説明

超音波診断装置及び超音波診断装置における画像表示方法

【課題】血流信号とノイズ領域との境目を認識しやすくし、操作者の負担を軽減し、診断時間を短縮することが可能な超音波診断装置を提供する。
【解決手段】被検体内の運動体を含む診断部位との間で超音波ビームを送受信する送受信手段と、前記送受信手段により得られた受信信号から所望のレンジゲートの位置の前記運動体に起因したドプラ信号を抽出する抽出手段と、前記抽出されたドプラ信号からドプラスペクトラムを演算する周波数分析手段と、前記演算された前記ドプラスペクトラムの強度の小さい方の一部範囲を除く部分範囲にあるドプラスペクトラムの強度を変更する調整手段と、前記調整手段により変更された前記ドプラスペクトラムをその強度に基づく輝度で表示部に表示させる表示制御手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置及び超音波診断装置における画像表示方法に関し、特に、超音波のドプラ効果を利用して、血液等、体内の運動体の運動状態を診断する超音波診断装置及び超音波診断装置における画像表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波パルスドプラ法と超音波パルス反射法とを併用し、一つの超音波プローブで断層像(白黒Bモード像)と血流情報とを得るとともに、少なくともその血流情報をリアルタイムで表示するようにした超音波ドプラ診断装置が知られている。
【0003】
従来の超音波ドプラ診断装置について図11から図13を参照して説明する。図11は超音波診断装置の構成を示すブロック図、図12はタイミングチャートを示す図、図13は周波数スペクトルパターンを示す図である。
【0004】
この超音波ドプラ診断装置は血流情報として血流速度を計測するものである。超音波診断装置は、超音波プローブ201に接続された送信用のパルサ202及び受信用の前置増幅器203を有する。前置増幅器203の出力側には、ミキサ204、ローパスフィルタ205、サンプルホールド回路206、バンドパスフィルタ207、及び周波数分析器であるドプラスペクトラム演算部208、ゲイン調整回路209、ダイナミックレンジ調整回路210を介して表示器211に接続されている。
【0005】
この超音波ドプラ診断装置は、また送信制御及び受信制御のためのパルス発生回路212と、レンジゲート制御用のレンジゲート回路213とを備えている。パルス発生回路212は分周回路、ゲート回路などを備えており、所定周波数のクロックパルスa(図12参照)を発生させ、そのクロックパルスaをレンジゲート回路213及びミキサ204に供給するとともに、そのクロックパルスaに基づいて超音波繰返し周波数に相当するレートパルスb(図12参照)を生成し、そのレートパルスbをパルサ202及びレンジゲート回路213に供給する。
【0006】
上記パルサ202は、供給されたレートパルスbに基づいて高電圧の駆動電圧パルスを生成し、その駆動電圧パルスにより超音波プローブ201を励振する。この励振に伴って、超音波プローブ201は超音波パルス信号を生体P内に送波する。送波された超音波パルス信号の一部は、生体P内の血管壁及び血管内の血流B(主に赤血球)で反射して超音波エコー信号となる。この超音波エコー信号は再び同一の超音波プローブ201により受信され、電圧エコー信号d(図12参照)に変換される。
【0007】
この電圧エコー信号dは、超音波のドプラ効果を反映した受信信号となる。つまり、生体P内を流れている血流に対して超音波パルスを送波すると、流動する血球によって散乱され、ドプラ偏移を受ける。このため、超音波ビームの中心周波数fcがfdだけ変化し、受信周波数fはf=fc+fdとなる。このドプラ偏移周波数fdは、血流速度v、超音波ビームと血管の成す角度θ、音速cとして、およそ以下のように表される。
【0008】
fd={(2・v・cosθ・fc)/c}・fc
このため、受信電圧信号からドプラ偏移周波数fdを検出することにより血流速度vを知ることができるから、この検知に向けて上述した受信経路が動作する。
【0009】
すなわち、前置増幅器203は電圧エコー信号dを増幅し、その増幅信号をミキサ204に出力する。ミキサ204は、増幅された電圧エコー信号dとクロックパルスaとを混合し、その混合信号を次段のローパスフィルタ205に出力する。ローパスフィルタ205は、入力する混合信号の内、超音波搬送周波数などの高周波成分を除去し、ドプラ偏移周波数fdを中心とする低周波分のみをサンプルホールド回路206に出力する。
