説明

路盤の健全度判定方法、路盤の補修方法

【課題】作業が容易であり、かつ、路盤側要因と軌道側要因とを判別可能な、路盤の健全度判定方法等を提供する。
【解決手段】まず、起振器9が駆動され、振動が発振される。次に、加速度計7により、被検査体の振動情報を検出する。次に、処理装置15によって測定データが処理される。次に、得られた振動情報をフーリエ変換し、フーリエスペクトルを得る。得られたフーリエスペクトルより、所定周波数範囲(例えば3〜50Hz)における面積が算出される。一方、同じ部位において、軌道の10m弦4か月変位(進行)量を測定する。以上により得られた、被検体の面積と変位量とを1組のデータとし、このデータを複数の被検体や検査時期に対して取得し、得られた関係を例えば最小二乗法によって一次の関係式として取得する。その後、測定部位の面積と変位量データを関係式と比較して路盤側と軌道側の要因を判別できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製の路盤下に生じる空洞等による路盤の健全度を判定するため路盤の健全度判定方法および路盤の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート製の構造物については、目視で外観上発見することのできる欠陥や劣化以外に、内部に存在する欠陥等についても発見する必要があり、また、このような欠陥を数値化することが要求されている。
【0003】
このようなコンクリート構造物の診断方法としては、重錘によって構造物の表面に垂直に打撃し、この打撃により生じる振動をセンサ等で検知し、フーリエ解析による固有振動数の変化によって、構造物の健全度を評価する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−51873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載の方法は、重錘を用いるため、打撃部位ごとに重錘およびこの打撃装置を移動させて設置する必要があり作業が困難であるという問題がある。
【0006】
一方、例えばコンクリート製の路盤のように、路盤である構造体自体に欠陥等が生じていなくても、路盤下の地盤と路盤との間に空洞が生じてしまうと、路盤の沈下等の恐れがある。このような空洞は、たとえば、列車による繰り返し荷重の影響により路盤下の岩や礫層が破砕して細粒化し、これが地下水の影響で流出することで発生する。したがって、このような路盤下の空洞についての確実な診断方法が望まれる。確実な診断方法としては、路盤コンクリートを直接削孔して目視で確認する方法がある。しかしながら、路盤コンクリートを直接コア削孔して確認する方法は多大な労力を要し、保守作業における時間的な制約も多い。
【0007】
また、路盤についての健全度を非破壊で評価しようとする際に、路盤下の空洞の影響の他、軌道側の要因も含まれる。このため、これらの要因を区別する必要がある。軌道側の要因であれば、路盤下にコンクリート等を充填するのではなく、軌道スラブや軌道スラブ下のセメントアスファルトモルタル等の破損を修復する必要があるためである。すなわち、要因によって補修方法が異なり、路盤側の要因であるか軌道側の要因であるかを判定することが望まれる。
【0008】
さらに、路盤下の補修方法は、路盤を削孔して注入材を充填するものであるが、充填する注入量のみを管理しているため、実際に空洞に確実に注入材が充填されたかどうかが判断できず、補修の効果を知ることもできなかった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、作業が容易であり、かつ、路盤側要因と軌道側要因とを判別可能な、路盤の健全度判定方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、上方に軌道が設けられ、路盤コンクリートと前記路盤コンクリート上に設けられるスラブとからなる路盤の健全度判定方法であって、前記路盤の上面の前記軌道の略中央に起振器を設置し、前記起振器から所定距離離れた位置に加速度計を設置し、前記起振器より振動を発振させて前記加速度計により振動情報を取得し、当該部位の所定期間における軌道変位情報を取得し、複数の基準対象部位で得られたそれぞれの前記振動情報をフーリエ変換し、所定周波数範囲におけるフーリエスペクトルの面積をそれぞれ算出するとともに、前記軌道変位情報から、それぞれの基準対象部位における所定期間の軌道の変位量を算出し、得られたそれぞれの部位の前記面積と前記変位量との関係から前記面積と前記変位量の関係式を予め求め、測定対象部位において、前記振動情報および前記軌道変位情報を取得し、当該部位の前記面積および前記変位量をそれぞれ算出し、前記関係式と比較することで、当該測定対象部位における路盤の健全度と、健全度に対する路盤側要因と軌道側要因とを判別することを特徴とする路盤の健全度判定方法である。
【0011】
前記路盤コンクリートの一部には上方に凸部が形成され、前記スラブの上面と前記凸部の上面とが略一致するように、前記凸部の周囲は前記スラブにより埋設されており、前記起振器は、前記凸部の上面に設置され、前記加速度計は、前記スラブの側方に露出した、前記路盤コンクリートに設置されてもよい。
【0012】
