説明

路面状態計測方法及び路面状態計測装置

【課題】路面の状態をリアルタイムで高精度に計測でき、小型でエネルギー効率の良い路面状態計測方法及び装置を提供する。
【解決手段】水および氷のいずれに対しても吸収され難い波長と、氷に対しては吸収され難く水に対しては吸収され易い波長と、水および氷のいずれに対しても同程度に吸収される波長の少なくとも3つの波長の近赤外光を光源2から対象物に照射し、この照射された各波長の近赤外光が対象物で反射された反射光を検出し、この検出された反射光量を演算処理することにより路面状態を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車の安全性、操舵性能に大きな影響を与える路面上の湿潤、凍結等の情報をセンシングすることによりドライバーや各制御装置等に路面情報を提供することを目的とする路面状態計測方法及び路面状態計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両運転者にとって、道路の路面状態を把握することは非常に重要である。特に高速走行時においては、路面状態が車の安全運行および操舵性に大きな影響を及ぼすため、車両運転者は、走行中常に注意を払っている。この路面状態の中でも、路面の湿潤、凍結等は車の操舵性を大きく奪うことから、その情報は運転者にとって非常に重要である。
【0003】
一方、道路管理者にとっても、路面状態を把握することは管理業務の主業務に挙げられており、路面の湿潤、凍結等の情報は、道路の安全確保のために適切な作業を行なうための判断材料として利用している。また、通行中のドライバーに注意を促すために、路面情報の提供も行なっている。
【0004】
このような路面状態を把握するために用いられる装置としては、次のようなものが従来から提供されている。
【0005】
まず、高速道路や一般道路向けの定置式のものとして、路面に埋設された温度計と各種気象情報や予測により路面の湿潤、凍結を予測するもの、赤外線を用いた反射光量の変化を用いたもの、定置カメラからの目視によるもの、道路設置型で近赤外の半導体レーザを使用したもの等、各種色々なものがある。
【0006】
また、車載向けのものとして、外気温度により判断するもの、赤外光を用いるもの、電波を用いるもの等が提案されており、その中で赤外光を用いるものとして、空間周波数分析を用いたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
この空間周波数分析を用いる方式では、照射光の正反射と拡散反射による光量比を元に演算処理することにより、路面上の物質を判別しているため、アスファルト以外の路面や白線上はその原理上、測定が困難である。また、近年、従来の路面上に使われていたアスファルトとは異なり、舗装体中の間隙率(空隙率)が多いことを特徴にした排水性舗装や高機能舗装と呼ばれる舗装技術が普及してきている。このような舗装技術による透水性アスファルトの測定では、従来のアスファルトより粒形の大きな骨材を使用しているので、空間周波数タイプの測定方式では、斑が大きいために測定が困難である。
【0008】
一方、上記近赤外波長域での水の吸収特性を利用して水分量の測定を行なう方式を用いるものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
この測定系では、光源に参照光と測定光に使用する波長を含むブロードなスペクトルを持つランプを使用し、フィルタで水に大きく吸収される波長(水の吸収波長)の近赤外線と水に吸収され難い波長(参照波長)の近赤外線との少なくとも2つの波長の近赤外光に分ける。そして、それぞれの光の反射光量の比を計算することにより、路面の水分量を計測するという方式が採用されている。この方式では、対象物の表面形状による影響を受け難く、同時に対象物に照射された光を利用するので時間的なずれがない。しかし、この方式では、路面の水分が水であるか、あるいは氷であるかの判定は、路面温度を測定することにより判断している。
【0010】
また、近赤外の半導体レーザを使用して、水にも氷にも吸収され難い波長0.905μm、水に吸収され易く(水の吸収ピーク)、氷に吸収され難い波長1.42μm、水に吸収され難く、氷に吸収され易い(氷の吸収ピーク)波長1.55μmの3波長を使用して、乾燥、積雪、湿潤、凍結の状態を区別する方式の測定方法も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0011】
しかし、この方式では、水と氷の区別は、水に吸収され易く(水の吸収ピーク)、氷に吸収され難い波長1.42μmと水に吸収され難く、氷に吸収され易い(氷の吸収ピーク)波長1.55μmの反射光量の大小関係のみで判定を行なっており、水と氷の吸収のピーク波長では他方の材質においても吸収され易いので、反射光量差を測定するのは困難である。さらに、水と氷の混じったシャーベット状の路面に対しては何ら考慮されていない。