【0010】
このサンプルホールド回路206は、血流Bの速度の観測位置、すなわちサンプリング・ラスタ上の血流Bに対するレンジゲート(サンプリングポイント、サンプリングボリュームともいう)の位置のみのドプラ偏移信号を抽出するための回路である。この信号抽出を行うために、サンプルホールド回路206にはレンジゲート回路213からサンプリングパルスcが供給される。レンジゲート回路213は遅延時間を任意に設定できる回路で、超音波パルスを超音波プローブ201とレンジゲート位置Oとの間を往復伝搬するに等しい時間だけレートパルスbよりも遅延させ、且つ、設定されたパルス幅のサンプリングパルスc(図12参照)を形成し、このサンプリングパルスcをサンプルホールド回路206に供給する。なお、レンジゲート位置Oは、オペレータにより、Bモード断層上の血流速度を得たい血管の位置に、トラックボールやジョイスティックで任意に設定される。
【0011】
サンプルホールド回路206は、体表面からレンジゲート位置Oに対応したサンプリングパルスcでローパスフィルタ205の出力信号をサンプルホールドし、そのホールド結果をバンドパスフィルタ207に出力する。バンドパスフィルタ207では、サンプルホールド回路206のサンプリングで生じた高調波成分や血管などの固定反射信号及び比較的遅い生体内の動きに拠るドプラ偏移周波数が除去され、血流Bのドプラ偏移周波数のみが抽出される。この抽出信号が次段の周波数分析器であるドプラスペクトラム演算部208に送られ、高速フーリエ変換(FFT)などの周波数分析によってドプラ偏移周波数の周波数スペクトルパターン(ドプラスペクトラム)が演算される。この周波数スペクトルパターンは、時間(横軸)の経過に伴うドプラ偏移周波数(血流速度に対応:縦軸、各周波数成分の強度は輝度で表される)の変化を示すもので、ゲイン調整回路209、ダイナミックレンジ調整回路210を経由した後、表示器211にて例えば図13に示すようにリアルタイムに表示される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−308843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献に記載された超音波診断装置では、S/Nが悪い場合に操作者が操作部のゲイン設定を高く設定しても、信号もノイズも輝度が高く表示され、その差が見難く、血流信号とノイズ領域との境目が認識しづらく、操作者の大きな負担になっていた。また、同時に診断に非常に多くの時間がかかっていた。
【0014】
この発明は、上記の問題を解決するものであり、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、ドプラスペクトラムの強度の小さい方の一部範囲を除く部分範囲にあるドプラスペクトラムの強度を変更することにより、信号とノイズの表示輝度の差を大きくして、血流信号とノイズ領域との境目を認識しやすくし、操作者の負担を軽減し、診断時間を短縮することが可能な超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、この発明は、ドプラスペクトラムの強度に対し表示輝度を割り当てる場合に、ノイズに対してはなるべく少ない表示輝度を割り当て、信号に対しできるだけ多くの表示輝度を割り当てることに着目した。
具体的に、この発明の第1の形態は、被検体内の運動体を含む診断部位との間で超音波ビームを送受信する送受信手段と、前記送受信手段により得られた受信信号から所望のレンジゲートの位置の前記運動体に起因したドプラ信号を抽出する抽出手段と、前記抽出されたドプラ信号からドプラスペクトラムを演算する周波数分析手段と、前記演算された前記ドプラスペクトラムの強度の小さい方の一部範囲を除く部分範囲にあるドプラスペクトラムの強度を変更する調整手段と、前記調整手段により変更された前記ドプラスペクトラムをその強度に基づく輝度で表示部に表示させる表示制御手段と、を有する超音波診断装置である。
