説明

超音波診断装置

【課題】アーチファクトが少なく深部においても感度が不足することがなく、さらに被検体や部位の違いによらず、常に高い画像品質の診断画像を得ること。
【解決手段】送受信部21はプローブを介して被検体内部を超音波で走査する。複数の走査線それぞれに位相が反転した第1、第2の超音波が順番に送信受信される。加算部23は第1、第2のエコー信号の加算によりハーモニック成分を抽出する。ハーモニック成分に基づいて第1画像が生成され、第1、第2のエコー信号の一方に基づいてハーモニック成分と基本波成分とを含む第2画像が生成される。合成部29は第1、第2の画像を合成する。重み係数計算部32は第1の深さより浅い範囲では第2画像に対する重みをゼロに設定し、第1深さからそれより深い第2深さまでの範囲では第2画像に対する重みをゼロから1まで変化させ、第2深さより深い範囲では第2画像に対する重みを1に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織内における超音波の非線形伝搬に由来するハーモニック成分を抽出して、当該生体組織の断層構造を映像化する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の超音波診断では、生体組織からのエコー信号に含まれる基本波成分を利用して、当該生体組織の断層構造を映像化する手法がしばしば使用されていた。しかしながら、エコー信号の基本波成分を利用した手法は、アーチファクト(虚像)が発生することが多く、診断画像の画像品質が低下するという問題があった。
【0003】
そこで近年、生体組織内における超音波の伝搬速度に非線形性があることを利用して、生体組織の断層構造を映像化する、いわゆる組織非線形音響イメージング(Tissue Harmonic Imaging)が使用されるようになった。
【0004】
組織非線形音響イメージングは、生体組織からのエコー信号に含まれるハーモニック成分の2次高調波だけを利用して、生体組織の断層構造を映像化する手法であって、アーチファクトが低減された、抜けの良い高コントラスト画像が得られるという特徴がある。
【0005】
これにより、現在の超音波診断では、従来よりも画像品質が高い診断画像が得られるようになり、超音波診断における診断能が向上してきた。
【0006】
ハーモニック成分だけを抽出する方法として、いわゆるパルスサブストラクション(PS)法が知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。このパルスサブストラクション法では、複数の走査線それぞれに対して、位相が反転した2種類の超音波を低音圧で送信して、これら2種類に対応する2つのエコー信号を受信する。そして、これらのエコー信号を加算して基本波成分を除去することで、生体組織からのハーモニクス成分のみを抽出する。
【0007】
また、組織非線形音響イメージングでは、生体組織からのエコー信号に含まれるハーモニクス成分の差音成分だけを利用して、生体組織の断層構造を映像化することもある(例えば、特許文献1を参照。)。
【0008】
また、生体組織の断層構造を映像化する手法ではないが、超音波診断で使用される造影剤バブルが非常にデリケートであることを利用して、血流動態を映像化する手法も使用されるようになっている。
【0009】
造影剤バブルからのエコー成分だけを抽出する方法として、いわゆるレートサブストラクション(RS)法が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。このレートサブストラクション法では、複数の走査線それぞれに対して、同じ超音波を高音圧で2回送信して、これら2回の送信に対応した2つのエコー信号を受信する。そして、これら2つのエコー信号を差分して重複成分を除去することで、消失した造影剤バブルからのエコー成分を抽出する。
【0010】
すなわち、超音波診断で使用される造影剤バブルは非常にデリケートであるため、超音波が照射されると、その多くが瞬時に破壊される。そのため、2回目の超音波の送信によって得られるエコー信号は、1回目の超音波の送信によって得られるエコー信号よりも小さくなる。しかしながら、生体組織からのエコー信号は大きく変化することがない。したがって、これら2つのエコー信号から得られる差分信号には、消失した造影剤バブルからのエコー信号が反映される。これにより、レートサブストラクション法を使用すれば、生体組織からのエコー信号が除去されて、血流動態のみの映像化が可能となる。
【0011】
また、従来の超音波診断では、超音波診断装置固有の内部ノイズが診断画像に白く表示される、いわゆるホワイトノイズが発生することがある。ホワイトノイズが発生すると、信号雑音比(SN比)が低下して、診断画像の画像品質が低下するという問題がある。
【0012】
