説明

距離測定システム、距離測定方法ならびに通信装置

【課題】 簡単な構成でかつ低コストで無線端末間の距離を測定することが可能な距離測定システム、距離測定方法および通信装置を提供することである。
【解決手段】 一の移動端末に設けられた送信機から第1の周波数f1 を有する第1の搬送波および第2の周波数f2 を有する第2の搬送波が他の移動端末に送信される。他の移動端末に設けられた受信機により一の移動端末から送信された第1および第2の搬送波が受信され、第1および第2の搬送波の位相差Δφが検出される。さらに、検出された位相差Δφ、第1の周波数f1 および第2の周波数f2 に基づいて一の移動端末と他の移動端末との間の距離Rが算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線端末間の距離を測定する距離測定システム、距離測定方法ならびに通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線アドホックネットワークでは、移動端末間で基地局等のインフラストラクチャを経由することなく無線通信を行うことができる。このような無線アドホックネットワークを構成する移動端末は、送受信機の機能だけでなく中継局の機能も有し、移動端末自身がルータとしても働く。2つの移動端末間で通信を行う場合には、他の移動端末を中継局として用いるマルチホップ通信を行うことができる。それにより、通信すべき2つの移動端末間で電波が届かない場合でも、他の移動端末を経由することにより通信が可能となる。
【0003】
各移動端末が無指向性ビームを用いて通信を行うと、その移動端末は異なる方向に位置する複数の移動端末と通信することができる。しかしながら、複数組の移動端末同士での通信で同一チャネル間の干渉が生じる。そこで、同一チャネル間の干渉が生じないように指向性ビームを用いて通信が行われる。この場合、マルチホップ通信の経路を選択するためには、ネットワークを構成している複数の移動端末の位置を把握しておく必要がある。そのためには、各移動端末は、移動している他の複数の移動端末までの距離および方向を常時把握しておかなければならない。
【0004】
従来より移動端末の位置を測定可能な種々の移動通信システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開11−178038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来の移動通信システムでは、移動無線端末装置の測位装置が、測位信号を通信制御センタに送信し、折り返し戻ってきた測位信号から電波伝搬遅延時間(位相)を計測し、その電波伝搬遅延時間(位相)から距離を測定する。
【0006】
しかしながら、上記の従来の移動通信システムでは、各移動無線端末装置が通信制御センタまでの距離を測定することはできるが、各移動無線端末装置が他の移動無線端末装置までの距離を直接測定することはできない。
【0007】
また、移動する物体までの距離を測定する種々のレーダも開発されているが、構造が複雑で高価である。
【0008】
無線アドホックネットワークにおいて、移動端末間でマルチホップ通信を行うためには、簡単な構成でかつ低コストで移動端末までの距離を測定することを可能にすることが望まれる。
【0009】
本発明の目的は、簡単な構成でかつ低コストで無線端末間の距離を測定することが可能な距離測定システム、距離測定方法および通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係る距離測定システムは、複数の無線端末間の距離を測定する距離測定システムであって、複数の無線端末のうち一の無線端末に設けられ、第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波を複数の無線端末のうち他の無線端末に送信する送信手段と、他の無線端末に設けられ、一の無線端末から送信された第1および第2の電波を受信する受信手段と、受信手段により受信された第1および第2の電波の位相差を検出する検出手段と、検出手段により検出された位相差および第1および第2の周波数に基づいて一の無線端末と他の無線端末との間の距離を算出する算出手段とを備えたものである。
【0011】
本発明に係る距離測定システムにおいては、複数の無線端末のうち一の無線端末に設けられた送信手段から第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波を複数の無線端末のうち他の無線端末に送信される。一方、他の無線端末に設けられた受信手段により一の無線端末から送信された第1および第2の電波が受信され、検出手段により受信された第1および第2の電波の位相差が検出される。さらに、検出された位相差および第1および第2の周波数に基づいて算出手段により一の無線端末と他の無線端末との間の距離が算出される。
【0012】
