説明

超音波診断装置および超音波画像生成方法

【課題】画像生成処理の高速化と省電力化を図ることができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】アレイトランスデューサから出力される受信信号の振幅に応じて、受信信号処理部による受信信号のA/D変換可能範囲のうち実際にA/D変換が実行されるA/D変換実行範囲を限定し、受信信号のA/D変換を行う。A/D変換実行範囲は、測定深度に関わらずに所定のビット幅を有し、A/D開始ビットおよびA/D終了ビットで特定され、測定深度が増すほど、A/D変換実行範囲のA/D開始ビットおよびA/D終了ビットが漸減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および超音波画像生成方法に係り、特に、被検体による超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力される受信信号を受信信号処理部で増幅した後にA/D変換することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、超音波プローブのアレイトランスデューサから被検体内に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーをアレイトランスデューサで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
例えば、特許文献1には、超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力された受信信号が、それぞれ、プリアンプで増幅され、A/DコンバータでA/D変換された後、適切な遅延を与えられることで互いに位相が合致した状態で加算され、これにより受信フォーカス処理を行う超音波診断装置が開示されている。
この受信フォーカス処理によって超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号が生成され、このようにして生成された診断領域内の複数の音線信号に基づいて、被検体内の断層画像情報であるBモード画像信号が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−232888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、受信信号をA/D変換するためのA/Dコンバータとしては、各種のものが存在するが、一般に、小さな回路規模で実現することができる逐次比較型A/Dコンバータが広く使用されている。
この逐次比較型A/Dコンバータでは、逐次比較レジスタの値をアナログ化した信号と各トランスデューサから出力される受信信号とを比較し、比較結果に基づいて逐次比較レジスタの値を漸次変更しながら、比較を繰り返す。
【0006】
具体的には、例えば図6に示されるように、A/D変換の開始を指示する変換開始信号が入力されると、1クロック毎に逐次比較レジスタの値がA/Dコンバータの最上位ビットMSBから最下位ビットLSBまで1ビットずつ変更され、順次、逐次比較レジスタの値をアナログ化した信号と各トランスデューサから出力される受信信号との比較が行われる。例えば、nビットのA/Dコンバータでは、1つの受信信号のA/D変換の完了までに、n回の比較作業が行われ、この比較作業の回数に対応した変換時間Tnがかかる。
【0007】
すなわち、超音波エコーの受信に起因して各トランスデューサから出力される受信信号の振幅がA/D変換可能範囲のうちの一部に過ぎない場合であっても、最上位ビットMSBから最下位ビットLSBまで全ビットにわたって順次比較作業が行われ。必要以上の変換時間と消費電力を要してしまう。
超音波画像の生成においては、診断領域への超音波ビームの走査に伴ってアレイトランスデューサの複数のトランスデューサがそれぞれ多数の受信信号を出力するため、1つの受信信号のA/D変換に関わる変換時間の短縮と消費電力の低減を図ることができれば、超音波診断装置の画像生成処理における処理時間と消費電力に対して大きな意義を有することとなる。
【0008】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、画像生成処理の高速化と省電力化を図ることができる超音波診断装置および超音波画像生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る超音波診断装置は、超音波プローブのアレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力される受信信号を受信信号処理部で増幅した後にA/D変換することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置であって、アレイトランスデューサから出力される受信信号の振幅に応じて受信信号処理部による受信信号のA/D変換可能範囲のうち実際にA/D変換が実行されるA/D変換実行範囲を限定するように受信信号処理部を制御する制御部を備えたものである。