そこで近年、生体組織からのエコー信号とホワイトノイズに基づき、自動でゲインを最適化して、診断画像の画像品質を向上させる技術が提案された(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】阿比留巌、鎌倉友男著「超音波パルスの非線形伝搬」信学技法、US89−23、P53
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−298620号
【特許文献2】特開平8−336527号
【特許文献3】米国特許第6398733号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、組織非線形音響イメージングは、エコー信号に含まれる基本波成分から生体組織の断層構造を映像化する手法に比べて、超音波画像の深部において感度が不足することがある。これは、超音波が生体組織内を伝搬するときに、その距離や周波数に応じて、いわゆる周波数依存減衰が生じるからである。
【0016】
そこで近年、本出願の出願人によって、基本波成分とハーモニック成分とを合成して、超音波画像の感度を画像全体にわたり均一する新たな手法が提案された。しかしながら、周波数依存減衰の減衰率が被検体や部位ごとに違っているにも関わらず、本手法では、あらかじめ決定された重み係数が使用されている。そのため、重み係数が被検体や部位にマッチせず、画像品質の高い診断画像が得られないことがある。
【0017】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、アーチファクトが少なく、しかも深部においても感度が不足することがなく、さらに被検体や部位の違いによらず、常に高い画像品質の診断画像が得られる超音波診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る超音波診断装置は、超音波プローブと、前記超音波プローブを介して被検体内部を超音波で走査するものであって、複数の走査線それぞれに位相が反転した第1、第2の超音波を順番に送信して、前記走査線ごとに前記第1、第2の超音波にそれぞれ対応する第1、第2のエコー信号を受信する送受信手段と、前記第1、第2のエコー信号の加算によりハーモニック成分を抽出する成分抽出手段と、前記ハーモニック成分に基づいて第1の画像信号を生成するとともに、前記第1のエコー信号と前記第2のエコー信号との一方に基づいて前記ハーモニック成分と基本波成分とを含む第2の画像信号を生成する画像生成手段と、前記第1の画像信号に対して前記第2の画像信号を合成することにより第3の画像信号を発生するものであって、第1の深さより浅い範囲においては前記第2の画像信号に対する重みをゼロに設定し、前記第1の深さから前記第1の深さより深い第2の深さまでの範囲においては前記第2の画像信号に対する重みをゼロから1まで変化させ、前記第2の深さより深い範囲においては前記第2の画像信号に対する重みを1に設定する信号合成手段と、前記第3の画像信号に基づき画像を表示する表示手段とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態における超音波診断装置のブロック図。
【図2】同実施形態における重み係数のグラフ。
【図3】同実施形態における重み係数の設定シーケンスが作動しているときの診断画像の生成工程に関するフローチャート。
【図4】同実施形態におけるノイズゲインとシグナルゲインのグラフ。
【図5】同実施形態における0.7[dB/MHz・cm]の減衰率を有するファントムの診断画像。
【図6】同実施形態における0.3[dB/MHz・cm]の減衰率を有するファントムの診断画像。
【図7】本発明の第2の実施形態における重み係数の設定シーケンスが作動しているときの診断画像の生成工程に関するフローチャート。
【図8】本発明の第3の実施形態におけるテーブルの概念図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、第1の実施形態〜第3の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
先ず、図1〜図6を用いて第1の実施形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態における超音波診断装置のブロック図である。
図1に示すように、本実施形態における超音波診断装置は、超音波プローブ10と装置本体20とから構成されている。
【0021】
超音波プローブ10は、装置本体20に着脱可能に接続されていて、その先端には、いわゆる2Dアレイ振動子が設けられている。したがって、本実施形態における超音波プローブ10では、3次元的な超音波の送受信が可能である。
【0022】
