超音波診断装置
【課題】各振動子間の遅延量の差が小さい場合であっても、タップ集中に伴う受信信号の飽和やアーチファクトの発生を防止する。
【解決手段】複数の超音波振動子と、複数のタップと、遅延量算出部と、チャンネル分配部と、遅延処理部と、を備えた超音波診断装置である。遅延量算出部は、第1の遅延量を算出する。チャンネル分配部は、第1の遅延量の中から最小遅延量及び最大遅延量を特定する。またチャンネル分配部は、最小遅延量から最大遅延量までの範囲をタップの数で分割しそれぞれをタップと対応付ける。またチャンネル分配部は、超音波振動子から出力される信号を、対応する第1の遅延量を含む分割された範囲が対応付けられたタップに入力する。遅延処理部は、タップとあらかじめ設定された第2の遅延量とを対応付け、タップそれぞれに入力された信号に対し、対応付けられた第2の遅延量に基づき遅延処理を施す。
【解決手段】複数の超音波振動子と、複数のタップと、遅延量算出部と、チャンネル分配部と、遅延処理部と、を備えた超音波診断装置である。遅延量算出部は、第1の遅延量を算出する。チャンネル分配部は、第1の遅延量の中から最小遅延量及び最大遅延量を特定する。またチャンネル分配部は、最小遅延量から最大遅延量までの範囲をタップの数で分割しそれぞれをタップと対応付ける。またチャンネル分配部は、超音波振動子から出力される信号を、対応する第1の遅延量を含む分割された範囲が対応付けられたタップに入力する。遅延処理部は、タップとあらかじめ設定された第2の遅延量とを対応付け、タップそれぞれに入力された信号に対し、対応付けられた第2の遅延量に基づき遅延処理を施す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置の動作モードには、血流速度の測定等に用いられる連続波ドプラ(以下「SCW」と呼ぶ)モードのように、連続波を用いるものがある。このような連続波を用いるモードでは、被検体に連続波を送信し、その反射波から得られる複数の受信信号にキャリア周波数の1周期内の遅延量を与えることで遅延フォーカスを行う。
【0003】
従来は、キャリア周波数の1周期内の固定した遅延量をもったタップを8〜16通り程度用意し、各受信信号に必要な遅延量をその中から選択的に与えることによって、受信信号を遅延加算していた。
【0004】
しかし、この場合、全てのタップが常に選択されるわけではない。特に超音波の受信に係るフォーカス点(以降では単に「フォーカス点」と呼ぶ)が深部になるにつれて、超音波振動子間に与えるべき遅延量は小さくなる。この点について以下に具体的に説明する。
【0005】
例えば、図11及び図12は、深度の異なるフォーカス点における、フォーカス点と各振動子との位置関係、及び各振動子に対応する遅延量を示している。図11Aは、深度が浅いフォーカス点FAと各振動子CH0〜CHnとの位置関係を示している。また図11Bは、この場合における各振動子CH0〜CHnに対応する遅延量を、横軸を各振動子CH、縦軸を遅延量tdとしたグラフである。同様に、図12Aは、深度が深いフォーカス点FBと各振動子CH0〜CHnとの位置関係を示している。また図12Bは、この場合における各振動子CH0〜CHnに対応する遅延量を、横軸を各振動子CH、縦軸を遅延量tdとしたグラフである。
【0006】
例えば図11Aを例に説明すると、各振動子に対応する遅延量は、フォーカス点FAから最も離れた位置にある振動子CHnを基準(遅延量0)として、フォーカス点FAと各振動子との距離に基づき算出される。この場合、フォーカス点FAと振動子CHjとの間の距離LAjが最も短い。そのため、図11Bに示すように、振動子CHjに対応する遅延量が最も大きくなる。以降、このときの遅延量を最大遅延量tdMaxAとする。
【0007】
図12Aのように深度が深い場合においても同様である。即ち各振動子に対応する遅延量は、フォーカス点FBから最も離れた位置にあるCHnを基準として、フォーカス点FBと各振動子との距離に基づき算出される。しかし、フォーカス点の深度が深くなると、フォーカス点FBから最も遠い振動子CHnまでの距離LBnと、フォーカス点FBから最も近い振動子CHjまでの距離LBjとの差が小さくなる。そのため図12Bに示すように、この場合の最大遅延量tdMaxBは、フォーカス点が近い場合(図11A)の最大遅延量tdMaxBよりも小さい。つまり、振動子間で与えられる遅延量の差が小さくなる。
【0008】
従来の超音波診断装置は、複数の超音波振動子から出力される信号を受ける複数のタップを有し、上記したようにフォーカス点と各振動子との距離に基づき算出された遅延量から、各振動子からの信号を出力するタップを特定する。そのため、振動子間の遅延量の差が小さい場合、固定した遅延量を各タップに割当てる構成で動作させると、特定のタップ(例えば、小さい遅延量が割当てられたタップ)に受信信号が集中する(以下、「タップ集中」と呼ぶ場合がある)。このタップ集中が発生すると、信号が集中したタップからの信号を受ける回路において受信信号が飽和して、S/N比の劣化や、アーチファクトが発生する場合があった。
【0009】
この受信信号の飽和を避けるため、タップからの信号を受ける回路の電源電圧や電流を予め大きくしておくことでダイナミックレンジを広げる方法もある。しかしながらこの場合、消費電力の増加に伴う発熱や、この発熱を抑えるためのファンの設置を考慮する必要がある。そのため、ファンによる騒音の発生や、サイズの増大を招く恐れがある。
【0010】
なお、従来の超音波診断装置では、固定した遅延量を各タップに割当てているため、量子化の単位がタップ数に応じて決定されていた。そのため、タップ数を増やすことでキャリア周波数の1周期内の遅延量をより細かく量子化し、タップ集中を軽減する方法もある。しかしながらこの場合、タップの増加に伴い回路が増加するため、装置のサイズやコストの増大につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−124161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の実施形態は上記の問題を解決するためになされたものであり、振動子間の遅延量の差が小さい場合であっても、タップ集中に伴う受信信号の飽和やアーチファクトの発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、この実施形態は、複数の超音波振動子と、複数のタップと、遅延量算出部と、チャンネル分配部と、遅延処理部と、を備えた超音波診断装置である。複数の超音波振動子は、被検体内の所定のフォーカス点に向けて超音波を送信し、前記被検体内で反射された反射波を受信する。複数のタップは、前記複数の超音波振動子から出力される信号を受ける。遅延量算出部は、前記超音波振動子と前記フォーカス点との距離に基づき、前記超音波振動子ごとに第1の遅延量を算出する。チャンネル分配部は、前記超音波振動子と前記タップとの間に介在する。またチャンネル分配部は、前記第1の遅延量の中から最小遅延量及び最大遅延量を特定する。またチャンネル分配部は、前記最小遅延量から前記最大遅延量までの範囲を前記タップの数で分割し、分割された範囲それぞれを前記タップと対応付ける。またチャンネル分配部は、前記超音波振動子から出力される信号を、その超音波振動子に対応する第1の遅延量を含む前記分割された範囲が対応付けられた前記タップに入力する。遅延処理部は、前記タップとあらかじめ設定された第2の遅延量とを対応付け、前記タップそれぞれに入力された信号に対し、当該タップに対応付けられた前記第2の遅延量に基づき遅延処理を施す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る超音波診断装置のブロック図である。
【図2A】第1の実施形態に係る超音波診断装置における、フォーカス点と各振動子との位置関係を示した図である。
【図2B】第1の実施形態に係る超音波診断装置における、各振動子に与えるべき遅延量の関係を示した図である。
【図3】本実施形態に係る超音波診断装置における、受信信号を整相加算する部分のブロック図である。
【図4】第1の実施形態に係る超音波診断装置において、各タップへの受信信号の分配を説明するための図である。
【図5】本実施形態における遅延量の量子化を説明するための図である。
【図6】第1の実施形態に係る超音波診断装置における、各タップへの量子化遅延量の割付を説明するための図である。
【図7】本実施形態に係る超音波診断装置の一連の処理の流れを示したフローチャートである。
【図8A】第2の実施形態に係る超音波診断装置における、フォーカス点と各振動子との位置関係を示した図である。
【図8B】第2の実施形態に係る超音波診断装置における、各振動子に与えるべき遅延量の関係を示した図である。
【図9A】第2の実施形態に係る超音波診断装置において、各タップへの受信信号の分配を説明するための図である。
【図9B】第2の実施形態に係る超音波診断装置における、各タップへの量子化遅延量の割付を説明するための図である。
【図10A】分割された遅延量と各タップとの対応関係の一例である。
【図10B】代表遅延量と量子化遅延量との対応関係の一例である。
【図11A】フォーカス点と各振動子との位置関係、及び各振動子に与えるべき遅延量の関係を説明するための図である。
【図11B】フォーカス点と各振動子との位置関係、及び各振動子に与えるべき遅延量の関係を説明するための図である。
【図12A】フォーカス点と各振動子との位置関係、及び各振動子に与えるべき遅延量の関係を説明するための図である。
【図12B】フォーカス点と各振動子との位置関係、及び各振動子に与えるべき遅延量の関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について図1を参照しながら説明する。図1のブロック図は、本実施形態に係る超音波診断装置における、超音波診断装置1の構成を示している。
【0016】
超音波診断装置1は、送信回路10と、超音波振動子群11と、増幅回路12と、遅延量算出部13と、チャンネル分配部14と、遅延割付部16と、加算回路17と、信号処理部18と、画像処理部19と、表示部20とを含んで構成される。
を含んで構成される。
【0017】
送信回路10は、図示しないが、クロック発生器、分周期、送信遅延回路、パルサを含んで構成されている。クロック発生器で発生されたクロックパルスは、分周器で例えば5MHz程度のパルスに落とされる。このパルスを、送信遅延回路を通してパルサに与えて高周波の電圧パルスを発生させ、この電圧パルスにより超音波振動子群11を駆動させる(機械的に振動させる)。これにより、送信回路10からの電気信号に従って、超音波振動子群11から被観測体に向けて超音波ビームが照射される。
【0018】
超音波振動子群11は、被観測体(例えば心臓)に対して超音波を送受信する。超音波振動子群11を構成する各超音波振動子(以降「各振動子」と呼ぶことがある)から送信された超音波ビームは、被観測体内の構造物の境界等の音響インピーダンスの異なる界面で、当該被観測体内の構造・動き等に対応して反射する。
【0019】