【0010】
受信信号処理部は、受信信号をA/D変換する逐次比較型A/Dコンバータを有し、制御部は、A/D変換実行範囲を限定するようにA/Dコンバータを制御することが好ましい。
制御部は、アレイトランスデューサから出力される受信信号の振幅に応じてA/D変換実行範囲の開始ビットをA/Dコンバータに指定することができる。この場合、制御部は、測定深度の増加に応じてA/D変換実行範囲の開始ビットを漸減させることが好ましい。
また、制御部は、A/D変換実行範囲を測定深度に関わらずに所定のビット幅とすることもできる。
制御部は、プレスキャンにより得られた受信信号の振幅に応じてA/D変換実行範囲を決定してもよい。
【0011】
好ましくは、A/Dコンバータは、逐次比較レジスタと、逐次比較レジスタの値をアナログ信号に変換するD/Aコンバータと、D/Aコンバータにより変換されたアナログ信号とアレイトランスデューサから出力される受信信号とを比較するコンパレータと、コンパレータによる比較結果に基づいて逐次比較レジスタの値を変更するタイミング制御回路とを含み、制御部は、A/D変換実行範囲を限定するようにタイミング制御回路を制御する。
また、受信信号処理部は、アレイトランスデューサから出力される受信信号を増幅するプリアンプと、プリアンプで増幅された受信信号から信号検出に用いられない高周波成分を除去するローパスフィルタとを含み、A/Dコンバータは、ローパスフィルタで高周波成分が除去された受信信号をA/D変換することができる。
【0012】
この発明に係る超音波画像生成方法は、超音波プローブのアレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力される受信信号を受信信号処理部で増幅した後にA/D変換することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成方法であって、アレイトランスデューサから出力される受信信号の振幅に応じて受信信号処理部による受信信号のA/D変換可能範囲のうち実際にA/D変換が実行されるA/D変換実行範囲を限定するように受信信号処理部を制御する方法である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、受信信号の振幅に応じて受信信号処理部による受信信号のA/D変換可能範囲のうち実際にA/D変換が実行されるA/D変換実行範囲を限定するので、画像生成処理の高速化と省電力化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態で用いられた受信信号処理部の内部構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態で用いられたA/Dコンバータの内部構成を示すブロック図である。
【図4】実施の形態におけるA/Dコンバータの動作を示すタイミングチャートである。
【図5】実施の形態におけるエコー信号に対するA/D変換実行範囲の関係を示すグラフである。
【図6】従来のA/Dコンバータの動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に、実施の形態に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、超音波プローブ1と、この超音波プローブ1と無線通信により接続された診断装置本体2とを備えている。
【0016】
超音波プローブ1は、1次元又は2次元のアレイ状に配列された複数の超音波トランスデューサ3を有し、これら超音波トランスデューサ3にそれぞれ対応して受信信号処理部4が接続され、さらに受信信号処理部4にパラレル/シリアル変換部5を介して無線通信部6が接続されている。また、複数の超音波トランスデューサ3に送信駆動部7を介して送信制御部8が接続され、複数の受信信号処理部4に受信制御部9が接続され、無線通信部6に通信制御部10が接続されている。そして、パラレル/シリアル変換部5、送信制御部8、受信制御部9および通信制御部10にプローブ制御部11が接続されている。
【0017】
複数の超音波トランスデューサ3は、それぞれ送信駆動部7から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に被検体からの超音波エコーを受信して受信信号を出力する。各超音波トランスデューサ3は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0018】