装置本体20は、送受信部(送受信手段)21、第1のメモリ22、加算部(成分抽出手段)23、検波部24、フィルタ部25、エンベロープ部26、Log圧縮部27、第2のメモリ28、合成部(信号合成手段)29、画像処理部30、ゲイン調整部(ゲイン算出手段)31、重み係数計算部(重み係数算出手段)32、画像メモリ33、デジタルスキャンコンバータ34、モニタ(表示手段)35、及び指示スイッチ(指示手段)36を具備している。
【0023】
送受信部21は、超音波を送信するための送信部と、生体組織からのエコー信号を受信するための受信部とから構成される。第1のメモリ22は、送受信部21からのエコー信号を保存する。加算部23は、送受信部21からエコー信号が入力されたときに、当該エコー信号と第1のメモリ22に保存されている別のエコー信号とを加算する。
【0024】
検波部24は、加算部23からのエコー信号を、当該エコー信号に応じた周波数で検波処理する。フィルタ部25は、検波部24からのエコー信号に対して、検波処理に応じた周波数フィルタをかけ、必要な周波数成分だけを抽出する。
【0025】
エンベロープ部26は、フィルタ部25からのエコー信号に対して、エンベロープをかける。Log圧縮部27は、エンベロープ部26からのエコー信号をLog圧縮して、画像信号を生成する。
【0026】
即ち、検波部24、フィルタ部25、エンベロープ部26、及びLog圧縮部27は、加算部23からのエコー信号を処理して画像信号を生成する信号生成部(信号生成手段)37を構成している。
【0027】
第2のメモリ28は、Log圧縮部27からの画像信号を保存する。合成部29は、第2のメモリ28に記憶されている画像信号と、Log圧縮部27からの画像信号に対して、それぞれ重み係数計算部32によって算出された重み係数をかけて、これらを加算する。
【0028】
画像処理部30は、合成部29からの画像信号に種々の画像処理をする。ゲイン調整部31は、画像処理部30からの画像信号に基づき、ゲインを調整する。重み係数計算部32は、ゲイン調整部31からのゲインに基づき、重み係数を算出する。
【0029】
画像メモリ33は、画像処理部30からの画像信号を逐次保存する。デジタルスキャンコンバータ34は、走査により得られた走査線信号列を、テレビジョン等に代表される一般的なビデオフォーマットの走査線信号列に変換する。モニタ35は、デジタルスキャンコンバータ34からの画像信号を三次元(3D)の診断画像もしくは四次元(4D)の診断画像として表示する。指示スイッチ36は、操作者による操作に基づき、重み係数計算部32に重み係数の算出を開始させる。
【0030】
(診断画像の生成)
本実施形態における走査シーケンスでは、走査線ごとに位相が反転した2本の超音波、即ち第1、第2の超音波が連続して送信される。第1、第2の超音波は、被検体内における音響インピーダンスの不連続面で反射して、位相が反転した2本のエコー信号、即ち第1、第2の超音波に対応した第1、第2のエコー信号EA、EBとなって送受信部21に受信される。
【0031】
なお、第1、第2のエコー信号EA、EBは、基本波成分とハーモニック成分の両方を含んでいるが、基本波成分に比べてハーモニック成分が非常に小さいため、基本波成分が反映されているとみなされる。
【0032】
先に受信された第1のエコー信号(第2の成分)EAは、第1のメモリ22に保存されるとともに、加算部23を通過して検波部24に進む。そして、後から受信された第2のエコー信号EBが加算部23に到着したら、第1のメモリ22に保存されている第1のエコー信号EAと、加算部23に到着した第2のエコー信号EBとが加算され、第3のエコー信号(第1の成分)ECが生成される。
【0033】
ところで、前述のように、第1、第2のエコー信号EA、EBは、位相が反転している。したがって、第1、第2のエコー信号EA、EBが加算されると、第1、第2のエコー信号EA、EBに含まれる基本波成分が相殺され、ハーモニック成分だけが2倍に強調される。これにより、第3のエコー信号ECは、生体組織からのハーモニック成分が反映されることになる。
【0034】
第3のエコー信号ECが生成されたとき、第1のエコー信号EAは、既に加算部23より先に進んでいる。そして、先行する第1のエコー信号EAと、第1のエコー信号EAを後行する第3のエコー信号ECは、それぞれ検波部24における検波処理、フィルタ部25におけるフィルタ処理、エンベロープ部26におけるエンベロープ処理、及びLog圧縮部27におけるLog圧縮処理が順次なされて、第1、第2の画像信号SA、SCとなる。なお、第1、第2の画像信号SA、SCは、第1、第3のエコー信号EA、ECに基づいて生成されたものであるため、それぞれ基本波成分、ハーモニック成分が反映されている。
【0035】