このように、第1および第2の電波を用いることにより、簡単な構成でかつ低コストで無線端末間の距離を測定することが可能になる。
【0013】
送信手段は、第1および第2の周波数の少なくとも一方を可変制御してもよい。第1の周波数と第2の周波数との差が小さく設定された場合には、低い分解能で遠距離の測定が可能となる。また、第1の周波数と第2の周波数との差が大きく設定された場合には、高い分解能で近距離の測定が可能となる。
【0014】
第2の発明に係る距離測定システムは、複数の無線端末間の距離を測定する距離測定装置であって、複数の無線端末のうち一の無線端末に設けられ、異なる周波数を有する複数の電波を複数の無線端末のうち他の無線端末に送信する送信手段と、他の無線端末に設けられ、一の無線端末から送信された複数の電波を受信する受信手段と、受信手段により受信された複数の電波のうちいずれか2つの電波の位相差を検出する検出手段と、検出手段により検出された位相差および2つの電波の周波数に基づいて一の無線端末と他の無線端末との間の距離を算出する算出手段とを備えたものである。
【0015】
本発明に係る距離測定システムにおいては、複数の無線端末のうち一の無線端末に設けられた送信手段から異なる周波数を有する複数の電波が複数の無線端末のうち他の無線端末に送信される。一方、他の無線端末に設けられた受信手段により一の無線端末から送信された複数の電波が受信され、検出手段により受信された複数の電波のうちいずれか2つの電波の位相差が検出される。さらに、検出された位相差および2つの電波の周波数に基づいて算出手段により一の無線端末と他の無線端末との間の距離が算出される。
【0016】
このように、複数の電波を用いることにより、簡単な構成でかつ低コストで無線端末間の距離を測定することが可能になる。
【0017】
送信手段は、異なる周波数を有する3以上の電波を他の無線端末に送信してもよい。検出手段により小さい周波数差を有する2つの電波の位相差が検出された場合には、低い分解能で遠距離の測定が可能となる。また、検出手段により大きな周波数差を有する2つの電波の位相差が検出された場合には、高い分解能で近距離の測定が可能となる。
【0018】
第3の発明に係る通信装置は、無線端末に設けられ、他の無線端末から第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波を受信する通信装置であって、他の無線端末から送信された第1および第2の電波を受信する受信手段と、受信手段により受信された第1および第2の電波の位相差を検出する検出手段と、検出手段により検出された位相差および第1および第2の周波数に基づいて一の無線端末と他の無線端末との間の距離を算出する算出手段とを備えたものである。
【0019】
本発明に係る通信装置においては、受信手段により他の無線端末から送信された第1および第2の電波が受信され、検出手段により受信された第1および第2の電波の位相差が検出される。さらに、検出された位相差および第1および第2の周波数に基づいて算出手段により一の無線端末と他の無線端末との間の距離が算出される。
【0020】
このように、第1および第2の電波を用いることにより、簡単な構成でかつ低コストで無線端末間の距離を測定することが可能になる。
【0021】
通信装置は、第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波を他の無線端末に送信する送信手段をさらに備えてもよい。
【0022】
この場合、他の無線端末に第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波が送信されるので、他の無線端末は受信した第1および第2の電波の位相差および第1および第2の周波数に基づいて当該無線端末までの距離を測定することができる。
【0023】
第4の発明に係る距離測定方法は、複数の無線端末間の距離を測定する距離測定方法であって、複数の無線端末のうち一の無線端末から第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波を複数の無線端末のうち他の無線端末に送信するステップと、他の無線端末において一の無線端末から送信された第1および第2の電波を受信するステップと、受信された第1および第2の電波の位相差を検出するステップと、検出された位相差および第1および第2の周波数に基づいて一の無線端末と他の無線端末との間の距離を算出するステップとを備えたものである。
【0024】
本発明に係る距離測定方法においては、複数の無線端末のうち一の無線端末から第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波が複数の無線端末のうち他の無線端末に送信される。一方、他の無線端末において一の無線端末から送信された第1および第2の電波が受信され、受信された第1および第2の電波の位相差が検出される。さらに、検出された位相差および第1および第2の周波数に基づいて一の無線端末と他の無線端末との間の距離が算出される。
