説明

超高純度ガラクトオリゴ糖を製造する方法

本発明は、より低純度のGOSから出発し、サッカロミセス・セレビシエ及びストレプトコッカス・サーモフィルスを用いる微生物精製を順次行って超高純度(≧95%)のガラクトオリゴ糖(GOS)を調製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、GOS含量が少ない、ラクトース由来シロップから出発して、高純度(≧95%)のガラクトオリゴ糖(GOS)を調製する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラクトオリゴ糖(GOS)は、少なくとも二糖、三糖、四糖、五糖、及び六糖の混合物からなる。GOSにおいて、グルコースは、還元末端が遊離の糖であり、鎖内の他の糖は、ラクトースから出発するグリコシル転移(transglycosylation)反応で使用される酵素に応じて、互いに、及びグルコースと多様な方法で連結されるガラクトースである。
【0003】
現在、GOSへの関心が、着実に高まっている。なぜなら、最近の研究によって、これらのオリゴ糖のプレバイオティクスとしての効率が実証されてきているからである。この意味では、GOSは、胃腸の細菌叢の成長を刺激する、非う蝕性で難消化性の低カロリーオリゴ糖の混合物である。
【0004】
GOSのさらなる利点は、その抗付着活性である。つまり、これらのオリゴ糖は、胃腸の上皮細胞を通常攻撃する病原菌の結合部位の模倣体として作用して、大腸菌(E.Coli)などの腸内病原菌によって引き起こされる感染を直接阻害することができる。
【0005】
市販のGOSは、様々な天然の微生物(例えば、コウジカビ(Aspergillus oryzae)、ペニシリウム・エクスパンサム(Penicillium expansum)、及びバシルス・サーキュランス(Bacillus circulans))又は改変された微生物から単離されたβ−ガラクトシダーゼ(ラクターゼ)のグリコシル転移活性を使用することによって、ラクトースから合成される。GOSの構造は、酵素源に応じて変わる。天然酵素から製造されるGOSの収率は、一般に20〜45%であり、組換え型又は改変型酵素を用いることによって増大させることができる。最も広く市販されているGOSの形態は、約50〜60重量%の濃度のGOSを含有し、かなりの量のグルコース(GOS形成反応の副生成物)及び未反応のラクトース(出発材料)も含有する。このことによって、糖尿病又はラクトース不耐症を患う人々が、GOSを使用できなくなる。
【0006】
高純度のGOS、すなわち、すべての消化性糖質(ラクトース、グルコース、ガラクトース)が存在しないGOSを得るための方法は、文献で知られている。そうした方法は、クロマトグラフィー、酵素的酸化、又は微生物発酵による、GOS中のグルコース及びラクトースの除去を必要とする。しかし、前述の方法は、大規模に適用することができない(クロマトグラフィーの場合)、又は欠点を示す。
【0007】
Shoaf,K.ら、Infect.Immun.74(12)6920〜6928、2006では、単糖及び二糖が含まれないGOSを含有する混合物が、研究所において、分取TLCによって(このため、数ミリグラムの量で)作製された。
【0008】
Splechtna,B.ら、Enzyme and Microbial Technology 29(6)434〜440、2001は、残留ラクトースを、真菌のセロビオース脱水素酵素で選択酸化させてラクトビオン酸にすることによって、除去することについて記載している。この酵素は、容易に入手できず、ラクトースの酸化を、触媒濃度で存在する2,6−ジクロロ−インドフェノールの還元と共役させることによって働く。この酸化型酸化還元メディエーターは、分子酸素の水への真菌ラッカーゼ触媒還元によって絶え間なく再生される。ラクトビオン酸を除去するために、イオン交換クロマトグラフィーが使用された。
【0009】
Cheng,C.−C.ら、Biotechnol.Lett.28 793〜797、2006は、クルイべロミセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)を用いる発酵による、残留ラクトースの除去について記載している。この方法は、収率が良好であり、グルコース、ガラクトース、ラクトースを含んでいない高純度の生成物をもたらすが、ラクトースだけでなく、K.マルキシアヌスによる処理前にGOS混合物中に存在する他のすべての二糖も、この微生物によって消費される。
【0010】
Li,Z.ら、Process Biochemistry 2008、43(8)、896〜899は、アルギン酸カルシウム上で固定化された、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又はクルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)を用いる発酵による、消化性糖質の除去について記載している。結果は、K.ラクチスを使用した場合、良好であるが、S.セレビシエを使用した場合、不十分である。
【0011】
クルイベロミセス・マルキシアヌス又はクルイベロミセス・ラクチスを使用する欠点は、両方とも、一般の人々にとって公的に入手可能であるが、食品産業で一般的に採用されておらず、したがって、すぐに使用できる形で低コストで商業的に入手可能ではないことである。
