超音波測定方法
【課題】多層構造の物質に対し、その内部の薄い層(100μm以下)を精度よく計測することが可能な超音波測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】前述の課題を解決するために、本発明の超音波測定方法は、複数の界面を有する被測定物に超音波を照射し、前記被測定物の測定対象層の上側界面及び下側界面で反射した2つの反射波による波形を取得し、予め作成された複数種類の参照波形を有する参照波形テーブルと前記2つの反射波による波形とを比較して前記測定対象層の厚みを計測することを特徴とする。
【解決手段】前述の課題を解決するために、本発明の超音波測定方法は、複数の界面を有する被測定物に超音波を照射し、前記被測定物の測定対象層の上側界面及び下側界面で反射した2つの反射波による波形を取得し、予め作成された複数種類の参照波形を有する参照波形テーブルと前記2つの反射波による波形とを比較して前記測定対象層の厚みを計測することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の界面を有する物体に超音波を照射して得た界面信号から物体の厚さを測る測定技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の界面を有する物体に超音波を照射して得た界面信号から物体の厚さを測る技術として、超音波測定技術がある。
【0003】
図12は、従来の超音波測定装置の基本的構成図である。
【0004】
図12において、超音波測定装置1は、被測定物2に超音波を照射するための超音波探触子3、超音波探触子3を制御するための制御部4、制御部4に条件を入力するための入力部5、超音波測定結果を表示するための表示部6から構成されている。被測定物2は、容器7内の水8の中に載置される。
【0005】
超音波探触子3から水8を媒体として被測定物2に超音波を発信し、その反射波を超音波探触子3で受信する。そして、受信した信号を、制御部4にて波形処理,画像処理等を行うことで被測定物2の良否判断と画像化を行う。ここで、超音波探触子3は超音波の送受信のどちらにも用いられる。また、制御部4は、超音波探触子3で受信した超音波を電圧に変換・増幅するパルサレシーバー、および、電圧波形の強度値を画像化する画像処理部を含んでいる。被測定物2としては、単層の物質、あるいは多層の物質である。
【0006】
ここで、被測定物2が単層物質である場合について考える。
【0007】
図13は、単層物質における超音波の反射を示す概略図である。
【0008】
図13において、超音波探触子3から発信された超音波9は、単層物質10の内部に透過し、単層物質10の上面10aと下面10bとでそれぞれ上面反射波11aおよび下面反射波11bを発生させる。そして、それぞれの反射波の信号を得ることで単層物質10の層の厚みを計測する。ここで上面10aとは、単層物質10の層において超音波探触子3に近い面であり、下面10bとは超音波探触子3に遠い面である。
【0009】
また、測定対象物としては単層物質には限らず、多層物質に対しても層の厚みを観測できる。
【0010】
図14は、多層物質における超音波の反射を示す概略図である。
【0011】
図14において、超音波探触子3から発信された超音波12は、多層物質13の内部に透過し、多層物質13の表面層14の上面14aと下面14bとでそれぞれ上面反射波15aおよび下面反射波15bを発生させる。そして、それぞれの反射波の信号を計測し、多層物質13の表面層14の厚みを計測する。なお、超音波が内部に届く範囲では、内部層の厚みを計測することも可能であり、例えば内部層16の厚みは、上面16aと下面16bからの反射波を得ることで計測する事が可能である。
【0012】
従来の超音波測定方法について説明する。図13の単層物質10が金属板であるとする。金属板は光を透過しないため、物体内部を透過し、反射波の取得により界面の情報を得る事が出来る超音波は特に有効である。図13において、超音波探触子3から超音波パルスを単層物質10に照射すると、上面10aから反射波が発生し、それを超音波探触子3で受信する。一方、超音波の一部は上面10aを透過し、下面10bで反射する。このときの透過率は、カプラーとなる水の音響インピーダンスおよび単層物質10(金属板)の音響インピーダンスで決まる。この反射波を超音波探触子3で受信する。上面10aと下面10bの反射波が合成された波形が最終的に出力されるため、結果は図15のようになる。
【0013】
図15は、従来の超音波測定による測定結果を示す図である。
【0014】
図15において、波形17は上面10aからの反射波の測定結果、波形18は下面10bからの反射波の測定結果である。図15のグラフの横軸は時間(ns)、縦軸は任意の強度値であり、今回は超音波探触子3で受信した電圧信号の8ビット表示としている。また、波形17と波形18は界面の音響インピーダンス差から位相が反転している。このグラフより波形時間差ΔTを読み取る。次に、単層物質10(金属板)の音速V(m/s)を用いて、 V×ΔT/2 より、単層物質10(金属板)の厚みを求める。ここで超音波は往復分として2つ存在するため、2で割っている。以上により、単層物質10(金属板)の内部を透過する超音波の反射波を取得することで、層の厚み計測を行う事が出来る。
【特許文献1】特開2001−124746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、前述の従来の技術では、被測定物の層の厚みが薄い場合は計測が困難になる。例えば、被測定物の層が金属板の場合、超音波反射波の一つの波が発生している時間はおよそ40nsであり、厚みに換算すると112μmである。これ以下の厚みを計測しようとした場合、その層の上面と下面の反射波が重なり合ってしまうため、波形時間差を求める事が出来ない。この場合、超音波探触子の周波数を上げ、波が発生する時間を短くする必要がある。
【0016】
例えば、110MHzの探触子を用いて単層物質の超音波測定を行なっていた場合、この周波数を例えば3倍に変更(300MHzの探触子)して計測すると、さらに1/3薄い厚みの計測が可能になる。ところが、計測する層が多層構造の内部にある場合、高い周波数(110MHz以上)の超音波はその層まで到達しない。これを回避する(その層まで超音波を到達させる)ためには周波数を下げるとよいが、測定対象の層が薄いと、低い周波数で波形時間差を求める事が出来ず、層を測定できないという課題がある。
【0017】
