超音波画像処理装置及び方法並びにプログラム
【課題】振幅におけるばらつきの影響を受けず、正確な組織性状の解析を可能とする。
【解決手段】被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段が受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出するスペックル成分抽出手段と、前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する解析手段と、を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置を提供することにより前記課題を解決する。
【解決手段】被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段が受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出するスペックル成分抽出手段と、前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する解析手段と、を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置を提供することにより前記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波画像処理装置及び方法並びにプログラムに係り、特に、超音波画像データに含まれる位相情報を利用してスペックルノイズを抽出し、抽出したスペックルノイズの密度から組織性状を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、超音波を用いて被検者の断層画像を取得して医療診断に供する超音波画像診断装置が広く知られている。超音波画像診断装置は、超音波を被検者に送信し、被検者から反射されて受信される超音波により得られるエコー信号(輝度情報)に基づいて、被検者の断層についての画像(Bモード画像)を生成し、その断層の画像を表示手段に表示する。
【0003】
このとき、一般的な超音波診断において、Bモード画像すなわち輝度情報によって組織性状が判断されている。しかし、輝度情報から得られる画像(白黒画像)は装置の画像処理やパラメータによってコントラストなどの画質の印象が大きく変化するため、客観的な組織性状を診断するには最適な画像調整が必要となり、装置に関する知識が必要であるうえ、患者毎に適宜調整することは非常に困難であった。
【0004】
これに対して、例えば特許文献1においては、超音波画像に対して閾値処理などによってスペックル成分を抽出し、スペックルの密度から組織性状を解析する手法が提案されている。ここで、超音波画像においてスペックルノイズとは、被検者内の複数の反射体からの反射超音波のランダムな干渉によって生ずる黒すじ状のノイズを言う。なお、上記特許文献1においては、Bモード画像上において、ぼやけてやや明るい部分(粒子あるいは島状領域)がスペックルに相当するとして、黒すじ以外の部分をスペックルノイズと定義しているが、このようにスペックルノイズを定義しても、解析手法及び問題は同じである。
【0005】
上記特許文献1に記載の発明によれば、スペックルパターンと組織性状の間には相関関係があり、組織の性状に依存するため、スペックルの密度を評価することによって客観的な診断情報が得られることが期待できる。
【特許文献1】特開2006−212445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものでは、スペックルノイズの形状、エコーレベルはばらつきがあり、非常に複雑であるため、振幅情報からスペックルノイズ部を正確に抽出することは非常に困難であり、組織性状の解析も難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、振幅におけるばらつきの影響を受けず、正確な組織性状の解析を可能とする超音波画像処理装置及び方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段が受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出するスペックル成分抽出手段と、前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する解析手段と、を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置を提供する。
【0009】
これにより、振幅におけるばらつきの影響を受けることなく正確に組織性状を解析することが可能となる。
【0010】
また、請求項2に示すように、請求項1に記載の超音波画像処理装置であって、さらに、前記組織性状を解析した結果を表示する表示手段を有することを特徴とする。
【0011】
これにより、超音波画像診断の精度が向上する。
【0012】
また、請求項3に示すように、請求項1または2に記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、位相成分の変化量を用いて前記超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出することを特徴とする。
【0013】
これにより、スペックル抽出精度を向上させることができる。
【0014】
また、請求項4に示すように、請求項1〜3のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、位相成分の少なくとも2つ以上の方向の変化量を用いることを特徴とする。
【0015】
このように、複数方向の変化量を用いることでスペックル抽出の精度を向上させることができる。
【0016】
また、請求項5に示すように、請求項1〜4のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、スペックルを判別する判別関数を使用することを特徴とする。
【0017】
これにより、スペックル抽出の目的に応じた判別関数を使用することができる。
【0018】
また、請求項6に示すように、請求項1〜5のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、前記位相成分の変化量と比較してスペックルを判別する閾値を使用することを特徴とする。
【0019】
これにより、閾値と比較してスペックルの判別ができる場合には、スペックル抽出が容易となる。
【0020】
また、請求項7に示すように、請求項5に記載の超音波画像処理装置であって、前記判別関数は、スペックル及び非スペックルの位置が分かっている位相データから生成された特徴量によって設定されることを特徴とする。
【0021】
これにより、スペックル抽出処理に応じた特徴量を用いて判別関数を作成することができる。
【0022】
また、請求項8に示すように、請求項1〜7のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記抽出されたスペックル成分の密度は、局所領域内のスペックル領域の割合に変換したものであることを特徴とする。
【0023】
また、請求項9に示すように、請求項1〜8のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記解析手段はスペックル成分の密度と組織性状を対応付けた参照情報を用いることを特徴とする。
【0024】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項10に記載の発明は、被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段が受信した超音波信号の振幅成分または包絡線成分と位相成分の組み合わせからスペックル成分を抽出するスペックル成分抽出手段と、前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する解析手段と、を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置を提供する。
【0025】
これにより、位相情報に振幅情報を組み合わせることで、より正確に組織性状の解析を行うことができる。
【0026】
また、請求項11に示すように、請求項1〜10のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、さらに、解析した組織性状データを用いて出力画像の画質調整を行う画像処理手段を備えたことを特徴とする。
【0027】
これにより、画像診断の精度を向上させることが可能となる。
【0028】
また、請求項12に示すように、請求項1〜11のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記解析手段が出力する組織性状は、組織の音速であることを特徴とする。
【0029】
これにより、より細かい領域の音速がわかり、これを用いてより高精度の画像を生成することができる。
【0030】
また、請求項13に示すように、請求項1〜12のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記位相成分は、前記超音波信号の進行方向に垂直な方向のデータの分解能が、前記超音波受信手段の前記超音波信号の送受信を行う素子の配列間隔以上であることを特徴とする。
【0031】
これにより、分解能が良くなり、組織性状解析をより正確に行うことができる。
【0032】
また、請求項14に示すように、請求項1〜13のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、さらに、単一の受信データから異なる音速による画像を生成することを特徴とする。
【0033】
これにより、音速の取り方をいろいろに変えて画像を生成することができ、分解能を向上させることができる。
【0034】
また、請求項15に示すように、請求項14に記載の超音波画像処理装置であって、さらに、解析した組織性状データを用いて局所的に音速を変更した画像を生成することを特徴とする。
【0035】
これにより、より高精度の解析が可能となる。
