説明

超音波診断装置

【課題】パルスドプラ法において、速度レンジを拡大する場合に、送信周波数(参照周波数)と送信繰り返し周波数(PRF)の最適な組み合わせが設定されるようにする。
【解決手段】速度レンジを規定する指示値が増大されると、参照周波数が段階的に引き下げられ、各段階においてPRFが連続的に高められる。これによって、PRFを表すグラフ上には鋸歯状パターンが生じる。鋸歯状パターンが高域側のみならず低域側において生じるように、参照周波数とPRFの組み合わせ条件を設定することも可能である。また、プローブ帯域優先モードに対応する特性(テーブル)とプローブ温度優先モードに対応する特性(テーブル)とを用意し、それらを選択的に利用することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、パルスドプラ法に従ってドプラ波形を形成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスドプラ法においては、生体内への超音波パルスの送信と生体内からの反射波の受信とが繰り返される。その際、超音波パルスの中心周波数fcは一般にプローブの周波数帯域の中心付近に設定される。超音波の送受波ごとに受信信号が得られ、その受信信号は一般に参照信号を用いた直交検波処理によりベースバンド領域の複素信号に変換される。その複素信号はFFT回路に入力され、ドプラ成分の周波数解析処理が実行される。これによりスペクトル信号が得られる。そのスペクトル信号が時間軸上に並べられ、これによってドプラ波形が生成される。その横軸は時間軸であり、その縦軸は速度軸であり、各時相における各速度成分が輝度で表される。上記の直交検波処理で用いられる参照信号は複素信号であり、つまり互いに90度位相が異なる一対の信号によって構成される。その参照信号の周波数(参照周波数)f0は上記の送信パルスの中心周波数fcと通常一致している。
【0003】
パルスドプラ法においては、良く知られているように折り返し現象(エリアシング)が生じる。つまり、観測可能な速度レンジを超えた速度成分が反対側の速度領域に折り返して観測されてしまうという問題である。観測可能な速度レンジつまり速度限界Vmaxは以下の(1)式によって定まることが知られている。
【0004】
Vmax=±(C×PRF)/(4×cosθ×f0) … (1)
【0005】
ここで、Cは生体中の音速であり、それは例えば1530m/sである。PRFは送信繰り返し周波数である。cosθは、超音波ビームと血流方向とがなす角度である。例えば、f0が5MHzで、PRFが20kHzの場合、cosθが1であれば、153cm/sを超える血流成分に折り返しが生じる。PRFを高くすれば速度レンジを拡大できるが、PRFは観測可能な深さつまり診断距離を規定するものでもあるので、必要な診断距離を確保できるところまでを限度として、PRFを上げられる。それ以上PRFを上げることはできない。従来の一般的な超音波診断装置においては、速度レンジの拡大に当たってはPRFだけが変更されている。
【0006】
ちなみに、特許文献1には、上記(1)式に示される関係を前提として、最大検出深度が一定に保持されるように、参照信号の参照周波数及び送信繰り返し周波数を設定する超音波診断装置が開示されている。しかし、そこには参照周波数と送信繰り返し周波数の組合せをどのように変化させるのかについては記載されていない。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−234955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の一般的な超音波診断装置においては、パルスドプラモードにおいて、PRFだけの変更によって速度レンジが拡大されていたため、速度レンジを十分に大きくすることができず、このため折り返しが生じやすいという問題がある。そこで、更に速度レンジを拡大するために、上記(1)式に従って、送信繰り返し周波数に加えて参照周波数も変更することが考えられる。しかし、参照周波数は送信周波数と同じ周波数であるから、それは装置動作の上で基本パラメータであって、それについては細かく柔軟に変更できないという事情がある。実際、送信周波数として選択可能な値は有限の個数に制限されている場合が多い。例えば、その刻みは1MHz、0.5MHz等である。よって、送信繰り返し周波数をその上限まで高めた上で、そこから参照周波数を一段引き下げると、その時点で速度レンジが急峻に変化(拡大)してしまい、使い勝手が悪くなる。そのような限界に到達する前に、参照周波数を引き下げることも勿論可能であるが、そのような引き下げを無造作、無秩序に行うならば、速度レンジに急峻な変化が生じたり、感度が過剰に劣化してしまったりする問題が生じる。なお、送信繰り返し周波数の変更は、送信タイミングの時間的な制御により容易に実現できるものである。すなわち、必要な診断深度が確保できる限りにおいて、送信繰り返し周波数を滑らかにあるいは細かく変更することは容易である。
【0009】
よって、参照周波数及び送信繰り返し周波数のそれぞれの特質を考慮しつつ、速度レンジを自然に拡大することが望まれるが、従来においては、そのような要望を実現する構成は提供されていない。