【0025】
このように、第1および第2の電波を用いることにより、簡単な構成でかつ低コストで無線端末間の距離を測定することが可能になる。
【0026】
第5の発明に係る距離測定システムは、アドホックネットワークにおいて複数の無線端末間の距離を測定する距離測定システムであって、複数の無線端末のうち一の無線端末に設けられ、第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波を複数の無線端末のうち他の無線端末に送信する送信手段と、他の無線端末に設けられ、一の無線端末から送信された第1および第2の電波を受信する受信手段と、受信手段により受信された第1および第2の電波の位相差を検出する検出手段と、検出手段により検出された位相差および第1および第2の周波数に基づいて一の無線端末と他の無線端末との間の距離を算出する算出手段とを備えたものである。
【0027】
本発明に係る距離測定システムにおいては、アドホックネットワークにおける複数の無線端末のうち一の無線端末に設けられた送信手段から第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波を複数の無線端末のうち他の無線端末に送信される。一方、他の無線端末に設けられた受信手段により一の無線端末から送信された第1および第2の電波が受信され、検出手段により受信された第1および第2の電波の位相差が検出される。さらに、検出された位相差および第1および第2の周波数に基づいて算出手段により一の無線端末と他の無線端末との間の距離が算出される。
【0028】
このように、第1および第2の電波を用いることにより、簡単な構成でかつ低コストでアドホックネットワークにおける無線端末間の距離を測定することが可能になる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、2つの電波を用いることにより、簡単な構成でかつ低コストで無線端末間の距離を測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は本発明の実施の形態に係る距離測定システムが適用される無線アドホックネットワークの構成を示すブロック図である。
【0031】
図1の無線アドホックネットワークは、複数の移動端末100a〜100fにより構成される。ここで、移動端末100a〜100fは、例えば、車載無線装置、携帯電話等である。
【0032】
各移動端末100a〜100fは、後述する送信機および受信機からなる通信装置を備えるとともに、電波を送受信するアンテナを備える。アンテナは、全方向放射型アンテナでもよいし、主ビームの方向を変化させることができる可変ビームアンテナでもよい。可変ビームアンテナとしては、例えば「電子情報通信学会研究技術報告,電子情報通信学会発行,AP99−61,SAT99−61,pp.9−14,1999年7月」に記載された電子制御導波器アンテナを用いることができる。また、各移動端末100a〜100fは、信号の送受信機能に加えて中継局の機能も有し、ルータとして働く。
【0033】
図1の例では、2つの移動端末100a,100f間で通信を行う場合には、他の移動端末100b,100c,100d,100eを中継局として用いるマルチホップ通信が行われる。それにより、2つの移動端末100a,100f間で電波が届かない場合でも、他の移動端末100b,100c,100d,100eを経由することにより通信が可能となる。
【0034】
この場合、マルチホップ通信の経路を選択するためには、無線アドホックネットワークを構成している複数の移動端末100a〜100fの位置を把握しておく必要がある。そのためには、各移動端末100a〜100fは、常に移動している他の複数の移動端末100a〜100fまでの距離および方向を把握しておかなければならない。
【0035】
各移動端末100a〜100fの通信装置が距離測定機能および方向測定機能を有する。距離測定機能については後述する。また、方向測定機能については公知の方法が用いられる。
【0036】
図2は本発明の第1の実施の形態に係る距離測定システムにおける送信機の構成を示すブロック図である。図3は本発明の第1の実施の形態に係る距離測定システムにおける受信機の構成を示すブロック図である。
【0037】
本実施の形態では、一の移動端末に設けられた図2の送信機1および他の移動端末に設けられた図3の受信機2が距離測定システムを構成する。
【0038】
図2の送信機1は、アンプ12,15、バンドバスフィルタ(以下、BPFと呼ぶ)13,16、変調器14、パワーアンプ17、アンテナ18、基準発振器19、電力分配器(パワーディバイダ)20、PLL(位相同期ループ)発振器21,23、電力結合器22および制御部24を備える。
【0039】
アンプ12は、入力端子11から入力された信号波を増幅する。BPF13は、増幅器12により増幅された信号波の所定の周波数帯域の成分を通過させる。