また、この発明の他の形態は、被検体内の運動体を含む診断部位との間で超音波ビームを送受信する送受信ステップと、前記送受信ステップにより得られた受信信号から所望のレンジゲートの位置の前記運動体に起因したドプラ信号を抽出する抽出ステップと、前記抽出されたドプラ信号からドプラスペクトラムを演算する演算ステップと、操作部の操作による指示を受けた場合、前記演算されたドプラスペクトラムを予め定められた利得で増幅し、予め定められた閾値とほぼ同じ強度のドプラスペクトラムの強度が予め定められた第1目標値に達しないとき、前記閾値とほぼ同じ強度のドプラスペクトラムが前記第1目標値に達するよう前記ドプラスペクトラムの強度を変更する変更ステップと、前記変更ステップ後に、さらに、前記閾値より大きい範囲を選択して、部分範囲のドプラスペクトラムとする選択ステップと、前記選択された前記部分範囲のドプラスペクトラムを所定の利得で増幅する増幅ステップと、前記増幅ステップにより前記増幅された前記部分範囲のドプラスペクトラムをその強度に基づく輝度で表示部に表示させるステップと、を有することを特徴とする超音波診断装置における画像表示方法である。
【発明の効果】
【0016】
この発明によると、操作者の負担を軽減し、診断時間を短縮することが可能となる。
【0017】
また、この発明の第1の形態によると、部分範囲にあるドプラスペクトラムの強度を変更し、部分範囲にあるドプラスペクトラムを適切な表示輝度で表示させることによって、見易いドプラ画像を表示することが可能となる。それにより、操作者の負担を軽減し、診断時間を短縮することが可能となる。
【0018】
さらに、この発明の第6の形態によると、例えば、ノイズレベルの最大値をわずかに見えるように表示させ、部分範囲にあるドプラスペクトラムをさらに適切な表示輝度で表示させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の第1実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ゲイン調節スイッチの動作を示す図である。
【図3】DRスイッチの動作を示す図である。
【図4】S/Nが悪い場合のドプラスペクトラムを示す図である。
【図5】(a)は図4のような場合で、ゲイン調節スイッチの設定を大きくしたときのドプラスペクトラムを示す図、(b)は図4のような場合で、DRスイッチの設定を小さくしたときのドプラスペクトラムを示す図である。
【図6】超音波診断装置の一連の動作を示す図である。
【図7】調整手段の一連の動作を示すフローチャートである。
【図8】この発明の第2実施形態に係る超音波診断装置の一連の動作を示す図である。
【図9】この発明の第3実施形態に係る超音波診断装置の一連の動作を示す図である。
【図10】図6の場合のドプラスペクトラムを示す図である。
【図11】従来例に係る超音波ドプラ診断装置の構成を示すブロック図である。
【図12】従来例に係る超音波ドプラ診断装置のタイミングチャートを示す図である。
【図13】従来例に係る超音波ドプラ診断装置の周波数スペクトルパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
(構成)
この発明の第1実施形態に係る超音波診断装置について図1から図7を参照して説明する。
【0021】
図1は超音波診断装置の構成を示すブロック図、図2はゲイン調節スイッチの動作を示す図、図3はDRスイッチの動作を示す図、図4はS/Nが悪い場合のドプラスペクトラムを示す図、図5(a)は図4のような場合で、ゲイン調節スイッチの設定を大きくしたときのドプラスペクトラムを示す図、(b)は図4のような場合で、DRスイッチの設定を小さくしたときのドプラスペクトラムを示す図、図6は超音波診断装置の一連の動作を示す図である。
【0022】
この第1実施形態に係る超音波診断装置は図1に示すように、電子走査型の超音波プローブ(以下、単にプローブという)11と、このプローブ11に接続された電子走査部12とを備えている。
【0023】
電子走査部12は、基準クロックを発生させる基準信号発生器20と、その基準クロックを受けて遅延駆動信号を生成するディレーライン21(後述する受信時の遅延も兼用)と、このディレーライン21からの遅延駆動信号を受けてプローブ11のアレイ型の圧電振動子群を励振させるパルサ22とを備えている。また、この電子走査部12には受信系の回路も内蔵されている。つまり、プローブ11に接続された前置増幅器23と、この前置増幅器23の出力信号を遅延させるディレーライン21と、このディレーライン21の遅延信号を加算する加算器24と、この加算器24の出力信号を対数増幅及び包絡線検波に付す検波器25とを備えている。ディレーライン21と加算器24とにより受信エコー信号の整相加算が行われ、これにより電子走査に付される。