【0010】
本発明の目的は、超音波パルスドプラ法の実行において、速度レンジの指示値を変更していった場合に、各指示値に対応して適切な送受信条件が自動的に設定されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る超音波診断装置は、生体へ送信パルスを繰り返し送信し、各送信ごとに生体内からの反射波を受信して受信信号を順次出力する送受信手段と、参照信号を用いて前記受信信号を処理してドプラ情報を含む複素信号を生成する受信信号処理手段と、前記複素信号に対して周波数解析処理を適用する周波数解析処理手段と、前記周波数解析結果の時間軸上の変化を表すドプラ波形を生成するドプラ波形生成手段と、前記ドプラ波形における流速レンジを規定する指示値に従って、送信パルスの送信繰り返し周波数及び前記参照信号の参照周波数の組み合わせを設定する制御手段と、を含み、前記制御手段は、前記指示値の増大に応じて、前記参照周波数を段階的に引き下げ、その各段階ごとに前記送信繰り返し周波数を上昇させる、ことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、流速レンジを規定する指示値を変更すると、制御手段が、各指示値に相応しい送信繰り返し周波数及び参照周波数を自動的に設定する。より詳しくは、指示値が増大されると、参照周波数が段階的に引き下げられる一方において、各段階において送信繰り返し周波数が高められる。このような組み合わせ設定の結果として、速度レンジが比較的滑らかにあるいは大きな不連続なく徐々に拡大される。参照周波数の変化よりも送信繰り返し周波数の方が優先的にこまめに変更されるので、換言すれば、前者よりも後者の方が何度も変更されるので、参照周波数(つまり送信中心周波数)を細かく変更できないような場合においても速度レンジを滑らかに変更でき、また、参照周波数をできるだけ維持して良好な感度を確保できるという利点が得られる。指示値の変化に対して、参照周波数及び送信繰り返し周波数の2つの組み合わせをどのように変化させるのかについては、感度、発熱、等の諸事情の中で何を重視するのかという観点からしてもよい。
【0013】
望ましくは、前記指示値の変化に対する前記送信繰り返し周波数を変化をグラフとして表した場合にそのグラフが鋸歯状パターンを有する。それに同期して、参照周波数は階段状に変化することになる。望ましくは、前記グラフは前記指示値の低域側及び高域側のそれぞれにおいて鋸歯状パターンを有する。一般に、使用プローブごとに最適な送信周波数(送信パルスの中心周波数)が定まるため、通常の場合(通常域)においては、従来同様に、その最適値がそのまま送信周波数つまり参照周波数として設定されつつ、送信繰り返し周波数だけの可変によって速度レンジが変更される。通常域よりも高い高域では、速度レンジを拡大するために、参照周波数が段階的に引き下げられる。逆に、通常域よりも低い領域では、速度レンジが広すぎてしまうため、参照周波数が段階的に高められるのが望ましい。
【0014】
望ましくは、前記指示値の変化に対して、前記参照周波数が粗く変化し、前記送信繰り返し周波数が細かく変化する。望ましくは、前記指示値をユーザーが指定するための指示値指定手段を含む。この構成によれば、ユーザーは、指示値を変更するだけでよく、各指示値に適合する参照周波数と送信繰り返し周波数の最適な組合せは制御手段により自動的に設定される。よって、ユーザーは参照周波数の変わり目を格別意識しなくてもよい。但し、計測条件の変更があったことをユーザーに報知するようにしてもよい。それは単なる周波数表示の変更であってもよい。
【0015】
望ましくは、前記各指示値に対応する前記送信繰り返し周波数及び前記参照周波数の組み合わせからなるテーブルを格納した記憶部を有する。望ましくは、前記記憶部には、複数のモードに対応した複数のテーブルが格納され、前記複数のテーブルの中から実際に使用するテーブルが選択される。望ましくは、前記複数のモードには感度優先モード及び温度管理優先モードが含まれ、前記指示値を中域から徐々に増大させた場合に、前記感度優先モードよりも前記温度管理優先モードの方が先に前記参照周波数が引き下げられる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、超音波パルスドプラ法の実行において、速度レンジの拡大のために指示値を変更していった場合に、各指示値に対応して適切な送受信条件を自動的に設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されおり、図1はその全体構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は医療の分野において用いられ、パルスドプラ法に基づいてドプラ波形を表示する機能を有している。
【0019】
