説明

超高圧作動油供給方法

【課題】ワークに対してオートフレッジ加工時に超高圧作動油を供給する方法を提供する。
【解決手段】一方と他方の接続口部(7、7’)をクランプ封止し、低圧の作動油を、前記一方と他方の接続口部(7、7’)のいずれかを介して、密閉された前記内部貫通路(IC)に供給充填する段階と、前記低圧の作動油の充填後、それぞれ、封止部材(22)と封止管(23)によって、前記一方と他方の双方の貫通路端部口(8、8’)をクランプ封止する段階と、前記貫通路端部口(8、8’)のクランプ封止後、前記封止管(23)に設けられた連通路(24)を介して、増圧シリンダ(50)で超高圧に昇圧した作動油を、前記内部貫通路(IC)に供給充填する段階とを具備するオートフレッジ加工のための作動油を供給充填する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートフレッジ加工を施すワーク、特に、コモンレールに対して超高圧作動油を供給する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、ディーゼルエンジン用のコモンレールシステムの一例を示す説明図である。
ディーゼルエンジン用のコモンレールシステムにおいて、燃料ポンプ13から吐出された燃料は、コモンレール15に加圧供給される。コモンレール15は、燃料ポンプ13から圧送された燃料を高圧状態で蓄え、高圧配管16を介して各気筒(ここでは、4気筒を例示)の燃料噴射弁20に供給する。燃料噴射弁20は、低圧配管17と接続されており、低圧配管17を介して余剰燃料を燃料タンク10に戻すことが可能となっている。コモンレール15には、コモンレール15内の燃料圧力を検出するレール圧センサ15aが取り付けられている。ECU60は、レール圧センサ15aの検出値に基づき燃料調量弁14を作動させることで、燃料ポンプ13からコモンレール15への燃料圧送量を制御する。
【0003】
この明細書中で「配管口」とは、コモンレール15において高圧配管16がねじ止めされる開口部を指して用いられる。一方、「接続口部」とは、ワークの軸方向の両端部の接続用の内部空間部を指して用いられ、コモンレール15においては、燃料ポンプ13からの配管の接続部などが挿入される。
【0004】
特許文献1にみられるように、密閉状態で高圧をかけて材料組織に残留応力を残して強度をあげる加工方法(オートフレッテージ加工と称す)が知られており、ディーゼルコモンレールシステム部品などの耐圧疲労強度が必要とされる部品の、疲労強度増強を目的とした残留圧縮応力付与に、このような加工方法は利用されている。
オートフレッテージ加工では、ワークの内側においては塑性変形させるように、かつ、ワークの外側においては弾性変形させるものの塑性変形させないような高圧力をワーク内部に与えている。これによって、ワークに残留圧縮応力を付与し、ワークの耐圧疲労強度を増強させている。
【0005】
図2は、コモンレール15に対して超高圧作動油を供給する従来技術の説明図である。
図2において、コモンレール15の右端開口は、封止部材22により封止され、左端開口は、封止管23が連結している。封止管13の先端部23’は、円錐形状になっており、コモンレール15の左端開口をシールすることができるようになっている。封止管23に中心部には、増圧シリンダ50から超高圧に昇圧された作動油2を送り込む連通路24が設けられている。コモンレール15の配管口3は、シールピン5とキャップ4で密閉される。連通路24を介して、増圧シリンダ50で超高圧に昇圧された作動油2が送り込まれて、コモンレール15の内部室ICには、超高圧(700〜800MPa程度)の作動油2が充填され、オートフレッテージ加工が施される。
【0006】