【0012】
高純度のGOSを製造するための代替法であって、工業規模でも適用可能であり、すべての消化性糖質(ラクトース、グルコース、ガラクトース)が存在しないか、少量で存在し、また、容易に広く入手できる微生物を利用する代替法の明らかな必要性が存在する。
【0013】
定義及び略語:
GOS=ガラクトオリゴ糖
【発明の概要】
【0014】
本発明は、より低純度のGOS混合物から出発して、消化性糖質であるラクトース、グルコース、及びガラクトースの全割合が5%以下である、純度95%以上のGOSを調製するための方法であって、前記方法が、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)を用いる1つの発酵ステップと、サッカロミセス・セレビシエを用いる少なくとも1つの発酵ステップとを含み、前記純度が、GOS及び前記消化性糖質を識別し、定量化できる任意の分析法によって算出される、方法によって、前述の問題を克服する。
【0015】
該方法は、前記消化性糖質が、微生物精製によって選択的に除去されることを可能にする。
【0016】
有利なことに、前記方法によって、消化性糖質であるラクトース、グルコース、及びガラクトースの含量が少ないGOS混合物を得ることが可能になり、その方法では、グリコシル転移において形成されるすべての二糖が、微生物によって除去されることはない。
【0017】
有利なことに、S.サーモフィルスを用いる発酵ステップは、HPLC保持時間がラクトースの保持時間に非常に近い、他の二糖を維持しつつ、ラクトースの選択的除去を可能にすることが判明している。ラクトースのピーク直後のHPLCのピークによって同定できる、該オリゴ糖のこの特徴的維持により、該方法によって得られる生成物は、当技術分野で公知の他の生成物とは違ったものになる。
【0018】
前述の方法は、食品産業で広く採用されている、コストの低い市販の微生物を使用する。該微生物は、予備発酵混合物を調製することによって微生物を活性化させる必要なく、直接、凍結乾燥形態(購入された際の形態)で使用することができる。
【0019】
前述の方法は、工業規模、すなわち、何kgもの規模で容易に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】B.サーキュランスのラクターゼにより触媒されるグリコシル転移によってラクトースから得られた、実施例1の純度40%のGOS出発サンプルのHPLCトレースを示す図である。
【図2】本発明に従って、サッカロミセス・セレビシエを用いて脱グルコース化(deglucosation)した後の、実施例1のGOSサンプルのHPLCトレースを示す図である。
【図3】本発明に従って、ストレプトコッカス・サーモフィルスを用いて脱ラクトース化(delactosation)した後の、実施例1のGOSサンプルのHPLCトレースを示す図である。
【図4A】本発明に従って、サッカロミセス・セレビシエを用いて、図3に対応するサンプルを脱ガラクトース化(degalactosation)した後の、実施例1のGOSサンプルのHPLCトレースを示す図である(A:少なくとも20時間の発酵後、B:少なくとも40時間の発酵後)。
【図4B】本発明に従って、サッカロミセス・セレビシエを用いて、図3に対応するサンプルを脱ガラクトース化(degalactosation)した後の、実施例1のGOSサンプルのHPLCトレースを示す図である(A:少なくとも20時間の発酵後、B:少なくとも40時間の発酵後)。
【図5】本発明の方法に従って完了時に得られた、実施例1の純度95%以上のGOSサンプルのHPLCトレースを示す図である。
【図6】実施例2の出発GOSサンプル、すなわち、GTC Nutrition、Golden、Colorado、USAから購入したプリムン(Purimune)(商標)(GO−P90)のHPLCトレースを示す図である。
【図7】本発明の方法に従って完了時に得られた、実施例2の純度95%以上のGOSサンプルのHPLCトレースを示す図である。
【図8】クルべロミセス(Kluveromyces)・マルキシアヌスを用いた発酵後に得られた、実施例4のGOSサンプルのHPLCトレースを示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0021】
本発明の方法では、純度95%未満の任意のGOS混合物を、出発材料として使用することができ、不純物が、消化性糖質であるラクトース、グルコース、及びガラクトースから本質的になる、純度40%以上のGOS混合物を使用することが、最も好都合である。
【0022】
本発明の目的のために、GOS混合物の純度を評価するために、好ましくは、GOS、ラクトース、ガラクトース、及びグルコースを識別し、定量化できる任意のHPLC法を使用する。
【0023】
用語「純度」は、前記GOS及び消化性糖質のピークに対応する、HPLCによる面積パーセントを意味する。
【0024】
40〜60%の(又はより高い)純度のGOS混合物は、商業的に入手可能である(例えば、オリゴメイト(Oligomate)55、ビビナル(Vivinal)GOS、プリムン、カップオリゴ(Cup oligo)P)、又はバシルス・サーキュランスから単離されたラクターゼなどの、その目的で知られる適切なラクターゼにより触媒されるグリコシル転移によって、ラクトースから調製することができる。特に、本発明の方法は、40〜60%GOS混合物から出発すると好都合である。