送信駆動部7は、例えば、複数のパルサを含んでおり、送信制御部8によって選択された送信遅延パターンに基づいて、複数の超音波トランスデューサ3から送信される超音波が被検体内の組織のエリアをカバーする幅広の超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数の超音波トランスデューサ3に供給する。
各受信信号処理部4は、受信制御部9の制御の下で、対応する超音波トランスデューサ3から出力される受信信号に対して直交検波処理又は直交サンプリング処理を施すことにより複素ベースバンド信号を生成し、複素ベースバンド信号をサンプリングすることにより、組織のエリアの情報を含むサンプルデータを生成して、サンプルデータをパラレル/シリアル変換部5に供給する。受信信号処理部4は、複素ベースバンド信号をサンプリングして得られるデータに高能率符号化のためのデータ圧縮処理を施すことによりサンプルデータを生成してもよい。
パラレル/シリアル変換部5は、複数の受信信号処理部4によって生成されたパラレルのサンプルデータを、シリアルのサンプルデータに変換する。
【0019】
無線通信部6は、シリアルのサンプルデータに基づいてキャリアを変調して伝送信号を生成し、伝送信号をアンテナに供給してアンテナから電波を送信することにより、シリアルのサンプルデータを送信する。変調方式としては、例えば、ASK(Amplitude Shift Keying)、PSK(Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(16 Quadrature Amplitude Modulation)等が用いられる。
無線通信部6は、診断装置本体2との間で無線通信を行うことにより、サンプルデータを診断装置本体2に送信すると共に、診断装置本体2から各種の制御信号を受信して、受信された制御信号を通信制御部10に出力する。通信制御部10は、プローブ制御部11によって設定された送信電波強度でサンプルデータの送信が行われるように無線通信部6を制御すると共に、無線通信部6が受信した各種の制御信号をプローブ制御部11に出力する。
【0020】
プローブ制御部11は、診断装置本体2から送信される各種の制御信号に基づいて、超音波プローブ1の各部の制御を行う。
超音波プローブ1には、図示しないバッテリが内蔵され、このバッテリから超音波プローブ1内の各回路に電源供給が行われる。
なお、超音波プローブ1は、リニアスキャン方式、コンベックススキャン方式、セクタスキャン方式等の体外式プローブでもよいし、ラジアルスキャン方式等の超音波内視鏡用プローブでもよい。
【0021】
一方、診断装置本体2は、無線通信部21を有し、この無線通信部21にシリアル/パラレル変換部22を介してデータ格納部23が接続され、データ格納部23に画像生成部24が接続されている。さらに、画像生成部24に表示制御部25を介して表示部26が接続されている。また、無線通信部21に通信制御部27が接続され、シリアル/パラレル変換部22、データ格納部23、画像生成部24、表示制御部25および通信制御部27に本体制御部28が接続されている。さらに、本体制御部28には、オペレータが入力操作を行うための操作部29と、動作プログラムを格納する格納部30がそれぞれ接続されている。
【0022】
無線通信部21は、超音波プローブ1との間で無線通信を行うことにより、各種の制御信号を超音波プローブ1に送信する。また、無線通信部21は、アンテナによって受信される信号を復調することにより、シリアルのサンプルデータを出力する。
通信制御部27は、本体制御部28によって設定された送信電波強度で各種の制御信号の送信が行われるように無線通信部21を制御する。
シリアル/パラレル変換部22は、無線通信部21から出力されるシリアルのサンプルデータを、パラレルのサンプルデータに変換する。データ格納部23は、メモリまたはハードディスク等によって構成され、シリアル/パラレル変換部22によって変換された少なくとも1フレーム分のサンプルデータを格納する。
画像生成部24は、データ格納部23から読み出される1フレーム毎のサンプルデータに受信フォーカス処理を施して、超音波診断画像を表す画像信号を生成する。画像生成部24は、整相加算部31と画像処理部32とを含んでいる。
【0023】
整相加算部31は、本体制御部28において設定された受信方向に応じて、予め記憶されている複数の受信遅延パターンの中から1つの受信遅延パターンを選択し、選択された受信遅延パターンに基づいて、サンプルデータによって表される複数の複素ベースバンド信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれたベースバンド信号(音線信号)が生成される。