【0024】
検波器25の出力信号はBモード断層像の画像信号としてDSC(デジタルスキャンコンバータ)30に供給され、このDSC30において超音波走査から標準TV走査の信号に変換される。DSC30の変換信号は、D/A変換器31を介して表示部(CRT)32に送られる。
【0025】
加算器24の出力は、抽出手段40の位相検波用のミキサ41を介してローパスフィルタ43にもあたえられる。また基準信号発生器20の出力は、ミキサ41の一方のチャンネルに直接与えられ、90度移相器42を介してミキサ41の他方のチャンネルに接続されている。このため、電子走査部12における整相加算された受信エコー信号がミキサ41に加えられるほか、基準信号発生器20からの基準信号f0及び90度の位相差をもった基準信号f0がミキサ41の2チャンネルに各々加えられる。これにより、ミキサ41はドプラ偏移周波数fdの信号と「2f0+fd」の信号をローパスフィルタ43に出力する。このローパスフィルタ43では、ミキサ41からの混合信号の内の高周波成分が除去され、ドプラ偏移周波数fdの信号のみが得られる。このドプラ偏移周波数fdの信号は血流情報に演算するための位相検波出力であり、次段のドプラスペクトラム演算部50に出力される。
【0026】
このドプラスペクトラム演算部50は、サンプリングパルスを出力するレンジゲート回路60と、そのサンプリングパルスを入力するサンプルホールド回路61と、このサンプルホールド回路61の出力をフィルタリングするバンドパスフィルタ62と、このバンドパスフィルタ62の出力を周波数解析する周波数分析器(FFT)63、その周波数分析器63の出力の変更調節をし、出力を表示信号に変換する調整手段64と、調整手段64の出力端はDSC30に接続されている。
【0027】
サンプルホールド回路61は、生体内の所望深さ位置の血流だけのドプラ信号を抽出しようとするもので、前記ローパスフィルタ43の位相検波出力信号がサンプルホールド回路61の入力信号となっている。
【0028】
レンジゲート回路60は、後述する操作部82から与えられるレンジゲート位置信号に基づいて遅延時間を任意に設定可能な回路構成になっており、プローブ11と所望のレンジゲート(サンプリングポイント、サンプリングボリュームともいう)の位置との間を超音波信号が往復するに相当する時間だけレートパルスよりも遅延させ、且つ、設定幅を有するサンプリングパルスをサンプルホールド回路61に供給する。これにより、サンプルホールド回路61は、ローパスフィルタ43からの位相検波出力信号をサンプリングパルスでサンプルホールドする。このサンプルホールドされた位相検波信号はその後、バンドパスフィルタ62を通過し、このバンドパスフィルタ62により、サンプルホールド回路61でのサンプリングにより生じた高調波成分、血管壁などからの固定反射信号、さらには比較的遅い動きに拠るドプラ偏移周波数に相当した成分が除去され、血流に拠るドプラ信号のみが抽出される。
【0029】
周波数分析器63は、高速フーリエ変換回路を有し、バンドパスフィルタ62から入力したドプラ偏移周波数の周波数解析を行い、その解析結果、即ちドプラスペクトラム(周波数スペクトルパターン)を調整手段64を介してDSC30に出力する。それにより、表示部32には、Bモード断層像と並列にドプラスペクトルが分割表示されるようになっている。
【0030】
調整手段64は、ドプラスペクトラムの強度の小さい方の一部範囲を除く部分範囲にあるドプラスペクトラムの強度を変更する。ここで、一部範囲は、ドプラスペクトラムの強度が予め定められた閾値より小さい方の範囲であり、部分範囲は、予め定められた閾値より大きい方の範囲である。また、閾値は、例えば、ドプラスペクトラムに含まれるノイズ領域の最大値である。調整手段64は、補正手段65、選択手段66、増幅手段67、記憶手段68及び制御手段69を有している。
【0031】
補正手段65は、ドプラスペクトラムの強度(「振幅」、「大きさ」とも呼ぶ。)を変更した場合に、予め定められた閾値とほぼ同じ強度のドプラスペクトラムが予め定められた第1目標値に達しないとき、その閾値とほぼ同じ強度のドプラスペクトラムが第1目標値に達するまで、ドプラスペクトラムの強度を変更する。
【0032】
選択手段66は、予め定められた閾値より大きい範囲を選択して、部分範囲のドプラスペクトラムとする。また、増幅手段67は、選択された部分範囲のドプラスペクトラムを所定の利得で増幅する。