【0025】
好ましくは、本発明の方法は、S.サーモフィルスを用いる前記発酵ステップの次に、S.セレビシエを用いる発酵ステップが続くような方法である。S.サーモフィルスは、ラクトースを加水分解してから、生成されたグルコースを消費し、ガラクトースを蓄積する。ガラクトースは、次いで、S.セレビシエによって排除される。S.サーモフィルスを用いる発酵ステップによって、ラクトース含量を、所望のレベル、好ましくはHPLC面積パーセントで5%未満、より好ましくは3%未満に減少させることができる。
【0026】
出発GOS混合物が、HPLC面積パーセントで5%未満のグルコース含量を有する場合、前記方法は、S.サーモフィルスを用いる発酵ステップに続き、S.セレビシエを用いる発酵ステップを含む。S.サーモフィルスは、ラクトースを加水分解してから、最初に存在した少量のグルコース、及びS.サーモフィルスがガラクトースの蓄積の間に生成するグルコースを消費する。次いでガラクトースは、その後、S.セレビシエによって排除される。
【0027】
したがって、例えば(実施例2を参照)、HPLC面積パーセントで2%の量でグルコースが存在する、約80%程度の純度の市販のGOS混合物から出発することによって、ラクトース含量を、S.サーモフィルスを用いる直接発酵によって、所望のレベル、すなわち、GOSの面積パーセントの合計に対して、面積パーセントで5%未満に減少させることができる。
【0028】
出発GOS混合物が、HPLC面積パーセントで5%以上のグルコース含量を有する場合、S.サーモフィルスを用いる発酵ステップの前に、S.セレビシエを用いる発酵ステップが行われる。したがって、この場合、該方法は、以下の3つのステップ、すなわち、
(a)サッカロミセス・セレビシエを用いる発酵ステップと、
(b)ストレプトコッカス・サーモフィルスを用いる発酵ステップと、
(c)サッカロミセス・セレビシエを用いる発酵ステップと、
を含む。
【0029】
したがって、例えば(実施例1を参照されたい)、B.サーキュランスを用いたグリコシル転移によって得られた、約40%の純度を有するGOS混合物(図1を参照されたい)から出発すると、S.セレビシエを用いる発酵(a)は、出発GOS混合物中に存在するグルコースが、ほぼ完全に除去されることを可能にする(図2を参照されたい)。
【0030】
発酵(b)は、ラクトースが、3%未満のHPLC面積パーセントに低下することを可能にする(図3を参照されたい)。
【0031】
約20%の純度でグルコースが存在する、純度40〜60%のGOS混合物で出発すると、S.サーモフィルスを用いる発酵(b)の前に、発酵(a)などの脱グルコース化ステップが行われた場合、ラクトースを、3面積%を下回るまで低下させることができるのに対して、S.サーモフィルスを用いる直接発酵は、S.セレビシエを用いる脱グルコース化ステップ(a)を最初に実施することなく行われた場合、40時間を超えて延長されても、ラクトースが、所望のレベルに低下することを可能にしないことが分かる。
【0032】
S.セレビシエを用いる発酵(c)は、S.サーモフィルスを用いた発酵後に形成された残留ガラクトースが、ほぼ完全に除去されることを可能にする(図4を参照されたい)。
【0033】
該方法の最後において、得られたGOS混合物は、95%以上の純度を有し、この混合物中に、グルコース及びガラクトースは、非存在ではないにしても、ごくわずかな量で存在し、その量は、ラクトースと合わせても、合計5%以下である(図5を参照されたい)。
【0034】
S.セレビシエを用いる発酵は、好ましくは、出発GOSの乾燥重量1kgあたり40〜15gの脱水されたS.セレビシエを用いてpH6.5±0.5、温度35±5℃で少なくとも12時間行われる。ステップ(C)は、40時間を超える時間でも行うことでき、そのような場合、S.サーモフィルスを用いた発酵(b)後に形成された乳酸の実質的な除去が、実際に実現される(図4Bを参照されたい)。
【0035】
S.サーモフィルスを用いる発酵は、好ましくは、塩基の添加によりpHを6.0〜6.5に維持して、出発GOSの乾燥重量1kgあたり1〜0.4gの脱水されたS.サーモフィルスを用いて温度40±5℃で少なくとも15時間行われる。
【0036】
本発明の方法によれば、発酵ステップの後、該混合物は、好ましくは、セラミック限外濾過、ナノ濾過、炭素を用いる脱色、及びイオン交換樹脂での脱イオンによるさらなる処理にかけられる。
【0037】
本発明の方法によれば、発酵ステップ(b)及び(c)の前に、低温殺菌が、好ましくは75±5℃で少なくとも5分間行われる。
【0038】
