説明

超音波診断用組成物およびその使用方法

【課題】加熱器(ウォーマー)を使用せずとも冷感刺激を与えることのない超音波診断用組成物を提供すること。
【解決手段】被検者の体表面への付着時に泡状であり、短時間で泡が消えて超音波診断時にはペースト状となることを特徴とする超音波診断用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断に好適な組成物およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断は非侵襲的な診断であるため、多く使用されている。その診断方法としては、被検者の体表面にプローブを当て、エコーによって断層像をディスプレーに表示してその患部の深さや大きさを診断するものである。
かかる診断においては、超音波の伝播率を一様にすることを目的として、体表面とプローブとの間にゲル状の媒体を存在させることが行われている(例えば、特許文献1〜3)。超音波の伝播率にムラがあると、エコーに乱れが生じ、鮮明な画像を得ることができない。
【0003】
ゲル状の媒体としては、従来から親水性糊料を水で糊化させたペースト状のものが使用されている。しかしながら水が主体となったゲルペーストは、特に寒冷期の診断に当たっては、冷たいまま被検者に塗布されると不快感を与えることになる。このため、冷感刺激の緩和を目的として、加熱器(ウォーマー)を使ってゲルペーストを体温付近に暖めてから診断に使用している場合がある(例えば特許文献4,5)。しかしながら、被検者が一人〜少数の場合には、ウォーマーによる加熱は手間がかかりすぎることが問題である。
【特許文献1】特開平11−318898公報
【特許文献2】特開2000−79120公報
【特許文献3】特開2007−20668公報
【特許文献4】特開2001−245887公報
【特許文献5】特開2005−312680公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ウォーマーを使用せずとも冷感刺激を与えることのない超音波診断用組成物およびその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、超音波診断用組成物が被検者の体表面へ付着する際に泡状あれば、該組成物中に分散される気体が断熱作用を示し、ウォーマーを使用せずとも被検者に冷感刺激を与えることがないことを知見して本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1) 被検者の体表面への付着時に泡状であり、短時間で泡が消えて超音波診断時にはペースト状となる超音波診断用組成物。
(2) 増粘剤を含有する上記(1)記載の超音波診断用組成物。
(3) 増粘剤がチキソトロピー性を有する上記(2)記載の超音波診断用組成物。
【0007】
(4) 前記増粘剤が、アルギン酸エステル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール又は透明セルロースゲルである上記(2)または(3)に記載の超音波診断用組成物。
(5) 界面活性剤を含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の超音波診断用組成物。
(6) 前記界面活性剤がサポニンである上記(5)記載の超音波診断用組成物。
(7) 再泡立ち防止剤として無機塩またはシリコン等の消泡剤を含有する上記(1)〜(6)のいずれかに記載の超音波診断用組成物。
【0008】
(8) 前記無機塩がクエン酸ナトリウムまたは塩化ナトリウムである上記(7)記載の超音波診断用組成物。
(9) 前記泡状は、微小な泡が密集している状態であることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の超音波診断用組成物。
(10) 上記(1)〜(9)のいずれかに記載の超音波診断用組成物を容器に収容し前記容器から噴出させて泡状にして、被検者の体表面へ付着させることを特徴とする超音波診断用組成物の使用方法。
(11) 前記容器がエアゾール容器である上記(10)記載の超音波診断用組成物の使用方法。
(12) 前記容器がポンプ式容器である上記(10)記載の超音波診断用組成物の使用方法。
(13) 噴射剤として炭酸ガスまたはLPGを使用する上記(11)記載の超音波診断用組成物の使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ウォーマーを使用せずとも被検者に冷感刺激を与えることがない超音波診断用組成物およびその使用方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明にかかる超音波診断用組成物(以下、「組成物」という)について説明する。
超音波診断においては、被検者の体表面にプローブを当ててエコーをとる際には、超音波の伝播率をできる限り均一にすることが求められる。したがって、本発明にかかる組成物は、被検者に付着する際には断熱性の高い泡状であるが、付着後は短時間で破泡すると共に、プローブの走査によって新たな泡の発生が生じにくい組成物である必要がある。
本発明において、被検者の体表面に付着される泡状の組成物は、直径が0.1〜0.5mm(デジタルカメラで測定し、画像処理して大きさを測定)の微小な泡が密集して存在していることが好ましい。上記の範囲であれば、被検者の体表面への付着時に冷感刺激を与えることがない。
取り扱い性や伝播性の観点から、本発明にかかる組成物は、水を主たる成分として含む水性の組成物であることが好ましい。
【0011】
また、本発明にかかる組成物は、傾斜面での使用を考慮して、垂れを抑える目的で増粘剤を用いる。増粘剤は、スプレー(噴射)可能とするためにチキソトロピー性(即ち、高粘度ゲルでありながら、応力で低粘度化してスプレー可能な状態となり、スプレー後は直ぐに液垂れし難い高粘度ゲルに戻る)を有することが必要となる。増粘剤としては、アルギン酸エステル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、透明セルロースゲルなどが挙げられる。
【0012】
本発明にかかる組成物は、起泡剤且つ均一化剤として界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は特に限定されないが、泡を速く消すために界面活性作用が弱い界面活性剤であることが好ましく、例えばサポニンなどが挙げられる。また、界面活性作用が強い界面活性剤の場合には、その配合割合を小さくすることが好ましい。上記の界面活性剤は、被検者の体表面へ泡状の組成物を付着させた後、比較的早く破泡しペースト状になる。なお、本発明に係る組成物として、界面活性剤と増粘剤を含む場合、増粘剤はチキソトロピー性を有することは必須でないが、有する方が好ましい。