【0012】
その他に、レーザ光の偏光特性を利用して路面状態の測定を行なう方式のものも提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0013】
一般に半導体レーザの特性として、10℃程度の温度変化によってレーザの発振波長は数nm変化をし、光出力は10mW近く変動する。したがって、近赤外波長の半導体レーザを使用した方式では、温度制御を行なうか、光出力を一定に保つ回路が必要となる。
【0014】
さらに、図8に示すように、ランプ光源91を用いて路面xに光を照射し、その反射光をフィルタによって3波長に分けて、各波長の比によって、路面状態を判別するものも提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0015】
しかし、この文献に記載されているのは、反射光を3波長に分ける方式であり、反射光のうちの、どの波長の光を検出することで路面状態を判別できるのかは明らかにされていない。
【特許文献1】国際公開第WO95/01549号パンフレット
【特許文献2】特開平6−229917号公報
【特許文献3】特開平9−318766号公報
【特許文献4】特開平10−206314号公報
【非特許文献1】プラカッシュ ジョシ フィジカルサイエンス株式会社(Prakash Joshi,Physical Sciences,Inc.)「モビール ロード コンディション センサー アズ ウィンター メンテナンス エイド」(「A Mobile Road Condition Sensor as Winter Maintenance Aid」)2002年5月 (May 2002)p3,p9−10,p34
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記した従来技術では、2つまたは3つの波長の光の反射光量を比較して路面状態を判別しようとしているが、具体的な波長については言及していない。
【0017】
また、使用波長が述べられている特許文献3に記載された技術においても、水と氷のそれぞれの吸収がピークになる波長を使用している。一般に、氷の吸収波長のピーク位置は変動しないが、水の吸収波長のピーク位置は温度によって変動するため、このように水と氷のそれぞれの吸収がピークになる波長を使用した場合、正確な測定ができなくなってしまう。特に半導体レーザのように非常に狭いスペクトルを使用した場合には、吸収の変動が大きくなる。さらに、近赤外波長の半導体レーザを用いたものについては、温度によるモードホッピングにより発振波長が大きく変わり、光出力が変動する。そのため、半導体レーザを用いる場合は発振波長がずれないようにするために半導体レーザ自身の温度を外部温度と関係なく一定に保ち、光出力を一定に保持する回路を増設する必要がある。
【0018】
また、図3に示されている水と氷の透過率のグラフからも分かるように、それぞれの透過率がボトムとなる位置での一方の材質と他方の材質との透過率の差は小さいので、それぞれの光量比で判別するには精度が良くない。
【0019】
さらに、従来技術では、光源に近赤外領域の波長を含むキセノンランプ等を用いて路面の状態を判断しようとする試みも提案されているが、このようにランプを用いる光源のスペクトルはブロードであり、所望としている波長成分以外の成分の光を多く含んでいる。したがって、測定に用いられる波長の光量は、その照射光量全体からすれば小さいものである。実際の路面上での使用を考えた場合、外乱光等の影響を取り除くためにも、必然的にランプの照射光量を大きくする必要がある。そのため、装置が大型化したり、エネルギー効率が悪くなるといった問題が生じる。また、このような装置では、プリズムやフィルタなどの光学部品や受光側の素子も波長毎の素子が必要となり、部品点数も多くなり、システム的にも大きく高価なものになってしまう。
【0020】
以上のように光源にランプを使用した従来技術では、装置の大型化やコストアップになってしまう。さらに近赤外光を従来技術のように使用すると、複雑な路面状態に対して比較する波長の反射光量差が小さいので、温度による吸収波長の変動などに対して精度が悪くなり、的確な判別ができない可能性が高い。
【0021】
近赤外光を使用した空間周波数方式の場合でも、透過性のアスファルト道路では空隙が大きいために判別の精度が悪くなる。
【0022】