【0040】
一方、基準発振器19は、例えば10MHzの基準信号を発生する。電力分配器20は基準信号をPLL発振器21,23に分配する。PLL発振器21は、基準信号を逓倍することにより第1の周波数f1 を有する第1の搬送波を出力する。PLL発振器23は、基準発振器19により発生された基準信号を逓倍することにより第2の周波数f2 を有する第2の搬送波を出力する。制御部24は、例えばCPU(中央演算処理装置)等からなり、PLL発振器23から出力される第2の搬送波の第2の周波数f2 を制御する。本実施の形態では、PLL発振器21から出力される第1の搬送波の第1の周波数f1 は例えば100MHzであり、PLL発振器23から出力される第2の搬送波の第2の周波数f2は例えば100MHz〜(100+n−1)MHzに制御される。ここで、nは2以上の整数である。
【0041】
電力結合器22は、PLL発振器21により発生された第1の搬送波とPLL発振器23により発生された第2の搬送波とを結合し、結合された第1および第2の搬送波を変調器14に与える。
【0042】
変調器14は、電力結合器22から与えられた第1および第2の搬送波をBPF13から出力された信号波でそれぞれ変調し、変調波を出力する。ここで、変調器14による変調の方式は特に限定されない。GFSK(ガウシアン周波数シフトキーイング)方式、OFDM(直交周波数分割多重)方式等の種々のデジタル変調方式またはアナログ変調方式を用いることができる。
【0043】
アンプ15は、変調器14から出力される変調波を増幅する。BPF16は、不要輻射を除去するためにアンプ15により増幅された変調波の所定の周波数帯域の成分を通過させる。パワーアンプ17は、BPF16から出力される変調波を増幅し、電波としてアンテナ18から送信する。電波の周波数は、例えば2.5GHz程度であるが、これに限定されない。
【0044】
このようにして、図2の送信機1からは、異なる周波数を有する2つの変調波が送信される。この場合、2つの変調波の周波数差は可変となっている。
【0045】
図3の受信機2は、アンテナ25、低雑音アンプ26、BPF27、復調器28、PLL発振器29、アンプ30,34,36、電力分配器31、BPF321,322,323,…,32n、位相検波器33、処理部35およびフィルタ37を備える。上記のように、nは2以上の整数である。
【0046】
低雑音アンプ26は、アンテナ25により受信された変調波を増幅する。BPF27は、外部からの不要信号を除去するために低雑音アンプ26により増幅された変調波の所定の周波数帯域の成分を通過させる。
【0047】
PLL発振器29は、所定の基準信号を発生する。復調器28は、BPF27から出力された変調波をPLL発振器29により発生された基準信号を用いてダウンコンバートするとともに、変調波を復調することにより信号波をアンプ36に出力し、第1の周波数f1 を有する第1の搬送波および第2の周波数f2 を有する第2の搬送波をアンプ30に出力する。
【0048】
アンプ36は、復調器28から出力された信号波を増幅し、フィルタ37を通して出力する。アンプ30は、復調器28により復調された第1および第2の搬送波を増幅する。
【0049】
電力分配器31は、アンプ30により増幅された第1および第2の搬送波をBPF321〜32nに分配する。BPF321は、電力分配器31により与えられた搬送波のうち第1の周波数f1 を有する第1の搬送波を通過させる。また、BPF322〜32nのいずれか1つが電力分配器31により与えられた搬送波のうち第2の周波数f2 を有する第2の搬送波を通過させる。
【0050】
本実施の形態では、BPF321は、例えば100MHzの搬送波を通過させ、BPF321〜32nは、それぞれ101MHz〜(100+n−1)MHzの搬送波を通過させる。
【0051】
位相検波器33は、BPF321から出力される第1の搬送波とBPF322〜32nのいずれかから出力される第2の搬送波との位相差を検出し、位相差に対応する直流の電圧信号を出力する。アンプ34は、位相検波器33から出力される電圧信号を増幅する。
【0052】
処理部35は、アナログ−デジタル変換器、CPU、メモリ等を含み、後述する方法で位相差から距離を算出する。
【0053】
なお、図2および図3の例では、送信機1および受信機2が別個に構成されているが、送信機1および受信機2が一体的に構成されてもよい。その場合には、アンテナ18,25として共通のアンテナが用いられ、共通のアンテナと図2のパワーアンプ17および図3の低雑音アンプ26との間に送信および受信を切り替えるスイッチが設けられる。
【0054】
なお、一の移動端末に設けられた図2の送信機1および他の移動端末に設けられた図3の受信機2が距離測定システムを構成する。
【0055】
図4は本実施の形態に係る距離測定システムにおける距離測定方法を説明するための図である。
【0056】