【0024】
画像処理部32は、整相加算部31によって生成される音線信号に基づいて、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。画像処理部32は、STC(sensitivity time control)部と、DSC(digital scan converter:デジタル・スキャン・コンバータ)とを含んでいる。STC部は、音線信号に対して、超音波の反射位置の深度に応じて、距離による減衰の補正を施す。DSCは、STC部によって補正された音線信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)し、階調処理等の必要な画像処理を施すことにより、Bモード画像信号を生成する。
表示制御部25は、画像生成部24によって生成される画像信号に基づいて、表示部26に超音波診断画像を表示させる。表示部26は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部25の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
本体制御部28は、操作者により操作部29から入力された各種の指令信号等に基づいて、診断装置本体2内の各部の制御を行うものである。
【0025】
このような診断装置本体2において、シリアル/パラレル変換部22、画像生成部24、表示制御部25、通信制御部27および本体制御部28は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。上記の動作プログラムは、格納部30に格納される。格納部30における記録媒体としては、内蔵のハードディスクの他に、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROMまたはDVD−ROM等を用いることができる。
【0026】
ここで、超音波プローブ1内における各受信信号処理部4の内部構成を図2に示す。受信信号処理部4は、対応する超音波トランスデューサ3に入力保護用のクリップ回路41を介して接続されたプリアンプ42と、このプリアンプ42の出力端にローパスフィルタ43を介して接続されたA/Dコンバータ44を有している。また、プリアンプ42に並列に利得設定回路45が接続されている。
【0027】
クリップ回路41は、超音波トランスデューサ3からプリアンプ42に設定値を超える電圧の信号が入力されることを防止する。プリアンプ42は、被検体およびその診断部位等に応じて利得設定回路45により適宜設定された利得で、超音波トランスデューサ3から出力された受信信号を増幅する。ローパスフィルタ43は、プリアンプ42で増幅された受信信号から信号検出に用いられない高周波成分を除去するものである。さらに、A/Dコンバータ44は、ローパスフィルタ43で高周波成分が除去されたアナログの受信信号をデジタル信号に変換する。
【0028】
このような構成により受信信号処理部4による受信信号のA/D変換可能範囲が決定され、A/Dコンバータ44のダイナミックレンジに応じた分解能で受信信号のA/D変換が行われる。
ただし、超音波エコーの受信に起因して超音波トランスデューサ3から出力される受信信号の振幅の変動範囲が受信信号処理部4によるA/D変換可能範囲のうちの一部に過ぎない場合には、A/Dコンバータ44の全ビットのうち受信信号の振幅に対応した一部のビットのみを使用することで、実際にA/D変換の実行に使用されるA/D変換実行範囲を受信信号の振幅に応じた一部の範囲に限定しても、受信信号を正確にA/D変換することができる。
【0029】
そこで、この実施の形態においては、受信制御部9から各受信信号処理部4のA/Dコンバータ44にA/D変換の開始を指示する変換開始信号とは別にA/D開始ビットを指定する開始ビット指定信号とA/D終了ビットを指定する終了ビット指定信号が入力され、A/Dコンバータ44は、受信制御部9から入力された開始ビット指定信号および終了ビット指定信号でそれぞれ指定されたA/D開始ビットおよびA/D終了ビットで決定されるA/D変換実行範囲に限定して受信信号のA/D変換を行う。
【0030】
A/Dコンバータ44は、いわゆる逐次比較型のA/Dコンバータであり、図3に示されるように、逐次比較レジスタ51と、逐次比較レジスタ51の値をアナログ信号に変換するD/Aコンバータ52と、D/Aコンバータ52により変換されたアナログ信号とローパスフィルタ43を介して入力された受信信号とを比較するコンパレータ53とを有している。さらに、逐次比較レジスタ51に、コンパレータ53による比較結果に基づいて逐次比較レジスタ51の値を変更するタイミング制御回路54が接続されている。