図1において、プローブ10は、体表面上に当接して用いられる超音波送受波器である。プローブ10は、本実施形態において複数の振動素子からなる1Dアレイ振動子を有している。この1Dアレイ振動子により超音波ビームが形成される。パルスドプラモード(PWモード)においては、Bモード画像上において特定の方位にビーム方位が設定され、当該方位上において繰り返し超音波ビームが形成され、当該方位上において設定されたサンプルゲートからのドプラ情報が繰り返し抽出される。プローブ10に、1Dアレイ振動子に代えて2Dアレイ振動子を設けるようにしてもよい。
【0020】
送信部12は、送信ビームフォーマである。送信部12は、1Dアレイ振動子を構成する複数の振動素子に対して複数の送信駆動信号を供給する。これにより1Dアレイ振動子によって送信ビームが形成される。送信部12に対して制御部30から制御信号が供給されており、本実施形態においては、制御部30が送信周波数(送信パルスの中心周波数)及び送信繰り返し周波数(PRF)を設定している。
【0021】
受信部14は受信ビームフォーマである。上記のような送信ビームの形成により、生体内からの反射波が1Dアレイ振動子にて受波されると、複数の振動素子から複数の受信信号が並列的に出力される。それらの受信信号が受信部14に入力され、複数の受信信号に対して整相加算処理が実行される。これによって受信ビームが形成され、それに相当する受信信号(ビームデータ)が受信部14から出力される。受信部14における動作条件も制御部30において設定されている。
【0022】
直交検波部16は、複素信号変換器として機能するものであり、入力される受信信号に対して複素関係にある一対の信号(参照信号)18を混合することによりいわゆる直交検波処理を実行するものである。直交検波部16は、具体的には2つのミキサ、2つのLPF(ローパスフィルタ)等を含むものである。この直交検波処理により、受信信号がベースバンド領域の信号に変換され、その信号が複素信号20として周波数解析部24に出力される。
【0023】
周波数解析部24においては、入力される複素信号20に基づいてFFT解析処理を実行し、これによってドプラ成分の周波数スペクトラムを求める。そのスペクトル情報は表示処理部26へ出力される。表示処理部26は、各スペクトラムを時間軸上に揃えつつ、各周波数成分の大きさを輝度で表すことにより、公知のドプラ波形を生成する。そのドプラ波形は表示部28の画面上に表示される。
【0024】
制御部30は、図1に示される各構成の動作制御を行っている。特に、送信部12の動作条件である送信周波数及び送信繰り返し周波数(PRF)の設定を行っている。また、参照信号生成部22に対して参照信号の周波数すなわち参照周波数の設定を行っている。参照周波数は送信周波数と一致するものである。したがって単一の信号源を利用して送信周波数及び参照周波数を生成することが可能である。
【0025】
制御部30には入力部32が接続されている。入力部32には、例えば操作パネルにより構成されるものである。本実施形態において入力部32はレンジ設定器34を有している。このレンジ設定器34は操作パネル上のつまみであってもよいし、タッチパネルに表示されるアイコンのようなものであってもよい。レンジ設定器34を利用してユーザーは速度レンジを変更することができ、具体的にはレンジ設定器34において後に説明するステップすなわち指示値が設定される。制御部30には記憶部36が接続されている。この記憶部36上には本実施形態においてレンジ設定用のテーブルが1又は複数格納されている。そのテーブルに関しては後に図3等を用いて説明する。制御部30は、ユーザーにより指示値が与えられると、その指示値が規定する速度レンジを実現するために、送信周波数(参照周波数)と送信繰り返し周波数(PRF)の組み合わせを決定する。その決定に際しては記憶部36上に格納されたテーブルが参照される。指示値の大きさに対して参照周波数がどのように変化するのか及びPRFがどのように変化するのかについては後に詳述する。
【0026】
図2には、折り返し現象及びその防止が模式的に示されている。(A)にはドプラ波形が示されている。横軸は時間軸であり、縦軸はドプラシフトの周波数すなわち血流の速度を表している。各時刻におけるスペクトルを構成する各速度成分は輝度によって表される。図示されるように、折り返し38,40が生じている。このような折り返し38,40が生じると、血流速度の観測を適切に行うことができなくなる。そこで、(B)に示すように速度レンジを拡大することが望まれ、そのような速度レンジの拡大によれば観測可能な流速の上限値を引き上げて折り返しを防止することができる。(B)においてはドプラ波形の途切れが解消されている。このように、速度レンジの拡大はパルスドプラ法によるドプラ波形の観測において重要であるが、速度レンジの拡大のために参照周波数及びPRFを無造作にあるいは無秩序に変更するならば必要以上に感度が劣化してしまったりあるいは速度レンジが急激に変化してしまったりする問題が生じる。そこで、以下に示すような制御が実行されている。
【0027】