本発明は、このような事情に鑑み創作されたものであって、路面の状態をリアルタイムで高精度に計測でき、小型でエネルギー効率の良い路面状態計測方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため、本発明は、水および氷のいずれに対しても吸収され難い波長と、氷に対しては吸収され難く水に対しては吸収され易い波長と、水および氷のいずれに対しても同程度に吸収される波長の少なくとも3つの波長の近赤外光を光源から対象物に照射する照射工程と、この照射された各波長の近赤外光が対象物で反射された反射光を検出する検出工程と、この検出された反射光量を演算処理することにより路面状態を判別する演算処理工程と、を有することを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、水および氷のいずれに対しても吸収され難い波長と、氷に対しては吸収され難く水に対しては吸収され易い波長と、水および氷のいずれに対しても同程度に吸収される波長の少なくとも3つの波長の近赤外光を対象物に照射する光源と、この照射された各波長の近赤外光が対象物で反射された反射光を検出する検出手段と、この検出された反射光量を演算処理することにより路面状態を判別する演算処理手段と、を備えることを特徴とする。
【0025】
次に、本発明を詳細に説明する。
【0026】
まず、本発明の基礎となっている水と氷との光の吸収について詳細を述べる。
【0027】
物質に光が照射されると、物質を構成する原子のエネルギー状態は基底状態から励起状態へと遷移し、この時にエネルギーの吸収が行なわれる。この吸収されたエネルギーは、光の照射を止めると元の基底状態に戻ろうとし、吸収された光に応じた光が放出される。この吸収や放出される光の振動数は原子や分子の種類、構造に関して非常に選択的であり、このため光の吸収スペクトルや放出スペクトルを物質の同定や定量に利用できることは広く知られている。
【0028】
本発明で用いる水と氷の場合、図3に示すように水が0.98μm,1.20μm,1.45μmおよび1.93μmの波長において吸収スペクトルのピークあるいは透過率のボトムを有する。同様に氷では、1.03μm,1.25μm,1.50μm及び1.99μmの波長において吸収スペクトルのピークあるいは透過率のボトムを有する。このように波長によって吸収や透過率が異なる水や氷を測定することにより、対象物である水、氷を判別することができる。
【0029】
この場合の吸光度と透過率との関係は、Lambert−Beerの法則より以下の式(1)によって導くことができる。
【0030】
A=log(I0(λ)/It(λ))・・・(1)
A:吸光度、I0(λ):入射光量、It(λ):物質を透過後の光量
また、実際には水や氷の吸収波長の他に、水分や氷の影響を受けない他の波長の光を参照波長光として照射し、その参照波長による光量により物質の表面状態、粒度等の影響を含んだ入射光量I0とみなす。その水分の影響を受けない他の波長の光を参照波長光として照射し、それぞれの反射光量を測定する。この測定値を下記の式(2)に入れることによって水分量を求めることができる。
【0031】
W=a0+a1・In(R/s)・・・(2)
s:吸収波長光の反射光量
a0:定数
R:参照波長光の反射光量
a1:比例定数
W:水分量(%)
次に路面状態の判別法について説明する。
【0032】
路面の乾燥(Dry)、湿潤(Wet,Water)、凍結(Ice)、積雪(Snow)、雪解け(slush)の判定基準は、測定結果が図6に示すマトリクスのどの位置になるかにより判定される。
【0033】
図6では、横軸にI(λ2)/(I(λ1)−I(λ3))で規格化された水の吸収度を表し、縦軸はI(λ1)/I(λ3)で路面からの反射光量の大きさで雪質かどうか等を判定している。
【0034】
本発明によれば、水および氷のいずれに対しても吸収され難い波長と、氷に対しては吸収され難く水に対しては吸収され易い波長と、水および氷のいずれに対しても同程度に吸収される波長の少なくとも3つの波長の近赤外光が対象物で反射された反射光を検出し、上記説明したように演算処理することによって、路面状態を判別することができる。
【0035】
したがって、水と氷のそれぞれの吸収がピークになる波長を使用していないので、温度によって変動する水の吸収波長のピーク位置に影響されることがなく、正確な測定を行うことができる。また、水と氷のそれぞれの吸収がボトムとなる波長を用いていないので、一方の材質と他方の材質との透過率の差を確保することができるので、精度の良い計測をすることができる。
【0036】
本発明において、前記近赤外光が、少なくとも3つの異なる単一波長の光をそれぞれ個別に出力する光源から照射されるように構成してもよい。
【0037】
