説明

超音波診断装置

【課題】折り返し現象に基づく計測誤差を回避すると共に、ドプラ計測によって得られる画像の視認性を向上させることを目的とする。
【解決手段】送信方向を走査しつつ、設定された繰り返し周波数で超音波プローブ10から超音波を送信する送信部12と、被検体内で反射した超音波を超音波プローブ10から受信し、受信データを出力する受信部14と、受信部から出力される受信データに基づいて、走査面におけるドプラシフト分布データを求めるカラードプラ演算部18と、ドプラシフト分布データに基づいて、繰り返し周波数を設定するPRF設定部34とを備える。カラードプラ演算部18は、走査面における複数回に亘る走査のそれぞれに対してドプラシフト分布データを求める。PRF設定部34は、複数回に亘る走査に対して求められた複数のドプラシフト分布データに基づいて繰り返し周波数を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、受信された超音波のドプラシフト周波数を求める装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ドプラ法を用いて被検体の血流速度等を計測する超音波診断装置が広く用いられている。このような超音波診断装置には、連続波ドプラ装置、パルスドプラ装置、カラードプラ装置等がある。連続波ドプラ装置は、連続波としての超音波を被検体に向けて送信する。そして、被検体内で反射し、時間的に連続して受信された超音波のドプラシフト周波数成分に基づいて、血流速度の時間変化を示すドプラ波形を表示する。
【0003】
パルスドプラ装置は、パルス変調された超音波を所定のパルス繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency:以下、単に繰り返し周波数とする。)で被検体に向けて送信する。そして、被検体内で反射し、計測対象の領域の深さに応じたタイミングで受信された超音波のドプラシフト周波数成分に基づいてドプラ波形を表示する。
【0004】
カラードプラ装置は、パルスドプラ装置と同様、パルス変調された超音波を所定の繰り返し周波数で被検体に向けて送信し、被検体内で反射し受信された超音波のドプラシフト周波数成分を求めるものである。カラードプラ装置は、超音波の送受信方向を走査し、走査面内においてドプラシフト周波数成分を求め、走査面における血流速度の分布を求める。一般に、カラードプラ装置は、Bモードによる断層画像データを取得し、断層画像に重ねて血流速度の分布を色の変化を以て表示する。
【0005】
パルスドプラ装置およびカラードプラ装置では、計測可能なドプラシフト周波数、すなわち、計測可能な速度がパルス変調波の繰り返し周波数に応じて制限される。繰り返し周波数を大きくすると計測可能な速度の上限は大きくなり、繰り返し周波数を小さくすると計測可能な速度の上限は小さくなる。血流速度等の測定対象の速度が計測可能な速度の範囲を超えると、いわゆる折り返し現象が生じ、計測誤差が生じる。
【0006】
以下の特許文献1には、カラードプラ装置が記載されている。このカラードプラ装置は、パルスドプラ法により2次元カラードプラ画像を得る。そして、2次元カラードプラ画像について、計測可能な流速レンジの上限値の画素の数が所定数以上であるか否かを判定する。カラードプラ装置は、上限値の画素の数が所定数以上であるときには、繰り返し周波数や画像表示の際のパラメータを変更し、折り返し現象を回避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−146879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
被検体内の組織が時間経過に伴って運動する場合、繰り返し周波数を適切に設定することには困難が伴う。繰り返し周波数が適切でない場合、折り返し現象が生じる、カラードプラ画像の視認性が低下する等の問題が生じることがある。
本発明は、折り返し現象に基づく計測誤差を回避すると共に、ドプラ計測によって得られる画像の視認性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、送信方向を走査しつつ、設定された繰り返し周波数で超音波を送信する送信部と、前記送信部から送信され被検体内で反射した超音波を受信し、受信された超音波に応じた受信データを出力する受信部と、送信される超音波の走査に応じて前記受信部から順次出力される受信データに基づいて、走査面におけるドプラシフト分布データを求めるカラードプラ演算部と、前記カラードプラ演算部によって求められたドプラシフト分布データに基づいて、前記繰り返し周波数を設定する繰り返し周波数設定部と、を備え、前記カラードプラ演算部は、前記走査面における複数回に亘る走査のそれぞれに対してドプラシフト分布データを求め、各ドプラシフト分布データに基づいて各ドプラシフト分布データに対応する画像データを生成し、前記繰り返し周波数設定部は、前記複数回に亘る走査に対して求められた複数のドプラシフト分布データに基づいて前記繰り返し周波数を設定する、ことを特徴とする。