本発明は、前記従来技術の課題を解決するためのものであり、複数の界面を有する物体に対し、その内部層を精度よく計測することが可能な超音波測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述の課題を解決するために、本発明の超音波測定方法は、複数の界面を有する被測定物に超音波を照射し、前記被測定物の測定対象層の上側界面及び下側界面で反射した2つの反射波による波形を取得し、予め作成された複数種類の参照波形を有する参照波形テーブルと前記2つの反射波による波形とを比較して前記測定対象層の厚みを計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、複数の界面を有する物体において、内部層を高精度に超音波計測する事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明における実施の形態において、同一構成には同一符号を付して説明を省略している。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における超音波測定装置の概略図である。
【0022】
図1において、超音波測定装置19は、被測定物20に超音波を照射するための超音波探触子21、超音波探触子21を制御するための制御部22、制御部22に条件を入力するための入力部23、超音波測定結果を表示するための表示部24から構成されている。被測定物20は、容器25内の水26の中に載置される。
【0023】
超音波探触子21から水26を媒体として被測定物20に超音波を発信し、その反射波を超音波探触子21で受信する。そして、受信した信号を、制御部22にて波形処理,画像処理等を行うことで被測定物20の良否判断と画像化を行う。ここで、超音波探触子21は超音波の送受信のどちらにも用いられる。また、制御部22は、超音波探触子21で受信した超音波を電圧に変換・増幅するパルサレシーバー、および、電圧波形の強度値を画像化する画像処理部を含んでいる。
【0024】
図2は、実施の形態1における被測定物とその反射波の構成を示す図である。
【0025】
本実施の形態では、被測定物20の物質を、MOSFETなどに代表されるパワー素子としている。MOSFETは、FPDディスプレイを初めとしたあらゆる電気製品に入っている電子部品であり、表面実装デバイスとして一般的な物である。その製造方法としては被測定物20に対し、Siチップ27をリードフレーム28に実装し、それをモールド29で封止する。
【0026】
Siチップ27とリードフレーム28の実装には、半田や銀ペーストが用いられるが、本実施の形態では半田30としている。また、リードフレーム28の材質には銅が用いられる。これは熱伝導率が高い銅を用いることにより、放熱性を上げるためである。モールド29の材料としてはエポキシ樹脂が用いられ、フィラーの充填率はおよそ70〜90%である。
【0027】
また、各構造の断面方向のおおよその厚みは、樹脂厚み(リードフレーム側)D1で200〜300μm、リードフレーム厚みD2で1500〜2000μm、半田厚みD3で20〜50μm、Siチップ厚みD4で200〜400μm、樹脂厚み(チップ側)D5で2000〜3000μmである。
【0028】
この構造において、半田30の層の厚みを計測する。100μm以下の厚みを計測するには高周波(たとえば、110MHz以上の周波数)を使うのが望ましいが、半田30はモールド29、リードフレーム28などに挟まれ、また各々の厚みが数1000μmと厚い。そのため、低周波(50MHz以下の周波数)を用いて超音波の透過性をよくすることで半田30の層の界面の反射波を得る必要がある。
【0029】
また、超音波は特にエポキシ樹脂での減衰が非常に大きい。これは、エポキシ樹脂内のフィラー粒子が超音波の透過を阻止しているためと思われる。半田30からの反射波を得るためにはモールド29層の薄いリードフレーム28側から超音波を照射し、超音波探触子21で受信する。
【0030】
図3は、実施の形態1における超音波測定の測定結果を示す図である。
【0031】
図3に示す波形において、反射波成分としては、水―モールド界面の反射波、モールド―リードフレーム界面の反射波、リードフレーム―半田界面の反射波、半田―Siチップ界面の反射波、の4つの反射波が存在すると考えられる。
【0032】
ここで上記水―モールド界面の反射波と上記モールド―リードフレーム界面の反射波の反射波が波形31である。図2に示す層構造において、モールド29の層の厚みが薄いため、上記水―モールド界面の反射波と上記モールド―リードフレーム界面の反射波の反射波が重なり合っている。また上記リードフレーム―半田界面の反射波と上記半田―Siチップ界面の反射波の反射波が波形32である。この波形32の反射波の信号から半田30の層の厚みを計測していく。
【0033】
本実施の形態の超音波測定の手順を図4に示す。
【0034】
図4は、実施の形態1における超音波測定のフローチャートである。
【0035】
図4において、まず、ステップS1として、被測定物20に超音波探触子21から超音波を照射し、測定波形を取得する。ここで測定される波形は、前述の図3に示す波形である。
【0036】
次に、ステップS2として、後述する方法により作成された複数の参照用波形により構成された参照用波形テーブルの中から、最初に測定波形と比較するための参照用波形を取り出す。この時、測定対象の層の設計値に基づいて参照用波形を取り出すことが好ましい。なお、この参照用波形テーブルの作成方法については後述する。
【0037】
次に、ステップS3として、測定波形と参照用波形を比較する。ここでは、2つの波形を比較する方法として、相関係数を用いた比較を行う。相関係数は、2つのデータの形の類似度を数値化する手段であり、−1〜1の値をとる。1が完全一致、0が類似性無し、−1が負の相関がある(位相が逆)、といった関係があり、この関係を用いて比較を行う。ここでは、後述する時間補正を行いながら測定波形と参照用波形を比較し、横軸をシフト点,縦軸を相関値とした図5に示すような相関値波形を作成する。図5は、実施の形態1における相関値波形を示す図である。
【0038】
次に、ステップS4として、前述の図5の相関値波形から、相関値波形ピーク値を取得する。図5においては、領域33が相関値波形ピーク値である。
【0039】
次に、ステップS5として、ステップS4で取得した相関値波形ピーク値が、今までに取得した相関値波形の最大ピーク値より大きいか否かを判断する。そして、最大ピーク値よりも大きい場合(ステップS5のYES)は、ステップS6で最大相関値を更新する。逆に、最大ピーク値よりも小さい場合(ステップS5のNO)は、ステップS7で全てのテーブル選択が終了しているか否かを判断する。
【0040】
次に、全てのテーブル選択が終了している場合(ステップS7のYES)は、参照用波形テーブルの中の参照用波形との比較は充分になっているとして、ステップS8で測定対象である層の厚みを算出し、超音波測定を終了する。逆に、全てのテーブル選択が終了していない場合(ステップS7のNO)は、参照用波形テーブルの中の次の参照用波形を選択するために、ステップS2に戻ってフローを繰り返す。