【0036】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項16に記載の発明は、被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信し、受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出し、前記抽出されたスペックル成分を除いた位相成分の情報を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析することを特徴とする超音波画像処理方法を提供する。
【0037】
これにより、スペックルノイズの影響を受けることなく正確に組織性状を解析することが可能となる。
【0038】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項17に記載の発明は、被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する機能と、受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出する機能と、前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する機能と、をコンピュータに実現させることを特徴とする超音波画像処理プログラムを提供する。
【0039】
これにより、スペックルノイズの影響を受けることなく正確に組織性状を解析することが可能となる。
【発明の効果】
【0040】
以上説明したように、本発明によれば、振幅におけるばらつきの影響を受けることなく正確に組織性状を解析することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る超音波画像処理装置及び方法並びにプログラムについて詳細に説明する。
【0042】
図1は、本発明に係る超音波画像処理装置を含む超音波診断装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は、超音波を用いて被検者の診断部位について超音波画像を撮影して表示するものであり、主に、超音波用探触子10、信号処理部20、画像処理部30及び表示部40を含んで構成されている。
【0043】
超音波用探触子10は、被検者の体内の診断部位に向けて超音波を送信するとともに、被検者の体内で反射してきた超音波を受信するものである。すなわち、超音波は構造物の境界のように音響インピーダンスが異なる領域の境界において反射されるため、超音波ビームを人体等の被検者内に送信して被検者内において生じた超音波エコーを受信し、超音波エコーが生じた反射点や反射強度を求めることにより、被検者内に存在する構造物の輪郭を検出することができる。
【0044】
超音波用探触子10は、例えば1次元の超音波トランスデューサアレイを構成する複数の超音波トランスデューサを備え、各超音波トランスデューサは、例えばPZT等の圧電素子の両端に電極を形成した振動子によって構成されるが、特に限定されるものではない。例えば、このように複数の超音波トランスデューサが1次元に配列されたリニアアレイプローブの他、被検者内を扇状に走査するセクタプローブ、複数の超音波トランスデューサが凸面上に配列されたコンベックスアレイプローブや、あるいは複数の超音波トランスデューサが2次元に配列された2次元アレイプローブを用いてもよい。またあるいは超音波内視鏡においてラジアル走査を行うメカニカルラジアルプローブでもよい。
【0045】
超音波用探触子10は、図示を省略した制御部の制御により超音波ビームを被検者内に送信し、リニア走査や、セクタ走査や、コンベックス走査や、ラジアル走査等の走査方式で被検者を走査する。超音波用探触子10が発生した超音波は被検者体内に存在する反射体によって反射され、反射した超音波は超音波用探触子10で受信される。超音波用探触子10で受信された超音波受信信号は、電気信号に変換された後、図示を省略した送受信部を介して信号処理部20に引き渡される。
【0046】
信号処理部20は、入力された受信信号に対し所定の信号処理を施すとともに、受け取った超音波受信信号から複数の受信データに遅延をかけて加算する位相整合加算、受信データをIQデータ(複素信号)に分離するIQ検波などの処理を行いIQデータを作成して画像処理部30に出力する。
【0047】
なお、IQデータから次の式によって受信データの振幅A及び位相θが算出される。
【0048】
A=√(I2+Q2)、θ=arctan(Q/I)
ここで、記号√(X)は、Xの平方根を表す。また、受信データの波形の包絡線をとる場合には、その振幅は上記値を2倍して2Aとしなければならない。
【0049】
なお、信号処理部20は、1ライン毎にデータを生成する手法でもよいが、例えば特開2003−180688号公報に記載されたような、全素子の受信データをメモリに保存しておき、後処理でデータを生成する手法でもよい。この手法であれば、さらに方位分解能(素子方向の分解能)を向上させることができる。例えば、超音波信号の進行方向に垂直な方向に位相情報の分解能が素子の配列間隔以上のデータを利用するように、超音波信号の進行方向に垂直な方向に高分解能な位相情報を利用することで、スペックルのランダムな位相変化をより正確に区別することができる。
【0050】
また、一般的な超音波Bモード画像では、振幅から画像を生成し、位相情報は利用しないため、既存の超音波画像処理技術(Bモード)における超音波画像データは振幅データを指している。
【0051】
次に信号の干渉と位相の関係について図を用いて説明する。干渉には、強め合う干渉と打ち消し合う干渉がある。強め合う干渉は波と波の位相差が小さい場合に生じ、弱め合う干渉は位相差がπに近い場合に生じる。
【0052】
図2に、強め合う干渉の例を示す。図2(a)は干渉前を表し、基準波に対して位相差0.2(rad)、位相差0.4(rad)及び位相差0.6(rad)という位相差の小さな3つの波を干渉させるようにしている。図2(b)は干渉後を表し、破線で表された基準波に対し干渉波が実線で表されている。このように位相差が小さい場合には、強め合う干渉波が得られる。また、図2(b)からわかるように、干渉波の山のピークは基準波の山のピークと近く、位相差が小さい干渉の波は、干渉後も基準波との位相差が小さくなる。
【0053】
また、図3に、弱め合う干渉の例を示す。図3(a)は干渉前を表し、この場合基準波に対して位相差0.2(rad)の他に位相差3.0(rad)及び位相差3.2(rad)という、位相差がπ(rad)に近く、大きい波を干渉させている。このとき図3(b)に示すように、破線で表された基準波に対して、実線で表されるように弱め合う干渉波が得られる。このように位相差が大きい波を干渉させると、弱め合う干渉波が得られる。また、図3(b)からわかるように、干渉波の山のピークは基準波の山のピークと離れており、位相差が大きい干渉の波は、干渉後も基準波との位相差が大きい。
【0054】
前にスペックルノイズは、被検者内の複数の反射体からの反射超音波のランダムな干渉によって生ずると言ったが、図3に示すような位相差が大きい干渉が、スペックルノイズを発生させる干渉となる。
【0055】
また、IQデータから得られる位相は干渉後の波と検波の波との位相差を表すが、IQ検波の位相は誤差を含むため、干渉後の波から、位相差が大きい干渉の結果か、小さい干渉の結果かを確認するには、IQデータの連続的な位相変化(例えば、隣接する画素間の差分)を見れば良い。これは、位相差が小さい波が連続すると位相変化は小さく、スペックルノイズ部になると位相が急変化し位相変化が大きくなるからである。
【0056】
このように、位相が急に変化するという特徴を用いることでスペックルノイズを判別することができる。
【0057】
画像処理部30は、信号処理部20で得られたIQデータに画像処理を施して、表示部40に表示する。画像処理部30における処理の中心は、信号処理部20のIQデータから位相情報を抽出してスペックルの判別を行いスペックル成分を抽出することである。
【0058】
図4に、画像処理部30における、位相情報を利用したスペックル抽出処理の流れを示す。
【0059】
図4に示すように、画像処理部30は、位相変化量抽出部32とスペックル判別部34から構成されるスペックル抽出部(スペックル成分抽出手段)35を有している。
【0060】
信号処理部20で得られたIQデータから位相データが位相変化量抽出部32に入力される。位相は、前述したように、式θ=arctan(Q/I)で与えられる。位相変化量抽出部32は、位相データから位相変化量を抽出する。抽出された位相変化量データはスペックル判別部34に入力される。スペックル判別部34は、位相変化量データを用いてスペックル成分を抽出し、スペックル抽出結果を出力する。
【0061】
図5に、位相変化量抽出部32における処理の一例を示す。
【0062】
位相変化量抽出部32は、位相データを得ると、まず方位方向(横方向)の位相変化量及び距離方向(深さ方向)の位相変化量、すなわちそれぞれの方向における画素の差分(方位方向差分及び距離方向差分)を算出する。
【0063】
2次元のBモード画像の場合、このように方位方向及び距離方向の位相変化量を求めることが望ましい。これは、スペックルノイズが方位方向または距離方向のどちらかに平行に存在する場合、その方向では位相変化が小さいが、それと直交する方向では位相変化が大きくなるためである。
【0064】
次に、検波のずれによる一定量の位相変化を除去する。なお、スペックルの位相変化は他の部分に比べて急に変化するので、フィルタ(ローパスフィルタ、メディアンフィルタ)との差分データや位相データの2次微分など、変化量が大きくなる成分のみを抽出することによって、よりスペックルの判別をし易い特徴を持つデータを得ることができる。
【0065】
そして、各方向で位相が急変化する成分が抽出され、各方向での位相変化量データが算出される。変化量は各方向の画素間の差分によって求められる。このとき隣接画素間における差分を用いることが最も好ましいが、適宜間引いた画素間における差分を用いてもよい。
【0066】
このように、縦方向、横方向それぞれに対し、一定量の位相変化量を取り除いた結果の情報を基にしてスペックル/信号の判定を行うことができる。
【0067】
なお、位相変化量は、この情報に限らず、複数画素の差分平均や斜め方向の差分を用いてもよい。さらに、別々の変化量ではなく、ベクトル成分のような一つのデータに変換してもよい。