【0010】
本発明において、ドプラシフト分布データは、例えば、走査面上の各位置で反射した超音波の規格化ドプラシフト周波数(ドプラシフト量)が、各反射位置の座標に対応付けられたデータである。ここで、規格化ドプラシフト周波数は、ドプラシフト周波数を繰り返し周波数で除して規格化したもの、あるいは、ドプラシフト周波数を示す他の相当量(例えば、速度に換算された値)を、繰り返し周波数を示す他の相当量で除して規格化したものである。
【0011】
また、本発明に係る超音波診断装置においては、望ましくは、前記繰り返し周波数設定部は、複数回に亘る走査によって求められた複数のドプラシフト分布データのそれぞれについてドプラシフト量の最大値を求め、求められた各最大値と予め定められた上限値とに基づいて、前記繰り返し周波数を設定する。
【0012】
また、本発明に係る超音波診断装置においては、望ましくは、前記繰り返し周波数設定部は、前記複数のドプラシフト分布データのそれぞれについて求められたドプラシフト量の最大値のうち最も大きいものと、前記上限値とに基づいて、先に設定された値よりも小さい値に前記繰り返し周波数を設定する。
【0013】
このような処理によれば、先に設定された値より小さい値に繰り返し周波数が設定される。これによって、最適な繰り返し周波数が得られるまでの収束時間が短縮される。
【0014】
また、本発明に係る超音波診断装置においては、望ましくは、前記走査面は、被検体の心臓または血管が観測される面であり、前記複数回に亘る走査は、所定心拍回数に対応する時間内で行われる。
【0015】
本発明によれば、所定心拍回数での血流速度等の変化範囲に基づき、適切な折り返し周波数が設定される。これによって、折り返し現象に基づく計測誤差を回避することができる。
【0016】
また、本発明は、送信方向を走査しつつ、設定された繰り返し周波数で超音波を送信する送信部と、前記送信部から送信され被検体内で反射した超音波を受信し、受信された超音波に応じた受信データを出力する受信部と、送信される超音波の走査に応じて前記受信部から順次出力される受信データに基づいて、走査面におけるドプラシフト分布データを求め、求められたドプラシフト分布データに基づいて画像データを生成するカラードプラ演算部と、前記カラードプラ演算部によって求められたドプラシフト分布データに基づいて、前記繰り返し周波数を設定する繰り返し周波数設定部と、を備え、前記繰り返し周波数設定部は、前記繰り返し周波数の初期値を予め定められた上限値とし、前記繰り返し周波数の設定値を変更する場合には、先に設定された値よりも小さい値に前記繰り返し周波数を設定することを特徴とする。
【0017】
本発明においては、繰り返し周波数の設定値を変更する場合には、先に設定された値より小さい値に繰り返し周波数が設定される。これによって、最適な繰り返し周波数が得られるまでの収束時間が短縮される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、折り返し現象に基づく計測誤差を回避すると共に、ドプラ計測によって得られる画像の視認性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の構成を示す図である。
【図2】断層画像用ビームデータおよびドプラ計測用ビームデータの各構成を概念的に示した図である。
【図3】メモリに記憶されるn個のドプラシフト分布データを概念的に示した図である。
【図4】第1の実施形態に係るPRF設定処理のフローチャートである。
【図5】第2の実施形態に係るPRF設定処理のフローチャートである。
【図6】PRF探索処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1には、本発明の実施形態に係る超音波診断装置の構成が示されている。超音波診断装置は、被検体の断層画像を表示するBモード、または、断層画像にカラードプラ画像を重ねて表示するカラードプラモードで動作する。断層画像は、被検体の組織の断面を画像の輝度の強弱によって表したものであり、カラードプラ画像は、血流速度の相違を色の相違によって表した画像である。カラードプラモードによれば、被検体の組織の断面形状と共に血流速度を観測することができる。そのため、この超音波診断装置は心臓、血管等の診断等に用いられる。