前記面積を算出する周波数範囲は3〜50Hzであり、前記変位量は、軌道10m長さに対する4か月間の鉛直方向の変位量であり、前記関係式は、複数の前記面積および前記変位量との関係から最小二乗法により算出されることが望ましい。
【0013】
第1の発明によれば、路盤を起振して得られる振動情報からフーリエスペクトルを得て、ここから所定周波数範囲のスペクトル面積を求め、同位置における軌道の所定期間における変位量の情報から、面積と変位量との関係式を導出し、この関係式により、路盤側要因と軌道側要因とを判別することができる。
【0014】
また、路盤の凸部上面に起振器を設置することで、正確な路盤の振動情報を得ることができる。また、3〜50Hz周波数域におけるスペクトル面積を求めることで、面積と変位量との関係式を精度よく求めることができる。なお、3〜50Hzは、例えば新幹線が通過する際の振動の周波数帯域に略該当し、軌道上を走行する鉄道により生じる周波数と対応するものである。
【0015】
第2の発明は、第1の発明にかかる路盤の健全度判定方法により、測定対象部位における路盤の健全度と、健全度に対する路盤側要因と軌道側要因とを判別し、路盤側要因で健全度が悪いと判断された部位の路盤を削孔し、前記路盤下に注入材を充填し、注入材硬化後、当該部位の前記面積と前記変位量を再度算出し、注入材充填前のデータと比較することで、補修効果を確認することを特徴とする路盤の補修方法である。
【0016】
第2の発明によれば、路盤要因である場合についてのみ路盤を削孔すれば良く、また、注入材の充填後に、この効果を確認できるため、確実に路盤を補修することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、作業が容易であり、かつ、路盤側要因と軌道側要因とを判別可能な、路盤の健全度判定方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】路盤健全度の判定状態を示す図で、(a)は立面図、(b)は平面図。
【図2】診断装置17のハードウェア構成を示す図。
【図3】解析装置13のハードウェア構成を示す図。
【図4】面積と変位量との関係式を得るためのフロー図。
【図5】路盤が健全である場合と不健全である場合のフーリエスペクトルの概念図。
【図6】面積と変位量との関係を示す図。
【図7】健全度を判定するためのフロー図。
【図8】面積と変位量との関係における各要因の判定方法を示す概念図。
【図9】路盤下の空洞の補修方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態にかかる路盤下の空洞診断方法等について説明する。図1は、路盤の健全度を判定する状態を示す図で、図1(a)は断面図(図1(b)のS−S線断面図)、図1(b)は平面図である。なお、以下の説明では、路盤1下方に空洞11が生じている場合について説明する
【0020】
路盤1は、地面2上に設けられる路盤コンクリート5、路盤コンクリート5上に設けられるスラブ6等から構成され、スラブ6上には軌道3が配設される。コンクリート製のスラブ6は、路盤コンクリート5の幅よりも幅が狭く、軌道3が配設可能な幅である。したがって、路盤コンクリート5とスラブ6とが階段状に配置され、スラブ6の両側方には、路盤コンクリート5が露出する。
【0021】
路盤コンクリート5の一部には、上方に突出する凸部8が形成される。スラブ6は凸部8の周囲を覆うように形成される。すなわち、凸部8とスラブ6とは略同一高さであり、スラブ6の上面と凸部8の上面とは略同一面となる。
【0022】
凸部8は、軌道3の略中央に位置し、軌道3の略中央に露出する。凸部8の上面には起振器9が設置される。なお、起振器9と凸部8上面との間には、所定重量のプレート等を設置してもよい。また、凸部8の上面がスラブ6の上面よりも低い場合には、高さ調整用の砂袋を凸部8上に設置し、砂袋上にプレートを設置してもよい。
【0023】
起振器9は、設置面(凸部8の上面)に対して垂直に加振を行うことのできる起振器であれば、通常用いられる起振器、加振器を用いることができ、例えば、永久磁石と可動コイルとの組み合わせによるものを用いることができる。
【0024】
起振器9が設置された部位から、所定距離離れた部位には、複数の加速度計7が設置される。加速度計7は一般的な加速度計でよく、起振器9により発振され、路盤1(路盤コンクリート5)を伝達した振動を受振可能であれば良い。なお、加速度計7は、例えば、起振器9が設置された凸部8の位置から、軌道3とは垂直な方向において、スラブ6の側方に露出した路盤コンクリート5の上面に設置される。
【0025】
図1(b)に示すように、複数の加速度計7は処理装置15と接続される(図1(a)においては、処理装置、解析装置等は図示を省略する)。処理装置15は、さらに解析装置13と接続される。なお、起振器9は、図示を省略した制御装置により制御され、解析装置13と接続される。
【0026】
図1(a)に示すように、路盤コンクリート5と地面2との間には空洞11が形成される。空洞11は、路盤1等の設置後に地面の沈下や軌道上を走行する列車等の振動により形成される。通常、空洞11が存在しない場合には、路盤コンクリート5は、下方より地面2に密着して支持される。すなわち、例えば、地面2をばねに置き換えた弾性床上の梁理論等によれば、路盤コンクリート5は下方から地面2により支持された状態となる。これに対し、路盤コンクリート5の下方の一部に空洞11が形成されると、この部分に対しては地面から支持されず、空洞11の周縁部において、地面2から支持されることとなる。したがって、空洞11が形成される部位においては、大きな振幅を生じる。