【0033】
記憶手段68は、前記閾値、第1目標値、ドプラスペクトラムの強度を表示の明るさや色調に書き換えるためのマップ(map)と呼ばれる変換テーブルが記憶されている。また、記憶手段68には、線形の他に、例えば、小さな振幅に対する輝度を抑えたりするような多種類の変換テーブルが記憶されている。制御手段69は、記憶手段68から読み出した所定の変換テーブルを基に、選択手段66により選択された部分範囲のドプラスペクトラム、あるいは、増幅手段67により増幅されたドプラスペクトラムを表示信号に変換する。
【0034】
操作パネルである操作部82はオペレータが任意に操作可能なトラックボールやキーボードを備えており、この操作部82の操作を介して前述したレンジゲート位置信号及びフリーズ指令信号を出力する。また、操作部82は、表示輝度を調節するゲイン調節スイッチを有する。
【0035】
コントローラ90は、ゲイン調整スイッチの設定値から、調整手段64への設定値を変化させるためのものである。調整手段64の設定値は、上記の閾値、利得、及び変換テーブルを含む。
【0036】
次に、本実施形態に係る超音波診断装置の全体動作について図1から図6を参照にして説明する。図6(a)は、周波数分析器(FFT)63から出力されたドプラスペクトラム、(b)は、強度を変更したドプラスペクトラム、(c)は、所定の利得で増幅した部分範囲のドプラスペクトラムをそれぞれ示す図である。
【0037】
この超音波診断装置が起動すると、電子走査部12は、基準信号発生器20から出力されるレートパルスによって、プローブ11を励振し、超音波信号を被検体内に送波させる。この超音波信号は被検体の各部で反射し、再びプローブ11で受信される。プローブ11からは超音波エコー信号に対応する電気信号に変換され、電子走査部12の加算器24で受信フォーカスが掛けられ、出力された指定ラスタアドレスの受信信号のうち一方は、検波器25に与えられ、対数増幅処理、包絡線検波処理され、指定ラスタアドレスの画像信号に検波・変換される。このBモード断層像を形成する画像信号はDSC30に供給される。
【0038】
電子走査部12の加算器24から出力された受信信号のうち一方は、ミキサ41で位相検波され、ドプラ偏移周波数fdの信号と周波数(2f0+fd)の成分を有する信号が得られ、ローパスフィルタ43によって高周波成分が除去されてドプラ偏移周波数fdの信号のみが得られる。この血流情報演算のための位相検波出力信号はドプラスペクトラム演算部50に出力され、サンプルホールド回路61によって生体内の血流が流れている深さの位置だけの信号を抽出し、高速フーリエ変換することによってリアルタイムに周波数解析される。
【0039】
このドプラスペクトラム演算部50では、レンジゲート回路60の遅延時間が任意に設定できる。これは、プローブ11からサンプリングポイント位置(レンジゲート位置)までの往復する時間を遅延し、設定された長さに対応する幅を有するサンプリングパルスをサンプルホールド回路61に与えることによってなされ、オペレータが指定したレンジゲートの位置のドプラ信号が得られるようになっている。
【0040】
こうして高速フーリエ変換することによって得られたドプラスペクトルは、DSC30に供給され、Bモードの画像データとともにドプラスペクトラムのデータは、標準TV走査方式の画像に合成・変換され、D/A変換器31を介して表示部32に供給される。この結果、表示部32には、診断部位のBモード断層像とドプラスペクトラムとが例えば分割表示される。
【0041】
まず、ゲイン調整スイッチとDRスイッチの動作原理について説明する。操作部82には利得(ゲイン)を調節するゲイン調節スイッチが具備されている。ゲイン調節スイッチの操作によるコントローラ90の指示を受けて、増幅手段67が所定の利得で増幅する。ここでは、増幅手段67がゲイン調整回路に相当する。
【0042】
検査の際、操作者はドプラスペクトラム表示が見やすくするため、ゲイン調節スイッチを調節し、ドプラスペクトラムの明るさ(輝度)を調節する。図2に示すようにゲイン調節スイッチの値を大きくすると、ドプラスペクトラムが明るく表示され、ゲイン調節スイッチの値を小さくすると、ドプラスペクトラムが暗めに表示される。
【0043】
