説明

超音波診断装置及び超音波画像表示方法

【課題】 血流動態画像のノイズ成分を除去する超音波診断装置を提供する。
【解決手段】 撮像対象に対して超音波を送受信する探触子2と、断層画像データを構成する画像データ構成部と、断層画像データの各画素の輝度変化量に着目し、造影剤の流入時間に基づいて染影を行った血流動態画像を構成する血流動態画像構成部14とを備えた超音波診断装置であって、断層画像データの各画素の輝度変化量から血流動態画像の各画素を評価する評価部12と、評価部12の評価に基づいて血流動態画像のノイズ成分に該当する画素を除去するノイズ除去部13とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内部に超音波を送信し、その受信信号により生体内部の情報を画像化する技術に関するもので、特に時系列の複数の造影画像から血流の動的な情報を効率よく検出して画像化する超音波診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置はCTやMRIと共に臨床現場で広く普及している画像表示装置であり、小型で動画撮像が可能な特徴をもつ。超音波診断装置は、空間分解能、時間分解能に優れ、更に造影剤を使用することで微細な血流動態の観察が可能であり、腫瘍の性状診断においても重要な機能を持つ。
【0003】
特許文献1に記載の手法は、計測したTIC(Time Intensity Curve:輝度時間変化曲線)から平均輝度値等の値の統計値を算出し、その値に応じて色分けした画像を表示する。特許文献2に記載の手法は、血管毎に造影剤の流入時間を検出し、その相対的な違いを色の違いで表示する。画面上に関心領域を設置し、この領域における流入時間を基準時間とする配色にて画像を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-81073号公報
【特許文献2】特開2010-94220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
造影剤の流入時間における血流動態の相対的な違いを色の違いで染影を行った血流動態画像を表示する機能に関して、血流動態画像のノイズ成分を除去することについては開示されていない。
【0006】
本発明では、血流動態画像のノイズ成分を除去する超音波診断装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するために、撮像対象に対して超音波を送受信する探触子と、断層画像データを構成する画像データ構成部と、断層画像データの各画素の輝度変化量に着目し、造影剤の流入時間に基づいて染影を行った血流動態画像を構成する血流動態画像構成部とを備えた超音波診断装置であって、断層画像データの各画素の輝度変化量から血流動態画像の各画素を評価する評価部と、評価部の評価に基づいて血流動態画像のノイズ成分に該当する画素を除去するノイズ除去部とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、造影剤の流入時間における血流動態の相対的な違いを色の違いで染影を行った血流動態画像のノイズ成分を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における超音波診断装置の全体構成を示す図。
【図2】本発明におけるTICを示す図。
【図3】本発明における評価部の評価手法を示す図。
【図4】本発明における表示部の表示形態を示す図。
【図5】本発明における動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図を用いて説明する。
【実施例1】
【0011】
本発明の実施例1における超音波診断装置のブロック図を図1に示す。超音波診断装置は、撮像対象1に対して超音波を送受信する探触子2と、探触子2を構成する圧電素子に所望の送受信ビームを形成するための時間遅延を与える送信ビームフォーマ4および受信ビームフォーマ7と、送受信信号をアナログ・デジタル変換するA/D変換器6及びD/A変換器3と、超音波信号が生体内部を伝播する過程で生じる振幅減衰を補正するTGC(Time Gain Controller)5と、受信したRF信号を検波し画像信号に変換する包落線検波部8と、画像信号から2次元の断層画像データを構成するスキャンコンバータ9とを有している。上記の探触子2以外の構成要素を画像データ構成部と称す。
【0012】
超音波診断装置は、さらに、スキャンコンバータ9からの断層画像データを保存する画像メモリ11と、断層画像データから血流動態(輝度変化)を評価する評価部12と、評価部12の評価に基づいてノイズ成分を除去するノイズ除去部13と、ノイズ成分が除去された血流動態画像を構成する血流動態画像構成部14とを有している。血流動態画像は、造影剤の流入時間における血流動態の相対的な違いを色の違いで表現された画像である。具体的には、血流動態画像は、断層画像データの各画素(ピクセル)の輝度の変化に着目し、造影剤の流入時間差に応じた染影を行った画像である。