実際、前述の方法の最後に得られた生成物は、特徴的なGOSプロファイルを示す。つまり、HPLCトレース(図2と図3、及び図6と図7の比較)から明らかであるように、S.サーモフィルスを用いた発酵ステップの間、ラクトースが、主に除去され、また、二糖の領域においては、ラクトースの保持時間(約12.9分)の直後の、約13.6分の保持時間を有する成分(実施例でGOS6と表す)が残ることも認識できる。ラクトースの除去に伴って、ラクトースの保持時間の直前の、約12.4分の保持時間を有する成分(実施例でGOS5と表す)が消失することが認識できる。GOSプロファイルのこの維持は、特徴的であり、クロマトグラフ分離によって、又はクルイべロミセス属の微生物を用いた精製(実施例4を参照し、図1と図8を比較されたい)の後に得られたGOS混合物(これらの方法は、GOS混合物中に存在するすべての二糖を無差別に除去する)などの、現状技術で公知の他のGOS混合物と区別可能である。
【0039】
したがって、本発明はまた、該方法から得られるGOS混合物、すなわち、ラクトース以外のガラクト二糖が1%以上の量で存在し、消化性糖質であるラクトース、グルコース、及びガラクトースの全割合が5%以下である、純度95%以上のGOS混合物に関する。
【0040】
該方法によって得られる前述の生成物は、医薬組成物、乳児用調合乳、及び食品組成物の調製を含めた既知の目的のために用いることができ、これらは、本発明のさらなる態様である。
【0041】
本発明は、以下の実施例に照らすとよりよく理解できる。
【実施例】
【0042】
HPLC法:
これは、外部標準との比較を使用するHPLC法である。HPLC測定器を、アイソクラティックポンプ、オートサンプラー、カラム温度調節用のペルティエ(Peltier)オーブン、屈折率検出器、及び類似のプレカラムを備えたTransgenomicのカラムであるICE−SEP ICE−ION300(製品コード、ICE−99−9850)と共に使用する。以下の操作条件下で分析を行った。
カラム温度:40℃
注入量:20μl
移動相:HSO 0.015N
流速:0.4ml/分
分析時間36分
積分器:Perkin Elmerのトータルクロム(Totalchrom)ワークステーション
【0043】
上に示した条件下で、各生成物の保持時間は、ラクトースについて約12.5分、グルコースについて15.0分、ガラクトースについて16.2分、乳酸について21.3分、及びグリセリンについて22.2分であった(外部標準に対して)。
【0044】
サンプル溶液における、GOS生成物の6つのピークを、
GOS1:約9.3分にピーク
GOS2:約9.7分にピーク
GOS3:約10.3分にピーク
GOS4:約11.3分にピーク
GOS5:約12.4分にピーク
GOS6:約13.6分にピーク
として識別し、同定した。
【0045】
HPLC表示において、用語GOS1〜6は、GOS中に存在する糖類単位の数に関係なく、GOSに起因するピークを単に意味するだけである。
【0046】
積分システムは、次式によって、含量を自動的に算出した。
%=A×CSTD×V×100/ASTD×W
式中、
=サンプル溶液におけるピーク面積
STD=標準溶液における糖濃度の割合(%)
=グラム単位でのサンプル重量
STD=標準溶液における糖ピーク面積
【0047】
プロセスのモニタリングの間、各GOSピークの含量は、ピーク自体の標準物質に対して算出しなかったが、ラクトースの応答係数を使用することによって、又は面積/総面積で表されるラクトースの純度を評価することによって算出した。
【0048】
直前に述べた分析法を使用して、他のガラクトオリゴ糖との重複があれば、ラクトースの測定値を無効とした。
【0049】
前述の分析法を使用した、市販サンプルにおけるラクトースの測定値と、証明書に示された値との間で見つかる、顕著な不一致について留意することが重要である。
【0050】
例えば、Friesland Foods Domoによって供給された、ビビナル(登録商標)GOS60、バッチ番号6297770のサンプルは、証明済みラクトース含量が、乾物ベースで17.5%であったが、本発明者らの分析研究所で実施したHPLCにより、そのラクトース含量は33.2%であった。
【0051】
ラクトースを算定した際の類似した評価値が、プリムン(商標)のサンプル、バッチ番号20081217で見出された。そのサンプルにおいては、GOSの証明済み総純度が90.4%であったのに対して、本発明者らの分析研究所(付属)で実施したHPLCにより、前記純度は83.0%であり、ラクトースの純度が面積パーセントで13.6%であった。
【0052】
したがって、ラクトースの測定値は、本発明者らの分析法によって過大に算定され、結果として、最終生成物に存在するラクトース濃度の過大の評価値となった。
【0053】
説明において曖昧な点が生じないように、以下に提示する実施例において、及び図面欄においては、市販品についての値と同様に、前述のHPLC法を用いて得られた純度値のみを示す。
【0054】
実施例1(ラクトースから出発する調製例):
80kgのラクトース一水和物(0.22kmol)を、120lの水に懸濁させ、ラクトースが完全に溶解するまで、穏やかな攪拌下で70℃に加熱した。
この溶液を、50℃で温度調節し、そのpHを、27mlの75%リン酸で5.5〜5.0に調整した。
266gのバシルス・サーキュランス由来のラクターゼを添加した(1500U/g)。
反応をHPLCによってモニタリングし、22時間後、GOSの形成、並びにグルコース及びガラクトースの出現が検出され、結果的に、ラクトースの面積パーセント純度が40%未満に低下した。
200kgの40%粗GOS溶液を得た。その溶液のHPLCトレースを図1に示し、また、下に表形式で提示する。
【0055】
【表1】