【0021】
超音波診断装置は、超音波プローブ10、送信部12、受信部14、Bモード演算部16、カラードプラ演算部18、画像合成部20、ディスプレイ22、メモリ24、操作パネル26、およびコントローラ28を備える。コントローラ28は、操作パネル26における動作設定に応じて、送信部12、受信部14、Bモード演算部16、カラードプラ演算部18および画像合成部20を制御する。例えば、操作パネル26においては、Bモードまたはカラードプラモードのいずれかのモードが選択され、コントローラ28は、操作パネル26における動作モードの選択に応じた制御を実行する。
【0022】
また、送信部12、受信部14、Bモード演算部16、カラードプラ演算部18、および画像合成部20は、演算処理を実行するものであり、それぞれ、演算の過程で得られた情報を記憶する局所的メモリを有する。これらの構成要素は、自らの局所的メモリに情報を記憶させる他、コントローラ28の制御を介してメモリ24に情報を記憶させ、コントローラ28の制御を介して必要に応じてメモリ24からその情報を読み込んでもよい。
【0023】
まず、Bモードの動作に関連する構成、およびBモードの動作について説明する。超音波プローブ10は、超音波が送受信される面に配列された複数のアレイ振動子を備える。超音波プローブ10には、例えば、複数のアレイ振動子が一列に配列されたもの、複数のアレイ振動子が複数列に亘って配列されたものが用いられる。超音波診断装置においては、超音波プローブ10による送受信ビーム32の一次元走査面30が観測面とされ、その観測面における断層画像がディスプレイ22に表示される。そのため、超音波プローブ10は、超音波が送受信される面が被検体に向けられ、観測面が診断対象の組織内に位置する姿勢で支持される。
【0024】
送信部12は、パルス変調された電気信号(パルス変調信号)を超音波プローブ10の各アレイ振動子に出力する。各アレイ振動子は、送信部12から出力されたパルス変調信号に基づいて、パルス超音波を発生する。この際、送信部12は、送信されるパルス超音波のビームフォーマとして機能する。すなわち、送信部12は、各アレイ振動子に出力する信号の遅延時間を制御して送信ビームを形成し、送信ビームを一次元走査する。
【0025】
超音波プローブ10の各アレイ振動子は、被検体内において反射したパルス超音波を受信する。各アレイ振動子は、受信したパルス超音波に基づいて電気信号を発生し、その電気信号を受信部14に出力する。受信部14は、受信されるパルス超音波のビームフォーマとして機能する。すなわち、受信部14は、複数のアレイ振動子から出力された複数の電気信号を整相加算して受信ビームを形成し、送信ビームと方向を同じくして、受信ビームを一次元走査する。
【0026】
受信部14は、受信されたパルス超音波に対応するビームデータを生成する。このビームデータは、特定の送受信ビーム方向(送信ビームおよびそれに対応する受信ビームの方向)について、超音波プローブ10からの各距離上で生じた反射波の強度を時間軸上に表したデータである。受信部14は、このように生成したビームデータをBモード演算部16に出力する。
【0027】
送信部12および受信部14は、被検体に対し送受信ビームの一次元走査を複数回に亘って繰り返し行う。Bモード演算部16は、各一次元走査ごとに得られるビームデータ群に基づいて、各一次元走査ごとに断層画像データを生成し、その断層画像データを画像合成部20に出力する。画像合成部20は、繰り返し行われる一次元走査によってBモード演算部16から順次出力される断層画像データに基づいて、順次、断層画像をディスプレイ22に表示させる。
【0028】
次に、カラードプラモードの動作に関連する構成、およびカラードプラモードの動作について説明する。カラードプラモードは、断層画像を取得するためのパルス超音波と、カラードプラ画像を取得するためのパルス超音波とを時分割で送受信し、断層画像データと共にカラードプラ画像データを取得するモードである。
【0029】
送信部12は、断層画像取得用のパルス変調信号を各アレイ振動子に出力した後、ドプラ計測用の複数のパルス変調信号を繰り返し周波数PRFで各アレイ振動子に出力する。ドプラ計測用のパルス変調信号は、カラードプラ画像を取得するためのパルス変調信号であり、断層画像取得用のパルス変調信号に対し、パルス時間幅、信号レベル等が異なる。また、繰り返し周波数PRFは、コントローラ28によって設定される周波数であり、詳細については後述する。