図3には、図1に示した記憶部36に格納されるテーブルの一例が示されている。図3において、ステップは指示値を表しており、このステップはユーザーにより選択されるものである。Vmaxは速度レンジを表しており、すなわち正方向及び負方向の両方向において観測可能な流速限界を表している。もちろん、ベースランシフト等の技術が適用される場合、正方向及び負方向に非対称の範囲が設定されてもよい。参照周波数はリファレンス信号としての参照信号の周波数を表しており、それは送信周波数に一致するものである。PRFは上記のとおり送信パルスの繰り返し周波数を表している。ちなみに、ステップ20a及びステップ20bは同じ速度レンジを実現する2つの組み合わせ(参照周波数及びPRFの組み合わせ)を表しており、実際に装置に組み込む場合にはいずれかのステップだけを搭載するようにしてもよいし、あるいは両方を搭載しておいて、それらのいずれかが適宜選択されるようにしてもよい。このことは、ステップ24a及びステップ24bについても同様であり、また後に示す図5、図7において添字付きのステップについても同様である。例えばステップを上昇させる場合には手前側のステップ24aが選択され、ステップを下げていく場合には後のステップ24bが選択されるようにしてもよい。
【0028】
図3に示した参照周波数及びPRFの組み合わせの変化を表したものが図4に示すグラフである。図4において横軸は速度レンジ(上限)を表しており、縦軸は参照周波数(すなわちリファレンス周波数)とPRFとを表している。実線で表されるグラフがPRFを表しており、一点鎖線で示されるグラフが参照周波数を表している。図4に示すように参照周波数は速度レンジの増大すなわち指示値の増大に伴い、高域側において段階的に引き下げられており階段状の特性となっている。これに対応して、各段階ごとにPRFが線形にすなわち傾斜特性をもって引き上げられており、高域側においては鋸歯状のパターンが認められる。参照周波数が引き下げられる時点においてはPRFが大きく引き下げられておりそこから線形に上昇している。したがって複数の三角波形状が認められる。
【0029】
このような特性によれば、中間域においては理想的な参照周波数すなわち理想的な送信周波数が設定、維持され、その区間においてはPRFの変更だけによって速度レンジの拡大が図られる。高域に入ると、PRFだけの対応では速度レンジの拡大が困難となるため、参照周波数が段階的に引き下げられながら、各段階においてPRFが繰り返し引き上げられて、これによって結果として速度レンジのなめらかな拡大が実現されている。
【0030】
以上のような速度レンジの推移において、ユーザーは単に指示値を切り替えるだけでよく、ユーザーは参照周波数あるいは送信周波数を格別意識し、またPRFを意識し、それらを設定する必要はない。もちろん、そのような情報を欲するユーザーに対しては画面上に例えば数値表示などを行うようにしてもよい。このようにして速度レンジの拡大を行えるので、図2に示したような折り返し現象が発生する場合においては、あるいはそれが発生しそうな場合においては、速度レンジを拡大して折り返し現象を解消しあるいはそれを未然に回避することが可能となる。しかも、PRFの変化のみならず参照周波数も連動して変化させることができるので、従来の一般的な超音波診断装置よりも速度レンジを拡大できるという利点が得られ、またそのような拡大にあたっても滑らかにレンジ拡大を行えるので実用性が極めて高い。
【0031】
図3及び図4にはプローブ帯域を優先させる特性が示されていたが、図5及び図6にはプローブ温度を優先させる特性が示されている。すなわち図3及び図4に示したプローブ帯域優先モードにおいては、図3において太い水平ラインで示される不連続ポイントが比較的高いステップにおいて設定されており、これに対し、図5に示すプローブ温度優先モードにおいてはそのような参照周波数の切り替わりポイントが前倒しされており、PRFがあまり高められないうちから参照周波数の引き下げが始まっている。このような構成によれば、PRFの高い領域をあまり使うことがなくなるので、プローブに供給される電力を引き下げることができ、プローブの発熱を抑制できるという利点がある。その一方において、図3及び図4に示したプローブ帯域を優先するモードによれば、参照周波数すなわち送信周波数をできるだけ帯域の中心に近付けて高く維持できるので、すなわち使用プローブの帯域に適合をしたあるいはそれに近い周波数をできる限り使用できるので感度を高められるという利点がある。
【0032】
図6には、図5に示した特性をグラフとして表したものが示されている。図示されるように、鋸歯状のパターンが発生しており、それに同期して参照周波数を表すグラフにおける段差部分が生じている。
【0033】
図1に示した記憶部36上には図3及び図5に示したテーブルのいずれか一方を格納するようにしてもよいし、以下に説明するように両方のテーブルを格納しておいてユーザーの選択によりあるいは諸条件に基づく自動選択により最適なテーブルを切換使用するようにしてもよい。
【0034】
図7には、プローブ帯域優先モードに対応するテーブルと、プローブ温度優先モードに対応するテーブルと、が示されている。高域側に着目すると、プローブ温度優先モードの方が参照周波数が早めに引き下げられている。その一方、通常域よりも低域においても参照周波数の段階的な切換、具体的には上昇が認められる。すなわち、低域側においては速度レンジの過剰状態が生じることが懸念されるのであり、すなわち必要以上の速度レンジが設定されてしまうという可能性が高くなる。そこで、そのような低域においては積極的に参照周波数を高めてPRFをより小さくしている。すなわち、通常使用域の上側及び下側の両方において参照周波数の段階的な切換と、各段階におけるPRFの変化とを組み合わせることにより、ステップの全体に渡って良好な速度レンジを自動的に設定することが可能となる。
