説明

超音波酸化装置、燃料電池排ガス酸化装置、燃料電池車

【課題】燃料電池から排出される水素の触媒による酸化効率を向上させる。
【解決手段】流路管50内には、水素と酸素とを含む混合ガス56が流される。そして、この流路管50内には、触媒52が格子状に設けられている。触媒52は、流路管50の下部に設けられた超音波発振機40によって超音波振動される。これにより、触媒52に付着した水分の霧化が行われ触媒活性が高まるとともに、特に混合ガス56の高密度領域での反応も活性化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を用いて水素を酸化させる技術、特に、酸化効率を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、燃料電池の排気路に、酸化触媒と、浄化対象成分の保持部材を設ける装置が記載されている。この装置では、燃料電池から排気された水素が酸化触媒で酸化され、さらに、水素の酸化の際に生じた熱によって、保持部材に保持された浄化対象成分が酸化される。
【0003】
また、下記特許文献2,3には、エンジン車の排ガス浄化用の浄化触媒を超音波振動(超音波照射)させる技術が開示されている。この技術は、エンジンの排ガスに含まれるカーボンやNOxなどの浄化促進を目的とするものであり、燃料電池の排ガス等についての言及はない。
【0004】
【特許文献1】特開2005−158281号公報
【特許文献2】特開2003−214138号公報
【特許文献3】特開2003−222017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池を利用した車両や装置などにおいては、環境面への配慮や安全性の向上のため、排出される水素が触媒を利用して酸化(燃焼を含む)処理される場合がある。また、触媒を利用した水素の酸化は、熱エネルギを獲得するために行われることもある。しかし、上記特許文献1の技術では、必ずしも高い酸化効率を得ることができない。
【0006】
本発明の目的は、触媒による水素の酸化効率を向上させることにある。
【0007】
本発明の別の目的は、燃料電池から排出される水素を酸化処理する新たな技術を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超音波酸化装置は、水素と酸素とを含む混合ガスが流される流路と、流路に設けられ、水素の酸化を促進させる触媒と、触媒を超音波振動させる振動部と、を備える。
【0009】
水素は、水素ボンベ等の水素供給源から供給されてもよいし、水素を利用した装置の排ガスから供給されてもよい。また、酸素は、酸素ボンベ等の専用供給源から供給されてもよいが、例えば、空気とともに取り込まれてもよい。流路には、少なくとも水素と酸素が含まれた混合ガスが流される。
【0010】
触媒は、流路において、混合ガスと接触するように設けられる。触媒は、接触効率を高めるように配置されることが望ましく、例えば、ハニカム形状に形成される。また、触媒の種類は特に限定されるものではなく、白金をはじめとして様々な部材を採用することができる。振動部は、この触媒を超音波振動させるものである。超音波振動は、例えば、高周波の電気エネルギを運動エネルギに変換する圧電部材や歪磁部材などにより発生させることができる。そして、発生させた超音波振動を物理的接触により直接触媒に伝達したり、照射等により間接的に触媒に伝達したりすることで、触媒を超音波振動させることができる。触媒とともに、流路を超音波振動させるものであってもよい。
【0011】
この構成によれば、超音波振動によって、混合ガスと触媒の接触が促進されることで、あるいは、混合ガスに超音波振動のエネルギが与えられることで、水素の酸化反応が促進することが期待できる。また、一般に触媒は水分が付着することで酸化性能を低下させるが、超音波振動によって触媒付近の水分が霧化し、触媒を乾燥させる効果も期待できる。超音波振動の振幅、振動数、振動方向などの設定においては、こうした効果が十分に得られるように、理論的あるいは実験的な検証を行うことが望ましい。
【0012】
本発明の超音波酸化装置の一態様においては、低温時に、触媒に付着した凍結水分を溶融させる加熱機構を備える。低温時とは、典型的には氷点下時をいう。ただし、氷点よりやや低温(例えば−2,3℃)の場合には振動のみにより溶融が生じて加熱を必要としない可能性があり、逆に、氷点よりやや高温(例えば+2,3℃)の場合にも霧化時の部分的な蒸発により失われる気化熱を補うために加熱が重要となる可能性もあるため、低温時と氷点下時とは必ずしも一致しない。温度は典型的には温度センサによって測定可能である。加熱機構は、例えば、導電体の上に触媒を設けたEHC(Electoric Heater Catalyst)を採用することで実現できる。
【0013】
本発明の超音波酸化装置の一態様においては、振動部は、酸化処理の開始時に、通常時とは異なる超音波振動を行う。酸化処理の開始時とは、水素の酸化処理を実質的に開始するときをいい、この際には、例えば、振動部の振動の開始、または混合ガスの流入の開始などが行われる。酸化処理の開始前には、触媒に付着した水分により、触媒の酸化効率が低下している場合がある。そこで、例えば、振動部の振動を開始したとき、または新たな水素の流入をはじめる直前(例えば、開始1分前、あるいは、10秒前以降)、直後(例えば、開始後10秒内、あるいは、1分後まで)若しくは直前から直後にかけて、水分の霧化等により触媒を乾燥させるため、通常時とは異なる超音波振動を行う。このとき、霧化した水(水蒸気)の排出を促すためのガス(簡単には空気)を流路に流すなどの処理を行ってもよい。
【0014】
本発明の超音波酸化装置の一態様においては、振動部は、酸化処理の終了時に、通常時とは異なる超音波振動を行う。酸化処理の終了時とは、定常的な水素の酸化処理を実質的に停止するときをいい、この際には、例えば、振動部の振動の停止、または混合ガスの流路への流入停止などが行われる。通常時とは異なる超音波振動を行うことで、処理終了時における触媒への水分の残留を防止し、次回の処理開始を容易化できる。
【0015】
本発明の超音波酸化装置の一態様においては、通常時とは異なる超音波振動とは、通常時よりも高出力な超音波振動である。高出力とは、振動生成のために投入するエネルギーを増大することをいう。高出力とすることで、例えば、振幅あるいは振動数を大きくすることができる。これにより、迅速に当該超音波酸化装置を起動させ、また、処理の開始時における酸化効率の増大を図ることが可能となる。なお、通常時の流量、触媒に付着した水分量、触媒や混合ガスの温度などによっては、通常時よりも低出力でも開始の準備、または終了の後処理には十分な場合がありえる。
【0016】
本発明の超音波酸化装置の一態様においては、通常時とは異なる超音波振動とは、通常時とは振幅、周波数、振動方向の少なくとも一つが変えられた超音波振動である。また、本発明の超音波酸化装置の一態様においては、通常時とは異なる超音波振動とは、触媒に付着した水分の霧化を通常よりも促進させる超音波振動であり、通常時とは異なる超音波振動が行われる場合に、霧化した水分を排出するためのガスが前記流路に流される。霧化した水分をはき出すためのガスは、特に限定されないが、例えば、混合ガスへの水素の混合を停止して生成したガス(典型的には空気)とすることで、この態様を簡易に実現することができる。
【0017】
本発明の超音波酸化装置の一態様においては、触媒による酸化効率を測定する測定部を備え、振動部は、測定結果に応じて、超音波振動の出力を変化させる。酸化効率は、例えば、供給される混合ガスと排出される混合ガスの濃度比較や、触媒の水分測定などによって行うことができる。効率が低い場合には、超音波振動の出力を増加させることで、効率を高めることが可能となる。
【0018】
本発明の燃料電池排ガス酸化装置は、前記超音波酸化装置を備え、前記流路は、水素を燃料とする燃料電池の排気路に接続されて、未反応の水素を取り込み、さらに、燃料電池から排出される酸素を含んだガス、または、新鮮な外気を取り込み、これにより、前記超音波酸化装置は燃料電池から排出される水素を酸化させる。例えばリン酸形燃料電池では、アノードに水素、カソードに空気(酸素)が供給され、アノード側の排気路から未反応の水素が放出される。流路は、この水素を取り込む。カソード側からの排気に、漏れ出した水素が含まれる場合に、これを取り込んで酸化させてもよい。また、流路に取り込む酸素は、カソード側の排気路から取り込んでもよいし、別途取り込んでもよい。なお、燃料電池排ガス酸化装置を燃料電池と一体的に構成した燃料電池システムを形成することも可能である。
【0019】
本発明の燃料電池車は、前記燃料電池排ガス酸化装置と、前記燃料電池と、この燃料電池排ガス酸化装置及び燃料電池を搭載した車体と、を備え、車体は燃料電池により生成される電気エネルギを利用して駆動される。燃料電池車は、駆動力を生成するエンジン(内燃機関)を併用したハイブリッド車でもよい。一般に、車両は、搭載スペースや、水素処理時間が限られており、効率的な超音波酸化装置を備えることが望ましい。また、車両は、寒冷地に行くこともある。寒冷地では、混合ガスの湿度が高く、また、生成した水分の影響もあって、触媒の濡れが目立つことも多い。そして、氷点下時には、触媒が凍結することもある。そこで温度によらず効率的に水素を酸化できることが望ましい。したがって、本発明にかかる燃料電池排ガス酸化装置を備える利点が生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本実施の形態にかかる燃料電池車10を説明する図である。燃料電池車10は、燃料電池12を搭載し、さらにその排気水素を酸化処理する酸化装置を備えた車両である。燃料電池12には、酸素供給路14を通じて圧縮された空気(酸素)が供給され、燃料電池12で使用された空気は酸素排気路18を通じて放出される。なお、燃料電池12で使用された空気は、直接排気せず、排気水素と混合して酸化処理することも可能である。後で説明する酸素供給路28へと連結された流路19は、この場合の構成を示すものである。また、燃料電池12には、水素タンク20から水素供給路22を通じて高圧の水素が供給され、燃料電池12で使用された水素の残りは水素排気路24を通じて排気される。燃料電池12は、供給された水素と酸素を反応させて電気エネルギを生成し、モータ26に出力する。燃料電池車10は、このモータ26によって生み出される回転動力によって駆動される。
【0021】
水素排気路24から排気された水素は、酸素供給路28から取り入れられる空気と混合され、混合ガス供給路30を経て、酸化装置の本体部34に送られる。なお、酸素供給路28に対しては、前に説明した通り、流路19により燃料電池12から排出されるガスを供給してもよい。また、流路31を設けて、酸素供給路14から酸素を供給するようにしてもよい。本体部34は、内部に触媒を備えている他、触媒を加熱するヒータ36も備えている。混合ガスに含まれる水素は、この触媒によって酸化され、酸化により生成された水(水蒸気)や残りのガスは、排気路38を通じて排出される。本体部34の下部には、超音波発振機40が設けられている。超音波発振機40は、本体部34の触媒を振動させ、酸化効率を向上させる振動部として機能する。
【0022】
酸化装置は、演算機能を備えた制御部42によって制御されている。制御部42は、燃料電池12の制御も行っており、燃料電池12の動作に対応させて、超音波発振機40の振動制御や、ヒータ36のスイッチON/OFF制御などを行っている。また、制御部42に対しては、センサ44から、酸化効率についての情報が入力されるため、制御部42は、酸化効率に応じて超音波発振機40やヒータ36の動作を制御することができる。センサ44は、排気路38における水素ガス濃度等を検知し、酸化効率を出力するものである。
【0023】
図2は、図1に示した本体部34及び超音波発振機の構成例を示す図である。図2(a)は、流れに直交する面で切った断面図であり、図2(b)は、図2(a)におけるAA’面についての断面図である。本体部34は、外周をなす円筒形の流路管50と、その内側に設けられた触媒52を含んでいる。触媒52は、ハニカム形状(格子状)の基材に対し、白金(Pt)を付着したものである。これにより、高価な白金の表面積を大きく設定することができ、また、混合ガス56との接触効率が向上する。
【0024】
流路管50の下部には、超音波発振機40が取り付けられている。超音波発振機40は、圧電部材によって作られており、その両端に高周波の電圧を印加することで超音波振動を行う。この超音波振動は、流路管50を通じて触媒52に伝えられ、さらには、触媒52から、その周囲を流れる混合ガス56に伝えられる。なお、超音波発振機40の取り付け位置は、触媒52あるいは流路管50を振動させることが可能であるならば、図示した箇所に限定されるものではない。
【0025】
図3は、図2(a)に示した触媒52の格子を拡大し、混合ガスの振動を模式的に示した図である。触媒52は、超音波発振機40により、図の上下方向に振動する。この振動により、触媒52に接した混合ガスもまた、振動を行う。そして、混合ガス内では、振動は、超音波として伝播し、場合によっては逆向き伝播成分と相互作用して定在波を作り出す。図示した領域60,64は、超音波にともなって形成された高密度かつ高圧の領域であり、領域62、66は、超音波における低密度かつ低圧の領域である。混合ガスでは、このように密な部分と疎な部分が作られ、密な部分では圧力が高くなって反応が活性化する。また、超音波振動は、混合ガスを乱すことで、混合ガスと触媒52との接触を高める効果もある。こうして、混合ガスが触媒を通過する時のSV(SpaceVelocity)値、すなわち、触媒量に対する酸化処理ガス量が増加することとなり、例えば触媒の小型化を図ることも可能となる。
【0026】
超音波振動は、触媒52の触媒活性を回復させる役割も果たす。一般に触媒52においては、水分を含むと触媒活性が低下してしまう。しかし、この場合に、超音波振動を行うと、付着した水分を霧化して飛び散らせることができる。そして、必要に応じて空気を流してエア(酸素)パージを行い霧化した水分を排出することにより、触媒活性を回復させることが可能となる。
【0027】
最後に、水素の酸化処理の制御態様例について説明する。制御部42は、燃料電池12を起動するにあたり、その直前に、触媒52の触媒活性を高めるための予備動作を行う。すなわち、低温で触媒52に水分が凍り付いていると判断した場合には、ヒータ36に通電を行って氷を解凍する。そして、高出力の超音波振動を行って、(解凍の結果)触媒52に付着した水分を霧化するとともに、本体部34内に空気を流して霧化した水分を除去する。これにより、特に、低温時における触媒活性を急激に高めることができ、起動時間の短縮と、処理の信頼性向上が可能となる。
【0028】
その後、燃料電池から排出された水素を処理する際には、超音波振動の出力は通常状態に戻される。ただし、センサ44により、酸化効率が低下していると判断された場合には、超音波振動の出力を通常よりも上昇させることができる。
【0029】
燃料電池12を停止する場合には、制御部42は、本体部34に残留している水分を除去するための処理を行う。すなわち、水素ガスの流入を停止した後も、酸素(空気)の通風を継続する。そして、超音波振動を高出力化して、残留する水分を速やかに霧化し、エアパージさせる。これにより、触媒の含水量を下げることができ、再起動時の時間短縮や信頼性向上を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】超音波酸化装置を搭載した燃料電池車の構成例を説明する図である。
【図2】超音波酸化装置の構成例を説明する図である。
【図3】超音波振動により酸化効率が向上する一因を説明する図である。
【符号の説明】
【0031】
10 燃料電池車、12 燃料電池、14 酸素供給路、18 酸素排気路、20 水素タンク、22 水素供給路、24 水素排気路、26 モータ、28 酸素供給路、30 混合ガス供給路、34 本体部、36 ヒータ、38 排気路、40 超音波発振機、42 制御部、44 センサ、50 流路管、52 触媒、56 混合ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と酸素とを含む混合ガスが流される流路と、
流路に設けられ、水素の酸化を促進させる触媒と、
触媒を超音波振動させる振動部と、
を備える、ことを特徴とする超音波酸化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波酸化装置において、
低温時に、触媒に付着した凍結水分を溶融させる加熱機構を備える、ことを特徴とする超音波酸化装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波酸化装置において、
振動部は、酸化処理の開始時に、通常時とは異なる超音波振動を行う、ことを特徴とする超音波酸化装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波酸化装置において、
振動部は、酸化処理の終了時に、通常時とは異なる超音波振動を行う、ことを特徴とする超音波酸化装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の超音波酸化装置において、
通常時とは異なる超音波振動とは、通常時よりも高出力な超音波振動である、ことを特徴とする超音波酸化装置。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の超音波酸化装置において、
通常時とは異なる超音波振動とは、通常時とは、振幅、周波数、振動方向の少なくとも一つが変えられた超音波振動である、ことを特徴とする超音波酸化装置。
【請求項7】
請求項3又は4に記載の超音波酸化装置において、
通常時とは異なる超音波振動とは、触媒に付着した水分の霧化を通常よりも促進させる超音波振動であり、
通常時とは異なる超音波振動が行われる場合に、霧化した水分を排出するためのガスが前記流路に流される、ことを特徴とする超音波酸化装置。
【請求項8】
請求項1に記載の超音波酸化装置において、
触媒による酸化効率を測定する測定部を備え、
振動部は、測定結果に応じて、超音波振動の出力を変化させる、ことを特徴とする超音波酸化装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の超音波酸化装置を備え、
前記流路は、水素を燃料とする燃料電池の排気路に接続されて、未反応の水素を取り込み、さらに、燃料電池から排出される酸素を含んだガス、または、新鮮な外気を取り込み、
これにより、前記超音波酸化装置は燃料電池から排出される水素を酸化させる、ことを特徴とする燃料電池排ガス酸化装置。
【請求項10】
請求項9に記載の燃料電池排ガス酸化装置と、
前記燃料電池と、
この燃料電池排ガス酸化装置及び燃料電池を搭載した車体と、
を備え、
車体は燃料電池により生成される電気エネルギを利用して駆動される、ことを特徴とする燃料電池車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−105689(P2007−105689A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301368(P2005−301368)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】