【0041】
ここで、前述の図4のステップS2での参照用波形テーブルの作成方法について説明する。
【0042】
図6は、実施の形態1における参照用波形テーブル作成のフローチャートである。参照用波形は、測定対象の層の上面反射波と下面反射波を、超音波探触子から発生する基準波形や超音波パラメーターから作成し、それを、測定する層の厚み毎に合成する事で作成する。このようにして層の厚みの異なる参照用波形を複数作成して参照用波形テーブルとし、それと測定波形との一致度を見ることで、測定対象の層の厚みを決定する。
【0043】
図6において、まず、ステップS9として、使用する超音波探触子と基準波形を選定する。超音波探触子は使用する周波数帯域や焦点距離、開口角度などで決まり、それらの値が変わる毎にそれぞれ異なる超音波探触子を準備する必要がある。また、それぞれの超音波探触子により発生する超音波パルス波形は異なる。一例として、図7に周波数110MHz、焦点距離10.2mmの超音波探触子から発生する超音波パルス波形を示す。図7の超音波パルス波形の取得方法としては、測定対象の表面層に焦点を合わせた際の波形を用いる。超音波を照射し、超音波探触子を下げていくとモールド表面の反射波強度が大きくなり、焦点が最も合ったときに、モールド表面からの反射波強度も最大になる。よって超音波探触子を下げていったときの表面波を取得することで図7の基準波形とする。図7のように発生するパルスは正弦波ではなく、ある周波数帯域を持つ波形となり、また波形も1波長ではなく1.5波長存在する場合がある。参照用波形テーブルはこの波形を元に作成するため、使用する探触子毎に基準波形を取得し、参照用波形テーブルも探触子毎に作成していく必要がある。
【0044】
次に、ステップS10として、測定対象の層の超音波物理パラメーターを入力する。ここでいうパラメーターとは、被測定物の音速V(m/s),音響インピーダンスZ(10kg/ms),減衰率α(dB/m)などである。これらのパラメーターは、材料によっては既知の場合があるが、特に音速や減衰率に関しては実測を行う事でより精度を高めることができる。これらのパラメーターの入力に関しては、図1の入力部23から入力し、制御部22に備えている記憶装置に記憶させる。
【0045】
次に、ステップS11として、測定対象の層の上下の層の材質に関して、前述のステップS10と同様に超音波物理パラメーターを入力する。これらのパラメーターはデータベースとして記憶装置に持たせておき、次回に同じ材質を用いるときは、そのデータベースからパラメーターを引き出すことで、測定時間の短縮を図ることができる。
【0046】
次に、ステップS12として、作成する参照用波形テーブルの、層厚みの分解能を設定する。事前に準備する波形テーブルはいくつあってもよいため、ここでは装置のA/D変換の分解能と測定する材質の音速から、参照用波形テーブルの間隔Δaを決定する。今、A/D変換のサンプリング周波数を3GHzとしたとき、データ点の周期はその逆数の0.33nsecとなる。また音速を、測定対象層が半田層であるとして、3,200m/sとすると、1nsecで1.07μm超音波波形が進むことになる。これが装置による最大の分解能Δaである。より分解能を上げるには、A/D変換のサンプリング周波数を上げるとよい。このΔaを記憶させておく。
【0047】
次に、ステップS13として、前述のデータから参照用波形データを作成する。前述のように、まずは層の上面反射波と下面反射波を作成し、それらをΔaの時間差を設けた上で合成して、参照用波形テーブルとする。
【0048】
ここで、層の上面反射波と下面反射波の作成方法について、図8を用いて説明する。ここでは、測定対象の層の音響インピーダンスをZ0とし、その層の上部層の音響インピーダンスをZ1とし、その層の下部層の音響インピーダンスをZ2とし、測定対象の層の上面(上部層側の面)で反射する超音波を上面反射波とし、測定対象層の下面(下部層側の面)で反射する超音波を下面反射波とする。
【0049】
図8(a)は、実施の形態1における基準波形を示す図であり、図8(b)は、実施の形態1におけるZ0>Z1の上面反射波を示す図であり、図8(c)は、実施の形態1におけるZ0<Z1の上面反射波を示す図であり、図8(d)は、実施の形態1におけるZ2>Z0の下面反射波を示す図であり、図8(e)は、実施の形態1におけるZ2<Z0の下面反射波を示す図である。
【0050】
ここで、図8に示す波形の超音波が上面を透過する際はあるレベルの減衰を受ける。ただし、参照用波形は、強度の絶対値そのものは意味を成さないため、ここでは問題としない。次に上面で反射する際には、上部層と測定対象の層の音響インピーダンスの大小が関係してくる。今、超音波が、音響インピーダンスZ1の層からZ0の層へと反射する際の反射率Rは、下記(式1)となる。
【0051】
【数1】
【0052】
ここでZ0>Z1で波形は正転(標準波形と同じ)、Z0<Z1で反転(標準波形の位相が180度逆になる)となる。よって、上部層と測定対象の層の音響インピーダンスの大小関係により、上面反射波の位相が変わってくる。また、測定対象の層に透過される割合Tは T=1−R である。よって、透過率Tと計測する層の減衰率αにより、上面反射波とした面反射波の強度差が求まる。図8では仮に、上面反射波で50%の反射率とし、さらに測定対象の層で20%の減衰がされ、下面反射波で50%の反射が起きた波形としている。つまり、基準波形の大きさを2としたとき、下面反射波は 2×0.5×0.8×0.5=0.4 の大きさになる。また、下面反射波も計測する層と下部層との音響インピーダンスの大小で位相が変わる。ここでは、銅の音響インピーダンスが46.0、Pb−Sn半田の音響インピーダンスが23.6、Siの音響インピーダンスが19.8であるため、Z0<Z1、Z0>Z2となり、上面反射波,下面反射波が共に反転する事が分かる。以上の条件を用いて、上面反射波と下面反射波の作成を行う。
【0053】
次に作成された上面反射波と下面反射波の合成を、前述のΔaの間隔で行う。図9に説明図を示す。
【0054】
図9(a)は、実施の形態1における上面反射波と下面反射波の合成の概念図であり、図9(b)は、実施の形態1における厚みaの合成波形を示す図であり、図9(c)は、実施の形態1における厚みa+Δaの合成波形を示す図であり、図9(d)は、実施の形態1における厚みa+Δa×2の合成波形を示す図であり、図9(e)は、実施の形態1における厚みa+Δa×3の合成波形を示す図である。
【0055】