【0035】
図8には図7に示した2つのテーブルにより表される2つの特性がグラフとして示されている。ここで、実線で示されるグラフはプローブ帯域優先モードにおけるPRFを表しており、一点鎖線で示されるグラフはプローブ帯域優先モードにおける参照周波数を表している。一方、破線で示されるグラフはプローブ温度優先モードにおけるPRFを表しており、二点鎖線で示されるグラフはプローブ温度優先モードにおける参照周波数を表している。高域側における鋸歯状のパターンはいずれのモードにおいても顕著に認められるが、低域側において発生している鋸歯状のパターンは図8においては明瞭には表現されていない。ただし、図7に示すテーブルから低域側においても段階的な参照周波数の変化と各段階におけるPRFへの傾斜変化が存在していることは明らかである。
【0036】
以上説明したテーブルは各プローブ毎に用意してもよく、また診断深さ毎に用意するようにしてもよい。上記実施形態においてはテーブル方式を利用したが、関数演算によって参照周波数とPRFとの組み合わせを求めることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】速度レンジの拡大による折り返しの解消を説明するための図である。
【図3】プローブ帯域優先モードにおけるテーブルの内容を示す図である。
【図4】図3に示したテーブルの内容をグラフとして表した図である。
【図5】プローブ温度優先モードにおけるテーブルの内容を示す図である。
【図6】図5に示したテーブルの内容をグラフとして示した図である。
【図7】プローブ帯域優先モード及びプローブ温度優先モードに対応する2つのテーブルを示す図である。
【図8】図7に示した2つのテーブルに対応するグラフを表した図である。
【符号の説明】
【0038】
10 プローブ、12 送信部、14 受信部、16 直交検波部、22 参照信号生成部、24 周波数解析部、26 表示処理部、30 制御部、32 入力部、34 レンジ設定器、36 記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体へ送信パルスを繰り返し送信し、各送信ごとに生体内からの反射波を受信して受信信号を順次出力する送受信手段と、
参照信号を用いて前記受信信号を処理してドプラ情報を含む複素信号を生成する受信信号処理手段と、
前記複素信号に対して周波数解析処理を適用する周波数解析処理手段と、
前記周波数解析結果の時間軸上の変化を表すドプラ波形を生成するドプラ波形生成手段と、
前記ドプラ波形における流速レンジを規定する指示値に従って、送信パルスの送信繰り返し周波数及び前記参照信号の参照周波数の組み合わせを設定する制御手段と、
を含み、
前記制御手段は、前記指示値の増大に応じて、前記参照周波数を段階的に引き下げ、その各段階ごとに前記送信繰り返し周波数を上昇させる、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記指示値の変化に対する前記送信繰り返し周波数を変化をグラフとして表した場合にそのグラフが鋸歯状パターンを有する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記グラフは前記指示値の低域側及び高域側のそれぞれにおいて鋸歯状パターンを有する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置において、
前記指示値の変化に対して、前記参照周波数が粗く変化し、前記送信繰り返し周波数が細かく変化する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置において、
前記指示値をユーザーが指定するための指示値指定手段を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置において、
前記各指示値に対応する前記送信繰り返し周波数及び前記参照周波数の組み合わせからなるテーブルを格納した記憶部を有する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
前記記憶部には、複数のモードに対応した複数のテーブルが格納され、
前記複数のテーブルの中から実際に使用するテーブルが選択される、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記複数のモードには感度優先モード及び温度管理優先モードが含まれ、
前記指示値を中域から徐々に増大させた場合に、前記感度優先モードよりも前記温度管理優先モードの方が先に前記参照周波数が引き下げられる、ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate