説明

路面状態判別方法およびその装置

【課題】 従来の偏光フィルタを回転して路面状態を判定する方法にあっては、路面を撮影するに当たって偏光フィルタを回転させなければならないので、カメラを固定した場所に設置するのではなく移動する車両、例えば、道路管理者が所有する車両などに積載して走行しながら路面状態を判別しようとした場合には、偏光フィルタを回転させる時間のズレによって垂直偏光画像と水平偏光画像が全く異なったシーンを撮影することとなり、走行しながら路面状態を判別することができないといった問題があった。
【解決手段】 1つのカメラで垂直偏光画像を、他のカメラで水平偏光画像を撮影し、該撮影によって得られた垂直偏光画像と水平偏光画像との視差による位置ズレを補正し、該位置ズレを補正した垂直偏光画像と水平偏光画像との偏光比を求め、該偏光比から湿潤や乾燥などの路面状態を判別するようにしたことを特徴とする路面状態判別方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面の乾燥と湿潤の状態を検出する路面状態判別方法およびその装置に関し、特に、水平偏光成分のエネルギー反射率が零となる入射角(以下、ブリュースター角という)近傍に、撮影手段を配置した場合の垂直偏光画像と水平偏光画像の偏光比から路面状態を判別する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
路面を撮影した垂直偏光画像と水平偏光画像の偏光比から路面状態を判別する方法としては、例えば、特開平10−332576号公報に開示されている発明がある。この発明は、1台のカメラの前面に偏光フィルタを回転自在に取付け、路面を撮影する時に前記偏光フィルタを回転しながら垂直偏光画像と水平偏光画像を取り込み、この2つの画像の偏光比を算出して路面の湿潤状態を判別するものであった。
【特許文献1】特開平10−332576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記した公報の発明にあっては、路面を撮影するに当たって偏光フィルタを回転させなければならないので、カメラを固定した場所に設置するのではなく移動する車両、例えば、道路管理者が所有する車両などに積載して走行しながら路面状態を判別しようとした場合には、偏光フィルタを回転させる時間のズレによって垂直偏光画像と水平偏光画像が全く異なったシーンを撮影することとなり、走行しながら路面状態を判別することができないといった問題があった。
【0004】
また、偏光フィルタを回転させる駆動部を備えているため、定期的なメンテナンスを必要とする他、装置そのものが大きくなるといった問題があった。
【0005】
本発明は前記した問題点を解決せんとするもので、その目的とするところは、垂直方向の偏光を透過する位置に偏光フィルタを配置し垂直偏光画像を撮影するカメラと、水平方向の偏光を透過する位置に偏光フィルタを配置し水平偏光画像を撮影するカメラとを備えることにより同一シーンを同時に撮影可能とし、かつ、視差による画像の位置ズレを無くすことにより走行する車両に設置しても路面状態を判別することが可能な路面状態判別方法およびその装置を提供せんとするにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の路面状態判別方法は前記した目的を達成せんとするもので、請求項1の手段は、1つのカメラで垂直偏光画像を、他のカメラで水平偏光画像を撮影し、該撮影によって得られた垂直偏光画像と水平偏光画像との視差による位置ズレを補正し、該位置ズレを補正した垂直偏光画像と水平偏光画像との偏光比を求め、該偏光比から湿潤や乾燥などの路面状態を判別するようにしたことを特徴とする。
【0007】
請求項2の手段は、前記した請求項1において、前記2つのカメラは、ボード上に近接して配置されたCCD等の撮像素子を利用したカメラであって、かつ、1つのカメラの前面に垂直方向の偏光を透過する偏光フィルタが配置され、他の撮像素子カメラの前面に水平方向の偏光を透過する偏光フィルタが配置されたものであることを特徴とする。
【0008】
請求項3の手段は、前記した請求項1において、前記した何れかのカメラのアイリスレベル、好ましくは垂直偏光画像を撮影するカメラのアイリスレベルを用いて両カメラの絞りを制御することを特徴とする。
【0009】