図9(a)に示すように、二つの波形を、Δaの間隔で合成し、それを記憶装置に保存させる。初期の厚みaと加算するΔaの数Xの範囲は、計測したい範囲で行っていく。例えば計測したい範囲が20〜50μmの場合、a=20μmとし、それをΔa=1.07μmの間隔で加算していき、50μmとなるX=28までデータを作成していく。それらを全て記憶装置に保存し、参照用波形テーブルとする。測定時にはこのテーブルのアドレスを呼び出し、演算・比較を行い、一致したテーブルでの厚み値 a+Δa×A を最終計測値として出力する。
【0056】
ここで、参照波形の選び方、つまりΔaの選び方は任意であり、例えば相関係数を計算したときの厚み値から、次は+Δaのときの相関係数を計算、その次は―ΔaのときのΔaを計算する、といったように基準から±Δaを計算しても良い。あるいは、+Δa×2のときの相関係数を計算、その次は+Δa×4の時の相関係数を計算、といったように、ひとつ飛ばしで計算を行っても良い。Δaの決め方としては、要求する計測分解能を元に選ぶと良い。以上より、最も評価値の高いときの層の厚み(a+Δa×A)を最終的な層の厚みとし、計測結果とする。
【0057】
ここで、実際には構造が同じでも内部でリードフレームやモールドの厚み公差が存在するため、参照用波形テーブルと測定波形との比較には時間補正計算が必要となる。その仕組みを図10に示す。
【0058】
図10は、実施の形態1における時間補正計算の概念を示す図である。
【0059】
図10において、まず、取得した測定波形のうち、おおよその測定波形34(上面反射波、下面反射波が存在する範囲の波形)を取り出す。続いて、参照波形データ35を時間軸方向(図10の矢印A方向)にシフトさせながら、測定波形34と参照波形データ35との相関係数データ列を作成する。測定波形34において、波形データ点数をN点、参照波形データ点数をn点とするとき、測定波形34と参照波形データ35の始点(T=1)を合わせ、相関係数値を取る。次にマスターデータの始点をT=2、つまり測定波形34の2点目に合わせ、相関係数値を取る。これをT=N―n+1まで続けて各Tで相関係数を算出し、図5に示す様な相関係数データ列を出す。
【0060】
以上の説明は超音波反射信号を解析することを特徴としているが、透過法といった他の手段系に関しても、基本的な手法,課題,解決案は同じものであると考えられる。また、本実施の形態における測定対象としては半導体パッケージ、測定部は半田基板接合部を想定しているが、同様の構造を持つ測定対象であれば、上記の測定対象,測定部に限定されるものではない。
【0061】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2について説明する。
【0062】
図11は、実施の形態2における超音波測定の測定結果を示す図である。
【0063】
図11において、領域36が測定対象の層からの反射波系である。領域36のように比較的に強度が大きく、波形発生位置が特定される場合は、トリガを波形に設定することで時間補正を行う事が出来る。まず参照データを作成するためのサンプルに対し超音波反射波形を取得し、トリガ37を、測定対象の層の合成反射波の領域36に設定する。このとき、領域36の発生時間とトリガ37がかかっている時間との時間差38が求まる。トリガ37がかかる時間tsを観測ごとに求め、そこから時間差38を差し引いた値からのデータを、参照波形と演算する開始点とする。これにより相関係数データ波形を作成する時間を省略でき、高速に測定が可能となる。
【0064】
なお、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の超音波測定は、複数の界面が内部に積層された半導体パッケージの非破壊検査等の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施の形態1における超音波測定装置の概略図
【図2】実施の形態1における被測定物とその反射波の構成を示す図
【図3】実施の形態1における超音波測定の測定結果を示す図
【図4】実施の形態1における超音波測定のフローチャート
【図5】実施の形態1における相関値波形を示す図
【図6】実施の形態1における参照用波形テーブル作成のフローチャート
【図7】周波数110MHz、焦点距離10.2mmの超音波探触子から発生する超音波パルス波形を示す図
【図8】(a)実施の形態1における基準波形を示す図、(b)実施の形態1におけるZ0>Z1の上面反射波を示す図、(c)実施の形態1におけるZ0<Z1の上面反射波を示す図、(d)実施の形態1におけるZ2>Z0の下面反射波を示す図、(e)実施の形態1におけるZ2<Z0の下面反射波を示す図
【図9】(a)実施の形態1における上面反射波と下面反射波の合成の概念図、(b)実施の形態1における厚みaの合成波形を示す図、(c)実施の形態1における厚みa+Δaの合成波形を示す図、(d)実施の形態1における厚みa+Δa×2の合成波形を示す図、(e)実施の形態1における厚みa+Δa×3の合成波形を示す図
【図10】実施の形態1における時間補正計算を示す図
【図11】実施の形態2における超音波測定の測定結果を示す図
【図12】従来の超音波測定装置の基本的構成図
【図13】単層物質における超音波の反射を示す概略図
【図14】多層物質における超音波の反射を示す概略図
【図15】従来の超音波測定による測定結果を示す図
【符号の説明】
【0067】
19 超音波測定装置
20 被測定物
21 超音波探触子
22 制御部
23 入力部
24 表示部
25 容器
26 水
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の界面を有する物体に超音波を照射して得た界面信号から物体の厚さを測る測定技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の界面を有する物体に超音波を照射して得た界面信号から物体の厚さを測る技術として、超音波測定技術がある。
【0003】
図12は、従来の超音波測定装置の基本的構成図である。
【0004】
図12において、超音波測定装置1は、被測定物2に超音波を照射するための超音波探触子3、超音波探触子3を制御するための制御部4、制御部4に条件を入力するための入力部5、超音波測定結果を表示するための表示部6から構成されている。被測定物2は、容器7内の水8の中に載置される。
【0005】
超音波探触子3から水8を媒体として被測定物2に超音波を発信し、その反射波を超音波探触子3で受信する。そして、受信した信号を、制御部4にて波形処理,画像処理等を行うことで被測定物2の良否判断と画像化を行う。ここで、超音波探触子3は超音波の送受信のどちらにも用いられる。また、制御部4は、超音波探触子3で受信した超音波を電圧に変換・増幅するパルサレシーバー、および、電圧波形の強度値を画像化する画像処理部を含んでいる。被測定物2としては、単層の物質、あるいは多層の物質である。