また操作部82には表示ダイナミックレンジを調節するDRスイッチ(ダイナミックレンジ調節スイッチ)が具備されている。DRスイッチの操作によるコントローラ90の指示を受けて、選択手段66が、ドプラスペクトラムの強度の範囲(表示可能な信号の範囲)を選択し、選択された範囲を増幅手段67が所定の利得で増幅する。又は、選択された範囲に所定の変換テーブルを制御手段69が記憶手段68から読み出して対応させる。選択手段66〜制御手段69がダイナミックレンジ調整回路(DR調整回路)に相当する。
【0044】
操作者はドプラスペクトラム表示が見やすくするため、このDRスイッチを調節する。図3に示すように、DRスイッチの値を大きくすると、異なる入力信号の輝度が異なった輝度で表示されるが、DRスイッチの値を小さくすると、全体的な輝度が明るくなり、ある一定以上の信号強度が飽和した状態(同じ輝度)で表示される。
【0045】
ドプラスペクトラムのS/Nが良い時には、いずれのスイッチでも比較的容易に見やすいドプラスペクトラム表示とすることが可能であるが、図4のようなS/Nが悪い時には困難である。図5(a)に示すようにゲインを上げると表示全体の輝度が上がるため、信号とノイズとの境目の見易さは大きく改善せず、図5(b)に示すようにDRスイッチの値を小さくしても同様である。
【0046】
(動作)
次に、操作部82のゲイン調節スイッチの操作により、コントローラ90の設定値の小から大への変化を受けた場合の調整手段64の一連の動作について、図7を参照して説明する。図7は調整手段の一連の動作を示すフローチャートである。ここで、設定値の小から大への変化とは、増幅手段67による利得を大きくすることをいう。
【0047】
コントローラ90の設定値の小から大への変化を受けた場合(ステップS101;Y)、ノイズレベルが第1目標値に達しない場合(ステップS102;N)、増幅手段67は、ノイズレベルが第1目標値に達するまでは、ドプラスペクトラムの強度を変更する(変更ステップ;S103)。変更ステップを図6(a)から図6(b)に示す。ここで、第1目標値は、例えば表示上、ノイズ信号がわずかに見えるレベルをいう。ノイズ信号の最大値を図6に閾値A1で示す。閾値A1は予め定められ、前述したように、記憶手段68に記憶されている。
【0048】
さらに、コントローラ90の設定値の小から大への変化を受けた場合、選択手段66は、部分範囲のドプラスペクトラム(ノイズレベル以上の信号に対する部分)のみを選択する(選択ステップ;S104)。なお、仮に、当初からノイズレベルが第1目標値に達していた場合(ステップS102;Y)、変更ステップを経ることなく、選択ステップを行う。
【0049】
次に、制御手段69は、選択された部分範囲のドプラスペクトラムに適応するダイナミックレンジを調整する。変更ステップを図6(b)から図6(c)に示す。このとき、制御手段69は、ゲイン調節スイッチの操作による設定値の変化に対応させて、そのダイナミックレンジを変化させる。
【0050】
表示制御手段(図示省略)は、変更されたドプラスペクトラムをその強度に基づく輝度で表示部32に表示させる(表示ステップ;S105)。それにより、部分範囲にあるドプラスペクトラム(血流信号)をさらに適切な表示輝度で表示させることが可能となる。輝度値0で表示されたノイズレベル(第1目標値)、輝度値255で表示されたドプラスペクトラムの最大値を図6に示す。ノイズ信号をわずかに見えるようノイズレベル(第1目標値)の輝度値を設定しても良い。ノイズ信号をわずかに見えるようにすることにより、表示部32に表示される血流信号の中に小さいものを確実に含ませることが可能となる。なお、コントローラ90の設定値の小から大への変化を受けない場合(ステップS101;N)、ドプラスペクトラムをその強度に基づく輝度で表示する(S105)。
【0051】
以上のような仕組みにより、図10に示すように、S/Nが悪い時にも、ゲイン調節スイッチを変化させるだけで、信号部分とノイズ部分との輝度差が大きく、信号とノイズとの境目の見易い画像を提供することが出来る。
【0052】
なお、本機能のON/OFFスイッチを設けても良い。また、一定時間ドプラスペクトラムを観察し、その中の最高強度信号を血流信号と判断し、S/Nがある閾値以下の場合のみ、本機能を動作させても良い。