【0030】
超音波プローブ10の各アレイ振動子は、断層画像取得用のパルス超音波に続けて、繰り返し周波数PRFを以てドプラ計測用の複数のパルス超音波を発生する。この際、送信部12は、各アレイ振動子に出力する信号の遅延時間を制御して送信ビームを形成し、送信ビームを一次元走査する。
【0031】
各アレイ振動子は、被検体内において反射した断層画像取得用のパルス超音波、およびドプラ計測用の複数のパルス超音波を受信する。各アレイ振動子は、受信された超音波に基づいて電気信号を発生し、その電気信号を受信部14に出力する。この際、受信部14は、複数のアレイ振動子から出力された複数の電気信号を整相加算して受信ビームを形成し、送信ビームと方向を同じくして、受信ビームを一次元走査する。受信部14は、断層画像取得用のパルス超音波に対応する断層画像用ビームデータをBモード演算部16に出力する。そして、ドプラ計測用のパルス超音波に対応するドプラ計測用ビームデータをカラードプラ演算部18に出力する。
【0032】
図2には、断層画像用ビームデータ38の構成、およびドプラ計測用ビームデータ40の構成が概念的に示されている。これらのデータは、図1の一次元走査面30上における一つの送受信ビーム32に対応する。横軸は受信部14においてデータが生成される時間を示す。横軸に示される時間は、送受信ビーム方向への超音波プローブ10からの距離に対応する。各区画42は受信された超音波のレベルを表すディジタルデータを示す。図2に示される例では、1つの断層画像用ビームデータ38の後に、繰り返し周波数PRFの逆数の時間間隔で、複数のドプラ計測用ビームデータ40が配列されている。
【0033】
送信部12および受信部14は、送受信ビームの一次元走査を複数回に亘って繰り返し行う。Bモード演算部16は、各一次元走査ごとに得られる断層画像用ビームデータ群に基づいて、各一次元走査ごとに断層画像データを生成し、その断層画像データを画像合成部20に出力する。
【0034】
他方、カラードプラ演算部18は、各一次元走査ごとに得られるドプラ計測用ビームデータ群に基づいて、各一次元走査ごとにカラードプラ画像データを生成し、そのカラードプラ画像データを画像合成部20に出力する。
【0035】
画像合成部20は、断層画像データおよびカラードプラ画像データに基づいて、断層画像にカラードプラ画像を重ねた画像を示す断層カラードプラ画像データを生成し、断層カラードプラ画像をディスプレイ22に表示させる。このような構成および処理によって、送受信ビームが一次元走査されるごとに断層カラードプラ画像データが求められ、断層カラードプラ画像がディスプレイ22に表示される。
【0036】
カラードプラ演算部18が、カラードプラ画像データを生成する処理について具体的に説明する。カラードプラ演算部18は、一次元走査によって取得されたドプラ計測用ビームデータ群に基づいて一次元走査面に対するドプラシフト分布データを求める。ここで、ドプラシフト分布データは、一次元走査面上の各位置で反射した超音波の規格化ドプラシフト周波数(ドプラシフト量)が、各反射位置の座標に対応付けられたものである。ドプラシフト分布データはピクセルの集合からなり、1つのピクセルが1つの反射位置に対応する。規格化ドプラシフト周波数は、ドプラシフト周波数を繰り返し周波数PRFで除して規格化したもの、あるいは、ドプラシフト周波数を示す他の相当量(例えば、速度に換算された値)を、繰り返し周波数PRFを示す他の相当量で除して規格化したものである。
【0037】
ドプラ計測用ビームデータに基づいて求められるドプラシフト周波数は、−0.5PRF以上、0.5PRF以下の値であるため、規格化ドプラシフト周波数は、−0.5以上、0.5以下の値となる。
【0038】
なお、ドプラシフト周波数を繰り返し周波数PRFで除すことによる規格化は、一つの例である。すなわち、元のドプラシフト周波数が所定範囲内の値に変換され、変換後の値が元のドプラシフト周波数を示すよう定義された、その他の規格化の処理が用いられてもよい。
【0039】