このA/Dコンバータ44では、タイミング制御回路54により逐次比較レジスタ51の値を漸次変更しながら、逐次比較レジスタ51の値をD/Aコンバータ52で変換したアナログ信号と受信信号との比較がコンパレータ53で繰り返されるが、逐次比較レジスタ51の値は、A/Dコンバータ44の最上位ビットMSBから最下位ビットLSBまでのすべてのビットが変更されるのではなく、受信制御部9からタイミング制御回路54に入力された開始ビット指定信号および終了ビット指定信号により指定されるA/D開始ビットとA/D終了ビットの間でのみ変更される。
【0031】
すなわち、図4に示されるように、タイミング制御回路54に変換開始信号が入力されると、1クロック毎に逐次比較レジスタ51の値が開始ビット指定信号で指定されたA/D開始ビットから終了ビット指定信号で指定されたA/D終了ビットまで1ビットずつ変更され、順次、逐次比較レジスタ51の値をD/Aコンバータ52でアナログ化した信号と受信信号との比較が行われる。
このため、A/Dコンバータ44がnビットの構成を有し、A/D開始ビットからA/D終了ビットまでをmビット(m<n)とすると、最上位ビットMSBから最下位ビットLSBまでのnビットの全範囲にわたってA/D変換を行う場合には、1つの受信信号のA/D変換にnクロックを必要とするのに対して、この実施の形態においては、1つの受信信号のA/D変換をmクロックで完了することとなる。その結果、最上位ビットMSBから最下位ビットLSBまでのnビットの全範囲にわたってA/D変換を行う場合に必要な変換時間Tnに比べて、より短い変換時間Tmで受信信号のA/D変換を行うことが可能となり、これに伴って消費電力の低減もなされる。
【0032】
次に、この実施の形態の動作について説明する。
まず、診断に先立って被検体に対し超音波ビームによるプレスキャンが行われる。すなわち、超音波プローブ1の複数のトランスデューサ3から被検体へ超音波ビームが送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサ3から出力された受信信号がそれぞれ対応する受信信号処理部4に供給されてサンプルデータが生成され、パラレル/シリアル変換部13および無線通信部14を介して診断装置本体2へ無線伝送される。無線通信部21で受信されたサンプルデータは、シリアル/パラレル変換部22でパラレルのデータに変換され、データ格納部23に格納される。なお、このとき、受信信号処理部4内のA/Dコンバータ44は、A/D変換実行範囲を限定されることなく最上位ビットMSBから最下位ビットLSBまでの全ビットを用いてA/D変換を行うものとする。
【0033】
ここで、本体制御部28は、データ格納部23に格納されたサンプルデータに基づき、各超音波トランスデューサ3から出力された受信信号の振幅の変動範囲を認識すると共に、認識された受信信号の振幅の変動範囲に基づいて、受信信号をA/D変換するのに十分なA/D変換実行範囲を決定する。このA/D変換実行範囲は、受信信号処理部4のA/Dコンバータ44により実際にA/D変換が実行される範囲で、測定深度に関わらずに所定のビット幅に設定され、A/D開始ビットとA/D終了ビットを指定することにより特定することができる。
【0034】
一般に、超音波診断においては、送信された超音波ビームが被検体内を進行するに従って減衰するので、図5に示されるように、深度が深くなるほど到達する超音波ビームの強度は小さくなる。また、被検体内の各部で反射されて超音波プローブに戻ってくる超音波エコーも、同様に進行に従って減衰する。すなわち、測定深度が増すほど、超音波エコーの強度は概して小さくなる。その結果、超音波エコーの受信に起因して各超音波トランスデューサ3から出力される受信信号の振幅も、超音波エコーとほぼ同様に測定深度に応じて変化し、測定深度が増すほど小さくなる。
【0035】
測定深度に応じてこのように変化する超音波エコーを受信するために、測定領域内の各部から戻ってくる超音波エコーの強度をすべてカバーするような強度範囲に対応して受信信号処理部4によるA/D変換可能範囲が設定される。そして、測定深度に応じた超音波エコーの強度変化に合わせて、測定深度毎の超音波エコーの強度を十分に含む所定の強度幅を有すると共に測定深度が増すほど次第に強度の値が小さくなるような強度範囲に対応してA/D変換実行範囲が決定される。
なお、図5では、A/D変換可能範囲とA/D変換実行範囲がそれぞれ超音波エコーの強度レベルに換算されたものとして示されている。
このように、測定深度が増すほど値が小さくなるA/D変換実行範囲を特定するため、A/D変換実行範囲のA/D開始ビットおよびA/D終了ビットが測定深度の増加に応じて漸減される。
【0036】
以上のようにして決定されたA/D変換実行範囲のA/D開始ビットおよびA/D終了ビットが、本体制御部28から通信制御部27および無線通信部21を介して超音波プローブ1に無線伝送され、無線通信部6で受信された後、通信制御部10およびプローブ制御部11を介して受信制御部9に送られる。
【0037】
そして、超音波診断が開始されると、超音波プローブ1の送信駆動部7から供給される駆動信号に従って複数の超音波トランスデューサ3から超音波が送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサ3から出力された受信信号がそれぞれ対応する受信信号処理部4に供給される。
受信信号は、受信信号処理部4内のプリアンプ42で増幅され、ローパスフィルタ43で高周波成分が除去された後にA/Dコンバータ44に入力される。このA/Dコンバータ44に受信制御部9から変換開始信号と共に開始ビット指定信号および終了ビット指定信号が入力され、A/Dコンバータ44は、開始ビット指定信号および終了ビット指定信号でそれぞれ指定されたA/D開始ビットおよびA/D終了ビットで決定されるA/D変換実行範囲内において受信信号のA/D変換を行う。
【0038】
すなわち、タイミング制御回路54により1クロック毎に逐次比較レジスタ51の値がA/D開始ビットからA/D終了ビットまで1ビットずつ変更され、順次、D/Aコンバータ52でアナログ信号に変換された逐次比較レジスタ51の値と受信信号とが比較されることでA/D変換が行われる。
このとき、A/Dコンバータ44の最上位ビットMSBから最下位ビットLSBまでの全ビットを用いてA/D変換を行うのではなく、受信信号の振幅に応じて限定されたA/D変換実行範囲内でA/D変換がなされるので、短時間にA/D変換の処理を完了することができる。
なお、測定深度が増すほど、受信制御部9からA/Dコンバータ44に指示されるA/D変換実行範囲のA/D開始ビットおよびA/D終了ビットが漸減されることで、測定深度に応じたエコー信号の振幅変化に追従して受信信号が正確にA/D変換されることとなる。
【0039】
このようにしてA/Dコンバータ44で受信信号にA/D変換を施すことによりサンプルデータが生成され、このサンプルデータがパラレル/シリアル変換部5でシリアル化された後に無線通信部6から診断装置本体2へ無線伝送される。診断装置本体2の無線通信部21で受信されたサンプルデータは、シリアル/パラレル変換部22でパラレルのデータに変換され、データ格納部23に格納される。さらに、データ格納部23から1フレーム毎のサンプルデータが読み出され、画像生成部24で画像信号が生成され、この画像信号に基づいて表示制御部25により超音波診断画像が表示部26に表示される。
【0040】
以上のように、受信信号の振幅に応じて受信信号処理部4による受信信号のA/D変換可能範囲のうちA/D変換実行範囲を限定して受信信号のA/D変換を行うので、それぞれの受信信号のA/D変換に関わる変換時間の短縮と消費電力の低減を図ることができ、さらに画像生成処理全体の高速化と省電力化を図ることが可能となる。
【0041】
なお、上記の実施の形態では、受信制御部9がA/D開始ビットおよびA/D終了ビットをA/Dコンバータ44に指示することによりA/D変換実行範囲を特定したが、A/D変換実行範囲は測定深度に関わらずに所定のビット幅に設定されるため、A/D開始ビットと所定のビット幅を指示することでA/D変換実行範囲を特定することもできる。同様に、A/D終了ビットと所定のビット幅によりA/D変換実行範囲を特定してもよい。
【0042】
また、診断装置本体2の本体制御部28が各超音波トランスデューサ3から出力された受信信号の振幅の変化を認識すると共にA/Dコンバータ44のA/D変換実行範囲を決定したが、例えば、超音波プローブ1内のプローブ制御部11が受信信号処理部4で生成されたサンプルデータに基づいて受信信号の振幅変化の認識とA/Dコンバータ44のA/D変換実行範囲の決定を行うように構成することもできる。
【0043】
上記の実施の形態では、超音波プローブ1と診断装置本体2とが互いに無線通信により接続されていたが、これに限るものではなく、接続ケーブルを介して超音波プローブ1が診断装置本体2に接続されていてもよい。この場合には、超音波プローブ1の無線通信部6および通信制御部10、診断装置本体2の無線通信部21および通信制御部27等は不要となる。
【符号の説明】
【0044】