本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波を送信する複数の超音波振動子と超音波を受信する複数の超音波振動子とに分けて超音波を送受信するモードで動作する。このようなモードの一例として、連続波ドプラ(以下「SCW」と呼ぶことがある)モードがある。
【0020】
ここで図2Aを参照する。図2Aは、超音波振動子群11を構成する振動子CH0〜CHnと、フォーカス点F1との位置関係を示している。超音波診断装置はSCWモードで動作する場合、図2Aに示すように、超音波振動子群11を、超音波を送信する領域R2(振動子CHj+1〜CHn)と超音波を受信する領域R1(振動子CH0〜CHj)とに分ける。なお以降では、各振動子(CH0〜CHj)とフォーカス点F1とが、図2Aに示す位置関係にあるものとして説明する。また、特定の振動子を示す場合にはその振動子を示す符号を付し、特に振動子を指定しない場合には符号を付さず単に「振動子」と記載するものとする。
【0021】
ここで図3を参照する。図3は、受信信号を整相加算する構成、つまり、増幅回路12と、遅延量算出部13と、チャンネル分配部14と、遅延割付部16と、加算回路17との詳細な構成を説明するためのブロック図である。図3に示すように、チャンネル分配部14と遅延割付部16との間にはタップ15(tap0〜tap7)が介在する。つまり、チャンネル分配部14からの出力はタップ15に入力され、タップ15から遅延割付部16に出力される。以下、各構成の詳細について説明する。
【0022】
増幅回路12は、超音波振動子群11の各振動子に接続された信号線11aを介し、各振動子で受信される超音波エコー信号を受ける。増幅回路12は、各振動子から受けた超音波エコー信号を良好に伝送するために、低雑音増幅またはバッファリング等の処理を行う。
【0023】
遅延量算出部13は、フォーカス点F1と各振動子(CH0〜CHn)との距離に基づき遅延量を算出する。遅延量算出部13は、算出された遅延量をチャンネル分配部14及び遅延割付部16に出力する。チャンネル分配部14及び遅延割付部16については後述する。なお、遅延量算出部13が算出した遅延量が「第1の遅延量」に相当する。
【0024】
チャンネル分配部14は、各振動子に対応する遅延量を遅延量算出部13から受ける。チャンネル分配部14は、超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)に対応する遅延量の中から、最大の値である最大遅延量を特定する。チャンネル分配部14は、遅延量0から最大遅延量までの時間幅tDlyRangeを算出する。
【0025】
次に、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeと、超音波の周期Tcとを比較する。時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc以上の場合、チャンネル分配部14は、周期Tcをタップ15のタップ数分の範囲にあらかじめ分割しておき、この範囲と各タップとを対応付ける。この場合の動作は、従来の超音波診断装置と同様である。また、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc未満の場合、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeをタップ15のタップ数で分割し、分割後の範囲と各タップとを対応付ける。チャンネル分配部14は、分割後の範囲に含まれる遅延量が対応付けられた振動子からの出力を、その分割後の範囲に対応付けられたタップに入力する。
【0026】
以下に、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc未満の場合における、チャンネル分配部14による遅延量の分割と各タップとの対応付けについて図2B及び図4を参照しながら具体的に説明する。図2Bは、図2Aに示したフォーカス点F1と振動子CH0〜CHnとの位置関係において、フォーカス点F1と各振動子との距離に基づき算出された、各振動子に対応する遅延量を示したグラフである。図2Bでは、横軸は各振動子CHに対応し、縦軸は遅延量tdに対応している。また図4は、チャンネル分配部14による遅延量の分割と各タップへの受信信号の分配を説明するための図であり、図2Bのうち超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)に対応する部分を示している。図4では、横軸は各振動子CHに対応し、縦軸は遅延量tdに対応している。
【0027】
フォーカス点F1が図2Aに示す位置にある場合、フォーカス点F1から振動子CHjまでの距離L1jが最も遠い。そのため、図2Bに示すように、振動子CHjに対応する遅延量が最も大きい。この振動子CHjにおける遅延量が最大遅延量tdMax1に相当する。
【0028】
ここで図4を参照する。チャンネル分配部14は、図4に示すように、時間幅tDlyRange、即ち遅延量0〜tdMax1の時間幅をタップ数「8」(tap0〜tap7)の範囲、即ち0、tdA1〜tdA7、tdMax1で定義される8つの範囲に分割する。チャンネル分配部14は、分割された範囲をそれぞれ各タップ(tap0〜tap7)に割当てる。即ちチャンネル分配部14は、0〜tdA1で示された範囲をtap0に、tdA1〜tdA2で示された範囲をtap1に割当てる。同様にして、tdA2〜tdMax1内の各範囲も、tap2〜tap7にそれぞれ割当てる。なお、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc以上の場合は、周期Tcがタップ数に分割された各範囲をtap0〜tap7に割当てる。
【0029】
次にチャンネル分配部14は、各振動子(CH0〜CHj)からの出力を、各範囲に含まれる遅延量に対応付けられたタップに入力する。例えば、図4に示した例の場合、振動子CHjに対応付けられた遅延量は、tdA7〜tdMax1の範囲に含まれる。そのためチャンネル分配部14は、振動子CHjからの出力を、tdA7〜tdMax1の範囲に対応付けられたtap7に入力する。同様に、振動子CHmに対応付けられた遅延量は、tdA5〜tdA6の範囲に含まれる。そのためチャンネル分配部14は、振動子CHmからの出力を、tdA5〜tdA6の範囲に対応付けられたtap5に入力する。このようにチャンネル分配部14は、各タップに振動子を対応付け、各振動子からの出力を対応するタップに入力する。なおチャンネル分配部14は、例えばマルチプレクサやマトリックススイッチ等で構成するとよい。またタップ15は、各振動子からの信号をタップ数の種類に分配できればよい。そのためタップ15は、tap0〜tap7に対応する端子を設け別々の信号として受ける構成としてもよいし、配線で各信号を分配する構成としてもよい。
【0030】
遅延割付部16は、超音波の1周期分(キャリア周波数の1周期分)の遅延量を量子化数「16」で量子化した遅延量(以下「量子化遅延量」と呼ぶ)を選択可能に構成されている。これは、連続波ドプラモードでは、受信超音波の波形毎に同じ位相情報が繰り返される(波形の周期性がある)ため、必ずしも経路差に相当する分の時間差を与える必要はないためである。なお、「量子化」とは、アナログ値である各振動子に対応する遅延量を、離散的な近似値、つまり量子化遅延量に変換することを意味する。またこの量子化遅延量が「第2の遅延量」に相当する。遅延割付部16は、この量子化遅延量と各タップとを対応付け、タップからの出力に対し、そのタップに対応付けられた量子化遅延量で遅延処理を施す。この遅延割付部16の動作について、以下に具体的に説明する。
【0031】
まず、遅延割付部16による遅延量の量子化について、図5を参照しながら具体的に説明する。図5は、縦軸を遅延量td、横軸を各振動子CHに対応付けたグラフである。図5のtdMax0は、キャリア周波数の1周期分の遅延量のうち、最大となる遅延量を示している。遅延割付部16は、遅延量0〜tdMax0までを量子化数「16」の範囲、即ち0、td1〜td15、tdMax0で定義される「16」の範囲に分割する。この分割後の各範囲の幅が量子化間隔となる。なお、本実施形態の説明では量子化数を「16」として説明するが、遅延量の量子化数は8以上であれば好ましく、「16」に限定するものではない。これは、遅延量子化の精度がキャリア信号の「λ/8」以下の粗さであれば、遅延の量子化のない場合(連続遅延)と比べて、メインビームの広がりは10%以下となることが分かっているためである。即ち、遅延量の量子化数は8以上とすることでビームの広がりに拠る感度劣化を「−1dB」以内に抑えることができることが分かっている。また、詳細は以降で説明するが、遅延量の量子化数はタップ数よりも多いことが好ましい。
【0032】
遅延割付部16は、この量子化間隔に基づき、キャリア周波数の1周期分の遅延量を、量子化数「16」で量子化する。例えば、0〜td1で示された範囲を量子化遅延量D0に、td1〜td2で示された範囲を量子化遅延量D1に割当てる。同様にして、td2〜tdMax0内の各範囲も、量子化遅延量D2〜D15に割当てる。なお以降では、遅延量の範囲のうち、量子化遅延量D0〜D15に対応付けられた範囲を「量子化範囲」と呼ぶ場合がある。
【0033】
遅延割付部16は、tap0〜tap7に対応付けられた各遅延量の範囲から遅延量の代表値を特定する。一例として、遅延割付部16は、遅延量の範囲の中心の値を遅延量の代表値として特定する。例えばtap1の場合には、遅延量の代表値は(tdA2−tdA1)/2となる。遅延割付部16は、タップごとに特定された遅延量の代表値を、超音波の1周期中における遅延量に換算して代表遅延量tdtap0〜tdtap7とする。次に、遅延割付部16は、算出された代表遅延量tdtap0〜tdtap7と、量子化遅延量D0〜D15に対応する各量子化範囲とを比較する。なお遅延割付部16は、チャンネル分配部14と同様に、遅延量算出部13から各振動子に対応する遅延量を受け、代表遅延量tdtap0〜tdtap7を算出するように構成してもよい。また遅延割付部16は、代表遅延量tdtap0〜tdtap7を、チャンネル分配部14から取得するように構成してもよい。なお、遅延量の代表値は、遅延量の範囲に含まれる値であればよく、中心の値に限らない。例えば、遅延量の範囲中の最小値を代表値としてもよいし、最大値を代表値としてもよい。
【0034】
遅延割付部16は、比較結果をもとに、各タップに対応付けられた代表遅延量tdtap0〜tdtap7が、各量子化範囲のいずれに含まれるかを確認する。遅延割付部16は、各タップからの出力を、そのタップに対応する代表遅延量(tdtap0〜tdtap7)が含まれる量子化範囲に対応付けられた量子化遅延量(D0〜D15)と対応付ける。この遅延割付部16の動作について、図6を参照しながら説明する。図6は、遅延割付部16による各タップへの量子化遅延量の割付を説明するためのグラフであり、代表遅延量(tdtap0〜tdtap7)と、量子化遅延量(D0〜D15)との関係を示している。図6では、横軸は各振動子CHに対応し、縦軸は遅延量tdに対応している。
【0035】