【0056】
ステップ1(S.セレビシエを用いる脱グルコシル化):
前述の出発混合物を、250mlの75%リン酸でpH3.0に酸性化させた。このpH条件下で、周囲温度での保存が可能であった。
46kgの40%粗GOS溶液(バッチ番号01449IN9)を、140lの水で希釈し、37℃で温度調節した。溶液のpHを、600mlの24%アンモニアでpH2.8〜pH7.0に調整した後、200gの凍結乾燥されたビール酵母を添加した。HPLCによってモニタリングした脱グルコシル化ステップは、24時間の激しい攪拌後に完了した。
混合物を、70℃で約5分間低温殺菌してから、40℃で温度調節した。
図2は、下には表形式で提示した、低温殺菌後の混合物のHPLCトレースを示す。
【0057】
【表2】

【0058】
ステップ2(S.サーモフィルスを用いる脱ラクトース化):
2.5g/lの酵母エキスを、(ステップ1からもたらされた)上述の混合物に添加し、pHを、400mlの15%水酸化ナトリウムでpH5.2〜pH6.6に調整した。混合物に5gのストレプトコッカス・サーモフィルスを接種した。pHスタットにより15%水酸化ナトリウムを添加することによって、pH6.4〜6.5で発酵を進行させた。HPLCによってモニタリングした反応は、26時間後に終了に達し、その時の混合物中のラクトース含量は、3面積%未満であった。
混合物を、70℃で約5分間低温殺菌してから、37℃で温度調節した。
図3は、下には表形式で提示した、低温殺菌後の混合物のHPLCトレースを示す。
【0059】
【表3】