【0027】
図2は、本発明にかかる路盤下の空洞を診断する診断装置17を示すハードウェア構成図である。処理装置15は、加速度計7により得られた受振振動を増幅し、デジタル化する部位である。なお、加速度計により得られた加速度情報は、そのまま加速度としてフーリエスペクトルを得てもよいが、速度や変位に換算されたフーリエスペクトルを得てもよい。解析装置13は、得られた情報に基づいて、各種の計算を行い、情報処理を行う部位である。なお、図示を省略した制御装置は、起振器9の起振条件の設定や、起振開始および停止等の起振器9の制御を行うものである。
【0028】
起振器9により発振された振動は、路盤1(路盤コンクリート5等)に伝達される。路盤1内を伝播した振動は、加速度計7により受振される。加速度計7により受振された振動情報は、処理装置によって増幅され、デジタル化される。処理された振動情報(加速度、速度、変位)は解析装置13に送られる。一方、起振器9により発振された振動情報は、必要に応じて処理が施され、デジタル情報として解析装置13に送られる。
【0029】
なお、処理装置15は、アンプ、A/D変換機および通信インタフェースからなり、加速度計7より送られる測定信号は、アンプにより増幅され、A/D変換機によりデジタル化され、デジタルデータに変換された測定データは、通信インタフェースを介してデータ解析装置13に送られる。
【0030】
次に、解析装置13のハードウェア構成を説明する。図3は、解析装置13を実現するコンピュータのハードウェア構成図である。解析装置13は、制御部21、記憶部23、メディア入出力部25、通信制御部27、入力部29、表示部31、周辺機器I/F部33等が、バス35を介して接続される。
【0031】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。CPUは、記憶部23、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス35を介して接続された各装置を駆動制御する。なお、制御部21によって起振器9の振動の加振力、変位、速度、加速度、周波数などを制御してもよい。
【0032】
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。RAMは、揮発性メモリであり、記憶部23、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部21が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0033】
記憶部23は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部21が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述の処理に相当するアプリケーションプログラムが格納されている。これらの各プログラムコードは、制御部21により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0034】
メディア入出力部25(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、CDドライブ(−ROM、−R、RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、MOドライブ等のメディア入出力装置を有する。
【0035】
通信制御部27は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータとネットワーク間等の通信を媒介する通信インタフェースであり、起振器9、処理装置15等との通信制御等を行う。
【0036】
入力部29は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。入力部29を介して、コンピュータに対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
【0037】
表示部31は、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0038】
周辺機器I/F(インタフェース)部33は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部33を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部33は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0039】
バス35は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。なお、解析装置13としては、上記構成をすべて含むものに限定されるものではない。
【0040】