カラードプラ演算部18は、各送受信ビーム方向について、繰り返し周波数PRFで得られた複数のドプラ計測用ビームデータを用いてビーム方向速度データを求める。ここで、ビーム方向速度データは、特定の送受信ビーム方向における各位置で反射した超音波の規格化ドプラシフト周波数を、各反射位置の座標に対応付けたデータである。ビーム方向速度データを求める処理においては、繰り返し周波数PRFで得られた複数のドプラ計測用ビームデータに対する自己相関処理と共に、クラッタノイズを低減するウォールフィルタ処理等が実行され、各反射位置におけるドプラシフト周波数が求められる。そして、求められたドプラシフト周波数が繰り返し周波数PRFによって規格化される。この処理には、ドプラシフト周波数を示す他の相当量を求め、求められたドプラシフト周波数の相当量を繰り返し周波数PRFを示す他の相当量によって規格化する処理を用いてもよい。カラードプラ演算部18は、一次元走査面上の各送受信ビーム方向について求められたビーム方向速度データの集合を、その一次元走査面に対するドプラシフト分布データとする。
【0040】
カラードプラ演算部18は、ドプラシフト分布データが示す各規格化ドプラ周波数を、対応する色識別値に置き換えることでカラードプラ画像データを求める。すなわち、カラードプラ演算部18は、規格化ドプラシフト周波数とディスプレイ22に表示する色を識別する識別値(色識別値)とを対応付けた色識別値テーブルを記憶しており、ドプラシフト分布データが示す各規格化ドプラ周波数に対し、対応する色識別値を取得する。そして、ドプラシフト分布データが示す各規格化ドプラ周波数を、対応する色識別値に置き換える。このような処理によって、カラードプラ演算部18は、一次元走査ごとにカラードプラ画像データを生成し、そのカラードプラ画像データを画像合成部20に出力する。
【0041】
色識別値テーブルにおいては、一つの例として、正の規格化ドプラシフト周波数については、規格化ドプラシフト周波数が大きい程、波長が長い色の色識別値が対応付けられ、負の規格化ドプラシフト周波数については、負の方向に規格化ドプラシフト周波数が大きい程、波長が短い色の色識別値が対応付けられている。この対応付けによって、規格化ドプラシフト周波数の相違によって異なる色が表示される。
【0042】
カラードプラ演算部18は、このような色識別値テーブルを記憶する代わりに、規格化ドプラシフト周波数を与えることで色識別値が求められるアルゴリズムを実行してもよい。
【0043】
このような処理によれば、規格化されたドプラシフト周波数に色識別値が割り当てられ、カラードプラ画像データが求められる。これによって、診断状況の変化によって、観測されるドプラシフト周波数の取り得る範囲が変化した場合であっても、観測されるドプラシフト周波数に対し適切に色識別値を割り当てることができる。したがって、診断状況に関わらず断層カラードプラ画像の視認性を向上させることができる。
【0044】
カラードプラ演算部18は、繰り返し行われる一次元走査によって順次得られたドプラシフト分布データを、コントローラ28の制御を介してメモリ24に記憶させる。図3には、メモリ24に記憶されるn個のドプラシフト分布データが概念的に示されている。各ドプラシフト分布データが記憶される領域には、0〜n−1のアドレスが付されている。以下の説明においては、アドレス0〜n−1の領域に記憶されているドプラシフト分布データを、それぞれ、ドプラシフト分布データD0〜Dn−1とする。
【0045】
アドレスn−1の領域に記憶されている最も奥にあるドプラシフト分布データDn−1は、最も先に記憶されたデータであり、アドレス0の領域に記憶されている最も手前にあるドプラシフト分布データD0は、最後に記憶されたドプラシフト分布データである。
【0046】
メモリ24においては、1つのドプラシフト分布データが新たに入力されるごとに、アドレスn−1の領域に記憶されているドプラシフト分布データDn−1が消去される。そして、アドレス0〜n−2の領域に記憶されているn−1個のドプラシフト分布データが、それぞれ、1アドレス分だけ奥側にシフトして記憶される。さらに、新たなに入力されたドプラシフト分布データは、アドレス0の領域に記憶される。
【0047】
以下に説明するように、メモリ24に記憶されたn個のドプラシフト分布データの総て、または、これらのうちいずれかは、繰り返し周波数PRFを設定する処理に用いられる。
【0048】
コントローラ28が備えるPRF設定部34が繰り返し周波数PRFを設定する処理について説明する。図4には、PRF設定処理を示すフローチャートが示されている。このフローチャートは、操作パネル26において速度レンジ自動設定スイッチの操作が行われたことをコントローラ28が認識することで実行される。
【0049】