この従来技術の場合に、コモンレール15(以下ワークともいう)に対して超高圧作動油を供給する場合、まず、ワークの内部貫通路ICに、オートフレッジ加工用の作動油を、回路53により低圧状態で充填する(オートフレッジ加工用の作動油の低圧状態を低圧油という)。次に、オートフレッテージ加工行うために、ワークへの充填を低圧油から高圧油(オートフレッジ加工時作動油の高圧状態を高圧油という)に切り替える。このとき、増圧シリンダ50から作動油を供給して増圧する際、低圧の油が逆流しないようにチェック弁52(逆止弁)を用いていた。このため、チェック弁(流路が狭い)による圧損などで作動油の充填に時間がかかる(応答性が悪い)とともに、チェック弁が超高圧にさらされることから故障の原因となっていた。また、チェック弁やジョイントなど部品数も多くなってメインテナンスに手間がかかっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−92551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、オートフレッジ加工を施すワーク、特に、コモンレールに対して超高圧作動油を迅速に供給する装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、軸線上にある一方と他方の接続口部(7、7’)と内部貫通路(IC)を有し、かつ、該内部貫通路(IC)の一方と他方の貫通路端部口(8、8’)が、それぞれ、前記接続口部(7、7’)に接続するワーク(15)において、オートフレッジ加工のための作動油を供給充填する方法であって、前記一方と他方の接続口部(7、7’)をクランプ封止し、低圧の作動油を、前記一方と他方の接続口部(7、7’)のいずれかを介して、密閉された前記内部貫通路(IC)に供給充填する段階と、前記低圧の作動油の充填後、それぞれ、封止部材(22)と封止管(23)によって、前記一方と他方の双方の貫通路端部口(8、8’)をクランプ封止する段階と、前記貫通路端部口(8、8’)のクランプ封止後、前記封止管(23)に設けられた連通路(24)を介して、増圧シリンダ(50)で超高圧に昇圧した作動油を、前記内部貫通路(IC)に供給充填する段階と、を具備するオートフレッジ加工のための作動油を供給充填する方法である。
【0010】
これにより、チェック弁を使用せずに、作動油の充填を短時間で行うことができ、応答性が良い。また、故障の原因となる部品を極力減らすことが出来るとともに、メインテナンスを容易に行うことができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記ワーク(15)にオートフレッジ加工を行った後、前記作動油の供給を停止して、前記接続口部(7、7’)をクランプ封止した状態で、前記貫通路端部口(8、8’)のクランプ封止を解除して、エアーにより前記内部貫通路(IC)内に充填された作動油を、油抜き回収する段階を、さらに具備するオートフレッジ加工のための作動油を供給充填する方法である。これにより、作動油の回収を容易に行うことができる。
【0012】
なお、上記に付した符号は、後述する実施形態に記載の具体的実施態様との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ディーゼルエンジン用のコモンレールシステムの一例を示す説明図である。
【図2】コモンレールに対して超高圧作動油を供給する従来技術の説明図である。
【図3】高圧下でオートフレッテージ加工を施すワークの一例を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態の超高圧作動油を供給する方法を実施する装置の正面図である。
【図5】本発明の一実施形態の超高圧作動油を供給する方法を実施する装置の上部ユニットの正面図である。
【図6】本発明の一実施形態の超高圧作動油を供給する方法を実施する装置の下部ユニットの正面図である。
【図7】本発明の一実施形態の超高圧作動油を供給するシステムを説明する概略回路図である。
【図8】(a)〜(d)は、本発明の一実施形態の超高圧作動油を供給する方法を説明する説明図である。(a)は、供給前、(b)は、低圧の作動油を供給充填する段階、(c)は、高圧に昇圧した作動油を供給充填する段階、(d)は、作動油を油抜き回収する段階の説明図である。AFは、オートフレッテージ加工を意味している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。
高圧下でオートフレッテージ加工を施すワークの一例としては、特にディーゼルコモンレールシステム部品などの、耐圧疲労強度が必要とされる部品が挙げられる。その他、疲労強度増強を目的とした残留圧縮付与が必要とされる部品ならいずれもワークとなりうる。以下の説明では、ワークとして、コモンレール配管にオートフレッジ加工を施す場合を一例としてあげて、本発明の一実施形態を説明する。
【0015】