【0060】
ステップ3(S.セレビシエを用いる脱ガラクトース化):
200gの凍結乾燥されたビール酵母を、ステップ2からもたらされた混合物に添加した。20時間の激しい攪拌後、HPLCによってモニタリングした脱ガラクトース化ステップは完了した。
pH3.0に達するまで、5lの50%硫酸を添加することによって、反応を止めた。
図4は、下には表形式で提示した、脱ガラクトース化後の混合物のHPLCトレースを示す。
【0061】
【表4】

【0062】
限外濾過により細胞を除去することによって、混合物を澄ませた。
次いで、低分子量の発酵副生成物(乳酸、グリセリンなど)を、ナノ濾過によって除去した。
次いで、溶液を炭素で脱色し、直列に配置された一組のイオン交換樹脂、すなわち、強カチオンのもの(アンバーライト(Amberlite)C−200 H形、3l)と弱アニオンのもの(IRA−96 遊離塩基形、3l)で塩分を除いた。
次いで、脱塩した溶液をマイクロ濾過し、75°ブリックスという検糖計濃度が得られるまで、真空中で濃縮した。
純度95%以上の9kgのGOS混合物を得た。該方法の最後に得られたGOS混合物のHPLCトレースを、図5に示し、下には表形式で提示する。
【0063】
【表5】

【0064】
表にされたデータ、及び添付した様々なステップのクロマトグラムから、ステップ2(S.サーモフィルスを用いる発酵)の間に、GOS5のピークが消失する一方で、GOS6のピークがほぼ変わらないまま残ることが分かる。
表1は、実施例1の様々なステップの結果の概要を示す。
【0065】
【表6】

【0066】
表中、
%濃度=重量/重量%単位での濃度
%純度=HPLCピークにより定められた面積パーセント
相対%=GOSの純度/GOS、ラクトース、グルコース及びガラクトースの純度の合計
【0067】
実施例2(83%(90%で市販)のGOSから出発する調製例):
200gのプリムンGOS(GO−P90)、バッチ番号20081217を、1800mlの水に可溶化した。図6は、そのクロマトグラムを示し、また、溶液のHPLCを、下に表形式で提示する。
【0068】
【表7】

【0069】
存在しているグルコースは、面積パーセントが5%未満であるので、直接、乳酸菌培養による発酵から、手順を続行した。
5g/lの酵母エキスを添加し、pHを、0.3mlの15%水酸化ナトリウムでpH4.9〜pH6.4に調整した。75mgのストレプトコッカス・サーモフィルスを接種した後、pHスタットにより15%水酸化ナトリウムを添加することによって、pH6.3〜6.5で発酵を進行させた。HPLCによってモニタリングした反応は、15時間後に終了に達し、その時の混合物中のラクトース含量は、GOSの面積パーセントの合計に対して、面積パーセントで5%未満であった。
【0070】
【表8】

【0071】
得られた結果の概要を表2に示す。
【0072】
【表9】

【0073】
略語:
%濃度=重量/重量%単位での濃度
%純度=HPLCピークにより定められた面積パーセント
相対%=GOSの純度/GOS、ラクトース、グルコース及びガラクトースの純度の合計
【0074】
この段階で実験を止めたが、実施例1で既に説明した方式で、その後に混合物を脱ガラクトース化し、精製することができたことは明らかであった。
【0075】
ストレプトコッカス・サーモフィルスを用いる直接発酵のため、S.セレビシエを用いる脱グルコース化をしなかった(今回の場合は不必要であった)ことは、GOS対ラクトースの所望の面積比をもたらした。さらに、その後に続くS.セレビシエを用いる発酵が、ガラクトースを除去できたことを考えると、表2で報告した面積パーセント値を基にして、ラクトースのみに対して95.6%というGOS純度を、理論的に算出することができる。
【0076】
実施例3(43%(60%で市販)のGOSから出発する調製例):
427gのビビナルGOS60、バッチ番号6297770を、1600mlの水に可溶化した。溶液のHPLCデータを、下に表形式で示す。
【0077】
【表10】

【0078】
最初に、S.セレビシエを用いる脱グルコース化ステップ、それに続くS.サーモフィルスを用いる発酵について、実施例1とまさしく同じように、手順を行った。S.サーモフィルスを用いる発酵ステップ(実施例1でのステップ2)の最後に、HPLCが得られた。実施例1の結果に完全に匹敵している結果を下表にまとめる。
【0079】
【表11】