【0068】
スペックル判別部34では、得られた位相変化量データに対し、スペックルノイズかどうかという2値的な判別や、どの程度スペックルノイズが含まれているかという多値的な判別を行い、その結果が目的に応じて出力される。もちろん、位相変化量そのものを、スペックルらしさを示すデータとして出力するようにしてもよい。
【0069】
位相変化量抽出部32によって抽出された方位方向位相変化量データ及び距離方向位相変化量データはスペックル判別部34に入力される。スペックル判別部34は、これらの位相情報データに基づいてスペックルの判別を行う。
【0070】
図6に、スペックル判別部34の一構成例を示す。
【0071】
図6に示すように、スペックル判別部34は、判別関数作成部341を備えている。判別関数作成部341は、位相変化量データに対し、スペックルノイズかどうかを判別するための判別関数を作成するものである。
【0072】
判別関数作成部341は、振幅画像においてスペックルまたは非スペックルの位置がわかっている位相データを予め用意しておき、その位相変化量から作成した特徴量を元に判別関数を作成する。すなわち、スペックルであることがわかっている位相変化量データ344a及び非スペックルであることがわかっている位相変化量データ344bとから、それぞれ所定の特徴量が特徴量変換部342において算出され、これからスペックル判別関数が作成される。
【0073】
ここで、特徴量は、位相変化量のデータの単一画素でも良い。ただし、単一画素の場合、差分をとって位相変化量を求めた場合には画素の僅かなずれが生じる、縦横方向から位相変化量を求めた場合には十字に交差する部分の中心の位相変化は大きくならないなどの問題があるため、注目画素の近傍画素の値や近傍画素との演算結果等、複数のデータを使用するのが望ましい。このとき、複数のデータは多次元となるため、閾値を設計し易いようにPCA(主成分分析)などを行って次元を下げるようにしても良い。
【0074】
図7に、スペックル判別関数の一例を示す。
【0075】
ここでは、縦方向位相変化量及び横方向位相変化量をそれぞれ特徴量(1)及び特徴量(2)とし、非スペックルノイズを〇で表し、スペックルノイズを×で表している。図7に示す例では、非スペックルノイズ〇とスペックルノイズ×の領域を分離する直線として判別関数が設定される。このように特徴量に変換した結果を基にしてスペックルノイズと非スペックルノイズを判別する関数(あるいは閾値)が設計される。なお、判別関数はこのような線形のものに限定されるものではない。
【0076】
また、判別関数の設定方法は特に限定されるものではなく、例えば、SVM(サポートベクターマシン)などの既知のデータ(学習データ)を利用した統計的手法(例えば、参考文献としてネロ・クリスティアニーニ、ジョン・テーラー著「サポートベクターマシン入門」共立出版などが挙げられる。)などの公知のクラス分類に使用される線形あるいは非線形の判別関数を用いることができる。もちろん、特徴量毎に閾値を与えるだけで判別可能であれば、閾値だけでスペックルを判別してもよい。また、位相変化量に変換することなく、連続的な位相データの画素といった位相変化がわかるデータを特徴量とした判別関数を設定してもよい。
【0077】
図8に、SVM(サポートベクターマシン)を使用した特徴量変換部342におけるスペックル抽出の判別関数生成処理の一例を示す。
【0078】
図8に示すように、まずファントム画像から手作業でスペックル部分及び非スペックル部分をラベリングし、スペックル判別関数を作成するための既知データを作成する。なお、スペックル及び非スペックル部分をラベリングする際、曖昧な箇所についてはラベリングは行わないようにする。次に、この既知データのスペックル部分及び非スペックル部分からスペックルの判別に用いる特徴量を抽出する。
【0079】
ここでは特徴量として、図9に示すように、3×3画素の中央の画素cを注目画素とし、注目画素cとその上下左右の4つの近傍画素a、b、d、eに関し、それぞれ縦(距離)方向位相変化及び横(方位)方向位相変化の計10個の特徴量を使用する。
【0080】
次に、この縦方向及び横方向それぞれのラベリングされた画素(注目画素及びその近傍)の計10箇所の位相変化量を特徴量としてSVM(サポートベクターマシン)を適用し、判別関数(スペックル判別器)を生成する。もちろん、ラベリングに使用するデータや特徴量は、判別結果が最適となるように変更しても良い。
【0081】
このように、判別関数作成部341において、予めスペックルまたは非スペックルの位置がわかっている位相データから特徴量を抽出してスペックル判別関数を作成しておく。そして、実際の超音波診断において、超音波用探触子10の走査によって得られたデータから信号処理部20によって生成されたIQデータから得られた位相情報に基づいてスペックル抽出が行われる。
【0082】
すなわち、図6において、方位(横)方向位相変化量データ346a及び距離(縦)方向位相変化量データ346bが入力されると、特徴量変換部343ではこれをスペックル判別に用いる特徴量に変換し、判別関数作成部341で予め作成されたスペックル判別関数347を用いてスペックルであるかどうか判別し、スペックル抽出が行われる。そして、スペックル抽出結果348が出力され表示部40に表示される。この表示は、スペックルのみを表示してもよいし、原画像である振幅画像に重ねて表示するようにしてもよい。
【0083】
判別結果は、2値的にスペックルであるかどうかを示すだけでなく、閾値との差を多値的にどの程度スペックルノイズが含まれているかを示すスペックルらしさとして出力してもよい。また、多値的に出力する場合には、LUT(ルックアップテーブル)などでさらに値を調整してもよい。
【0084】
なお、スペックル判別関数は、超音波の送受信の条件などによって変化するため、実際の装置の場合には条件毎に判別関数を設定するのが望ましい。
【0085】
以上説明した例では、振幅情報ではなく位相情報を用いてスペックル成分を抽出するようにしているが、振幅ではスペックルの形状、エコーレベルによっては、スペックルの判別が困難な場合があるため正確にスペックル成分を抽出できない場合があるが、位相情報を用いることにより、スペックルの形状や周囲のエコーレベルに依存しないスペックル成分の抽出が可能となる。
【0086】
このように、位相情報のみでスペックル成分を抽出することができるが、振幅情報を特徴量に加えるなど、振幅情報(振幅成分あるいはその包絡線成分)と位相情報を組み合わせてスペックル成分を抽出するようにしてもよい。この場合、例えば図6において、位相情報(方位方向位相変化量データ346a、距離方向位相変化量データ346b)が特徴量変換部343に入力されているが、これらのデータとともに振幅情報をも特徴量変換部343に入力して、振幅情報(画素値)も加えて特徴量の次元(図9に示す例では2次元)を増加して、スペックル抽出を行うようにしてもよい。
【0087】
このように、振幅情報と位相情報の両方を用いてスペックル抽出を行うことで、より正確なスペックル抽出が可能となる。
【0088】
次に本発明のポイントであるスペックル抽出結果からスペックル密度を解析し、組織性状の解析を行う方法について説明する。このスペックル抽出結果を利用した組織性状解析は画像処理部30において行われる。
【0089】
図10に、画像処理部30におけるスペックル抽出結果を利用した組織性状解析処理の流れを示す。
【0090】
図10に示すように、画像処理部30は組織性状解析処理のために、スペックル抽出部35の他に組織性状解析部(解析手段)37を備えている。
【0091】
まず信号処理部20のIQ検波処理によって生成されたIQデータに対し、振幅データと位相データがそれぞれ生成される。振幅データはBモード画像を生成するために用いられ、位相データはここでは組織性状の解析に用いられる。位相データはスペックル抽出部35に入力され、振幅データはスキャンコンバータ38に入力される。
【0092】
次にスペックル抽出部35において、位相データに対して前述したスペックル抽出処理が行われる。スペックル抽出結果は組織性状解析部37に入力され、組織性状解析部37において、スペックル抽出結果からスペックル密度を解析し、組織性状の解析が行われる。
【0093】
一方、スキャンコンバータ38においては、振幅データからBモード画像が生成される。このとき、振幅データからBモード画像データを作成する処理は、従来のBモード画像生成の画像処理と同様でよいが、後述する組織性状の解析の結果を基に、組織に応じてゲインやダイナミックレンジ、スペックル除去処理などの画像処理のパラメータを変更するようにしてもよい。
【0094】
図11に、組織性状解析部37における処理の流れを示す。
【0095】
まず、スペックル密度計算部372において、スペックル抽出結果に対し局所領域のスペックル密度を計算する。密度の計算方法は公知の手法で構わない。例えば図12のように注目画素Pの周辺領域Q内(計算範囲)のスペックルの画素数、または実空間状の面積(体積)を計算し、領域Q全体との比を密度として出力する。また、領域Qは、ユーザが領域を指定してもよいし、振幅情報のエッジなどから得られる組織に応じた領域としてもよく、注目画素Pを必ずしも設ける必要は無い。また、超音波の分解能は深さに応じて変化するため、深さに応じた密度の重みを与えてもよい。
【0096】
求められたスペックル密度はそのまま組織性状データとして出力してもよいが、組織性状変換部374によって、密度と対応付けられた組織情報、例えば音速などに変換して出力するようにしてもよい。この場合、例えば図13に示すような、予め密度と組織情報との関係を対応付けた参照データをもとに変換を行うことが好ましい。
【0097】
図14に、組織性状データの表示の一例を示す。
【0098】
組織性状データは、図14に示すように、そのままBモード画像に重ねて表示してもよい。またあるいは、組織性状解析の結果を信号処理の再構成や画質調整に利用するようにしてもよい。
【0099】
以下、組織性状解析結果の様々な利用の例について説明する。
【0100】
例えば、参考文献(G.W.McLaughlin,"Practical Aberration Correction Methods,"Ultrasound,vol.15,no.2,2007.pp.99-104)に述べられているような、単一の受信データから異なる音速によってIQデータを生成できる装置の場合には、図15に音速解析/補正フローを示すように、一回目で画面内の平均音速を解析し、その音速で生成したIQデータに対し画像処理部30において組織性状の解析を行うようにする。