例えばtap0からの出力は、代表遅延量tdtap0に対応し、tdtap0は量子化遅延量D0に対応する量子化範囲に含まれる。この場合に遅延割付部16は、tap0からの出力に量子化遅延量D0を対応付ける。遅延割付部16は、tap1〜tap7についても、tap0と同様の方法で量子化遅延量を対応付ける。即ち、遅延割付部16は、tap0、tap1を量子化遅延量D0に、tap2〜tap4を量子化遅延量D1に、tap5、tap6を量子化遅延量D2に、tap7を量子化遅延量D3に対応付ける。
【0036】
遅延割付部16は、各タップからの出力に対し、対応付けられた量子化遅延量に基づき遅延処理を施す。例えば、アナログ遅延の場合ならば、遅延割付部16は、各タップからの出力を量子化遅延量に対応する遅延線に接続するように切替えればよい。この切替えには、例えばマトリックススイッチ等を用いることができる。またディジタル遅延の場合も、遅延割付部16における遅延処理を行う構成を、例えばディジタルビームフォーマユニット等に適宜置き換えればよい。このように、各タップからの出力を対応付けた遅延回路(遅延線やディジタルビームフォーマユニット)に出力する。そのため、遅延量子化数をタップ数より多くしておくことが好ましい。具体的には、遅延量子化数をタップ数より多くしておくことで、固定した遅延量を各タップに割当てる構成で動作させる場合よりも、特定の回路(例えば遅延回路)への出力の集中を軽減することが可能となる。なお遅延割付部16は、遅延処理が施された各タップからの出力を加算回路17に出力する。
【0037】
加算回路17は、遅延割付部16でタップごとに遅延処理が施された受信信号を加算する。これにより受信信号が増幅され、受信信号のS/N比が向上する。
【0038】
信号処理部18は、加算回路17で増幅された受信信号を受ける。信号処理部18は、受信信号を直交検波して、ベースバンド信号に変換し、ハイパスフィルタを通すことで、観測対象である被検体内の流動体で反射した信号を抽出する。信号処理部18は、抽出された信号に対してアンチエリアシングをかけ、A/D変換器によりディジタル信号に変換したうえで周波数解析を行うことでドップラフト周波数成分を抽出する。信号処理部18は、このドップラシフト周波数成分に基づき、被検体内の移動体(例えば、血流)の速度を算出する。画像処理部19は、算出された移動体の速度を受けて、例えば、横軸を時間、縦軸を速度としたグラフのように、算出された速度を視認可能に表示した画面を生成する。画像処理部19は、生成した画面を、表示部20に表示させる。
【0039】
(一連の動作)
次に、本実施形態に係る超音波診断装置の一連の動作について、図7を参照しながら説明する。図7は、本実施形態に係る超音波診断装置の一連の処理の流れを示したフローチャートである。
【0040】
(ステップS11)
電源が投入され超音波診断装置が起動されると、超音波診断装置の遅延量算出部13は、まず操作者から連続波ドップラの受信フォーカス点の指定を受け、被検体中のフォーカス点の位置を特定する。以降、フォーカス点と各振動子とが、図2Aに示す位置関係にあるものとして説明する。
【0041】
(ステップS12)
遅延量算出部13は、特定されたフォーカス点F1と各振動子CH0〜CHnとの距離に基づき、各振動子に対応する遅延量を算出する。遅延量算出部13は、算出した各振動子に対応する遅延量を、チャンネル分配部14及び遅延割付部16に出力する。
【0042】
(ステップS13)
チャンネル分配部14は、遅延量算出部13から受けた各振動子に対応する遅延量のうち、超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)に対応する遅延量の中から遅延量が最大となる最大遅延量tdMax1を特定する。また、チャンネル分配部14は、遅延量0から最大遅延量tdMax1までの時間幅tDlyRangeを算出する。
【0043】
(ステップS14)
次に、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeと、超音波の周期Tcとを比較する。
【0044】
(ステップS15)
時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc以上の場合(ステップS14、Y)、チャンネル分配部14は、周期Tcをタップ15のタップ数分の範囲にあらかじめ分割しておき、この範囲と各タップとを対応付ける。チャンネル分配部14は、各範囲に含まれる遅延量に対応付けられた振動子からの出力を、その範囲に対応付けられたタップに入力する。
【0045】
(ステップS16)
また、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc未満の場合(ステップS14、N)、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeをタップ15のタップ数「8」で分割し、分割された範囲をそれぞれ各タップ(tap0〜tap7)に割当てる。これにより、遅延量0〜tdMax1で表される時間幅が、遅延量0、tdA1〜tdA7、tdMax1で定義される8つの範囲に分割され、これらの範囲が各タップに対応付けられる。チャンネル分配部14は、各範囲に含まれる遅延量に対応付けられた振動子からの出力を、その範囲に対応付けられたタップに入力する。
【0046】
(ステップS17)
次に遅延割付部16は、tap0〜tap7に対応付けられた各遅延量の範囲から遅延量の代表値を特定する。一例として、遅延割付部16は、遅延量の範囲の中心の値を遅延量の代表値として特定する。例えばtap1の場合には、遅延量の代表値は(tdA2−tdA1)/2となる。遅延割付部16は、タップごとに特定された遅延量の代表値を、超音波の1周期中における遅延量に換算して代表遅延量tdtap0〜tdtap7とする。
【0047】
(ステップS18)
遅延割付部16は、各タップに対応する代表遅延量tdtap0〜tdtap7と、キャリア周波数の1周期分の遅延量を量子化した量子化遅延量D0〜D15に対応する各量子化範囲とを比較する。遅延割付部16は、比較結果をもとに、各タップに対応付けられた代表遅延量tdtap0〜tdtap7が、いずれの量子化範囲に含まれるかを確認する。遅延割付部16は、各タップからの出力を、そのタップに対応する代表遅延量(tdtap0〜tdtap7)が含まれる量子化範囲に対応付けられた量子化遅延量(D0〜D15)と対応付ける。これにより遅延割付部16は、例えば図6に示すように、tap0、tap1を量子化遅延量D0に、tap2〜tap4を量子化遅延量D1に、tap5、tap6を量子化遅延量D2に、tap7を量子化遅延量D3に対応付ける。
【0048】
(ステップS19)
次に制御部(図示しない)が、超音波振動子群11の各振動子のうち、超音波を送信する領域R2の各振動子(CHj+1〜CHn)を制御し、被検体に超音波を送信する。被検体内で反射された超音波は、超音波振動子群11の超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)で受信される。領域R1の各振動子(CH0〜CHj)で受信された超音波エコー信号は、増幅回路12で増幅され、チャンネル分配部14により対応付けられた各タップに入力される。
【0049】
次に遅延割付部16は、各タップからの出力に対し、対応付けられた量子化遅延量に基づき遅延処理を施す。遅延割付部16は、遅延が施された各タップからの出力を加算回路17に出力する。加算回路17は、遅延割付部16からの受信信号をタップごとに加算し、信号処理部18に出力する。信号処理部18は、加算回路17から出力された信号に処理を施し、被検体内の移動体の速度を算出する。画像処理部19は、算出された移動体の速度を受けて、算出された速度を視認可能に表示した画面を生成して表示部20に表示する。
【0050】
(ステップS21)
超音波検査は、操作者により検査の終了が指示されるまで継続される(ステップS20、N)。超音波検査中に、操作者による操作を受けて、フォーカス点の位置が変更された場合(ステップS21、Y)、ステップS11〜S18に係る処理を再度実行したうえで、検査に係る処理(ステップS19)を行う。フォーカス点の位置が変更されない場合は(ステップS21、N)、継続して検査に係る処理(ステップS19)を実行する。
【0051】
(ステップS20)
操作者により超音波検査の終了が指示されると(ステップS20、Y)、超音波検査に係る処理を終了する。
【0052】
なお上記では、tap数を「8」、遅延割付部16による遅延量の量子化数を「16」として説明したが、必ずしもこの数に限定されるものではない。遅延量子化数及びtap数は、超音波診断装置の性能に応じて適宜変更してもよく、遅延量子化数をtap数より大きく設定する構成がより好ましい。
【0053】
以上、本実施形態に係る超音波診断装置に依れば、フォーカス点の深度が深い場合のように振動子間の遅延量の差が小さい場合でも全てのタップが使用される。そのため、特定のタップへの信号の集中を軽減することが可能となり、タップ集中に伴う受信信号の飽和やアーチファクトの発生を防止することが可能となる。また、従来の超音波診断装置のように、固定した遅延量を各タップに割当てる必要が無くなる。そのため、遅延量の量子化数をタップ数に依存することなく設定することが可能となる。またタップ数を増やす必要が無いため、消費電力や、サイズ、コストの増加を抑えつつ、タップ集中を防止することが可能となる。
【0054】
(第2の実施形態)
第1の実施形態に係るチャンネル分配部14は、最大遅延量を特定し、遅延量0〜最大遅延量までの時間幅をタップ数(tap0〜tap7)の範囲に分割していた。第2の実施形態に係るチャンネル分配部14は、最大遅延量に加え、さらに遅延量が最小となる最小遅延量を特定し、最小遅延量〜最大遅延量までの時間幅をタップ数(tap0〜tap7)の範囲に分割する点で異なる。
【0055】
まず図8Aを参照する。図8Aは、超音波振動子群11を構成する振動子CH0〜CHnと、フォーカス点F2との位置関係を示している。図8Aに示す通り、フォーカス点F2は、超音波振動子群11の中心よりも超音波を受信する領域R1側に位置している。なおこの場合、領域R1に含まれる振動子CHkとフォーカス点F2との距離L2kが最も近く、超音波を送信する領域R2に含まれる振動子CHnとフォーカス点F2との距離L2nが最も遠い。
【0056】
ここで図8Bを参照する。図8Bは、図8Aに示したフォーカス点F2と振動子CH0〜CHnとの位置関係において、フォーカス点F2と各振動子との距離に基づき算出された、各振動子に対応する遅延量を示したグラフである。図8Bでは、横軸は各振動子CHに対応し、縦軸は遅延量tdに対応している。各振動子に対応付けられる遅延量は、振動子CHnとフォーカス点F2との距離L2nを基準に算出される。この場合、図8Bに示す通り、超音波を受信する領域R1の各振動子に対応付けられる遅延量の最小値は、CH0に対応する遅延量tdMin2となる。そのため、超音波を送信する領域R2の各振動子に対応付けられた遅延量0〜tdMin2内の遅延量は、受信信号の遅延処理に用いられない。よって、この領域を量子化しタップに割当てたとしても、そのタップには受信信号が入力されず他のタップに受信信号が集中することになる。