【0006】
ここで、被測定物2が単層物質である場合について考える。
【0007】
図13は、単層物質における超音波の反射を示す概略図である。
【0008】
図13において、超音波探触子3から発信された超音波9は、単層物質10の内部に透過し、単層物質10の上面10aと下面10bとでそれぞれ上面反射波11aおよび下面反射波11bを発生させる。そして、それぞれの反射波の信号を得ることで単層物質10の層の厚みを計測する。ここで上面10aとは、単層物質10の層において超音波探触子3に近い面であり、下面10bとは超音波探触子3に遠い面である。
【0009】
また、測定対象物としては単層物質には限らず、多層物質に対しても層の厚みを観測できる。
【0010】
図14は、多層物質における超音波の反射を示す概略図である。
【0011】
図14において、超音波探触子3から発信された超音波12は、多層物質13の内部に透過し、多層物質13の表面層14の上面14aと下面14bとでそれぞれ上面反射波15aおよび下面反射波15bを発生させる。そして、それぞれの反射波の信号を計測し、多層物質13の表面層14の厚みを計測する。なお、超音波が内部に届く範囲では、内部層の厚みを計測することも可能であり、例えば内部層16の厚みは、上面16aと下面16bからの反射波を得ることで計測する事が可能である。
【0012】
従来の超音波測定方法について説明する。図13の単層物質10が金属板であるとする。金属板は光を透過しないため、物体内部を透過し、反射波の取得により界面の情報を得る事が出来る超音波は特に有効である。図13において、超音波探触子3から超音波パルスを単層物質10に照射すると、上面10aから反射波が発生し、それを超音波探触子3で受信する。一方、超音波の一部は上面10aを透過し、下面10bで反射する。このときの透過率は、カプラーとなる水の音響インピーダンスおよび単層物質10(金属板)の音響インピーダンスで決まる。この反射波を超音波探触子3で受信する。上面10aと下面10bの反射波が合成された波形が最終的に出力されるため、結果は図15のようになる。
【0013】
図15は、従来の超音波測定による測定結果を示す図である。
【0014】
図15において、波形17は上面10aからの反射波の測定結果、波形18は下面10bからの反射波の測定結果である。図15のグラフの横軸は時間(ns)、縦軸は任意の強度値であり、今回は超音波探触子3で受信した電圧信号の8ビット表示としている。また、波形17と波形18は界面の音響インピーダンス差から位相が反転している。このグラフより波形時間差ΔTを読み取る。次に、単層物質10(金属板)の音速V(m/s)を用いて、 V×ΔT/2 より、単層物質10(金属板)の厚みを求める。ここで超音波は往復分として2つ存在するため、2で割っている。以上により、単層物質10(金属板)の内部を透過する超音波の反射波を取得することで、層の厚み計測を行う事が出来る。
【特許文献1】特開2001−124746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、前述の従来の技術では、被測定物の層の厚みが薄い場合は計測が困難になる。例えば、被測定物の層が金属板の場合、超音波反射波の一つの波が発生している時間はおよそ40nsであり、厚みに換算すると112μmである。これ以下の厚みを計測しようとした場合、その層の上面と下面の反射波が重なり合ってしまうため、波形時間差を求める事が出来ない。この場合、超音波探触子の周波数を上げ、波が発生する時間を短くする必要がある。
【0016】
例えば、110MHzの探触子を用いて単層物質の超音波測定を行なっていた場合、この周波数を例えば3倍に変更(300MHzの探触子)して計測すると、さらに1/3薄い厚みの計測が可能になる。ところが、計測する層が多層構造の内部にある場合、高い周波数(110MHz以上)の超音波はその層まで到達しない。これを回避する(その層まで超音波を到達させる)ためには周波数を下げるとよいが、測定対象の層が薄いと、低い周波数で波形時間差を求める事が出来ず、層を測定できないという課題がある。
【0017】
本発明は、前記従来技術の課題を解決するためのものであり、複数の界面を有する物体に対し、その内部層を精度よく計測することが可能な超音波測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述の課題を解決するために、本発明の超音波測定方法は、複数の界面を有する被測定物に超音波を照射し、前記被測定物の測定対象層の上側界面及び下側界面で反射した2つの反射波による波形を取得し、予め作成された複数種類の参照波形を有する参照波形テーブルと前記2つの反射波による波形とを比較して前記測定対象層の厚みを計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、複数の界面を有する物体において、内部層を高精度に超音波計測する事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明における実施の形態において、同一構成には同一符号を付して説明を省略している。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における超音波測定装置の概略図である。
【0022】
図1において、超音波測定装置19は、被測定物20に超音波を照射するための超音波探触子21、超音波探触子21を制御するための制御部22、制御部22に条件を入力するための入力部23、超音波測定結果を表示するための表示部24から構成されている。被測定物20は、容器25内の水26の中に載置される。
【0023】
超音波探触子21から水26を媒体として被測定物20に超音波を発信し、その反射波を超音波探触子21で受信する。そして、受信した信号を、制御部22にて波形処理,画像処理等を行うことで被測定物20の良否判断と画像化を行う。ここで、超音波探触子21は超音波の送受信のどちらにも用いられる。また、制御部22は、超音波探触子21で受信した超音波を電圧に変換・増幅するパルサレシーバー、および、電圧波形の強度値を画像化する画像処理部を含んでいる。
【0024】
図2は、実施の形態1における被測定物とその反射波の構成を示す図である。
【0025】
本実施の形態では、被測定物20の物質を、MOSFETなどに代表されるパワー素子としている。MOSFETは、FPDディスプレイを初めとしたあらゆる電気製品に入っている電子部品であり、表面実装デバイスとして一般的な物である。その製造方法としては被測定物20に対し、Siチップ27をリードフレーム28に実装し、それをモールド29で封止する。
【0026】