本発明において、少なくとも3つの異なる単一波長の光を出力する光源の全てを1つのパッケージ内に配置し、それら光源からの光を光学部品によりコリメートあるいは集光するように構成してもよい。この場合、1つのパッケージ内に全ての光源を配置するので、小型の装置で計測することが可能になる。
【0038】
本発明において、前記光源に、発光ダイオードを用いてもよい。この場合、半導体レーザを用いる場合と異なり、光出力を一定にするために回路を増設する必要がない。したがって、装置を小型にすることができる。また、ブロードなスペクトルを有するランプ光源を用いる場合と異なり、光源の照射光量を大きくする必要がなく、装置の小型化を図るとともに、エネルギー効率を良くすることができる。
【0039】
本発明において、前記反射光の検出には、1つの受光面を有する受光素子を用いてもよい。この場合、小型の装置で計測することが可能で、コストを低減することができる。
【0040】
本発明において、前記受光素子の受光面の路面に対する光学的距離を保持するための補正手段を有してもよい。補正手段としては、例えば、コリメートあるいは集光に使用している対物レンズを光軸方向に移動させて、常にコリメート光あるいは路面に焦点させるようにする。
【0041】
本発明において、前記少なくとも3つの波長の近赤外光を対象物に照射するタイミングを、前記各光源をトリガパルスによるシーケンシャル制御することによって設定してもよい。この場合、単一の駆動回路で各光源の照射を行うことができ、部品点数を削減することができる。また、精度を高めるために光源を増やした場合であっても、駆動回路を増やす必要がない。さらに、パルス駆動することにより、エネルギー効率を良くすることができる。
【0042】
本発明において、前記各光源のシーケンシャル制御により対象物に照射される合計の時間あるいは測定時間を、50μs〜10msであるようにしてもよい。
【0043】
本発明において、前記少なくとも3つの波長の近赤外光を対象物に照射するタイミングを、前記水および氷のいずれに対しても吸収され難い波長の光が点灯している時間内に、前記氷に対しては吸収され難く水に対しては吸収され易い波長の光と、前記水および氷のいずれに対しても同程度に吸収される波長の光とが、交互に点灯時と不点灯時になるように設定し、これら各波長の光のそれぞれの点灯時と不点灯時に光量の測定を行なうようにしてもよい。この場合、短い時間で測定することができる。
【0044】
本発明により検知された情報を、各種の車両制御装置へフィードバックするようにしてもよい。この場合、車両を安全に制御することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、路面の状態をリアルタイムで高精度に計測でき、小型でエネルギー効率の良い路面状態計測方法及び装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0047】
この実施例に係る路面状態検出装置1は、水および氷のいずれに対しても吸収され難い波長λ1と、氷に対しては吸収され難く水に対しては吸収され易い波長λ2と、水および氷のいずれに対しても同程度に吸収される波長λ3の3つの波長の近赤外光を対象物に照射する光源2と、この照射された各波長の近赤外光が対象物で反射された反射光を検出する受光素子3と、この検出された反射光量を演算処理することにより路面状態を判別する演算装置4と、を備えている(図1参照)。
【0048】
光源2は、3波長(波長λ1,λ2,λ3)の近赤外発光ダイオード21,22,23で構成されおり、それら近赤外発光ダイオード21,22,23が一つのパッケージ24の中に搭載されている(図2参照)。
【0049】
この3波長(波長λ1,λ2,λ3)は、氷の透過率が温度に対して変動が無いことを利用して、図3に示されるように氷での透過率が小さくなる直前の波長λ2(図3では、1.40〜1.42μm)、水と氷の透過率がほぼ同じになる波長λ3(図3では、1.47μm付近)と水にも氷にも透過率の良い波長λ1(図3では、1.14μm以下)の波長としている。
【0050】
これらの近赤外発光ダイオード21,22,23は、図4に示すようにシーケンシャルに発光され、ビームスプリッタ5、レンズ6を介して近赤外光が路面xに照射される。
【0051】
そして、この照射された各波長の近赤外光が路面xで反射された反射光は、受光素子3により検出され、検出された反射光量は演算装置4により演算処理されて路面状態が判別される。
【0052】
受光素子3としては、InGaAs PINフォトダイオードが使用されており、受光素子3の出力は、電圧信号として演算装置4に入力される。
【0053】
すなわち、路面xからの反射光は受光素子4に入射し、光電変換されて後段の演算装置4の中にある増幅器(図示せず)により増幅された後、A/D変換機(図示せず)によりデジタル化され、演算処理結果より路面状態が判別されて、表示装置7に表示される。