Log圧縮部27から出力された第1の画像信号SAは、ひとまず第2のメモリ28に保存される。そして、遅れてLog圧縮部27から出力された第2の画像信号SCが合成部29に到達したら、第2のメモリ28に保存されている第1の画像信号SAに重み係数WAがかけられ、合成部29に到達した第2の画像信号SCに重み係数WCがかけられ、さらに、これらが加算される。これにより、第1の画像信号SAと第2の画像信号SCから構成される第3の画像信号SDが生成される。
【0036】
第3の画像信号SDは、第1の画像信号SAと第2の画像信号SCとによって、
SD=SA×WA+SC×WC
と表現される。なお、重み係数WA、WCは、重み係数計算部32によって算出されたものであるが、その算出方法については、後に詳述することとする。
【0037】
第3の画像信号SDは、画像処理部30で種々の画像処理が施されたのち、逐次画像メモリ33に保存される。そして、画像メモリ33に蓄積された第3の画像信号SDは、デジタルスキャンコンバータ34でスキャンコンバートされて、診断画像として次々とモニタ35に表示される。なお、モニタ35は、表示方法の選択によって、被検体の内部構造を動画的に表示することが可能である。
【0038】
ところで、前述のように、第1の画像信号SAは基本波成分を反映していて、第2の画像信号SCはハーモニック成分を反映している。したがって、第3の画像信号SDは、基本波成分とハーモニック成分によって構成されている。
【0039】
そして、第3の画像信号SDにおける、基本波成分とハーモニック成分の寄与率は、重み係数WAとWCの大小関係により定まる。例えば、重み係数WAが大きく、重み係数WCが小さい場合、第3の画像信号SDは、基本波成分がより反映されたもの、即ち基本波成分がより多くブレンドされたものとなる。また、重み係数WAが小さく、重み係数WCが大きい場合、第3の画像信号SDは、ハーモニック成分がより反映されたもの、即ち基本波成分がより少なくブレンドされたものとなる。
【0040】
図2は同実施形態における重み係数WA、WCのグラフである。
図2に示すように、重み係数WAは、浅部で小さく、深部に行くにつれて大きくなっている。逆に、重み係数WCは、浅部で大きく、深部に行くにつれて小さくなっている。そして、中間部では、重み係数WAとWCが近い値となっている。したがって、第3の画像信号SDは、浅部でハーモニック成分がより反映され、深部で基本波成分がより反映されていることになる。
【0041】
(重み係数WA、WCの設定シーケンス)
図3は同実施形態における重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動しているときの診断画像の生成工程に関するフローチャートである。
図3に示すように、指示スイッチ36が押されると(ステップS1)、重み係数WA、WCの設定シーケンスが開始される。重み係数WA、WCの設定シーケンスでは、先ず送受信部21によって1フレーム分の空受信が実施される(ステップS2)。なお、空受信とは、超音波の送信を実施することなく、受信だけを実施することである。したがって、送受信部21によって1フレーム分の空受信が実施されると、超音波プローブ10や装置本体20に固有の内部ノイズによって1フレーム分のノイズ信号が生成されることになる。ちなみに、超音波プローブ10や装置本体20からのノイズ信号は、モニタ35に白く表示されるため、ホワイトノイズと呼ばれることがある。
【0042】
生成されたノイズ信号は、エコー信号と同様の処理がなされたのち、ゲイン調整部31に送られ、ノイズ信号の強度が被検体の深さ方向に一定になるようなノイズゲインGNが算出される(ステップS3)。
【0043】
次に、送受信部21によって被検体に1フレーム分の送受信が実施される(ステップS4)。ここでも、実施される送受信は、前述の走査シーケンスに従っている。したがって、送受信部21によって被検体に1フレーム分の送受信が実施されると、ハーモニック成分が反映された1フレーム分の第2の画像信号SCが生成される。
【0044】
生成された第2の画像信号SCは、ゲイン調整部31に送られ、第2の画像信号SCの強度、即ちハーモニック成分の強度が被検体の深さ方向に一定になるようなシグナルゲインGCが算出される(ステップS5)。
【0045】
算出されたノイズゲインGNとシグナルゲインGCは、重み係数計算部32に送られて、これらノイズゲインGNとシグナルゲインGCに基づき、第1の画像信号SAに関する重み係数WAと、第2の画像信号SCに関するWCとが算出される(ステップS6)。以上で、重み係数WA、WCの設定シーケンスが終了する。
【0046】
重み係数WA、WCの設定シーケンスが終了すると、算出された重み係数WA、WCは、前述のように、合成部29に送られ、それぞれ第1、第2の画像信号SA、SCにかけられる。これにより、基本波成分とハーモニック成分から構成される第3の画像信号SDが生成される(ステップS7)。そして、生成された第3の画像信号SDは、次々とモニタ35に表示される(ステップS8)。