【0101】
ここで、平均音速の解析方法としては画像の分解能を比較する手法を用いる。例えば、上記参考文献に述べられているような、各音速のパワースペクトルの比較をFFT(高速フーリエ変換)によって行う手法などを用いるのがよい。
【0102】
次に、組織性状解析結果を変換することによって得られる音速データを信号処理部20へフィードバックし、データ位置に対応した音速の値に応じて再度音速を変更したIQデータを生成する。この処理によってそれぞれの組織の音速に合った信号処理を行うため、生成されるBモード画像は全領域において従来方式より分解能が同等以上の画質となる。
【0103】
また、従来のように、ある平均音速がわからない場合には、観測された組織が信号処理の際に仮定した音速とどの程度差があるか不明であるため、IQデータの深さ方向(距離方向)の画素あたりにおける実際の距離を求めることが出来ないため、求められるスペックル密度は、相対的に大きいか小さいかしかわからない。この場合には、設定音速ごとのスペックル密度が必要となる。一方上記参考文献のような画面内の平均音速がわかる場合には、実際の距離がある程度推定できるため、スペックル密度は実距離に換算できるため絶対値に近い指標となり、高精度の解析が可能となる。
【0104】
次に、組織性状データを画質調整に利用する例について説明する。
【0105】
図10に示したように、スキャンコンバータ38において、振幅情報からBモード画像へ変換する際、組織によって適切な輝度範囲になるように画質設定の基準として組織情報を与える。例えば、乳腺においてダイナミックレンジを調整する場合、図16に輝度分布を示すように、組織データによって明らかになった乳腺と脂肪の輝度が、ある決まった範囲の出力値となるようにダイナミックレンジ(DR)を調整する。このとき、もちろんダイナミックレンジだけでなく、階調やゲイン、スペックル除去の強度などの値も組織に応じて調整するようにしてもよい。
【0106】
このように、本実施形態においては、データに含まれる位相情報を利用してスペックルノイズを抽出し、抽出したスペックルノイズの密度から組織性状を解析することにより、組織ごとに最適な画像処理を可能としたため、振幅におけるばらつきの影響を受けず、正確な組織性状の解析が可能となった。さらに、これによりばらつきのない客観性の高いBモード画像を得ることが可能となり、ばらつきのない画像診断が可能となる。
【0107】
また、本実施形態の超音波画像処理装置は、図示を省略した制御部に付属したメモリに格納された超音波画像処理プログラムによって制御される。すなわち、制御部によってメモリから超音波画像処理プログラムが読み出され、該超音波画像処理プログラムに従って、被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する機能と、受信して得られた超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出し、抽出されたスペックル成分の密度に基づいて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する機能が実行される。
【0108】
なお、超音波画像処理プログラムは、このように制御部に付属のメモリに格納されるものに限定されず、該超音波画像処理プログラムを例えばPCカードやCD−ROMなど、本超音波画像処理装置に着脱可能に構成されるメモリ媒体(リムーバブル媒体)に記録しておき、リムーバブル媒体に対応するインターフェイスを介して本装置に読み込むように構成してもよい。
【0109】
以上、本発明の超音波画像処理装置及び方法並びにプログラムについて詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明に係る超音波画像処理装置を含む超音波診断装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】強め合う干渉の例を示すグラフであり、(a)は干渉前を表し、(b)は干渉後を表す。
【図3】弱め合う干渉の例を示すグラフであり、(a)は干渉前を表し、(b)は干渉後を表す。
【図4】画像処理部における位相情報を利用したスペックル抽出処理の流れを示すブロック図である。
【図5】位相変化量抽出部における処理の一例を示すブロック図である。
【図6】スペックル判別部の一構成例を示すブロック図である。
【図7】スペックル判別関数の例を示す説明図である。
【図8】特徴量変換部におけるSVM(サポートベクターマシン)を使用したスペックル抽出の判別関数生成処理の一例を示すブロック図である。
【図9】特徴量として用いる画素の例を示す説明図である。
【図10】画像処理におけるスペックル抽出結果を利用した組織性状解析処理の流れを示すブロック図である。
【図11】組織性状解析部における処理の流れを示すブロック図である。
【図12】スペックル密度の計算例を示す説明図である。
【図13】スペックル密度と物質との対応を表す参照データの例を示すテーブルである。
【図14】組織性状データの表示例を示す説明図である。
【図15】音速解析/補正フローの例を示すブロック図である。
【図16】組織による輝度分布の例を示す線図である。
【符号の説明】
【0111】
10…超音波用探触子、20…信号処理部、30…画像処理部、40…表示部、32…位相変化量抽出部、34…スペックル判別部、35…スペックル抽出部、37…組織性状解析部(解析手段)、38…スキャンコンバータ、341…判別関数作成部、342、343…特徴量変換部、372…スペックル密度計算部、374…組織性状変換部
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波画像処理装置及び方法並びにプログラムに係り、特に、超音波画像データに含まれる位相情報を利用してスペックルノイズを抽出し、抽出したスペックルノイズの密度から組織性状を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、超音波を用いて被検者の断層画像を取得して医療診断に供する超音波画像診断装置が広く知られている。超音波画像診断装置は、超音波を被検者に送信し、被検者から反射されて受信される超音波により得られるエコー信号(輝度情報)に基づいて、被検者の断層についての画像(Bモード画像)を生成し、その断層の画像を表示手段に表示する。
【0003】
このとき、一般的な超音波診断において、Bモード画像すなわち輝度情報によって組織性状が判断されている。しかし、輝度情報から得られる画像(白黒画像)は装置の画像処理やパラメータによってコントラストなどの画質の印象が大きく変化するため、客観的な組織性状を診断するには最適な画像調整が必要となり、装置に関する知識が必要であるうえ、患者毎に適宜調整することは非常に困難であった。
【0004】
これに対して、例えば特許文献1においては、超音波画像に対して閾値処理などによってスペックル成分を抽出し、スペックルの密度から組織性状を解析する手法が提案されている。ここで、超音波画像においてスペックルノイズとは、被検者内の複数の反射体からの反射超音波のランダムな干渉によって生ずる黒すじ状のノイズを言う。なお、上記特許文献1においては、Bモード画像上において、ぼやけてやや明るい部分(粒子あるいは島状領域)がスペックルに相当するとして、黒すじ以外の部分をスペックルノイズと定義しているが、このようにスペックルノイズを定義しても、解析手法及び問題は同じである。
【0005】
上記特許文献1に記載の発明によれば、スペックルパターンと組織性状の間には相関関係があり、組織の性状に依存するため、スペックルの密度を評価することによって客観的な診断情報が得られることが期待できる。
【特許文献1】特開2006−212445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものでは、スペックルノイズの形状、エコーレベルはばらつきがあり、非常に複雑であるため、振幅情報からスペックルノイズ部を正確に抽出することは非常に困難であり、組織性状の解析も難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、振幅におけるばらつきの影響を受けず、正確な組織性状の解析を可能とする超音波画像処理装置及び方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段が受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出するスペックル成分抽出手段と、前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する解析手段と、を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置を提供する。
【0009】
これにより、振幅におけるばらつきの影響を受けることなく正確に組織性状を解析することが可能となる。
【0010】
また、請求項2に示すように、請求項1に記載の超音波画像処理装置であって、さらに、前記組織性状を解析した結果を表示する表示手段を有することを特徴とする。
【0011】
これにより、超音波画像診断の精度が向上する。
【0012】
また、請求項3に示すように、請求項1または2に記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、位相成分の変化量を用いて前記超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出することを特徴とする。
【0013】
これにより、スペックル抽出精度を向上させることができる。
【0014】
また、請求項4に示すように、請求項1〜3のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、位相成分の少なくとも2つ以上の方向の変化量を用いることを特徴とする。
【0015】
このように、複数方向の変化量を用いることでスペックル抽出の精度を向上させることができる。
【0016】