【0054】
この実施例では、近赤外発光ダイオード21,22,23は、少なくとも3種類必要であるが、受光素子3は1つで済むため、装置の小型化、低コストに貢献する。また、上記のようなシーケンシャル処理により、発光ダイオード用の駆動回路が1つで済むため、部品点数の削減にも貢献できる。さらに、精度を高めるために光源2を増やした場合でも、近赤外発光ダイオードを増加するだけで済み、受光素子3、駆動回路を増やす必要は無い。
【0055】
しかし、上記のようなシーケンシャル処理による発光タイミングでは、高速移動時には参照光と水または氷の測定光の測る対象物が異なってくることも考えられる。実際に車載で時速60km移動すると、1msで約17mmの移動量となる。そのため、上記の別の実施例として参照光用の発光ダイオード21は常時点灯させ、他の測定対象用の発光ダイオード22,23のみをシーケンシャルに点灯、非点灯を行ない、測定時間を短くすることもできる(図5参照)。
【0056】
この方式では、参照光(λ1)が常時路面xに照射されて、その反射光量が受光素子3で検出され、受光素子3の出力信号は、演算装置4によって監視されている。演算装置4は、演算装置4は、受光素子3の出力信号を前後参照光レベルの平均値と比較することにより、その波長による吸光度を算定し、路面xの湿潤、凍結を判別する。このようなシーケンシャル処理を行なう場合、受光素子3が飽和しないように設計する必要がある。
【0057】
次に、演算装置4における演算処理について、具体的に説明する。
【0058】
それぞれの波長の路面xからの反射光量を検出し、その測定値をI(λ1)、I(λ2)、I(λ3)とすると、図6に示されるようにそれぞれの演算結果から設定された判定基準に照らし合わせて路面状態を判別する。
【0059】
その判別法を説明すると、上述したように、路面の乾燥(Dry)、湿潤(Wet,Water)、凍結(Ice)、積雪(Snow)、雪解け(slush)の判定基準を、測定結果が図6に示すマトリクスのどの位置になるかにより判定する。
【0060】
図6では、横軸にI(λ2)/(I(λ1)−I(λ3))で規格化した水の吸収度を表し、縦軸はI(λ1)/I(λ3)で路面からの反射光量の大きさで雪質かどうか等を判定している。
【0061】
本実施例では、水や氷に左右されない2つの波長で、反射光量の最大と最少を求め、水と氷とで吸収が異なることより反射光量が異なる波長で水、氷の区別をしているところに特徴がある。
【0062】
なお、図6に示すものは判定例の1つであって、路面状態の判別する目的に応じて判別方法を変えることもできる。すなわち、目的によっては、別のI(λ1)、I(λ2)、I(λ3)の組み合せで、判定することも可能である。
【0063】
本発明に係る路面状態計測装置1の利用例として、路面状態の判別結果を各種の車両制御装置へ情報を提供することもできる。
【0064】
また、車両に登載する場合、図7に示すように、受発光装置を進行方向のバンパー付近に設置してもよいが、より好適には、複数の装置をタイヤの前方付近に設置することによって、本当にタイヤが通過する路面の状態を知ることが可能となる。特に山陰のカーブや凍結しやすい場所が左右、前後のタイヤ情報により判明するので、運転者により有効な警告を発したり、制御系へフィードバックすることにより安全に車を制御することができるようになる。
【0065】
さらに、オートクルーズ機能や自動車両走行時の路面状態を自動で判断することにより、走行速度制御のパラメータとしてブレーキシステムや急ハンドル操作の抑制を中心とした各種駆動系への制御やスリップ注意の警告灯表示の安全装置へフィードバックするようにしてもよい。
【0066】
さらにまた、別の利用例としては、本発明の装置を取り付けた車両からの路面情報をネットワークに提供することによって、ネットワークで繋がれた別の車両が路面情報を受け取り、カーナビゲーションなどの情報システムに有効に活かす事も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、ドライバーや各制御装置等に路面情報を提供する路面状態計測方法および装置に有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の路面状態計測装置の一例を示す概略図である。
【図2】図1に示す路面状態計測装置の発光装置の構成を示す概略図である。
【図3】水と氷の透過率特性を示す図である。
【図4】本発明の実施形態における各発光ダイオードの発光とデータ読み取りタイミングを示す図である。
