を低減させるために必ずしも水分を含むグリセリンゲルを用いる必要はない。従って、水分を含まない油性の接触媒体6を用いることができる。なお、膜体5、接触媒体6のそれぞれの音速の組み合わせによって、膜体5、接触媒体6を音響レンズとして機能させることも可能である。この場合には、超音波パルスの径を絞ることができ、高解像度の超音波検査が可能となる。
【0027】
検査対象物7は超音波によって検査可能なものであればその種類を問わないが、本実施形態においては鋼板のスポット溶接部分を検査対象物7として用いた。
【0028】
ステージ8は検査対象物7をX軸、Y軸に移動させるための2軸ステージである。ステージ8を駆動させることにより、検査対象物7における所望の部分を検査することができる。水槽駆動装置9は駆動モータ、位置エンコーダ等を備え、水槽9をZ軸の所望の位置に移動可能である。
【0029】
パルサーレシーバ10は発振回路、駆動回路、検出回路等を備え、超音波センサ2に発振信号を与えるとともに、超音波センサ2からの検出信号を増幅し、A/D変換する機能を備えている。制御装置11はステージ3、8のそれぞれの位置エンコーダからの信号を検出しながら、各部材に駆動信号を与える。また、制御装置11は予め定められた計測プログラムに従いステージ3、8を制御することにより、検査対象物7内部を超音波センサ2よってスキャンさせることができる。また、制御装置11は水槽4の位置を検出しながら水槽駆動装置9に駆動信号を与え、水槽4をZ軸における所望の位置に移動させる機能を有している。水槽4を下方に移動させると、膜体5、接触媒体6に荷重が印加され、それぞれの厚さが変化する。
【0030】
解析装置12はパルサーレシーバ10からの検出信号の時間変化を表す検出信号波形を記憶するとともに、当該検出信号波形から多重反射の信号成分を除去する。また、解析装置12は、多重反射の信号成分が除去された検出信号波形に基づき、検査対象物7内部の欠陥の有無を解析することができる。表示装置13はディスプレイ、印刷装置等を備え、検査対象物7内部の断層画像および解析結果を表示可能である。
【0031】
図2は、パルサーレシーバ10、制御装置11、解析装置12、表示装置13のブロック図である。
【0032】
パルサーレシーバ10は発振回路101、駆動回路102、検出回路103を備えている。発振回路101は数MHzから数十MHzのパルス信号を生成し、駆動回路102はこのパルス信号を電圧増幅および電流増幅し、超音波センサ2に出力する。検出回路103は超音波センサ2からの検出信号を増幅するとともに、検出信号をディジタル信号に変換する。ディジタル信号に変換された検出信号は制御装置11に入力される。
【0033】
制御装置11は、予め定められたソフト処理(プログラム)に従い、ステージ3、8、水槽駆動装置9をシーケンス制御するコントローラー111、コントローラー111の指示に従いステージ3、8、水槽駆動装置9を駆動するための駆動回路112を備えている。さらに、コントローラー111はパルサーレシーバ10の動作についても予め定められたソフト処理(プログラム)に従い制御する機能を有している。
【0034】
解析装置12は、CPU121、メモリ122、記憶装置123を備え、検出信号における多重反射における多重反射による信号成分を除去する機能を有している。CPU121は、多重反射による信号成分が除去された検出信号に基づき、検査対象物7の内部画像を生成し、欠陥の有無等を自動的に解析することができる。記憶装置123は多重反射による信号成分が除去された検出信号、内部画像、解析結果等を記憶する。
【0035】
表示装置13は、ディスプレイ、印刷装置等により構成され、解析装置12による解析結果を視覚的に出力する。例えば、フィルタリング前後の検出信号の波形、検査対象物7内部画像、欠陥の有無等を表示することができる。
【0036】
図3は、本実施形態における超音波パルスの多重反射を説明するための図である。この図において、超音波センサ2から発せられた超音波は水槽4内の媒体41、膜体5、接触媒体6を順に伝播し、検査対象物7内部へ照射される。また、媒体41、膜体5、接触媒体6、検査対象物7のそれぞれの境界面において、各部材の音響インピーダンスの相違によって、超音波の反射が生じる。すなわち、媒体41と膜体5の境界面における反射A、膜体5と接触媒体6の境界面における反射B、接触媒体6と検査対象物7の表面との境界面における反射C、検査対象物7の裏面における反射Dが生じる。これらの反射A〜Dは超音波センサ2によって検出され、検出信号波形においてピーク信号として現れる。