【0057】
これに対し、本実施形態に係るチャンネル分配部14は、最大遅延量tdMax2に加えて最小遅延量tdMin2を特定し、遅延量tdMin2〜tdMax2までの時間幅をタップ数(tap0〜tap7)の範囲に分割する。これにより、図8Bに示すように、算出された各振動子の遅延量のうち、遅延処理に用いられない遅延量が存在する場合においても、遅延処理に用いる遅延量の範囲でタップを無駄なく使用することを特徴としている。以降では、第1の実施形態に係る超音波診断装置と異なる、チャンネル分配部14の構成に着目して説明する。
【0058】
チャンネル分配部14は、各振動子に対応する遅延量を遅延量算出部13から受ける。この各振動子に対応する遅延量は、遅延量算出部13が、フォーカス点F2と各振動子(CH0〜CHn)との距離に基づき算出する。チャンネル分配部14は、超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)に対応する遅延量うちの最大遅延量と最小遅延量を特定する。チャンネル分配部14は、特定した最小遅延量から最大遅延量までの時間幅tDlyRangeを算出する。
【0059】
次に、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeと、超音波の周期Tcとを比較する。時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc以上の場合、チャンネル分配部14は、周期Tcをタップ15のタップ数分の範囲にあらかじめ分割しておき、この範囲と各タップとを対応付ける。この場合の動作は、第1の実施形態に係る超音波診断装置と同様である。また、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc未満の場合、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeをタップ15のタップ数で分割し、分割後の範囲と各タップとを対応付ける。分割後の範囲と各タップとを対応付ける。
【0060】
以下に、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc未満の場合における、チャンネル分配部14による遅延量の分割と各タップとの対応付けについて図8B、図9A、及び図9Bを参照しながら説明する。図9Aは、チャンネル分配部14による遅延量の分割と各タップへの受信信号の分配を説明するためのグラフである。図9Aは、図8Bのうち超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)に対応する部分を示している。また図9Bは、遅延割付部16による各タップへの量子化遅延量の割付を説明するためのグラフである。なお図9A及び図9では、横軸は各振動子CHに対応し、縦軸は遅延量tdに対応している。
【0061】
フォーカス点F2が図8Aに示す位置にある場合、フォーカス点F2から振動子CHjまでの距離L1jが最も遠い。そのため、図8Bに示すように、振動子CHjに対応する遅延量が最も大きい。この振動子CHjにおける遅延量が最大遅延量tdMax2に相当する。また領域R1に含まれる振動子CH0〜CHjのうち、振動子CH0までの距離L20が最も近い。そのため、図8Bに示すように、振動子CH0に対応する遅延量が最も小さい。この振動子CH0における遅延量が最小遅延量tdMin2に相当する。
【0062】
ここで図9Aを参照する。チャンネル分配部14は、図9Aに示すように、時間幅tDlyRange、即ち遅延量tdMin2〜tdMax2の時間幅をタップ数「8」(tap0〜tap7)の範囲、即ちtdMin2、tdB1〜tdB7、tdMax2で定義される8つの範囲に分割する。チャンネル分配部14は、分割した範囲をそれぞれ各タップ(tap0〜tap7)に割当てる。即ちチャンネル分配部14は、tdMin2〜tdB1で定義される範囲をtap0に、tdB1〜tdB2で示された範囲をtap1に、・・・、tdAB〜tdB7で示された範囲をtap6に、tdB7〜tdMax2がtap7に割当てる。なお、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc以上の場合は、周期Tcがタップ数に分割された各範囲をtap0〜tap7に割当てる。
【0063】
次にチャンネル分配部14は、各範囲に含まれる遅延量に対応付けられた振動子からの出力を、その範囲に対応付けられたtapに入力する。例えば、振動子CHjに対応付けられた遅延量は、tdB5〜tdB6の範囲に含まれる。そのためチャンネル分配部14は、振動子CHjからの出力を、tdB5〜tdB6の範囲に対応付けられたtap5に入力する。同様に、振動子CHkに対応付けられた遅延量は、tdB7〜tdMax2の範囲に含まれる。そのためチャンネル分配部14は、振動子CHkからの出力を、tdB7〜tdMax2の範囲に対応付けられたtap7に入力する。このようにチャンネル分配部14は、各tapに振動子を対応付け、各振動子からの出力を対応するtapに入力する。
【0064】
以降の動作は、第1の実施形態に係る超音波診断装置と同様である。即ち、遅延割付部16は、tap0〜tap7に対応付けられた各遅延量の範囲から代表遅延量tdtap0〜tdtap7を特定する。次に、遅延割付部16は、図9Bに示すように、各タップに対応する代表遅延量tdtap0〜tdtap7と、量子化遅延量D0〜D15に対応する各量子化範囲とを比較する。遅延割付部16は、比較結果をもとに、各タップからの出力を、そのタップに対応する代表遅延量(tdtap0〜tdtap7)が含まれる量子化範囲に対応付けられた量子化遅延量(D0〜D15)と対応付ける。これにより、遅延割付部16は、tap0、tap1を量子化遅延量D4に、tap2〜tap4を量子化遅延量D5に、tap5、tap6を量子化遅延量D6に、tap7を量子化遅延量D7に対応付ける。遅延割付部16は、各タップからの出力に対し、対応付けられた量子化遅延量に基づき遅延処理を施し、この遅延が施された各出力を加算回路17に出力する。加算回路17は、遅延割付部16でタップごとに遅延量が与えられた受信信号を加算し、信号処理部18に出力する。
【0065】
なお、上述したようにチャンネル分配部14及び遅延割付部16を動作させることで、時間幅tDlyRangeが、2つの周期TcmとTcm+1とに亘って存在する場合についても、同様に、各タップと量子化遅延量とを対応付けることが可能である。例えば、図10A及び図10Bは、時間幅tDlyRangeが、2つの周期TcmとTcm+1とに亘って存在する場合の、各振動子と遅延量との関係を示したグラフである。図10Aは、分割された遅延量と各タップとの対応関係の一例を示している。また、図10Bは、代表遅延量(tdtap0〜tdtap7)と、量子化遅延量(D0〜D15)との対応関係の一例を示している。
【0066】
時間幅tDlyRangeが、2つの周期TcmとTcm+1とに亘って存在する場合、図10Aに示すように、チャンネルCHiに対応する遅延量は、超音波の周期Tcのm倍(mは整数)である周期Tcmと等しいとする。このとき、最大遅延量tdMax3、最小遅延量tdMin3、及び周期Tcmとの大小関係は、tdMax3>Tcm>tdMin3となる。このような場合、最大遅延量tdMax3及び最小遅延量tdMin3それぞれを超音波の1周期中の遅延量に換算したtdMax3’及びtdMin3’と、周期Tcとの大小関係は、図4に示すようにTc>tdMin3’>tdMax3’となる。
【0067】
このような場合においても、チャンネル分配部14及び遅延割付部16は、前述したとおりに動作する。即ち、チャンネル分配部14は、各振動子に対応する遅延量、即ち量子化前の遅延量に基づき時間幅tDlyRangeを算出し、時間幅tDlyRangeを分割したうえで各タップに対応付ける。そのうえで、遅延割付部16は、分割後の範囲から遅延量の代表値を特定し、この代表値を基に超音波の1周期中における遅延量である代表遅延量tdtap0〜tdtap7を算出する。遅延割付部16は、代表遅延量tdtap0〜tdtap7と各量子化範囲とを比較し、その比較結果を基に、各タップと量子化遅延量との対応付けを行う。以上のように、チャンネル分配部14及び遅延割付部16が動作させることで、図10Bに示すように、タップtap0〜tap7と量子化遅延量D0〜D15とが対応付けられる。即ち、tap0〜tap2からの出力は、量子化遅延量D15に基づき遅延処理が施される。また、tap3、tap4からの出力は量子化遅延量D0に基づき遅延処理が施され、tap5〜tap7からの出力は量子化遅延量D2に基づき遅延処理が施される。
【0068】
以上、本実施形態に係る超音波診断装置に依れば、図8Bの遅延量0〜tdMin2のように受信信号の遅延処理に用いられない遅延量が存在する場合においても、受信信号の遅延処理に用いる遅延量の範囲(tdMin2〜tdMax2)でタップを無駄なく使用することが可能となる。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載されたその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1 超音波診断装置
10 送信回路
11 超音波振動子群
12 増幅回路
13 遅延量算出部
14 チャンネル分配部
15 タップ
16 遅延割付部
17 加算回路
18 信号処理部
19 画像処理部
20 表示部
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置の動作モードには、血流速度の測定等に用いられる連続波ドプラ(以下「SCW」と呼ぶ)モードのように、連続波を用いるものがある。このような連続波を用いるモードでは、被検体に連続波を送信し、その反射波から得られる複数の受信信号にキャリア周波数の1周期内の遅延量を与えることで遅延フォーカスを行う。
【0003】
従来は、キャリア周波数の1周期内の固定した遅延量をもったタップを8〜16通り程度用意し、各受信信号に必要な遅延量をその中から選択的に与えることによって、受信信号を遅延加算していた。
【0004】
しかし、この場合、全てのタップが常に選択されるわけではない。特に超音波の受信に係るフォーカス点(以降では単に「フォーカス点」と呼ぶ)が深部になるにつれて、超音波振動子間に与えるべき遅延量は小さくなる。この点について以下に具体的に説明する。
【0005】
例えば、図11及び図12は、深度の異なるフォーカス点における、フォーカス点と各振動子との位置関係、及び各振動子に対応する遅延量を示している。図11Aは、深度が浅いフォーカス点FAと各振動子CH0〜CHnとの位置関係を示している。また図11Bは、この場合における各振動子CH0〜CHnに対応する遅延量を、横軸を各振動子CH、縦軸を遅延量tdとしたグラフである。同様に、図12Aは、深度が深いフォーカス点FBと各振動子CH0〜CHnとの位置関係を示している。また図12Bは、この場合における各振動子CH0〜CHnに対応する遅延量を、横軸を各振動子CH、縦軸を遅延量tdとしたグラフである。
【0006】