【0047】
図4は同実施形態におけるノイズゲインGNとシグナルゲインGCのグラフである。 図4に示すように、ノイズゲインGNとシグナルゲインGCは、ある深さで交差していて、その交差ポイントPより深い領域では、ノイズゲインGNがシグナルゲインGCより低くなっている。これは、交差ポイントPより深い領域におけるノイズ信号の強度が第2の画像信号SCの強度より大きいことを示している。
【0048】
したがって、診断画像のゲインがシグナルゲインGCに設定されると、交差ポイントPより深い領域では、ハーモニック成分がホワイトノイズに邪魔されて鮮明に表示されない。逆に、交差ポイントPより浅い領域では、ハーモニック成分がホワイトノイズに邪魔されることなく鮮明に表示される。
【0049】
そこで、本実施形態では、重み係数WA、WCの設定にあたり、ノイズゲインGNとシグナルゲインGCの交差ポイントPが利用される。即ち、交差ポイントPよりも深い領域では、重み係数WAが高く設定され、交差ポイントPよりも浅い領域では、重み係数WAが低く設定される。これにより、交差ポイントPよりも深い領域では基本波成分のブレンド率が高く、交差ポイントPよりも浅い領域では基本波成分のブレンド率が低くなる。
【0050】
ただし、交差ポイントPを境界にして重み係数WAが急激に高まると、生成される診断画像に不連続部が形成される。そのため、実際には、交差ポイントPより浅い領域から深い領域にわたり徐々に変化するように、基本波成分のブレンド率が設定されている。
【0051】
なお、本実施形態における基本波成分のブレンド率は、交差ポイントPの60%までの深さ領域で0%、交差ポイントPの60%から240%までの深さ領域でリニアに増加して、交差ポイントPの240%より深い領域で100%となる。このようなブレンド率であれば、浅部から深部にかけて画像品質の高い診断画像が生成されることが確認されている。しかしながら、これらのブレンド率の数値は一例に過ぎず、他の数値であっても良い。
【0052】
(ファントムによる実験結果)
図5は同実施形態における0.7[dB/MHz・cm]の減衰率を有するファントムの診断画像であって、(a)は重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動していない場合、(b)は重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動している場合を示している。なお、ファントムの深部には、球形のターゲットTが埋め込まれている。
【0053】
図5(a)に示すように、重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動していない場合、ターゲットTが描出されていない。これは、診断画像の深部における感度が低いことを示している。
【0054】
しかしながら、図5(b)に示すように、重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動している場合には、診断画像の深部にターゲットTが描出されている。これは、重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動したことによって、診断画像の深部における感度が高くなったことを示している。
【0055】
図6は同実施形態における0.3[dB/MHz・cm]の減衰率を有するファントムの診断画像であって、(a)は重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動していない場合、(b)は重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動している場合を示している。なお、ファントムの深部には、球形のターゲットTが埋め込まれている。
【0056】
図6(a)に示すように、重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動していない場合、診断画像の深部にはターゲットTが描出されている。これは、診断画像の深部における感度が十分に高いことを示している。
【0057】
そして、図6(b)に示すように、重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動している場合にも、診断画像の深部にはターゲットTが描出されている。これは、重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動しても、診断画像の深部において元から十分な感度がある場合には、感度が高いまま維持されることを示している。
【0058】