【0037】
一方、反射波A〜Dは2つの境界面の間において複数回、反射し、多重反射A’〜D’が生じる。例えば、媒体41と膜体5の境界面および膜体5と接触媒体6の境界面の間、すなわち膜体5内部において、多重反射B’が生じる。同様に、媒体41内部、接触媒体6内部、検査対象物7内部においてそれぞれ多重反射A’、C’、D’が生じる。
【0038】
これらの多重反射A’〜D’も超音波センサ2によって検出され、検出信号波形においてピーク信号となって現れる。これらの多重反射A’〜D’の中には、検査対象物7内部の検査範囲における反射波と重なってしまうものが存在する。特に、膜体5内部における多重反射B’、接触媒体6内部における多重反射C’は検査範囲における反射波と重なって検出されてしまうことが多く、これらの多重反射は正確な計測の妨げとなる。上述した多重反射は、媒体の材質および厚さ、温度、媒体の形状等によって変化する。本発明によれば、以下に説明するように、接触媒体6の厚さを変化させ、検出信号波形において検出時間が変化した信号成分を除去することにより、多重反射の影響を受けずに正確な計測を行うことが可能となる。
【0039】
図4は本発明の原理を説明するための模式図である。上述したように、水槽4は水槽駆動装置9によって、Z軸方向(上下方向)に移動可能である。
【0040】
図4(A)に示されたように、水槽4を上方に移動させた場合、超音波センサ2は水槽4の媒体41に深く水没し、超音波センサ2から膜体5表面までの距離はd1となる。このとき、膜体5および接触媒体6に印加される荷重は少なくなり、膜体5および接触媒体6の厚さはd2、d3となる(図4(A))。ここで、膜体5の厚さ(膜厚)d2は、超音波センサ2から検査対象物7へ超音波を照射する照射方向における、媒体41と接する面と接触媒体6と接する面との間の距離のことである。また、接触媒体6の厚さd3は、超音波センサ2から検査対象物7へ超音波を照射する照射方向における、膜体5と検査対象物7との間の距離のことである。
【0041】
図4(B)に示されたように、水槽駆動装置9によって水槽4をΔhだけ下方に移動させると、膜体5および接触媒体6に印加される荷重が増大し、膜体5および接触媒体6の厚さはd2’<d2、d3’<d3に減少する(図4(B))。このように、水槽4を上下させることによって、膜体5および接触媒体6の厚さを変化させることができる。
【0042】
図5は、水槽4を上方位置に移動させた場合における検出信号波形および装置の状態を表している。図5(B)に示されたように、水槽4を上方位置に移動させた場合、超音波センサ2から膜体5までの距離はd1、膜体5の厚さはd2、接触媒体6の厚さはd3となる。
【0043】
この場合における検出信号波形は図5(A)のようになる。この図において、横軸は時間軸を表し、超音波センサ2から超音波パルスを発した時刻を基準時刻としている。また、縦軸は超音波センサ2による検出信号の強度を表している。超音波センサ2から発せられた超音波パルスは媒体41と膜体5の境界面、すなわち膜体5表面において反射し、時間t1経過後に超音波センサ2に戻る。この反射波は超音波センサ2によって検出され、同図に示されるように検出信号波形においてピーク信号として現れる。
【0044】
さらに、超音波パルスは膜体5と接触媒体6の境界面、すなわち接触媒体6の表面において反射し、時間t2経過後において超音波センサ2によって検出される。同様に、時間t3経過後において、検査対象物7の表面において反射した超音波パルスが超音波センサ2によって検出される。さらに、時間t4経過後、検査対象物7の裏面における反射波が超音波センサ2によって検出される。
【0045】
また、各部材の音響インピーダンスの相違により、膜体5および接触媒体6内部において多重反射が発生する。これらの多重反射は、所定の時間遅れを伴い、例えば時間t4の範囲において超音波センサ2に到達する。検出された多重反射が検査範囲内にある場合には、検査対象物7内部の欠陥によるピークと多重反射によるピークとを区別することは困難となる。本発明においては、膜体5、接触媒体6の厚さを変化させることにより、多重反射によるピークを判別し、除去することができる。