まず、ワークに対するオートフレッジ加工を説明する。図3は、高圧下でオートフレッテージ加工を施すワークの一例を模式的に示す説明図である。
図3において、ワークであるコモンレール15の接続口部7’の貫通路端部口8’は、封止部材22により封止され、コモンレール15の接続口部7の貫通路端部口8は、封止管23が接合して封止している。接続口部7、7’は、内周に雌ねじが切られた空間部であり、燃料ポンプ13からコモンレール15への燃料が送られる配管などが接続する。接続口部の片方には、その他、センサを取り付けたり、止め栓ねじで封止されることもある。
【0016】
封止管23の先端部23’は、円錐形状になっており、コモンレール15の接続口部7の貫通路端部口8をシールすることができるようになっている。封止管23の中心部には、後述する増圧シリンダ50から超高圧に昇圧された作動油2を送り込む連通路24が設けられている。コモンレール15の配管口3は、シールピン5とキャップ4で密閉される。連通路24を介して、増圧シリンダ11で超高圧に昇圧された作動油2が送り込まれて、コモンレール15の内部貫通路ICには、超高圧(多くの場合700〜800MPa程度)の作動油2が充填され、オートフレッテージ加工が施される。
【0017】
図4は、本発明の一実施形態の超高圧作動油を供給する方法を実施する装置の正面図である。図5は、本発明の一実施形態の超高圧作動油を供給する方法を実施する装置の上部ユニットの正面図である。図6は、本発明の一実施形態の超高圧作動油を供給する方法を実施する装置の下部ユニットの正面図である。図7は、本発明の一実施形態において、超高圧作動油を供給するシステムを説明する概略回路図である。図8(a)〜(d)は、本発明の一実施形態の超高圧作動油を供給する方法を説明する説明図である。(a)は、供給前、(b)は、低圧の作動油を供給充填する段階、(c)は、高圧に昇圧した作動油を供給充填する段階、(d)は、作動油を油抜き回収する段階の説明図である。
【0018】
図4〜6を参照して、本発明の一実施形態を実施する装置を説明する。図4において、ベース53に4本のガイド柱54を介して上部フレーム55が構築されている。摺動フレーム56は、上下動シリンダ51により、ガイド柱54にガイドされて、ワークであるコモンレール15を押圧するために上下動する。摺動フレーム56には、上部ユニット40が、ガイド環体42により、さらに所定範囲で上下動可能に設置されている。図5には、上部ユニット40の詳細が示されている。スプリング41により押圧された上部ユニット40は、ガイド環体42で規制されている範囲で、外力を受けると上下動可能となっている。このスプリング41による機構は、低圧の作動油を供給充填するために上部ユニット40の下面部40’が、コモンレール15の上端部開口(上端部端面)、すなわち、接続口部7’を封止して停止した後、さらに、封止部材22だけが下降することが出来るようにするために設けられている。封止部材22の中心の流路は、内部貫通路IC内の圧力をモニターするセンサとつながっている。
【0019】
ベース53には、下部ユニット30が固定設置されている。図6を参照して、下部ユニット30を簡単に説明する。封止管23は下方には不動となっている。下部ユニット摺動体30’は、ガイドピン32がスロット穴31にガイドされて、上下動可能に設置されている。スプリング33は、下部ユニット摺動体30’を、ストッパ34の位置で上方に付勢している。穴36は、コモンレール15の内部貫通路2に、図7に示す油圧経路90から送られた低圧の作動油を供給充填するための連結穴である。コモンレール15の接続口部7に、封止管23の先端部23’が挿入され、貫通路端部口8がクランプ封止されていない状態で、Oリング35でコモンレール15の下端部端面がシール可能となっている。ベース53の下方には増圧シリンダが設置されている。
【0020】
低圧クランプ段階(図8(b)参照)では、上部ユニット40の下面部40’が、コモンレール15の上端部端面、すなわち、接続口部7’に蓋をするように封止して停止する。同時に、コモンレール15の下端部端面、すなわち、接続口部7を、下部ユニット摺動体30’のOリング35で封止する。このとき、図8(b)に示すように、接続口部7、7’は、共に封止されているが、貫通路端部口8、8’は、封止部材22と封止管23によってはクランプ封止されていない。このため、コモンレール15の内部貫通路2に、油圧経路90を介して低圧の作動油を供給充填することができるのである。
【0021】
低圧クランプ段階において、作動油を供給充填されると、下動シリンダ51が駆動されて、封止部材22がさらに下降して、貫通路端部口8、8’は、クランプ封止される。このとき、上部ユニット40の下面部40’と下部ユニット摺動体30’は、それぞれスプリング41、33によって逃げるので、封止部材22の下降を妨げることはない。
封止部材22と封止管23によって、貫通路端部口8、8’がクランプ封止されたならば、増圧シリンダ50から、超高圧に昇圧された作動油2が連通路24を通って、内部貫通路ICに供給充填されて、オートフレッジ加工が行われる。
【0022】
図8を参照して、本発明の一実施形態と追加実施形態のオートフレッジ加工のための作動油を供給充填する方法(a)〜(c)と、作動油を油抜き回収する方法(d)を説明する。
(a)供給前
コモンレール15の配管口には、キャップ4が被されて、密閉状態しなっている。本発明の一実施形態を実施する装置に、ワークとしてのコモンレール15を設置する。
【0023】
(b)低圧の作動油を供給充填する段階
低圧の作動油2を油圧回路90から、穴36を経て、低圧クランプしたワーク内部に供給する。接続口部7、7’がクランプ封止され、密閉された内部貫通路ICに、低圧の作動油が供給充填される。
(c)高圧に昇圧した作動油を供給充填する段階
低圧の作動油の充填後、それぞれ、封止部材22と封止管23によって、貫通路端部口8、8’をクランプ封止したら、封止管23に設けられた連通路24を介して、増圧シリンダ50で超高圧に昇圧した作動油を、内部貫通路ICに供給充填する。
【0024】
(d)作動油を油抜き回収する段階
低圧クランプされている状態で、貫通路端部口8、8’のクランプ封止を解除して、図7の管路91を通るエアーにより内部貫通路IC内に充填された作動油を、油抜き回収する。
これらの各段階において、センサにより、作動油2の圧力をモニターすれば、自動的に次の段階に移行制御することが出来る。
【0025】
以上の説明では、ワークとして、コモンレール15を一例としてあげて、説明したが、これに限らず、軸線上にある一方と他方の接続口部を有するワークならば、全て本発明の実施形態を適用することが出来る。
【符号の説明】
【0026】
2 作動油
3 配管口
4 キャップ
15 コモンレール、ワーク
22 封止部材
23 封止管
24 連通路
30 下部ユニット
40 上部ユニット
50 増圧シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線上にある一方と他方の接続口部(7、7’)と内部貫通路(IC)を有し、かつ、該内部貫通路(IC)の一方と他方の貫通路端部口(8、8’)が、それぞれ、前記接続口部(7、7’)に接続するワーク(15)において、オートフレッジ加工のための作動油を供給充填する方法であって、
前記一方と他方の接続口部(7、7’)をクランプ封止し、低圧の作動油を、前記一方と他方の接続口部(7、7’)のいずれかを介して、密閉された前記内部貫通路(IC)に供給充填する段階と、
前記低圧の作動油の充填後、それぞれ、封止部材(22)と封止管(23)によって、前記一方と他方の双方の貫通路端部口(8、8’)をクランプ封止する段階と、
前記貫通路端部口(8、8’)のクランプ封止後、前記封止管(23)に設けられた連通路(24)を介して、増圧シリンダ(50)で超高圧に昇圧した作動油を、前記内部貫通路(IC)に供給充填する段階と、を具備するオートフレッジ加工のための作動油を供給充填する方法。
【請求項2】
前記ワーク(15)にオートフレッジ加工を行った後、前記作動油の供給を停止して、前記接続口部(7、7’)をクランプ封止した状態で、前記貫通路端部口(8、8’)のクランプ封止を解除して、エアーにより前記内部貫通路(IC)内に充填された作動油を、油抜き回収する段階を、さらに具備する請求項1に記載のオートフレッジ加工のための作動油を供給充填する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−52480(P2012−52480A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196700(P2010−196700)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】