図4には、一の移動端末における通信装置の送信機1から他の移動端末における通信装置の受信機2に送信される第1および第2の搬送波が示される。第1の搬送波は第1の周波数f1 を有し、第2の搬送波は第2の周波数f2 を有する。
【0057】
図4の縦軸は第1および第2の搬送波の振幅であり、横軸は距離である。Rは、送信側の移動端末から受信側の移動端末までの距離を表す。送信側の移動端末では、第1および第2の搬送波の同期が取られている。そのため、送信側の移動端末において第1および第2の搬送波の位相は一致している。
【0058】
Δφは、受信側の移動端末での第1の搬送波と第2の搬送波との位相差を表す。ここで、−π≦Δφ≦πである。
【0059】
以下、第1および第2の搬送波の位相差Δφに基づいて送信側の移動端末から受信側の移動端末までの距離Rを算出する方法について説明する。
【0060】
電波の速度をcとし、搬送波の波長をλとし、搬送波の周波数をfとし、搬送波の周期をTとすると、次式が成り立つ。
【0061】
c=λ/T=λf …(1)
上式(1)から搬送波の角周波数ωは次式のようになる。
【0062】
ω=2π/T=2πf …(2)
距離Rを位相で表すと、2πR/λ[rad]となる。
【0063】
上式(1)から位相は次式のように表される。
【0064】
2πR/λ=2πRf/c …(3)
ここで、送信側の移動端末での第1および第2の搬送波をそれぞれ式(4)および式(5)で表す。
【0065】
1T=sin(2πf1t+φ1) …(4)
2T=sin(2πf2t+φ2) …(5)
上式(4)および(5)において、w1Tおよびw2Tはそれぞれ送信側の移動端末での第1および第2の搬送波の振幅、tは時間、φ1 およびφ2 はそれぞれ第1および第2の搬送波の送信側の移動端末での位相である。
【0066】
上式(3)、(4)および(5)より、受信側の移動端末での第1および第2の搬送波はそれぞれ式(6)および式(7)で表すことができる。
【0067】
1R=sin(2πf1t−2πRf1/c+φ1) …(6)
2R=sin(2πf2t−2πRf2/c+φ2) …(7)
上式(6)および(7)において、受信側の移動端末でのw1Rおよびw2Rはそれぞれ第1および第2の搬送波の振幅、tは時間である。
【0068】
送信機1において第1および第2の搬送波の同期が取られているので、φ1=φ2となる。
【0069】
したがって、上式(6)および(7)より受信側の移動端末での第1および第2の搬送波の位相差Δφは次式のようになる。
【0070】
Δφ=2πR/c(f1 −f2 )=2πR/c・Δf …(8)
上式(8)において、Δfは第1の周波数f1 と第2の周波数f2 との差である。上式(8)を変形すると、次式のようになる。
【0071】
R=(c/2π)・(Δφ/Δf)
=(cΔφ)/(2πΔf) (−π≦Δφ≦π) …(9)
ここで、第1の周波数f1 と第2の周波数f2 との差Δfを1.0MHzに設定した場合を考える。この場合、位相差Δφがπになると、上式(9)より距離Rは次のように算出される。
【0072】
R=(3.0×108×π)/(2π×1.0×106)=150[m]
次に、第1の周波数f1 と第2の周波数f2 との差Δfを5.0MHzに設定した場合を考える。この場合、位相差Δφがπになると、上式(9)より距離Rは次のように算出される。
【0073】
R=(3.0×108×π)/(2π×5.0×106)=30[m]
また、位相差Δφの検出の分解能をΔφmを1.0°とする。Δφm=1.0°=π/180[rad]である。
【0074】
第1の周波数f1 と第2の周波数f2 との差Δfが1.0MHzの場合、距離の検出の分解能ΔRmは、上式(9)より次式のようになる。
【0075】
ΔRm=(3.0×108×π)/(2π×1.0×106×180)=0.83[m]
また、第1の周波数f1 と第2の周波数f2 との差Δfが5.0MHzの場合、距離の検出の分解能ΔRmは、上式(9)より次式のようになる。
【0076】
ΔRm=(3.0×108×π)/(2π×5.0×106×180)=0.17[m]
このように、第1の周波数f1 と第2の周波数f2 との差Δfが小さく設定された場合には、低い分解能で遠距離の測定が可能となる。また、第1の周波数f1 と第2の周波数f2 との差Δfが大きく設定された場合には、高い分解能で近距離の測定が可能となる。
【0077】
したがって、移動端末間の距離に応じて送信側の移動端末が第1の周波数f1 と第2の周波数f2 との差Δfを制御することにより適切な分解能で移動端末間の距離を測定することが可能となる。
【0078】
上記のように、本実施の形態に係る距離測定システムにおいては、一の移動端末に設けられた送信機1から第1の周波数f1 を有する第1の搬送波および第2の周波数f2 を有する第2の搬送波が他の移動端末に送信される。一方、他の移動端末に設けられた受信機2により一の移動端末から送信された第1および第2の搬送波が受信され、第1および第2の搬送波の位相差Δφが検出される。さらに、検出された位相差Δφ、第1の周波数f1 および第2の周波数f2 に基づいて式(9)より一の移動端末と他の移動端末との間の距離Rが算出される。