【0046】
図6は、水槽4を下方位置に移動させた場合における検出信号波形および超音波検査装置の状態を表している。図6(B)に示されたように、水槽4を下方位置に移動させることにより、膜体5の厚さはd2’、接触媒体6の厚さはd3’に変化する。それぞれの厚さの変化に応じて、検出信号波形における各ピークの時間間隔はt2<t2’、t3<t3’となる。なお、検査対象物7の厚さは一定であるため、検出信号波形における時間間隔t4も一定である。また、超音波センサ2から膜体5までの距離d1の変化は少ない(例えば数mm程度)ため、検出信号波形において時間間隔t1’≒t1とみなすことができる。
【0047】
このように、膜体5、接触媒体6の厚さを変化させると、膜体5、接触媒体6内部において発生した多重反射の検出時間も変化する。例えば、検査範囲内に存在していた多重反射のピーク(図5(A))は、検査範囲外に移動する(図6(A))。膜体5、媒体6の厚さを変化させ、検出信号波形において検出時間の変化したパルスを除去することにより、多重反射の影響を受けずに超音波検査を行うことができる。
(超音波検査方法)
続いて、図7を参照しながら本実施形態における超音波検査方法を説明する。
【0048】
先ず、操作者が超音波検査装置1を起動させると、制御装置11は検査プログラムの実行を開始する(ステップS1)。すなわち、制御装置11はステージ3を駆動することによって超音波センサ2をスキャン開始位置に移動させるとともに、水槽駆動装置9を駆動することによって水槽4を上端位置に移動させる。
【0049】
この状態において、操作者は検査対象物7をステージ8上に載置する(ステップS2)。本実施形態においては、鋼板のスポット溶接部を検査対象物7として用いた。さらに、操作者は検査対象物7表面に例えば工作油等の媒体を塗布する(ステップS3)。上述したように、本実施形態においては、水分を含有しないグリセリンを使用することができる。
【0050】
続いて、制御装置11は水槽駆動装置9を駆動することによって水槽4を下端位置まで移動させ、図8(B)に示されたように、水槽4の膜体5を検査対象物7表面に接触させる(ステップS4)。液体である媒体6の厚さは水槽4の荷重によって0.1mmとなった。
【0051】
制御装置11はパルサーレシーバ10によって超音波センサ2を駆動し、超音波センサ2は超音波パルスを発する。超音波センサ2から発せられた超音波パルスは、膜体5、接触媒体6、検査対象物7、およびこれらの内部において反射し、超音波センサ2に戻る。超音波センサ2は反射波を検出し、検出信号をパルサーレシーバ10に送信する。パルサーレシーバ10は、検出信号をA/D変換し、解析装置12はこの検出信号を下端位置の検出信号波形Aとしてメモリ122に記憶する(ステップS5)。また、制御装置11はステージ3を駆動し、超音波センサ2によって検査対象物7の検査範囲をスキャンさせながら、検出信号波形をメモリ122に順次記憶させてもよい。
【0052】
下端位置の検出信号波形Aは例えば図8(A)のようになる。膜体5の表面、接触媒体6の表面、検査対象物7の表面、検査対象物7の底面のそれぞれにおいて超音波パルスが反射し、検出信号波形Aにおけるピーク信号として検出される。なお、検査対象物7の底面におけるピーク信号の後ろに現れた複数のピーク信号はその他の反射によるものであり、例えば、多重反射、固体に伝播する際に発生する横波成分の反射等が含まれる。この横波は、膜体5、検査対象物7に相当する固体中で発生するものであり、超音波センサ2から照射される縦波に対して伝播速度が遅いため、検査範囲に入らない。
【0053】
下端位置におけるスキャンが終了すると、制御装置11は図9(B)に示されるように水槽4を上端まで移動させる(ステップS6)。このときの媒体6の厚さは例えば0.7mmとなる。この状態において、超音波センサ2は反射波を検出する(ステップS7)。検出された反射パルスはA/D変換され、上端位置の検出信号波形Bとしてメモリ122に記憶される。上端位置における検出波形Bは例えば図9(A)に示されるようになる。
【0054】