PRF設定部34は、繰り返し周波数PRFを予め定められた周波数上限値MXに設定する(S101)。コントローラ28は、ステップS101で設定された繰り返し周波数PRFでドプラ計測用のパルス超音波が送受信されるよう、送信部12および受信部14を制御する(S102)。この際、コントローラ28は、送信部12および受信部14を制御し、送受信ビームの一次元走査を繰り返し行わせる。これによって、メモリ24には、一次元走査ごとに求められたドプラシフト分布データが順次記憶される。すなわち、最も先に記憶されたドプラシフト分布データが一次元走査ごとにメモリ24から消去され、新たに取得されたドプラシフト分布データが一次元走査ごとにメモリ24に記憶される。
【0050】
PRF設定部34は、メモリ24のアドレス0〜j−1の領域に記憶されたj個のドプラシフト分布データD0〜Dj−1のそれぞれについて、規格化ドプラシフト周波数の絶対値が所定の閾値以上となるピクセル、すなわち、境界ピクセルの数を求める(S103)。ここで、jはPRF設定処理に用いられるデータ数であり、1からnまでの任意の数である。
【0051】
データ数jは、例えば、被検体の所定の心拍回数に対応する時間において取得されるドプラシフト分布データの数とする。例えば、1心拍当たりの時間にドプラシフト分布データが30データだけ得られる場合には、データ数jは30とされる。この場合、コントローラ28は、心拍に同期したパルス信号を心拍検出器36によって取得する。そして、取得したパルス信号の所定の周期において得られるドプラシフト分布データの数に基づいてデータ数jを設定する。また、コントローラ28は、心拍検出器36によって取得されたパルス信号を用いる代わりに、Bモード演算部16において過去に生成された複数の断層画像データや、カラードプラ演算部18において過去に生成された複数のドプラシフト分布データに基づいて、所定の心拍回数に対応するドプラシフト分布データの数(画像枚数)を求め、データ数jを設定してもよい。
【0052】
なお、ドプラシフト分布データD0〜Dj−1のそれぞれについての境界ピクセルの数は、各ドプラシフト分布データが求められたときに求めておき、メモリ24に予め記憶させておいてもよい。この場合、PRF設定部34は、ステップS103において、ドプラシフト分布データD0〜Dj−1のそれぞれについての境界ピクセルの数をメモリ24から読み込む。
【0053】
PRF設定部34は、ドプラシフト分布データD0〜Dj−1のうち、境界ピクセルの数が所定数以上のものがあるか否かを判定する(S104)。
【0054】
ここで、ステップS104の技術的意義について説明する。一般に、パルスドプラ法を用いる超音波診断装置においては、繰り返し周波数PRFでドプラ計測用のパルス超音波が送受信される場合、計測可能なドプラシフト周波数の範囲は、−0.5PRF以上、0.5PRF以下となる。周波数fdを−0.5PRF以上、0.5PRF以下の周波数とすると、実際のドプラシフト周波数fd±k・PRFは、いずれも周波数fdとして計測されてしまい、計測されるドプラシフト周波数には±k・PRFの誤差が生じる。ここで、kは任意の自然数1、2、3・・・・である。このような誤差は、折り返し誤差と称され、このような誤差が生じる現象は、折り返し現象と称されている。
【0055】
このようなパルスドプラ法の下では、ドプラシフト分布データに含まれる境界ピクセルの数が大きい程、折り返し現象が生じている可能性が高い。そこで、図4のフローチャートに示されるPRF設定処理では、ドプラシフト分布データD0〜Dj−1のうち、境界ピクセルの数が所定数以上のものがある場合には、折り返し現象が生じているものとしてステップS110が実行され、ドプラシフト分布データD0〜Dj−1のうち、境界ピクセルの数が所定数以上のものがない場合には、折り返し現象が生じていないものとしてステップS105以降の処理が実行される。
【0056】
すなわち、PRF設定部34は、境界ピクセルの数が所定数以上であるドプラシフト分布データがある場合には、ステップS101で設定された繰り返し周波数PRFの値を維持する(S110)。他方、境界ピクセルの数が所定数以上であるドプラシフト分布データがない場合には、PRF設定部34は、ドプラシフト分布データD0〜Dj−1のそれぞれについて、規格化ドプラシフト周波数の絶対値の最大値をドプラシフト最大値DMとして求める(S105)。そして、ドプラシフト分布データD0〜Dj−1のそれぞれについて求められたj個のドプラシフト最大値DMのうち最大のものをピーク周波数Fpとして求め(S106)、ピーク周波数Fpを2倍した値を繰り返し周波数下限値Lとする(S107)。
【0057】
なお、ドプラシフト分布データD0〜Dj−1のそれぞれについてのドプラシフト最大値DMは、各ドプラシフト分布データが求められたときに求めておき、メモリ24に予め記憶させておいてもよい。この場合、PRF設定部34は、ステップS105において、ドプラシフト分布データD0〜Dj−1のそれぞれについてのドプラシフト最大値DMをメモリ24から読み込む。