また、請求項5に示すように、請求項1〜4のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、スペックルを判別する判別関数を使用することを特徴とする。
【0017】
これにより、スペックル抽出の目的に応じた判別関数を使用することができる。
【0018】
また、請求項6に示すように、請求項1〜5のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、前記位相成分の変化量と比較してスペックルを判別する閾値を使用することを特徴とする。
【0019】
これにより、閾値と比較してスペックルの判別ができる場合には、スペックル抽出が容易となる。
【0020】
また、請求項7に示すように、請求項5に記載の超音波画像処理装置であって、前記判別関数は、スペックル及び非スペックルの位置が分かっている位相データから生成された特徴量によって設定されることを特徴とする。
【0021】
これにより、スペックル抽出処理に応じた特徴量を用いて判別関数を作成することができる。
【0022】
また、請求項8に示すように、請求項1〜7のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記抽出されたスペックル成分の密度は、局所領域内のスペックル領域の割合に変換したものであることを特徴とする。
【0023】
また、請求項9に示すように、請求項1〜8のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記解析手段はスペックル成分の密度と組織性状を対応付けた参照情報を用いることを特徴とする。
【0024】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項10に記載の発明は、被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段が受信した超音波信号の振幅成分または包絡線成分と位相成分の組み合わせからスペックル成分を抽出するスペックル成分抽出手段と、前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する解析手段と、を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置を提供する。
【0025】
これにより、位相情報に振幅情報を組み合わせることで、より正確に組織性状の解析を行うことができる。
【0026】
また、請求項11に示すように、請求項1〜10のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、さらに、解析した組織性状データを用いて出力画像の画質調整を行う画像処理手段を備えたことを特徴とする。
【0027】
これにより、画像診断の精度を向上させることが可能となる。
【0028】
また、請求項12に示すように、請求項1〜11のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記解析手段が出力する組織性状は、組織の音速であることを特徴とする。
【0029】
これにより、より細かい領域の音速がわかり、これを用いてより高精度の画像を生成することができる。
【0030】
また、請求項13に示すように、請求項1〜12のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記位相成分は、前記超音波信号の進行方向に垂直な方向のデータの分解能が、前記超音波受信手段の前記超音波信号の送受信を行う素子の配列間隔以上であることを特徴とする。
【0031】
これにより、分解能が良くなり、組織性状解析をより正確に行うことができる。
【0032】
また、請求項14に示すように、請求項1〜13のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、さらに、単一の受信データから異なる音速による画像を生成することを特徴とする。
【0033】
これにより、音速の取り方をいろいろに変えて画像を生成することができ、分解能を向上させることができる。
【0034】
また、請求項15に示すように、請求項14に記載の超音波画像処理装置であって、さらに、解析した組織性状データを用いて局所的に音速を変更した画像を生成することを特徴とする。
【0035】
これにより、より高精度の解析が可能となる。
【0036】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項16に記載の発明は、被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信し、受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出し、前記抽出されたスペックル成分を除いた位相成分の情報を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析することを特徴とする超音波画像処理方法を提供する。
【0037】
これにより、スペックルノイズの影響を受けることなく正確に組織性状を解析することが可能となる。
【0038】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項17に記載の発明は、被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する機能と、受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出する機能と、前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する機能と、をコンピュータに実現させることを特徴とする超音波画像処理プログラムを提供する。
【0039】
これにより、スペックルノイズの影響を受けることなく正確に組織性状を解析することが可能となる。
【発明の効果】
【0040】
以上説明したように、本発明によれば、振幅におけるばらつきの影響を受けることなく正確に組織性状を解析することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る超音波画像処理装置及び方法並びにプログラムについて詳細に説明する。
【0042】
図1は、本発明に係る超音波画像処理装置を含む超音波診断装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は、超音波を用いて被検者の診断部位について超音波画像を撮影して表示するものであり、主に、超音波用探触子10、信号処理部20、画像処理部30及び表示部40を含んで構成されている。
【0043】
超音波用探触子10は、被検者の体内の診断部位に向けて超音波を送信するとともに、被検者の体内で反射してきた超音波を受信するものである。すなわち、超音波は構造物の境界のように音響インピーダンスが異なる領域の境界において反射されるため、超音波ビームを人体等の被検者内に送信して被検者内において生じた超音波エコーを受信し、超音波エコーが生じた反射点や反射強度を求めることにより、被検者内に存在する構造物の輪郭を検出することができる。
【0044】
超音波用探触子10は、例えば1次元の超音波トランスデューサアレイを構成する複数の超音波トランスデューサを備え、各超音波トランスデューサは、例えばPZT等の圧電素子の両端に電極を形成した振動子によって構成されるが、特に限定されるものではない。例えば、このように複数の超音波トランスデューサが1次元に配列されたリニアアレイプローブの他、被検者内を扇状に走査するセクタプローブ、複数の超音波トランスデューサが凸面上に配列されたコンベックスアレイプローブや、あるいは複数の超音波トランスデューサが2次元に配列された2次元アレイプローブを用いてもよい。またあるいは超音波内視鏡においてラジアル走査を行うメカニカルラジアルプローブでもよい。
【0045】
超音波用探触子10は、図示を省略した制御部の制御により超音波ビームを被検者内に送信し、リニア走査や、セクタ走査や、コンベックス走査や、ラジアル走査等の走査方式で被検者を走査する。超音波用探触子10が発生した超音波は被検者体内に存在する反射体によって反射され、反射した超音波は超音波用探触子10で受信される。超音波用探触子10で受信された超音波受信信号は、電気信号に変換された後、図示を省略した送受信部を介して信号処理部20に引き渡される。
【0046】
信号処理部20は、入力された受信信号に対し所定の信号処理を施すとともに、受け取った超音波受信信号から複数の受信データに遅延をかけて加算する位相整合加算、受信データをIQデータ(複素信号)に分離するIQ検波などの処理を行いIQデータを作成して画像処理部30に出力する。
【0047】
なお、IQデータから次の式によって受信データの振幅A及び位相θが算出される。
【0048】
A=√(I2+Q2)、θ=arctan(Q/I)
ここで、記号√(X)は、Xの平方根を表す。また、受信データの波形の包絡線をとる場合には、その振幅は上記値を2倍して2Aとしなければならない。
【0049】
なお、信号処理部20は、1ライン毎にデータを生成する手法でもよいが、例えば特開2003−180688号公報に記載されたような、全素子の受信データをメモリに保存しておき、後処理でデータを生成する手法でもよい。この手法であれば、さらに方位分解能(素子方向の分解能)を向上させることができる。例えば、超音波信号の進行方向に垂直な方向に位相情報の分解能が素子の配列間隔以上のデータを利用するように、超音波信号の進行方向に垂直な方向に高分解能な位相情報を利用することで、スペックルのランダムな位相変化をより正確に区別することができる。
【0050】
また、一般的な超音波Bモード画像では、振幅から画像を生成し、位相情報は利用しないため、既存の超音波画像処理技術(Bモード)における超音波画像データは振幅データを指している。
【0051】
次に信号の干渉と位相の関係について図を用いて説明する。干渉には、強め合う干渉と打ち消し合う干渉がある。強め合う干渉は波と波の位相差が小さい場合に生じ、弱め合う干渉は位相差がπに近い場合に生じる。
【0052】