さらに、制御装置11は図10(B)に示されるように水槽4を上下端の中間位置まで移動させる(ステップS8)。このときの媒体6の厚さは例えば0.35mmとなる。制御装置11は超音波センサ2によって反射パルスを検出する(ステップS9)。検出された反射パルスはA/D変換され、図10(A)に示されように中間位置の検出信号波形Cとしてメモリ122に記憶される。このようにして、水槽4の下端位置、上端位置、中間位置のそれぞれにおいて超音波計測が行われ、検出信号波形A、B、Cが解析装置12のメモリ122に記憶される。
【0055】
続いて、解析装置12は、メモリ122に記憶された検出信号波形A、B、Cにおける複数のピーク信号(信号成分)を検出する(ステップS10)。検出信号波形A、B、Cには、膜体5の表面、接触媒体6の表面、検査対象物7の表面および裏面のそれぞれのピーク信号が含まれていることが予め分かっている。従って、解析装置12は、検査対象物7の表面および裏面におけるピーク信号を認識し、これらのピーク信号の間、すなわち検査対象物7の検査範囲にあるピーク信号を検出信号波形A、B、Cにおいて検出する。検出すべきピーク信号の個数は例えば7個程度であることが望ましい。
【0056】
解析装置12は検査範囲にあるピーク信号を検出した後、当該ピーク信号の検出信号波形A、B、Cのそれぞれにおける検出時間(検出信号波形におけるピーク位置)の差を算出する(ステップS11)。解析装置12は、この算出結果に基づき、異なる検出時間において発生するピーク信号が存在するか否かを判断する(ステップS12)。図10(A)に示された検出信号波形Cにおいて、検査範囲の略中央に比較的に大きなピーク信号が確認できる。ところが、このピーク信号は、検出信号波形A(図8(A))、検出信号波形B(図9(A))においては、検査範囲外に発生している。従って、当該ピーク信号は、多重反射によるピーク信号であると判断され(ステップS12でYES)、多重反射を除去する処理が実行される(ステップS13)。
【0057】
一方、検出信号波形A、B、Cにおいて異なる時間に発生しているピーク信号、すなわち多重反射によるピーク信号が検出されなかった場合(ステップS12でNO)には、検査が正しく行われていない可能性がある。従って、この場合には、媒体塗布(ステップS3)の処理に戻り、超音波検査を再度、実行する(ステップS4からステップS11)。
【0058】
上述のステップS12でYESの場合、すなわち多重反射によるピークが検出された場合には、解析装置12は多重反射であると判断されたピーク信号を除去する(ステップS13)。多重反射によるピーク信号が除去された検出信号波形A、B、Cは記憶装置123に保存される。
【0059】
なお、多重反射によるピーク信号の除去は、検出信号波形A、B、Cを検査範囲においてAND演算することによって行うこともできる。また、測定誤差を考慮して、検出時間の差が所定値を超えたピーク信号を多重反射として除去しても良い。
【0060】
このようにして、検出信号波形A、B,Cにおいて多重反射によるピーク信号を除去した後、解析装置12は検出信号波形A、B、Cの検査範囲の波形を再構成する(ステップS14)。検出信号波形A、B、Cの検査範囲において同時刻に発生するピークがある場合(ステップS15でYES)には、解析装置12は検査範囲に欠陥(溶接不良等)があると判断する(ステップS16)。すなわち、検出信号波形A、B、Cの検査範囲において、同時刻に発生するピークが存在する場合、当該ピーク信号は多重反射によるものではなく、欠陥によって反射したピーク信号であると判断される。一方、検出信号波形A、B、Cの検査範囲において同時刻に発生するピーク信号がない場合(ステップS15でNO)には、解析装置12は検査対象範囲に欠陥がないと判断する(ステップS17)。
【0061】
解析装置12は上述の解析結果を表示装置13に出力し、表示装置13は解析装置12による解析結果をディスプレイ等に表示する(ステップS18)。検出信号波形A、B、C、および欠陥の有無が視覚的に表示される。さらに、解析装置12は解析結果を記憶装置123に保存し、超音波検査処理を終了する。
【0062】