例えば図11Aを例に説明すると、各振動子に対応する遅延量は、フォーカス点FAから最も離れた位置にある振動子CHnを基準(遅延量0)として、フォーカス点FAと各振動子との距離に基づき算出される。この場合、フォーカス点FAと振動子CHjとの間の距離LAjが最も短い。そのため、図11Bに示すように、振動子CHjに対応する遅延量が最も大きくなる。以降、このときの遅延量を最大遅延量tdMaxAとする。
【0007】
図12Aのように深度が深い場合においても同様である。即ち各振動子に対応する遅延量は、フォーカス点FBから最も離れた位置にあるCHnを基準として、フォーカス点FBと各振動子との距離に基づき算出される。しかし、フォーカス点の深度が深くなると、フォーカス点FBから最も遠い振動子CHnまでの距離LBnと、フォーカス点FBから最も近い振動子CHjまでの距離LBjとの差が小さくなる。そのため図12Bに示すように、この場合の最大遅延量tdMaxBは、フォーカス点が近い場合(図11A)の最大遅延量tdMaxBよりも小さい。つまり、振動子間で与えられる遅延量の差が小さくなる。
【0008】
従来の超音波診断装置は、複数の超音波振動子から出力される信号を受ける複数のタップを有し、上記したようにフォーカス点と各振動子との距離に基づき算出された遅延量から、各振動子からの信号を出力するタップを特定する。そのため、振動子間の遅延量の差が小さい場合、固定した遅延量を各タップに割当てる構成で動作させると、特定のタップ(例えば、小さい遅延量が割当てられたタップ)に受信信号が集中する(以下、「タップ集中」と呼ぶ場合がある)。このタップ集中が発生すると、信号が集中したタップからの信号を受ける回路において受信信号が飽和して、S/N比の劣化や、アーチファクトが発生する場合があった。
【0009】
この受信信号の飽和を避けるため、タップからの信号を受ける回路の電源電圧や電流を予め大きくしておくことでダイナミックレンジを広げる方法もある。しかしながらこの場合、消費電力の増加に伴う発熱や、この発熱を抑えるためのファンの設置を考慮する必要がある。そのため、ファンによる騒音の発生や、サイズの増大を招く恐れがある。
【0010】
なお、従来の超音波診断装置では、固定した遅延量を各タップに割当てているため、量子化の単位がタップ数に応じて決定されていた。そのため、タップ数を増やすことでキャリア周波数の1周期内の遅延量をより細かく量子化し、タップ集中を軽減する方法もある。しかしながらこの場合、タップの増加に伴い回路が増加するため、装置のサイズやコストの増大につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−124161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の実施形態は上記の問題を解決するためになされたものであり、振動子間の遅延量の差が小さい場合であっても、タップ集中に伴う受信信号の飽和やアーチファクトの発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、この実施形態は、複数の超音波振動子と、複数のタップと、遅延量算出部と、チャンネル分配部と、遅延処理部と、を備えた超音波診断装置である。複数の超音波振動子は、被検体内の所定のフォーカス点に向けて超音波を送信し、前記被検体内で反射された反射波を受信する。複数のタップは、前記複数の超音波振動子から出力される信号を受ける。遅延量算出部は、前記超音波振動子と前記フォーカス点との距離に基づき、前記超音波振動子ごとに第1の遅延量を算出する。チャンネル分配部は、前記超音波振動子と前記タップとの間に介在する。またチャンネル分配部は、前記第1の遅延量の中から最小遅延量及び最大遅延量を特定する。またチャンネル分配部は、前記最小遅延量から前記最大遅延量までの範囲を前記タップの数で分割し、分割された範囲それぞれを前記タップと対応付ける。またチャンネル分配部は、前記超音波振動子から出力される信号を、その超音波振動子に対応する第1の遅延量を含む前記分割された範囲が対応付けられた前記タップに入力する。遅延処理部は、前記タップとあらかじめ設定された第2の遅延量とを対応付け、前記タップそれぞれに入力された信号に対し、当該タップに対応付けられた前記第2の遅延量に基づき遅延処理を施す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る超音波診断装置のブロック図である。
【図2A】第1の実施形態に係る超音波診断装置における、フォーカス点と各振動子との位置関係を示した図である。
【図2B】第1の実施形態に係る超音波診断装置における、各振動子に与えるべき遅延量の関係を示した図である。
【図3】本実施形態に係る超音波診断装置における、受信信号を整相加算する部分のブロック図である。
【図4】第1の実施形態に係る超音波診断装置において、各タップへの受信信号の分配を説明するための図である。
【図5】本実施形態における遅延量の量子化を説明するための図である。
【図6】第1の実施形態に係る超音波診断装置における、各タップへの量子化遅延量の割付を説明するための図である。
【図7】本実施形態に係る超音波診断装置の一連の処理の流れを示したフローチャートである。
【図8A】第2の実施形態に係る超音波診断装置における、フォーカス点と各振動子との位置関係を示した図である。
【図8B】第2の実施形態に係る超音波診断装置における、各振動子に与えるべき遅延量の関係を示した図である。
【図9A】第2の実施形態に係る超音波診断装置において、各タップへの受信信号の分配を説明するための図である。
【図9B】第2の実施形態に係る超音波診断装置における、各タップへの量子化遅延量の割付を説明するための図である。
【図10A】分割された遅延量と各タップとの対応関係の一例である。
【図10B】代表遅延量と量子化遅延量との対応関係の一例である。
【図11A】フォーカス点と各振動子との位置関係、及び各振動子に与えるべき遅延量の関係を説明するための図である。
【図11B】フォーカス点と各振動子との位置関係、及び各振動子に与えるべき遅延量の関係を説明するための図である。
【図12A】フォーカス点と各振動子との位置関係、及び各振動子に与えるべき遅延量の関係を説明するための図である。
【図12B】フォーカス点と各振動子との位置関係、及び各振動子に与えるべき遅延量の関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について図1を参照しながら説明する。図1のブロック図は、本実施形態に係る超音波診断装置における、超音波診断装置1の構成を示している。
【0016】
超音波診断装置1は、送信回路10と、超音波振動子群11と、増幅回路12と、遅延量算出部13と、チャンネル分配部14と、遅延割付部16と、加算回路17と、信号処理部18と、画像処理部19と、表示部20とを含んで構成される。
を含んで構成される。
【0017】
送信回路10は、図示しないが、クロック発生器、分周期、送信遅延回路、パルサを含んで構成されている。クロック発生器で発生されたクロックパルスは、分周器で例えば5MHz程度のパルスに落とされる。このパルスを、送信遅延回路を通してパルサに与えて高周波の電圧パルスを発生させ、この電圧パルスにより超音波振動子群11を駆動させる(機械的に振動させる)。これにより、送信回路10からの電気信号に従って、超音波振動子群11から被観測体に向けて超音波ビームが照射される。
【0018】
超音波振動子群11は、被観測体(例えば心臓)に対して超音波を送受信する。超音波振動子群11を構成する各超音波振動子(以降「各振動子」と呼ぶことがある)から送信された超音波ビームは、被観測体内の構造物の境界等の音響インピーダンスの異なる界面で、当該被観測体内の構造・動き等に対応して反射する。
【0019】
本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波を送信する複数の超音波振動子と超音波を受信する複数の超音波振動子とに分けて超音波を送受信するモードで動作する。このようなモードの一例として、連続波ドプラ(以下「SCW」と呼ぶことがある)モードがある。
【0020】
ここで図2Aを参照する。図2Aは、超音波振動子群11を構成する振動子CH0〜CHnと、フォーカス点F1との位置関係を示している。超音波診断装置はSCWモードで動作する場合、図2Aに示すように、超音波振動子群11を、超音波を送信する領域R2(振動子CHj+1〜CHn)と超音波を受信する領域R1(振動子CH0〜CHj)とに分ける。なお以降では、各振動子(CH0〜CHj)とフォーカス点F1とが、図2Aに示す位置関係にあるものとして説明する。また、特定の振動子を示す場合にはその振動子を示す符号を付し、特に振動子を指定しない場合には符号を付さず単に「振動子」と記載するものとする。
【0021】
ここで図3を参照する。図3は、受信信号を整相加算する構成、つまり、増幅回路12と、遅延量算出部13と、チャンネル分配部14と、遅延割付部16と、加算回路17との詳細な構成を説明するためのブロック図である。図3に示すように、チャンネル分配部14と遅延割付部16との間にはタップ15(tap0〜tap7)が介在する。つまり、チャンネル分配部14からの出力はタップ15に入力され、タップ15から遅延割付部16に出力される。以下、各構成の詳細について説明する。
【0022】
増幅回路12は、超音波振動子群11の各振動子に接続された信号線11aを介し、各振動子で受信される超音波エコー信号を受ける。増幅回路12は、各振動子から受けた超音波エコー信号を良好に伝送するために、低雑音増幅またはバッファリング等の処理を行う。
【0023】
遅延量算出部13は、フォーカス点F1と各振動子(CH0〜CHn)との距離に基づき遅延量を算出する。遅延量算出部13は、算出された遅延量をチャンネル分配部14及び遅延割付部16に出力する。チャンネル分配部14及び遅延割付部16については後述する。なお、遅延量算出部13が算出した遅延量が「第1の遅延量」に相当する。
【0024】
チャンネル分配部14は、各振動子に対応する遅延量を遅延量算出部13から受ける。チャンネル分配部14は、超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)に対応する遅延量の中から、最大の値である最大遅延量を特定する。チャンネル分配部14は、遅延量0から最大遅延量までの時間幅tDlyRangeを算出する。
【0025】
次に、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeと、超音波の周期Tcとを比較する。時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc以上の場合、チャンネル分配部14は、周期Tcをタップ15のタップ数分の範囲にあらかじめ分割しておき、この範囲と各タップとを対応付ける。この場合の動作は、従来の超音波診断装置と同様である。また、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc未満の場合、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeをタップ15のタップ数で分割し、分割後の範囲と各タップとを対応付ける。チャンネル分配部14は、分割後の範囲に含まれる遅延量が対応付けられた振動子からの出力を、その分割後の範囲に対応付けられたタップに入力する。