【0013】
断層画像データは、臨床現場で汎用的に使用されている白黒画像(Bモード)や造影剤画像(送受信のシーケンスやフィルタ処理等により造影剤からの信号を強調した画像)を指し、その構成手法は一般的に既知である。探触子2の超音波照射面は、複数の圧電素子が一列に配列した1次元アレイの構成になっており、各素子が超音波の送受信を担う。送信ビームフォーマ4からの電圧パルスがD/A変換器3を介して各圧電素子に入力され、素子の圧電振動によって撮像対象1に向けて超音波が照射される。この時、各圧電素子には所定の時間遅延が電子的に与えられており、各圧電素子から送信された超音波は撮像対象1の内部の所定の位置で焦点を結ぶ。撮像対象1からの反射エコーは各圧電素子で受信され、TGC5は伝播距離に応じた振幅補正を受信信号に対して行なう。その後、受信信号はA/D変換器6を介して受信ビームフォーマ7に送られ、焦点位置から各圧電素子までの距離に応じた遅延時間を掛けて加算結果が出力される(整相加算)。
【0014】
造影剤からの信号を強調して画像化する手法としては、例えば互いの位相が反転した2つの信号を送信し、その受信信号を加算する方法がある。受波信号の加算により組織成分を主とする基本周波数成分が抑圧される一方で、造影剤からの信号を主とする高調波成分は増強される。その結果、造影剤を強調した画像が得られる。
【0015】
探触子2は超音波送受信を圧電素子列に沿った全ての走査線で行なうことで、撮像対象1の2次元的な反射エコー分布を得ることができる。受信ビームフォーマ7からは実部と虚部に分けられたRF信号が出力され、包絡線検波部8に送られる。包絡線検波部8に送られた信号は、ビデオ信号に変換された後、スキャンコンバータ9で走査線間の画素補間が加えられ、2次元の断層画像データに再構成された後、表示部10に表示される。
【0016】
術者は撮像対象1を撮像面内に捉えた状態で探触子2を固定し、造影剤を投与する。造影剤の投与と同時または投与前後に、術者は超音波診断装置上の断層画像データの取り込み開始ボタンを押し、撮像対象1に造影剤が流入する段階から充満する段階までの時系列の断層画像データを画像メモリ11に保存する。本実施例における断層画像データはRAWデータも含まれる。
【0017】
術者は、表示部10に表示される断層画像データを見ながら血流動態画像の処理に利用する断層画像データの開始及び終了の時間範囲を指定する。開始時間は撮像対象1に造影剤が流入する直前または直後の時間に設定される。終了時間は着目する血管への造影剤の流入が完了した時点、または血管造影を経て組織の造影が確認できた時点が適当である。
【0018】
断層画像データの時間範囲を指定した後、指定された開始時間から更に1秒前の時間が新たな開始時間として自動的に再設定され、当該範囲の断層画像データが評価部12に送られる。術者が指定する開始時間の直前の1秒間の断層画像データは、造影剤以外の要因による輝度変化量を算出するために利用される。1秒という数値は1心拍に対応する時間として予め設定され、この間の輝度変動は主に心拍に起因して生じるスペックルパタンの変動と見なせる。算出された輝度変化量はTIC(Time Intensity Curve:輝度時間変化曲線)に常に内在し、TICから造影剤による輝度変化量を正確に算出するために必要な値となる。なお1秒という設定は術者が自由に変更することが可能であり、例えば患者の心拍等に合わせて適宜調整される。新たに設定される開始時間が取得した断層画像データの範囲を超える場合には、0秒が開始時間として設定される。
【0019】
画素(X1,Y1)におけるTICを図2に示す。評価部12では、開始時間から終了時間の時間範囲(tstart〜tend)における最大値Imaxと最小値Imin、術者が予め設定する設定輝度Iα、および設定輝度に達した時点の到達時間tαが画素毎にTICから算出される。評価部12では、断層画像データの全ての画素においてTICが解析され、最大値Imax、最小値Imin、設定輝度Iα、到達時間tαが算出される。
【0020】
閾値輝度Iαは最大値Imaxに術者が予め設定する係数αを掛けた値とする。係数αの値は術者が任意で決められるが、造影剤の流入開始時間をマッピングパラメータとする場合には、TICにおいて造影剤流入の血流動態を捉える必要がある。TICにおいて造影剤流入の血流動態を捉えるためには、経験的に係数αは0.5〜0.8程度が適当である。
【0021】
次に、評価部12は、造影剤による輝度変化量ΔI(Iα−Imin)を画素毎に算出する。造影剤の流入は主に血管である。血管における輝度変化量ΔIは比較的大きい。そのため、輝度変化量ΔIは比較的大きい画素は画像表示成分となる。一方、輝度変化量ΔIが小さい場合、体動、拍動等によるノイズ成分とみなすことができる。ここでは、評価部12は、断層画像データの画素の輝度変化量ΔIがノイズ除去閾値Nより小さい場合、断層画像データの画素をノイズ成分として評価し、断層画像データの画素の輝度変化量ΔIがノイズ除去閾値Nより大きい場合、断層画像データの画素を画像表示成分として評価する。
【0022】
評価部12の評価手法については、図3に示す。図3(a)における画素(X1,Y1)は、輝度変化量ΔIがノイズ除去閾値Nより大きいため、画像表示成分となる。図3(b)における画素(X2,Y2)は、輝度変化量ΔIがノイズ除去閾値Nより小さいため、ノイズ成分となる。このように、評価部12によって、断層画像データの各画素(全画素)において輝度変化量ΔIとノイズ除去閾値Nが比較され、画像表示成分とノイズ成分とに評価される。なお、術者は、評価部12に対して、ノイズ除去閾値Nを任意に設定することができる。
【0023】
血流動態画像構成部14は、断層画像データの各画素の輝度の変化に基づいて、造影剤の流入時間差に応じた染影を行った断層画像データを生成し、血流動態画像を構成する。血流動態画像構成部14は、画像表示成分と評価された画素について、染影処理を行ない、血流動態画像を構成する。染影処理は、各画素について、色付けを開始するフレーム(染影開始フレーム)以降のフレームに色付けする処理である。染影開始フレームは、輝度到達時間tαに相当するフレームである。これは、輝度到達時間tαと断層画像データのフレームレートとから特定する。そして、解析対象の断層画像データの、染影開始フレーム以降のフレームの当該画素を色付けする処理を施す。色付けには、輝度到達時間tαが該当する区分に対応づけて、所定のカラーチャートに記録されるカラーで特定される表示色を用いる。
【0024】
血流動態画像構成部14は、ノイズ成分とは評価された画素については、非造影部として0値化し、上記のような、色付けが行われない。つまり、ノイズ成分と評価された画素については、血流動態画像が作成されない。
【0025】
図4は、表示部10の表示形態を示すものである。表示部10は、2次元の断層画像データによる形態画像40を表示している。領域42は、血流動態画像の画像表示成分と評価された画素の領域である。領域44は、血流動態画像のノイズ成分と評価された画素の領域である。
【0026】
図4(a)は、本発明を適用していない表示部10の表示形態である。表示部10は、血流動態画像の画像表示成分と評価された画素の領域42と、血流動態画像のノイズ成分と評価された画素の領域44が表示されている。領域44は、血管ではないため、ノイズ成分であることが確認することができる。
【0027】
図4(b)は、本発明を適用している表示部10の表示形態である。表示部10は、血流動態画像の画像表示成分と評価された画素の領域42のみが表示されている。血流動態画像のノイズ成分と評価された画素の領域44を除去することができた。
【0028】
次に、本実施例における動作手順について図5を用いて説明する。
【0029】
(S10)術者は、評価部12に対して、ノイズ除去閾値Nを任意に設定する。
【0030】
(S11)評価部12は、造影剤による輝度変化量ΔIを各画素(全画素)に対して算出する。
【0031】
(S12)評価部12は、輝度変化量ΔIがノイズ除去閾値Nより小さい場合、ノイズ成分として評価し、輝度変化量ΔIがノイズ除去閾値Nより大きい場合、画像表示成分として評価する。
【0032】
(S13)血流動態画像構成部14は、ノイズ成分とは評価された画素については、非造影部として0値化し、色付けが行われず、血流動態画像を作成しない。
【0033】
(S14)血流動態画像構成部14は、画像表示成分と評価された画素について、染影処理を行ない、血流動態画像を構成する。表示部10には、血流動態画像の画像表示成分と評価された画素の領域のみが表示される。
【0034】
以上、本実施例によれば、撮像対象に対して超音波を送受信する探触子2と、断層画像データを構成する画像データ構成部と、断層画像データの各画素の輝度変化量に着目し、造影剤の流入時間に基づいて染影を行った血流動態画像を構成する血流動態画像構成部14とを備えた超音波診断装置であって、断層画像データの各画素の輝度変化量から血流動態画像の各画素を評価する評価部12と、評価部12の評価に基づいて血流動態画像のノイズ成分に該当する画素を除去するノイズ除去部13とを備えている。よって、血流動態画像のノイズ成分を除去することができる。
【実施例2】
【0035】
実施例2について説明する。評価部12は断層画像データの全画素の輝度変化量ΔIに基づいてノイズ除去閾値Nを設定する点である。
【0036】
具体的には、評価部12は、断層画像データの全画素の輝度変化量ΔIの内、所定割合以上の輝度変化量ΔIが画像表示成分となるように、ノイズ除去閾値Nを設定する。