図2に、強め合う干渉の例を示す。図2(a)は干渉前を表し、基準波に対して位相差0.2(rad)、位相差0.4(rad)及び位相差0.6(rad)という位相差の小さな3つの波を干渉させるようにしている。図2(b)は干渉後を表し、破線で表された基準波に対し干渉波が実線で表されている。このように位相差が小さい場合には、強め合う干渉波が得られる。また、図2(b)からわかるように、干渉波の山のピークは基準波の山のピークと近く、位相差が小さい干渉の波は、干渉後も基準波との位相差が小さくなる。
【0053】
また、図3に、弱め合う干渉の例を示す。図3(a)は干渉前を表し、この場合基準波に対して位相差0.2(rad)の他に位相差3.0(rad)及び位相差3.2(rad)という、位相差がπ(rad)に近く、大きい波を干渉させている。このとき図3(b)に示すように、破線で表された基準波に対して、実線で表されるように弱め合う干渉波が得られる。このように位相差が大きい波を干渉させると、弱め合う干渉波が得られる。また、図3(b)からわかるように、干渉波の山のピークは基準波の山のピークと離れており、位相差が大きい干渉の波は、干渉後も基準波との位相差が大きい。
【0054】
前にスペックルノイズは、被検者内の複数の反射体からの反射超音波のランダムな干渉によって生ずると言ったが、図3に示すような位相差が大きい干渉が、スペックルノイズを発生させる干渉となる。
【0055】
また、IQデータから得られる位相は干渉後の波と検波の波との位相差を表すが、IQ検波の位相は誤差を含むため、干渉後の波から、位相差が大きい干渉の結果か、小さい干渉の結果かを確認するには、IQデータの連続的な位相変化(例えば、隣接する画素間の差分)を見れば良い。これは、位相差が小さい波が連続すると位相変化は小さく、スペックルノイズ部になると位相が急変化し位相変化が大きくなるからである。
【0056】
このように、位相が急に変化するという特徴を用いることでスペックルノイズを判別することができる。
【0057】
画像処理部30は、信号処理部20で得られたIQデータに画像処理を施して、表示部40に表示する。画像処理部30における処理の中心は、信号処理部20のIQデータから位相情報を抽出してスペックルの判別を行いスペックル成分を抽出することである。
【0058】
図4に、画像処理部30における、位相情報を利用したスペックル抽出処理の流れを示す。
【0059】
図4に示すように、画像処理部30は、位相変化量抽出部32とスペックル判別部34から構成されるスペックル抽出部(スペックル成分抽出手段)35を有している。
【0060】
信号処理部20で得られたIQデータから位相データが位相変化量抽出部32に入力される。位相は、前述したように、式θ=arctan(Q/I)で与えられる。位相変化量抽出部32は、位相データから位相変化量を抽出する。抽出された位相変化量データはスペックル判別部34に入力される。スペックル判別部34は、位相変化量データを用いてスペックル成分を抽出し、スペックル抽出結果を出力する。
【0061】
図5に、位相変化量抽出部32における処理の一例を示す。
【0062】
位相変化量抽出部32は、位相データを得ると、まず方位方向(横方向)の位相変化量及び距離方向(深さ方向)の位相変化量、すなわちそれぞれの方向における画素の差分(方位方向差分及び距離方向差分)を算出する。
【0063】
2次元のBモード画像の場合、このように方位方向及び距離方向の位相変化量を求めることが望ましい。これは、スペックルノイズが方位方向または距離方向のどちらかに平行に存在する場合、その方向では位相変化が小さいが、それと直交する方向では位相変化が大きくなるためである。
【0064】
次に、検波のずれによる一定量の位相変化を除去する。なお、スペックルの位相変化は他の部分に比べて急に変化するので、フィルタ(ローパスフィルタ、メディアンフィルタ)との差分データや位相データの2次微分など、変化量が大きくなる成分のみを抽出することによって、よりスペックルの判別をし易い特徴を持つデータを得ることができる。
【0065】
そして、各方向で位相が急変化する成分が抽出され、各方向での位相変化量データが算出される。変化量は各方向の画素間の差分によって求められる。このとき隣接画素間における差分を用いることが最も好ましいが、適宜間引いた画素間における差分を用いてもよい。
【0066】
このように、縦方向、横方向それぞれに対し、一定量の位相変化量を取り除いた結果の情報を基にしてスペックル/信号の判定を行うことができる。
【0067】
なお、位相変化量は、この情報に限らず、複数画素の差分平均や斜め方向の差分を用いてもよい。さらに、別々の変化量ではなく、ベクトル成分のような一つのデータに変換してもよい。
【0068】
スペックル判別部34では、得られた位相変化量データに対し、スペックルノイズかどうかという2値的な判別や、どの程度スペックルノイズが含まれているかという多値的な判別を行い、その結果が目的に応じて出力される。もちろん、位相変化量そのものを、スペックルらしさを示すデータとして出力するようにしてもよい。
【0069】
位相変化量抽出部32によって抽出された方位方向位相変化量データ及び距離方向位相変化量データはスペックル判別部34に入力される。スペックル判別部34は、これらの位相情報データに基づいてスペックルの判別を行う。
【0070】
図6に、スペックル判別部34の一構成例を示す。
【0071】
図6に示すように、スペックル判別部34は、判別関数作成部341を備えている。判別関数作成部341は、位相変化量データに対し、スペックルノイズかどうかを判別するための判別関数を作成するものである。
【0072】
判別関数作成部341は、振幅画像においてスペックルまたは非スペックルの位置がわかっている位相データを予め用意しておき、その位相変化量から作成した特徴量を元に判別関数を作成する。すなわち、スペックルであることがわかっている位相変化量データ344a及び非スペックルであることがわかっている位相変化量データ344bとから、それぞれ所定の特徴量が特徴量変換部342において算出され、これからスペックル判別関数が作成される。
【0073】
ここで、特徴量は、位相変化量のデータの単一画素でも良い。ただし、単一画素の場合、差分をとって位相変化量を求めた場合には画素の僅かなずれが生じる、縦横方向から位相変化量を求めた場合には十字に交差する部分の中心の位相変化は大きくならないなどの問題があるため、注目画素の近傍画素の値や近傍画素との演算結果等、複数のデータを使用するのが望ましい。このとき、複数のデータは多次元となるため、閾値を設計し易いようにPCA(主成分分析)などを行って次元を下げるようにしても良い。
【0074】
図7に、スペックル判別関数の一例を示す。
【0075】
ここでは、縦方向位相変化量及び横方向位相変化量をそれぞれ特徴量(1)及び特徴量(2)とし、非スペックルノイズを〇で表し、スペックルノイズを×で表している。図7に示す例では、非スペックルノイズ〇とスペックルノイズ×の領域を分離する直線として判別関数が設定される。このように特徴量に変換した結果を基にしてスペックルノイズと非スペックルノイズを判別する関数(あるいは閾値)が設計される。なお、判別関数はこのような線形のものに限定されるものではない。
【0076】
また、判別関数の設定方法は特に限定されるものではなく、例えば、SVM(サポートベクターマシン)などの既知のデータ(学習データ)を利用した統計的手法(例えば、参考文献としてネロ・クリスティアニーニ、ジョン・テーラー著「サポートベクターマシン入門」共立出版などが挙げられる。)などの公知のクラス分類に使用される線形あるいは非線形の判別関数を用いることができる。もちろん、特徴量毎に閾値を与えるだけで判別可能であれば、閾値だけでスペックルを判別してもよい。また、位相変化量に変換することなく、連続的な位相データの画素といった位相変化がわかるデータを特徴量とした判別関数を設定してもよい。
【0077】
図8に、SVM(サポートベクターマシン)を使用した特徴量変換部342におけるスペックル抽出の判別関数生成処理の一例を示す。
【0078】
図8に示すように、まずファントム画像から手作業でスペックル部分及び非スペックル部分をラベリングし、スペックル判別関数を作成するための既知データを作成する。なお、スペックル及び非スペックル部分をラベリングする際、曖昧な箇所についてはラベリングは行わないようにする。次に、この既知データのスペックル部分及び非スペックル部分からスペックルの判別に用いる特徴量を抽出する。
【0079】
ここでは特徴量として、図9に示すように、3×3画素の中央の画素cを注目画素とし、注目画素cとその上下左右の4つの近傍画素a、b、d、eに関し、それぞれ縦(距離)方向位相変化及び横(方位)方向位相変化の計10個の特徴量を使用する。
【0080】
次に、この縦方向及び横方向それぞれのラベリングされた画素(注目画素及びその近傍)の計10箇所の位相変化量を特徴量としてSVM(サポートベクターマシン)を適用し、判別関数(スペックル判別器)を生成する。もちろん、ラベリングに使用するデータや特徴量は、判別結果が最適となるように変更しても良い。
【0081】
このように、判別関数作成部341において、予めスペックルまたは非スペックルの位置がわかっている位相データから特徴量を抽出してスペックル判別関数を作成しておく。そして、実際の超音波診断において、超音波用探触子10の走査によって得られたデータから信号処理部20によって生成されたIQデータから得られた位相情報に基づいてスペックル抽出が行われる。
【0082】
すなわち、図6において、方位(横)方向位相変化量データ346a及び距離(縦)方向位相変化量データ346bが入力されると、特徴量変換部343ではこれをスペックル判別に用いる特徴量に変換し、判別関数作成部341で予め作成されたスペックル判別関数347を用いてスペックルであるかどうか判別し、スペックル抽出が行われる。そして、スペックル抽出結果348が出力され表示部40に表示される。この表示は、スペックルのみを表示してもよいし、原画像である振幅画像に重ねて表示するようにしてもよい。
【0083】
判別結果は、2値的にスペックルであるかどうかを示すだけでなく、閾値との差を多値的にどの程度スペックルノイズが含まれているかを示すスペックルらしさとして出力してもよい。また、多値的に出力する場合には、LUT(ルックアップテーブル)などでさらに値を調整してもよい。
【0084】
なお、スペックル判別関数は、超音波の送受信の条件などによって変化するため、実際の装置の場合には条件毎に判別関数を設定するのが望ましい。
【0085】