次に、本発明におけるスペクトル面積と軌道の変位量の関係式を求める流れを説明する。図4は、関係式を求める流れを示すフローチャートである。なお、以下のフローは、診断装置内部で行ってもよく、別途行ったものを記憶部に保存してもよい。また、以下の測定等は、あらかじめ基準測定部において複数のデータを得てもよく、または実際の現場での測定結果に集約しても良い。
【0041】
まず、起振器9の起振条件が設定される(ステップ101)。起振条件の設定は、制御装置(制御部)等で行ってもよく、あらかじめ設定され記憶された起振条件を読み出して実行してもよい。次いで、設定された起振条件によって、起振器9が駆動され、振動が発振される(ステップ102)。
【0042】
次に、加速度計7により、被検査体の振動データ(振動情報)を検出する(ステップ103)。なお、複数の加速度計7それぞれの情報は別々に取得される。
【0043】
次に、処理装置15によって測定データが処理される(ステップ104)。測定データの処理は、測定データを増幅するとともにデジタル変換される。処理された測定データは、解析装置13に送信される。
【0044】
次に、得られた振動情報をフーリエ変換し、フーリエスペクトルを得る(ステップ106)。得られたフーリエスペクトルより、所定周波数範囲(例えば3〜50Hz)における面積が算出される(ステップ107)。
【0045】
図5は、得られたフーリエスペクトルの概念図である。横軸に周波数、縦軸に振幅(強度)をとると、不健全な状態(例えば空洞を有する場合)のフーリエスペクトルは、特に低周波側において高い振幅を示す。一方、健全である場合には、当該周波数範囲においては振幅が小さい。たとえば、図においては、周波数範囲におけるそれぞれのスペクトルの面積(周波数下限値から上限値までの横軸とスペクトル曲線で囲まれる面積)を求めると、不健全な場合には面積が大きくなり、健全であれば小さくなる。
【0046】
一方、同じ部位において、軌道の10m弦4か月変位(進行)量を測定する(ステップ107)。軌道の10m弦4か月変位(進行)量とは、軌道10mの範囲に弦を張り、丁度中央(5m)位置において弦から軌道までの距離を測定し、これの4か月ごとの変化量(以下、単に「変位量」と称する)を各測定回毎に算出したものである(ステップ108)。すなわち、所定期間内における、軌道の変位量をいう。
【0047】
以上により得られた、被検体の面積と変位量とを1組のデータとし、このデータを複数の被検体や検査時期に対して取得し、得られた関係を例えば最小二乗法によって一次の関係式として取得する(ステップ109)。以上により、本発明における関係式を得ることができる。なお、明らかな異常データは適宜排除し、例えば相関係数として0.6以上とすることが望ましい。
【0048】
図6は、得られた複数の「面積/変位量」のデータをプロットし、最小二乗法によって関係式(図中直線T)を得た概念図である。関係式は、横軸に変位量(10m弦4か月進行量)を取り、縦軸に、変位量の測定値に対応する面積を取り、これに対して一次関数で近似すれば良い。なお、変位量の数値のマイナスは軌道が沈む方向であることを示し、変位量としては絶対値を取れば良い。変位量の絶対値を横軸にとれば、関係式Tは右上がりの直線として得ることができる。すなわち、路盤の振幅の大きさと軌道の変位との間には相関がみられ、軌道の変位量が大きい場合には振幅が大きくなる。これは、たとえば軌道側の要因であるスラブの損傷やスラブ下のセメントアスファルトモルタルに損傷が生じた場合でも、路盤の振動情報において、この影響によって低周波側の振幅が大きくなり、空洞以外の要因でスペクトル面積が大きくなるためである。
【0049】
次に、得られた関係式を基に、実際の測定対象における健全度の判定を行う流れを説明する。図7は、健全度の判定を行う流れを示すフローチャートである。測定対象部に起振器等を設置して、ステップ201〜208までを行う。なお、ステップ207、208は別途行ってもよい。また、ステップ201〜208は、関係式を求める際のステップ101〜108と同様の工程であるため、重複する説明を省略する。
【0050】
次に、得られた面積/変位量データを前述した関係式と比較する(ステップ109)。図8は、前述した「10m弦4か月変位進行量(変位量)」と「面積」との関係図中における関係式Tと、得られた「面積/変位量データ」との比較判定方法を示す図である。
【0051】
たとえば、測定対処部位における「面積/変位量データ」が、図中Aの領域にある場合には、変位量、面積ともに小さく、現状では路盤等は健全であると判定される。一方、図中B領域に位置する場合には、軌道側の問題ではなく路盤側の問題と判定される。したがって、後述する路盤の補修を行う必要がある。たとえば、このまま放置すると、さらに面積が増大(空洞が増大)する恐れがあるとともに、この空洞に起因して軌道の変位が急激に大きくなる恐れがある。
【0052】
また、「面積/変位量データ」がC領域にある場合、路盤の空洞の問題のみではなく、軌道自体にも問題があると推定される。たとえば、スラブ下面におけるセメントアスファルトモルタルの破損やスラブ自体の破損等が原因と考えられる。このため、軌道側の要因を検討する必要がある。
【0053】