【0080】
S.サーモフィルスを用いる発酵の間に、GOS5のピークが消失する一方で、GOS6のピークがほぼ変わらないまま残ることが、この実施例でも分かる。
【0081】
実施例2と同じように、この段階でこの実験を止めて、実施例1で既に説明した方式で混合物を脱ガラクトース化し、精製した。
【0082】
さらに、S.セレビシエを用いる第2の発酵で、ガラクトースを除去できたことを考えると、本実施例の第2のHPLCの表で報告した面積パーセント値を基にして、ラクトースのみに対して95.2%というGOS純度を、理論的に算出することができる。
【0083】
実施例4(K.マルキシアヌスを用いる、40%のGOSから出発する調製例(Cheng,C.−C.ら、Biotechnol.Lett.28 793〜797、2006)):
菌株であるK.マルキシアヌスATCC56497を、オートクレーブ滅菌した酵母用YPD寒天培地を含有するプレート上で培養し、30℃のインキュベーター内に48時間置いた。
予備発酵混合物を調製するために、100mlのYPD液体培地を調製し、オートクレーブ滅菌し、次いで、事前に調製したプレートから取り出したコロニーを接種した。微生物を、30℃の温度で振盪機内で増殖させ、200rpmで24時間振盪した。
実施例1と同じ出発溶液、すなわち、1.41lの水で希釈した460gの40%粗GOS溶液(バッチ番号01449IN9)で、試験を行った。
溶液のpHを、15%水酸化ナトリウムでpH2.8〜pH5.4に調整した後、溶液を30℃で温度調節した。
全部の予備発酵混合物を接種のために使用した。pHスタットにより15%水酸化ナトリウムを添加することによって、pH5.2〜5.4で発酵を進行させた。混合物のサンプル抽出を、48時間後に行ったが、下に提示する、表にされたHPLCデータ(図8も参照されたい)から分かるように、反応が完了に達したことが示されている。
【0084】
【表12】

【0085】
反応は有効に、ラクトースのほぼ完全な消失をもたらしたが、ガラクト−オリゴ糖に起因するピークが、二糖の全領域(12.2分〜13.2分の間)に存在しないことに、添付したクロマトグラム(図8)から留意されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化性糖質であるラクトース、グルコース及びガラクトースの全割合が5%以下である、純度95%以上のGOS混合物を、より低純度のGOS混合物から出発して調製するための方法であって、前記方法は、ストレプトコッカス・サーモフィルスを用いる1つの発酵ステップと、サッカロミセス・セレビシエを用いる少なくとも1つの発酵ステップと、を含み、前記純度は、GOS及び前記消化性糖質を識別・定量化できる任意の分析法によって算出される、方法。
【請求項2】
S.サーモフィルスを用いる前記発酵ステップの後に、S.セレビシエを用いる発酵ステップが行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
出発GOS混合物のグルコース含量がHPLC面積パーセントで5%以下である場合、S.サーモフィルスを用いる発酵ステップの後に、S.セレビシエを用いる発酵ステップが行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
出発GOS混合物のグルコース含量がHPLC面積パーセントで5%を超える場合、S.サーモフィルスを用いる発酵ステップの前に、S.セレビシエを用いる発酵ステップが行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
S.セレビシエを用いる発酵ステップは、出発GOSの乾燥重量1kgあたり40〜15gの脱水されたS.セレビシエを用いてpH6.5±0.5、温度35±℃で少なくとも12時間行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
S.サーモフィルスを用いる発酵ステップは、好ましくは、塩基の添加によりpHを6.0〜6.5に維持して、出発GOSの乾燥重量1kgあたり1〜0.4gの脱水されたS.サーモフィルスを用いて温度40±5℃で少なくとも15時間行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
発酵ステップの後、前記混合物は、セラミック限外濾過、ナノ濾過、炭素を用いる脱色、及びイオン交換樹脂での脱イオンによるさらなる処理にかけられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ラクトース以外のガラクト二糖が1%以上の量で存在し、消化性糖質であるラクトース、グルコース及びガラクトースの全割合が5%以下である、純度95%以上のGOS混合物。
【請求項9】
請求項8に記載のGOS混合物を含む医薬又は食品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−501504(P2013−501504A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523425(P2012−523425)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053567
【国際公開番号】WO2011/016008
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(502350799)イナルコ ソシエタ ペル アチオニ (6)
【Fターム(参考)】