【0026】
以下に、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc未満の場合における、チャンネル分配部14による遅延量の分割と各タップとの対応付けについて図2B及び図4を参照しながら具体的に説明する。図2Bは、図2Aに示したフォーカス点F1と振動子CH0〜CHnとの位置関係において、フォーカス点F1と各振動子との距離に基づき算出された、各振動子に対応する遅延量を示したグラフである。図2Bでは、横軸は各振動子CHに対応し、縦軸は遅延量tdに対応している。また図4は、チャンネル分配部14による遅延量の分割と各タップへの受信信号の分配を説明するための図であり、図2Bのうち超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)に対応する部分を示している。図4では、横軸は各振動子CHに対応し、縦軸は遅延量tdに対応している。
【0027】
フォーカス点F1が図2Aに示す位置にある場合、フォーカス点F1から振動子CHjまでの距離L1jが最も遠い。そのため、図2Bに示すように、振動子CHjに対応する遅延量が最も大きい。この振動子CHjにおける遅延量が最大遅延量tdMax1に相当する。
【0028】
ここで図4を参照する。チャンネル分配部14は、図4に示すように、時間幅tDlyRange、即ち遅延量0〜tdMax1の時間幅をタップ数「8」(tap0〜tap7)の範囲、即ち0、tdA1〜tdA7、tdMax1で定義される8つの範囲に分割する。チャンネル分配部14は、分割された範囲をそれぞれ各タップ(tap0〜tap7)に割当てる。即ちチャンネル分配部14は、0〜tdA1で示された範囲をtap0に、tdA1〜tdA2で示された範囲をtap1に割当てる。同様にして、tdA2〜tdMax1内の各範囲も、tap2〜tap7にそれぞれ割当てる。なお、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc以上の場合は、周期Tcがタップ数に分割された各範囲をtap0〜tap7に割当てる。
【0029】
次にチャンネル分配部14は、各振動子(CH0〜CHj)からの出力を、各範囲に含まれる遅延量に対応付けられたタップに入力する。例えば、図4に示した例の場合、振動子CHjに対応付けられた遅延量は、tdA7〜tdMax1の範囲に含まれる。そのためチャンネル分配部14は、振動子CHjからの出力を、tdA7〜tdMax1の範囲に対応付けられたtap7に入力する。同様に、振動子CHmに対応付けられた遅延量は、tdA5〜tdA6の範囲に含まれる。そのためチャンネル分配部14は、振動子CHmからの出力を、tdA5〜tdA6の範囲に対応付けられたtap5に入力する。このようにチャンネル分配部14は、各タップに振動子を対応付け、各振動子からの出力を対応するタップに入力する。なおチャンネル分配部14は、例えばマルチプレクサやマトリックススイッチ等で構成するとよい。またタップ15は、各振動子からの信号をタップ数の種類に分配できればよい。そのためタップ15は、tap0〜tap7に対応する端子を設け別々の信号として受ける構成としてもよいし、配線で各信号を分配する構成としてもよい。
【0030】
遅延割付部16は、超音波の1周期分(キャリア周波数の1周期分)の遅延量を量子化数「16」で量子化した遅延量(以下「量子化遅延量」と呼ぶ)を選択可能に構成されている。これは、連続波ドプラモードでは、受信超音波の波形毎に同じ位相情報が繰り返される(波形の周期性がある)ため、必ずしも経路差に相当する分の時間差を与える必要はないためである。なお、「量子化」とは、アナログ値である各振動子に対応する遅延量を、離散的な近似値、つまり量子化遅延量に変換することを意味する。またこの量子化遅延量が「第2の遅延量」に相当する。遅延割付部16は、この量子化遅延量と各タップとを対応付け、タップからの出力に対し、そのタップに対応付けられた量子化遅延量で遅延処理を施す。この遅延割付部16の動作について、以下に具体的に説明する。
【0031】
まず、遅延割付部16による遅延量の量子化について、図5を参照しながら具体的に説明する。図5は、縦軸を遅延量td、横軸を各振動子CHに対応付けたグラフである。図5のtdMax0は、キャリア周波数の1周期分の遅延量のうち、最大となる遅延量を示している。遅延割付部16は、遅延量0〜tdMax0までを量子化数「16」の範囲、即ち0、td1〜td15、tdMax0で定義される「16」の範囲に分割する。この分割後の各範囲の幅が量子化間隔となる。なお、本実施形態の説明では量子化数を「16」として説明するが、遅延量の量子化数は8以上であれば好ましく、「16」に限定するものではない。これは、遅延量子化の精度がキャリア信号の「λ/8」以下の粗さであれば、遅延の量子化のない場合(連続遅延)と比べて、メインビームの広がりは10%以下となることが分かっているためである。即ち、遅延量の量子化数は8以上とすることでビームの広がりに拠る感度劣化を「−1dB」以内に抑えることができることが分かっている。また、詳細は以降で説明するが、遅延量の量子化数はタップ数よりも多いことが好ましい。
【0032】
遅延割付部16は、この量子化間隔に基づき、キャリア周波数の1周期分の遅延量を、量子化数「16」で量子化する。例えば、0〜td1で示された範囲を量子化遅延量D0に、td1〜td2で示された範囲を量子化遅延量D1に割当てる。同様にして、td2〜tdMax0内の各範囲も、量子化遅延量D2〜D15に割当てる。なお以降では、遅延量の範囲のうち、量子化遅延量D0〜D15に対応付けられた範囲を「量子化範囲」と呼ぶ場合がある。
【0033】
遅延割付部16は、tap0〜tap7に対応付けられた各遅延量の範囲から遅延量の代表値を特定する。一例として、遅延割付部16は、遅延量の範囲の中心の値を遅延量の代表値として特定する。例えばtap1の場合には、遅延量の代表値は(tdA2−tdA1)/2となる。遅延割付部16は、タップごとに特定された遅延量の代表値を、超音波の1周期中における遅延量に換算して代表遅延量tdtap0〜tdtap7とする。次に、遅延割付部16は、算出された代表遅延量tdtap0〜tdtap7と、量子化遅延量D0〜D15に対応する各量子化範囲とを比較する。なお遅延割付部16は、チャンネル分配部14と同様に、遅延量算出部13から各振動子に対応する遅延量を受け、代表遅延量tdtap0〜tdtap7を算出するように構成してもよい。また遅延割付部16は、代表遅延量tdtap0〜tdtap7を、チャンネル分配部14から取得するように構成してもよい。なお、遅延量の代表値は、遅延量の範囲に含まれる値であればよく、中心の値に限らない。例えば、遅延量の範囲中の最小値を代表値としてもよいし、最大値を代表値としてもよい。
【0034】
遅延割付部16は、比較結果をもとに、各タップに対応付けられた代表遅延量tdtap0〜tdtap7が、各量子化範囲のいずれに含まれるかを確認する。遅延割付部16は、各タップからの出力を、そのタップに対応する代表遅延量(tdtap0〜tdtap7)が含まれる量子化範囲に対応付けられた量子化遅延量(D0〜D15)と対応付ける。この遅延割付部16の動作について、図6を参照しながら説明する。図6は、遅延割付部16による各タップへの量子化遅延量の割付を説明するためのグラフであり、代表遅延量(tdtap0〜tdtap7)と、量子化遅延量(D0〜D15)との関係を示している。図6では、横軸は各振動子CHに対応し、縦軸は遅延量tdに対応している。
【0035】
例えばtap0からの出力は、代表遅延量tdtap0に対応し、tdtap0は量子化遅延量D0に対応する量子化範囲に含まれる。この場合に遅延割付部16は、tap0からの出力に量子化遅延量D0を対応付ける。遅延割付部16は、tap1〜tap7についても、tap0と同様の方法で量子化遅延量を対応付ける。即ち、遅延割付部16は、tap0、tap1を量子化遅延量D0に、tap2〜tap4を量子化遅延量D1に、tap5、tap6を量子化遅延量D2に、tap7を量子化遅延量D3に対応付ける。
【0036】
遅延割付部16は、各タップからの出力に対し、対応付けられた量子化遅延量に基づき遅延処理を施す。例えば、アナログ遅延の場合ならば、遅延割付部16は、各タップからの出力を量子化遅延量に対応する遅延線に接続するように切替えればよい。この切替えには、例えばマトリックススイッチ等を用いることができる。またディジタル遅延の場合も、遅延割付部16における遅延処理を行う構成を、例えばディジタルビームフォーマユニット等に適宜置き換えればよい。このように、各タップからの出力を対応付けた遅延回路(遅延線やディジタルビームフォーマユニット)に出力する。そのため、遅延量子化数をタップ数より多くしておくことが好ましい。具体的には、遅延量子化数をタップ数より多くしておくことで、固定した遅延量を各タップに割当てる構成で動作させる場合よりも、特定の回路(例えば遅延回路)への出力の集中を軽減することが可能となる。なお遅延割付部16は、遅延処理が施された各タップからの出力を加算回路17に出力する。
【0037】
加算回路17は、遅延割付部16でタップごとに遅延処理が施された受信信号を加算する。これにより受信信号が増幅され、受信信号のS/N比が向上する。
【0038】
信号処理部18は、加算回路17で増幅された受信信号を受ける。信号処理部18は、受信信号を直交検波して、ベースバンド信号に変換し、ハイパスフィルタを通すことで、観測対象である被検体内の流動体で反射した信号を抽出する。信号処理部18は、抽出された信号に対してアンチエリアシングをかけ、A/D変換器によりディジタル信号に変換したうえで周波数解析を行うことでドップラフト周波数成分を抽出する。信号処理部18は、このドップラシフト周波数成分に基づき、被検体内の移動体(例えば、血流)の速度を算出する。画像処理部19は、算出された移動体の速度を受けて、例えば、横軸を時間、縦軸を速度としたグラフのように、算出された速度を視認可能に表示した画面を生成する。画像処理部19は、生成した画面を、表示部20に表示させる。
【0039】
(一連の動作)
次に、本実施形態に係る超音波診断装置の一連の動作について、図7を参照しながら説明する。図7は、本実施形態に係る超音波診断装置の一連の処理の流れを示したフローチャートである。
【0040】
(ステップS11)
電源が投入され超音波診断装置が起動されると、超音波診断装置の遅延量算出部13は、まず操作者から連続波ドップラの受信フォーカス点の指定を受け、被検体中のフォーカス点の位置を特定する。以降、フォーカス点と各振動子とが、図2Aに示す位置関係にあるものとして説明する。
【0041】
(ステップS12)
遅延量算出部13は、特定されたフォーカス点F1と各振動子CH0〜CHnとの距離に基づき、各振動子に対応する遅延量を算出する。遅延量算出部13は、算出した各振動子に対応する遅延量を、チャンネル分配部14及び遅延割付部16に出力する。