なお、従来の振動のみによる評価方法では、E点(図8)を路盤の問題と判定して、後述する路盤の補修等を行い正確な健全度判断ができない場合があった。また、変位量のみの評価では、F点(図8)を変位量のみの問題と判定し、スラブの交換等を行うことがあった。本発明によれば、関係式Tの下方であるか上方であるかによって、路盤側要因と軌道側要因とを判別することができる。なお、各領域の境界値については、事前に得られたデータと路盤および軌道の状態を把握して予め決定しておけばよい。
【0054】
次に、路盤1の補修方法について説明する。図9は路盤1の補修工程を示す図である。まず、前述の方法で、路盤1の各部において、路盤の健全度を診断する。次いで、前述の方法で路盤側に問題があると判定された部位において、図8(a)に示すように、路盤1(スラブ6および路盤コンクリート5)に孔18を設ける。
【0055】
次に、図8(b)に示すように、孔18より、路盤1下方の空洞11に注入材であるコンクリート19を充填する。以上により、空洞11がコンクリートにより埋め戻され、路盤1の沈下や損傷等を防ぐことができる。さらに、コンクリート19が硬化後、同様に振動を付与して面積データと取り直し(図7中ステップ201〜206)、得られた面積/変位量データから、補修の効果を確認することができる。
【0056】
本実施の形態にかかる路盤の健全度判定方法によれば、振動の発振に起振器9が用いられるため、確実に路盤1の設置面に垂直な方向に振動を発振することができ、また、機器の設置等の作業も容易である。また、起振器9を用いることで、容易に振動情報を得ることができる。
【0057】
また、振動情報により得られる面積値のみではなく、軌道の変位量データとの関係式を求め、これを用いて路盤側要因と軌道側要因とを判別することができるため、より適切な補修方法等を選択することができる。また、補修後に同様のデータを再取得することで、例えば図9におけるF点のデータを取得した際に、路盤下に注入材を充填し、注入材が確実に空洞に充填されたか否かを知ることができる。また、同様にE点のデータを取得した際に、スラブ等の補修を行った後、軌道側の補修に伴う振動データ(面積)の変化を知ることもできる。
【0058】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0059】
1………路盤
2………地面
3………軌道
5………路盤コンクリート
6………スラブ
7………加速度計
8………凸部
9………起振器
11………空洞
13………解析装置
15………処理装置
17………診断装置
18………孔
19………コンクリート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に軌道が設けられ、路盤コンクリートと前記路盤コンクリート上に設けられるスラブとからなる路盤の健全度判定方法であって、
前記路盤の上面の前記軌道の略中央に起振器を設置し、前記起振器から所定距離離れた位置に加速度計を設置し、前記起振器より振動を発振させて前記加速度計により振動情報を取得し、当該部位の所定期間における軌道変位情報を取得し、
複数の基準対象部位で得られたそれぞれの前記振動情報をフーリエ変換し、所定周波数範囲におけるフーリエスペクトルの面積をそれぞれ算出するとともに、前記軌道変位情報から、それぞれの基準対象部位における所定期間の軌道の変位量を算出し、
得られたそれぞれの部位の前記面積と前記変位量との関係から前記面積と前記変位量の関係式を予め求め、
測定対象部位において、前記振動情報および前記軌道変位情報を取得し、当該部位の前記面積および前記変位量をそれぞれ算出し、前記関係式と比較することで、当該測定対象部位における路盤の健全度と、健全度に対する路盤側要因と軌道側要因とを判別することを特徴とする路盤の健全度判定方法。
【請求項2】
前記路盤コンクリートの一部には上方に凸部が形成され、前記スラブの上面と前記凸部の上面とが略一致するように、前記凸部の周囲は前記スラブにより埋設されており、前記起振器は、前記凸部の上面に設置され、前記加速度計は、前記スラブの側方に露出した、前記路盤コンクリートに設置されることを特徴とする請求項1記載の路盤の健全度判定方法。
【請求項3】
前記面積を算出する周波数範囲は3〜50Hzであり、
前記変位量は、軌道10m長さに対する4か月間の変位量であり、
前記関係式は、複数の前記面積および前記変位量との関係から最小二乗法により算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の路盤の健全度判定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の路盤の健全度判定方法により、測定対象部位における路盤の健全度と、健全度に対する路盤側要因と軌道側要因とを判別し、
路盤側要因で健全度が悪いと判断された部位の路盤を削孔し、前記路盤下に注入材を充填し、
注入材硬化後、当該部位の前記面積と前記変位量を再度算出し、注入材充填前のデータと比較することで、補修効果を確認することを特徴とする路盤の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−83249(P2012−83249A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230382(P2010−230382)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】