【0079】
このように、異なる周波数を有する第1および第2の搬送波を用いることにより、簡単な構成でかつ低コストで移動端末間の距離を測定することが可能になる。
【0080】
また、送信機1において第2の周波数f2 を可変制御することができるので、通信すべき移動端末間の距離が近い場合には、第1の周波数f1 と第2の周波数f2 との差Δfを大きくすることにより高い分解能で距離の測定を行うことができ、通信すべき移動端末間の距離が遠い場合には、第1の周波数f1 と第2の周波数f2 との差Δfを小さくすることにより低い分解能にはなるものの、長い距離の測定を行うことができる。
【0081】
各移動端末は、他の移動端末までの距離とともに他の移動端末の方向(方位角)を公知の方法で測定し、測定された距離および方向を他の移動端末に一定時間ごとに信号波として送信する。それにより、各移動端末は、無線アドホックネットワークを構成する複数の移動端末の位置を把握することができる。したがって、各移動端末は、他の移動端末を中継局として用いるマルチホップ通信を行うことができる。
【0082】
なお、本実施の形態では、送信機1において第2の搬送波の第2の周波数f2 が可変制御されるが、第1の搬送波の第1の周波数f1 が可変制御されてもよく、第1の搬送波の第1の周波数f1および第2の搬送波の第2の周波数f2 の両方が可変制御されてもよい。あるいは、第1の搬送波の第1の周波数f1 および第2の搬送波の第2の周波数f2 が固定されてもよい。
【0083】
現在、実際に複数の異なる周波数を用いた無線通信方式(装置)が運用されている。例えば、ブルートゥース(GFSK:ガウシアン周波数シフトキーイング)や無線LAN(OFDM:直交周波数分割多重方式)などであり、これらの無線通信方式に本発明を適用すれば、容易に距離測定システムを実現できる。
【0084】
図5は本発明の第2の実施の形態に係る距離測定システムにおける送信機の構成を示すブロック図である。図6は本発明の第2の実施の形態に係る距離測定システムにおける受信機の構成を示すブロック図である。
【0085】
本実施の形態では、一の移動端末に設けられた図5の送信機1および他の移動端末に設けられた図6の受信機2が距離測定システムを構成する。
【0086】
図5の送信機1が図2の送信機1と異なるのは、PLL発信器21,23および制御部24の代わりに複数のPLL発信器211,212,213,…,21nを備える点である。ここで、nは2以上の整数である。
【0087】
基準発信器19は、例えば10MHzの基準信号を発生する。電力分配器20は基準信号をPLL発信器211〜21nに分配する。PLL発信器211〜21nは基準信号を逓倍することによりそれぞれ異なる周波数を有する搬送波を出力する。
【0088】
ここで、PLL発信器211から出力される搬送波が第1の周波数f1 を有する第1の搬送波として用いられ、PLL発信器212〜21nから出力される搬送波のいずれか1つが第2の周波数f2 を有する第2の搬送波として用いられる。本実施の形態では、PLL発信器211〜21nから出力される搬送波の周波数は例えば100MHz〜(100+n−1)MHzである。
【0089】
例えば、PLL発信器211から出力される搬送波の周波数を第1の周波数f1 として用い、PLL発信器212から出力される搬送波の周波数を第2の周波数f2 として用いた場合、第1の周波数f1 と第2の周波数f2 との差Δfは1MHzとなる。
【0090】
電力結合器22は、PLL発振器211〜21nにより発生されたn個の搬送波を結合し、結合されたn個の搬送波を変調器14に与える。
【0091】
変調器14は、電力結合器22から与えられたn個の搬送波をBPF13から出力された信号波でそれぞれ変調し、変調波を出力する。
【0092】
アンプ15は、変調器14から出力される変調波を増幅する。BPF16は、不要輻射を除去するためにアンプ15により増幅された変調波の所定の周波数帯域の成分を通過させる。パワーアンプ17は、BPF16から出力される変調波を増幅し、電波としてアンテナ18から送信する。
【0093】
このようにして、図5の送信機1からは、異なる周波数を有するn個の変調波が送信される。
【0094】
図6の受信機2が図3の受信機2と異なるのは、BPF322,323,…,32nの出力端子がスイッチ38を介して位相検波器33に接続されている点である。
【0095】
電力分配器31は、アンプ30により増幅されたn個の搬送波をBPF321,322,323,…,32nに分配する。BPF321は、電力分配器31により与えられた搬送波のうち第1の周波数f1 を有する第1の搬送波を通過させる。また、BPF322〜32nは、送信機1のPLL発振器211〜21nの発振周波数と同じ周波数を有する搬送波をそれぞれ通過させる。スイッチ38は、BPF321〜32nから出力されるn個の搬送波のうち1つを第2の周波数f2 を有する第2の搬送波として位相検波器33に与える。スイッチ38は、処理部35により切り替えられる。
