説明

超音波流量計

【課題】温度変化による超音波ビームの伝播経路を考慮して流量を求める。
【解決手段】油圧機器に圧油を供給する配管20の表面に設けられ、配管内を伝播する超音波信号を発信および受信する一対の超音波センサ3,4と、配管内の圧油の温度を検出する温度検出手段6と、検出された温度に応じて超音波の伝播経路を算出する経路算出手段7と、経路算出手段7による算出結果に基づき、配管内を流れる圧油量を算出する流量算出手段7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管内を流れる圧油の流量を計測する超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、配管の表面に、超音波信号を発信および受信する一対のセンサを設け、このセンサからの信号により配管内を流れる流体の流量を計測するようにした超音波流量計が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載のものは、配管に沿って伝播する表面波の伝播速度から配管内の流体の温度を求め、温度による流体の速さの補正を行って流量を算出するようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−41286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、配管内を流れる流体内における超音波ビームの伝播経路は温度によって変化するため、伝播経路の変化を考慮せずに流量計測することは、計測精度の点で問題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による超音波流量計は、油圧機器に圧油を供給する配管の表面に設けられ、配管内を伝播する超音波信号を発信および受信する一対の超音波センサと、配管内の圧油の温度を検出する温度検出手段と、検出された温度に応じて超音波の伝播経路を算出する経路算出手段と、経路算出手段による算出結果に基づき、配管内を流れる圧油量を算出する流量算出手段とを備えることを特徴とする。
配管の外表面に装着された温度センサの検出値から圧油の温度を算出することが好ましい。
配管の厚みを検出する厚み検出手段を備え、さらに厚み検出手段により検出された厚みに基づき圧油量を算出することもできる。
各超音波センサの相対位置を検出する位置検出手段と、経路算出手段による算出結果に基づき、各超音波センサの目標の相対位置を算出する目標位置算出手段とをさらに備えることもできる。
位置検出手段による検出結果と目標位置算出手段による算出結果を表示する表示手段をさらに備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、配管内の圧油の温度に応じて超音波の伝播経路を算出し、この算出結果に基づき配管内の圧油量を算出するので、圧油の温度変化に拘わらず精度よく流量を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図1、2を参照して本発明による超音波流量計の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る超音波流量計の概略構成を示す図である。この超音波流量計は、油圧ショベルやクレーン等の建設機械の油圧機器(例えば油圧モータや油圧シリンダ等)に作動油を供給する配管20に設けられ、配管内を通過する作動油量を計測する。この種の建設機械の作動油は、油温の変化により粘性が大きく変化するため、流量計測時の温度による影響が大きい。
【0008】
図1に示すように超音波流量計は、配管20の表面に装着された一対の超音波トランスデューサ1,2と、各トランスデューサ1,2からの信号により管路内の流量を演算する演算部7と、作動油の温度と密度との関係、および配管20の外径や熱伝導率等の各種定数を記憶する記憶部8と、流量計測指令を入力する操作部12と、演算結果を表示する表示部10とを有する。
【0009】
超音波トランスデューサ1,2は、配管20の表面に周方向同一側に設けられ、互いに対向し、長手方向に所定距離だけ離れて配設されている。各超音波トランスデューサ1,2は、超音波信号(超音波ビーム)を発信および受信する超音波センサ3,4と、作動油温度を検出する温度センサ6と、トランスデューサ間の距離を検出する超音波距離計9と、配管20の厚みを検出する超音波厚み計11をそれぞれ内蔵している。超音波トランスデューサ間の距離、つまり超音波トランスデューサ1,2の取付位置は任意に変更可能である。
【0010】
各超音波センサ3,4は、それぞれ超音波ビームを発する発振部と、超音波ビームを受信する受信部とを兼ねている。図示のように管路内を矢印方向に流体(作動油)が流れていると、上流側の超音波センサ3から発せられた超音波ビーム5は、管壁で反射して下流側の超音波センサ4で受信され、下流側の超音波センサ4から発せられた超音波ビーム5は、管壁で反射して上流側の超音波センサ3で受信される。
【0011】
このときの管路内の流体の速度をv、音速をC、超音波ビーム5と作動油の流れ方向とのなす角をθ、超音波トランスデューサ間の距離をLとすると、センサ3からセンサ4への超音波ビームの到達時間t34、およびセンサ4からセンサ3への超音波ビームの到達時間t43はそれぞれ次式(I),(II)のようになる。
t34=L/(cosθ・(C+vcosθ)) (I)
t43=L/(cosθ・(C−vcosθ)) (II)
これにより到達時間差t43−t34は2Lv/(C−vcosθ)となり、流速vは次式(III)で表され、音速Cは次式(IV)で表される。
v=L(√(1+(Ccosθ(t43−t34)/L))−1)/cosθ(t43−t34) (III)
C=L(1/t34+1/t43)/2cosθ (IV)