Siチップ27とリードフレーム28の実装には、半田や銀ペーストが用いられるが、本実施の形態では半田30としている。また、リードフレーム28の材質には銅が用いられる。これは熱伝導率が高い銅を用いることにより、放熱性を上げるためである。モールド29の材料としてはエポキシ樹脂が用いられ、フィラーの充填率はおよそ70〜90%である。
【0027】
また、各構造の断面方向のおおよその厚みは、樹脂厚み(リードフレーム側)D1で200〜300μm、リードフレーム厚みD2で1500〜2000μm、半田厚みD3で20〜50μm、Siチップ厚みD4で200〜400μm、樹脂厚み(チップ側)D5で2000〜3000μmである。
【0028】
この構造において、半田30の層の厚みを計測する。100μm以下の厚みを計測するには高周波(たとえば、110MHz以上の周波数)を使うのが望ましいが、半田30はモールド29、リードフレーム28などに挟まれ、また各々の厚みが数1000μmと厚い。そのため、低周波(50MHz以下の周波数)を用いて超音波の透過性をよくすることで半田30の層の界面の反射波を得る必要がある。
【0029】
また、超音波は特にエポキシ樹脂での減衰が非常に大きい。これは、エポキシ樹脂内のフィラー粒子が超音波の透過を阻止しているためと思われる。半田30からの反射波を得るためにはモールド29層の薄いリードフレーム28側から超音波を照射し、超音波探触子21で受信する。
【0030】
図3は、実施の形態1における超音波測定の測定結果を示す図である。
【0031】
図3に示す波形において、反射波成分としては、水―モールド界面の反射波、モールド―リードフレーム界面の反射波、リードフレーム―半田界面の反射波、半田―Siチップ界面の反射波、の4つの反射波が存在すると考えられる。
【0032】
ここで上記水―モールド界面の反射波と上記モールド―リードフレーム界面の反射波の反射波が波形31である。図2に示す層構造において、モールド29の層の厚みが薄いため、上記水―モールド界面の反射波と上記モールド―リードフレーム界面の反射波の反射波が重なり合っている。また上記リードフレーム―半田界面の反射波と上記半田―Siチップ界面の反射波の反射波が波形32である。この波形32の反射波の信号から半田30の層の厚みを計測していく。
【0033】
本実施の形態の超音波測定の手順を図4に示す。
【0034】
図4は、実施の形態1における超音波測定のフローチャートである。
【0035】
図4において、まず、ステップS1として、被測定物20に超音波探触子21から超音波を照射し、測定波形を取得する。ここで測定される波形は、前述の図3に示す波形である。
【0036】
次に、ステップS2として、後述する方法により作成された複数の参照用波形により構成された参照用波形テーブルの中から、最初に測定波形と比較するための参照用波形を取り出す。この時、測定対象の層の設計値に基づいて参照用波形を取り出すことが好ましい。なお、この参照用波形テーブルの作成方法については後述する。
【0037】
次に、ステップS3として、測定波形と参照用波形を比較する。ここでは、2つの波形を比較する方法として、相関係数を用いた比較を行う。相関係数は、2つのデータの形の類似度を数値化する手段であり、−1〜1の値をとる。1が完全一致、0が類似性無し、−1が負の相関がある(位相が逆)、といった関係があり、この関係を用いて比較を行う。ここでは、後述する時間補正を行いながら測定波形と参照用波形を比較し、横軸をシフト点,縦軸を相関値とした図5に示すような相関値波形を作成する。図5は、実施の形態1における相関値波形を示す図である。
【0038】
次に、ステップS4として、前述の図5の相関値波形から、相関値波形ピーク値を取得する。図5においては、領域33が相関値波形ピーク値である。
【0039】
次に、ステップS5として、ステップS4で取得した相関値波形ピーク値が、今までに取得した相関値波形の最大ピーク値より大きいか否かを判断する。そして、最大ピーク値よりも大きい場合(ステップS5のYES)は、ステップS6で最大相関値を更新する。逆に、最大ピーク値よりも小さい場合(ステップS5のNO)は、ステップS7で全てのテーブル選択が終了しているか否かを判断する。
【0040】
次に、全てのテーブル選択が終了している場合(ステップS7のYES)は、参照用波形テーブルの中の参照用波形との比較は充分になっているとして、ステップS8で測定対象である層の厚みを算出し、超音波測定を終了する。逆に、全てのテーブル選択が終了していない場合(ステップS7のNO)は、参照用波形テーブルの中の次の参照用波形を選択するために、ステップS2に戻ってフローを繰り返す。
【0041】
ここで、前述の図4のステップS2での参照用波形テーブルの作成方法について説明する。
【0042】
図6は、実施の形態1における参照用波形テーブル作成のフローチャートである。参照用波形は、測定対象の層の上面反射波と下面反射波を、超音波探触子から発生する基準波形や超音波パラメーターから作成し、それを、測定する層の厚み毎に合成する事で作成する。このようにして層の厚みの異なる参照用波形を複数作成して参照用波形テーブルとし、それと測定波形との一致度を見ることで、測定対象の層の厚みを決定する。
【0043】
図6において、まず、ステップS9として、使用する超音波探触子と基準波形を選定する。超音波探触子は使用する周波数帯域や焦点距離、開口角度などで決まり、それらの値が変わる毎にそれぞれ異なる超音波探触子を準備する必要がある。また、それぞれの超音波探触子により発生する超音波パルス波形は異なる。一例として、図7に周波数110MHz、焦点距離10.2mmの超音波探触子から発生する超音波パルス波形を示す。図7の超音波パルス波形の取得方法としては、測定対象の表面層に焦点を合わせた際の波形を用いる。超音波を照射し、超音波探触子を下げていくとモールド表面の反射波強度が大きくなり、焦点が最も合ったときに、モールド表面からの反射波強度も最大になる。よって超音波探触子を下げていったときの表面波を取得することで図7の基準波形とする。図7のように発生するパルスは正弦波ではなく、ある周波数帯域を持つ波形となり、また波形も1波長ではなく1.5波長存在する場合がある。参照用波形テーブルはこの波形を元に作成するため、使用する探触子毎に基準波形を取得し、参照用波形テーブルも探触子毎に作成していく必要がある。
【0044】
次に、ステップS10として、測定対象の層の超音波物理パラメーターを入力する。ここでいうパラメーターとは、被測定物の音速V(m/s),音響インピーダンスZ(10kg/ms),減衰率α(dB/m)などである。これらのパラメーターは、材料によっては既知の場合があるが、特に音速や減衰率に関しては実測を行う事でより精度を高めることができる。これらのパラメーターの入力に関しては、図1の入力部23から入力し、制御部22に備えている記憶装置に記憶させる。