【0058】
PRF設定部34は、繰り返し周波数下限値Lよりも大きく、初期値として設定される周波数上限値MXよりも小さい範囲で、新たな繰り返し周波数PRFを設定する(S108)。例えば、新たな繰り返し周波数PRFは、PRF=L+α・(MX−L)として設定される。ここで、αは0より大きく1より小さい任意の調整係数である。コントローラ28は、ステップS108で設定された繰り返し周波数PRFでドプラ計測用のパルス超音波が送受信されるよう、送信部12および受信部14を制御する(S109)。
【0059】
このようなPRF設定処理によれば、繰り返し周波数PRFを周波数上限値MXにした場合において折り返し現象が生じる場合を除き(S110)、折り返し現象が回避可能なできる限り小さい値に繰り返し周波数PRFが設定され得る(S105〜S108)。
【0060】
パルスドプラ法を用いる超音波診断装置において、ドプラシフト周波数の計測可能範囲を拡張し、折り返し現象を回避するためには、繰り返し周波数PRFを大きくすることが好ましい。しかし、繰り返し周波数PRFを大きくすると、ドプラシフト分布データが示す規格化ドプラシフト周波数の取り得る範囲が小さくなる。これによって、カラードプラ画像の色の変化幅が小さくなり、血流速度が把握し難くなるという問題が生じる。さらに、繰り返し周波数PRFを大きくすると、送信されるパルス超音波と受信されるパルス超音波とが時間的に重なってはならないという条件から、被検体内において観測可能な深さ(視野深度)が浅くなるという問題が生じる。
【0061】
そこで、本実施形態に係るPRF設定処理においては、繰り返し周波数PRFを周波数上限値MXにした場合において折り返し現象が生じる場合を除き(S110)、折り返し現象が回避可能なできる限り小さい値に繰り返し周波数PRFが設定され得る(S105〜S108)。これによって、折り返し現象を可能な限り回避すると共に、カラードプラ画像の視認性を向上させ、視野深度を深くすることができる。
【0062】
なお、周波数上限値MX、ステップS103において境界ピクセルを特定するための閾値、ステップS104の判定条件となる境界ピクセルの数等は、診断部位に応じて予め定めておき、メモリ24に記憶させておいてもよい。また、これらの数値は、操作パネル26の操作によって入力されるものとしてもよい。
【0063】
次に、第2の実施形態に係るPRF設定処理について説明する。図5には、そのフローチャートが示されている。図4に示される処理と同一の処理については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0064】
PRF設定部34は、図4に示されるPRF設定処理と同様の処理によって、ステップS101〜ステップS104を実行する。そして、ステップS104において、境界ピクセルの数が所定数以上であるドプラシフト分布データがない場合には、最適な繰り返し周波数を探索するPRF探索処理(S201)を実行する。図6には、PRF探索処理のフローチャートが示されている。PRF設定部34は、先に設定された繰り返し周波数PRFから、予め定められた刻み周波数Δを減じた値を新たな繰り返し周波数PRFに設定する(S201−1)。コントローラ28は、設定された繰り返し周波数PRFでドプラ計測用のパルス超音波が送受信されるよう、送信部12および受信部14を制御する(S201−2)。この際、コントローラ28は、送信部12および受信部14を制御し、送受信ビームの一次元走査を繰り返し行わせる。これによって、メモリ24には、一次元走査ごとに求められたドプラシフト分布データが順次記憶される。すなわち、最も先に記憶されたドプラシフト分布データが一次元走査ごとにメモリ24から消去され、新たに取得されたドプラシフト分布データが一次元走査ごとにメモリ24に記憶される。
【0065】
PRF設定部34は、ドプラシフト分布データD0〜Dj−1のそれぞれについて、規格化ドプラシフト周波数の絶対値が所定の閾値以上となる境界ピクセルの数を求める(S201−3)。
【0066】
PRF設定部34は、ドプラシフト分布データD0〜Dj−1のうち、境界ピクセルの数が所定数以上のものがあるか否かを判定する(S201−4)。そして、境界ピクセルの数が所定数以上であるドプラシフト分布データがない場合にはステップS201−1に戻る。
【0067】