次に、本発明の路面状態判別装置における請求項4の手段は、撮影対象とする路面に向けて水のブリュースタ角またはその付近となるように近接して俯瞰設置された第1および第2のカメラと、第1のカメラおよび第2のカメラの前にカメラに対して垂直偏光と水平偏光を透過する位置にそれぞれ取付けられた偏光フィルタと、前記第1または第2のカメラの何れかのアイリスレベル、好ましくは第1のカメラのアイリスレベルにより両カメラのレンズの絞りを制御するアイリス制御機構と、前記第1、第2のカメラで撮影された画像をデジタル変換するAD変換器と、該AD変換器よりの画像を記憶する垂直偏光画像メモリおよび水平偏光画像メモリと、前記得られた垂直偏光画像と水平偏光画像とのズレを補正して位置ズレのない画像を得る位置補正手段と、該位置補正手段よりの垂直偏光画像と水平偏光画像の偏光比を求める偏光比算出手段と、前記偏光比から湿潤や乾燥などの路面状態を判別する路面状態算出部とから構成したものである。
【0010】
請求項5の手段は、前記した請求項4において、該AD変換器によってデジタル変換された画像データの背景中から雨滴や雪片などの浮遊物質を除去する背景更新差分処理手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項6の手段は、前記した請求項4において、前記2つのカメラは、ボード上に近接して配置されたCCD等の撮像素子を利用したカメラであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は前記したように、1つのカメラで垂直偏光画像を、他のカメラで水平偏光画像を撮影し、該撮影によって得られた2つの垂直偏光画像と水平偏光画像との視差による位置ズレを補正したので、従来のような偏光フィルタを回転させるための駆動機構が不要となり、メンテナンス性の向上を図ることができる。
また、時間的なズレがない同一シーンで同一の監視エリアの画像どうしによる偏光比から路面状態を判別することができるので、移動車両からの撮影が可能になることは言うに及ばず、監視エリアにおける濡れの分布や水分量を正確に判別できるためスリップ注意に対する初期情報を入手する上で非常に有効である。
【0013】
さらに、2つのカメラをボード上に近接して配置したCCD等の撮像素子を利用したカメラとすることで、装置としての小型化が図れると共に、視差をより小さくすることができることで検出精度をより一層向上させることができる。
【0014】
さらにまた、背景中から雨滴や雪片などの浮遊物質を除去する背景更新差分処理を行うことにより、一層安定した検出を行うことができる効果を有する。
【0015】
また、1つのカメラによるアイリスレベルによって2つのカメラのレンズの絞りを制御したことにより、個々のカメラの持つアイリス制御の割合の違いに影響を受けることなく、昼夜の外光変化等に対応して垂直偏光と水平偏光の差が一定となり、路面状態の判別をより正確に行うことができる等の効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、1つのカメラで垂直偏光画像を、他のカメラで水平偏光画像を撮影し、該撮影によって得られた垂直偏光画像と水平偏光画像との視差による位置ズレを補正し、該位置ズレを補正した垂直偏光画像と水平偏光画像との偏光比を求め、該偏光比から路面状態を判別するようにした。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明に係る路面状態判別方法を用いた路面状態判別装置の一実施例を図面と共に説明する。
図1において、1,2は近接して配置されたボード(基板)1a,2aにCCD等の撮像素子1b,2bを取付けた第1、第2のカメラにして、各撮像素子1b,2bには図示していないがレンズが取付けられている。そして、第1のカメラ1の前記レンズの前面には垂直偏光を透過する位置に配置した偏光フィルタ1cが、第2のカメラ2の前記レンズの前面には水平偏光を透過する位置に配置した偏光フィルタ2cが取付けられている。
【0018】
なお、前記した説明ではボードとして2枚のボードを用いた例について説明したが、1枚のボードに近接して撮像素子1b,2bを取付けることで、撮像素子1b,2bをより近接して配置することが可能となり、より視差を小さくすることができる。
【0019】
3は前記第1のカメラ1の偏光フィルタ1cより撮像素子1bに入光する光を適正なアイリスレベルによって制御すると共に、同じアイリスレベルで撮像素子2bに入光する光を制御するアイリス制御機構である。
【0020】
なお、上記では、路面状態の変化(乾燥⇔湿潤)に対して輝度変化の少ない垂直偏光画像を撮影するカメラ1側のアイリス制御機構3によりカメラ2のレンズの絞も制御する場合を例示したが、アイリス制御機構3は水平偏光画像を捉える第2のカメラ2側に装備し、カメラ2側のアイリス制御機構のアイリスレベルでカメラ1のレンズの絞りを制御するようにしてもよい。
【0021】