以上説明した例では、振幅情報ではなく位相情報を用いてスペックル成分を抽出するようにしているが、振幅ではスペックルの形状、エコーレベルによっては、スペックルの判別が困難な場合があるため正確にスペックル成分を抽出できない場合があるが、位相情報を用いることにより、スペックルの形状や周囲のエコーレベルに依存しないスペックル成分の抽出が可能となる。
【0086】
このように、位相情報のみでスペックル成分を抽出することができるが、振幅情報を特徴量に加えるなど、振幅情報(振幅成分あるいはその包絡線成分)と位相情報を組み合わせてスペックル成分を抽出するようにしてもよい。この場合、例えば図6において、位相情報(方位方向位相変化量データ346a、距離方向位相変化量データ346b)が特徴量変換部343に入力されているが、これらのデータとともに振幅情報をも特徴量変換部343に入力して、振幅情報(画素値)も加えて特徴量の次元(図9に示す例では2次元)を増加して、スペックル抽出を行うようにしてもよい。
【0087】
このように、振幅情報と位相情報の両方を用いてスペックル抽出を行うことで、より正確なスペックル抽出が可能となる。
【0088】
次に本発明のポイントであるスペックル抽出結果からスペックル密度を解析し、組織性状の解析を行う方法について説明する。このスペックル抽出結果を利用した組織性状解析は画像処理部30において行われる。
【0089】
図10に、画像処理部30におけるスペックル抽出結果を利用した組織性状解析処理の流れを示す。
【0090】
図10に示すように、画像処理部30は組織性状解析処理のために、スペックル抽出部35の他に組織性状解析部(解析手段)37を備えている。
【0091】
まず信号処理部20のIQ検波処理によって生成されたIQデータに対し、振幅データと位相データがそれぞれ生成される。振幅データはBモード画像を生成するために用いられ、位相データはここでは組織性状の解析に用いられる。位相データはスペックル抽出部35に入力され、振幅データはスキャンコンバータ38に入力される。
【0092】
次にスペックル抽出部35において、位相データに対して前述したスペックル抽出処理が行われる。スペックル抽出結果は組織性状解析部37に入力され、組織性状解析部37において、スペックル抽出結果からスペックル密度を解析し、組織性状の解析が行われる。
【0093】
一方、スキャンコンバータ38においては、振幅データからBモード画像が生成される。このとき、振幅データからBモード画像データを作成する処理は、従来のBモード画像生成の画像処理と同様でよいが、後述する組織性状の解析の結果を基に、組織に応じてゲインやダイナミックレンジ、スペックル除去処理などの画像処理のパラメータを変更するようにしてもよい。
【0094】
図11に、組織性状解析部37における処理の流れを示す。
【0095】
まず、スペックル密度計算部372において、スペックル抽出結果に対し局所領域のスペックル密度を計算する。密度の計算方法は公知の手法で構わない。例えば図12のように注目画素Pの周辺領域Q内(計算範囲)のスペックルの画素数、または実空間状の面積(体積)を計算し、領域Q全体との比を密度として出力する。また、領域Qは、ユーザが領域を指定してもよいし、振幅情報のエッジなどから得られる組織に応じた領域としてもよく、注目画素Pを必ずしも設ける必要は無い。また、超音波の分解能は深さに応じて変化するため、深さに応じた密度の重みを与えてもよい。
【0096】
求められたスペックル密度はそのまま組織性状データとして出力してもよいが、組織性状変換部374によって、密度と対応付けられた組織情報、例えば音速などに変換して出力するようにしてもよい。この場合、例えば図13に示すような、予め密度と組織情報との関係を対応付けた参照データをもとに変換を行うことが好ましい。
【0097】
図14に、組織性状データの表示の一例を示す。
【0098】
組織性状データは、図14に示すように、そのままBモード画像に重ねて表示してもよい。またあるいは、組織性状解析の結果を信号処理の再構成や画質調整に利用するようにしてもよい。
【0099】
以下、組織性状解析結果の様々な利用の例について説明する。
【0100】
例えば、参考文献(G.W.McLaughlin,"Practical Aberration Correction Methods,"Ultrasound,vol.15,no.2,2007.pp.99-104)に述べられているような、単一の受信データから異なる音速によってIQデータを生成できる装置の場合には、図15に音速解析/補正フローを示すように、一回目で画面内の平均音速を解析し、その音速で生成したIQデータに対し画像処理部30において組織性状の解析を行うようにする。
【0101】
ここで、平均音速の解析方法としては画像の分解能を比較する手法を用いる。例えば、上記参考文献に述べられているような、各音速のパワースペクトルの比較をFFT(高速フーリエ変換)によって行う手法などを用いるのがよい。
【0102】
次に、組織性状解析結果を変換することによって得られる音速データを信号処理部20へフィードバックし、データ位置に対応した音速の値に応じて再度音速を変更したIQデータを生成する。この処理によってそれぞれの組織の音速に合った信号処理を行うため、生成されるBモード画像は全領域において従来方式より分解能が同等以上の画質となる。
【0103】
また、従来のように、ある平均音速がわからない場合には、観測された組織が信号処理の際に仮定した音速とどの程度差があるか不明であるため、IQデータの深さ方向(距離方向)の画素あたりにおける実際の距離を求めることが出来ないため、求められるスペックル密度は、相対的に大きいか小さいかしかわからない。この場合には、設定音速ごとのスペックル密度が必要となる。一方上記参考文献のような画面内の平均音速がわかる場合には、実際の距離がある程度推定できるため、スペックル密度は実距離に換算できるため絶対値に近い指標となり、高精度の解析が可能となる。
【0104】
次に、組織性状データを画質調整に利用する例について説明する。
【0105】
図10に示したように、スキャンコンバータ38において、振幅情報からBモード画像へ変換する際、組織によって適切な輝度範囲になるように画質設定の基準として組織情報を与える。例えば、乳腺においてダイナミックレンジを調整する場合、図16に輝度分布を示すように、組織データによって明らかになった乳腺と脂肪の輝度が、ある決まった範囲の出力値となるようにダイナミックレンジ(DR)を調整する。このとき、もちろんダイナミックレンジだけでなく、階調やゲイン、スペックル除去の強度などの値も組織に応じて調整するようにしてもよい。
【0106】
このように、本実施形態においては、データに含まれる位相情報を利用してスペックルノイズを抽出し、抽出したスペックルノイズの密度から組織性状を解析することにより、組織ごとに最適な画像処理を可能としたため、振幅におけるばらつきの影響を受けず、正確な組織性状の解析が可能となった。さらに、これによりばらつきのない客観性の高いBモード画像を得ることが可能となり、ばらつきのない画像診断が可能となる。
【0107】
また、本実施形態の超音波画像処理装置は、図示を省略した制御部に付属したメモリに格納された超音波画像処理プログラムによって制御される。すなわち、制御部によってメモリから超音波画像処理プログラムが読み出され、該超音波画像処理プログラムに従って、被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する機能と、受信して得られた超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出し、抽出されたスペックル成分の密度に基づいて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する機能が実行される。
【0108】
なお、超音波画像処理プログラムは、このように制御部に付属のメモリに格納されるものに限定されず、該超音波画像処理プログラムを例えばPCカードやCD−ROMなど、本超音波画像処理装置に着脱可能に構成されるメモリ媒体(リムーバブル媒体)に記録しておき、リムーバブル媒体に対応するインターフェイスを介して本装置に読み込むように構成してもよい。
【0109】
以上、本発明の超音波画像処理装置及び方法並びにプログラムについて詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明に係る超音波画像処理装置を含む超音波診断装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】強め合う干渉の例を示すグラフであり、(a)は干渉前を表し、(b)は干渉後を表す。
【図3】弱め合う干渉の例を示すグラフであり、(a)は干渉前を表し、(b)は干渉後を表す。
【図4】画像処理部における位相情報を利用したスペックル抽出処理の流れを示すブロック図である。
【図5】位相変化量抽出部における処理の一例を示すブロック図である。
【図6】スペックル判別部の一構成例を示すブロック図である。
【図7】スペックル判別関数の例を示す説明図である。
【図8】特徴量変換部におけるSVM(サポートベクターマシン)を使用したスペックル抽出の判別関数生成処理の一例を示すブロック図である。
【図9】特徴量として用いる画素の例を示す説明図である。
【図10】画像処理におけるスペックル抽出結果を利用した組織性状解析処理の流れを示すブロック図である。
【図11】組織性状解析部における処理の流れを示すブロック図である。
【図12】スペックル密度の計算例を示す説明図である。
【図13】スペックル密度と物質との対応を表す参照データの例を示すテーブルである。
【図14】組織性状データの表示例を示す説明図である。
【図15】音速解析/補正フローの例を示すブロック図である。
【図16】組織による輝度分布の例を示す線図である。
【符号の説明】
【0111】
10…超音波用探触子、20…信号処理部、30…画像処理部、40…表示部、32…位相変化量抽出部、34…スペックル判別部、35…スペックル抽出部、37…組織性状解析部(解析手段)、38…スキャンコンバータ、341…判別関数作成部、342、343…特徴量変換部、372…スペックル密度計算部、374…組織性状変換部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する超音波送受信手段と、