以上の実験によって、本実施形態における超音波診断装置では、被検体や部位ごとに減衰率の違いがあっても、それぞれの減衰率に最適な重み係数WA、WCが設定されることが実証された。
【0059】
(本実施形態による作用)
本実施形態において、第3の画像信号SDは、基本波成分が反映された第1の画像信号SAに重み係数WAをかけ、ハーモニック成分が反映された第2の画像信号SCに重み係数WCをかけ、これらを加算することにより生成されている。そして、第1の画像信号SAの重み係数WAは、被検体の浅部で大きく、かつ深部で小さくなるように設定され、第2の画像信号SCの重み係数WCは、被検体の浅部で小さく、かつ深部で大きくなるように設定されている。
【0060】
これにより、第3の画像信号SDに基づいて生成される診断画像は、被検体の浅部でハーモニック成分がより反映され、深部で基本波成分がより反映されたものとなる。そのため、被検体の深部でも超音波画像の感度が不足することがなく、画像全体に亘って診断に十分な感度が得られることになる。
【0061】
しかも、重み係数WA、WCは、ホワイトノイズが反映されたノイズ信号から生成されたノイズゲインGNと、ハーモニック成分が反映された第2の画像信号SCから生成されたシグナルゲインGCとに基づいて自動で算出されている。
【0062】
そのため、被検体ごとに周波数依存減衰の減衰率に違いがあっても、あるいは被検体の部位ごとに周波数依存減衰の減衰率に違いがあっても、被検体や部位に最適な重み係数WA、WCが確実に設定されるから、被検体や部位の違いに影響を受けることなく、高い画像品質の診断画像が得られる。
【0063】
また、被検体の浅部は、ハーモニック成分に基づいて画像化されているから、基本波成分だけを利用して画像化される場合に比べて、アーチファクトの発生が飛躍的に抑制される。
【0064】
前述のように、本実施形態における超音波診断装置によれば、アーチファクトが少なく、深部においても十分な感度が得られ、被検体や部位の違いによらず、常に高い画像品質の診断画像が得られる。
【0065】
さらに、本実施形態において、装置本体20は、重み係数WA、WCの設定シーケンスを開始させる指示スイッチ36を具備している。そのため、極めて簡単に診断画像の画像品質を切り替えられるから、操作者の作業負担が低減する。
【0066】
なお、本実施形態において、基本波成分が反映された第1のエコー信号EAとハーモニック成分が反映された第3のエコー信号ECとを取得するために、加算部23による加算処理が利用されている。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではない。即ち、送受信部21によって受信されたエコー信号から基本波成分が反映された第1のエコー信号EAとハーモニック成分が反映された第3のエコー信号ECが取得されるのであれば、その手法は全く限定されるものではなく、例えば、加算部23の代わりに、送受信部21によって受信されたエコー信号から基本波成分だけを通過させる第1のフィルタとハーモニック成分だけを通過させる第2のフィルタとが利用されても良い。
【0067】
(第2の実施形態)
次に、図7を用いて第2の実施形態について説明する。
図7は本発明の第2の実施形態における重み係数WA、WCの設定シーケンスが作動しているときの診断画像の生成工程に関するフローチャートである。
図7に示すように、本実施形態における診断画像の生成工程は、第1の実施形態における表示シーケンスのステップS7とステップS8の中間に、二点鎖線で示すように、ステップS9〜ステップ13が追加されている。
【0068】
即ち、第3の画像信号SDが生成されたら(ステップS7)、送受信部21によって1フレーム分の空受信が実施され(ステップS9)、ホワイトノイズが反映された1フレーム分のノイズ信号が生成される。そして、生成されたノイズ信号は、ゲイン調整部31に送られ、ノイズゲインGNが算出される(ステップS10)。
【0069】
次に、送受信部21によって被検体に1フレーム分の送受信が実施され(ステップS11)、1フレーム分の第3の画像信号SDが生成される。そして、生成された第3の画像信号SDは、ゲイン調整部31に送られ、シグナルゲイン(第3のゲイン)GDが算出される(ステップS12)。
【0070】
なお、第1の実施形態では、ハーモニック成分が反映された第2の画像信号SCに基づいて、シグナルゲインGC算出されていたのに対し、本実施形態では、ハーモニック成分と基本波成分から構成された第3の画像信号SDに基づいて、シグナルゲインGDが算出されていることに注意されたい。
【0071】
ノイズゲインGNとシグナルゲインGDが算出されたら、これらノイズゲインGNとシグナルゲインGDに基づき、診断画像の表示に最適な表示ゲインGが設定される(ステップS13)。
【0072】