【0053】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る超音波診断装置について、図8を参照して説明する。前記第1実施形態では、操作部82のゲイン調節スイッチの操作により、コントローラ90の設定値の小から大への変化を受けて、調整手段64が、ドプラスペクトラムの強度とダイナミックレンジを変更したが、この第2実施形態では、ゲイン調節スイッチの操作に関わらず、調整手段64が、ドプラスペクトラムの強度とダイナミックレンジを自動的に変更する点が第1実施形態と異なる。それ以外の構成については、第1実施形態の構成と基本的に同じである。
【0054】
以下、操作部82の表示ゲイン自動調節スイッチの押し操作により、コントローラ90の指示を受けた場合の調整手段64の一連の動作について説明する。
【0055】
コントローラ90の指示を受けた場合、ノイズレベルが第1目標値に達しない場合、補正手段65は、ノイズレベルが第1目標値に達するまでは、ドプラスペクトラムの強度を変更する(変更ステップ)。変更ステップを図8(a)から図8(b)に示す。
【0056】
次に、選択手段66は、部分範囲のドプラスペクトラム(ノイズレベル以上の信号に対する部分)のみを選択する(選択ステップ)。なお、仮に、当初からノイズレベルが第1目標値に達していた場合、変更ステップを経ることなく、選択ステップを行う。
【0057】
次に、増幅手段67は、一定時間観察されたドプラスペクトラムの中の最高強度信号A2を基に、その最高強度信号A2が決られた第2目標値になるように、部分範囲のドプラスペクトラムのダイナミックレンジを変更する。最高強度信号を図9にA2で示す。ダイナミック変更ステップを図8(b)から図8(c)に示す。なお、第2目標値及び最高強度信号A2は、予め定められ、記憶手段68に記憶されている。
【0058】
上記第2実施形態に係る超音波診断装置によれば、表示ゲイン自動調節スイッチの押し操作により、部分範囲にあるドプラスペクトラムを適切な表示輝度で表示させることが可能となり、操作者の負担をさらに軽減し、診断時間をさらに短縮することが可能となる。
【0059】
[第3の実施の形態]
次に本発明の第3実施形態に係る超音波診断装置について、図9及び図10を参照して説明する。図9は超音波診断装置の一連の動作を示す図、図10はドプラスペクトラムを示す図である。
【0060】
従来のDR調整回路は、図3に示すように、DRスイッチの値を大きくすると、異なる入力信号の輝度が異なった輝度で表示されるが、DRスイッチの値を小さくすると、全体的な輝度が明るくなり、ある一定以上の信号強度が飽和した状態(同じ輝度)で表示される。
【0061】
従来のDR調整回路では、入力信号0が出力輝度0に対応しており、DR設定(選択手段66により選択された範囲の大きさ)に応じて、制御手段69が所定の変換テーブルを用いることで、入出力特性直線の傾き(利得)を変化させていることになり、DR設定に応じてノイズの表示輝度も大きく変化してしまう。
【0062】
この第3実施形態では、制御手段69が閾値A1を入出力特性直線(ダイナミックレンジ特性)の傾きの中心の値となるように制御を行う。このような制御を行うことで、DR設定に係わらず、閾値A1の信号は同じ輝度で表示されるようになる。
【0063】
更に、ノイズレベルの信号強度を常に同じ出力輝度になるように制御を行なう。操作部82上は同じDR設定値でも、使用するプローブや送受信条件、ゲイン調節スイッチ設定値によってノイズレベルの信号強度が変化した際も、同じ出力輝度となるように制御し、そのノイズレベルに応じて、閾値A1(入出力特性直線の傾きの中心の値)を変化させる。それにより、DR設定値を変化させた際でも、ノイズの表示輝度が変化せず、見やすいスペクトラムを表示させることが出来る。
【符号の説明】
【0064】
A1 閾値 A2 最高強度信号
11 超音波プローブ 12 電子走査部 20 基準信号発生器
21 ディレーライン 22 パルサ 23 前置増幅器 24 加算器
25 検波器 30 DSC 31 D/A変換器 32 表示部(表示器)
40 抽出手段 41 ミキサ 42 90度位相器 43 ローパスフィルタ
50 ドプラスペクトラム演算部 60 レンジゲート回路
61 サンプルホールド回路 62 バンドパスフィルタ
63 周波数分析器(FFT)
64 調整手段 65 補正手段 66 選択手段 67 増幅手段
68 記憶手段 69 制御手段 82 操作部(操作パネル)
90 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内の運動体を含む診断部位との間で超音波ビームを送受信する送受信手段と、