前記超音波送受信手段が受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出するスペックル成分抽出手段と、
前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する解析手段と、
を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波画像処理装置であって、さらに、前記組織性状を解析した結果を表示する表示手段を有することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、位相成分の変化量を用いて前記超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、位相成分の少なくとも2つ以上の方向の変化量を用いることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、スペックルを判別する判別関数を使用することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、前記位相成分の変化量と比較してスペックルを判別する閾値を使用することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項7】
請求項5に記載の超音波画像処理装置であって、前記判別関数は、スペックル及び非スペックルの位置が分かっている位相データから生成された特徴量によって設定されることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記抽出されたスペックル成分の密度は、局所領域内のスペックル領域の割合に変換したものであることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記解析手段はスペックル成分の密度と組織性状を対応付けた参照情報を用いることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項10】
被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する超音波送受信手段と、
前記超音波送受信手段が受信した超音波信号の振幅成分または包絡線成分と位相成分の組み合わせからスペックル成分を抽出するスペックル成分抽出手段と、
前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する解析手段と、
を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、さらに、解析した組織性状データを用いて出力画像の画質調整を行う画像処理手段を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記解析手段が出力する組織性状は、組織の音速であることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記位相成分は、前記超音波信号の進行方向に垂直な方向のデータの分解能が、前記超音波受信手段の前記超音波信号の送受信を行う素子の配列間隔以上であることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、さらに、単一の受信データから異なる音速による画像を生成することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項15】
請求項14に記載の超音波画像処理装置であって、さらに、解析した組織性状データを用いて局所的に音速を変更した画像を生成することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項16】
被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信し、
受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出し、
前記抽出されたスペックル成分を除いた位相成分の情報を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析することを特徴とする超音波画像処理方法。
【請求項17】
被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する機能と、
受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出する機能と、
前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する機能と、
をコンピュータに実現させることを特徴とする超音波画像処理プログラム。
【請求項1】
被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する超音波送受信手段と、
前記超音波送受信手段が受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出するスペックル成分抽出手段と、
前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する解析手段と、
を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波画像処理装置であって、さらに、前記組織性状を解析した結果を表示する表示手段を有することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、位相成分の変化量を用いて前記超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、位相成分の少なくとも2つ以上の方向の変化量を用いることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、スペックルを判別する判別関数を使用することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記スペックル成分抽出手段は、前記位相成分の変化量と比較してスペックルを判別する閾値を使用することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項7】
請求項5に記載の超音波画像処理装置であって、前記判別関数は、スペックル及び非スペックルの位置が分かっている位相データから生成された特徴量によって設定されることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記抽出されたスペックル成分の密度は、局所領域内のスペックル領域の割合に変換したものであることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記解析手段はスペックル成分の密度と組織性状を対応付けた参照情報を用いることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項10】
被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する超音波送受信手段と、
前記超音波送受信手段が受信した超音波信号の振幅成分または包絡線成分と位相成分の組み合わせからスペックル成分を抽出するスペックル成分抽出手段と、
前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する解析手段と、
を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、さらに、解析した組織性状データを用いて出力画像の画質調整を行う画像処理手段を備えたことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記解析手段が出力する組織性状は、組織の音速であることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、前記位相成分は、前記超音波信号の進行方向に垂直な方向のデータの分解能が、前記超音波受信手段の前記超音波信号の送受信を行う素子の配列間隔以上であることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の超音波画像処理装置であって、さらに、単一の受信データから異なる音速による画像を生成することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項15】
請求項14に記載の超音波画像処理装置であって、さらに、解析した組織性状データを用いて局所的に音速を変更した画像を生成することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項16】
被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信し、
受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出し、
前記抽出されたスペックル成分を除いた位相成分の情報を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析することを特徴とする超音波画像処理方法。
【請求項17】
被検者に向けて超音波を送信するとともに、被検者から反射された超音波を受信する機能と、
受信した超音波信号の位相成分からスペックル成分を抽出する機能と、
前記抽出されたスペックル成分の密度を用いて、超音波画像に含まれる組織性状を解析する機能と、
をコンピュータに実現させることを特徴とする超音波画像処理プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−17280(P2010−17280A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178860(P2008−178860)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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