1 超音波プローブ、2 診断装置本体、3 超音波トランスデューサ、4 受信信号処理部、5 パラレル/シリアル変換部、6 無線通信部、7 送信駆動部、8 送信制御部、9 受信制御部、10 通信制御部、11 プローブ制御部、21 無線通信部、22 シリアル/パラレル変換部、23 データ格納部、24 画像生成部、25 表示制御部、26 表示部、27 通信制御部、28 本体制御部、29 操作部、30 格納部、31 整相加算部、32 画像処理部、41 クリップ回路、42 プリアンプ、43 ローパスフィルタ、44 A/Dコンバータ、45 利得設定回路、51 逐次比較レジスタ、52 D/Aコンバータ、53 コンパレータ、54 タイミング制御回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブのアレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記アレイトランスデューサから出力される受信信号を受信信号処理部で増幅した後にA/D変換することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置であって、
前記アレイトランスデューサから出力される受信信号の振幅に応じて前記受信信号処理部による前記受信信号のA/D変換可能範囲のうち実際にA/D変換が実行されるA/D変換実行範囲を限定するように前記受信信号処理部を制御する制御部を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記受信信号処理部は、前記受信信号をA/D変換する逐次比較型A/Dコンバータを有し、
前記制御部は、前記A/D変換実行範囲を限定するように前記A/Dコンバータを制御する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記アレイトランスデューサから出力される受信信号の振幅に応じて前記A/D変換実行範囲の開始ビットを前記A/Dコンバータに指定する請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記制御部は、測定深度の増加に応じて前記A/D変換実行範囲の開始ビットを漸減させる請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記A/D変換実行範囲を測定深度に関わらずに所定のビット幅とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記制御部は、プレスキャンにより得られた受信信号の振幅に応じて前記A/D変換実行範囲を決定する請求項2〜5のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記A/Dコンバータは、逐次比較レジスタと、前記逐次比較レジスタの値をアナログ信号に変換するD/Aコンバータと、前記D/Aコンバータにより変換されたアナログ信号と前記アレイトランスデューサから出力される受信信号とを比較するコンパレータと、前記コンパレータによる比較結果に基づいて前記逐次比較レジスタの値を変更するタイミング制御回路とを含み、
前記制御部は、前記A/D変換実行範囲を限定するように前記タイミング制御回路を制御する請求項2〜6のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記受信信号処理部は、前記アレイトランスデューサから出力される受信信号を増幅するプリアンプと、前記プリアンプで増幅された受信信号から信号検出に用いない高周波成分を除去するローパスフィルタとを含み、
前記A/Dコンバータは、前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された受信信号をA/D変換する請求項2〜7のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
超音波プローブのアレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記アレイトランスデューサから出力される受信信号を受信信号処理部で増幅した後にA/D変換することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成方法であって、
前記アレイトランスデューサから出力される受信信号の振幅に応じて前記受信信号処理部による前記受信信号のA/D変換可能範囲のうち実際にA/D変換が実行されるA/D変換実行範囲を限定するように前記受信信号処理部を制御する
ことを特徴とする超音波画像生成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−235912(P2012−235912A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107084(P2011−107084)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】