【0013】
被検者に付着した後に破泡した組成物がプローブの走査によって新たな泡を発生させないために、本発明にかかる組成物には再泡立ちの防止を目的として、無機塩またはシリコン等の消泡剤等の再泡立ち防止剤を含有させることが好ましく、無機塩としてはクエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
【0014】
本発明にかかる組成物は乾燥防止および滑り性の付与のために、湿潤剤を含むことが好ましく、湿潤剤としてはグリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール等が挙げられる。これらは、その性質やコスト等を勘案して適宜選択される。
【0015】
本発明にかかる組成物の起泡方法としては特に限定されないが、例えば、噴出口を備えた容器に収容された組成物を、前記容器外へ噴出して泡状に成型する方法が挙げられる。
前記の噴出口を備えた容器をエアゾール容器とすれば、容器内の噴射剤が泡の内部気体となる。噴射剤としては、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等の圧縮ガスや、液化石油ガス、ジメチルエーテル等の液化ガスを使用することができるが、起泡の観点から、炭酸ガスが好ましい。また前記噴出口を備えた容器をポンプ式容器とし、メッシュを備えた噴出口からポンプ機構によって組成物を容器外へ噴出することによって、噴射剤を使用することなく起泡させてもよい。
【0016】
本発明にかかる組成物は、上記以外の添加剤を含んでもよく、例えば酸化防止剤、香料、防腐剤等を配合してもよい。
【0017】
本発明にかかる組成物は被検者の体表面へ付着させる際に泡状であれば良く、その使用前の保存時の状態は特に限定されない。
【実施例】
【0018】
本発明を詳細に説明するために、以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
下記の配合で、組成物1を調整した。
サポニン(界面活性剤) 0.2質量%
グリセリン(湿潤剤) 44質量%
アルギン酸エステル(増粘剤) 0.3質量%
クエン酸ナトリウム(再泡立ち防止剤) 4.0質量%
防腐剤 0.1質量%
水 残り
上記組成物1を炭酸ガスとともにエアゾール缶に充填したものを室温が20℃の雰囲気中で被検者の皮膚に噴射したところ、直径が0.1〜0.5mmの泡が密集して形成され、その泡が数秒以内に破泡して、測定に支障がないことが確認でき、体感的にも不快な冷たさを感じることが無かった。更に、超音波診断用プローブを操作しても泡立つことが無いことが確認できた。
【0020】
(実施例2)
実施例1における炭酸ガスを液化石油ガス(LPG)に替えて試験したところ、ほぼ同様のことが確認できたが、噴射後にも起泡が発生して、実施例1に比べて泡が消えるのが若干遅れることが確認できた。
【0021】
(実施例3)
下記の配合で、組成物2を調整した。まず、セルロースと水からなる2%透明セルロースゲル液を充分にホモジナイズし、その後、グリセリン、シリコン消泡剤、パラヒドロキシ安息香酸エチルを注入撹拌し、調合した。尚、透明セルロースゲル液の含量は、1.5質量%以上が好適である。
2%透明セルロースゲル液(増粘剤) 76質量%
グリセリン(湿潤剤) 残り
シリコン消泡剤(再泡立ち防止剤) 0.03質量%
パラヒドロキシ安息香酸エチル(保存剤) 0.3質量%
上記組成物2を炭酸ガスとともにエアゾール缶に充填したものを室温が20℃の雰囲気中で被検者の皮膚に噴射したところ、直径が0.1〜0.5mmの泡が密集して形成され、その泡が数秒以内に破泡して、測定に支障がないことが確認でき、体感的にも不快な冷たさを感じることが無かった。更に、超音波診断用プローブを操作しても泡立つことが無いことが確認できた。
【0022】
(実施例4)
実施例2における炭酸ガスを液化石油ガス(LPG)に替えて試験したところ、同様のことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の体表面への付着時に泡状であり、短時間で泡が消えて超音波診断時にはペースト状となる超音波診断用組成物。
【請求項2】
増粘剤を含有する請求項1記載の超音波診断用組成物。
【請求項3】
増粘剤がチキソトロピー性を有する請求項2記載の超音波診断用組成物。
【請求項4】
前記増粘剤が、アルギン酸エステル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール又は透明セルロースゲルである請求項2または3に記載の超音波診断用組成物。
【請求項5】
界面活性剤を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の超音波診断用組成物。
【請求項6】
前記界面活性剤がサポニンである請求項5記載の超音波診断用組成物。
【請求項7】
再泡立ち防止剤として無機塩またはシリコン等の消泡剤を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の超音波診断用組成物。
【請求項8】
前記無機塩がクエン酸ナトリウムまたは塩化ナトリウムである請求項7記載の超音波診断用組成物。
【請求項9】
前記泡状は、微小な泡が密集している状態であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の超音波診断用組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の超音波診断用組成物を容器に収容し前記容器から噴出させて泡状にして、被検者の体表面へ付着させることを特徴とする超音波診断用組成物の使用方法。
【請求項11】
前記容器がエアゾール容器である請求項10記載の超音波診断用組成物の使用方法。
【請求項12】
前記容器がポンプ式容器である請求項10記載の超音波診断用組成物の使用方法。
【請求項13】
噴射剤として炭酸ガスまたはLPGを使用する請求項11記載の超音波診断用組成物の使用方法。

【公開番号】特開2009−51811(P2009−51811A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77702(P2008−77702)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】