4は第1、第2のカメラよりの垂直偏光画像と水平偏光画像をデジタル画像に変換するAD変換器、5は該AD変換器4よりのデジタル化された垂直偏光画像と水平偏光画像のそれぞれに所定時間空けて撮影した前後2枚の画像を差分処理し、その差分処理の結果、雨滴や雪片などの浮遊物質が存在する場合には、該浮遊物質を除去した画像を更新画像とする。
なお、上記の浮遊物質を除去する方法に関しては、本願出願人が提案した前記特許公報に記述された手法を採用するため詳細な説明は省略する。
【0022】
6,7は前記更新した垂直偏光画像および水平偏光画像を記憶する垂直偏光画像メモリと水平偏光画像メモリ、8は2つのカメラ1,2で撮影した垂直偏光画像と水平偏光画像の視差による位置ズレを補正するための位置補正手段にして、特定の対象物(センターラインなど)に対して公知の相互相関処理などによって位置ズレを検出し、その位置ズレ分を一方の画像をシフトすることで視差を無くすものである。
【0023】
9は前記位置補正された垂直偏光画像Dvと水平偏光画像Dhの対応する位置の画素毎の偏光比Dr
Dr=Dv/Dh
を算出して偏光比画像を求める偏光比算出手段、10は偏光比算出手段9から送られてくる偏光比Drの輝度平均値などを求め、その値の大小から路面の湿潤状態を判別し、その判別の結果を出力する路面状態算出手段にして、路面が乾燥している場合には、垂直偏光画像Dvと水平偏光画像Dhは略等しくなるため、偏光比Drは1前後の値となる。
【0024】
また、路面が完全に濡れている場合には、垂直偏光画像Dvは水平偏光画像Dhよりもかなり大きくなるため偏光比Drは大きな値となり、また、路面が僅かだけ濡れているような場合には、偏光比Drはこれらの中間値となる。従って、偏光比Dr=Dv/Dhの値から路面の湿潤状態を算出することができることとなる。
【0025】
なお、図1において、Aは路面にして、θは路面に対するブリュースタ角である。
【0026】
次に、前記したブロック図に基づいて動作を説明する。
先ず、走行路の路肩に柱を設置し、該柱に第1および第2のカメラ1,2を路面に対してブリュースタ角付近となるように取付ける。
なお、第1および第2のカメラ1,2は道路管理者等が所有する車両に搭載してもよい。
【0027】
そして、路面状態を検出するにあたって、カメラ1,2が予め設定された周期によって自動起動されると、第1のカメラ1より垂直偏光画像が、第2のカメラ2より水平偏光画像が撮影されるが、第1のカメラ1によって撮影された垂直偏光画像と第2のカメラ2によって撮影された水平偏光画像とはアイリス制御機構3のアイリスレベルによって自動的に露出の最適化が行われる。従って、2つの偏光画像は、常に同じアイリス制御による撮影が実行される。
【0028】
第1、第2のカメラ1,2で得られた垂直偏光画像と水平偏光画像はAD変換器4によってデジタル化され、このデジタル化された垂直偏光画像と水平偏光画像から背景更新差分処理手段5によって雨滴や雪片等の浮遊物質が除去される。そして、浮遊物質が除去され明瞭な路面の画像となった垂直偏光画像は垂直偏光画像メモリ6に、水平偏光画像は水平偏光画像メモリ7に記憶される。
【0029】
ここで、前記垂直偏光画像メモリ6および水平偏光画像メモリ7から垂直偏光画像と水平偏光画像とを読み出してみると図2a,bの画像となっている。撮影した垂直偏光画像と水平偏光画像との間には図2bに矢印で示すように上下方向にズレが生じている。このズレは、第1のカメラ1と第2のカメラ2との視差によって生じた結果であるが、このようなズレが生じたまま偏光比算出手段9によって偏光比画像(図2c)を求めると、実際とは異なった検査エリアの画像どうしを比較することになる。そのため、特にカメラに対する入射光の角度差(視差に相当)が大きい奥の車線において、路面が濡れている状態(白く写っている部分)を乾燥している状態(黒く写っている部分)として誤判別するといった問題が発生している。
【0030】
そこで、位置補正手段8で相互相関等の手法を用いて前記矢印で示したセンターラインにおけるズレ量を算出し、この量だけ水平偏光画像を図3(b)に示すように上方に移動する補正を行い垂直偏光画像と水平偏光画像との間の視差による位置ズレを無くす。そして、位置ズレのない垂直偏光画像と水平偏光画像に対して偏光比算出手段9によって偏光比画像を得る(図3c参照)。この偏光比画像には路面の濡れの部分や水分量が明確に表れており、この画像に着色し路面の濡れ分布を表す画像としてドライバーなどに提供してもよい。
【0031】
次いで、路面状態算出手段10によって前記偏光比算出手段9から送られてくる偏光比の輝度平均値などを求め、その値の大小から路面の湿潤状態を判別し、その判別の結果を出力することで、撮影した位置における路面状態が湿潤状態か乾燥状態か、かつ、監視エリアの面積に対する濡れている部分(白く写っている部分)の面積の大小によって水分量がどのくらいかを知ることができるものである。
【0032】