図11、図12に、本実施形態における検査結果を示す。図11は、図13で示された検査対象物7の検査対象範囲をX軸およびY軸においてスキャンした画像である。この画像において、中央の白い部分は多重反射による信号成分が像として表されている。実際には、図12に示されるように検査範囲には欠陥は存在していない。図12は、図11と同一条件において、本発明に係る超音波検査装置によって求められた画像である。この画像においては、多重反射による信号成分が綺麗に除去されているのが確認できる。
【0063】
従って、本発明によれば、媒体の厚さを変化させ、検出波形において検出時間の変化した信号成分(ピーク信号)を除去することにより、多重反射の影響を受けずに正確に超音波検査を行うことが可能となる。
【0064】
また、本発明においては、多重反射の影響を回避することができるため、水の音響インピーダンスに近い媒体を用いる必要がなく、水分を含まない油性の媒体を用いることができる。これにより、検査対象物の腐食または錆等を防止することが可能となる。
【0065】
本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施可能である。例えば、本発明は、水槽4を上下させることによって媒体6の厚さを変化させているが、検査対象物7を載置するステージ8を上下させても良い。
【符号の説明】
【0066】
1 超音波検査装置
2 超音波センサ
3、8 ステージ
4 水槽(変更手段)
5 膜体
6 媒体
7 検査対象物
9 駆動装置(変更手段)
10 パルサーレシーバ
11 制御装置
12 解析装置(除去手段)
13 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の厚さを有する媒体を介して、超音波パルスを検査対象物に向けて照射するとともに、反射波を検出する超音波センサと、
検出された反射波の強度の時間変化を検出信号波形として記憶する記憶手段と、
前記媒体の厚さを変化させる変更手段と、
前記媒体の厚さを変化させることによって前記検出信号波形において検出時間が変化した信号成分を、前記検出信号波形から除去する除去手段とを有する超音波検査装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記媒体に与える荷重を変化させることによって、前記媒体の厚さを変化させる請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項3】
前記変更手段は、前記超音波センサが水没した水槽を上下に移動させることによって、前記媒体の厚さを変化させる請求項1または2に記載の超音波検査装置。
【請求項4】
前記信号成分は前記媒体内における超音波パルスの多重反射に起因するものである請求項1乃至3のいずれかに記載の超音波検査装置。
【請求項5】
前記除去手段は、前記検出信号波形のうちの所定の検査範囲において、検出時間が変化した信号成分を除去する請求項1乃至4のいずれかに記載の超音波検査装置。
【請求項6】
前記媒体は水分を含まない油性の液体である請求項1乃至5のいずれかに記載の著音波検査装置。
【請求項7】
前記水槽は底部に膜体を有し、該膜体と前記検査対象物との間に前記媒体を介在させ、
前記変更手段は、前記水槽を上下に移動させることによって、前記媒体の厚さを変化させるとともに、前記膜体の厚さを変化させ、
前記除去手段は、前記媒体の厚さおよび前記膜体の厚さの変化によって、前記検出信号波形において検出時間が変化した信号成分を、前記検出信号波形から除去する請求項3に記載の超音波検査装置。
【請求項8】
所定の厚さを有する媒体を介して、超音波パルスを検査対象物に向けて照射するとともに、反射波を検出するステップと、
検出された反射波の強度の時間変化を検出信号波形として記憶手段に記憶するステップと、
前記媒体の厚さを変化させるステップと、
前記媒体の厚さを変化させることによって前記検出信号波形において検出時間が変化した信号成分を、前記検出信号波形から除去するステップとを有する超音波検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−211826(P2012−211826A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77678(P2011−77678)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】