上式(III),(IV)より流速vを求めることができ、流速vに管路断面積Aを乗じることで作動油の流量Q(=vA)を求めることができる。
【0012】
ここで、超音波ビームと作動油の流れ方向とのなす角θは、センサ3,4の傾斜角、および配管20の音響インピーダンスと流体の音響インピーダンスとの比によって決まる。音響インピーダンスは音速Cと密度の積であるため、作動油温の変化により密度が変化するとθも変化する。すなわち作動油温が高くなるとθが大きくなり、作動油温が低くなるとθは小さくなる。とくに建設機械では油温の変化が大きいため、θの変化量も大きい。このため、作動油温の影響によるθの変化を考慮せずに、一定のθを用いて流量Qを算出したのでは、作動油温が変化した際に十分な計測精度を保つことができない。
【0013】
また、このようにθが変化すると超音波ビームの伝播経路が変化するため、一方のセンサ3,4から発せられた超音波ビームを他方のセンサ4,3によって精度よく受信できないおそれがある。そこで、本実施の形態では、温度センサ6により作動油温を検出し、作動油温に応じたθを算出するとともに、後述のようにトランスデューサ間の距離Lを調整する。
【0014】
図2は、演算部7で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、例えば操作部12から計測開始指令が入力されるとスタートする。ステップS1では、超音波厚み計11からの信号により配管20の厚みを検出し、この検出結果を用いて管路面積Aを算出する。
【0015】
ステップS2では、温度センサ6からの信号により作動油温を算出する。温度センサ6は、配管20の外表面に密着して設けられ、直接的には外表面の温度Toを検出する。本実施の形態では、温度センサ6の検出値Toを次式(V),(VI)により変換し、配管20の内表面の温度Ti、すなわち作動油温を間接的に求める。
q=ha(To−Ta) (V)
Ti=To+q(1/hl−t/λ) (VI)
但し、Ta:配管の外側の雰囲気温度
ha:配管の外表面の空気中への熱伝達率
hl:配管の内表面の流体中への熱伝達率
q:熱流量
t:ステップS1で求めた配管の厚み
λ:配管の厚み方向の熱伝達率
【0016】
ステップS3では、ステップS2で求めた作動油温度に基づき超音波ビームと流体の流れ方向とのなす角θを算出する。すなわち作動油温度から流体の密度を求め、配管20と流体の音響インピーダンス比よりθを算出する。ステップS4では、算出したθにより超音波ビームの伝播経路を求め、この伝播経路から、超音波ビームを受信するための超音波トランスデューサ間の最適な距離(目標距離)Laを算出する。ステップS5では、超音波距離計9からの信号により超音波トランスデューサ間の実際の距離Lを求める。
【0017】
ステップS6では、距離LとLaとの差|L−La|が所定値ΔLより大きいか否かを判定する。|L−La|>ΔLのときは、超音波センサ3,4で超音波ビームを精度よく受信できないおそれがあるため、ステップS7に進んで、表示部10に目標距離Laと実際の距離L、および偏差(L−La)を表示する。これにより作業員は、現在の油温の下で正確に流量を算出するには、どの程度トランスデューサ1,2を移動すればよいかを認識できる。すなわち例えばL>Laであれば、トランスデューサ間の距離Lを狭め、L<Laであれば、トランスデューサ間の距離を広げればよいと認識できる。
【0018】
一方、|L−La|≦ΔLのときはステップS8に進み、各センサ3,4から超音波ビームを発してセンサ4,3に到達するまでの時間t43,t34をそれぞれ計測する。ステップS9では、上述の処理によって求めたθ,L,t43,t34を上式(III),(IV)にそれぞれ代入し、作動油の流速vを算出するとともに、流速vにステップS1で求めた管路面積Aを乗じて流量Qを算出し、表示部10に表示する。これにより作業員は作動油の正確な流量を認識できる。なお、ステップS7と同様、表示部10にトランスデューサ間の距離Lや目標距離Laを併せて表示してもよい。
【0019】
本実施の形態の動作をまとめると次のようになる。超音波流量計により配管20を流れる作動油量を計測する場合は、操作部12を操作して流量計測指令を入力する。演算部7は、作動油温に応じて超音波ビームと作動油の流れ方向とのなす角θを算出するとともに、超音波ビームの伝播経路から超音波トランスデューサ間の目標距離Laを算出し、この目標距離Laと実際の距離Lとの差|L−La|が所定値ΔLより大きいか否かを判定する(ステップS3〜ステップS6)。
【0020】
|L−La|≦ΔLの場合は、一方の超音波センサ3,4から超音波ビームを発して他方の超音波センサ4,3に至るまでの到達時間t43,t34を計測し、この到達時間t43,t34を用いて作動油の流速vおよび流量Qを算出し、算出結果を表示部10に表示する(ステップS8,ステップS9)。この場合、作動油の温度変化を考慮してθを求めているため、精度よく流速vおよび流量Qを求めることができる。
【0021】
一方、|L−La|>ΔLの場合は、超音波ビームをセンサ3,4で精度よく受信できないおそれがあるため、流量計算を行わず、表示部10に目標距離Laと実際の距離Lを表示する(ステップS7)。これにより作業員はトランスデューサ1,2の位置をどの程度ずらす必要があるかを認識することができ、この表示を参照しながら場合によってトランスデューサ1,2の位置をずらす。
【0022】
本実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)作動油温に応じて超音波ビームの伝播経路、つまり超音波ビームと作動油の流れ方向とのなす角θを算出し、このθを用いて作動油の流量Qを算出するようにしたので、作動油の温度変化に拘わらず精度よく流量Qを算出することができる。