【0096】
本実施の形態では、BPF321は、例えば100MHzの搬送波を通過させ、BPF322〜32nは、それぞれ101MHz〜(100+n−1)MHzの搬送波を通過させる。
【0097】
位相検波器33は、BPF321から出力される第1の搬送波とBPF322〜32nのいずれかからスイッチ38を介して出力される第2の搬送波との位相差を検出し、位相差に対応する直流の電圧信号を出力する。アンプ34は、位相検波器33から出力される電圧信号を増幅する。処理部35は、図3の処理部35と同様の方法で位相差から距離を算出する。
【0098】
なお、図5および図6の例では、送信機1および受信機2が別個に構成されているが、送信機1および受信機2が一体的に構成されてもよい。その場合には、アンテナ18,25として共通のアンテナが用いられ、共通のアンテナと図5のパワーアンプ17および図6の低雑音アンプ26との間に送信および受信を切り替えるスイッチが設けられる。
【0099】
上記のように、本実施の形態に係る距離測定システムにおいては、一の移動端末に設けられた送信機1から異なる周波数を有する複数の搬送波が他の移動端末に送信される。一方、他の移動端末に設けられた受信機2により一の移動端末から送信された複数の搬送波が受信される。そして、複数の搬送波のうち第1の周波数f1 を有する第1の搬送波が抽出されるとともに、残りの複数の搬送波のうち1つの搬送波が第2の周波数f2 を有する第2の搬送波として選択され、第1および第2の搬送波の位相差Δφが検出される。さらに、検出された位相差Δφ、第1の周波数f1 および第2の周波数f2 に基づいて一の移動端末と他の移動端末との間の距離Rが算出される。
【0100】
このように、異なる周波数を有する第1および第2の搬送波を用いることにより、簡単な構成でかつ低コストで移動端末間の距離を測定することが可能になる。
【0101】
また、受信機2において異なる周波数を有する複数の搬送波のうち1つを第2の周波数f2を有する第2の搬送波として選択することができるので、通信すべき移動端末間の距離が近い場合には、第1の周波数f1と第2の周波数f2との差Δfを大きくすることにより高い分解能で距離の測定を行うことができ、通信すべき移動端末間の距離が遠い場合には、第1の周波数f1と第2の周波数f2との差Δfを小さくすることにより低い分解能にはなるものの、長い距離の測定を行うことができる。
【0102】
各移動端末は、他の移動端末までの距離とともに他の移動端末の方向(方位角)を公知の方法で測定し、測定された距離および方向を他の移動端末に一定時間ごとに信号波として送信する。それにより、各移動端末は、無線アドホックネットワークを構成する複数の移動端末の位置を把握することができる。したがって、各移動端末は、他の移動端末を中継局として用いるマルチホップ通信を行うことができる。
【0103】
なお、本実施の形態では、受信機2において異なる周波数を有する複数の搬送波のうち1つが第2の周波数f2を有する第2の搬送波として選択されるが、異なる周波数を有する複数の搬送波のうち1つが第1の周波数f1を有する第1の搬送波として選択されてもよく、異なる周波数を有する複数の搬送波のうち異なる任意の2つが第1の周波数f1を有する第1の搬送波および第2の周波数f2を有する第2の搬送波として選択されてもよい。
【0104】
また、無線端末が移動端末ではなく固定端末である場合にも上記実施の形態の送信機1および受信機2を用いることにより他の無線端末までの距離を測定することができる。
【0105】
本実施の形態では、送信機1が送信手段に相当し、受信機2が受信手段に相当し、位相検波器33が検出手段に相当し、処理部35が算出手段に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、無線アドホックネットワーク等における無線端末間の距離を測定するため等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施の形態に係る距離測定システムが適用される無線アドホックネットワークの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る距離測定システムにおける送信機の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る距離測定システムにおける受信機の構成を示すブロック図である。
【図4】本実施の形態に係る距離測定システムにおける距離測定方法を説明するための図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る距離測定システムにおける送信機の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る距離測定システムにおける受信機の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0108】