【0042】
(ステップS13)
チャンネル分配部14は、遅延量算出部13から受けた各振動子に対応する遅延量のうち、超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)に対応する遅延量の中から遅延量が最大となる最大遅延量tdMax1を特定する。また、チャンネル分配部14は、遅延量0から最大遅延量tdMax1までの時間幅tDlyRangeを算出する。
【0043】
(ステップS14)
次に、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeと、超音波の周期Tcとを比較する。
【0044】
(ステップS15)
時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc以上の場合(ステップS14、Y)、チャンネル分配部14は、周期Tcをタップ15のタップ数分の範囲にあらかじめ分割しておき、この範囲と各タップとを対応付ける。チャンネル分配部14は、各範囲に含まれる遅延量に対応付けられた振動子からの出力を、その範囲に対応付けられたタップに入力する。
【0045】
(ステップS16)
また、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc未満の場合(ステップS14、N)、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeをタップ15のタップ数「8」で分割し、分割された範囲をそれぞれ各タップ(tap0〜tap7)に割当てる。これにより、遅延量0〜tdMax1で表される時間幅が、遅延量0、tdA1〜tdA7、tdMax1で定義される8つの範囲に分割され、これらの範囲が各タップに対応付けられる。チャンネル分配部14は、各範囲に含まれる遅延量に対応付けられた振動子からの出力を、その範囲に対応付けられたタップに入力する。
【0046】
(ステップS17)
次に遅延割付部16は、tap0〜tap7に対応付けられた各遅延量の範囲から遅延量の代表値を特定する。一例として、遅延割付部16は、遅延量の範囲の中心の値を遅延量の代表値として特定する。例えばtap1の場合には、遅延量の代表値は(tdA2−tdA1)/2となる。遅延割付部16は、タップごとに特定された遅延量の代表値を、超音波の1周期中における遅延量に換算して代表遅延量tdtap0〜tdtap7とする。
【0047】
(ステップS18)
遅延割付部16は、各タップに対応する代表遅延量tdtap0〜tdtap7と、キャリア周波数の1周期分の遅延量を量子化した量子化遅延量D0〜D15に対応する各量子化範囲とを比較する。遅延割付部16は、比較結果をもとに、各タップに対応付けられた代表遅延量tdtap0〜tdtap7が、いずれの量子化範囲に含まれるかを確認する。遅延割付部16は、各タップからの出力を、そのタップに対応する代表遅延量(tdtap0〜tdtap7)が含まれる量子化範囲に対応付けられた量子化遅延量(D0〜D15)と対応付ける。これにより遅延割付部16は、例えば図6に示すように、tap0、tap1を量子化遅延量D0に、tap2〜tap4を量子化遅延量D1に、tap5、tap6を量子化遅延量D2に、tap7を量子化遅延量D3に対応付ける。
【0048】
(ステップS19)
次に制御部(図示しない)が、超音波振動子群11の各振動子のうち、超音波を送信する領域R2の各振動子(CHj+1〜CHn)を制御し、被検体に超音波を送信する。被検体内で反射された超音波は、超音波振動子群11の超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)で受信される。領域R1の各振動子(CH0〜CHj)で受信された超音波エコー信号は、増幅回路12で増幅され、チャンネル分配部14により対応付けられた各タップに入力される。
【0049】
次に遅延割付部16は、各タップからの出力に対し、対応付けられた量子化遅延量に基づき遅延処理を施す。遅延割付部16は、遅延が施された各タップからの出力を加算回路17に出力する。加算回路17は、遅延割付部16からの受信信号をタップごとに加算し、信号処理部18に出力する。信号処理部18は、加算回路17から出力された信号に処理を施し、被検体内の移動体の速度を算出する。画像処理部19は、算出された移動体の速度を受けて、算出された速度を視認可能に表示した画面を生成して表示部20に表示する。
【0050】
(ステップS21)
超音波検査は、操作者により検査の終了が指示されるまで継続される(ステップS20、N)。超音波検査中に、操作者による操作を受けて、フォーカス点の位置が変更された場合(ステップS21、Y)、ステップS11〜S18に係る処理を再度実行したうえで、検査に係る処理(ステップS19)を行う。フォーカス点の位置が変更されない場合は(ステップS21、N)、継続して検査に係る処理(ステップS19)を実行する。
【0051】
(ステップS20)
操作者により超音波検査の終了が指示されると(ステップS20、Y)、超音波検査に係る処理を終了する。
【0052】
なお上記では、tap数を「8」、遅延割付部16による遅延量の量子化数を「16」として説明したが、必ずしもこの数に限定されるものではない。遅延量子化数及びtap数は、超音波診断装置の性能に応じて適宜変更してもよく、遅延量子化数をtap数より大きく設定する構成がより好ましい。
【0053】
以上、本実施形態に係る超音波診断装置に依れば、フォーカス点の深度が深い場合のように振動子間の遅延量の差が小さい場合でも全てのタップが使用される。そのため、特定のタップへの信号の集中を軽減することが可能となり、タップ集中に伴う受信信号の飽和やアーチファクトの発生を防止することが可能となる。また、従来の超音波診断装置のように、固定した遅延量を各タップに割当てる必要が無くなる。そのため、遅延量の量子化数をタップ数に依存することなく設定することが可能となる。またタップ数を増やす必要が無いため、消費電力や、サイズ、コストの増加を抑えつつ、タップ集中を防止することが可能となる。
【0054】
(第2の実施形態)
第1の実施形態に係るチャンネル分配部14は、最大遅延量を特定し、遅延量0〜最大遅延量までの時間幅をタップ数(tap0〜tap7)の範囲に分割していた。第2の実施形態に係るチャンネル分配部14は、最大遅延量に加え、さらに遅延量が最小となる最小遅延量を特定し、最小遅延量〜最大遅延量までの時間幅をタップ数(tap0〜tap7)の範囲に分割する点で異なる。
【0055】
まず図8Aを参照する。図8Aは、超音波振動子群11を構成する振動子CH0〜CHnと、フォーカス点F2との位置関係を示している。図8Aに示す通り、フォーカス点F2は、超音波振動子群11の中心よりも超音波を受信する領域R1側に位置している。なおこの場合、領域R1に含まれる振動子CHkとフォーカス点F2との距離L2kが最も近く、超音波を送信する領域R2に含まれる振動子CHnとフォーカス点F2との距離L2nが最も遠い。
【0056】
ここで図8Bを参照する。図8Bは、図8Aに示したフォーカス点F2と振動子CH0〜CHnとの位置関係において、フォーカス点F2と各振動子との距離に基づき算出された、各振動子に対応する遅延量を示したグラフである。図8Bでは、横軸は各振動子CHに対応し、縦軸は遅延量tdに対応している。各振動子に対応付けられる遅延量は、振動子CHnとフォーカス点F2との距離L2nを基準に算出される。この場合、図8Bに示す通り、超音波を受信する領域R1の各振動子に対応付けられる遅延量の最小値は、CH0に対応する遅延量tdMin2となる。そのため、超音波を送信する領域R2の各振動子に対応付けられた遅延量0〜tdMin2内の遅延量は、受信信号の遅延処理に用いられない。よって、この領域を量子化しタップに割当てたとしても、そのタップには受信信号が入力されず他のタップに受信信号が集中することになる。
【0057】
これに対し、本実施形態に係るチャンネル分配部14は、最大遅延量tdMax2に加えて最小遅延量tdMin2を特定し、遅延量tdMin2〜tdMax2までの時間幅をタップ数(tap0〜tap7)の範囲に分割する。これにより、図8Bに示すように、算出された各振動子の遅延量のうち、遅延処理に用いられない遅延量が存在する場合においても、遅延処理に用いる遅延量の範囲でタップを無駄なく使用することを特徴としている。以降では、第1の実施形態に係る超音波診断装置と異なる、チャンネル分配部14の構成に着目して説明する。
【0058】
チャンネル分配部14は、各振動子に対応する遅延量を遅延量算出部13から受ける。この各振動子に対応する遅延量は、遅延量算出部13が、フォーカス点F2と各振動子(CH0〜CHn)との距離に基づき算出する。チャンネル分配部14は、超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)に対応する遅延量うちの最大遅延量と最小遅延量を特定する。チャンネル分配部14は、特定した最小遅延量から最大遅延量までの時間幅tDlyRangeを算出する。
【0059】
次に、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeと、超音波の周期Tcとを比較する。時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc以上の場合、チャンネル分配部14は、周期Tcをタップ15のタップ数分の範囲にあらかじめ分割しておき、この範囲と各タップとを対応付ける。この場合の動作は、第1の実施形態に係る超音波診断装置と同様である。また、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc未満の場合、チャンネル分配部14は、時間幅tDlyRangeをタップ15のタップ数で分割し、分割後の範囲と各タップとを対応付ける。分割後の範囲と各タップとを対応付ける。
【0060】
以下に、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc未満の場合における、チャンネル分配部14による遅延量の分割と各タップとの対応付けについて図8B、図9A、及び図9Bを参照しながら説明する。図9Aは、チャンネル分配部14による遅延量の分割と各タップへの受信信号の分配を説明するためのグラフである。図9Aは、図8Bのうち超音波を受信する領域R1の各振動子(CH0〜CHj)に対応する部分を示している。また図9Bは、遅延割付部16による各タップへの量子化遅延量の割付を説明するためのグラフである。なお図9A及び図9では、横軸は各振動子CHに対応し、縦軸は遅延量tdに対応している。
【0061】
フォーカス点F2が図8Aに示す位置にある場合、フォーカス点F2から振動子CHjまでの距離L1jが最も遠い。そのため、図8Bに示すように、振動子CHjに対応する遅延量が最も大きい。この振動子CHjにおける遅延量が最大遅延量tdMax2に相当する。また領域R1に含まれる振動子CH0〜CHjのうち、振動子CH0までの距離L20が最も近い。そのため、図8Bに示すように、振動子CH0に対応する遅延量が最も小さい。この振動子CH0における遅延量が最小遅延量tdMin2に相当する。