他方、境界ピクセルの数が所定数以上であるドプラシフト分布データがある場合には、PRF設定部34は、ステップS201−1で設定された繰り返し周波数PRFの値に刻み周波数Δを加えた値を新たな繰り返し周波数PRFに設定し(S201−5)、図5のステップS109に移行する。
【0068】
このようなPRF設定処理によれば、繰り返し周波数PRFを周波数上限値MXにした場合において折り返し現象が生じる場合を除き(S110)、折り返し現象が回避可能なできる限り小さい値に繰り返し周波数PRFが設定される(S201)。これによって、第1の実施形態に係るPRF設定処理と同様、折り返し現象を可能な限り回避すると共に、カラードプラ画像の視認性を向上させ、視野深度を深くすることができる。
【0069】
また、第1および第2の実施形態に係るPRF設定処理においては、繰り返し周波数PRFの初期値を周波数上限値MXとし、その値より小さい値に繰り返し周波数PRFを変化させる。これによって、最適な繰り返し周波数PRFが得られるまでの収束時間が短縮される。
【符号の説明】
【0070】
10 超音波プローブ、12 送信部、14 受信部、16 Bモード演算部、18 カラードプラ演算部、20 画像合成部、22 ディスプレイ、24 メモリ、26 操作パネル、28 コントローラ、30 一次元走査面、32 送受信ビーム、34 PRF設定部、36 心拍検出器、38 断層画像用ビームデータ、40 ドプラ計測用ビームデータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信方向を走査しつつ、設定された繰り返し周波数で超音波を送信する送信部と、
前記送信部から送信され被検体内で反射した超音波を受信し、受信された超音波に応じた受信データを出力する受信部と、
送信される超音波の走査に応じて前記受信部から順次出力される受信データに基づいて、走査面におけるドプラシフト分布データを求めるカラードプラ演算部と、
前記カラードプラ演算部によって求められたドプラシフト分布データに基づいて、前記繰り返し周波数を設定する繰り返し周波数設定部と、を備え、
前記カラードプラ演算部は、前記走査面における複数回に亘る走査のそれぞれに対してドプラシフト分布データを求め、各ドプラシフト分布データに基づいて各ドプラシフト分布データに対応する画像データを生成し、
前記繰り返し周波数設定部は、前記複数回に亘る走査に対して求められた複数のドプラシフト分布データに基づいて前記繰り返し周波数を設定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記繰り返し周波数設定部は、複数回に亘る走査によって求められた複数のドプラシフト分布データのそれぞれについてドプラシフト量の最大値を求め、求められた各最大値と予め定められた上限値とに基づいて、前記繰り返し周波数を設定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記繰り返し周波数設定部は、前記複数のドプラシフト分布データのそれぞれについて求められたドプラシフト量の最大値のうち最も大きいものと、前記上限値とに基づいて、先に設定された値よりも小さい値に前記繰り返し周波数を設定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記走査面は、被検体の心臓または血管が観測される面であり、
前記複数回に亘る走査は、所定心拍回数に対応する時間内で行われる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
送信方向を走査しつつ、設定された繰り返し周波数で超音波を送信する送信部と、
前記送信部から送信され被検体内で反射した超音波を受信し、受信された超音波に応じた受信データを出力する受信部と、
送信される超音波の走査に応じて前記受信部から順次出力される受信データに基づいて、走査面におけるドプラシフト分布データを求め、求められたドプラシフト分布データに基づいて画像データを生成するカラードプラ演算部と、
前記カラードプラ演算部によって求められたドプラシフト分布データに基づいて、前記繰り返し周波数を設定する繰り返し周波数設定部と、を備え、
前記繰り返し周波数設定部は、
前記繰り返し周波数の初期値を予め定められた上限値とし、前記繰り返し周波数の設定値を変更する場合には、先に設定された値よりも小さい値に前記繰り返し周波数を設定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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