なお、上記の実施形態では、路面の濡れに関する湿潤状態と乾燥状態を判別する方法について説明したが、視差を無くすことで路面上の水の存在が正確に検出できることにより、撮影した垂直偏光画像と水平偏光画像をフーリエ変換したパワースペクトル画像中の周波数分布から凍結状態を判別する本願出願人が提案した特開平8−327530号の判別方法を付加することで、凍結状態を正確に判別することが可能となる。
【0033】
また、上記で求めた路面の水分量と水分分布に加え何れかの偏光画像から求めた路面の模様(テクスチャ)の粒状性と方向性や温度条件などの特徴量から多変量分析によって路面上の雪を判別する同じく本願出願人の提案した特開平10−115684号を採用すれば、上記に加え圧雪やシャーベットなどの積雪状態までを判別する路面状態判別方法の一特徴量として、本願発明の路面状態の判別結果を利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の路面状態判別装置を示すブロック図である。
【図2】(a)は垂直偏光画像、(b)は水平偏光画像、(c)は位置補正を行わなかった場合の偏光比画像である。
【図3】(a)は図2の(a)と同じ垂直偏光画像、(b)は補正を行った水平偏光画像、(c)は補正後による偏光比画像である。
【符号の説明】
【0035】
1 第1のカメラ
1a ボード
1b 撮像素子
1c 垂直方向の偏光を透過する位置に配置した偏光フィルタ
2 第2のカメラ
2a ボード
2b 撮像素子
2c 水平方向の偏光を透過する位置に配置した偏光フィルタ
3 アイリス制御機構
4 AD変換器
5 背景更新差分処理手段
6 垂直偏光画像メモリ
7 水平偏光画像メモリ
8 位置補正手段
9 偏光比算出手段
10 路面状態算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのカメラで垂直偏光画像を、他のカメラで水平偏光画像を撮影し、該撮影によって得られた垂直偏光画像と水平偏光画像との視差による位置ズレを補正し、該位置ズレを補正した垂直偏光画像と水平偏光画像との偏光比から湿潤や乾燥などの路面状態を判別するようにしたことを特徴とする路面状態判別方法。
【請求項2】
前記2つのカメラは、ボード上に近接して配置されたCCD等の撮像素子を利用したカメラであって、かつ、1つのカメラの前面に垂直方向の偏光を透過する偏光フィルタが配置され、他の撮像素子カメラの前面に水平方向の偏光を透過する偏光フィルタが配置されたものであることを特徴とする請求項1記載の路面状態判別方法。
【請求項3】
前記した何れかのカメラのアイリスレベル、好ましくは垂直偏光画像を撮影するカメラのアイリスレベルを用いて両カメラの絞りを制御することを特徴とする請求項1記載の路面状態判別方法。
【請求項4】
撮影対象とする路面に向けて水のブリュースタ角またはその付近となるように近接して俯瞰設置された第1および第2のカメラと、
前記第1のカメラおよび第2のカメラの前にカメラに対して垂直偏光と水平偏光を透過する位置にそれぞれ取付けられた偏光フィルタと、
前記第1または第2のカメラの何れかのアイリスレベル、好ましくは第1のカメラのアイリスレベルにより両カメラのレンズの絞りを制御するアイリス制御機構と、
前記第1、第2のカメラで撮影された画像をデジタル変換するAD変換器と、該AD変換器よりの画像を記憶する垂直偏光画像メモリおよび水平偏光画像メモリと、
前記得られた垂直偏光画像と水平偏光画像とのズレを補正して位置ズレのない画像を得る位置補正手段と、
該位置補正手段よりの垂直偏光画像と水平偏光画像の偏光比を求める偏光比算出手段と、
前記偏光比から湿潤や乾燥などの路面状態を判別する路面状態算出部と、
から構成したことを特徴とする路面状態判別装置。
【請求項5】
該AD変換器によってデジタル変換された画像データの背景中から雨滴や雪片などの浮遊物質を除去する背景更新差分処理手段を備えたことを特徴とする請求項4記載の路面状態判別装置。
【請求項6】
前記2つのカメラは、ボード上に近接して配置されたCCD等の撮像素子を利用したカメラであることを特徴とする請求項4記載の路面状態判別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−58122(P2006−58122A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239775(P2004−239775)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000243881)名古屋電機工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】