【0062】
ここで図9Aを参照する。チャンネル分配部14は、図9Aに示すように、時間幅tDlyRange、即ち遅延量tdMin2〜tdMax2の時間幅をタップ数「8」(tap0〜tap7)の範囲、即ちtdMin2、tdB1〜tdB7、tdMax2で定義される8つの範囲に分割する。チャンネル分配部14は、分割した範囲をそれぞれ各タップ(tap0〜tap7)に割当てる。即ちチャンネル分配部14は、tdMin2〜tdB1で定義される範囲をtap0に、tdB1〜tdB2で示された範囲をtap1に、・・・、tdAB〜tdB7で示された範囲をtap6に、tdB7〜tdMax2がtap7に割当てる。なお、時間幅tDlyRangeが超音波の周期Tc以上の場合は、周期Tcがタップ数に分割された各範囲をtap0〜tap7に割当てる。
【0063】
次にチャンネル分配部14は、各範囲に含まれる遅延量に対応付けられた振動子からの出力を、その範囲に対応付けられたtapに入力する。例えば、振動子CHjに対応付けられた遅延量は、tdB5〜tdB6の範囲に含まれる。そのためチャンネル分配部14は、振動子CHjからの出力を、tdB5〜tdB6の範囲に対応付けられたtap5に入力する。同様に、振動子CHkに対応付けられた遅延量は、tdB7〜tdMax2の範囲に含まれる。そのためチャンネル分配部14は、振動子CHkからの出力を、tdB7〜tdMax2の範囲に対応付けられたtap7に入力する。このようにチャンネル分配部14は、各tapに振動子を対応付け、各振動子からの出力を対応するtapに入力する。
【0064】
以降の動作は、第1の実施形態に係る超音波診断装置と同様である。即ち、遅延割付部16は、tap0〜tap7に対応付けられた各遅延量の範囲から代表遅延量tdtap0〜tdtap7を特定する。次に、遅延割付部16は、図9Bに示すように、各タップに対応する代表遅延量tdtap0〜tdtap7と、量子化遅延量D0〜D15に対応する各量子化範囲とを比較する。遅延割付部16は、比較結果をもとに、各タップからの出力を、そのタップに対応する代表遅延量(tdtap0〜tdtap7)が含まれる量子化範囲に対応付けられた量子化遅延量(D0〜D15)と対応付ける。これにより、遅延割付部16は、tap0、tap1を量子化遅延量D4に、tap2〜tap4を量子化遅延量D5に、tap5、tap6を量子化遅延量D6に、tap7を量子化遅延量D7に対応付ける。遅延割付部16は、各タップからの出力に対し、対応付けられた量子化遅延量に基づき遅延処理を施し、この遅延が施された各出力を加算回路17に出力する。加算回路17は、遅延割付部16でタップごとに遅延量が与えられた受信信号を加算し、信号処理部18に出力する。
【0065】
なお、上述したようにチャンネル分配部14及び遅延割付部16を動作させることで、時間幅tDlyRangeが、2つの周期TcmとTcm+1とに亘って存在する場合についても、同様に、各タップと量子化遅延量とを対応付けることが可能である。例えば、図10A及び図10Bは、時間幅tDlyRangeが、2つの周期TcmとTcm+1とに亘って存在する場合の、各振動子と遅延量との関係を示したグラフである。図10Aは、分割された遅延量と各タップとの対応関係の一例を示している。また、図10Bは、代表遅延量(tdtap0〜tdtap7)と、量子化遅延量(D0〜D15)との対応関係の一例を示している。
【0066】
時間幅tDlyRangeが、2つの周期TcmとTcm+1とに亘って存在する場合、図10Aに示すように、チャンネルCHiに対応する遅延量は、超音波の周期Tcのm倍(mは整数)である周期Tcmと等しいとする。このとき、最大遅延量tdMax3、最小遅延量tdMin3、及び周期Tcmとの大小関係は、tdMax3>Tcm>tdMin3となる。このような場合、最大遅延量tdMax3及び最小遅延量tdMin3それぞれを超音波の1周期中の遅延量に換算したtdMax3’及びtdMin3’と、周期Tcとの大小関係は、図4に示すようにTc>tdMin3’>tdMax3’となる。
【0067】
このような場合においても、チャンネル分配部14及び遅延割付部16は、前述したとおりに動作する。即ち、チャンネル分配部14は、各振動子に対応する遅延量、即ち量子化前の遅延量に基づき時間幅tDlyRangeを算出し、時間幅tDlyRangeを分割したうえで各タップに対応付ける。そのうえで、遅延割付部16は、分割後の範囲から遅延量の代表値を特定し、この代表値を基に超音波の1周期中における遅延量である代表遅延量tdtap0〜tdtap7を算出する。遅延割付部16は、代表遅延量tdtap0〜tdtap7と各量子化範囲とを比較し、その比較結果を基に、各タップと量子化遅延量との対応付けを行う。以上のように、チャンネル分配部14及び遅延割付部16が動作させることで、図10Bに示すように、タップtap0〜tap7と量子化遅延量D0〜D15とが対応付けられる。即ち、tap0〜tap2からの出力は、量子化遅延量D15に基づき遅延処理が施される。また、tap3、tap4からの出力は量子化遅延量D0に基づき遅延処理が施され、tap5〜tap7からの出力は量子化遅延量D2に基づき遅延処理が施される。
【0068】
以上、本実施形態に係る超音波診断装置に依れば、図8Bの遅延量0〜tdMin2のように受信信号の遅延処理に用いられない遅延量が存在する場合においても、受信信号の遅延処理に用いる遅延量の範囲(tdMin2〜tdMax2)でタップを無駄なく使用することが可能となる。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載されたその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1 超音波診断装置
10 送信回路
11 超音波振動子群
12 増幅回路
13 遅延量算出部
14 チャンネル分配部
15 タップ
16 遅延割付部
17 加算回路
18 信号処理部
19 画像処理部
20 表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内の所定のフォーカス点に向けて超音波を送信し、前記被検体内で反射された反射波を受信する複数の超音波振動子と、
前記複数の超音波振動子から出力される信号を受ける複数のタップと、
前記超音波振動子と前記フォーカス点との距離に基づき、前記超音波振動子ごとに第1の遅延量を算出する遅延量算出部と、
前記超音波振動子と前記タップとの間に介在し、前記第1の遅延量の中から最小遅延量及び最大遅延量を選択し、前記最小遅延量から前記最大遅延量までの範囲を前記タップの数で分割し、分割された範囲それぞれを前記タップと対応付け、前記超音波振動子から出力される信号を、その超音波振動子に対応する第1の遅延量を含む前記分割された範囲が対応付けられた前記タップに入力するチャンネル分配部と、
前記タップとあらかじめ設定された第2の遅延量とを対応付け、前記タップそれぞれに入力された信号に対し、当該タップに対応付けられた前記第2の遅延量に基づき遅延処理を施す遅延処理部と、
を備えた超音波診断装置。
【請求項2】
前記チャンネル分配部は、前記分割された範囲に含まれる前記第1の遅延量に対応付けられた2以上の前記超音波振動子からの信号を加算し、加算された信号を当該分割された範囲に対応付けられた前記タップに入力することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記複数の超音波振動子を、超音波を送信する送信領域と、超音波を受信する受信領域とに分けて動作し、
前記チャンネル分配部は、前記最小遅延量及び前記最大遅延量を、前記受信領域に含まれる超音波振動子に対応する第1の遅延量の中から選択することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記第1の遅延量は、前記超音波の1周期に含まれる時間であり、
前記遅延処理部は、前記超音波の1周期を所定の量子化数で量子化した時間を、前記第2の遅延量として前記タップに対応付けることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記遅延処理部により前記タップに対応付けられる前記第2の遅延量の種類は、前記タップの数より多いことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項1】
被検体内の所定のフォーカス点に向けて超音波を送信し、前記被検体内で反射された反射波を受信する複数の超音波振動子と、
前記複数の超音波振動子から出力される信号を受ける複数のタップと、
前記超音波振動子と前記フォーカス点との距離に基づき、前記超音波振動子ごとに第1の遅延量を算出する遅延量算出部と、
前記超音波振動子と前記タップとの間に介在し、前記第1の遅延量の中から最小遅延量及び最大遅延量を選択し、前記最小遅延量から前記最大遅延量までの範囲を前記タップの数で分割し、分割された範囲それぞれを前記タップと対応付け、前記超音波振動子から出力される信号を、その超音波振動子に対応する第1の遅延量を含む前記分割された範囲が対応付けられた前記タップに入力するチャンネル分配部と、
前記タップとあらかじめ設定された第2の遅延量とを対応付け、前記タップそれぞれに入力された信号に対し、当該タップに対応付けられた前記第2の遅延量に基づき遅延処理を施す遅延処理部と、
を備えた超音波診断装置。
【請求項2】
前記チャンネル分配部は、前記分割された範囲に含まれる前記第1の遅延量に対応付けられた2以上の前記超音波振動子からの信号を加算し、加算された信号を当該分割された範囲に対応付けられた前記タップに入力することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記複数の超音波振動子を、超音波を送信する送信領域と、超音波を受信する受信領域とに分けて動作し、
前記チャンネル分配部は、前記最小遅延量及び前記最大遅延量を、前記受信領域に含まれる超音波振動子に対応する第1の遅延量の中から選択することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記第1の遅延量は、前記超音波の1周期に含まれる時間であり、
前記遅延処理部は、前記超音波の1周期を所定の量子化数で量子化した時間を、前記第2の遅延量として前記タップに対応付けることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記遅延処理部により前記タップに対応付けられる前記第2の遅延量の種類は、前記タップの数より多いことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の超音波診断装置。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【公開番号】特開2012−161445(P2012−161445A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23512(P2011−23512)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]