即ち、本実施形態における診断画像の生成工程では、第3の画像信号SDがモニタ35に表示されるまえに、ゲイン調整部31によって診断画像の表示に最適な表示ゲインGが設定される。換言すれば、本実施形態では、ハーモニック成分に基本波成分がブレンドされたあとで、表示ゲインGが最適化される。そのため、モニタ35に表示される診断画像は、ホワイトノイズが描出されない、非常に鮮明なものとなる。
【0073】
(第3の実施形態)
次に、図8を用いて第3の実施形態について説明する。
図8は本発明の第3の実施形態におけるテーブルの概念図である。
本実施形態において、装置本体20に搭載されたメモリ(図示しない)は、図8に示すようなテーブルを保存している。テーブルは、交差ポイントPの深さと、それぞれの深さに最適な送信周波数、受信周波数、表示深さ、ダイナミックレンジとを対応づけるものである。
【0074】
超音波診断の最中に交差ポイントPが検出されると、メモリに記憶されているテーブルが参照され、交差ポイントPの深さに最適な送信周波数、受信周波数、表示深さ、ダイナミックレンジが選択される。そのため、被検体や部位に最適な条件下で超音波診断が実施されるから、モニタ35に表示される診断画像の画像品質は、非常に高いものとなる。
【0075】
なお、本実施形態において、交差ポイントPに対応づけられる条件は、送信周波数、受信周波数、表示深さ、ダイナミックレンジである。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、受信フィルタ特性、送信音圧、ポストプロセスカーブ、送信音圧、表示幅、表示周波数、送信ビーム数、受信ビーム数、同時受信ビーム数、画像処理係数、送信波形、送信波数などを含んでいても良い。
【0076】
本発明は、前記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0077】
21…送受信部(送受信手段)、23…加算部(成分抽出手段)、29…合成部(信号合成手段)、31…ゲイン調整部(ゲイン算出手段)、32…重み係数計算部(重み係数算出手段)、35…モニタ(表示手段)、36…指示スイッチ(指示手段)、37…信号生成部(信号生成手段)、WA…重み係数(第1の重み係数)、WC…重み係数(第2の重み係数)、EA…第1のエコー信号(第2の成分)、EB…第2のエコー信号、EC…第3のエコー信号(第1の成分)、GN…ノイズゲイン(第2のゲイン)、GC…シグナルゲイン(第1のゲイン)、GD…シグナルゲイン(第3のゲイン)、G…表示ゲイン、SA…第1の画像信号、SC…第2の画像信号、SD…第3の画像信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブと、
前記超音波プローブを介して被検体内部を超音波で走査するものであって、複数の走査線それぞれに位相が反転した第1、第2の超音波を順番に送信して、前記走査線ごとに前記第1、第2の超音波にそれぞれ対応する第1、第2のエコー信号を受信する送受信手段と、
前記第1、第2のエコー信号の加算によりハーモニック成分を抽出する成分抽出手段と、
前記ハーモニック成分に基づいて第1の画像信号を生成するとともに、前記第1のエコー信号と前記第2のエコー信号との一方に基づいて前記ハーモニック成分と基本波成分とを含む第2の画像信号を生成する画像生成手段と、
前記第1の画像信号に対して前記第2の画像信号を合成することにより第3の画像信号を発生するものであって、第1の深さより浅い範囲においては前記第2の画像信号に対する重みをゼロに設定し、前記第1の深さから前記第1の深さより深い第2の深さまでの範囲においては前記第2の画像信号に対する重みをゼロから1まで変化させ、前記第2の深さより深い範囲においては前記第2の画像信号に対する重みを1に設定する信号合成手段と、
前記第3の画像信号に基づき画像を表示する表示手段とを具備していることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記画像生成手段は、前記第1のエコー信号に基づいて前記第2の画像信号を生成することを特徴とする請求項1に記載された超音波診断装置。
【請求項3】
前記表示手段は、前記画像を3D映像もしくは4D映像として表示することを特徴とする請求項1に記載された超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−66145(P2012−66145A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−4396(P2012−4396)
【出願日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【分割の表示】特願2006−65425(P2006−65425)の分割
【原出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】