1 送信機
2 受信機
12,15,30,34,36 アンプ
13,16,27,321,322,323,32n BPF
14 変調器
17 パワーアンプ
18,25 アンテナ
19 基準発振器
20,31 電力分配器
21,23,29,211,212,213,21m PLL発振器
22 電力結合器
24 制御部
26 低雑音アンプ
28 復調器
33 位相検波器
35 処理部
1 第1の周波数
2 第2の周波数
100a,100b,100c,100d,100e,100f 移動端末


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線端末間の距離を測定する距離測定システムであって、
前記複数の無線端末のうち一の無線端末に設けられ、第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波を前記複数の無線端末のうち他の無線端末に送信する送信手段と、
前記他の無線端末に設けられ、前記一の無線端末から送信された前記第1および第2の電波を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された前記第1および第2の電波の位相差を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された位相差および前記第1および第2の周波数に基づいて前記一の無線端末と前記他の無線端末との間の距離を算出する算出手段とを備えたことを特徴とする距離測定システム。
【請求項2】
前記送信手段は、前記第1および第2の周波数の少なくとも一方を可変制御することを特徴とする請求項1記載の距離測定システム。
【請求項3】
複数の無線端末間の距離を測定する距離測定システムであって、
前記複数の無線端末のうち一の無線端末に設けられ、異なる周波数を有する複数の電波を前記複数の無線端末のうち他の無線端末に送信する送信手段と、
前記他の無線端末に設けられ、前記一の無線端末から送信された前記複数の電波を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された前記複数の電波のうちいずれか2つの電波の位相差を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された位相差および前記2つの電波の周波数に基づいて前記一の無線端末と前記他の無線端末との間の距離を算出する算出手段とを備えたことを特徴とする距離測定システム。
【請求項4】
複数の無線端末間の距離を測定する距離測定方法であって、
前記複数の無線端末のうち一の無線端末から第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波を前記複数の無線端末のうち他の無線端末に送信するステップと、
前記他の無線端末において前記一の無線端末から送信された前記第1および第2の電波を受信するステップと、
前記受信された前記第1および第2の電波の位相差を検出するステップと、
前記検出された位相差および前記第1および第2の周波数に基づいて前記一の無線端末と前記他の無線端末との間の距離を算出するステップとを備えたことを特徴とする距離測定方法。
【請求項5】
アドホックネットワークにおいて複数の無線端末間の距離を測定する距離測定システムであって、
前記複数の無線端末のうち一の無線端末に設けられ、第1の周波数を有する第1の電波および第2の周波数を有する第2の電波を前記複数の無線端末のうち他の無線端末に送信する送信手段と、
前記他の無線端末に設けられ、前記一の無線端末から送信された前記第1および第2の電波を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された前記第1および第2の電波の位相差を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された位相差および前記第1および第2の周波数に基づいて前記一の無線端末と前記他の無線端末との間の距離を算出する算出手段とを備えたことを特徴とする距離測定システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−42201(P2006−42201A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222442(P2004−222442)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「自律分散型無線ネットワークの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】