【0037】
血流動態画像は、血管における造影剤の画像であり、画像全体の所望割合以下である。そこで、評価部12は、例えば、上位20%の輝度変化量ΔIが画像表示成分となるように、ノイズ除去閾値Nを設定する。つまり、画像全体の20%の領域が血流動態画像の画像表示成分として算出されることとなる。
【0038】
なお、上記では、上位20%の輝度変化量ΔIが画像表示成分となるように、ノイズ除去閾値Nを設定したが、術者は、評価部12に対して、所定割合を任意に設定することができる。
【0039】
以上、本実施例によれば、自動で適切なノイズ除去閾値Nを設定することができる。
【実施例3】
【0040】
実施例3について説明する。血流動態画像構成部14は、血流動態画像のノイズ成分若しくは画像表示成分の分布に基づいて血流動態画像のフレームを除去する点である。
【0041】
血流動態画像構成部14は、血流動態画像のノイズ成分と評価された画素領域が画像全体の所定面積以上である場合、若しくは血流動態画像の画像表示成分と評価された画素領域が画像全体の所定面積以下である場合、血流動態画像を表示する価値がないとして、血流動態画像のフレームを除去する。つまり、表示部10には、血流動態画像が表示されない。
【0042】
具体的には、血流動態画像構成部14は、血流動態画像のノイズ成分と評価された画素が画像全体の例えば95%以上の面積である場合、若しくは血流動態画像の画像表示成分と評価された画素が画像全体の例えば5%以下の面積である場合、血流動態画像のフレームを除去する。
【0043】
また、血流動態画像の画像表示成分と評価された画素の塊(繋がり)における面積が、所定面積以下である場合、血流動態画像を表示する価値がないとして、血流動態画像のフレームを除去してもよい。
【0044】
なお、術者は、血流動態画像構成部14に対して、血流動態画像のノイズ成分における所定面積若しくは血流動態画像の画像表示成分における所定面積を任意に設定することができる。
【0045】
以上、本実施例によれば、造影剤による輝度変化量を有した血流動態画像を効率的に表示することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 撮影対象、2 探触子、3 D/A変換器、4 送信ビームフォーマ、5 TGC、6 A/D変換器、7 受信ビームフォーマ、8 包絡線検波部、9 スキャンコンバータ、10 表示部、11 画像メモリ、12 評価部、13 ノイズ除去部、14 画像構成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像対象に対して超音波を送受信する探触子と、断層画像データを構成する画像データ構成部と、前記断層画像データの各画素の輝度変化量に着目し、造影剤の流入時間に基づいて染影を行った血流動態画像を構成する血流動態画像構成部とを備えた超音波診断装置であって、
前記断層画像データの各画素の輝度変化量から前記血流動態画像の各画素を評価する評価部と、前記評価部の評価に基づいて前記血流動態画像のノイズ成分に該当する画素を除去するノイズ除去部とを備えていることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記血流動態画像構成部は、造影剤の流入時間における血流動態の相対的な違いを色の違いで染影を行った血流動態画像を構成することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記評価部は、前記断層画像データの各画素の輝度変化量がノイズ除去閾値より小さい場合、ノイズ成分として評価することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記評価部は、前記断層画像データの全画素の輝度変化量に基づいて前記ノイズ除去閾値を設定することを特徴とする請求項3記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記血流動態画像構成部は、前記血流動態画像のノイズ成分若しくは画像表示成分の分布に基づいて前記血流動態画像のフレームを除去することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項6】
撮像対象に対して超音波を送受信し、断層画像データを構成するステップと、前記断層画像データから血流動態を評価するステップと、前記評価に基づいてノイズ成分を除去するステップと、ノイズ成分が除去された血流動態画像を構成するステップとを有していることを特徴とする超音波画像表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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