【0045】
次に、ステップS11として、測定対象の層の上下の層の材質に関して、前述のステップS10と同様に超音波物理パラメーターを入力する。これらのパラメーターはデータベースとして記憶装置に持たせておき、次回に同じ材質を用いるときは、そのデータベースからパラメーターを引き出すことで、測定時間の短縮を図ることができる。
【0046】
次に、ステップS12として、作成する参照用波形テーブルの、層厚みの分解能を設定する。事前に準備する波形テーブルはいくつあってもよいため、ここでは装置のA/D変換の分解能と測定する材質の音速から、参照用波形テーブルの間隔Δaを決定する。今、A/D変換のサンプリング周波数を3GHzとしたとき、データ点の周期はその逆数の0.33nsecとなる。また音速を、測定対象層が半田層であるとして、3,200m/sとすると、1nsecで1.07μm超音波波形が進むことになる。これが装置による最大の分解能Δaである。より分解能を上げるには、A/D変換のサンプリング周波数を上げるとよい。このΔaを記憶させておく。
【0047】
次に、ステップS13として、前述のデータから参照用波形データを作成する。前述のように、まずは層の上面反射波と下面反射波を作成し、それらをΔaの時間差を設けた上で合成して、参照用波形テーブルとする。
【0048】
ここで、層の上面反射波と下面反射波の作成方法について、図8を用いて説明する。ここでは、測定対象の層の音響インピーダンスをZ0とし、その層の上部層の音響インピーダンスをZ1とし、その層の下部層の音響インピーダンスをZ2とし、測定対象の層の上面(上部層側の面)で反射する超音波を上面反射波とし、測定対象層の下面(下部層側の面)で反射する超音波を下面反射波とする。
【0049】
図8(a)は、実施の形態1における基準波形を示す図であり、図8(b)は、実施の形態1におけるZ0>Z1の上面反射波を示す図であり、図8(c)は、実施の形態1におけるZ0<Z1の上面反射波を示す図であり、図8(d)は、実施の形態1におけるZ2>Z0の下面反射波を示す図であり、図8(e)は、実施の形態1におけるZ2<Z0の下面反射波を示す図である。
【0050】
ここで、図8に示す波形の超音波が上面を透過する際はあるレベルの減衰を受ける。ただし、参照用波形は、強度の絶対値そのものは意味を成さないため、ここでは問題としない。次に上面で反射する際には、上部層と測定対象の層の音響インピーダンスの大小が関係してくる。今、超音波が、音響インピーダンスZ1の層からZ0の層へと反射する際の反射率Rは、下記(式1)となる。
【0051】
【数1】
【0052】
ここでZ0>Z1で波形は正転(標準波形と同じ)、Z0<Z1で反転(標準波形の位相が180度逆になる)となる。よって、上部層と測定対象の層の音響インピーダンスの大小関係により、上面反射波の位相が変わってくる。また、測定対象の層に透過される割合Tは T=1−R である。よって、透過率Tと計測する層の減衰率αにより、上面反射波とした面反射波の強度差が求まる。図8では仮に、上面反射波で50%の反射率とし、さらに測定対象の層で20%の減衰がされ、下面反射波で50%の反射が起きた波形としている。つまり、基準波形の大きさを2としたとき、下面反射波は 2×0.5×0.8×0.5=0.4 の大きさになる。また、下面反射波も計測する層と下部層との音響インピーダンスの大小で位相が変わる。ここでは、銅の音響インピーダンスが46.0、Pb−Sn半田の音響インピーダンスが23.6、Siの音響インピーダンスが19.8であるため、Z0<Z1、Z0>Z2となり、上面反射波,下面反射波が共に反転する事が分かる。以上の条件を用いて、上面反射波と下面反射波の作成を行う。
【0053】
次に作成された上面反射波と下面反射波の合成を、前述のΔaの間隔で行う。図9に説明図を示す。
【0054】
図9(a)は、実施の形態1における上面反射波と下面反射波の合成の概念図であり、図9(b)は、実施の形態1における厚みaの合成波形を示す図であり、図9(c)は、実施の形態1における厚みa+Δaの合成波形を示す図であり、図9(d)は、実施の形態1における厚みa+Δa×2の合成波形を示す図であり、図9(e)は、実施の形態1における厚みa+Δa×3の合成波形を示す図である。
【0055】
図9(a)に示すように、二つの波形を、Δaの間隔で合成し、それを記憶装置に保存させる。初期の厚みaと加算するΔaの数Xの範囲は、計測したい範囲で行っていく。例えば計測したい範囲が20〜50μmの場合、a=20μmとし、それをΔa=1.07μmの間隔で加算していき、50μmとなるX=28までデータを作成していく。それらを全て記憶装置に保存し、参照用波形テーブルとする。測定時にはこのテーブルのアドレスを呼び出し、演算・比較を行い、一致したテーブルでの厚み値 a+Δa×A を最終計測値として出力する。
【0056】
ここで、参照波形の選び方、つまりΔaの選び方は任意であり、例えば相関係数を計算したときの厚み値から、次は+Δaのときの相関係数を計算、その次は―ΔaのときのΔaを計算する、といったように基準から±Δaを計算しても良い。あるいは、+Δa×2のときの相関係数を計算、その次は+Δa×4の時の相関係数を計算、といったように、ひとつ飛ばしで計算を行っても良い。Δaの決め方としては、要求する計測分解能を元に選ぶと良い。以上より、最も評価値の高いときの層の厚み(a+Δa×A)を最終的な層の厚みとし、計測結果とする。
【0057】
ここで、実際には構造が同じでも内部でリードフレームやモールドの厚み公差が存在するため、参照用波形テーブルと測定波形との比較には時間補正計算が必要となる。その仕組みを図10に示す。
【0058】
図10は、実施の形態1における時間補正計算の概念を示す図である。
【0059】
図10において、まず、取得した測定波形のうち、おおよその測定波形34(上面反射波、下面反射波が存在する範囲の波形)を取り出す。続いて、参照波形データ35を時間軸方向(図10の矢印A方向)にシフトさせながら、測定波形34と参照波形データ35との相関係数データ列を作成する。測定波形34において、波形データ点数をN点、参照波形データ点数をn点とするとき、測定波形34と参照波形データ35の始点(T=1)を合わせ、相関係数値を取る。次にマスターデータの始点をT=2、つまり測定波形34の2点目に合わせ、相関係数値を取る。これをT=N―n+1まで続けて各Tで相関係数を算出し、図5に示す様な相関係数データ列を出す。
【0060】
以上の説明は超音波反射信号を解析することを特徴としているが、透過法といった他の手段系に関しても、基本的な手法,課題,解決案は同じものであると考えられる。また、本実施の形態における測定対象としては半導体パッケージ、測定部は半田基板接合部を想定しているが、同様の構造を持つ測定対象であれば、上記の測定対象,測定部に限定されるものではない。