【図5】本発明の実施形態における各発光ダイオードの発光とデータ読み取りタイミングの他の例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態における路面状態の判別のためのマトリクスを示す図である。
【図7】本発明の路面状態計測装置を車両に搭載した例を示す図である。
【図8】従来の路面状態計測装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0069】
1 路面状態計測装置
2 光源
21,22,23 近赤外発光ダイオード
3 受光素子(検出手段)
4 演算装置(演算処理手段)
5 ビームスプリッタ
6 コリメートレンズ
x 路面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水および氷のいずれに対しても吸収され難い波長と、氷に対しては吸収され難く水に対しては吸収され易い波長と、水および氷のいずれに対しても同程度に吸収される波長の少なくとも3つの波長の近赤外光を光源から対象物に照射する照射工程と、
この照射された各波長の近赤外光が対象物で反射された反射光を検出する検出工程と、
この検出された反射光量を演算処理することにより路面状態を判別する演算処理工程と、を有することを特徴とする路面状態計測方法。
【請求項2】
水および氷のいずれに対しても吸収され難い波長と、氷に対しては吸収され難く水に対しては吸収され易い波長と、水および氷のいずれに対しても同程度に吸収される波長の少なくとも3つの波長の近赤外光を対象物に照射する光源と、
この照射された各波長の近赤外光が対象物で反射された反射光を検出する検出手段と、
この検出された反射光量を演算処理することにより路面状態を判別する演算処理手段と、を備えることを特徴とする路面状態計測装置。
【請求項3】
前記近赤外光は、少なくとも3つの異なる単一波長の光をそれぞれ個別に出力する光源から照射されていることを特徴とする請求項1または2記載の路面状態計測方法または路面状態計測装置。
【請求項4】
前記少なくとも3つの異なる単一波長の光を出力する光源の全てが1つのパッケージ内に配置され、それら光源からの光が光学部品によりコリメートあるいは集光されることを特徴とする請求項3記載の路面状態計測方法または路面状態計測装置。
【請求項5】
前記光源は、発光ダイオードを用いることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか記載の路面状態計測方法または路面状態計測装置。
【請求項6】
前記反射光の検出には、1つの受光面を有する受光素子が用いられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか記載の路面状態計測方法または路面状態計測装置。
【請求項7】
前記受光素子の受光面の路面に対する光学的距離を保持するための補正手段を有することを特徴とする請求項6記載の路面状態計測方法または路面状態計測装置。
【請求項8】
前記少なくとも3つの波長の近赤外光を対象物に照射するタイミングは、前記各光源をトリガパルスによるシーケンシャル制御することによって設定されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか記載の路面状態計測方法または路面状態計測装置。
【請求項9】
前記各光源のシーケンシャル制御により対象物に照射される合計の時間あるいは測定時間が、50μs〜10msであることを特徴とする請求項8記載の路面状態計測方法または路面状態計測装置。
【請求項10】
前記少なくとも3つの波長の近赤外光を対象物に照射するタイミングは、前記水および氷のいずれに対しても吸収され難い波長の光が点灯している時間内に、前記氷に対しては吸収され難く水に対しては吸収され易い波長の光と、前記水および氷のいずれに対しても同程度に吸収される波長の光とが、交互に点灯時と不点灯時になるように設定されており、これら各波長の光のそれぞれの点灯時と不点灯時に光量の測定が行なわれることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか記載の路面状態計測方法または路面状態計測装置。
【請求項11】
請求項1ないし10に記載の方法または装置により検知された情報を、各種の車両制御装置へフィードバックすることを特徴とする路面状態計測方法または路面状態計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−46936(P2006−46936A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224126(P2004−224126)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】