(2)配管20の外表面に温度センサ6を設け、配管20の熱伝導率と配管20の内表面および外表面の熱伝達率とを考慮して、温度センサ6の検出値から作動油温を求めるようにした。これにより配管20を貫通して温度センサを挿入する必要がなく、作動油温を容易に測定することができる。すなわち配管内には高圧の作動油が流れるため、配管20に孔を開けて温度センサを挿入する構成では、その孔の周囲をシールする必要があり、測定が困難であるが、本実施の形態では、配管20に孔を開ける必要がないため、測定が容易である。
【0023】
(3)超音波ビームの伝播経路に基づき超音波トランスデューサ間の目標距離Laを算出するとともに、超音波距離計9により実際の距離Lを計測し、この差が所定値ΔLより大きいか否かの判定結果を表示部10に表示するようにしたので、作業員は超音波トランスデューサ1,2が適切な位置に配置されているか否かを容易に認識できる。
(4)LaとLとの差が所定値ΔLより大きいときは、どの程度超音波トランスデューサ1,2を移動すればよいかを、作業員は容易に判断できる。
(5)LaとLとの差が所定値ΔL以下のときのみ流量Qを算出するので、誤差が大きい状態では流量Qが算出されず、誤った流量Qに基づいて油圧制御が行われることを防止できる。
(6)超音波厚み計11により配管20の厚みを検出し、この厚みを用いて管路面積Aを算出するので、流量Qを精度よく算出することができる。とくに高圧部と低圧部で厚みが異なる配管20を用いた場合には、作業員が厚みを間違えて設定するおそれがあり、本実施の形態のように厚みを検出して流路面積Aを算出することの効果が大きい。
【0024】
なお、上記実施の形態では、一対の超音波センサ3,4を配管20の周方向同一側に配置し、超音波ビームを管壁で反射させるようにしたが、超音波センサ3,4の取付位置はこれに限らず、超音波センサ3を超音波センサ4の周方向反対側に配置してもよい。温度センサ6の検出値Toを上式(V),(VI)に代入して流体の温度を検出するようにしたが、温度検出手段はいかなるものでもよい。作動油温を考慮して超音波ビームの伝播経路、つまり超音波ビームと作動油の流れ方向とのなす角θを算出するのであれば、経路算出手段としての演算部7の処理はいかなるものでもよい。また、このような伝播経路に基づき流量Qを算出するのであれば、流量算出手段はいかなるものでもよい。
【0025】
超音波厚み計11により配管20の厚みを検出するようにしたが、他の厚み検出手段により配管20の厚みを検出してもよい。超音波距離計9により超音波トランスデューサ間の距離Lを検出するようにしたが、超音波センサの3,4の相対位置を検出するのであれば、位置検出手段としての構成はこれに限らないない。超音波ビームの伝播経路に基づき目標距離Laを算出するようにしたが、目標位置算出手段はこれに限らない。演算部7の演算結果を表示手段としての表示部10に表示するようにしたが、表示部以外に出力してもよい。
【0026】
以上では、建設機械の油圧配管20に超音波流量計を設ける場合について説明したが、油圧機器に圧油を供給する油圧配管であれば、本発明を同様に適用することができる。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の超音波流量計に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る超音波流量計の構成を示す油圧回路図。
【図2】図1の演算部における処理の一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0028】
1,2 超音波トランスデューサ
3,4 超音波センサ
6 温度センサ
7 演算部
9 超音波距離計
10 表示部
11 超音波厚み計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧機器に圧油を供給する配管の表面に設けられ、配管内を伝播する超音波信号を発信および受信する一対の超音波センサと、
配管内の圧油の温度を検出する温度検出手段と、
前記検出された温度に応じて超音波の伝播経路を算出する経路算出手段と、
前記経路算出手段による算出結果に基づき、配管内を流れる圧油量を算出する流量算出手段とを備えることを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波流量計において、
前記温度検出手段は、配管の外表面に装着された温度センサを有し、この温度センサの検出値から圧油の温度を算出することを特徴とする超音波流量計。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超音波流量計において、
前記配管の厚みを検出する厚み検出手段を備え、
前記流量算出手段は、さらに前記厚み検出手段により検出された厚みに基づき圧油量を算出することを特徴とする超音波流量計。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波流量計において、
前記各超音波センサの相対位置を検出する位置検出手段と、
前記経路算出手段による算出結果に基づき、各超音波センサの目標の相対位置を算出する目標位置算出手段とをさらに備えることを特徴とする超音波流量計。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波流量計において、
前記位置検出手段による検出結果と前記目標位置算出手段による算出結果を表示する表示手段をさらに備えることを特徴とする超音波流量計。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−58057(P2008−58057A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233137(P2006−233137)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】