【0061】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2について説明する。
【0062】
図11は、実施の形態2における超音波測定の測定結果を示す図である。
【0063】
図11において、領域36が測定対象の層からの反射波系である。領域36のように比較的に強度が大きく、波形発生位置が特定される場合は、トリガを波形に設定することで時間補正を行う事が出来る。まず参照データを作成するためのサンプルに対し超音波反射波形を取得し、トリガ37を、測定対象の層の合成反射波の領域36に設定する。このとき、領域36の発生時間とトリガ37がかかっている時間との時間差38が求まる。トリガ37がかかる時間tsを観測ごとに求め、そこから時間差38を差し引いた値からのデータを、参照波形と演算する開始点とする。これにより相関係数データ波形を作成する時間を省略でき、高速に測定が可能となる。
【0064】
なお、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の超音波測定は、複数の界面が内部に積層された半導体パッケージの非破壊検査等の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施の形態1における超音波測定装置の概略図
【図2】実施の形態1における被測定物とその反射波の構成を示す図
【図3】実施の形態1における超音波測定の測定結果を示す図
【図4】実施の形態1における超音波測定のフローチャート
【図5】実施の形態1における相関値波形を示す図
【図6】実施の形態1における参照用波形テーブル作成のフローチャート
【図7】周波数110MHz、焦点距離10.2mmの超音波探触子から発生する超音波パルス波形を示す図
【図8】(a)実施の形態1における基準波形を示す図、(b)実施の形態1におけるZ0>Z1の上面反射波を示す図、(c)実施の形態1におけるZ0<Z1の上面反射波を示す図、(d)実施の形態1におけるZ2>Z0の下面反射波を示す図、(e)実施の形態1におけるZ2<Z0の下面反射波を示す図
【図9】(a)実施の形態1における上面反射波と下面反射波の合成の概念図、(b)実施の形態1における厚みaの合成波形を示す図、(c)実施の形態1における厚みa+Δaの合成波形を示す図、(d)実施の形態1における厚みa+Δa×2の合成波形を示す図、(e)実施の形態1における厚みa+Δa×3の合成波形を示す図
【図10】実施の形態1における時間補正計算を示す図
【図11】実施の形態2における超音波測定の測定結果を示す図
【図12】従来の超音波測定装置の基本的構成図
【図13】単層物質における超音波の反射を示す概略図
【図14】多層物質における超音波の反射を示す概略図
【図15】従来の超音波測定による測定結果を示す図
【符号の説明】
【0067】
19 超音波測定装置
20 被測定物
21 超音波探触子
22 制御部
23 入力部
24 表示部
25 容器
26 水
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の界面を有する被測定物に超音波を照射し、前記被測定物の測定対象層の上側界面及び下側界面で反射した2つの反射波による波形を取得し、前記2つの反射波による波形が重なっている場合に、予め作成された複数種類の参照波形を有する参照波形テーブルと前記2つの反射波による波形とを比較して前記測定対象層の厚みを計測することを特徴とする超音波測定方法。
【請求項2】
前記参照波形テーブルが、前記被測定物に照射する超音波の音速または減衰率による超音波パラメーターを元に作成されたことを特徴とする請求項1に記載の超音波測定方法。
【請求項3】
前記参照波形テーブルが、前記測定対象層の上部及び下部の音響インピーダンスから算出した位相差情報を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波測定方法。
【請求項4】
前記参照波形が時間差を設けた2つの反射波を合成して作成されたものであり、複数の前記参照波形が前記時間差を所定間隔でそれぞれ設けたものであることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の超音波測定方法。
【請求項5】
前記参照波形テーブルと前記2つの反射波による波形とを比較する際に、前記測定対象層の上部にある物質の厚みばらつきを補正するために時間補正計算を行なうことを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の超音波測定方法。
【請求項1】
複数の界面を有する被測定物に超音波を照射し、前記被測定物の測定対象層の上側界面及び下側界面で反射した2つの反射波による波形を取得し、前記2つの反射波による波形が重なっている場合に、予め作成された複数種類の参照波形を有する参照波形テーブルと前記2つの反射波による波形とを比較して前記測定対象層の厚みを計測することを特徴とする超音波測定方法。
【請求項2】
前記参照波形テーブルが、前記被測定物に照射する超音波の音速または減衰率による超音波パラメーターを元に作成されたことを特徴とする請求項1に記載の超音波測定方法。
【請求項3】
前記参照波形テーブルが、前記測定対象層の上部及び下部の音響インピーダンスから算出した位相差情報を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波測定方法。
【請求項4】
前記参照波形が時間差を設けた2つの反射波を合成して作成されたものであり、複数の前記参照波形が前記時間差を所定間隔でそれぞれ設けたものであることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の超音波測定方法。
【請求項5】
前記参照波形テーブルと前記2つの反射波による波形とを比較する際に、前記測定対象層の上部にある物質の厚みばらつきを補正するために時間補正計算を行なうことを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の超音波測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−164403(P2010−164403A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6492(P2009−6492)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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