前記送受信手段により得られた受信信号から所望のレンジゲートの位置の前記運動体に起因したドプラ信号を抽出する抽出手段と、
前記抽出されたドプラ信号からドプラスペクトラムを演算する周波数分析手段と、
前記演算された前記ドプラスペクトラムの強度の小さい方の一部範囲を除く部分範囲にあるドプラスペクトラムの強度を変更する調整手段と、
前記調整手段により変更された前記ドプラスペクトラムをその強度に基づく輝度で表示部に表示させる表示制御手段と、
を有する
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記調整手段は、予め定められた閾値を下回る強度のドプラスペクトラムを前記一部範囲として除き、前記閾値とほぼ同じ強度のドプラスペクトラムが予め定められた第1目標値に達しないとき、前記閾値とほぼ同じ強度のドプラスペクトラムが前記第1目標値に達するよう前記ドプラスペクトラムの強度を変更する補正手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記調整手段は、前記閾値より大きい範囲を選択して、前記部分範囲のドプラスペクトラムとする選択手段と、前記選択された前記部分範囲のドプラスペクトラムを所定の利得で増幅する増幅手段とを更に有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記増幅手段は、前記部分範囲にある最大値のドプラスペクトラムが予め定められた第2目標値となるように、前記選択された前記部分範囲のドプラスペクトラムを増幅させることを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記調整手段は、前記閾値を中心とする予め定められた強度の範囲を選択して、該選択された範囲の内、閾値以上の範囲を前記部分範囲のドプラスペクトラムとする選択手段と、前記選択された前記範囲のドプラスペクトラムを所定の利得で増幅する増幅手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記表示制御手段は、横軸又は縦軸の一方に時間軸をとり、横軸又は縦軸の他方にドプラ偏移周波数をとり、時間の経過に伴って変化する前記ドプラ偏移周波数の強さに応じた輝度で、前記ドプラスペクトラムを前記表示部に表示させることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項7】
被検体内の運動体を含む診断部位との間で超音波ビームを送受信する送受信ステップと、
前記送受信ステップにより得られた受信信号から所望のレンジゲートの位置の前記運動体に起因したドプラ信号を抽出する抽出ステップと、
前記抽出されたドプラ信号からドプラスペクトラムを演算する演算ステップと、
操作部の操作による指示を受けた場合、前記演算されたドプラスペクトラムを予め定められた利得で増幅し、予め定められた閾値とほぼ同じ強度のドプラスペクトラムが予め定められた第1目標値に達しないとき、前記閾値とほぼ同じ強度のドプラスペクトラムが前記第1目標値に達するよう前記ドプラスペクトラムの強度を変更する変更ステップと、
前記変更ステップ後に、さらに、前記閾値より大きい範囲を選択して、部分範囲のドプラスペクトラムとする選択ステップと、
前記選択された前記部分範囲のドプラスペクトラムを所定の利得で増幅する増幅ステップと、
前記増幅ステップにより前記増幅された前記部分範囲のドプラスペクトラムをその強度に基づく輝度で表示部に表示させるステップと、
を有する
ことを特徴とする超音波診断装置における画像表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図4】
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【図5】
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【図10】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−274068(P2010−274068A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132558(P2009−132558)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】